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風見りん、最強の証明。

 私の名前は風見りん。只の元忍者で白銀家のメイドで候。

 でも、それは私にとって仮の姿でしかありません。

 本当の私は日ノ本を中心に世界に根を張りつつある巨大宗教組織、聖あくあ教中でも聖女様を除いて最上位の立場を与えられている十二司教の1人です。

 そんな私は、今日も自分の仕事に明け暮れる。


「おい、どうした?」


 夜遅く白銀キングダムに侵入を試みた賊の1人が音もなく倒れる。

 まずは1人。暗闇に紛れた私は、すかさず相手の死角へと移動した。


「各員、警戒!」


 私は手に持ったクナイを反転させると、切先ではなく柄頭を侵入者の首に強く押し当てる。

 頸動脈にある頸動脈洞を刺激して、迷走神経反射を起こす事で相手を気絶させるためだ。


「あ……」


 これで2人目……。

 私が抱えていた賊の体を手から離すと、ソレが地面に倒れた音で全員の視線がそちらに向けられる。


「なんだ!? 何が起こってる!?」


 この状況に堪りかねた賊達が暗視スコープを装着しようとする。

 私はそれに合わせて煙玉を爆発させる事で、煙幕で相手の暗視スコープを無効化した。

 いくら軍用で性能が良くても、この特殊な色つき煙幕の向こう側までは見れない。


「ひっ」

「ぐわっ!」


 3、4……これで半分。


「作戦を変更する! 総員、退却!!」


 こんな状況でも相手の司令官は冷静に対処している。

 間違いなく彼女はプロの人間だ。

 私はワイヤー装置を使って移動すると、賊の逃げる方向に先回りする。


「メイド……?」


 私の存在に気がついた賊の1人が動きを止める。


「待て! こいつはあの森川楓と並ぶ特記事項Sクラスの風見りんだ!」


 暗闇から出た私は、怯んだ賊達に向かってゆっくりと歩を進める。

 ここの平穏を乱すような輩に遠慮など無用です。

 私はまるで風が吹き、木の葉が舞うように自然な動きで賊達の間を駆け抜ける。

 次の瞬間、気を失った賊達がその場に倒れていく。

 程なくして、聖女えみり様やメアリー様の侍女として侵入している聖女親衛隊達が現れる。


「風見様。彼女達の身柄はこちらで預からせて貰えませんでしょうか? その、北の海底炭鉱でメタンハイドレードを採掘する人員の補充を将軍様にお願いされておりまして……」

「好きにするで候。拙者は賊の侵入さえ阻止できれば、後はどうでもいい」


 そう、私に取って重要なのはこの平穏を守る事だ。

 えみり様がいて、あくあ様が居る。2人と、そんな2人の周りに居る優しい人達を守れたら、それだけで十分で候。

 十二司教に与えられた権力や地位なんか、私に取ってはどうでもいい事だ。

 私は光のない闇夜を見上げながらポツリと呟く。


「こんな日はあの夜を思い出すで候……」


 この日ノ本には、古来は室町時代より忍者が存在している。

 同じ時代に隕石が衝突した事で出来たスターズ発祥の婦人互助会。その婦人互助会が衝突した隕石の欠片を調査するために協力した日本人達が忍者の始まりとされているで候。

 私はそんな忍者の家系に生まれた。


「りん、お前は一族の出来損ないだ」

「どうして貴女みたいなのが私達の一族から生まれたのかしら」

「私はお前を妹などと思った事は一度もない」

「はぁ……。これ以上、一族に迷惑、いや、風見の家名に泥を塗るのはやめてくれ」

「お姉ちゃんって本当に目障り。そこら辺で野垂れ死んでおけばいいのに」


 忍者には様々な仕事があるけど、その中でも1番の仕事は暗殺だ。

 人を殺す事に抵抗のあった私は、忍者としては不適格とされたで候。

 あれは私の3歳の誕生日だった。


「りん、お前に誕生日プレゼントをやろう。ちゃんと毎日お前が世話をするんだぞ」


 あの頃の私は忍者の仕事について何も知らなかったで候。

 だから、両親から将来立派な忍になるためにと忍犬をプレゼントされた時はすごく嬉しかった。


「あく丸、こっち!」

「わんっ! わんっ!」


 犬にあく丸と名前をつけた私は、24時間365日、あく丸と一緒だったで候。

 この頃の私はまだ忍者の修行をしておらず、あく丸との1年は私の幼少期にとっては1番の思い出だ。

 その次の年の誕生日、両親はまた私にプレゼントをくれた。


「そのクナイであく丸を殺せ。そしてお前は今日から正式に私達風見の一族になるんだ」


 最初は大祖母様が言ってる意味が理解できなかった。

 その時の私は手に持ったクナイをカタカタと震わせながら、母や姉へと視線を向けた。


「おめでとう。りん。これでようやく貴女も私の本当の娘になるのですね」

「りん、姉として今日という日が誇らしいぞ。さぁ、殺せ。私や母様達もそうしてきた。そのためにあく丸を育ててきたんだろ?」


 生まれて初めて、母と姉が自分の知らないような人に見えた。

 いいえ、人である形をした何か人とは違う者に見えた気がしたで候。


「おめでとう。りん」

「りん、これで君も今日から風見の一族だ」

「さあ、早くその汚い犬畜生を殺して宴にしよう」

「今日はりんのために従姉妹の私がお前の好きな食べ物を買ってきたんだぞ」


 周りの親族達が次々に手を叩いて拍手を送る。

 私は震えた手でクナイを握りしめると、ゆっくりとあく丸に近づいていく。

 ……だめ。こんなの絶対におかしい。それにあく丸を刺すなんてできないよ。


「くぅん……くぅん……」


 怯える目で私を見つめるあく丸に、私は視線で合図を送る。

 あく丸は胸の大きいお姉さんになぜか飛びつく癖があったけど、決してバカな犬じゃなかった。

 私はクナイを強く握りしめると、狙いを定めて一気に振り下ろす。


「りん、何をしている!?」

「くっ、犬が逃げるぞ!!」

「追え!!」


 首を繋がれていた紐が切れると、あく丸はその場から一気に駆け出した。

 逃げて。あく丸。そのまま、どこか遠くへ!!

 しかし、そんな私の願いは虚しく、誰かの投げたクナイがあく丸に当たる。


「きゃんっ!!」


 怪我したあく丸はそのまま崖を落ちていく。

 あ……あ……あ……。

 私は膝をついてその場に崩れ落ちる。


「りん、お前は自分が何をしたのかわかっているのか?」


 母が私に近づいてくると、膝をついた私の頭に横から蹴りを入れた。

 まだ4歳だった私の体は簡単に吹っ飛んだ。

 私がなんとか起きあがろうとしたら、母が私の首を掴んで宙ぶらりんにする。


「お前は何をしていると言ったんだ!! この一族の面汚しが!!」


 死ぬ。このままじゃ、間違いなく実の母に殺される。

 だんだんと意識が遠のいていく最中に、誰かが母の腕を掴んだ。


「そのくらいにしておけ」

「何を言ってる。とおこ! こいつは私の娘、いや! 一族の面汚しなんだぞ!」


 風見とおこ。私の親戚で両親や母からも一目を引かれている女性。

 そして、あく丸に対してクナイを投げたのも彼女だった。


「それを決めるのはお前ではない。大祖母様、風見りんは私預かりでいいだろうか?」

「……好きにすればいいじゃないか。キクリ様に寵愛を受けていたお前に逆らえる者など、ここには誰もいないのだからな」


 くくり様のお母さん、皇キクリ様のところで侍女として、そしてお庭番として働いていた彼女に逆らえる者は一族はおろか、忍の中にもほとんどいなかった。

 彼女は気絶した私を自分の家に連れ帰って、傷を手当をする。


「何もできない己の無力さが悔しいか? 犬を攻撃した私の事を恨んでいるか?」


 彼女は目が覚めた私にこう言った。

 私は何も言わずに、あく丸を傷つけた彼女の目を睨み返す。


「それでいい。私が殺した犬の仇を撃ちたかったら強くなれ。お前が私や風見一族、里の連中に復讐したいと思うなら、私がその力を貸してやろう。いいか、りん。誰かに大事なモノを奪われたくなかったら強くなれ。そう、ひたすらに……」


 そこから血反吐を吐くようなとおことの特訓が始まった。

 彼女は私を殺すつもりで鍛えたし、私も最初は彼女に対してあく丸の仇を討つつもりで何度も暗殺を仕掛けては返り討ちにあう。

 特訓は基本的にとおことの一騎打ちだが、唯一、とおこが里の側に連れてきてまで私と手合わせさせた女性が居た。


「久しぶりね。とおこ」

「よくきてくれた、椛。それともここは、森川三佐とお呼びしたほうがいいかな?」

「モーっ! やめてよ。貴女も知ってるでしょ? 私はもう軍を辞めて只の女の子になったの。今は娘と2人、平和に暮らしてるのよ。あの人達が作ってくれたこの仮初の平和の中でね」

「はは、その歳で女の子か? しかも君が?」

「あんた、本気で殺すわよ?」


 後になって気がついたけど、まさかとおこが楓さんのお母さんと旧知の仲だとは思わなかった。

 とおこと椛さんは仲が良く、私は里の外で何度か椛さんと手合わせをする。

 椛さんは娘の前じゃ隠してるのって言ってたけど、軍隊式の格闘術に加え身体能力と直感力の組み合わせがやばくて、とおこにされたのと同じくらいボコボコにされた記憶がある。


「ねぇ。私と貴女、2人に鍛えさせてこの子をどうするつもり? まさか、くくり様のお庭番にするつもりじゃないでしょうね? この子、将来、とんでもなく強くなるわよ」

「まさか。忍なら仕える主人は自分で決めるべきだ。私はただ……久しぶりに帰った実家のやり方が何も変わってない事に少々腹が立っただけだよ」


 この頃には私も少しは大人になってから、あく丸にクナイを投げたとおこが悪い人じゃない事に薄々と気がつき始める。だから、この時に私はもう一つの疑問点にも気がつくべきだった。

 こんなにもすごい技量を持った人が、あく丸に対して投げたクナイを足に掠らせるようなミスをするのかって事に。

 とおこに拾われて、10年以上の時が流れた。


「私は里を出る。アキ……古い知人に誘われて、ちょっとな。もうここには帰ってこないだろう。りん、お前はどうする? ここから先はお前の人生だ。お前の好きに生きるといい」

「私も出ていく。ここには何もないから……」


 忍にとって里を抜ける事は御法度だ。

 だが、とおこが里の長である頭領のおばあちゃんと何らかの交渉をしたのだろう。

 里を出ていく時に多少の諍い……私と頭領との一騎打ちがあったものの、とおこと私は無事に抜け忍になる事を許された。

 思ったよりもあっさりしてたけど、風見一族が変わっていく忍者の里と袂を分った事も影響したのだと思う。決闘の際には、風見一族の人間は私達2人以外誰もいなかった。


「りん。去年、椛の手筈で受けた試験の事は覚えてるか? お前は学校に通っていないが、高卒認定を受けている。一般人として生きていくならまずは大学にでも通うといい。ほら、お前、私が外に連れ出した時にテレビで見た女子大生に憧れてただろう? これは餞別の金だ。お前が大学を卒業するまでには十分な資金がある。その後はお前の好きにしろ。もう2度と会う事はないだろうが、達者でな。それと、あく丸の仇を取りたくなったらいつでも来い。その時は私も本気で歓迎してやる」


 とおことはそれ以来、一度も会っていないで候。

 大学生になって暫くした後、私は彼女と知り合う。


「おーい! そこの女の子ー! これ、落とし物!」


 初めて彼女に声をかけられたのは、私が落としたあく丸との思い出のストラップを拾ってくれた事だ。

 あく丸に買った首輪と同じデザインのストラップ。今になって思えば、これを買うのをあの両親から許されたのも、あく丸を殺すように差し向ける時のためだったのだと思う。

 私にストラップを渡す時になって、彼女は私のストラップをよく見て何かに気がつく。


「ん? これ、どこかで見た事があるな? あ、ああ。そうだ思い出した! あく丸のつけてた首輪にそっくりじゃねぇか!!」

「へ……?」


 彼女は古いガラケーをパカっと開くと、私に対して、ストラップとお揃いのデザインの首輪を巻いたあく丸の画像を見せてくれた。

 私は彼女の携帯の画面に指先を近づけると、幼い時に自分が首輪に書いたあく丸という文字を優しく撫でる。

 あく丸が生きているという事実に、私の胸の奥がぎゅうっと締め付けられた。


「この子、どうしたの……?」

「ん? ああ。子供の頃の私が山奥にエロほ……んんっ! バードウォッチング。そう、バードウォッチングするためにハイキングに行ったら、足を怪我して倒れてる犬がいたんだよ。それがあく丸との出会いさ」


 会いたい。あく丸に、会いたい。

 でも、どう言えばいいんだろう。

 それに、私があく丸に会う事なんて許されるのだろうか?

 苦しむ私の顔を見た彼女は、私に対して優しく微笑む。


「実はさ。もう最近のあく丸はあんまり飯もくわねぇんだ。お医者さんからは、歳を考えても、後ちょっとだろうって。だからさ、もし良かったらだけど、私の家に遊びに来てこいつの新しい友達になってくれないか? あく丸だって見送ってくれる友達が多い方が嬉しいだろうしよ!」


 彼女の言葉に私は泣きそうになった。

 多分、彼女は気がついてたんだと思う。

 私のストラップを見て、私があく丸の飼い主だったって事に。

 だから彼女は私を自分の家に案内した後に、私にあく丸の様子を見ててとお願いしてどこかにバイトしに行ってしまった。

 初対面の相手を自宅に放置するなんて、こんなにも警戒心が薄い人がいるなんてと思ったけど、彼女を知った今となっては不思議ではない。


「あく丸……ごめん。ごめんね」

「くぅん」


 あく丸は久しぶりに会うのに、私の事を覚えていてくれた。

 もう生きてるのも限界だって言われてたのに、重たい体を起こして自分から私の膝の上に乗ってこようとしたっけ。

 嬉しかった。最後の最後にあく丸に会えて。

 そう思っていたのに……。


「いやあ、まさか、あく丸が元気になるなんてな!! それもこれもあくあ様のおかげだぜ!! あく丸は大きいお姉さんが好きだから、女性解放宣言以降、街中の女性達がサラシを外して胸部解放した事で元気になるなんて、さすがにこの私でも予想できないわ。そして犬すらも救ってしまわれるあくあ様はやっぱりすげぇ。さすがは国民の平均寿命を10歳伸ばして、自殺数を計測史上最小にしたお人はモノが違う!」


 この時ばかりは流した涙をちょっとだけ返して欲しいと思ったで候。

 私にジト目で見られた療養帰りのあく丸は、彼女の胸に飛び込む。


「りんちゃん、おめでとう」

「くくり様のチケット当たって良かったね」


 みんなの言葉に私はハッとする。

 随分と長い事、回想に耽ってしまっていたで候。

 私は手に握りしめたチケットに視線を落とす。


「良かったね。りん」

「うん、ありがとう。るーな」


 るーなにりのん、同僚のみんながチケットを当たった私の事をいっぱい祝福してくれた。

 その一方で、ものすごく悔しがっている人が居たで候。


「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ! おめでとう、りんちゃん」

「みこと。悔しがるか祝福するか、どっちかにしたら?」


 るーなの言葉に私は少しだけ笑みを溢す。

 ああ、やっぱりここはいいな。

 聖女様に、えみり様に出会ってからの私はすごく幸せだ。

 だからこそ、それを邪魔する奴らは許さないで候。


「はい! 白銀あくあの白濁チーズポップコーンだよ」


 文化祭を楽しんでいた私は、校舎の屋上から誰かの視線を感じる。

 何だろう。この感じ。昔、どこかで感じた事がある嫌な視線だ。

 それに気がついた私は、1人で屋上に向かう。


「ほう。私の視線に気がついのか。久しぶりだな。りん」

「……しず。どうしてここに」


 風見しず。私の姉の1人で上から2番目の姉だ。

 1番上の姉である[いち]へのコンプレックスを抱えた彼女は、一族を追放された後の私を里で見かけてはちょっかいを出して自らの鬱憤を晴らしていた。


「お前も知ってるだろ? 我ら忍びの里、いや、風見一族と婦人互助会の間には切っても切れない縁があると。だから依頼があったんだよ。白銀あくあを殺すのに邪魔になる障害を一つどうにかしろってな。しかし、それがまさかお前とはなぁ。忍びの里から抜けた事には驚いたが、組織も耄碌してるのか? こんな奴、1人に何手こずってるんだか」


 しずの言葉に周囲の忍たちも笑みを見せる。

 こいつらも見た事があるで候。その昔、風見の屋敷で働いていた連中だ。

 私は視線をしずに固定したままで、周りの状況を完璧に把握していく。


「おい! お前、喋りすぎるな」

「五月蝿い、黙れ! この私に指図できるのはこの私だけだ!!」


 しずは手に持っていたクナイを注意した人物の喉元に向ける。

 こいつだけ見たことがないで候。依頼主である婦人互助会から派遣された監視役といったところだろうか。

 動きが素人臭い事を考えたら、使い捨てのコマなのかもしれない。


「どうせ、こいつはここで死ぬんだ。りん、お母様の代わりにこの私が、一族の恥でもあるお前を殺してあげるから喜んで死になさい」

「断るで候」


 私の言葉にしずは高笑いをする。


「断る? あなた如きに、何ができるっていうのよ? この恥晒しが!!」

「できるで候」


 忍者は姿を見られた時点で失格だ。

 だからこの時点で、私もしずも、この周りにいる者達も忍としては不合格である。

 だが、私に戦い方を教えてくれたとおこや椛が教えてくれたのは忍としての戦い方じゃない。


「ほぅ、それならやってみたらどうだ? ほら」

「それじゃあ、そうさせてもらうで候」


 戦いは最初の一歩で全てが決まる。

 ただひたすらに早く、それでいて無駄がなく、正確に、まず1人目。


「は?」


 私はほんの一瞬、しずが瞬きする間に一番後ろでこちらに飛び道具を向けていた相手を捩じ伏せる。

 どんな人間であろうと瞬きする事は止められないで候。ほんの一瞬、少しだけでも相手の視界から自分が消えた時点で勝負はもう決まっている。


「えっ?」

「あっ……」


 私は流れるような動きで2人目と3人目の意識を刈り取る。


『りん。最強になれ。誰にも負けない力を手に入れろ。そうしたら、もうお前は誰も失わなくて済む。私や椛すらも超えて、この日ノ本で最強の女になれ。相手がスターズだろうが、ステイツだろうが、婦人互助会だろうが関係ない。己が大事なモノを守るために、全てを純粋な力で薙ぎ倒せ』


 4、もう誰にもこの私から大事なものは奪わせない。

 5、あくあ様や聖女様、るーなやみこと、私の周りにいる大事な人たちを守るために。

 6、そのためなら私はどこまで早くなれる。そして強くなれる。

 7、だから証明しろ。風見りん。

 8、この私こそが、この日ノ本で最強の女なのだと。

 私はしずが状況を正常に判断するまでの間に、計8人の取り巻きを戦闘不能の状況に陥れた。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。あなた! いつの間に、そんなに……」

「判断が遅い。これで全部」


 私はしずの左右にいた取り巻き2人の意識を一瞬で刈り取る。

 これで10人。しずの周りに居た下っ端は全員片付けたで候。


「ひぃっ!」


 おっと、婦人互助会に雇われたバイトも逃げるなで候。

 私は敢えて、しずを残した全員の意識を刈り取る。


「さぁ、しず。武器を手に取るで候」

「くっ! この私をボコボコにして憂さでも晴らそうというのか?」


 私はしずの言葉に首を左右に振る。


「違う。私はお前に圧倒的な力の差で勝って、どうせこの様子をドローンか何かで隠し見ている他の風見一族に自分がこの国で最強だと証明する」

「バカな。風見一族の全てに喧嘩を売るつもりか!?」


 私はしずの言葉に頷く。

 とおこは言った。真に仕えるべき主人は自分で決めろと。

 だからもう私のクナイの切先に迷いはない。


「例えこの道が修羅であろうとも、私は私の大切なものを守るために戦う。もうお前達風見一族には、私が大事にしているものは何一つ奪わせない」


 私は力強く一歩前に足を踏み込む。

 婦人互助会に協力し、この国を捨てた風見一族に宣戦布告するために。


「来るなら来い! 私がこの国の、あの人達が愛する日本の最強戦力だ!!」


 こんなに声を出したのはいつ以来だろうか。

 一瞬の静粛の後、屋上に取り付けられたスピーカーから聞き覚えのある声が漏れる。


『りーーーーーん! 早く来てくれええええええええええええ!』


 これは聖女様の声!?

 あくあ様に危機が迫ってると一瞬で判断した私は声を上げる。


「承知!」


 聖女様が居るのは体育館だろう。

 ここから体育館には一直線だ。私は、そのまま体育館に向かって加速する。


「くそがああああああああ! りんの! 恥晒しの癖に、私を無視してどこかに行こうとするなあああああ!」


 空気を読まないしずが私の進行方向に割り込んでくる。

 もう今更言っても遅いけど、私と森川親子の進行方向に入ってくるのだけは止めておいた方がいいで候。


「邪魔」

「へっ……?」


 私の突撃で地面に轢き倒されたしずが一瞬で気を失う。

 一瞬で体育館に到着した私は、揉み合う男性の1人の意識を簡単に刈り取る。


「ふぅ……助かったぜ。りん」


 なんとか間に合ったで候。

 それにしても、あくあ様にスポットライトを落とそうとするだなんて、不届きものにも程があるでござる。ぷんぷん。


「りん、ありがとな。ほら、お前の好きなホットケーキ……は金が足りなくて買えなかったから、そこの露店でクリームしか入ってない素のクレープを買ってきたぞ。ほら、これに私が庭で摘んできたミントを添えれば高級感が出るだろ」


 聖女様……お金がないなら無理しなきゃいいのに……。

 でも、聖女様が私のために買ってくれたなら、ありがたく食べるで候。

 私と聖女様が外のベンチでクレープを食べていると、よく知った気配がこちらに近づいてきた。


「あ、あくあくあ様、どうしてここに!?」

「いや、普通にえみりを探してたんだけど……。カーテンコールが終わった後もいなかったけど、どこに行ってたんだ?」

「いや、ちょっと腹を壊してトイレに。へへ……」


 私は2人の邪魔にならないように気配をゆっくりと消していく。


「そんな事より、あくあ様。カノンとデートしなくていいんですか?」

「何で? カノンとなら去年したし疲れてるみたいだったから、今年はお世話になったえみりとしようと思ってきたんだけど……」

「ええっ!?」


 私はクレープを齧りながら、ゆっくりと席を立つと2人からそっと離れていく。

 って、あ、あれ? 聖女様。何でりんの着ている服の裾を掴んでいるんですか?


「そ、それなら、りんも一緒にどうですか? 実は、こいつも結構裏で頑張ってまして……」

「もちろん! 文化祭は人数が多いほど楽しいしな!」


 ええええええええええ!?

 こ、こんな時の対処法は習ってないで候!

 私は大好きな2人に挟まれて、初日の文化祭の残りの時間を楽しむことになった。

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