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白銀らぴす、大きさの暴力。

「酷い目に遭いました」


 文化祭の入場待機列で待っていたら、入場と同時に大きいお姉さん達に押されて、兄様の待機列から押し出されてしまいました。


「らぴす、大丈夫……?」

「大丈夫……だけど、心が抉られた気がします」


 私は一緒に待機列から押し出されたスバルちゃんと顔を見合わせる。

 今回ばかりは仕方ありません。兄様が握ったあんころ餅はゲットし損ねましたが、その代わりに、くくりちゃんが握ったあんころ餅をもらいにいきましょう。


「2人とも、残念だったわね。私のでよかったらどうぞ」


 私とスバルちゃんは、くくりちゃんが握ってくれたあんころ餅を見つめる。

 んん? 兄様が握ったあんころ餅と比べると、なんか少しだけ形が歪なような……。

 くくりちゃんは私達の反応を見ると、恥ずかしそうな顔で視線を逸らした。


「し、仕方ないでしょ。こういうの作るの、初めてだったんだから」


 私とスバルちゃんは、嬉しそうな顔をするくくりちゃんの反応を見てニマニマした顔をする。

 周りに居る皆さんは兄様に夢中ですが、ほんの少しでもいいのでこちらを見てくださいませんか?

 我らがミルクディッパーの最年長、くくりちゃんの可愛さにみんな早く気がついてほしいです。


「どう? 美味しい?」


 くくりちゃんは目の前であんころ餅を食べる私達の顔をチラチラと見つめる。


「はい、すごく美味しいです」

「うん。上手にできてると思うよ」


 私達の言葉を聞いたくくりちゃんは、嬉しそうな顔をする。

 ふふっ、初めて会った時と比べて、くくりちゃんもだいぶ自然な表情を見せてくれるようになったと思います。

 3人で並んでいると、兄様の待機列から出てきたみやこちゃんが近づいてきました。


「あっ、みんなここに居たんですね」


 私達3人は、みやこちゃんのぶるんぶるんと撓むものを見て目を細める。

 ふーん、やっぱり大きいのが全てなんだ。らぴすもおっきかったら待機列の外に弾き出されたりしなかったんだ。

 私達の視線に気がついたみやこちゃんが、両腕で自分のを隠すような素振りを見せる。


「み、みんな、そんな目で見つめてどうしたの?」

「別にぃ。ねぇ?」

「ええ、別になんでもありません」

「うん。みやこちゃんは何も悪くありませんから」


 しくしく、しくしく。こんな辛い状況でも、らぴすは決して諦めません。

 らぴすだってきっと大人になれば、母様やしとりお姉様のように出るところが出て女性的な体つきになるはずです!!


「あっ、でも私、この前、少しだけ大きくなってたんだよね」


 スバルちゃん? もしかして、らぴすを置いていくつもりなんですか?

 私は目を見開くと、瞬きもせずにスバルちゃんの顔をジッと見つめる。


「らぴす、落ち着いて」

「今のらぴすちゃん、アイドルがしていい顔をしてないよ」


 スバルちゃんとみやこちゃんの2人が私を必死に宥める。

 それを見たくくりちゃんが小さなため息を吐いた。


「3人とも。入り口で油売ってないで、せっかく来たんだから文化祭を楽しんできたらどう? ほら、らぴすも機嫌なおして」

「うう、すみません。少しだけ取り乱してしまいました」


 私とスバルちゃん、みやこちゃんの3人は、入り口を抜けて屋台の出ている区画へと向かう。


「な、なんですか。コレは……」


 私は出店している屋台の看板を見て目が点になりました。


【ここでしか食べられない! 白銀風お好み焼き】

【白銀あくあ特製マヨネーズ付きたこ焼き】

【白銀家と同じソースを使った白銀家の焼きそば大盛り】

【うどん大使、白銀あくあさん試食済み。本格ぶっかけうどん】

【白銀あくあ公認。白銀わたあめ店】

【BERYLの3人が食べたクレープ屋でバイトしている生徒が作るクレープ屋さん】


 なんなんですか、これは……。

 どこもかしこも兄様の名前が入ったお店ばかりです。

 その中でも一際行列ができているお店がありました。


【原寸大、白銀あくあのジャンボフランクフルトソーセージ】


 に、兄様のジャンボフランクフルトソーセージ!?

 私とスバルちゃん、みやこちゃんの3人は顔を見合わせる。

 それってその……そういう事ですよね。

 らぴすは兄様のを思い出して顔を赤くする。


「早くしろ。風紀委員が来るまでが勝負だ!」

「おい、先生がチェックに来る前に売り捌くぞ!」

「ありったけの在庫出してきて!」

「じゃんじゃん焼いていけ!」

「ふはははは! 出せば出すほど飛ぶように売れていくぞ!!」

「これでうちのクラスが売上一位だ!!」


 あっ、遠くから怖い顔をしたお姉さん達が近づいてきました。

 よく見ると先頭に立っているのは、兄様のクラスメイトでえみりさんと仲が良いクレアさんです。


「生徒会ですぅ〜。すみませんが、生徒会が発行した営業許可証を見せてもらっても良いですかぁ〜?」

「ヒィッ!」


 顔は笑っているのに、目が全くと言って良いほど笑っていません。

 さっきまで並んでいたお客さんが嘘のように散っていくと、その場に残された私たちは身体をガタガタと震わせます。

 クレアさんは渡された書類を見つめる。


「ふぅん。ちゃんとあくあ君から許可は取ってるんですね。ただ、生徒会の申請書類には、原寸大なんて文字、入ってませんでしたよね?」

「ぎくっ! す、すみません。つい書き忘れて……」


 クレアさんは言い訳をする屋台の代表者にグッと顔を近づける。

 こ、こわひ……。


「書き忘れて? 本当に……?」

「す、すみませんでしたぁ! 売上一位になったお店は、ご褒美にあくあ君と放課後一緒に遊べるって聞いて、ついに欲に駆られて勝負に出てしまいましたぁ!!」


 へぇ、売上一位だとそんなご褒美があるんですか。

 なるほど、それはどこのお店も必死になるでしょうね。

 店員さんは、屋台に後付けで貼られた【原寸大】という文字が書かれた紙を外す。

 クレアさんは、さらにお店の代表者に詰め寄る。


「で、誰が裏にいるんです。白状しなさい」

「さ、さっき、フランクフルトを買いにきたえみり様が、原寸大って書いた方が儲かるよって呟いたような気がして……でも、ごめんなさい。えみり様がそんな事を言うわけありませんよね。きっと儲けに走った私自身の想いが幻聴になって聞こえてきただけなんです」


 一体、何を話しているのでしょうか?

 クレアさんは頭を抱えると、体をよろけさせながら大きなため息を吐く。


「一旦、しめるか」


 ん? 今、何やら不穏なワードが聞こえてきたような……。

 きっとらぴすの気のせいですよね。

 表情を作り直したクレアさんは、いつものような優しい笑みを見せる。


「本人から許可を取っているのであれば問題ありません。ただし、原寸大という文字は、乙女咲の風紀を乱し、評判を著しく下げる可能性があるので除外してくださいね」

「は、はい。わかりました」


 ほっ、どうやら話し合いで上手く纏まったみたいです。

 私達3人は営業再開したお店でフランクフルトを注文する。


「んっ、んっ、大きすぎてお口の中に入りません」

「これがあくあお兄さんの……しゅごい……」

「あっ、ソースが……」


 なんでしょう。ソースを溢したみやこちゃんを見てたら、すごくモヤモヤした気持ちになりました。

 真顔になった私は、無心で兄様公認のフランクフルトをムシャムシャと食べる。


「あっ、アレ。ミスコンだって」


 そういえば、乙女咲の文化祭ではミスコンがありましたね。

 私はノミネートされた人達のポスターへと視線を向ける。


【1年A組 祈ヒスイ】

【1年A組 音ルリカ】

【1年A組 加藤イリア】

【2年A組 白銀カノン】

【1年A組 皇くくり】

【2年A組 千聖クレア】

【2年A組 月街アヤナ】

【3年A組 ナタリア・ローゼンエスタ】


 あ、カノン義姉様やアヤナちゃんは今年も出るんですね。

 それにしてもくくりちゃんがこういうのに出るなんて意外です。

 誰かに推薦されたのでしょうか?


「ナニコレ……?」


 あっ、くくりちゃん。

 茶華道部のイベントを終えたくくりちゃんとは、服を着替えた後に合流しようねと話していました。

 ミスコンに参加する自分のポスターを見たくくりちゃんが完全にフリーズしたのを見て、私とスバルちゃん、みや子ちゃんの3人は顔を見合わせる。


「くくりちゃんはその、知らなかったんですか?」

「え、ええ。だって、今、自分がノミネートされてると知って驚いてるわ」


 私たちがポスターを見て固まっていると、通路の奥からハーちゃんとカノン義姉様、ヴィクトリア様とえみりさんの4人がやってきました。


「あっ、らぴすちゃん。それにスバルちゃんやみやこちゃん、くくりちゃんもどうしたの?」

「カノン義姉様、実は……」


 壁に貼られたポスターに気がついたヴィクトリア様が、私がポスターに視線を誘導するよりも先に口を開く。


「あら、カノンったらミスコンに出るなんて、言ってくれればよかったのに」

「うんうん」

「ちょっとぉ!? 私、こんなの聞いてないんですけど!?」


 えっ? カノン義姉様も聞いてないんですか!?

 それじゃあ、一体誰が……。

 カノン義姉様はポスターに視線を固定したまま、自分の後ろからスッと居なくなろうとしたえみりさんの腕を掴める。


「えみり先輩、どこに行くんですか? さぁ、白状してください」

「いやいや、私は乙女咲の生徒じゃないし、その……ほら、右下のコメント見ろよ」


 右下のコメント? あっ、小さい文字で何か書いてあります!

 私達は文字を読むために、みんなでポスターの右隅へと顔を近づける。


【今回の出演者は、白銀あくあ名誉審査委員長の強い推薦の元にこちらで選ばせて貰いました】


 兄様……やっぱり今年もミスコンの審査委員長をなされるんですね……。


「ほらな。私は関係ないだろ?」

「怪しい……。ポスターを見た時だって反応が薄かったし、本当は事前に知ってましたよね?」


 カノン義姉様がえみりさんに詰め寄る。

 その時です。ポスターをじっくりと見ていたハーちゃんが何かに気がつきました。


「ん。ここに外部審査委員、雪白えみり、友情出演って書いてある」

「ドキッ!」


 えみりさんは口笛を吹きながらカノン義姉様から顔を逸らす。


「ほら! やっぱり! 前に2人で真剣な顔をしながら何か書いてたの、絶対にこれでしょ! もー! 2人で真面目に勉強してるのかと思って邪魔しなかったのに!!」

「ごめんって。でもな、私は、カノンが大勝利するところを見たいんだよ! 頼む。カノンの大勝利からしか得られない何かを摂取しないと生きられない体にされた私への責任を取ってくれ!!」

「何よそれ!?」


 カノン義姉様は戸惑いつつも呆れた顔をする。

 えみりさんって、こういう訳のわからない事に謎の説得力を持たせてゴリ押そうとするところが本当に兄様にそっくりです。

 カノン義姉様はポスターを見て喜んでいる周りの人達を見て小さなため息を吐く。


「もう、仕方ないわね。みんな楽しみにしてるみたいだからやるわよ。やればいいんでしょ。もう!」

「やったー! これだからチョロポンさん大好き!」

「チョロポンって何よ! 混ざりすぎてて原型が残ってないじゃない!! もおおおおお!」


 さすがカノン義姉様です。

 なんだかんだ言って兄様やえみりさんにはすごく甘いんですよね。


「そういえば前回は水着審査に姉妹で出たりとかあったんでしょう。ふふっ、私が一緒に着てあげましょうか?」

「お、お姉様!?」


 姉妹……? ああ、そういえば、とあちゃんとスバルちゃんが2人で参加してましたね。

 ヴィクトリア様の言葉を聞いたえみりさんが、隣に居たハーちゃんに声をかける。


「はぁはぁ、ハーちゃんも一緒に水着とか着てみないかなぁ。お姉さんが用意するから。ね、ね。ちょっとだけ」

「うん。2人が着るならいいよ」


 私は間違えて、ポケットの中に入れていた防犯ブザーを鳴らしそうになってしまいました。

 えみりさんはきっと純粋な気持ちで、ハーちゃんに姉妹お揃いの水着を勧めただけなのに、何故かこの前テレビで見た警察24時間で捕まっていたお姉さんのお顔がチラついてしまったからです。


「ねぇ。なんかポスター売ってるみたいだよ。これじゃなくて前回のらしいけど……」


 スバルちゃんの一言で、全員が教室の中に入る。

 すると教室の中には、黒いローブを被った怪しげなお姉さん達が居ました。

 だ、大丈夫ですか。ここ……。


「ようこそ、黒魔術同好会に……」


 黒魔術同好会!? 乙女咲には、そんな怪しげな同好会があるんですか!?

 私の心の中に眠っている少女の心が激しく擽られます。


「ふぅん。前回のポスターと言っても、普通のポスターなのね」

「よかった。私の水着姿だったら、どうしようかと……」


 ふふっ、カノン義姉様はポスターを見てホッと胸を撫で下ろす。


「秘蔵のポスターをお求めですか? 奥の部屋にどうぞ……」

「うおおおおおおお!」


 テンションの上がったえみりさんが我先にと奥の部屋に向かう。

 それを見たカノン義姉様が慌てて追いかける。


「ちょっと、えみり先輩! 走っちゃダメですよ!」


 私達も2人の後に続いて奥の部屋に入る。


「こっ、これは!?」


 ポスターを見たえみりさんが目を見開く。

 一体、どんなポスターが置いてあるんでしょう。

 私達は、えみりさんが見ているポスターへと顔を覗き込む。


「あら、まぁ……」

「これは……」

「あ、あ、あ」

「パ、パパ……?」


 に、兄様? じゃなくて、これは姉様……?

 あ、あれ? 私の頭の中がこんがらがる。


「これは前回のミスコンで優勝した、あくあお姉様のお写真を引き延ばしたポスターになります」


 急に静かになったカノン義姉様は無言でポケットからお財布を取り出すと、ブラックに光り輝くカードを取り出しました。


「言い値で買いましょう」


 カ、カノン義姉様!?

 それを見たえみりさんが慌ててカノン義姉様を止める。


「お、おい。流石に買い占めはダメじゃないか?」

「えみり先輩、誰が買い占めると言ったのですか?」


 カノン義姉様は黒魔術同好会の人達に優しく微笑みかける。


「元データ、売ってくれますよね?」

「あっ、はい……その、た、タダでいいです」


 カノン義姉様に気圧された黒魔術同好会の皆さんが、パソコンに刺さっていたSDカードを抜いてカノン義姉様に手渡す。

 しゅ、しゅごい。これが兄様の正妻になった人が見せる本気の圧なんですね。

 カノン義姉様に憧れる私はキラキラと目を輝かせる。


「ありがとう。その代わり、あなた達には私から秘蔵の写真をプレゼントしましょう。えみり先輩、何か適当な写真を彼女達に」

「合点承知!」


 さすがはカノン義姉様です。強者としての施しの精神を忘れません。

 えみりさんから兄様の秘蔵写真をもらった黒魔術同好会の人たちは嬉しそうな顔をする。

 カノン義姉様は手に入れたSDカードをスカートのポケットの中に突っ込んだ。


「お前、何でこの写真の元データを買ったんだ?」

「聖あくあ教とかいうふざけた教団に、先に差し押さえられるよりもいいでしょ」

「タシカニ……」


 えみりさんが何故かカタコトになる。

 って、あれ? くくりちゃん、そんな青ざめた顔をしてどうしたんですか?

 体調が悪いなら保健室に行きましょう。えっ? 大丈夫? そうですか、それならいいんですが、無理しないでくださいね。


「っと、それじゃあ私はここら辺で失礼するよ。実はこの後、少し用事があってな。ぐへへ……。あっ、お前ら、絶対に後で体育館にこいよ」


 みんなで教室を出たところで、えみりさんは音もなくスーッと消えていった。

 それを見たヴィクトリア様、ハーちゃん、カノン義姉様がジトっとした目で口を開く。


「あの顔、絶対に何か企んでるわよ」

「うんうん」

「やっぱり、2人もそう思う?」


 さっき、えみりさんが体育館と言っていたけど、体育館で何かあるのでしょうか?

 私は入り口で貰ったプログラムと案内の地図を開く。

 するとスバルちゃん、みやこちゃん、くくりちゃんの3人がそれを覗き込む。


「あっ、体育館で演劇部がなんかするんだ」

「みたいね。出演者も何をするのかも全く書いてないけど……」

「そういえばあくあプロデューサーって演劇部じゃなかったっけ?」

「ええ、そうよ。それにえみりお姉ちゃんが絡んでるって事よね?」


 私達は顔を見合わせると全員で頷いた。

 これは間違いなく何かあります。だって、兄様が所属してる部活ですもの。

 前回は、リサさんとピンクのバラを演じて話題になった兄様がきっとまた何かをやらかすのでしょう。


「へぇ、これは私達も行くしかないわね」

「うんうん」

「じゃあ、みんなで少し時間を潰しながら体育館の方に向かおっか」


 カノン義姉様の提案に全員が頷く。

 こうして、私達はみんなで体育館に行く事になりました。

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