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白銀あくあ、勘違いされやすい彼女と本当の理由。

 この世界には女性をターゲットとした夜のお店がある。

 とは言っても男性がそういう店で働いているわけでもなく、女性が男装をして女性を接客するお店が総じてそう呼ばれているそうだ。

 そういったお店では、より男性らしさを演出するために男装するだけではなく、サラシを巻いて胸を潰したり、髪を短くしたり、顔の半分が隠れるようなマスクを身につけたりして接客しているらしい。

 俺はそれを利用して、夏休みくらいからライブの修行のために変装して夜の街を徘徊していた。


「やば、あの人、身長高っ!」

「どこのお店で働いてるんだろう」

「顔隠れてるけど、絶対にかっこいいでしょ」


 シークレットブーツで若干身長を高くして、ウィッグやコンタクトで目の色や髪の色を変えて、大人向けの甘い香水で自分の匂いを変えている事もあって、どうやら誰も俺の正体には気がついていないようだ。


『あくあ様、変装ならこの私、変装のプロ雪白えみりに全てをお任せください!』


 やはりえみりに相談して正解だった。

 楓も言ってたけど、困った事があれば大体の事はえみりがどうにかしてくれる。

 俺も大抵の事はできるけど、えみりの器用さは群を抜いてると思う。

 本人は、コレが本当の器用貧乏ってやつですって笑いながら言ってたけど、えみりのお財布の中身を見た俺と楓は全く笑えなかった。

 流石に子供でもお財布の中に5円玉くらいは入ってるぞ。それなのに5円玉の形をしたチョコが一枚はないだろ……。ギャンブルをしているわけでもなく、無駄遣いをしているわけでもないのに、なんでえみりはいつも金欠になっているのか不思議で仕方がない。

 でも、女の子は化粧品や生理用品を買ったりとか色々と物入りだから、カノンから渡される毎日のお小遣いだけだと少し足りないのかもしれないな。


「えみり、カノンと琴乃には内緒にしておくんだぞ……」

「あくあ様……!」


 俺は自分の財布からスッとお金を出すと、誰も見てないところでコッソリとえみりに現金を手渡す。

 白銀キングダムを出た俺は、少し離れた場所にある歓楽街に行って、女性向けのそういう店がある付近を彷徨く。

 こういうところには大体、ピアノや楽器が置いてあるお店があったりするし、何よりも自分の姿がカモフラージュできるからだ。


「あのお店、ちょうど良さそうだな」


 雰囲気のあるカフェを見つけた俺は窓から中を覗き込む。

 するとお店の奥に、ピアノが置いてあるのが見えた。

 ジャズバーか。俺は迷わずお店の中に入る。


「いらっしゃいませ」


 は? お店の中に入った俺はカウンターに立った音さんの顔を見て固まる。

 なんでこんなところで音さんが居るんだ?

 俺は自分の正体がバレないかドキドキしつつも、スマホを使って音さんとコミュニケーションを取る。


「もちろんです。ただし、ドリンクだけワンオーダーお願いできますか?」


 音さんはピクリとも表情筋の動かない顔でそう答える。

 ダメだ。何を考えているのか全く読めねぇ。

 クール系の音さんは一見すると塩対応に見えるけど、俺はそうじゃないと思う。

 何故なら俺は彼女が学校の裏庭で野良猫と戯れてる姿を見た事があるからだ。

 動物に好かれてる人に悪い人はいない。俺は脳裏に浮かんできたシロといつも同じ次元で喧嘩している小雛先輩の姿を一旦横に置く。

 ま、まぁ、喧嘩するほど仲がいいっていうしな。そう思う事にしよう。うん……。


【お礼として、貴女にこの曲を送らせてください】


 椅子に座った俺はいつものようにピアノを弾く。

 俺がピアノを弾く様になったのは、前世で児童養護施設で暮らしていた時に小さな子供達をあやすためにピアノを覚えたのがきっかけだった。

 今思えば、料理ができる様になったのも、人を楽しませるような一芸を身につけたのもあの頃のおかげだと思う。それが今まさに俺の人生に、アイドルとしての白銀あくあに生きている。

 だから俺はいつも子供達に対して、生まれや育ちは選べないかもしれないけど、自分がどういう道を歩いていくかは選べるはずだと言い聞かせていた。

 みんな、俺が居なくなった後も元気にしているだろうか。それだけが少し気がかりだ。

 ……曲のせいかな。少し感傷的になっていたのかもしれない。


【続けても?】


 俺は場の雰囲気を盛り上げるために、ジャズでは定番とされている茶色の小瓶に自分なりのアレンジを加えて弾く。

 うん、いい感じだ。俺は続けて何曲か弾く。

 相変わらず音さんは無表情でわかりづらいけど、お店に居たお客さん達は俺の弾くピアノに耳を傾けて、楽しい時間を過ごしてくれている様に見えた。

 そんな楽しい時間をお店にやってきた酔っ払いがぶち壊してしまう。

 

「はぁ、これだから育ちの悪いガキは。あっ! もしかしてここ、お前の実家か? は! こんなところの生まれだから飲酒喫煙で活動休止になるんじゃないかぁ〜?」


 音さんがうまくあしらっていたし、最初は俺が口を出す事でお店に迷惑がかかるかもしれないと思って、お客さんが暴れ出さない限りは手を出さないでおこうと事態を静観していた。

 だが、この一言だけは流石に見逃せない。

 世の中、なんらかの理由で片方の親御さんしかいない子供や、両親に捨てられて児童養護施設に預けられた子供だっている。両親がいたって、育児放棄や暴力、虐待をされた子供だっている。

 それでも、それでもだ。世の中、真っ直ぐに生きてる子達はたくさんいる。

 親が泥棒だからって子供も泥棒になるのか? 親が犯罪者だからって自分もそうなるのか? 親が暴力を振るうような人間だからって、その子も乱暴者になるのか?

 違うだろ! たとえどういう生まれであれ、どういう育てられた方をしたとしても、腐らずに真っ直ぐ前を向いて、地べたに足を踏みしめながら歯を食いしばって頑張ってる奴はいるんだ。


『人の人生において生まれや育ちが全く影響がないとは言わない。でも、重要なのは、自分がどう生きて、どう生きたいかだ。自らの人生と魂、心の在り方を決めるのは親でもなければ神様でもない。それはその人自身のものだ。なぁ、君はどう生きたい?』


 やっちまったぁぁぁあああああ。気がついた時には、俺はその人の腕を掴んでいた。

 俺の心の中に住み着いてる小さな小雛先輩が、耳元でもっと詰めなさいよと煽ってくる。

 イマジナリー小雛先輩、そこはちゃんと大人として感情で動いた俺を諌めるか叱ってくださいよ……。


【今日の代金と、お客さん達にいっぱいそこから奢ってあげて。お釣りはチップで】


 恥ずかしくなった俺は、酔っ払いのお客さんを撃退した後にさっさとお店を後にする。

 どうか音さんに俺だってバレてませんよーに!

 翌日、普通に学校に行った俺は遠くから音さんを観察する。


「あくあ、何してるの?」


 いつの間にか斜め後ろに居たとあが、俺の事をじーっと見つめてくる。

 そういえば、カノンが休みの日はとあがお目付役だったんだ。


「い、いや、なんでもないよ。ちょっとトイレ行ってくるわ」


 俺は疑り深い目でこちらを見るとあの監視をなんとか回避して、教室から出ていった音さんを追いかける。

 うーん。今日ずっと、音さんの事を見てきたが、もしかしてもう二学期になるのに親しいクラスメイトが居ないのか? いまだにくくりちゃんがボッチだった事にも驚いたが、音さんが誰かと親しそうに話しているのを見た事がない。

 いや、流石にたまたまだよな……?

 ええ、そう思っていた自分がバカでした。

 一週間後、俺は全く状況の変わらない音さんとくくりちゃんを見て頭を抱える。


「そ、そういう事だったのかぁ〜」


 全てを完全に把握した俺は、頭を抱えてしゃがみ込む。

 結論から言うと、音さんもくくりちゃんも、クラスメイトからハブられているわけではない。

 むしろ、みんな話しかけたそうにチラチラと見ている。

 でも、2人の醸し出す空気感がそれを許してくれない。

 くくりちゃんに関しては、自分から話しかけるのは恐れ多いっていうのが頭の中に根底としてあるのだろう。

 そして、音さんに関してはクールすぎるのだ。結や琴乃も勘違いされやすいタイプだが、ちゃんと顔を見れば表情を読み取る事ができる。でも、音さんは本当にわからない。それに加えて音さんは話しかけられたとしても言葉数が少ないから、塩対応に見えるのだ。

 それが音さんに話しかけづらい最大の要因だと思う。


「さて、どうしたものか……」


 学年の違う俺が助け舟を出すわけにもいかない。

 せめてクラスのみんなが仲良くなれる方法があれば……。そんなタイミングでやってきたのが、1Aと2Aの対抗ファッションショー対決だった。


「さすがだよ。えみり……」

「あ、あくあ様!?」


 ほろりと涙を流す俺を見てえみりが慌てる。

 やはり困った時はえみり、えみりは全てを解決してくれた。

 俺は再びカノンと琴乃に内緒にしておけよと言って、えみりにこっそりとお小遣いをあげる。

 だって、えみりのお財布の中にあった俺の現金がいつの間にか、子供銀行券に変わってたんだもん。

 前回お財布の中に入っていた5円玉の形をしたチョコの方がまだ食えるだけマシだ。

 どうしてそうなったかの経緯を聞きたいけど、聞いちゃいけないような気がして俺はグッと我慢する。

 それから数日後、俺は移動の途中で1Aに立ち寄ると、中の様子をコッソリと伺う。


「くくりちゃん……様、生地のカットお願いできますか?」

「はい」


 おお! くくりちゃんが! くくりちゃんがクラスメイトから話しかけられてるぞ!!

 俺は心の中で、頑張れ〜、頑張れ〜、そこでもう一歩、自分から踏み込むんだと、くくりちゃんに何度もエールを送る。

 するとその思いが伝わったのか、くくりちゃんが話しかけてくれた子に自分から声をかけた。


「あの……」


 頑張れ! 頑張れ!

 いつの間にか隣にいたえみりと一緒に、くくりちゃんを応援する。


「ど、どうかしましたか? そ、その、やっぱり無理とか……」


 ああっ、話しかけてくれた子が言葉に詰まったくくりちゃんを見て動揺している。

 くっ、アイドルモードや華族モードのくくりちゃんは知らない人から話しかけられても普通にできるのに、なんでプライベートになるとこんなにもコミュ障になるんだ。


「えっと、そうじゃなくて……その、私も同い年だし、クラスメイトなんだから敬語はいらないかなって……」


 よく言った! って、誰!? これは俺の言葉じゃないぞ!

 えみりとは反対側から声が聞こえてきたので振り向くと、なぜか同じボッチ会のメンバーである小雛先輩が立っていた。


「そっか……うん、そうだよね。えっと、その、よかったらくくりちゃんも一緒に作業する?」

「え、ええ、そうするわ」


 しゃあっ! 俺と小雛先輩、えみりの3人は音を出さないように静かなハイタッチを決める。

 ところで、2人ともなんでここにいるんですか?

 ああ……そういえば、助っ人に来るって言ってましたね。


「ふぅ、なんとかくくりのやつにも友達ができそうだな」

「ええ、同じボッチ会の一員として私も鼻が高いわ」


 正直、きっかけさえあればくくりちゃんはどうにかなると思った。

 でも、問題はもう1人の方だと思う。

 ヒスイちゃんが必死に音さんをサポートしようとしているけど、外から見ててうまく行っているようには見えなかった。

 俺は学校が終わった後に再び変装して、音さんのお店に向かう。


「いらっしゃいませ」


 俺は初めて行ったあの日から、この日までにもう10回くらいここに来ている。

 それなのに音さんの対応は、初めてここにきた時と何も変わらない。

 普通は常連になれば、もう少しなんかこうあるはずだけど、数十年単位で来ているお客さんにも対応が変わらないところを見ると、これが音さんの接客なんだろう。

 ただ、これはこれで居心地がいいのかもしれない。

 1人で静かな時間を過ごしたいと思う人にとっては最も最適な接客だと言えるだろう。

 俺はいつものように演奏を終えると、スマホを使っての会話を試みる。


【今日もありがとう。ところで、少し疲れたように見えるけど、大丈夫かい?】


 正直、音さんの表情を見ても疲れてるかどうかなんてミリもわからねぇ。

 でも、最近は文化祭の準備もあるし、このところ毎日出勤してるのを確認してるから疲れてない事はないだろうと思ってカマをかけてみた。


「そう……ですか? もしかしたら、学校で文化祭の準備が忙しいので少し疲れているように見えるのかもしれません」


 おおっ!? これはついに来たんじゃないか!?

 俺の伝家の宝刀「どしたん? 話聞こうか?」の流れが!!


「でも……どっちかと言うと、私よりもお母さんの方が疲れてるかも。最近はここら辺のお店が急にお客さんが増えて、ずっとお母さんが助っ人に行ってるから……」


 そういえば、前に来た時よりもここの歓楽街に人が増えた気がするな。

 さっきもティッシュを配っているクレアさんと同じ服を着たシスターさんとか居たし、何よりもびっくりしたのは、前に俺が落としたファイルを拾ってあげた外国人男性とまた遭遇した事だ。俺の事をじっと見ていたから最初は正体がバレたのかと思ったが、向こうから話しかけてこなかったのでバレてないと思いたい。

 きっと外国にはこういう男装した女性が働くお店がないから物珍しかったのだろう。そう思う事にした。


【疲れている人が居たら、抱きしめて話を聞いてあげるといいと思うよ。それだけでもだいぶ癒されるから。ほら、誰しも甘えたい時くらいあるだろう?】


 だから何か困った事があれば、俺の胸元に飛び込んでおいで。と文字を打っていたところで、先に音さんが口を開く。


「なるほど……わかりました。今度、試してみます」


 そう言って音さんはカウンターから離れて奥のキッチンへと向かう。

 くっそ〜! いいタイミングでお湯が沸くから!!

 これ以上はダメだろうと悟った俺は、いつものようにお会計を済ませてお店を出る。


「トホホ……今日も進展なしかぁ……」


 常連になったところで一緒や! 一般通過客から常連になってもなんも変わらん!!

 ガードが硬いとか、もうそういう問題じゃない。

 表情が読み取れないから、どこから攻めていいのかが全くわからないんだよな。

 次の日、俺は昼休みに屋上で1人黄昏ていた。


「はあ……」


 相変わらずクラスの中での音さんの状況は変わらなかった。

 何人かが話しかけてはくれていたけど、音さんからのリアクションがあまりにも薄すぎる。

 せめて音さんがベリルエンターテイメントに来てくれたら、別のきっかけを作る事もできるんだがな。

 既に俺が直接話しかけるという禁じ手も使ったが、タイミングが悪かったのか、急いでいた音さんに軽く会釈されてスルーされてしまった。しかも、1度や2度じゃない。何度もうまく交わされたから、きっと俺の事が嫌いなんだと思う……。

 

「もうダメだぁ……。俺にどうしろっていうんだよぉ〜」


 音さんはきっと悪い子じゃないと思う。なぜなら俺のあくあセンサーがそう言ってるからだ。

 絶望した俺が地べたにへたり込むと、近くから何かを倒す物音が聞こえてくる。


「ごめんなさい。盗み聞きするつもりはなかったんだけど……」


 物音がした方に視線を向けると、申し訳なさそうな顔をした音さんが出てきた。

 嘘……だろ。音さんの事を口に出したわけじゃないけど、自分の醜態を見せてしまった事で少し恥ずかしくなる。


「い、いつからいました」

「……最初から」


 どうやら音さんは俺よりも先に屋上に来ていたようだ。

 恥ずかしくなって顔を逸らした俺の表情を音さんがジッと見つめる。


「もしかして、疲れてるんですか?」

「えっ?」


 まさか、音さんの方から話しかけてくるだと?

 俺は予想外すぎる音さんの行動にびっくりする。


「……いつも元気そうに見えるのに、今だけはその疲れてるように見えたから」


 あれ? もしかして俺、音さんに心配されてる?

 もしかしたら、これはチャンスなんじゃないか?


「あ、ああ。ほら、今は文化祭の準備中だろう。クラスと部活、両方の準備で忙しくてさ……それなのに昨日もどうしても外せない仕事が入ってて、ここで1人になって弱音を吐いていただけなんだよ」


 よしっ! うまく誤魔化せたぞ!!

 俺の言葉を聞いた音さんは相変わらず無表情で俺の事を見つめる。

 くっ、本当に何を考えてるのか読めない……。これが本格派女優の本気ってやつですか?


「なるほど……じゃあ」


 音さんは無表情のまま両手を広げる。

 どういう事だ?

 俺は今朝、両手を広げた小雛先輩を見て遂にデレたのかと勘違いして飛び込んだら、そうじゃなくてベッドから起きてリビングにいくのが面倒だから抱っこしろって事でしょ! と理不尽に怒られた事を思い出す。

 そんな事を考えていると、音さんの方から俺の頭を抱きしめてきた。


 うおおおおおおおおおおおおおおっ!?


 これは一体どういう事だ!?

 もしかして、俺の知らないうちにフラグが立っていたのか!?

 みんなごめん。どうやら俺は生きてるだけで勝手にフラグが立つ男らしい。

 そんなしょうもない事を考えていると、俺を抱きしめた音さんが口を開く。


「疲れてる人にはこうしてあげたらいいって聞いたから」


 その、アドバイスしたの俺えええええええええ!

 完全な自作自演に陥った俺はなんともいえない気持ちになる。


「音さん……俺の事、嫌いじゃないの?」


 こんな状況でも前に踏み込むのが白銀あくあだ。

 常に俺のアクセルはマットにめり込むくらい踏み込んでいる。

 ちなみにブレーキなら買って3分で壊れてるから気にするな。


「……嫌いじゃない。もしかして話しかけてきてくれた時に、私が逃げたからそう思ったのかもしれないけど、そうじゃない。学校じゃ誰が見てるかわからないから」


 学校じゃ誰が見てるかわからないから?

 どういう事だ……。俺は頭の中でこれまでの事を振り返る。

 そこで一つの結論が出た。


「えっと、それって、もしかして……自分に色々な疑惑がかかってるから、自分が話に応じたら俺を巻き込むかもしれないからって思ったって事?」


 音さんは無表情でコクンと頷く。

 そういう理由だったのか……。じゃあ、クラスメイトと距離を置いていたのも、自分のせいで関係ない子達が、先生達に目をつけられたり、ゴシップ紙に悪友とつるんでるとか書かれないにようにするためとか?

 ああ、なるほど、結局全部の問題そこに帰結するのか。

 俺は音さんの行動のすべてが腑に落ちた。


「そんなの気にしなくていいから」

「だめ。私が気にするの。あくあ……先輩は結婚して子供もいる。カノン様や子供達に迷惑かけたくない」


 それを言われたら何も言い返せない。

 音さんは俺の頭を解放すると、背中を向けて屋上の入り口へと向かう。


「これ以上、一緒に居て誰かに見られたら迷惑かけるから。それと……話しかけられたのも、ヘブンズソードの仕事に誘ってくれたのもすごく嬉しかった。さっきのはそのお礼」


 そう言って音さんは屋上から下の階に降りて行った。

 ふぅ、こうなったら覚悟を決めるしかないな。

 全ての事情を知った今、この俺、白銀あくあがどうにかするしかない。

 俺は自分のほっぺたを殴って気合いを入れ直すと、自分のクラスへと戻っていた。

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