新進気鋭の天才デザイナー、アクア・シロガネ。
今度の文化祭で俺達2Aはファッションショーをする事になった。
それもえみりの提案で乗り気になった生徒会の後押しもあって、くくりちゃん、ヒスイちゃん、イリアさん、音さんのいる1Aとファッションショーで対決をする事に決まったらしい。
もちろん俺はモデルとしてランウェイを歩く予定だが、どうせならせっかくの文化祭だし、俺も普段とは違う事がしたい。
そう思った俺は文化祭の事について話し合う放課後の話し合いの時間に迷わず挙手をする。
「はいはい! 俺、デザイナーがやってみたいです!」
さっきまで平和だった空間が、俺の一言で一瞬のうちに凍りつく。
あれ? もしかして俺もついに時を止める能力でも手に入れちゃったのかな?
みんなが一斉に微動だにしなくなったのを見て俺は近くの慎太郎に声をかける。
「おーい、慎太郎?」
さっきから瞬きすらしてないけど大丈夫か? とあも急に頭を抱えてどうした?
俺は2人から目を逸らすと別の場所へと視線を向ける。
「ア、アヤナ?」
ホゲラー波にやられた時の楓みたいにやたらとシンプルな顔になってるけど大丈夫か?
目が点になって、口が四角くなったデフォルメ化されたアヤナも普通に可愛いけど、アイドルがしていい顔じゃないぞ!
「うっ!」
って、クレアさん!? 急にお腹を抱えてしゃがみ込んだけど大丈夫!?
胃が痛い!? すぐに保健室に行きましょう!!
「新たな聖遺物が……戦争の火種が……解釈の問題が……うーんうーん」
リサとうるはの2人に肩を貸してもらったクレアさんが保健室へと運ばれていく。
何かうなされてたみたいだけど、大丈夫かな? 胃が痛いって言ってたし、もしかしたらクレアさんは俺の知らないところで何かとてつもなく大きなストレスを抱えているのかもしれない。
くっ! クレアさんがあんなにも苦しんでいるのに、恋人の俺はクレアさんのストレスの原因となっているものが何かもわからない!! くっそぉ〜! 俺はなんて無力なんだ!!
「じ〜っ」
ん? この視線はカノンか。
カノン、そんなにジッと俺の顔を見つめてどうした?
もしかして……久しぶりの学校で見た俺の学生服姿に惚れ直したりしちゃったのか?
ふっ、流石の俺も少しは照れるぜ。
俺はカノンに対してちょっとだけカッコつけた顔を見せる。
するとカノンの隣でこちらを見ていたペゴニアさんが若干呆れた顔で口を開く。
「旦那様がそれだけ自信満々に手を挙げるという事は、何かいい案でも思いついたのでしょうか」
「ああ!」
これでも俺は本場のランウェイを経験してる。
それにみんなには内緒にしていたが、俺はこう見えて結構自分のセンスには自信があるんだ。
最近も俺の書いた絵を見た美術の先生が、前衛的すぎるって言って、あまりの衝撃で救急車で運ばれて行ったっけ。あれ? そういえば、あの絵はどうなったんだっけ?
確か完全防護服とガスマスクを装着した自衛隊の人が来て、護送車に俺の絵を載せて国営の博物館で保存するからって言ってそのまま音沙汰がないんだよな。今度、羽生総理が遊びに来た時にどうなったか聞いておこう。
「あっ、でも、ココナや他の人がやりたいっていうなら話は別だから。俺も他にしたい人が居たら、普通にそっちに譲るし……」
俺はクラスの中をぐるりと見渡す。
うーん、俺が最初に手を挙げたせいか、やりたい人が居ても遠慮して手を挙げられないのかもしれないな。
そう考えると少し申し訳ない気持ちになった。
「ごめん、みんな。今のやっぱなしで……」
俺が手を引っ込めようとすると、クラスメイトのみんなが慌てて駆け寄ってくる。
「いいのいいの。ちょっとびっくりしただけだから」
「そうそう。私は面白いと思うよ」
「ね。あくあ君がデザインした服、ちょっと着てみたいかも」
本当に? みんな俺に何か言いたい事があったり、遠慮とかしてない?
俺はみんなと一緒に近寄ってきたココナに視線を向ける。
「どのみち、私は部活動で制作展示するから、こっちはあくあ君がデザインが担当してくれると嬉しいかな。その分、私は衣装制作でみんなを手伝うからさ。ところで、ね、あくあ君。せっかくだからクラス全員分の服をデザインしてみない? ココナ。せっかくだから、みんなでランウェイしたいよ」
クラス全員でランウェイ!?
それはすごく楽しそうな予感がするな。
俺はココナの提案に笑顔で頷く。
「ね! せっかくだから、あくあ君がデザインした服をみんなで歩けたらいいなって思ったの。幸いにも私とかペゴニアさん、あくあ君やカノンさんもだけど、このクラスって型紙から引ける人が多いしね。お裁縫とかも出来る人がサポートして、みんなが自分の着る衣装を縫って、クラス全員でランウェイを歩くの。きっといい思い出になると思うんだよね」
確かに!
去年、ココナの事を思ってクラス全員で四季折々を合唱した時も盛り上がったし、きっとクラス全員で参加するファッションショーは一生の思い出になりそうだ。
「ココナちゃん、それアリ!」
「ちょっと恥ずかしいけど、みんなでランウェイ歩くのは楽しそう!」
「私、不器用だけど、出来るかな?」
「大丈夫大丈夫、私も手伝うからさ」
「やば。今から痩せなきゃ」
「あ。私もそれ思った!」
どうやらクラスのみんなも乗り気なようだ。
ただ、その中で1人浮かない顔をしている知り合いの姿を俺は見つける。
「うっ、楽しそうだけど、私に出来るかな? いつも隣にゆかり先輩が居るから誤魔化せてるけど、私もそこまで器用じゃないんだけど……」
そういえば、アヤナはそこまで器用なタイプじゃなかったな。
料理とかもやれば普通にできるくらいだけど、ちょいちょいドジするし、阿古さんや小雛先輩と比べてできるだけで、アヤナはあまりそういうのが得意なタイプじゃない。
俺がアヤナに声をかけようとしたら、それよりも先にカノンが声をかける。
「ふふっ、アヤナちゃん。心配なら私と一緒に作る?」
「えっ? いいの? カノンさん、すごく助かるよ」
手を繋いでキャッキャするカノンとアヤナを見た俺の心が自然と満たされていく。
きっと、純粋な2人が仲良くする姿からしか摂取できない何かがあるんだと思う。
みんなの話を後ろで聞いていた杉田先生が話がまとまったのを見て軽く咳払いする。
「どうやらうちのクラスの方向性は決まったみたいだな。それじゃあ、その方向性で書類を提出しておくぞ」
俺たちの話し合いを見守っていた杉田先生はニコリと微笑む。
それを見たココナが何かを閃いたのか、少しだけ悪い顔をする。
「杉田先生、そんな後方で腕を組んで見守ってる側の人の顔になってていいんですか?」
「えっ?」
どういう事だ?
クラスメイトの女子達はココナの企みに気がついたのが、全員が目を光らせて杉田先生に近づく。
「そうそう。杉田先生も私達と一緒にランウェイを歩くんですよ」
「えっ? でも、私は教師で……」
慌てる杉田先生に、数人の生徒達がジリジリと近づいていく。
「そんなの関係ないですよね? 文化祭の規則にも先生が参加しちゃいけないって書いてなかったし」
「うんうん、杉田先生だってクラスの一員なんだから参加しないと!!」
「いや、でも……」
みんないいぞ〜。
クラスメイトの女子達は、タジタジになった杉田先生をさらに畳み掛けていく。
「あーあ、私、杉田先生と一緒にランウェイ歩きたかったな」
「あ、う……でも、私はあまり裁縫とかが得意じゃなくてだな……」
そういえば杉田先生もあまりそういうのが得意なタイプじゃなかったな。
前に保護観察処分を喰らって杉田先生の部屋に泊まった時、俺は弾け飛びそうになっていたシャツのボタンを何着も縫い直したっけ。
「それならみんなで杉田先生を手伝うって事で!」
「ね、せっかくだから杉田先生のウェディングドレスとかどう?」
「あっ、それいいかも!」
「待て待て! なんで私だけウェディングドレスなんだ!?」
杉田先生のウェディングドレス姿だって!?
もちろんその隣には俺が歩くんだよな!?
慌てふためく杉田先生を見て、カノンが助け舟を出す。
「もう、みんな。杉田先生が困ってるよ」
カノンは杉田先生の体を優しく抱きしめる。
やはり子供ができたからだろうか。妊娠出産を経験したカノンの体から、かつてないほどの母性が溢れ出ている気がする。
「それにウェディングドレスは流石に時間かかりすぎるから却下ね」
「先生、私も衣装制作なんて初めてだし、一緒に頑張りましょう」
カノンに続いてアヤナも杉田先生のフォローに回る。
ここ最近の俺のイチオシ、カノアヤコンビが今日も輝いてるな。
言い出しっぺのココナは杉田先生に近づくと、ぺこりと頭を下げる。
「先生ごめんなさい。でも、先生に参加して欲しいのは本当ですから」
「胡桃……わかった! 私もせっかくなら、お前達と一緒の思い出を作りたい。流石にウェディングドレスは恥ずかしいから却下だが、衣装制作やランウェイには私も参加させてくれ」
杉田先生の言葉に教室の中が沸く。
それを見たとあと俺の2人が遠くから手を叩いた。
あれ? 慎太郎、お前、いつまでフリーズしてるんだ? 大丈夫か?
俺は固まった慎太郎のメガネを手に取ると、上下逆さまにしてかけ直した。
「すまない。どうやらあまりの衝撃で気絶していたみたいだ」
「おい、大丈夫か!?」
一体、何に衝撃を受けたのかはわからないけど、帰りに病院に行っておいた方がいいぞ。
俺は親友として、純粋な気持ちで慎太郎の事を心配する。
あと、逆さまになった眼鏡で器用にクイっとさせてるけど、俺のささやかなイタズラに早く気がついてくれ。
「それじゃあ、あくあ君は出来るだけ早くデザイン案をお願いね」
「わかった。任せろ!」
俺は学校の帰りに文房具屋さんでスケッチブックを購入すると、自宅のリビングでクラスメイトのみんなをイメージしてそれぞれの服装を書いていく。
ふっ、自分の才能が恐ろしくなるくらいポンポンとアイデアが出てくる。
俺が楽しくスケッチしていると、近くに居た小雛先輩が無許可で覗き込んできた。
ちょ、ちょ、いきなりなんなんですか!?
「今日はやたらと静かだから不思議に思っていたけど、あんたさっきからなにやってんの? どうせ、またバカな事やってるんでしょ。大きなトラブルになる前に早く白状しなさい」
失敬な! そんな人がいつもトラブル起こしてるみたいに言って! 俺は小雛先輩と違ってそんなしょっちゅうトラブル起こしたりしてませんからね!
ほら、その証拠に、この人畜無害な俺のキラキラとした綺麗な目を見てくださいよ。
俺と小雛先輩のやり取りに気がついたえみりが、俺の代わりに小雛先輩に事情を説明してくれた。
「ぐへへ。小雛先輩、実はかくかくしかじかでこうなんですよ」
えみりから説明を聞いた小雛先輩が、疑り深いジトッとした目で俺を見てくる。
「ふーん、なるほどね。ちょっと、この私が直々にチェックしてあげるから、アンタがどんな服をデザインしたのか見せてみなさいよ」
「私もあくあ様のデザインした服が見たいです! ……2Aの子達のためにも、いや、クレアのためにも、ここで阻止できる事は阻止しておかないと」
え〜っ? 仕方ないなぁ。2人がそこまで言うなら、ちょっとだけですよ。
ところで、えみり、さっき最後になんか言った? 何かぶつぶつ言ってたような気がするんだけど……えっ? 俺の気のせい? うん、それなら別にいいんだけどさ。
「まず最初はこれです」
俺はクレアさんをイメージしてスケッチしたやたらぱつぱつになった紐のシスター服のデザインを2人に見せる。
それを見た小雛先輩が俺への圧を強めると、えみりは手を叩いて喜んだ。
ちょっとちょっと、2人とも俺のスケッチを見て何か勘違いしてるんじゃないですか!?
「普段シスターとして清く正しい生活をしているクレアさんだからこそ、ファッションで自分を解放して欲しい。かといって、縛り付けられた抑圧された部分も残したいと思ったら、こういう衣装になりました」
流石に俺だって邪な気持ちでこんな衣装をデザインしたわけじゃない。
ちゃんと本場スターズのスタコレに影響されたデザインで衣装を考えたつもりだ。
俺の説明を聞いた小雛先輩が目を丸くする。
「へぇ、てっきりアンタの事だからそういう目的かと思ってたけどそうじゃないんだ。なんかそれっぽいじゃない」
「でも、あくあ様。高校の文化祭で流石にこれはダメなんじゃないですか? クレアなら喜んで着て歩いてくれそうな衣装ですけど……」
うーん、確かに。
高校の文化祭って事を考えると、このデザイン案は2人が言うようにふさわしくないような気がする。
「それじゃあ、こっちはどうですか?」
俺はスケッチブックのページを捲ると、次のページに書かれていた衣装を2人に見せる。
「何これ?」
「鎧……ですか?」
俺は2人の言葉に頷く。
「ほら、母は強しって言うじゃないですか。母として子供を守り戦い抜くカノンをイメージした時、俺の頭の中に姫騎士姿のカノンが浮かんできたんですよね」
カノンがこの衣装を着ているところを想像すると、多少くっ殺感が見え隠れしてくるがきっと俺の気のせいだろう。
ちなみにママさん仕様で、胸部装甲がアーマーパージできるギミックも考えている。
「うーん、こういうのって結構作るの大変なんじゃないの? そこまで時間ないでしょ」
「そもそも予算だってありますしね。決められた予算内で鎧を製作するとなると難しい気がします」
あっ、そういえば予算の問題があったんだった。
俺は一番大事な部分を見落としていた事を思い出す。
「それと、やっぱり文化祭なんだし、せっかくクラスメイト全員でランウェイするなら、そのイメージでなんかした方がいいんじゃないですか?」
「えみりちゃんの言う通りね。なにも本場の先進的なファッションショーをやったからと言って、それがいいとも限らないでしょ。むしろもっとわかりやすい方がいいんじゃない?」
確かに。俺は少しばかり本場のファッションショーに囚われすぎていたのかもしれない。
2人の言葉を聞いて俺は改めて一からファッションショーについて考え直す。
せっかくの文化祭、やっぱり2Aとして、2Aのみんなとしかできないファッションショーをしたいよな。
そうなるとショーのコンセプトから見つめ直す必要がある。
さて、どうしたものか。
俺達の会話を近くで聞いていたカノンとアヤナが、悩める俺の両隣に座る。
「ねぇねぇ、それならあくあがみんなのデート服をデザインするのってどう? 予算の問題もあるから一部は私物を使ってさ。トップスかスカートだけ用意するとか、元ある衣装をリメイクするとか」
「あっ、それいいかも。なんならサプライズにして、みんなに当日までコンセプトは黙っておくとか」
「それ、アリ!」
近くで話を聞いていたココナがカノンとアヤナの提案に手を叩く。
うるはやリサも、ココナと一緒にやってくる。
「ショーのやり方は考えなきゃいけないだろうけど、みんながあくあ君と一緒にランウェイを歩けたら楽しいかも」
「ココナちゃん、賛成。私もそれがいいと思う」
「演出方法は演劇部の私に任せてくださいまし、みんなが納得する良い方法を考えておきますわ」
よし! そうと決まれば善は急げだ!
俺はスケッチブックを開くと、さっき書いたスケッチのページを千切る。
それを見ていたえみりが、俺の方へとスッと手を伸ばす。
えっ? えみり、これが欲しいの?
何に使うのかは知らないけど、欲しいならあげるよ。
「それじゃあまずは慎太郎のデート服から……」
「「「「「ちょっと!?」」」」」
周りにいた女性陣が一斉に声を上げる。
みんな、急にどうしたんだ!?
「そこは普通に遊ぶ想定の服でいいでしょ。なんで黛君のデート服なのよ!?」
「あくあ様、そんなのを見せられたら、観客の皆様が大変な事になってしまいますわ」
「ちょっと、みんなファッションショーどころじゃなくなるじゃない!」
そうか? せっかくだから慎太郎に、淡島さんとのデートを想定した服をデザインしてやろうと思ったんだけどな。
多分、淡島さんも文化祭を見にくるだろうし、機会があったらその服を着て2人で文化祭デートして欲しいなと思った。
俺がそう説明すると、みんなはホッとした顔で胸を撫で下ろす。
「ふぅ……てっきりあくあ様と黛君がデートするのかと思って焦ったぜ」
「本当にね。もう少しでショーの会場が血の海になるところだったわよ」
「もう、あくあ君ってば紛らわしいんだから」
俺が再びペンを手に取ると、全員が一斉にスケッチブックを覗き込む。
ちょっとちょっと!? 流石の俺もそんなに見られたら書けないよ!
俺はスケッチブックを閉じると、1人で集中したいからと言ってペンを持って自分の部屋に引き篭もる。
って、小雛先輩なんで普通についてくるんですか!?
「お目付役は必要でしょ」
だからって小雛先輩は部外者でしょ。
俺がジト目になると、小雛先輩の後ろからココナがやってきた。
「ねぇねぇ、あくあ君。費用の事もあるし、私も一緒に考えていいかな。予算的にオーバーしそうなところとか、時間的に難しそうなところは私が指摘するからさ」
確かに衣装制作のリーダーを務めるココナと一緒に考えるのはいいかもしれないな。
「ココナ、ありがとな」
「気にしないで。私も楽しくてやってる事だから!」
ココナは素直で可愛いな。
俺はデレデレした顔でココナの頭を撫でる。
「それと小雛先輩も心配してくれてありがとうございます」
「ふん、私が心配してるのはあんたじゃなくて、あんたのクラスメイト達だから」
素直じゃないなあ。本当は俺の事が心配なんでしょ?
俺が小雛先輩の頭を撫でると、普通に手を跳ね除けられた。
最近ちょっとデレてきてるのかと思って、調子に乗ってすみません……。
「まぁ、頑張んなさいよ。私とえみりちゃんは1Aっていうか、くくりちゃんの方を手伝うからさ」
「えっ?」
俺が固まっていると、小雛先輩はニマニマした顔を見せる
「だって、今のままじゃ1Aが2Aと比べて圧倒的に不利じゃない。ただでさえあんたんとこは、BERYLが3人も居て、アヤナちゃんにカノンさんでしょ。あんた1人でもスマーフみたいなもんなんだから、せめて私達くらいはくくりちゃん達に味方してあげないとね。あっ、それと、さっきの情報は全部1Aに横流ししておくから。まったね〜」
くっそー! 嵌められた!!
味方かと思った2人が普通に裏切り者だった。
まさかこんな身内にスパイがいるなんて思ってもいなかったぜ!
楽しくなってきた俺は笑顔を見せる。
「あくあ君、うちらもがんばろ!」
「あ、ああ。そうだな!」
俺は気合いを入れ直すと、ココナと2人で夜遅くまでみんなとのデート服の案を練る。
翌日、俺が学校に行くと、先に学校に来ていたココナがデート服だって事は隠して、みんなに事情を説明してくれていた。
「それじゃあ、家にあるクローゼットからお気に入りの服を撮影して、あくあ君に送ればいいんだね」
「後、買ったはいいけど使えなくて困ってる服とかも持ってきていい?」
「ね、それならみんなで一度衣装を持ち寄って、見せ合いっこしない?」
「ありあり。なんなら買ったはいいけど着てないのとか結構あるし、交換しよ」
「あ、私、コスプレの衣装制作で使った端切れあるから持ってこようか?」
どうやらうちのクラスもみんなやる気十分のようだ。
俺は休み時間を使って、夜遅くまで描いたスケッチを1人ずつに見せていく。
みんなが微妙な顔をしたらどうしようかと思ったけど、ココナが一緒に考えてくれた事もあって俺が描いたデザイン案を見せて説明すると全員がすごく喜んでくれた。
「それじゃあ、私達は放課後買い出しに行ってくるから。あくあ君はリサちゃんやとあちゃんと一緒にショーのやり方について考えておいて」
「OK! こっちは任せておいてくれ!」
ココナはアヤナ達を引き連れて買い出しへと向かう。
あれ? 慎太郎はどこ行った? ああ、家庭科室にあるミシンを借りるための申請書類と、衣装を保存する空き教室の使用許可証を書いたのを生徒会に持っていくのか。そっちは頼んだぞ。親友!
教室に残った俺とリサ、とあの3人はショーのやり方について話し合う。
「ねぇねぇ、僕が思うに、みんなあくあと一緒にランウェイを歩きたいと思うんだよね」
「とあちゃんの言うとおりですわ。とはいえ、何度もあくあ様がぐるぐると回るのはあまり効率も良くありませんし、ショーの時間も長くなってしまいますわね」
そうなると、普通のランウェイとは違ったやり方を考えた方が良さそうだな。
「じゃあさ、みんなデート服をコンセプトで分けて幾つかのグループを作ってやるのはどう? 最初に俺が出てそのまま帰らずにそこに残って、後から来た一人一人とポージング取って、一つのグループが終わるたびに帰って早着替えしてまた表に出るってやり方なら、あんまり後ろに引っ込まなくて良さそうだし」
「確かに、その方法だとショーの時間も抑えられそうですわね」
「グループごとにコンセプトを分けるっていうのはショーらしくていいかも」
俺達3人はそれぞれに意見を出し合うと、詳細について詰めていく。
あとはこのショーを実現するために、ステージを設営してくれる生徒会と風紀委員にも書類を出しておかないとな。
「それなら私がやっておくわ」
「ありがとう。うるは」
俺は杉田先生から預かっていた書類を、部活から戻ってきたうるはに手渡す。
そういえば、俺達はクラスのショーとは別に部活も頑張らなきゃいけないんだよな。
「ふふっ、あまり無茶しないでね」
おっふ。うるはは俺の後頭部に胸を押し付けながら、肩を優しく揉んでほぐしてくれた。
これって、わざと当ててんのよってやつですか!?
いや……うるはって見た目とは裏腹にピュアで天然だから、きっとわざとじゃなくて純粋に肩を揉んでくれただけなんだろうなと思った。
「それじゃあ、みんな後は頼んだぞ。俺は今から杉田先生の家に行くから」
「えっ?」
杉田先生、えっ? じゃないですよ。
以前、お宅にお邪魔した俺は知ってるけど、杉田先生のクローゼットの中ってほとんど私服がなかったじゃないですか。俺と杉田先生は、その中から少しでもデートに使える服を発掘しなきゃいけないんですよ。
「ほら、杉田先生行きますよ」
「うっ、待ってくれ。今日は少し散らかっててだな」
杉田先生。もしかして忘れたんですか?
俺は杉田先生の家にお邪魔した事があるんですよ。
今更、散らかってて恥ずかしいもクソもないです。
「それじゃあ、ココナが戻ってきたら後で帰ってくるからって言っておいて」
「りょーかい」
俺はとあにそう言うと、恥ずかしがる杉田先生の背中を押して駐車場へと向かった。
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