番外編 ifストーリー 全ての元凶、白銀あくあ、俺が全部悪い!!
※本編でえみりが暴走しているので、こちらの話を転載しておきます。
幕間ではなくifストーリーです。
時期はスターズが陥落した直後あたりです。
スターズで起こったクーデター事件とテロリスト事件はたった1日で解決してしまった。
その後、俺は仕事で訪れたサーキット場で、ガンメタ色の棺桶みたいな車を見つける。
「かっけぇ!」
なんだこれ? 見た事のない車だけど、まさか発表前の新車か!?
うわー、乗ってみたいなぁ。サーキット内なら確か免許がなくても別に大丈夫だよな?
俺が乗りたそうにしてたら、白衣を来たお婆さんがやってきた。
「乗ってみるかい?」
「良いんですか?」
「ああ! ちょうど今からこいつの……エミリアン号の実験をしようと思ってたからね」
実験!? 男としてすごくワクワクする単語が出てきた。
この白銀あくあ、科学の発展のために一肌脱ぎます!!
「良いかい? 帰りたい時は時速88マイル以上でこのボタンを押すんだよ」
「わ、わかりました」
帰りたい時? どういう意味だろう?
まぁ、細かい事はいっか。なるようになるだろう。
「それじゃあ、行ってきます!!」
「ああ。気をつけて行ってくるんだよ」
俺は扉を閉めると、ピットから出てアクセルを踏み込む。
うおおおおお! さすがはスーパーカーだ!!
俺は軽く慣らしながら運転すると、ストレートでアクセルを踏み込む。
その瞬間、目の前で何かがスパークし、視界が大きな光に飲み込まれていった。
やべぇ! 車体に何か大きなトラブルが起こったのかもしれない。
俺は慌ててブレーキペダルを踏み込む。
「はあはあ……た、助かったか?」
どうやら無事なようだ。俺は車の扉を開けると、周囲の様子を確認する。
「あ、あれ? ここどこ?」
さっきまでサーキット場を走っていたはずなのに、なんでただの野っ原にいるんだ?
俺は近くにあった看板へと視線を向ける。
【サーキット建設予定地】
は? どういう事だ?
俺は足元に落ちてあった新聞を拾い上げる。
【1976年】
は? 1976年!?
ど、どういう事だ!? まさか俺、タイムスリップしちゃったりとか?
俺はスマホを取り出してナタリアさんやアビーさんに連絡を取ろうとしたが、通信圏外で電話が繋がらない。
うーーーん、これはどうしたらいいんだ?
俺はとりあえず車に乗ると、街がある方に向かって走り出す。
本当はいけない事もかしれないけど、確かスターズは免許制度も緩かったし、ここに車を置いていくわけにもいかないので仕方ない。
「うわぁ……」
街中に走ってる車とか、街を歩いてる人達の服装とかがやたらと古い。
なるほど……これはあれですね。
壮大なドッキリ番組か何かだ! 俺はそう思う事にした。
「せっかくだし、外を出歩いて見るか」
でも、この格好と髪色はスターズじゃ目立つよなあ。
何か着るものでもあればいいんだけど……。
「ん?」
俺は助手席に大きな紙袋が置かれているのを見つける。
「なんだこれ?」
紙袋を開けると衣装と金髪のウィッグが入っていた。
おぉ! これならうまく誤魔化せるんじゃないか?
俺は車を人気のないところに停めると、車内で服を着替えてウィッグを装着する。
ご丁寧に青色のコンタクトまで入ってるじゃないか。よしっ! これなら完璧だ!!
服を着替え終わった俺は、車を駐車場に入れて外に出る。
「おっ」
ショーウィンドウに映った自分の姿を見て、俺は少しだけ驚く。
あれ? 着替えてる時にもしやって思ったけど、これって夕迅をやってた時の服装とウィッグじゃん。
「きゃあっ!」
「まぁ……!」
「あ、あ、あ……」
ん? なんか周囲が騒がしいな。
俺が声の方に振り返ると、街を歩く女の子達が全員俺の方を見ていた。
あっ、やべえ。そういえばこの時代は俺が居た時代より古いから、大手を振って男性が出歩くのはおかしいのか。
「君!」
あ……。騒ぎに勘づいた警察……いや、近衛兵らしき人達がすぐに俺を取り囲む。
「こんな街中でどうした?」
「あ、いや……えーと……」
くっそー、どう言い訳をしたらいいんだ。
「身分証は持っているか?」
「い、いえ……」
俺がまごまごしていると、さらに偉い人が出てきた。
「ここは危険だ。こちらにきなさい」
「あっ、はい……」
近衛兵の人に取り囲まれた俺は、そのまま近くの大きなお屋敷の中へと連れて行かれる。
これがドッキリならちゃんとイベントはこなした方がいいしな。うん。
「君、あんな街中で護衛もつけずに彷徨いていたらすぐに攫われちゃうよ」
「本当にね。お姉さん達も君みたいな子が普通に街中で歩いてるのを見てびっくりしちゃった」
「おうちどこかわかる? 名前は? 1人で帰れる? お姉さんのお家泊まる?」
あ、最後の人が同僚2人に肩をポンと叩かれてつまみ出された。
それと入れ替わるように見覚えのある人物が部屋に入ってくる。
「……カノン?」
「えっ?」
いや、違うな。カノンから感じるようなポワンとしたというか、ポンというか、そういう雰囲気が全く感じられない。この人はうちのカノンと違ってしっかりした人だ。というかこの感じは……。
「メ、メアリーお……様?」
「あ、はい」
嘘……だろ?
俺の知ってるメアリーお婆ちゃんも十分に若いけど、目の前にいるメアリーお婆ちゃんはどう見ても10代にしか見えない。それこそ年はえみりさんと同じくらいか? 俺はメアリーおばあちゃんの顔をジッと見つめる。
なるほどな。カノンはメアリーお婆ちゃんの若い時とそっくりだったって言われている理由がよく分かった。
俺がこの時代の生まれなら結婚していたのはメアリーお婆ちゃんだったかもしれねぇ。
「私の名前はご存知かもしれませんが、メアリー・スターズ・ゴッシェナイトです。貴方のお名前を教えてもらえませんでしょうか?」
「え、えーと、し……ユージーンです」
流石に白銀あくあと名乗ると後々ややこしそうな気がしたので、俺は夕迅の名前を借りる事にした。
ユージーンならなんとなく外国人にいそうな名前だしな。うん。
「まぁ! ユージーン様ですね。よろしくお願いします」
おっふ。メアリーお婆ちゃんかわいいな。
俺は目の前に居るメアリーお婆ちゃんの事を、メアリー様括弧仮と名付ける。
「ユージーン様はどこから来れたのですか?」
「え、えーと……日本です」
「日本!? あらまぁ、日本の方なのに、こんなにもスターズの言葉が上手なのですね」
くっ、なんだろう。この感じ。
普通の会話をしているはずなのに、何かボロを出しそうになってしまう。
うちのカノポンとそっくりだから気が緩みそうになってしまうけど、メアリー様にポン要素はないからちゃんと気を引き締めないといけないな。
「すみません。本当は今すぐにでもユージーン様をお家まで送り届けたいのですが……今から、このお屋敷でパーティーが行われる予定なのです。申し訳ありませんが、そのパーティーが終わるまで、ここでお待ちいただく事はできますか?」
「あっ、はい。別に大丈夫です」
メアリー様はニコリと微笑むと部屋を後にした。
さてと……どうしようかな。これがもし本当にタイムスリップだとしたら、どうにかして元の時代に帰らなければいけない。
俺は白衣のお婆さんに、帰ってくる時はこのボタンを押すんだよと言われた事を思い出した。
とりあえず、ここを出たらあの車のあるところに戻るか。それまではお姉さん達と談笑して過ごそう。
俺は近衛兵のお姉さんと他愛もない会話をする。
「うっうっうっ……私、こんなにも男の人と会話をしたのは初めてです」
「わ、私も……この仕事についてよかった……!」
「ちょっとあんた達、長いわよ!」
「そーだそーだ! 1人5分って言ったじゃない! 交代の時間よ!!」
はは……。
なんか文化祭でやった時のホスト喫茶を思い出すな。
近衛のお姉さん達と仲良くなった俺は、色々な話を聞いてやっぱりここが1976年のスターズであると確信した。
「そういえば今日パーティーがあるって聞いたけど、なんのパーティーなんですか?」
俺の質問に近衛のお姉さん達がびっくりした顔をする。
あれ? 俺なんかやべー質問しましたっけ?
「今日はメアリー王女殿下の誕生日を祝うパーティーなのです」
ええっ!? メアリーお婆ちゃんって今日が誕生日だったの!?
そ、そういえば誕生日とか全然聞いた事なかったな。
これは帰ったらなんか用意しないといけないなと思った。
「それなのにねぇ……」
「うん……」
どうしたんだろう? みんなが浮かない顔をしている。
俺はその事情を聞いた。
「メアリー様、本当は今日、一緒に婚約者をお披露目をする予定だったの」
「それなのに……ねぇ?」
あぁ、そういえばその話、前にカノンに聞いた事あるぞ。
確か婚約者になる予定の男がバックれて、1人で誕生日パーティーに出席したメアリーお婆ちゃんは生涯独身を貫いたと聞いた。
もしかしてこれは神様が俺に、メアリーお婆ちゃんの苦い過去を楽しい思い出に変えるために起こした奇跡なんじゃないだろうか? いや、しかし、俺が安易に歴史を改変していいのだろうかという疑問もある。
さて、どうしたものか……。
……。
…………。
………………。
まぁ、いっか!
どうせスターズなんて国は後々なくなるんだ。
それなら今、俺がちょっとくらいやらかしたところで誤差だよ誤差誤差。
楓も困った時は筋肉に聞けって言ってたし、俺の脳みその筋肉はメアリーお婆ちゃんを、この時代のメアリー様を悲しませていいのかと言っている。何よりもアイドルとして、目の前の泣いている女の子1人を救えなくてどうするんだと思った。
「あのさ、そういう事なら相談があるんだけど……」
俺は近衛のお姉さんに自分が考えた事を提案する。
すると近衛のお姉さん達もノリノリでそれに応じてくれた。
俺は部屋を出ると、メアリー様のいる場所へと向かう。
道中すれ違う女性陣が俺の姿を見てびっくりする。
会場に到着すると、気落ちした顔のメアリー様の横顔が見えて俺のスイッチが入った。
「きゃあ!」
「あ、あ、あ、あの素敵な殿方は誰!?」
「お嬢様しっかり!」
「ちょっと誰か! 奥様を救護室に!!」
いくらなんでも騒ぎすぎだろうと思ったけど、この時代だから仕方ないのか?
まぁ、今のうちに慣れておいてくれ。今から数十年後にはこの国も世界も、もっととんでもない事になるから。
周りが大騒ぎしてしまった事で、メアリー様が俺の事に気がつく。
「ユージーン様!? ど、どうしてここに!?」
俺はメアリー様の前に立つと、片膝をついて手を差し向ける。
「素敵なお嬢さん。どうか、この私と一緒にダンスを踊ってはくれませんか?」
俺の一言でメアリー様は頬をピンク色に染める。
「え、あ……ど、どうしましょう?」
戸惑っているメアリー様を見て俺は胸がキュンとした。
しっかりした感じの人が狼狽える姿って、どうしてこうも男心にグッとくるのだろうか。
ぎゅっと抱きしめて守ってあげたくなるね。
「ほ、本当に私とダンスを……?」
「はい。どうか私の思い出のために」
「まぁ……!」
メアリー様は真っ赤になった頬を両手で押さえつつ笑顔を見せる。
うん、やっぱり女の子は笑顔に限るな。男が女の子を泣かせるのはベッドの上だけでいい。
「それじゃあ、一曲だけ……よろしいかしら?」
「ありがとうございます」
俺は立ち上がると、曲に合わせてメアリー様と一緒に優雅にダンスを踊る。
さすがはメアリー様だ。カノンやヴィクトリア様と一緒でダンスがすごく上手い。
「ユージーン様はダンスがとってもお上手なのですね」
「ええ」
俺は、貴女の孫娘と踊るためにいっぱい練習したんですよと、心の中で呟く。
ゆったりとしたワルツの曲調に合わせて、俺達は見つめ合いながらダンスを踊り切った。
「ユージーン様。私……こんなにも楽しいダンスは、いえ、こんなにも楽しい誕生日は初めてです」
俺は白銀あくあ、ほんの少しだけ曇ったメアリー様の笑顔を見逃さなかった。
「それならもっと楽しい誕生日にしてみませんか?」
「えっ?」
俺はメアリー様にもう一度手を差し出す。
カノンやヴィクトリア様を見てきた俺だからわかる。
あの時代の王族だって窮屈だったんだ。この時代ならもっと窮屈だったんだと思う。
「メアリー様……いや、メアリー。もし、君がこの手を取ってくれたら、俺が今日を君にとって最高の誕生日にしてみせるよ」
「ユージーン様……」
メアリーは戸惑った様子を見せるも覚悟を決めたのか、意を決した表情で俺の手を取る。
俺はそのタイミングでメアリーを抱き寄せた。
「きゃあ!」
「まぁ!」
「メディーック!!」
「あわあわあわ」
俺たちの様子を見ていた周りの人達が一斉に倒れる。
「メアリー……後は俺に任せて」
俺はメアリーの耳元で囁くと、彼女を片手で抱き上げてそのままバルコニーへと走り出す。
「きゃあっ!」
メアリーを抱き抱えたまま俺は1階に飛び降りると、そのまま庭に繋がれていた馬を奪ってお屋敷から脱出した。
俺はメアリーを乗せて街中を馬で駆け抜ける。
「ユージーン様、ダメ。このままではいくら男性とはいえユージーン様が捕まってしまいます」
「俺なら大丈夫」
どうせ後で元の世界に高飛びして逃げるつもりだし、いくらやらかしたところで問題ない。
「それよりもメアリー。せっかく外に出たんだ。やりたい事はないのか?」
「え、あ、う……わ、私は……デートがやってみた……いえ、やっぱりなしですなし!」
「デートね。了解!」
「あっ……」
俺は適当なところに馬を留めると紐をつけて近くの服屋さんに入る。
「いらっしゃいませええええええ!?」
あ、うん。店員さんがびっくりするのも仕方ないよな。
俺は人差し指を唇に押し当ててシーっと呟く。
「悪いけど、この子に服を用意してくれるかな? お願い、ね」
「あっ、はぁい」
俺は店員さんに壁ドンしてお願いした。
小雛先輩曰く、俺は顔でゴリ押ししたらどうにかなるらしいので、それをフルに駆使する。
「ど、どうでしょうか?」
「よく似合ってるよ。メアリー」
普通のワンピースを着たメアリーは、どこにでもいる女の子……にはならないよなあ。
明らかに育ちのいいどこかの貴族のお嬢様だ。でもさっきのドレスよりかは幾分かマシだろう。
「それじゃあ、これ着て帰るから。いくらになります?」
「えっ、えっと……良いものを見せてもらったから、もういっそタダでも……」
いくらなんでもそれはまずいでしょ。
何故かはわからないけど、車の中にこの時代のお金が入っていたので俺はそれを使って支払う。
使った分は後で白衣を着たお婆さんに返せばいいしな。
「あのさ。あのバイクお姉さんの?」
「あ、はい」
俺は服屋のお姉さんにお願いして、後で返すからとバイクを貸してもらった。
街中でデートしてたらすぐ捕まりそうだし、俺はメアリーをバイクの後ろに乗せると郊外に向かって走り出す。
「わ、私、バイクなんて初めて乗りました」
「本当? いいでしょ?」
「はい……!」
未来のメアリーは1800ccのバイクに乗ってるから、少し意外だった。
そういえば、メアリーは何がきっかけでバイクに乗るようになったんだろうな。今度聞いてみるか。
「わぁ……!」
デートと言えばやっぱり海は定番だろう。
時期的にまだ寒いけど、そのおかげでビーチは貸切状態だった。
とはいえ、日本の海と違ってスターズの海って荒れてるのな。
そこは流石に俺も予想外だった。
「私、こんなところに誰かと2人できたのは初めてです!」
「そっか、楽しい?」
「はい!」
俺は海岸ではしゃぐメアリーを見つめる。
これで少しでも羽根を伸ばせたらいいなと思った。
「綺麗……ですね」
「ああ」
2人で日が落ちて暗くなっていく海を見つめた。
本当はもっと色々とやりたかったけど、行けるところは限られてるし、そろそろタイムオーバーだろう。
俺はガチで捕まって牢屋にぶち込まれる前に、メアリーを解放するために街へと向かおうとする。
するとメアリーが俺の手を後ろから掴んだ。
「メアリー……?」
俯いたメアリーはほんの少しだけ顔を持ち上げる。
潤んだ瞳とピンク色の頬、ただの1人の女の子みたいなメアリーの表情に胸がキュンとした。
「もし……もしも、お嫌でなかったらですけど、ユージーン様、わ、私に一晩のお情けをくださいませんか……?」
おぉ……そうきたか。
俺の頭の中で天使と悪魔のあくあが囁き合う。
『おお、あくあよ。女の子にここまで言わせておいて貴方はそれに応えないというのですか?』
『あくあ……。自分に正直になるんだ。俺から言えるのはそれだけだ!』
ふぅ……。両方、同じ事しか言ってねぇ!!
俺は頭の中の天使と悪魔の自分をかき消す。
あともう少しで脳内小雛先輩の、あんた絶対にバカでしょって声が聞こえてきそうになった。
「メアリー……今日の事、絶対に秘密にできる?」
「……はい!」
俺達は近くの海小屋に入ると2人だけの時間を楽しんだ。
それからどれくらいの時間が経ったのだろう。
俺達はお互いにこれが最初で最後だと本能で分かり合ってるのか、日付が変わるまで2人の時間を楽しむ。
「今日は、素敵な思い出をたくさんありがとうございました」
「メアリー……お礼を言うのは俺の方だよ」
俺はメアリーを警察のすぐそばに連れていくとバイクから降ろす。
「メアリー、良かったらこれ……」
「えっ?」
俺はメアリーが服を買ってる間に、隣の花屋で買った花を手渡す。
せっかくの誕生日にこんなものしか用意できなくて申し訳ないけど、ないよりマシだろうと思う。
「嬉しい……!」
俺はメアリーの方へと手を伸ばすと、目尻についた涙の粒を掬い取る。
「ユージーン様……また、お会いする事はできますか?」
「……ああ! 必ず会いに行く」
「絶対に……約束ですよ? 私、ずっとずっと待ってますから! ユージーン様……いえ、貴方が来てくれるその時を!!」
俺はメアリーと別れると、そのままバイクを走らせて車を停めた駐車場へと向かう。
服屋のお姉さんにはここにバイクを停める事を事前に伝えてある。
車に乗り換えた俺は、そのまま例のサーキットがあった野っ原へと向かい時速88マイルまで加速した。
そして白衣のお婆さんが教えてくれたようにボタンを押すと、こちらに来たのと同じように目の前がスパークして光に飲み込まれていく。
「おかえり……旅は楽しかったかい?」
「お婆さん……」
貴方は一体……? と聞こうと思って踏みとどまる。
メアリーが最後に俺が偽名と気が付きつつも見逃してくれたように、俺もそこを聞くべきではないと思った。
「ふぅ……」
現代に戻ってきた俺は車をお婆さんに返すと、バイクに乗って王宮へと向かう。
「おっ! 佐藤議員に破壊された城門が直ったのか」
俺は王宮にバイクを置くと、風にあたるためにバルコニーへと向かう。
アレは夢だったのだろうか? いや、間違いなく現実だった。
そんな事を考えていると、後ろから誰かが来る気配を感じる。
「あくあ様……」
「メアリー……お婆ちゃん」
メアリーお婆ちゃんにメアリーの姿が重なる。
「ふふっ、まさかスターズが無くなるなんて思いもしませんでしたよ」
「それはその……すみません」
「いえいえ、寧ろありがとうございます。何かこうすっきりとした気分になりました」
俺はメアリーと横に並ぶと、あの時の様に、暗くなっていく夜空を見上げる。
お互いに何も言わず、ただただ時間だけが過ぎて行く。
「私、結構頑張ったんですよ」
俺は何も言わずにメアリーの話を聞く。
「だから、褒めてくれませんか?」
「いいよ」
俺はメアリーと向き合うと笑顔を見せる。
「メアリー……いっぱい頑張ったな。えらいぞ!」
「はい!」
一言で言うと、それだけだった。
もしかしたら、メアリーは俺がユージーンだった事に気がついているのかもしれない。
そんな事ないかもしれないけど、それをここで聞くのは野暮かもしれないと思った。
「私、実は言ってみたかったセリフがあるんですよ」
「何?」
メアリーはふふふと笑みを浮かべると、両手の握り拳を目一杯空へと突き上げた。
「メアリーちゃん、大勝利ぃ!」
ははっ! 何それ? 流行ってるの?
なんか年齢とか関係なく、普通に可愛いなと思った。
「さ、あくあ様。みんなのいるところに行きましょう!」
「ああ!」
俺はメアリーの手を取ると、みんなのいる広間へと向かった。
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