幕間 小雛ゆかり、もういやああああああああああああああああ!
※本編でハチミツでノクターンになっているので幕間を流します。
ep.610 幕間 小雛ゆかり、うぎゃあああああああああああああああああ!
の続きになります。
「はい、そういうわけでね。今日は新作のホラーゲームをやっていこうかと思います!」
はいはい、こいつってやっぱりバカでしょ。
スイカップゲームを強制終了させられた私は、無機質な目でモニターを睨みつける。
【おいwwwww】
【何事もなかったかのように仕切り直したぞ!】
【あくたん?】
【あ、あれ?】
【この光景、30分前に見たぞ!!】
【もしかして私達……タイムリープしてる!?】
【やあ、画面の前のみんな。実は君が見ているこの映像は2回目なんだ】
【どうやらついに私も特殊能力をゲットしたみたいだな! 時間を巻き戻せるようになったのか……】
【あれ? 私の記憶にある1周目のみんなの表情と比べて、2周目のみんなは顔に元気がないぞー?】
【↑1周目からの変化キター!】
【↑やはりループものか!!】
【あくあ様だけ変わらないのがリアル】
あ〜〜〜〜〜〜〜っ!
もーーーっ、やーりーたーくーなーいー!
「ぐすっ、ぐすっ、もうお嫁に行けない……」
私が机に突っ伏しているとカノンさんの咽び泣く声が聞こえてきた。
悪いけどこっちはもう突っ込む気力すらもない。
ま、どうせアホなコメント欄が突っ込んでくれるからここはスルーでいいでしょ。
【いやいやw】
【お前はもう嫁だろwww】
【もう嫁なのに、どこに嫁に行くつもりなんだw】
【カノン様ー? ポンレートが顔を出してきてますよー】
【せんせー! 白銀カノンさんが泣いてまーす!】
【悲報、カノン様、ゲームを始める前から涙目】
【大丈夫、あくあ様ならどんな女の子でも愛してくれるよ】
【↑流石にそれはないだろ。って言いたいけどあくあ様だからな……】
【いやー、あくあ様ならカノン様の全てを受け入れてくれそうな気がする】
【カノン様の配信、乙女の聖水がNGワードになってて草w】
【↑捗るが連呼しましくったせいだろw】
【正直、カノン様が嗜なんとかさんってわかった時の方が掲示板民にとっては軽くホラーだったわ】
【↑それな!!】
顔を上げて画面を見ると、あくあのキャラがゆっくりとカノンさんのキャラに近づいていく。
心なしかあくあの操作するキャラがキリッとした顔をしていて、すごくムカついた。
「カノン、やっぱり怖い?」
「うん、だってこのゲーム、銃とか武器が落ちてないんだもん……ぐすっ、ぐすっ」
いやいや、そんな物騒なもんが落ちてるわけないじゃない!!
【おいw】
【この元王女、幽霊を殺そうとしてるぞw】
【幼い頃のカノン様の演説「争いは何も生みません。手に持った武器を捨てましょう。こんなものでは何も解決しません」←これ】
【↑FPSゲームを嗜まれてるカノン様「こっちに敵がいるからみんなで撃と! 160! 肉、肉、敵ノックダウン、確殺入れて!! 絶対殺して!!」】
【↑草wwww】
【えみり様なんて、アーマー装備せずに敵のど真ん中にリスポーンして争いをやめましょうって言ってたぞ】
【↑格の違いが出たね。やはり本物はえみり様だよ】
【↑なお、周りにいたシスタースキンで統一してるやべークランの連中に蜂の巣にされた模様】
【↑草w】
【どうしてそうなるんだよw】
【↑そのうちの2人くらいが日頃の恨みとかって言って死体撃ちまでしてた。多分、人違いの誤射だろうけどな。えみり様が、そんな誰かの恨みを買うような事をしているとは思えないし】
あくあの操作するキャラがカノン様が操作するキャラに引っ付く。
なんかムカつくから、やっぱりあんたのキャラ一発だけ殴っていい?
「大丈夫、カノンは俺が守るから」
「本当?」
「ああ! だから俺の側から離れるなよ!」
「うん!」
ふーーーーーん。
カノンさんは守ってくれるけど、私とアヤナちゃんの命はどうでもいいんだ?
【はあ!?】
【おい、嗜……カノン様! そこの席、代われ! ……じゃなくて、代わってください!!】
【森川楓:急に惚気だしたやつがいるぞ!!】
【イチャイチャオーラを確認!!】
【幽霊屋敷の壁になっていいですか?】
【↑むしろ幽霊になってカノン様を盛大にびっくりさせようぜ!!】
【幽霊さんここですよ〜】
【一体、私達は何を見せられているんですか?】
【ホラーゲームだと思ってたら、急に乙女ゲーム始まるんだもん】
【ちなみにインコのプレーしてる乙女ゲームもホラーゲームみたいなもんだよ】
【↑それはある】
【こーれ、あくたん死亡フラグです】
あー、なんかもうバカらしくなってきた。
私はあくあとカノンさんのキャラの間に割り込む。
「ほら、羨ま幽霊が出る前に、さっさと終わらせるわよ!!」
もちろん私はここで待ってるから、あんたが責任をとってクリアしてきなさいよね!
私はジリジリと建物から離れるように後退する。
「小雛先輩、早くしてください! 5人同時じゃないと裏口には入れないみたいです!!」
「あー! もう、わかったわよ!!」
私は仕方なくあくあを盾にして裏庭の入り口からお屋敷の地下に入る。
あのさー。こんな建物の中が薄暗いところに行くのに、なんでこいつらって幽霊もビビって出てこなくなるような撮影で使ってるペカペカした照明を持ってこないのよ? こいつらアホでしょ!!
「私、もうここから一歩も動かないから!!」
隅っこに陣取った私が無駄な抵抗をしていると、後ろから来たえみりちゃんに突き飛ばされた。
ちょっとぉ!! ゲームの中くらい、その無駄にでかいのをしまいなさいよ!
ほら、アヤナちゃんがシクシク泣いてるじゃない!! えっ? そういう理由じゃない?
「じゃあ、俺ちょっと様子見に行ってきますね!!」
は?
あんたが居なくなったら、誰が私を守るのよ!!
私が引き止めるよりも早く、あくあは走って階段を駆け上がっていった。
【嘘だろwww】
【幽霊屋敷で常にダッシュするあー様wwww】
【ホラーゲームでドタドタ音を出しながら走るとかw】
【あー様にこのゲームのオファーしたやつ誰だよwww】
【あくたん、さっき、えっさほっさ言いながら階段駆け上がっていたぞw】
【ホラーゲームと台風の時に田んぼの様子を観にいくやつ、必ず最初に死ぬ説.あると思います!】
【↑わかるわw】
私は周囲をぐるりと見渡す。
ふーん、あそこにあるテーブルの後ろとか良さそうじゃない。
私はジャンプしてテーブルの後ろに入り込むとその場に座り込んだ。
よしっ!
ここならちゃんと隠れられるし、幽霊に遭遇する事もないでしょ。
あとはあのあくぽんたんがゲームをクリアするのを待つだけよ。
「ゆかり先輩、もっと端っこに詰めてください」
「少し押しますよ」
ちょ! アヤナちゃん! それにカノンさんも!
ここは私が場所取りしたんだから、あんた達は違うところ行きなさいよ!
え? ここにしか隠れられない? そんな事知らないもん!!
【メス同士の醜い争いキター!】
【こういうの待ってました!!】
【こいつらwww】
【全くゲームやってないのに面白いw】
【むしろこいつらだけ全然違うゲームしてるw】
【↑それって、こんにちは、こんばんは、おはようございます。白銀あくあでーす。幽霊さんいますかー? なんて声掛けしながら屋敷の中を常にダッシュで走ったり、全ての扉をバンバン叩いたり、冷蔵庫チェックしたり、電子レンジでチンしたり、シャワーを浴びようとしてる私達のあくたんのこと?】
【↑わかった! これがホラーゲームなんだ!!】
【↑あー様がホラーになってて笑ったwww】
【あくたんの配信に切り替えたら普通に肖像画とかチェックしてたけど?】
【↑ばっか、お前、あれは肖像画見て、この家族でけーなって思ってるんだよ。さっき、おっ、まで声に出てたもん】
【↑私達の知ってる通常営業のあくたんで安心した】
あ、あれ? みんなが押すから今度は逆に抜け出せなくなった。
これって、もしかして……。
【スタックしたw】
【終わったw】
【小雛ゆかり完全にスタックしてるじゃんwww】
【これ、最初からやり直し?】
【終わったwww】
【なもなも】
【悲報、小雛ゆかり、幽霊屋敷に囚われる】
【まさかの幽霊屋敷ENDwwwww】
私達がテーブル裏の角地でわちゃわちゃしていると、えみりちゃんが戻ってきた。
ん? えみりちゃんの後ろで何かがゆらりと動いた気がして私達3人は顔を見合わせる。
「とりあえず地下は全部探索してきたけど、何もなかったみたいです。あ、でもこんなのありましたよ」
しゃがんだえみりちゃんが床に人形を置くと、後ろの通路に髪の長い白いワンピースの女が立っているのが見えた。
「うぎゃあああああああああああああああ!」
「きゃあああああああああああああああっ!」
「あっ、あっ、あっ……」
とりあえずなんか投げるもの……って何よ、テーブルの周りに花瓶とかあるのに、どれも投げられないじゃない!!
「みんなそんなに怖がらなくて、これただの人形だよ。ほらほら」
いやいや、そっちじゃないってぇ!!
あんたの後ろにもう一匹いるのよ!!
「みんなで私の事を指さしてどうしたんですか? え? 後ろになんかいる?」
こくこく、こくこく、私達3人は首が千切れるんじゃないかと思うくらい縦に振った。
それを見たえみりちゃんが後ろを向く。
「いやいや、何もいないじゃないですか。これ、人の顔に見えるけど壁のシミですよ」
あ、あれ? どっかに行った!?
それとも怖がりすぎて、本当に見間違えたのかな?
えみりちゃんは壁のシミと顔を並べる。
「ていうか、私のキャラの顔、どことなくこのシミに似てませんか?」
ぷっ! ふふっ、確かに言われてみたらそこはかとなく似てる気がする。
って、自分から顔の表情をシミに寄せに行かないでよ。もう!!
私だけじゃなくてカノンさんやアヤナちゃんも堪らずに笑ってしまう。
【一転して和やかな雰囲気に】
【えみり様、場も和ませられるなんて素敵!】
【いやいやいや、確実にさっきいたって!!】
【場が混沌としてきました】
【悲報、私達のあくあ様、カットして行くぅーと言いながらタンスをパカパカしたり壺やタルを叩き割ろうとする】
【↑それなんか違うゲームで見たぞ!!】
【やっぱりあー様だけ違うロールプレイやってるだろ!!】
【さっき誰かが言ったけど、あくあ様が1番ホラーだよ。もうそれでいいって!!】
はー、おかしい。なんかこう大丈夫な気がしてきた。
「そういえばこの隣にあるシミ、どことなくさっき見たカノンの……」
「似てないから! 全然似てないから!!」
カノンさんはジャンプして飛び出ると、えみりちゃんが操作するキャラに掴み掛かる。
えみりちゃんってさ、カノンさんとか琴乃マネを怒らせる天才だよねって思う。
【そこもっとkwskお願いできますか?】
【カノン様の!?】
【ソムリエール:それはちょっと検証班として検証する必要がありますね。ぐへへ!】
【これからこのゲームを配信するやつはみんなあのシミをネタにするんだろうなあ】
【えみり様ってカノン様の近くに住んでるんだ】
【↑それな! 誰も指摘しないから私がおかしいのかと思った】
【↑ポンコツ掲示板民に期待するな!!】
トントン、トントン……。
ん? 誰よ? 私は叩かれた肩の方へと視線を向ける。
するとアヤナちゃんのキャラが顔を青ざめさせて指を指す。
何? どうしたの? えみりちゃんとカノンさんが戯れあってるだけじゃない。えっ? もっと上? 天井?
私はゆっくりと天井の方へと視線を向ける。
するとそこにはさっき見た髪の長い女が四つん這いで天井にへばりついて、下で押し合っているカノンさんとえみりちゃんの事をジッと見つめていた。
「うぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああ!」
私とアヤナちゃんはジャンプボタンを連打して、スタックした場所から何とか抜け出ようと試みる。
ちょっと! こんなところでスタックするようなゲーム作った開発者、後で覚えておきなさいよ!!
あんたの自宅を特定して、深夜2時だろうが3時だろうが絶対に乗り込んでピンポン連打してやるんだから!!
「小雛先輩……また、ですか?」
またもクソも、あんたの頭上で涎垂らしてるってぇ!!
上見て上と私はジャンプしてアピールする。
「いいですか? 幽霊と言っても彼女達も同じ人間、私達と同じ女性なんです」
は? えみりちゃん? 急に真面目なトーンになってどうしたの?
「もし幽霊がいたとしてもそれはこの世に未練を残した悲しい女性達なんです。男性と触れ合いたい。でも、普通はそんな機会なんて限られていますよね。今でこそ私達はあくあ様のおかげで充実した日々を送れていますが、彼女達はあくあ様と出会う前の苦しい時代に命を落としてしまったんです。同じ女性である私達が、彼女の苦しみを理解してあげなくてどうするんですか!!」
いやいやいや! そんな事を言ってるけど、あんたの頭上にいるそいつは今にでもあんたを襲いそうだけど!?
【こーれ、聖女です!!】
【聖女えみり様ばんざーい!】
【はー、やっぱりえみり様なんだわ】
【おい、隣にいるカノン様も聞いてるか?】
【ワーカー・ホリック:胃、胃が……イタタ! イタタタタタ!】
【↑ワーホリさん大丈夫?】
【ワーホリさんは病院行った方がいいよ。胃カメラと大腸両方やっといた方がいい】
【えみり様の言葉に感動した!!】
【聖女えみり様ばんざーい!!】
えみりちゃんはカッと目を見開くと、祈りを込めるように両手を握りしめた。
「迷える子羊、ミニメリーさんよ。今こそ私が裏庭で野草摘みをしていた時に拾ったこの聖典を……あっ」
「あ」
「あ?」
「あ!」
天井にへばりついていた女性がだらりと落ちてきた瞬間に画面が真っ暗になる。
えっ? えっ? どうなってるの? 私達は恐怖のあまり叫び声も出なかった。
画面に明かりが戻ると、私達の目の前からえみりちゃんが消えていた。
「うぎゃああああああああああああああ!」
「「きゃああああああああああああああ!」」
私とアヤナちゃんはジャンプボタンを連打してスタックした場所から抜け出すと、その場所から逃げるように全力で走り出した。
はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……た、助かった。
「アヤナちゃん、カノンさん、無事?」
私は額の汗を拭うと、後ろを振り返る。
「えっ?」
あ、あれ? ミンナ ドコ?
【はい、死亡フラグ】
【ホラーもので1人逸れたやつ絶対に死ぬやつ】
【ラーメン捗る:小雛ゆかりなもなも】
【こーれ、死にました】
【グッバイ小雛ゆかり!!】
ねぇ、みんなどこー?
暗いよー。怖いよー。寒いよー。
あっ、寒いと思ったら普通にエアコン切れてた……。
私は再びエアコンのスイッチを入れる。
「ゆかり先輩どこー!?」
アヤナちゃんの声だ!
私は大きな声をあげて反応する。
「アヤナちゃん、ここよー!」
私はアヤナちゃんの呼びかけに応じながら声のする方向へと向かう。
「ゆかり先輩!」
「アヤナちゃん!」
感動の再会をした私達は抱き合って喜ぼうとかけ寄る。
するとアヤナちゃんの後ろでうっすらと何かがゆらめいた。
「ヒィッ!」
私がびっくりした声を上げると、驚いたアヤナちゃんが操作していたキャラの動きが止まる。
「ゆかり先輩、どうかしましたか?」
「あ、あ、あ、アヤナちゃん、うしうし後ろ!」
アヤナちゃんはキャラを操作して、ゆっくりと後ろに振り返る。
しかし、その時にはもう後ろに見えた何かが姿を消していた。
「もー、誰もいないじゃないですか。ゆかり先輩、私の事をびっくりさせようとしてるでしょ?」
アヤナちゃんが笑顔でこっちに振り返った瞬間、画面が再びブラックアウトする。
「「えっ?」」
私とアヤナちゃんの声が重なる。
これが私の聞いたアヤナちゃんの最後の言葉だった。
「アヤナ……ちゃん?」
次に電気がついた時、私の目の前からアヤナちゃんが忽然と姿を消していた。
いる。
私は直感で自分の背後に幽霊らしきものの気配を感じた。
振り返ったら殺される。
私は両手で口を押さえて、何かがその場から消えるのを待つ。
天井の軋む音と共にポロポロと砂埃が落ちてくる。
【あああああアヤナちゃんがあああああああ!】
【こーれ、確実にいます】
【アヤナちゃんなむ】
【死んだからVCが消えるっぽいな】
【↑死んだ同士でVCになる】
【ちなみに天井の軋む音と砂埃は上であくあ君がドタバタしてるせいです】
【↑あくたんが楽しそうにゲームしててお姉さんもにっこりです】
【あー様なら女の子の部屋で何度もタンスを開け閉めしてたぞ】
【ホラーゲームで人を笑顔にさせるあくあ様は最強だよ。誰も勝てないよこんなの】
さっきまで背中に感じていた気配が消えた。
これ以上ここにいたら殺られる。
そう思った私は、目の前に見えた階段を一目散に駆け上がって地下から1階に移動した。
「カノンさんどこー? あくあー、あくぽんたーん!」
ぐるりと周りを見渡したけど、誰も居ない。
再び1人になった事でまた寂しい気持ちになる。
「もー、なんであいつはこんな時に限っていないのよ! 他の女の子が泣いてたらすぐにくるくせに!! 私の時もすぐにきなさいよ!! ぐすん」
ほんと肝心な時にいないんだから!! この私をこんなところで1人にするんじゃないわよ!!
【あれあれぇ?】
【小雛ゆかりさんー?】
【あの小雛ゆかりさんが女の子みたいだ!!】
【睦夜星珠:あの小雛ゆかりさんがデレたと聞いて】
【越プロ社長:ついにうちのゆかりたんがメス堕ちしちゃいましたか!】
【やたらと嬉しそうな顔をした同業者と社長が来てて笑ったw】
【幽霊さんも流石に小雛ゆかりは襲えなかったか……】
【↑その説あるな】
【幽霊さん「え? 小雛ゆかり? それはちょっと……私達にも選ぶ権利はありますから」】
【↑草w】
なんかあいつのアホ面思い出したらイライラしてきた!
そもそもあいつが上で暴れてて幽霊がびっくりしたからこっちにきたんでしょ!! 絶対にそうよ!
「おーい!」
呑気な顔をしたあくあが上の部屋からドタドタと大きな足音を立てながら降りてきた。
ねぇ、ちょっと一発だけあんたのキャラをどついてもいいかしら?
「あれ? カノンとか、アヤナとか、えみりさんは?」
「カノンさんは行方不明、2人は死んだわ」
「えっ!?」
私はあくあにこれまでの経緯を説明する。
もう、あんたがいない間、こっちは大変だったんだからね!!
「で、そっちは?」
「えっと、とりあえずわかったのは幽霊のおっ……いえ、収穫なしです!」
あんたってやつはーーーーーーーーーーーーーーーー!
私はあくあが操作するキャラに掴み掛かると上下に身体を振った。
「ほら、あんたってばヒーローなんでしょ! ぱぱっとドライバーキックでこの屋敷ごと破壊しなさいよ!! そうすれば幽霊だって住むところなくなっていなくなるじゃない!! ついでに未練の原因となっているであろう何かも物理的に消滅させられて成仏でハッピーエンドでしょ!!」
「そんな無茶苦茶な」
何? あんた私の意見になんか文句あるわけ!?
文句を言うなら対案を出しなさいよ。対案を!!
そもそもさっきまで探索してて、幽霊のが大きいしかわからないって何やってんのよ、あんた!! これだからもうこのあくぽんたんは! どうせ女の子の胸に気を取られてて肝心な事とか見忘れちゃったんでしょ!!
【こわ】
【小雛ゆかりこっわ】
【あー様の配信行きます】
【幽霊屋敷ごと破壊しようとするなwww】
【ゲーム開発者、裏で震えてたぞ】
【ハッピーエンドとは?】
【幽霊さん全力で逃げてー!】
【幽霊より小雛ゆかり怖い説出てる】
【VC聞こえないのをいい事に、小雛ゆかりの後ろでえみり様が悪霊退散ってやってて笑ったw】
【↑流石はえみり様、どっちが悪いやつかよくわかってらっしゃるw】
【えみり様、ギャグセンスもおありだなんて、なんて素晴らしいの!】
【実はこのゲームのラスボス、小雛ゆかりじゃね?】
【↑ホラーゲームにラスボスいるのかよwww】
私はあくあを解放する。
はあ……このおバカに任せてても永久にクリアできそうにないし、私が手伝うしかないのか。
「ほら、ぼーっとしてないで、カノンさんを探しつつさっさとお宝ゲットして帰るわよ」
「はーい」
私が一歩前に踏み出した瞬間、どこかで何か物が落下した音が聞こえてきた。
「小雛先輩?」
ふぅ、危なかったわね。私は一瞬であくあの後ろに隠れた。
「ほら、さっさと前に進みなさいよ。あんたの背中は私が守ってあげるから、あんたが私より先に行くのよ」
「わかりました」
こいつ……呑気な顔をしてるけど、さっきの音に気が付かなかったのかしら?
はぁ、阿古っちや琴乃マネ、カノンさんや結さんが大変な理由がよくわかるわ。こいつ、世界で1番危険なくせに、その対価として危機察知能力っていう存在自体をどっかに取られちゃったんじゃないの?
ほら、今だって周囲の警戒をしなきゃいけないのに、背中に当たってる私のおっぱいの事ばっかり考えてるんでしょ! ゲームの中なのに感触なんてわかるわけないじゃない。このおバカ!!
【えみり様www】
【私達のえみり様、物を落として小雛ゆかりを弄ぶw】
【ソムリエール:こーれ後でバレたら殺されます】
【えみり様が物をカタカタさせる度に、小雛ゆかりがビクビクして笑ったw】
【アヤナちゃん止めてあげてw】
ひぃっ! なんでさっきから私の周りでやたらと物が落ちるのよ!!
あからさますぎるし、これ、絶対に幽霊の仕業じゃないわね。
「ちょっと、誰かいるんでしょ! ほら、出てきなさいよ!!」
相手が幽霊じゃないのなら怖くない。私は周囲を威嚇する。
するとあくあがいつにも増してキリッとした顔で、私の前に腕を伸ばして待ったをかけた。
「感じる……」
あくあ? どうしたの?
危機察知能力のないあなたが何を感じたっていうのよ!
「この空気の流れ、圧、揺らぎ……間違いない! ここだぁっ!!」
あくあは自分の操作するキャラの両手を伸ばすと、何かをにぎにぎする仕草を見せた。
【こwれwはwww】
【流石は私たちのあくたんだ!】
【ピンポイントでえみり様のに行ったぁ!!】
【さりげなく左手でアヤナちゃんにもいっているのがポイント高い】
【さすがはあくあ様、次元がちげーわ!】
【幽霊の存在は感じ取れないのに、女子の波動は感じてて草wwwww】
【あくあ最強! あくあ最強! あくあ最強!!】
【悲報、もうホラーゲームやってない】
【↑何言ってんだ? あくたんの存在自体がホラーだぞ?】
【これ、本当にクリアできるのかwww?】
【もうお宝は諦めて帰ろうwwwww!】
私は真顔であくあのキャラの頭を後ろからしばいた。
何やってるのよ! ほんっっっっっと! バカなんだから!!
「ん?」
「今度は何?」
私はあくあの事をジトーっとした目で見る。
次もしょうもない事だったら、コンセント抜いてふて寝するわよ?
「カノンの……カノンが俺を呼ぶ声が聞こえる!」
「はぁ!? って、ちょっと! 私を置いてくなぁ!!」
私は走り出したあくあのキャラを急いで追いかける。
何が聞こえたっていうのよ。それ空耳とかじゃないの?
「カノーン!」
「あ、あくあ……それに小雛先輩も」
あくあが駆けつけた先に遅れて到着すると、本当にカノンさんが居た。
私は抱きつこうとしたあくあを横に退けると、カノンさんの操作するキャラをギュッと抱きしめる。
合流できてよかったね。もう怖くないわよ。
【あくあ様www】
【行き場をなくしたあくあ様の両腕】
【ここ空いてまぁす!】
【あくあ君、代わりにお姉さんの事を抱きしめて!】
【↑巣に帰れ!】
【これ夏に小雛ゆかりXカノン様本が出ますか?】
【↑百合四天王に食い込めるかな?】
【↑四天王って何?】
【↑小雛ゆかりX天鳥社長、小雛ゆかりX月街アヤナ、雪白えみりX白銀カノン、あくあお姉様X妹カノン】
【↑おいwww】
【最後のはダメだろw】
【最後のはあくあ様についてるのかついてないのかが気になるw】
ん? あんたは、そんなところで両手を広げて何してんのよ?
悲しげな顔なんてしてないで、私がカノンさんを慰めてる間に、あんたは他に違和感がないか調べておきなさい。ほら、さっさと行った行った。
「ところで私、逃げてる時にこれを拾ったんだけど……」
げっ、前の時に見つけた人形じゃん!!
ん? これ、中に何か入ってるわね。
私は人形の中に手を突っ込む。すると中から鍵が出てきた。
「玄関の鍵?」
「そうみたいですね」
じゃあ、これでこの家からおさらばできるじゃん!
さっさと帰ろう。え? あくあ? あいつはもう見捨てて大丈夫でしょ。
楽しんでるみたいだし、この家で暮らせばいいのよ。あっ、お宝が見つかった時だけは後で連絡してね。
「ま、待って。せめて、あくあが戻ってくるまで待ちましょう」
「もー、仕方ないわね。あと10分だけよ」
画面を見てても怖いだけだから私はサブモニターのコメント欄へと視線を向ける。
そういえば配信してたのを忘れてたわ。
【あっ】
【あ】
【あ!】
【あくたん死んだ……】
【えっ? あくあ様って死んだの?】
【↑幽霊さんの大きなのをガン見してたら死んだ】
【↑くっそー! あくあ君の弱点を的確についてくるとか卑怯だぞ!!】
【まさかのあくたん死亡】
【こーれ、もうクリア不可能です】
はあ!? 幽霊の女の子を見てて死んだ!?
あのバカ! 何やってんのよ!! 本当にバカなんじゃない!?
「帰るわよ!」
もうお宝なんてどうでもいい。私は鍵を持ってスタコラサッサと入り口に向かう。
「ちょ、小雛先輩、待ってくださいよ!」
ガチャガチャ、ガチャガチャ。ちょっとぉ! なんで開かないのよ!!
この扉、古いから壊れてるんじゃないの!?
『う〜ら〜め〜し〜』
「いやあああああああああああ!」
な、なんか声が聞こえてきたんですけど!?
『いつも脱いだ服は脱ぎ散らかしてばっかり』
『か〜た〜づ〜け〜ろ〜!』
「ぎゃああああああああああ!」
ちょ、ちょ、女だけじゃなくて男の幽霊もいるじゃない!!
どうなってるのよコレェ!?
『物は出したら出しっぱなし』
『そ〜う〜じ〜し〜ろ〜!』
「ひぃいいいいいいいいい!」
待って待って、これ近いって!
私の操作するキャラは尻餅をついてゆっくりと後退りする。
『ゴミは出さずに溜める』
『ゴ〜ミ〜す〜て〜ろ〜!』
「うわぁああああああああ!」
わ、わ、わ、わかったから!
ちょっと待って、ストップ! ステイ!!
【あくあ様www】
【アヤナちゃんノリノリじゃんw】
【こーれ、日頃の仕返しです】
【小雛ゆかりざまぁ!!】
【いいぞー。もっといえー!】
【あれ? 幽霊って声聞こえないんじゃないの?】
【↑VCが垂れ流しじゃなくなるだけで、ボタン押してしゃべれば幽霊ボイスになって再生されるよ!】
【2人が楽しそうで何よりです!】
【いやぁ、まさかホラーゲームで笑顔になれるなんて思ってもいませんでした!】
【これは神ゲー】
【このゲーム、わざと死んで幽霊になってから、日頃言えない事を言うのとかありだなw】
ちょ、もうここ壁だから!!
それ以上近づいてこないでよ!!
『少しは改善しろ〜』
『そうだ、そうだ〜』
「す、するから、待って!!」
私は交差させた腕の隙間からチラリと気配のする方を見る。
するとそこにうっすらとムカつく顔が浮かんできた。
へぇ……なるほど、そういう事ね。
私はスッと立ち上がる。
『ついでにもませろ〜』
『も〜ま〜せ〜ろ〜』
『ちょ、私は何も言ってませんからね!』
私は目の前に見えた2人の幽霊もどきの顔面を掴む。
あらぁ、死んだはずのあんた達がここで何をしているのかなー?
【バwレwたwww】
【えみり様wwww】
【えみり様、アヤナちゃんの声真似うまwwwww】
【えみり様、ほんと器用すぎるw】
【一瞬、アヤナちゃんが、も〜ま〜せ〜ろ〜って言ってるのかと思ったw】
【えみり様がおもしろキャラだなんて、誰が想像しただろうかw】
【あくたんなも、えみたんなも】
ふーーーーーーーーーーーーーーーーん?
2人とも、この私を怖がらせた事、覚悟できてるわよね?
アヤナちゃんは許すけど、最後調子に乗ったあんた達は覚悟しておきなさいよ!!
絶対にゲームが終わった後……って、ん? カノンさんどうしたの?
私は肩をトントンされたので後ろに振り向く。
「あ」
『『あ』』
ぎゃあああああああああああああああああああ!
画面上にドアップになった幽霊を見た私が大きな悲鳴をあげる。
マイクのノイズキャンセラーが反応したのか、配信から私の悲鳴をもかき消してしまった。
『ようこそ、こちら側の世界へ』
『おめでとうございます』
とりあえず笑顔でぱちぱちと手を叩いたあくあとえみりちゃんのキャラに殴りかかる。
へぇ、幽霊になったらちゃんと攻撃できるんじゃない。
『あんた達のせいで死んじゃったじゃない!!』
このゲームどうするのよ!!
もうクリアできないじゃない!!
「小雛先輩ー、どこー?」
あ、カノンさんが居た。
カノンさんは手に人形を持ったまま私がさっきまでいた所に出てくる。
こうなったらカノンさんをクリアに導いて行くしかないわね。
ほら、あんたたちもふざけてないで頑張るわよ!
『あくあ様あくあ様』
『えみりさん、どうかしましたか?』
『これ見てくださいよ』
『おぉっ!!』
ん? 何やってるのよ?
またしょーもない事をやってるんじゃないでしょうね?
私はアヤナちゃんと顔を見合わせると、カノンさんの背後に居たあくあとえみりちゃんの後ろに回る。
【白、ですか……】
【ちゃんとゲームの中でまで清純派なカノン様えらい!】
【2人とも何やってるんだw】
【きっとお優しいえみり様の事だから、場を和まそうとされているんでしょう】
【えみり様って結構イタズラ好きなんだな。ふーん、可愛いじゃん!】
【あくあ様とえみり様のコンビ、ちょっと悪ガキコンビっぽいのが新鮮w】
【くっそー、えみり様を見てると誰かを思い出しそうになるけど思い出せねぇ!】
【↑わかるわ。なんかこう頭の中にモヤがかかったみたいだぜ】
【↑それ以上考えない方がいいぞ。脳みそが筋肉痛になる】
【↑脳みそが筋肉痛www】
【↑普段使ってない脳みそを使うと脳神経が筋肉痛を引き起こすって、森川楓のパワーニュースで言ってたよ!!】
【国営放送がいつの間に帝スポレベルになってるのウケるw】
私はカノンさんの代わりに2人の操作するキャラの頭をポカポカと叩いて止めさせる。
ほんと、あんた達ってバカよね。
カノンさんはバカ2人の存在に気が付かないまま、玄関の扉を開ける。
「あっ、開いた」
ちょ、なんで開くのよ!!
私が開けようとした時は開かなかったのに。
『カノンさん』
「ひっ!」
おっと、そういえばこれ幽霊ボイスになるんだった。
私はカノンさんに自分の名前を名乗る。
『私よ私、小雛ゆかりよ』
「小雛先輩?」
『うん、私も死んじゃったしさ。もうお宝は諦めて帰った方がいいわよ』
ここでゲームオーバーになってやり直すのは誰しもが避けたいところだと思う。
それならもうここで大人しく帰ってゲームクリアでいいでしょ。
お宝は見つからなかったけど、生きて帰る事のできる命こそが本当の宝よ。うん、そういう事にしておきましょう!!
「わ、わかりました」
カノンさんは幽霊屋敷の外に出ると、車に乗ってその場から離れる。
は〜〜〜疲れた。これで一応ゲームクリアね。
【終わったー!】
【88888888888】
【ゲームクリアおめ!】
【結局、生き残ったのはカノン様だけか】
【あの人形、一応お宝だったんだw】
【↑実はお宝はたくさんある。例えばあくあ様が割った壺もお宝だよ】
【最後なんで扉開いたの?】
【↑真の鍵を見つけるか残り1人になったら自動で開く。今回は後者だった】
【5人いるしVARIANTやろ、VARIANT!】
さてと、もう疲れたし配信終わろ。
はあ? この後にヴァリアント? 頭おかしいんじゃないの?
言っておくけどエペもスイカップもラスサバもやんないわよ!
「そういうわけで、みんなもこのゲームやってみてねー!」
最後はあくあに締めてもらって私は配信を閉じた。
「さてと、今からあいつの家に行って……ん?」
椅子から立ち上がった瞬間、窓の奥に何かが見えた気がした。
き……きっと、気のせいよね!
私は慌てて家を出ると、あくあの家に無理やり押しかけた。
今日くらいは責任を取って泊めなさいよね!!
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