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白銀結、謎のハチミツ。

「ほら、結さんも触ってみて」

「は、はい」


 私は恐る恐る手を伸ばすと、あのんさんとかのあさんの小さな手に触れる。

 すごい……。こんなに小さいのに、生きてるんだ。それに、子供ってすごく可愛い……。


「ふふっ、結さんも子供欲しくなってきたでしょ」

「はい」


 カノンさんは私が妊娠に対して揺れ動いている事に気がついていたんですね……。

 あー様とも話し合ったけど、私は自分が母親になる事に対してすごく不安がありました。

 私が少し俯き気味なると、カノンさんは私の手の上にそっと自らの掌を重ねる。


「私も結さんと一緒だよ」

「えっ?」


 私が顔を上げると、カノンさんは優しげな表情で微笑む。


「私も子供の時から親には甘えられなかったから。結さんの状況と比べると私の親子関係はどちらかというとドライ過ぎて違うかもしれないけど、そんなに母様との関係が良かったとは言えないってところでは私達はすごく似てると思うわ。それでも私は子供を産んですごく幸せよ。それに自分がそうだった分、子供にはうざいって思われるくらい絡みまくってやろうと思ってるもん!」

「カノンさん……」


 こんな私でも本当に母親になっていいのでしょうか?

 あー様も、カノンさんも、白龍先生も、琴乃さんも、楓さんも、えみりさんも、みんな良いって言ってくれるけど、まだ少しだけ本当に妊娠しちゃったらどうしようって躊躇している自分が居ます。


「結さん。大丈夫だよ。安心して。ここにいるのは1人じゃないから。ね? 悩んだり、困ったり、わからなかったりする事があったら、みんなに相談してみんなと一緒に考えよ。結さんの行きたい場所を選ぶのは結さん自身だけど、目的地に向かうまでの道を1人で歩かなきゃいけない決まりなんてないんだから。みんなで楽しくおしゃべりしたり、一緒に苦労して歩んでいこう」

「はい……!」


 やはり、カノンさんこそあー様の正妻に相応しい人だと思いました。

 みんなに弄られたりしているのを良く見るけど、こういう面を見ると私よりもよっぽど1人の人間として成熟している考えを持っていると思います。

 何よりもこの全てを包み込むような母性は、元女王陛下で国民の母と呼ばれたメアリー様と同様の包容力を感じました。

 私はカノンさんにお礼を言うと、お部屋を出て白銀キングダム内にある私の仕事部屋へと向かいます。


「え〜、美味しいハチミツ。特別なハチミツはいらんかね〜」


 特別なハチミツってなんでしょう……。

 えみりさんが駅で駅弁を売るような格好をして、ハチミツが入った瓶を売っていました。


「あ、結さん。良かったら新製品のロイヤルエミリハニーをおひとつどうですか?」

「はぁ……」


 気分が良くなるハチミツ?

 また、胡散臭そうな商品ですね……。

 えみりさんは毎回毎回、どこからこんなものを持ってくるんでしょう。


「これをスプーンに一杯、ひと舐めするだけで24時間テンションがマックスになります。当社のスタッフであるクレ……んんっ! Cさんで試しに実験……使用したところ、夜から朝にかけてベッドで踏み台昇降したりして大変だったと怒られじゃなくって、聞きました。また、調子に乗ってビスケットに塗りたくって食べた粉狂……Bさんは3日3晩寝ずに走り回ったそうです」

「えぇっ!?」


 こ……これって何かのマルチビジネスとか、反社が関わってるような案件じゃないですよね!?

 私は手に取ったハチミツ入りの瓶をジッと見つめる。


「つまり、こいつには元気になれる成分が入ってるって事だ。おひとつどうです? 疲れたあくあ様にひとなめさせただけで元気はつらつ間違いなし!」


 私はえみりさんの言葉に食いつく。

 あー様の妻として、それが真実ならすごく欲しい。

 でも、本当にハチミツなんかでそんな元気になるんでしょうか。


「毎度ありぃ! ありあとございやしたぁっ!」


 はっ!?

 気がついたらいつの間にか購入していました。

 購入してしまったものは仕方ありません。

 空気を吐くようにお金が無くなるえみりさんのお小遣いの足しになったと思えば、それだけでもう満足です。

 私は自分の仕事部屋に入ると、入り口近くの棚にハチミツの瓶を置く。


「確か提出しないといけない日誌がこの辺りに……ああ、これですね」


 私は日誌をパラパラとめくっていく。



 ———7月XX日———


 あー様が小雛ゆかりさんと子供のような喧嘩をしていました。

 でも、1時間後には一緒に仲良くカレーライスを食べていました。

 意味がわかりません。この2人に何があったのでしょうか?


 ———7月XX日———


 えみりさんがカノンさんに何かして叱られていました。

 きっとえみりさんがいつものようにカノンさんに何か悪戯したんでしょう。

 その1時間後、あー様がカノン様にそっぽを向かれていました。

 きっとあー様がいつもようにカノンさんに何かをしたのでしょう。


 ———7月XX日———


 楓さんとえみりさんが琴乃さんに叱られてました。

 2人とも妊婦だって事を忘れて動き回っていたせいでしょう。

 もう数ヶ月後には2人ともママになるんですから、少しはカノンさんや琴乃さんを見習ってください。


 ———7月XX日———


 カノンさんの提案で、あー様の妻や恋人達を集めてみんなでパジャマパーティーをしました。

 みんなからあー様とのラブラブエピソードが聞けてすごく良かったです。

 それと、ぼっちの小雛ゆかりさんが指を咥えて混ざりたそうにしていたので、途中からパジャマパーティーに混ぜてあげました。


 ———7月XX日———


 琴乃さんに誘われて、白龍先生や揚羽さんと一緒に年上組で水着の試着会をしました。

 藤百貨店のお姉さんがお勧めする水着が全部際どくて少し恥ずかしかったです……。


 ———7月XX日———


 今日はあー様と一緒に長い時間を一緒に過ごしました。

 お部屋の中で一緒にゲームしたり、お話したり、映画を見たりしてすごく楽しかったです。

 あー様も同じ気持ちだったら嬉しいなと思いました。

 その後は……秘密です!


 ———8月XX日———


 目を覚ましたら隣にあー様が居ました。

 どうやらお話ししてる間に2人とも寝ちゃったみたいです。

 一緒に朝ごはんを食べた後に、あー様にいってらっしゃいの見送りをした後にすごく満たされた気持ちになりました。


 ———8月XX日———


 今日はお仕事で本局に出頭する日です。

 他の男性担当官同士や職員同士で会議がありました。

 みんな、あー様の話が聞きたかったのでしょうか。

 休日の職員まで全員参加していました……。


 ———8月XX日———


 楓さんが今度は鬼塚アナに叱られていました。

 妊婦なんだから楓さんは、慌てて廊下を走るのはやめましょう……。


 ———8月XX日———


 えみりさんがヴィクトリア様に叱られていました。

 楓さんといい、この2人はわざと怒られるためにやっているのでしょうか?


 ———8月XX日———


 小雛ゆかりさんが猫のシロと喧嘩していました。

 あー様曰く、猫と互角の喧嘩ができるのは小雛ゆかりさんだけだそうです。

 その後、様子を見に行ったら、小雛ゆかりさんがシロを抱いて一緒に寝ていました。

 本当は仲がいいのでしょうか?

 私の隣でそれを見ていたえみりさんが「喧嘩は同じレート帯の中でしか発生しない」という謎の言葉を残して去っていきました。


 ———8月XX日———


 今日は月街アヤナさんとお話をしました。

 彼女のためにも、何を話したかは書いておかない事にしましょう。

 ふふっ、女の子同士のナイショの会話ってやつです。


 ———8月XX日———


 あー様が小雛ゆかりさんと一緒に外で遊んでいました。

 そういえば、あー様は小雛ゆかりさんとはおつきあいしていないのでしょうか?

 カノンさんからはそっと見守っておいてあげてと言われましたが、あー様の担当官として気になります。


 ———8月XX日———


 あー様とえみりさんと楓さんと小雛ゆかりさんと羽生総理が横並びで正座させられていました。

 総理、なんであなたまでいるんですか……。

 揚羽さんが頭を抱えていました。


 ———8月XX日———


 今日は淡島さんや春香さんが遊びに来ました。

 2人から先輩である私たちにアドバイスして欲しいと言われたけど、カノンさん達ならともかく、私のアドバイスなんかが役に立ったのでしょうか……。

 淡島さんと春香さんが黛さんや天我さんとうまくいくといいなと思いました。


 ———8月XX日———


 今日はみんなで友人やスタッフ達と一緒にホームパーティーをしました。

 あー様の周りにいると、人がたくさんいてすごく楽しい気持ちになります。

 明日は何があるんでしょう?

 私はワクワクした気持ちで眠りにつきました。



 私は自分の書いた日誌を閉じる。

 すると部屋の扉が開いて誰かが入ってきました。


「結。ここにいたのか」

「あ、あー様、どうしてここに?」

「いや、普通に結と話したいなと思って……ダメか?」


 私はすごい勢いで首を左右にブンブンと振る。

 あー様とお話ししたくないなんてわけがありません。


「って、なんだこの瓶。ハチミツ?」

「あ、それ、さっきえみりさんから買ったんですよ」

「ふ〜ん、味見していい?」

「あっ、はい。でも、それ……」


 料理が得意なあー様は調味料マニアです。

 私が制止するよりも先に瓶の蓋を開けたあー様は、手のひらに少しだけハチミツを落として舌でべろりと舐める。

 あぁっ! そんなに舐めたら大変な事に!!


「ん。普通に美味しいな」


 あ、あれ? 確かすごく元気になるオーガニックな成分が入っているとえみりさんから聞きましたが、あー様の様子を見る限りなんともないように見えました。

 やっぱり、ただの胡散臭い怪しげな商品だったのでしょうか。


「ほら、結も舐めてみ」


 あー様は人差し指にハチミツをつけると、私の口元へと持っていく。

 これを舐めろって事でしょうか?

 私はゆっくりとハチミツへと顔を近づけていく。

 すごく、すごく甘い香りがします。

 あぁ、なんだろう。頭がすごくクラクラしてきました。


「ゆ、結!?」


 そこから先に記憶がありません。

 朝起きたら、あー様が倒れていました。

 一体何があったのでしょうか……。

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日報がフルスロットル別物になってる! 先生お疲れ様です(礼)
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