皇くくり、眠れないチジョー達に贈る宵越しの猥談。
いつもは騒がしい白銀キングダムですが、白銀キングダム内で放送しているラジオ番組の放送日だけは少し様子が違います。
「それじゃあ、みんなおやすみ。ほら、ふらんも。小学生はもう寝る時間だよ」
「ふぁい。みなさん、おやすみなさい。むにゃむにゃ」
お風呂上がりの城まろんさんが、目を擦って眠そうにするふらんちゃんの手を引いて自分の部屋へと帰っていく。
私やらぴすちゃんがお風呂に入ってもああはならないのに、なんでまろんさんとか揚羽お姉ちゃんとかは、お風呂から出ただけであんなにも大人な雰囲気になるんだろう。
私も大人になったら、ああいう色気みたいなものが出てくるのでしょうか。
「私もそろそろ自分の部屋に帰るわ」
「みなさんおやすみなさい」
楓さんが一足先に大部屋から出ると、その楓さんが散らかした後をテキパキと片付けた琴乃さんがそれに続く。
確か、楓さんが自分で掃除すると余計にぐちゃぐちゃになるから、もう何もしないでってみんなに言われているんだっけ……。悪夢の世代の5人中4人が片付けできないって事を考えると、まろんさんの苦労が透けて見えるようです。
「じゃ、じゃあ、私も……」
みんなに紛れるようにして、月街アヤナさんがコソコソと自分の部屋に帰る。
月街アヤナさんって、嘘つけなさそう……。ちょっとアレな本を隠してても、ベッドの下とか物凄くわかりやすいところに置いてありそうだよね。しかも、そのアレな本もあくあ様の水着姿でもなく、体操服でヘソチラか腋チラしてるくらいなんだろうなあと思いました。
「んんっ……私もそろそろ自分の部屋に行こうかな。ゆかり、あくあ君。あんまり夜更かししちゃダメよ」
「はーい」
「はい!」
天鳥社長は作業していたノートパソコンを折りたたむと、コーヒーカップを手に自分の部屋に戻る。
小雛ゆかりさんとあくあさんに注意してたけど、夜更かししちゃダメなのは天鳥社長も一緒ですよ。
部屋に行くと言ってるだけで眠るとは言ってないし、コーヒーを持って行ったから、絶対に自分の部屋で作業をするつもりだ。ちゃんと私みたいに気が付いてる人は気がついてますよ。
私はリビングの大型テレビがある方に視線を向ける。
するとそこにはレースゲームに熱中する4人の姿があった。
「ちょっとぉ! 誰よここに楓のバナナ置いたの!!」
「ふふふっ……計画通り」
加藤イリアさんが操作するゴリ川さんが設置した楓さんのバナナを踏んだせいで、小雛ゆかりさんが操作するカートに乗った緑の大怪獣ゆかりゴンが舌を出してクルクルと回る。
確か頭を使うパワー系の加藤イリアさんが中卒の高校ロンダリングしてて、頭を使わないパワー系の森川楓さんが国内最難関大学で特待生だったんだっけ? 悪夢の世代って、なんでこんなおかしい人ばっかり集まってるんだろう。
あと、隣にいるあくあ様は、加藤イリアさんが着ているパフスリーブの可愛いパジャマの谷間を覗こうとせずにゲームの画面に集中してください。
「はぁ!? なんで、後ろからぶつけられて私が弾き飛ばされるのよ!?」
「悪いなぁ、ゆかり。このゲーム、膨らみがデカいキャラの方が体当たりが強いんや!」
えみりお姉ちゃんが作ったゲームって、そういう本当の本当にどうっ……でもいい機能ばっか搭載してるよね!!
私は心の中で足をダンっと地面に叩きつける。
まぁ、別に。気にしてないけどね。
後、あくあ様は、鞘無インコさん改め樋町スミレさんのがインコさんより大きいからって、そんなに見る事ないんじゃないですか? それ、ただのお肉の塊ですよ?
「ちょっと!? 小雛先輩、逆走して邪魔しないでくださいよ!!」
「五月蝿いわね! 私じゃなくてこのコースが逆に向いてるのが悪いのよ!!」
そんな無茶苦茶な事を言うのは、きっと小雛ゆかりさんくらいですよ……。
でも、あくあ様には当然の罰とも言えるでしょう。
ほら、これに懲りたら、そういうところばっかり見てないでゲーム画面見てください!
もし、これが配信してたら、コメ欄がツッコミコメントで埋まりますよ。
ていうか、なんでこの人達は配信せずに普通にオフでゲームやってるんだろう。
これを配信するだけで、数千万の人が見ると思うのにな。
「やったー! 勝ったでー!!」
「ぐぬぬぬぬ!」
最後に勝った樋町スミレさんが両手をあげてガッツポーズを決める。
「みんなには悪いけど、これがゲームで飯食ってきた女の真の実力ってやつや!」
樋町スミレさんは調子に乗ってみんなを煽る。
いいのかなぁ。10分前まで野球ゲームをしてた時は、33−4で負けてべそをかいてたのに……。
インコさんが配信をしてる時のコメ欄で煽りコメントが多いのもそういうところだと思います。
「もう一回よ!!」
「あかんあかん。勝負は一回こっきりやから盛り上がるんやで」
33−4で負けて土下座からの泣きの一回をお願いしてたのは、何を隠そうインコさんだった気がするんだけど……。うん……。
それに対して突っ込まないあくあ様や加藤イリアさん、小雛ゆかりさんの3人が優しいんだなと思う事にしました。
「じゃあ、悪いけど勝ち逃げで寝さしてもらいますわ。ああ、今日はみんなのおかげでええ夢が見られそうやな〜。ありがとな!」
「私も明日の朝早いので、そろそろ寝ます。あくあ様もご一緒にどうですか?」
イリアさんがあくあ様にアピールする。
あくあ様、それは脂肪の塊、贅な肉です! 騙されてはいけません!!
「えっ? いいんですか!?」
「いいんですか? じゃないでしょ! あんたは私とゲームするの!! ほら、さっさとコントローラー持って!!」
小雛ゆかりさん、ナイスプレイです。
この様子だと、多分後2時間くらい付き合わされたところで、リビングにコーヒーのおかわりを取りに来た天鳥社長に怒られて寝る展開になるでしょう。ええ、私くらいになると、見てなくてもその光景が手に取るように見えてます。
まぁ、2時間後に起きてる天鳥社長も早く寝てくださいって、おトイレに起きてきた琴乃さん辺りにセットで叱られるんですけどね。そこまでが一連の流れだと思われます。
「皆さん、おやすみなさい」
私はわざとらしくあくあ様の後ろを通る。
使ってるボディーソープをカノンさんと一緒のにしたんだけど、あくあ様は気がついてくれたかな。
えみりお姉ちゃんが言ってたけど、あくあ様は女の子らしさを感じるような甘くてふわふわした優しい香りか、フローラルで柔らかい感じの温もりを感じる暖かい香りか、大人の女性がつけるような抱擁感のある甘々な香りか、王道中の王道で石けんの香りが好きなんだよね。
私も高校に入るまでは、らぴすちゃんと同じどノーマルなシャボンの香りを使ってたけど、高校生になったから少しは背伸びしたっていいはず……。
気がついてくれたらいいなあと、私は少しパジャマをパタパタさせた。
「あれ? くくりちゃん、もしかしてボディーソープ変えた?」
「は、はい。カノンさんにおすすめされて同じの使ってます」
や、やった! あくあ様が気がついてくれた。
私は後ろで組んだ手の指先をもじもじさせつつ、少しだけ胸を張って小さな膨らみをアピールする。
私はえみりお姉ちゃんや揚羽お姉ちゃんみたいに大きくないけど、それでもちゃんと女の子の体なんだよって少しでもわからせないと。
「あんた、なんで女の子が使ってるボディーソープの違いに気がつくのよ」
「小雛先輩、知らなかったんですか? ヘブンズソードはクンカ・クンカーの能力が使えるんですよ!! 俺がカノンと同じ香りを見逃すわけがないじゃないですか」
「うわっ、あんたそれ普通にキモいわよ。だから、この前だってお風呂上がりのカノンさんの匂いを全力で嗅いで距離取られたんじゃない?」
「がーん! つ、次から気をつけます……」
えぇっ!? あれって気持ち悪いのかな?
カノンさんは気持ち悪がっていると言うよりも、普通に恥ずかしくて逃げてただけのように見えたけどな。
ただ、あくあ様以外の男性から匂いを嗅がれるのは嫌かも。
私なんて、他の男性から顔を近づけられただけで嫌悪感が滲み出て自然とその男性を蔑んだ目で見る事になると思う。
「私はあくあ先輩が普通に気がついてくれて嬉しかったです。だから、私の匂いならいつでもカノンさんの代わりに嗅いでくれていいですからね」
「あ、ありがとう。くくりちゃん……」
「ほら、あんた、くくりちゃんばっか見てないでさっさと画面見なさいよ! さっきだってインコとイリアのばっか見て!! 同じのならここにもあるでしょうが!!」
「ぐっ、こっそり見てたのに何でバレたんだ!?」
あくあ様、そのコッソリはみんな気が付いてます。
小雛ゆかりさんは【働いたら負け】と書かれたブカブカのTシャツの首元を掴んでパタパタさせる。
いいなぁ。あのTシャツ、確かあくあ様のお古なんだよね。
それをパジャマに使えるなんてこの世界で小雛ゆかりさんくらいだよ。普通の女性なら完全密閉して額縁に飾ってると思う。
それにしてもあのTシャツの下はどうなってるんだろう。
あくあ様が着ていたTシャツの丈が長いってのもあるけど、小雛ゆかりさんの身長が低いから下にショートパンツとかを穿いてないように見えるんだよね。
あくあ様もそれが気になってか、ずっと小雛ゆかりさんの生足ばっか見ています。
「ムキーっ、よそ見してたあくあに負けた!」
「おっふ」
小雛ゆかりさんは、お腹に抱えていたねねちょさんデザインのあくあ様の寝そべり二頭身ぬいぐるみをぽふんとさせると、そのまま仰向けになる。
あ……後少し……。って、こんな事をしてる場合じゃない。そろそろラジオが始まるから、私も部屋に戻らなきゃ。
「そ、それじゃあ、お先に失礼します。おやすみなさい」
「おやすみ、くくりちゃん」
「おやすみ〜。ほら、あくあ、もう一戦!」
「小雛先輩、まだやるんですか!?」
「私が勝つまでやるに決まってるでしょ!!」
そう言って2人は再びゲームを始める。
私はその場を離れると、自分の部屋に戻ってすぐにラジオをつけた。
『ごきげんよう、皆さん。妄想が3度の飯よりも捗る、皆様に愛し愛された愛されキャラの捗るちゃん大勝利とは私の事です!』
『皆様、ごきげんよう。その捗るの暴走を止めるために今日も明日も未来永劫私が大勝利しちゃいます。ていうか、私のセリフをパクんないでよ! 司会の乙女の嗜みです』
相変わらずこの2人は最初から掴みがいいなって思う。
えみりお姉ちゃんと私のトークだとこうはいかないんだよね。
やっぱり私が猫かぶってトークしてるせいかな……。
むしろ相方のえみりお姉ちゃんは表のラジオ配信ではもっと猫かぶってほしい。この前なんて本当にヒヤヒヤしたもん。
とにかく、私もカノンさんのトークを聞いてもっとしっかりと司会のお勉強しよ。
『というわけで始まりました。眠れないチジョー達に贈る宵越しの猥談もまさかの2回目ですね……。どうしてこうなったんでしょう……』
『最初は眠れない淑女達に贈る夜の調べのパチモノ番組として、お昼寝しすぎて寝れなくなった嗜みに付き合って突発的に始まったけど、まさかのアンコール希望者多発で2回目があるなんてな……感動で私の股座からって、何するんだ、お前、うわー!』
『うわー! じゃないでしょ!! 捗るこそ何を言うつもりだったのよ!!』
えみりお姉ちゃん、さっきもっと自重してって言ってごめんね。
アレでもえみりお姉ちゃんはだいぶ我慢してたんだねっていうのに、番組開始数十秒でわからせられたよ。
『もう! 同じ椅子に私も座ってるんだから、少しは気を遣ってよね!』
『ぐへへ! 少しくらい良いじゃん。私達は深いところで繋がってる仲だろ?』
『変な記憶を捏造しないでよ!』
えみりお姉ちゃん、そろそろ自重しないとカノンさんから冷たい目で見られるよ。
というか、もうジト目になってると思う。
『それは横に置いといて、前回どこで終わったんだっけ? そもそも、前回は何やって終わったんだっけ?』
『前回は捗るが暴走して姐さんがクローゼットの隅っこに隠してた例のコスプレのレビューをしようとしたから、姐さん本人が突撃してきて強制終了したんだよ。もしかして、もう忘れちゃったの!?』
そうそう。まさか琴乃さんが、あんな若い子がするようなキャラのコスプレ衣装を持ってただなんて驚いたな。やっぱり、どんなに真面目そうに見える人でも、ちゃんと女の子なんだなって思っちゃったもん。
『それじゃあ、今日は嗜みの夜のコスプレレパートリーついて喋る? ソムリエの話なんて誰も興味ないだろうし』
『ちょっと! なんでそうなるのよ! もっと他にも喋る事あるでしょ!』
『例えば?』
『えっと……確かお便りがいくつかきてて、ちょっと待ってくださいね』
お便りを送ったの私だけじゃなかったんだ。
まぁ、普通に考えたらそうだよね。
アンコールの声が多かったってさっき言ってたし。
『嗜み、これなんかどうよ。デカ・オンナーさんからの質問で、ぐへへ、嗜みさんは今何色のを穿いてまつか? ってやつ行こうぜ!』
『ちょっと! それどう考えても捗るが姐さんの名前を騙ってメール送ってきてるだけじゃない!! もう! 自作自演メール送っちゃダメでしょ!!』
そういえば、この前、えみりお姉ちゃんが真剣な顔をしてパソコンで何通もメール送ってたみたいだけど……もしかして、これのためだったのかな?
カノンさん、気をつけてね。そのお便りの何通かは絶対にえみりお姉ちゃんのトラップだと思うから。
『ちぇっ! ちなみに私は今日、嗜みとお揃いの白でぇす。あと、姐さんは紫でした!!』
『なんで捗るの自爆のついでに私と姐さんまで巻き込むのよ!! また、姐さんが鬼塚アナの忘れていった釘バットを持って乗り込んできても今度は庇ってあげないんだから!!』
カノンさん、前回は一応、えみりお姉ちゃんの事を庇ってくれたんだ。ありがとね。
『それじゃあ、こっちのお便りはどう?』
『また、変なのじゃないよね? えっと……うん、これなら大丈夫そう。邪神教の敬虔なる信徒さんからのお便りで、最近ついつい夜更かしが捗って目にクマができてしまいます。どうしたら良いですか? だ、そうです』
多分その人、私とえみりお姉ちゃんがよく知ってる人だよね。
秒で顔まで浮かんできたけど、気がつかなかった事にしておきます。
『ク……邪神教の敬虔なる信徒さんは、変な事をせずにさっさと寝ましょう。どうしても寝れない夜は、森川楓アナウンサーの読経シリーズを聴きましょう。特にお勧めしたいのが般若心経で、これは秒で寝れます。私から言えるのはそれだけです!!』
えみりお姉ちゃん、漏れてる漏れてる!
ちゃんとそこは漏れないように誤魔化して!!
あと、楓さんそんなの出してるの!? 嘘でしょ……。
『ティ……んんっ、森川楓アナウンサーがそんなの出してたのは今知ったんだけど、それは一旦横に置いておいて、私からは目のクマについてアドバイスしようかなと思います。えっとですね。この前、あくあ様がコラボしたアイマスクが発売したんですよ。私が使ってるのは蒸気で温めるタイプだけど、炭酸でひんやりタイプがあるのもお好みで使ってくださいね!』
カノンさんも漏れてる漏れてる!
もうみんな面倒くさくなってきてるけど、掲示板のみんなで分かってないフリしてあげてるんだから、もうちょっと気を遣ってあげて。
それとそのアイマスクは私も使ってる。
『という訳で、この問題は解決かな?』
『ああ、この調子で次のお便りに行こうぜ! ええっと、次のお便りはダメお嬢様の専属侍女さんからで、最近、旦那様が気を遣って、こちらがあまり無理しないような距離感で接して来るようになりました。私としてはもっともっと触れ合いたい。ご奉仕したいと思っているのですが、どうしたらよろしいでしょうか? 捗るさんと、お……嗜みさんならどうするか教えてください』
うん……。なんでみんな中身が透けるようなお便りを送ってくるのかな。
多分、気が付いてないのは、こういうのに鈍感でぼーっとしてるカノンさんくらいだと思うよ。
『ちょっと、これペ……私の知り合いじゃない!! 捗るはわざとに選んだでしょ!!』
あ、流石のカノンさんもこれは分かったんだ。
いや、流石にこれがわからないなんて事はないか……。
そんなのが許されるのはあくあ様と楓さんと、永遠に捗るの正体に気が付かない掲示板民くらいです。
『嗜みさん、的確なアドバイスおなしゃす!』
『えぇ……私がペゴニアにアドバイスなんて送れるかな……』
カノンさん、そういう前振りはいいから。
このラジオを聴いてる白銀キングダム内の全女子が多分みんな真顔で聞いてるから、素直に教えてください。
『うーん、私もその方と同じ状況なんだけど、その方も気を遣ってくれてと書いているように、その男性もきっと私達の事を思って無理させない範囲で接してくれていると思うんですよ。だからですね、それを愛に変換して、ああ、私って愛されてるんだなぁって思うと、すごく満たされた気持ちになって満足感が得られると思いますよ。って、今のはなし! 自分で言ってて恥ずかしくなってきたから、みんなちゃんと忘れてね!』
私は無言で枕を強く握り締める。
わかる。そういう経験ないけど、すごくわかる!!
ああ、私もそういう承認欲求の満たされた方したいです!!
『妊婦のスケなみさん、ありがとうございました。ぐへへ!』
『妊婦のスケなみって何よ! お・と・め・の・た・し・な・み! 捗るはいつも勝手に私の名前を変なのにしないでよ。もう!』
嗜みさんはスケなみになったり、よめなみになったり、ぽんなみになったり忙しそうですね。
それだけいじりがいがあるって事なんだろうけど、私ももっとえみりお姉ちゃんにいじられにいった方がいいのかな……。
『ちなみに私からアドバイスできる事はあんまないんだけど、前に嗜みが言ってた手を握り合うとか、目で合図を交わすとか、2人だけで喋る時間を作るとかは、自分でやってみて結構よかったですね』
『でしょ!』
へぇ〜。やっぱりカノンさんってすごいんだぁ。
あのえみりお姉ちゃんがそれで満足感を得られてるって事だもんね。
『あ、これに関してお便りが2通来ました。えっと……世界一可愛いお嬢様の専属侍女さんからの返信で、とても参考になります。ありがとうございました! だ、そうです。あと、本物のデカ・オンナーさんからも、アドバイスとても助かりました。だそうですよ』
『これに関しては嗜みのアドバイスが完璧でしたね。ただ、世界一可愛いお嬢様じゃなくてダメなお嬢様な。お前、勝手に差出人の名前を捏造したらダメだろ。掲示板民の悪い癖が出てるぞ!』
琴乃さんといい、みんな少しは隠す努力してください!!
それともみんな余裕のある大人の女性だから、バレちゃってもいいのかな……?
ううん、えみりお姉ちゃんなんて何も考えてなさそうだし、絶対にそんな事ないはず。
『えっと、次のお便りは黒蝶揚羽さんで……』
『ちょっと、捗る!! 普通に名前出てるってぇ!!』
こほっ! こほっ!
飲んでたお水のせいで咽せました。
『えっ? ここもプレイの流れじゃないんですか?』
『絶対に違うって、もう!! 揚羽さんが絶対に怒らない人だって分かってて言ってるでしょ!』
違うよ、カノンさん。
だって、えみりお姉ちゃんは絶対に怒る琴乃さんにも言ってるもん。
えみりお姉ちゃんは怒るから言わない。怒られないから言っちゃおうとか、そういう次元で生きてないんだよね。自分が言いたい事を何も考えずに外に出してるだけなんだよ。
『で、その……揚、Aさんからは、どういう相談の内容だったんですか?』
『えーっと、若い男の子の体力がすごすぎてついていけません。男の子って、みんなそうなんでしょうか? それと、政……お仕事がないお休みの前日は特にすごいのですが、何か対策があったら教えてください。だそうです』
一体、何がすごいんだろう。全然想像が付きません……。
あ、体力がすごすぎてついていけませんって事は、デートの話かな?
『いや、これはあくあだからじゃない? 他の男の子の事なんてミリ知らだけど、そもそもみんながあくあばっかりだったら、こんな世の中になってないと思う』
『おー、確かに。でも、あくあ様の体力ってあの1人マラソンでも明らかになったけど尋常じゃないよね』
2人とも名前名前! 普通にあくあ様のお名前が出てますから少しは隠してください!
『えっと……それなら、あく……お相手の方に疲れた分マッサージをお願いしてみるとか、どうでしょう?』
『はぁ……これだから嗜みさんは分かってないですね」
『はあ!? なんで私が分かってないのよ!?』
えみりお姉ちゃんは、どういう意味でわかってないって言ったんだろう。
私は一旦深呼吸して心を落ち着けてからラジオに耳を傾ける。
『いいですか? あのあくあ様にマッサージされるんですよ。何も起こらないわけないじゃないですか』
『あ……』
『ね。これだから嗜みさんは無自覚ド天然に自分から誘い受けするのが上手なんですよ。皆さんわかりましたか!?』
ふーん、なるほどね。それがカノンさんの手なんだ。
すごく勉強になるなぁ。私にもできるかな? うーん……無理そう。
『そういう時はですね。恥ずかしがらずに周囲の女性を巻き込みましょう。そうする事で自分への負担が減りますよ』
それなら私にもチャンスがあるかも……。
1対1のデートじゃなくて、1対10の1人でいいから集団デートの中に私もこっそり混ぜてくれないかな。
『もういっそ、自分から計画的にそういう日を作るのもアリなのかもね』
『いいですね。いっそ、リスナーに募集かけてみますか? 後でみことと一緒に専用フォーム作っておきます』
一瞬だけ、白銀キングダムが揺れた気がした。
ぜ、絶対に応募しなきゃ!!
『それじゃあ、この問題も一旦は解決、いや、保留という事で。黒蝶揚羽さんは後でまた番組宛にメールを送っておいてください。それと先ほど白龍先生から匿名で、私もお願いしますと参戦メールがありました。こちらからは以上です!』
『だから、捗るはせめて名前を隠してあげようよ! 揚……Aさんも先生も、きっと今頃、ベッドの中で顔を真っ赤にして悶絶してるよ!!』
完全な巻き込み事故じゃないですか……。
私は心の中で白龍先生に同情する。
『ふぁ……なんかもう捗ると話してたら、疲れて眠たくなってきちゃったよ』
カノンさんは小さく欠伸をすると、体を伸ばすような声を出す。
ふふっ、聴いてる私も疲れてくらいだから、隣にいるカノンさんは余計にだよね。
『それじゃあ、嗜み。次でラストにしよっか』
『うん!』
次でラストか。私の書いたお便りが読まれるといいな。
ドキドキ……ドキドキ……。
『最後のお便りは……うぉっ!?』
『びっくりしたぁ! 捗るってば、大きな声を出してどうしたの?』
『ほら、嗜み、ここに書いてある差出人の名前見てみろよ』
『なになに? 始まりの616さんんんんんっ!?』
あっ、私が書いたお便りだ!
やったー!!
『ちょっと待って、616さんってここに住んでるの!? 確かこのラジオって白銀キングダムの中に住んでるか働いている人限定だよね!?』
『そうだよ。つまりもう既にもう白銀キングダムの中に潜り込んでるって事。さすがは616さん。あくあ様を見つけて最初に掲示板に報告してくれただけの事はありますね』
えへへ、えみりお姉ちゃんに褒められちゃった。嬉しいな。
『その616さんからの質問で、きたるべき初めてのデートについて、その心構えを教えてください。だそうです。そっかー、616さん、まだお付き合いしてなかったんですね。これは同じ掲示板民として、なんとかしてサポートしてあげたいです。嗜みからなんかいいアドバイスない?』
『私からアドバイスか……。正直に話すと、私、あくあに全部リードしてもらってるから、何もアドバイスできる事なんてないんだよね。強いて言えば、肌のコンディションや髪の手入れを整えるとか、可愛い服を着るとか、そういう見た目の努力を事前にしたくらいだと思う。心構えとしては……はじまってしまえば、もうなすがままなので、あとは流れに任せってて感じかな。だからその、いつそういう事になってもいいように準備だけ整えておくことくらいかな。ごめんね。あんまり大したアドバイスできなくて』
ううん、そんな事ないよ。
確かにこの前のラジオでもえみりお姉ちゃんが常に女性である事を意識してって言ってたし、いつ、どんなタイミングでもあくあ様にデートを誘われてもいいように準備はしっかりと整えておくべきだよね。
色気のない子供っぽいルームウェアを着用してる時にデートを誘われたら、私が恥ずかしさで死にたくなっちゃいそう。
『捗るからは何かない?』
『うーん、私からアドバイスできる事と言えば……事前に頭の中で色々なシチュエーションを妄想しておくとか? とはいえ、私が言っても説得力ないですよね。あとはもう流れでって感じかな。普段からちゃんとシミュレーションしていたら、いざ、初めてデートする時になって戸惑ったとしても自然とできると思えるんだよね』
なるほど……。
えみりお姉ちゃんなのにものすごくまともなアドバイスで少し驚きました。
『616さん、すべての掲示板民と私達が応援してます。頑張ってくださいね』
『616さん、がんばれ〜』
が、頑張ります!
私はスマホを前に両手で握り拳を作る。
『それじゃあ、最後のお便りを読み終えたところで今日のラジオ配信を終えたいと思います』
『みんな、今日はありがとねー。そろそろ学校をお休みしようと思ってるから、次のラジオ配信は私が出産した後になると思うけど、第3回の配信を楽しみに待っててくれると嬉しいです』
そっか。次の配信ってカノンさんの出産後になっちゃうのか。
多分、もうそろそろだよね。
『それか、次回は私以外の人とやってみてもいいんじゃない? 姐さんとか……』
『いやいや、姐さんだと秒で番組が終了する未来しか浮かばないからやめとくわ。それならまだソムリエと一緒に念仏配信した方がマシだよ』
『念仏配信って何!?』
私の声がカノンさんと重なる。
『とまぁ、冗談はここまでにして、みなさん、次回の配信までごきげんよう』
『ごきげんよう。みんな、まったねー』
ちょ、ちょ、最後の念仏配信って本当になんなの!?
そっちが気になって逆に寝れなくなりそうなんだけど……。
私は少しだけモヤモヤした気持ちでお布団の中に潜り込みました。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://x.com/yuuritohoney