白銀あくあ、男女間教育実習。
この世界の学校には男女間教育実習という素晴らしい授業がある。
同意の取れた女生徒や教師と、男女間におけるアレやコレについての授業ができるとても素晴らしいシステムだ。
「アヤナ……俺と男女間教育実習しようぜ!」
「しないわよ。ばか!」
がーん!
以前、みんなにお願いした時は、ココナやクレアさんは喜んで同意してくれたし、リサやうるはも恥ずかしがりながらも同意してくれたけど、カノンには断れたんだよな。
アヤナやカノンのようなシャイな女の子は、その授業を受けるのが少し恥ずかしいらしい。
せっかくだから俺はその理由をカノンとアヤナに問いただす。
「だって、イチャイチャした後に部屋から出てきた姿をみんなに見られるんだよ。周りから見たらあの2人イチャイチャしたんだってすぐにわかっちゃうじゃん。まだ放課後だし、部活動してる生徒だって残ってるのに……」
「顔がニヤけちゃう時点で女子には一発でバレるよね。あー、あの2人、イチャコラしたんだぁって見られる時点で私は絶対に無理。あくあはそれで恥ずかしがる私達を見るのが好きだから、いいんだろうけど……」
ちょ、ちょっとちょっと!
確かに俺はそういうプレイも好きだけど、なんで2人ともジト目になるんだよ!!
いいだろ! 男子には恥ずかしがってる女子からしか得られない何かがあるんです!!
とはいえ、嫌がる女子を無理やりというのも俺の趣味じゃない。
ここは素直に撤退する方がいいだろう。
「むしろ、あくあは家でイチャイチャできるのに、なんでわざわざ男女間教育実習でしたがるのよ。普通にまだ付き合ってない子に声かければいいじゃない」
「うんうん、みんな男女間教育実習がある日とか、ソワソワしてるって聞いたよ。嫌なら断れるわけだし、気軽に誘ってみたら?」
確かにそれもそうか……。
いや、でもなぁ。男女間教育実習で指名するのって、普通に告白するよりも恥ずかしいんだよ。
すでに付き合ってる子を誘うのは気持ち的に楽だけど、初めての子を誘うのは少し苦手だ。
そう考えると俺もカノンやアヤナと似ているのかもしれない。
くっそ……カノンと結婚してからもう1年がくるというのに、俺はいまだに年上のお姉さんに動揺するし、魅力的な女の子達に心がそわそわしちまう。
悩めるメリーさんである俺の耳元で神様と悪魔が左右から囁く。
『おお、白銀あくあよ。少年の心を捨てようとするなんて、そんな愚かな行為はやめなさい。いくら自分が有名になったからと言って、初心を忘れるべからずですよ』
『おいおい、男子はいつまでも心の中に子供の自分を飼っていていいんだぜ。そうじゃなきゃ、お前の好きな年上のお姉さん達に甘える時にだってテンションが上がらないだろ?』
確かに!
神様と悪魔が同じ事を言ってるのは若干気になったが、まぁ、そういう事もあるだろう。
「無理無理、こいつって結構シャイだから、それができてたら苦労してないって」
「ぐぬ、ぐぬぬぬぬ!」
小雛先輩は勝手に俺達の話を盗み聞きして、会話に顔を突っ込んでこないでくださいよ!!
それに小雛先輩の言う通りだけど、俺……男子は小雛先輩と違ってナイーブなんです!
「ねぇ、前から気になってたんだけど、あんたって、そのルックスでなんでそこまで自信ないわけ? 認めたくないけど、顔だって悪くないし、他の男子と比べて……そこそこ魅力的なわけなんだし、普通はもっと自信あっていいでしょ」
「あー、確かに、私もそれはそう思った」
「ね。あくあくらいかっこよかったら、もっとこう強引になっててもおかしくないのにね」
仕方ないだろ。
確かに俺はみんなからしたらかっこいいかもしれないけど、前世にもかっこいい男子は普通にたくさんいたし、俺は男子が見た目だけが全てじゃないって事をよく知ってる。
それに見た目がいいからって女の子に強引に迫ってる勘違い男も腐るほど見てきたしな。
とはいえ、俺が転生した事を知らないみんなからしたら、その事情を知る由もないから理解できないのかもしれない。
「それは雪白の血かもしれませんね」
俺達の会話を聞いていたえみりが物理的にカノンとアヤナの間に顔を突っ込んでくる。
「びっくりしたぁ! もー、少しは普通に出てきなさいよね!」
「えみりさん、雪白の血ってどういう事ですか?」
俺もえみりがそう思った理由が気になるな。
えみりはお気に入りの赤縁眼鏡をかけると急に説明キャラになる。
「美洲おばちゃんって、ああ見えて意外と自信ないんです。だから、あくあ様に中々会いに行けなかったりとか、性格的には結構内向的なんですよ」
「確かにそれはあるかもね。あいつ、役者やってる時は傲慢さを感じるくらい自信満々だけど、それ以外の時はいつも困った顔してオロオロしてるもん。初めて会った時から調子狂うのよね。大御所なら大御所らしく振る舞いなさいよ。なんで大御所が普通に蛸部屋の隅っこに座ってるのよ!」
「そういう小雛先輩も蛸部屋の隅っこに座ってるじゃないですか」
あれ? 小雛先輩、そんなに顔を赤くしてどうしたんですか?
小雛先輩が1人の部屋は寂しいからって理由で蛸部屋にいるのは、ここにいるみんなが気がついてますよ。
「今のはあくあが悪いから謝った方がいいよ」
「うん。私もそう思う」
「あくあ様、私も謝った方がいいと思います」
確かに、2人きりならいつも言い返してくる小雛先輩が言い返さない所を見ると謝った方がいいか。
俺は普通に小雛先輩に謝罪する。
「別にいいわよ。事実だし……。逆に謝るんじゃないわよ。変な空気になるじゃない! すぐに言い返さなかった私が悪いんだけど!! だから、この件はこれで終わり! いいわね?」
「はい」
この前、デートしてからそう日が経ってないからだろうか。
ついついみんなといる時も、小雛先輩と2人きりで話してる時くらい気を遣わずに話してしまってる気がする。
小雛先輩は結構突っ込んだところまでお互いに話しちゃうから、そこらへんの境界線がたまに曖昧になるんだよな〜。ぶっちゃけ、小雛先輩と話す時は、男子の慎太郎達と話す時くらいには気を遣ってないと思う。
「コホン! 話を戻すとですね。私も実は同じくらい自信がないんですよ!」
「えぇ……えみり先輩が……?」
カノンがものすごく疑わしそうな表情をえみりに向ける。
それを見たえみりが、カノンの耳元に顔を近づけて何かを囁く。
「だって、ほら、私、検証班でも一番最後だったろ……。あの姐さんや楓パイセンより遅かったんだぜ」
「確かに……そう言われると、えみり先輩のポテンシャルを考えたら、もっと早くてもいいくらいでしたね。今思えばえみり先輩って、なんであんなにモタモタしてたんですか?」
カノンが何か言葉を返すと、えみりがわかりやすく落ち込む。
それを見たカノンが慌ててえみりに謝る。
おーい、カノン、騙されてるぞー!
えみりはさっきの俺と小雛先輩のやり取りを見て、カノンに構ってもらおうとわざと落ち込んだフリをしてただけだ。えみりはカノンの事が大好きだからな。ははは!
「あれ? でも、のえるさんはそんな感じなくない?」
「雪白の血を継いでるのはパパだから」
「ああ、そっか……。のえるさん、めちゃくちゃ前に出てくるし、ほら、何かのリーダーとかやったりするから、たまに勘違いしそうになるんだよね」
カノン……お前はまだ弾正さんの恐ろしさに気がついてないだけなのか?
えみりとの一件で手を握られた時には、この俺が冷や汗をかいたくらいだぞ。
のえるさんはケンカとか強そうだけど、弾正さんはそういう次元じゃない。
えみりとの関係を笑って誤魔化そうとした時、本気で殺されるかと思って無意識で一歩後ろに引いちゃったもん。
えみりは再びカノンの耳元に顔を近づると、みんなに聞こえないように何かを囁く。
「うん、私がバラエティ番組で前に出る性格なのと、なんか裏で訳わからない軍団を率いちゃうのは、多分ママの血だと思う」
「あー、そういえば堕悪天使とかいうわけのわかんない軍団で総長やってるんだっけ。そっか、だから、えみり先輩も胡散臭い宗教を率いてるんだ……」
おいおい! カノンとえみりは、いくらなんでも顔が近すぎないか!? 見ている俺がドキドキするくらいだ。
2人とも、もっと俺の目の前でイチャイチャしていいんだぞ!!
「あんた、またしょうもない事を考えてるでしょ」
「うっ」
だから小雛先輩は俺の思考を簡単に読まないでくださいよ!
「あんたが考えてる事を全部顔に出してるからじゃない! 言っとくけど、あんた、仕事してない時以外は緩みすぎなのよ!! ま……あんただって普段からずっと気を張ってたら疲れるだろうし、家に居る時とか、学校とか、私とかあんたをよく知ってる奴と一緒にいる時くらいはいいんじゃない? その方があんただって疲れないでしょ」
「はは、ありがとうございます」
はっきり言ってこの世界には誘惑が多すぎる。
最初の一年は頑張って常に気を張っていたが、流石にプライベートくらいはもっと楽にしていいのかなと思った。
前世の俺なら無理しすぎてぶっ倒れるところまで行ったけど、今の俺は1人だけの体じゃない。家族と会社、そしてBERYLを背負ってる自覚がある。
「それこそ、話を戻すけど……あくあもそんなに男女間教育実習したいなら、杉田先生を誘えばいいじゃん」
「うんうん」
杉田先生との男女間教育実習を考えなかった事はない。
だが、俺にアイドルとしての矜持があるように、杉田先生にも教師としての矜持がある。
杉田先生が教師と生徒の関係に拘ってる今の状態で、せこい手を使って手を出すような事はしたくない。
そう考えると、まずはデートをして関係を深めてから……となるのだが、それも杉田先生のスタンス、教師と生徒の距離感を保つという考えからすると難しい。それもあって俺は杉田先生との関係の発展に苦労している。
そうだ。せっかくだから、みんなにその事を相談してみるか。
俺は今思った事をみんなに説明する。
「あくあ様……そういう女性に限って、強引に押し倒されたいという欲望も抱えてるかもしれませんよ」
「えぇっ!?」
俺はえみりの言葉に驚く。
いや……待てよ。俺が常に女子に押し倒されたいと思っているように、女子が同じような事を考えていたとしてもおかしくはないのか。
「うんうん。私もちょっとわかるかも。だって、杉田先生と関係を進めようと思うならもう男女間教育実習しかなくない? デートもできないんでしょ? それだったら、もうね……カノンさんはどう思う?」
「確かに、アヤナちゃんの言う通りかも。それかあくあが卒業後まで大人しく待つとか。あと、一年と半年くらいだし、あくあが杉田先生の教師としての矜持を守りたいっていうのもわかるから、もう待つしかなくない?」
うん、結局、カノンが言うように一年待つのが正解なんだろうな。
杉田先生のためにも、ここは大人しくしておくか。
「ねぇ、私の記憶が確かなら、男女間教育実習って、クラス全員で参加して教師が生徒にお手本を見せるとかもできたんじゃなかったっけ? ごめん、卒業してからしばらく経つし……私はやった事ないからよく知らないんだけどね」
小雛先輩の鶴の一声にえみりが口を大きく開ける。
「そ、それだぁー!!」
えみり、そんなにも驚いてどうしたんだ?
俺はえみりが何に気がついたのか理解できなかった。
「あくあ様、男女間教育実習で杉田先生を指名して、授業の中でデートを重ねるんですよ!! 他の生徒達のお手本だと言えば話にノってくれるんじゃないですか!?」
うわあああああああああああああ!
そ、その手があったか!!
確かにそれなら杉田先生との関係もうまく進ませる事ができそうな気がする。
「みんなありがとう!! 俺、今から学校のタブレットで杉田先生との男女間教育実習の申請してくるわ!!」
「ちょっと! もうそろそろ晩御飯の時間だから、早く帰ってきなさいよ〜!!」
はいはい、小雛ママに言われなくてもわかってますよ!!
俺はみんなにお礼を言うと、自室に戻ってタブレットから男女間教育実習で杉田先生を指名する。
しかし、これだけだと杉田先生に拒否されるかもしれない。
なので、俺は備考欄にクラスメイト達をダシにしたもっともらしい理由を書き綴るる。
これで杉田先生も拒否しないだろう。
そして、俺は男女間教育実習の当日を迎えた。
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