白銀あくあ、ラブラブ度100パーセント。
今日はベリベリの生放送がある日だ。
俺はゲストの小雛先輩と一緒に、この前の旅を編集した映像を見てニヤニヤした顔をする。
「何よその顔!」
あれ? お母さんとの和解映像がスタジオで流されて少しは恥ずかしがるかなって思ってたけど、小雛先輩はいつもと同じようにソファでふんぞり返っていた。
その姿を見た観客席から「いつもの小雛ゆかりだ」という声が漏れる。
「ふん! 一週間も前の話じゃない。今更なんだっていうのよ」
恥ずかしそうにしてたら、少しはフォローしようかなと思ってたけど、どうやらうちの大怪獣ゆかりゴン先輩にとっては全くの杞憂だったようだ。
俺はカメラに視線を向けつつ、時間を確認する。
このあと、生放送の時間がまだ1時間くらい残ってるけど、渡された台本にはここまでしか書かれていなかった。うーん、嫌な予感がする。
ベリベリのスタッフが無駄に時間を余してフリートークの時間に充てるとは思えないし、これは何か裏があるな。
そんな事を考えていたら、プロデューサーがニヤニヤした顔でカンペを出す。
【何か忘れてる事はありませんか?】
忘れてる事……? なんだろうな。
ちゃんと天我先輩には忘れずにお土産を渡したし、他に忘れている事なんて何もないはずだけど……。
「あれ? そういえば……なんかいい感じで終わったけど、2人ともラブラブ度100パーセントの写真とってなくない!?」
「「「「「あっ!」」」」」
司会進行を務めるとあの一言で、みんなが一斉に声をあげる。
そういえばそうだった……。
俺と小雛先輩は顔を見合わせると、お互いにやってしまったという顔をする。
「えー、というわけで……あくあと小雛先輩には今から番組終了までの1時間かけてラブラブ度100パーセントを目指してもらいたいと思います。なお、失敗した場合は、罰ゲームとして2人にはベリルインザワンダーランドでデートしてもらいます。だって」
「はあ!? なんでまたこいつとデートしなきゃいけないのよ!?」
観客席のファン達から、小雛先輩に向けて笑い声の混じったあたたかいブーイングが贈られる。
「まぁまぁ、いいじゃないですか。それに100パーセントを取ればいいんでしょ?」
俺の発言に観客席が大きく盛り上がる。
小雛先輩とのデートは面倒臭そうだけど、ベリルインワンダーランドで1日遊べると思ったら悪くない。
仕事で何度かは行った事があるけど、お客さんの立場で楽しむのとはやっぱり違うからな。
それに、100点を取れば罰ゲームもないし、俺にとってはどちらに転がっても悪くないと思ってる。
「そんな事言って、前回は全然ダメだったじゃない」
「小雛先輩、周りを見てくださいよ。今日は俺達だけじゃなくて、みんながいますから」
俺は天我先輩、慎太郎、とあの3人に視線を向ける。
「俺と小雛先輩がラブラブ度100パーセントを取るために、みんな協力してくれないか?」
俺の提案に観客席が大きく盛り上がる。
「もちろんだとも、あくあ」
「我に任せろ後輩!!」
「別にいいけど、あんまり期待しないでよね」
くっ! 慎太郎も天我先輩もとあも頼もしくなってきたな!!
3人の成長に俺は目頭が熱くなる。
「それじゃあ、最初は我からだ!!」
天我先輩は前に出ると、俺と小雛先輩にポーズの指示をする。
ええっと、俺が小雛先輩と寄り添って、肩を貸してっと……。
うーん、寄り添うところまでは良かったけど、なんか夕日をバックにお互いが戦った後みたいなポーズになったぞ。
「ねぇ、天我くん。私って恋愛とかには疎い方だけど、流石にこれは違うんじゃないかな?」
俺は心の中で小雛先輩の言葉に頷く。
「まぁまぁ、小雛先輩。判定するのはあのAIですから」
「そ、そうね。こういう意外なのが来るかも!」
俺と小雛先輩は天我先輩に写真を撮ってもらうとSNSに投稿した。
【月街アヤナ:かっこいい! 映画のポスターみたい!!】
【白銀カノン:う〜ん、なんだろう。これはこれであってるような……】
【森川楓:あれ? 恋愛映画を見にきたもりだったけど、アクション映画だったかな?】
【鞘無インコ:ゆかりは誰と戦ってんねん! 肩を寄り添うところまでは良かったんやけどな】
【雪白えみり:間違いなくさっきまで殴り合ってました】
【天我先輩に恋愛は早すぎた】
【友情度なら100パーセント】
【なんか違うw】
やっぱりみんなの反応も思った通りだった。
【3510:昨日のライバルは明日の味方! 強敵度100%!! って、ちっがーう!! 私が欲しいのはこういうじゃないんだよ!! もっとこう胸がドキドキするるような写真ね! これじゃあ違う意味でドキドキだよ!!】
おっ、100%出た!
えっ? ラブラブ度じゃないとダメ?
仕方ないなぁ。
「くっ、すまない後輩! どうやら我にはまだ難しかったようだ……!」
「天我先輩、気にしないでください。愛の形はひとつじゃないですから」
若干、春香さんとの事が心配になってきたが、春香さんは大人だからきっとうまくやっているのだろう。
俺は慎太郎へと視線を向ける。
「慎太郎……いけるか?」
「ああ、もちろんだとも親友。僕に任せろ!」
俺は近づいてきた慎太郎とグータッチを決める。
慎太郎はメガネをクイっとさせると、カメラに視線を向けた。
「これまでのデータに基づくと、2人には甘酸っぱい初々しさが足りないのではないだろうか?」
うおおおおおおおおおおおおおおおお!
慎太郎のマトモすぎる分析に、俺と小雛先輩、観客席で見守っているファン達が沸く。
「というわけで、2人とも今から俺のいう通りのポーズを取ってくれ」
ええっと、ソファに座るのか? えっ? もっと右? こうか?
で、小雛先輩もソファに座るのね。って、小雛先輩、遠っ!
なんでそんなに端っこに座ってるんですか!?
「これは俺と千霧さんが初めて一緒にソファに座った時の距離感です」
顔を赤くして説明する慎太郎に、観客席から悲鳴に近い歓声が沸く。
嘘だろ……。俺なんか最初から手が触れる距離に座ってたぞ。下心全開で……。
「えっ? 私なんてたまにソファに座ってるこいつの膝の上に乗ったりしてるけど……」
それは小雛先輩だけです。
らぴす達子供組はまだしも、大人組で俺の膝に座ってくるのなんて小雛先輩くらいだ。
カノンだって新婚の時に恥ずかしがってあまり座ってくれなかったのに……。
「慎太郎、流石に今はもっと近い距離で座ってるんだろ?」
「ああ、毎回デートするたびに1mmずつ縮んでいってるぞ」
おい! そんな事してたらお前も淡島さんもお爺さんとお婆ちゃんになっちまうぞ!!
今は番組中だからいいけど、放送が終わって楽屋に戻った時にせめて1cmずつにしろとさりげなく言っておくか。そうじゃないと淡島さんが可哀想だ。
俺と小雛先輩は慎太郎に写真を撮ってもらって、SNSに画像を投稿する。
【月街アヤナ:私はこういうのが一番好き】
【白銀カノン:初々しくて私も好き! あくあなんか座る時にナチュラルに手握ってくるもん】
【雪白えみり:↑こーれナチュラルにマウントです!】
【森川楓:カノン……お前そういうとこやぞ!】
【鞘無インコ:ええな〜。うちなんか球場で隣の席に座ってる知らんおばちゃんと手を握り合って試合見た事があるくらいやわ!】
【えみり様、もっと言ってやってください!!】
【カノン様、一度でいいからそのポジション代わってくれ!!】
【こういうのでいいんだよキター!】
コメント欄の反応は悪くないな。いや、むしろ良いすらある。
今回はそこそこいいポイントが取れるんじゃないか?
俺と小雛先輩は期待に胸を膨らませる。
【3510:初々し位ところが高ポイントだけど……ラブラブかって言うと微妙だよね。ラブラブならやっぱり密着してないとね。それこそ、小雛先輩があくあ様の膝に座ってたらラブラブ度100%でした。ちなみに甘酸っぱい度100%です!!】
嘘だろ。おい!?
俺と小雛先輩は膝から崩れ落ちる。
それなら、いつもの俺たちの写真でいいじゃん!!
「ちょ、撮り直し!!」
えっ? 先にAIが100%だと言った条件はダメ?
嘘だろ……。俺と小雛先輩は2人で頭を抱える。
「す、すまない。2人とも……」
「いや、いいんだ。慎太郎。むしろ惜しかった。俺は良い線行ってたと思うぞ!」
俺は慎太郎とハグして、お互いの健闘を讃えあう。
くっ! こうなったらもうとあしかいない!!
俺はタイツを穿いたとあの足に縋り付く。
「とあ、頼む! 俺達を救ってくれ!!」
「もう、仕方ないなぁ……」
とあはCMを入れると、俺と小雛先輩を一旦後ろに下げさせる。
「こんな事になると思って、スタッフさんにお願いしてたんだよね」
スタッフさんにお願い? どういう事?
俺と小雛先輩は、とあが指差した方へと視線を向ける。
あ、あの見覚えのある衣装は!?
「ゆうおに!?」
「うわ、もう既に懐かしい!」
ベリベリとゆうおには同じ放送局だ。
だからとあはスタッフさんに頼んで衣装を手配してもらったんだろう。
「2人ともさぁ、役者として上手なんだから、お互いに恋人役に入り込んじゃえばいいんじゃないのかな? ていうか、2人がそれをしなかったのってなんか意味とかあったわけ?」
俺と小雛先輩は顔を見合わせると、大きく口を開いて目をぱちくりさせた。
「「そ、それだぁ〜!」」
ああ、なんで俺たちは今の今までそんな単純な事に気が付かなかったんだろう。
これからは俺も小雛先輩も、カノンや楓の事をポンコツとはいえなくなってしまった。
俺と小雛先輩はCMの間に急いで服を着替えると、CM明けと同時にスタジオに出る。
「うぎゃあああああああああああ!」
「一也お兄様きたああああああああああ!」
「うわぁっ! 沙雪だ!」
「これは掲示板が盛り上がるぞ!」
「まさかのゆうおに復活きたー!」
「アヤナちゃんは!? 私達の莉奈は!?」
俺と小雛先輩は向き合うと、兄妹として接近しすぎた問題のシーンを再現する。
「沙雪……」
一也が生徒会室で転けそうになった沙雪の手を掴んで抱き寄せるシーン。
至近距離で沙雪の顔を見た一也は、その美しい瞳と顔から視線が逸らせずにいた。
密着する沙雪の柔らかさと甘い香りに、一也は妹と女性として強く意識してしまう。
「お……兄様……」
沙雪は少しだけ瞼を下げると、唇を薄く開いた。
キスしたい。
俺の唇がゆっくりと沙雪の唇に近づいていく。
キスするんじゃないか。誰しもがそう思った瞬間、ここで一也は正気に戻る。
「うん、いい写真撮れたよ!」
おっと! やばいやばい。
もうちょっとで本気で小雛先輩とキスするところだった。
俺と小雛先輩は体を離すと、何事もなかったかのように振る舞う。
小雛先輩も俺も、あの時と同じ熱量で完全に役に入り切っていた。
「これは期待できるでしょ!」
「頼むぞ!」
俺と小雛先輩だけじゃなく、観客席のみんなも手を合わせて祈る。
【月街アヤナ:いーーーなーーー! 私も居たら一緒に服着たのに!】
【白銀カノン:↑ヘリ手配できます】
【森川楓:あ、あれ? この続きは!?】
【鞘無インコ:どこのネット見れば続きが見れますか?】
【雪白えみり:今流行りのこのあとは有料配信ですか!?】
【うわあああああああ!】
【これはいったな】
【勝ち確きたから、風呂入ってくる!】
【↑おい、待て!】
俺と小雛先輩は反応を見て、お互いに顔を頷きあう。
今度こそ確実に100%いったでしょ。
俺達は判決の時を待つ。
【3510:すごくドキドキしました。でも、沙雪と莉奈の闇を思い出して違う意味でドキドキしちゃったので、ラブラブ度じゃなくてトラウマ度100%です……】
俺は咄嗟に小雛先輩の腋の下から腕を入れて体を押さえつける。
「ちょっと! 離しなさいよ! なんでAIがドラマちゃんと見てるのよ!! もう! こんなの絶対無理じゃない!!」
うん、よく考えたら、ゆうおにって選択が究極に不味かった。
どうせなら、はなあたにしておけば良かったと後悔する。
「そもそも、これって本当にラブラブ度100パーセントでるの!? 最初から出ないようになってるんじゃない!?」
確かにその疑問はある。もしかして故障してるだけとかもしれない。
俺はとあを手招きすると、試しに2人で顔を寄せ合って写真を撮った。
【3510:ラブラブ度100パーセント達成おめでとうございます!!】
あれ? なんか簡単に出たけど、どういう事?
俺はとあと顔を見合わせると、お互いに首を傾け合った。
【月街アヤナ:大・正・義】
【白銀カノン:こういう普通のでいいのにね。2人とも素直じゃないから……】
【森川楓:ゆかり、今度、飯を奢らせてくれ】
【鞘無インコ:ゆかり……どんまいやで】
【雪白えみり:ちなみにカノンとあくあ様の写真はどれとっても100%でした!!】
【↑さすカノ】
【えみり様、有益な情報ありがとうございます】
【明日から少しだけ小雛ゆかりに優しくしようと思います!】
コメントの反応を見た小雛先輩が肩をプルプルと震わせる。
「ふ・ざ・け・る・な!」
ちょうど、番組が終わる時間が来たので、俺はテロップに合わせて地団駄を踏み出した大怪獣ゆかりゴンを押さえつけて舞台裏に強制的に引っ込める。
こうして俺と小雛先輩は罰ゲームでデートをする事になった。
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