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小雛ゆかり、面倒臭い親子。

 私と母は話し合いをするために、琵琶湖が一望できるカフェへとやってきた。


「ちょっと! なんでこいつらまでゾロゾロついてきてるのよ!」


 私はあくあに扇動されてついてきた滋賀県民達をキッと睨みつける。

 言い出しっぺのあくあやベリベリのスタッフがついてくるのはわかるけど、なんでこいつらはついてきたのよ。

 もしかして暇人!?


「我々には見守る義務がありますから」

「もしお二人が約束を違えた時は全力で琵琶湖の水の供給を止めます!」

「なーに、もしものときは私達がフォローしますから。安心してください!」


 本当に?

 私は滋賀県民達に疑り深い目を向ける。


「こんな面白そうなイベント、見逃せるわけがない!」

「んだんだ!」

「おい、お前ら、本音が出てるぞ!」


 はぁ……全くもう!

 あいつのファンってどうしてこういうのばっかりなのよ。

 私は大きなため息をついた後に少しだけ頭を抱える。


「相変わらずあんたさんは感情がすぐに顔に出る子どすなぁ。そんなんで本当にやっていけるん? あんまり噛みつきすぎるとファンの皆さんに嫌われるどすえ」


 母の言葉を聞いた周りの滋賀県民が腕を組んでうんうんと頷く。

 ちょっと! あんた達、どっちの味方よ!!

 数秒前にフォローするって言ってたのは何なのよもう!!


「その言葉、そっくりそのまま返すわよ!」

「あら? こう見えても私、あんたさん以外とはうまくやってますのよ」


 母はバッグから取り出した扇子で勝ち誇ったかのように顔を仰ぐ。

 かっちーん!


「あーあー、そうでした! なんでもズケズケと言っちゃう私と違って、あんたはいつも厚化粧で本音と表情を誤魔化してるものね!!」

「は、はぁ!? 厚化粧って誰の事を言ってるのよ! 私、そんなに塗りたくってないもん!!」


 あらぁ〜。いつもの京言葉はどうしたのかしら?

 あんただって感情的にになると、いつもの標準語に戻るところが変わってないじゃない。


「だいたい、その付け焼き刃の京ことばが全然似合ってないんだから!! うちの家は京都だけど入嫁のあんたは東京生まれの癖に!!」

「べ、別にいいじゃない。郷に入っては郷に従えって言うんだし、その土地の文化を大切にするのも思いやりじゃない……思いやりどすえ!!」


 ふふーん。言い直したわね?

 私は母に対してニヤニヤした顔を見せる。


「むしろ、あんたさんこそ思いやりがなくて皆さんに迷惑かけてないのか心配になるわぁ。勝手にあくあ君のバイクの後ろに乗ったりとかしてるんちゃう?」

「してないもん!!」


 私は母と顔を近づけて至近距離から睨み合う。

 その忙しい中に誰かが私の肩を叩く。誰!? 今、私は忙しいのよ!!


「小雛先輩、ちょっと……」


 何よ、あくあ。

 いつものふざけた顔じゃなくてそんな真剣な顔をして、どうしちゃったの?

 もしかしたら、お腹でも壊した? それならさっさとおトイレ行ってきなさい。


「小雛先輩、俺が初めて小雛先輩に会った時、小雛先輩は普通に俺のバイクの後ろに乗ってました」


 あれ? そうだったっけ?

 言われてみたら、そうだった気がするけど、私は過去を振り返らない女だ。

 あんたもそんなのもう忘れちゃいなさいよ!


「ほらぁ〜、やっぱりそないな事あったんやない!!」


 ぐぬぬぬぬぬ!

 私は母にマウントを取られた事が悔しくて歯軋りをする。


「あくあ様のバイクの後ろに勝手に乗る……?」

「これは間違いなくギルティ」

「この茶番が終わったら謝罪会見かな」

「むしろこっちの方が重要。親子喧嘩よりこっちを追求しよう」

「明日の聖白新聞の一面記事はこれか」


 ちょっと! 何であんた達もジト目でこっちを見てるのよ!?

 あんた達は私の味方じゃなかったの!?

 もーーーーー! 邪魔をするならさっさと帰りなさいよ!!


「はぁ、これだからこの子は……」


 椅子から立ち上がった母はあくあに向かって頭を下げる。

 ちょ、ちょっと! なんであんたが頭を下げるのよ!


「うちの娘がえらい失礼しました。本当にすみません」

「い、いえ。別にいいですよ。人によっては怒る人もいるかもしれませんが、俺はあまり気にしませんから」


 周りの野次馬達からあくあと母に温かい拍手が送られる。


「さすがはあくあ様、器が大きい!」

「きゃー! あくあ君、かっこいいー!」


 女の子からの黄色い声にあくあは照れた顔を見せる。

 その一方で一部の野次馬がチラチラと私の方を見ながらヒソヒソ話を始めた。


「あれ? 小雛ゆかりのお母さんって結構まともじゃない?」

「いや、普通にまともだよ」

「私、この人が小雛ゆかりを嫌っているようには見えないんだけど……」

「というか小雛ゆかりがあくあ様に謝罪するべきでは?」

「おーい。小雛ゆかりー。念のために謝っておいた方が後々楽だぞー」

「そうだそうだ。そうじゃないとまた総理が勝手にしゃしゃり出て勝手に土下座始めちゃうぞー!」


 もー! なんなのよこの流れは!!

 私はあくあの袖を摘むと小さな声で「あの時はごめん」と謝る。

 ほら、ちゃんと謝罪したわよ! これでいいんでしょ!?


「ちゃんと謝罪できて偉い!」

「成長したな。小雛ゆかり」

「うっ、うっ、あの小雛ゆかりがちゃんと謝れる日が来るなんて……」

「うちの小雛ゆかりが本当にすみません」

「あくあ様、小雛ゆかりも悪気があったわけじゃないんです。許してあげてください」

「そうそう。あいつはまだ子供だから。ほら、身長だってお子様サイズでしょ」


 あんた達はいつから私のお母さんになったのよ!!

 もおおおおおお! こいつのファン層って、なんでこんなノリの奴らばっかなの!?

 あと私の身長の事は言うな!! 母やお婆ちゃんと比べて私だけが低いの結構気にしてるんだからね!!


「はぁ……ところで話し合いて言いはるけど、一体何を話し合うん?」

「あら、珍しく気が合うじゃない。私も今更話し合う事なんて何もないわよ」


 大人になった今だからこそわかる事もある。

 自分のために生きている私と違って、母は自分を殺してでも家を守るために生きているような人だ。

 そんな私達が今更お互いに気を遣って話し合ったところで噛み合うわけなんてないのよ。

 お互いの事には不干渉で口を出さない事を約束させて、距離を置いてとかなら……まぁ、今後の付き合いもやれなくもないのかもしれないけど、それはこいつが望んでいるような話し合いじゃないでしょうしね。

 私と母が顔を背けあって押し黙っていると、誰かがこのテーブルに近づいてきた。


「本当にあんたらは相変わらずやねぇ」

「げっ!」

「お、お母さん!?」


 いきなり背後から現れたおばあちゃんに私はギョッとした顔をする。


「お母さんどうしてここに……?」

「そんなの、うちの娘と孫のために決まってるじゃないか」


 そんな余計な事……って言いたかったけど、お婆ちゃんにみっちりと鍛えられた私と母が口応えなんてできるわけがない。私と母はお婆ちゃんの言葉に黙り込んでしまった。

 するとお婆ちゃんは私たちの表情を見て、してやったりと笑顔を見せる。


「って、うっそー! そんなのあくあ様にお願いされたら来たのに決まってるじゃない! なんで私があんたらのしょうもない喧嘩のためだけに、ここまで来なきゃいけないのよ!」


 お婆ちゃんはバッグの中からゆうおにのポストカードを取り出すと、あくあにサインをおねだりする。

 ちょっと! やめてよ!! そいつにサインを強請るなんて私が恥ずかしいじゃない!!

 お婆ちゃんはあくあにサインして貰うと、再びこちらを見て呆れた顔をする。


「ん? まだ和解していなかったのかい? 私があくあ様にサインをして貰ってる間にちゃっちゃと終わらせなさいよ。本当に2人とも誰に似たのか知らないけど、鈍臭いんだから」

「お母さん、これはそんな簡単な問題じゃなくてですね」


 そうよ! ほら、もっと言ってあげなさいよ!!

 私は母の影に隠れてうんうんと頷く。


「何がだい? うちの無鉄砲で向こう見ずなアホ孫が家出した時だって同じバスに乗ってつけてきた癖に」

「お母さん!?」


 は……?

 私が家出した時のバスに乗ってた……?

 えっ? 誰が……?

 頭が混乱した私は母の顔を瞬きせずに見る。


「あ……あれはそう! この子が誰かに迷惑をかけたらいけないから、それで仕方なくよ!!」


 ええ、ええ! そうよね。貴女はそういう人だもの!

 私が何かやらかして誰かに迷惑をかける事で、家の名前に傷をつけたくなかったのだろう。

 柄にもなく少しだけ動揺したけど、そんな事だろうと思ってたわ。


「毎日、孫が居ない時間を見計らって電話をかけてきてたのに? たまに私じゃなくてゆかりが出て焦って切ってたわよね」


 そういえばたまに、私が家の電話に出ると言葉を喋らずに切られる時があったけど……あれって、もしかしてそうだったの?

 私はもう一度母の方へと視線を戻す。


「そっ、それは、保護者としての監督責任があるから!!」


 そ、そうよね!

 世間体や体裁を気にする母からすれば当然の事だ。


「ふーん。休みの日には毎回、京都から東京まで来て孫の視界に入らない位置からこっそり姿を確認して、声もかけずに帰ってたのに?」


 は……?

 なんでそんな事してるの?

 私は母に視線を戻す。


「そ……それも、保護者としての責任で……」


 ちょっと! 言い淀んでないで、いつもみたいにもっとはっきりと言いなさいよ!!

 私の視線に勘づいた母が私の顔を見ると、なんとも言えないような顔を見せる。

 だから、なんなのよのその表情は!!


「わ、私は、この子の事なんて、何とも思ってないんだからね!!」


 母の言葉を聞いたお婆ちゃんは大きなため息をついた後に頭を抱える。

 そして周りでこのやり取りを見ていた野次馬達はジト目で私の事を見ていた。

 な、何よ! その目は私になんか言えって言ってるの!?

 こんな空気で発言なんてできるわけないじゃない!!


「異議アリ!」


 近くで聞いていたあくあが席を立って人差し指を前に伸ばす。

 その変なポーズは置いといて、あんた、この空気を早くどうにかしなさいよ!!


「お母さん……今、小雛先輩の事が何とも思ってないと言いましたね」

「え、ええ……」


 あくあは近くに居たマネージャーの小町ちゃんから自分が私的に使ってるタブレットを受け取る。


「皆さん、この写真をご覧ください!」


 あくあは手に持ったタブレットをこちらに向ける。

 その画面には誰の部屋なのか知らないけど、棚にびっしりと私が出演した作品が並んでいた。

 へぇ〜、エキストラ出演で私の名前がクレジットされてない作品もある。

 誰の家の棚か知らないけど、この私のファンだなんていい趣味してるじゃない!


「これは小雛先輩のお母さんの棚です」


 は……?

 あくあの言葉に私は固まる。


「そして2枚目の写真をご覧ください」


 そこには私が出演した映画のポスターやら、こいつとコラボしたグッズやらが大量に置かれていた。

 って、隅っこにあの棚が写ってるって事は……これが母の部屋って事?


「お母さん……これでもまた貴女は小雛先輩の事を何とも思ってないと言えるんですか!?」


 あくあはまた変なポーズをバシッと決める。


「いいぞ〜」

「そんな事だろうと思ってたぜ。ええ、察しのいい私は最初からわかってましたよ」

「ふーん、お母さん、ちゃんと小雛ゆかりの事好きじゃん」

「お母さん、これ詰みです」

「あくあ様、どうやってこの写真を手に入れたんだろ」

「そりゃ、あくあ様があくあ様したからでしょ」


 あくあがあくあしたって何なのよ!!

 意味のわからない事を深く考えずにそれで納得しようとするな!!


「そ、そうよ! 何で貴方がその写真を……」

「お母さん、俺が誰だか知っていますか?」


 こいつ、真顔で何を言ってるんだろう?

 って顔を私だけじゃなくて母もする。


「誰って……白銀あくあでしょ……?」

「ええ、そうです。白銀あくあに不可能なんてないんですよ」


 あくあの指が当たって画像がスライドすると、あくあの記念グッズを手に持った女性達がピースサインをしていた。

 ちょっと!? あの人達ってうちの家で働いてるお手伝いさん達じゃないの!? 

 何簡単に買収されてるのよ!!


「お母さん、できれば彼女達を叱ったり解雇しないでください。お母さんと小雛先輩のためだからと俺が直接電話でお願いするまで、彼女達はどんな条件を申し出ても協力する事に了承しなかったんですから」


 の割に、あんたのサイン入りグッズを貰って、みんなすごく嬉しそうな顔をしてたけどね!!


「ああああああああああ! もう! もう! もう! それがわかってるなら、最初からこんな周りくどいいけずなやり方をしなくても良かったでしょ!!」


 顔を真っ赤にした母は力の入ってない握り拳であくあの腕をポカポカと叩く。


「お母さん……俺はね、年上のお姉さんが羞恥心に悶える姿が三度の飯より好きなんです」

「それはあんたの性癖でしょうが!!」


 周りの野次馬どもはアホみたいな顔で「いい話だなー」って感じで聞いてるけど、ばっかじゃないの!?

 思わず突っ込んじゃったない!!


「というわけで、小雛先輩、これが真実です」

「だ、だからって何よ!」


 今更どうしろっていうのよ!


「た、確かに、わ……わ、私の事を少しは大事に思ってくれてるかもしれないっていうのはわかったけど、この人にとっては私よりお家を守る事が大事なのよ!!」

「なるほどなるほど、小雛先輩の蟠りはそこでしたか……」


 な、何よ。その顔、文句あるわけ!?

 あくあは私の母の手を取ると、優しげな表情を見せる。


「お母さんは小雛先輩よりお家の方が大事なんですか?」

「そ、そんな事あるわけないでしょ! なんで自分の娘より家の方が大事なのよ!!」


 は!? 母の言葉に私は楓がホゲった時のようなシンプルな顔になる。


「で、でも、子供の頃、私にいつも華族の娘ならこうするべきだって……」

「それは、貴女が華族の娘として、周囲の華族から変な目で見られないために注意してただけに決まってるじゃない!!」

「じゃ、じゃあ、あの髪を切ろうとした男の子を止めた時のは!?」

「そんなの華族の男性に喧嘩を売ったら、いくらうちの家といえど貴女の立場が悪くなるからじゃない!! そうじゃなきゃ、私が頭を下げるわけないじゃない!!」

「全寮制の女子校に無理やり入れようとしたじゃない!」

「無理やり入れさせるなら、家出先がわかってるんだから連れ戻してるでしょ!! そもそも、貴女は嫌だって私に言う前に家出したじゃない!! 貴女が家出するほど嫌なら最初から入れさそうとなんかしてないわよ!!」

「それならそれなら……」


 何も言葉が出なかった。

 私は瞬きひとつせず母の顔を見る。

 顔を真っ赤にして、感情をむき出しにする母を見て、私を叱ってる時の母の顔を重なった。

 あれって……自分の家を守るために怒ってたんじゃないんだ。

 私の事が大事だったから、怒っていたんだと気がつく。

 周囲の野次馬達が私達を見て涙を流しながら手を叩く。


「おめでとう!」

「誤解が解けてよかったな」

「つまり小雛ゆかりは大人になりきれずに10年間近く思春期を拗らせていて、お母さんはただ言葉足らずのコミュ障だっただけと……」

「あっ、そっか。小雛ゆかりがコミュ障だから、そりゃ、お母さんもコミュ障だよな」

「親子間の意思疎通に難があっただけで、お母さんは小雛ゆかりの事が好きで、小雛ゆかりは自分より家を大事にしてたと勘違いして構って欲しかっただけか〜」

「そういえば小雛ゆかりっていつもかまって欲しそうにしてるもんな……」

「ちょっと待って、なんでこの親子は10年以上も喧嘩してたんだっけ?」

「しーっ! それは言っちゃダメでしょ」

「長い親子喧嘩だったな」

「とりあえずあくあ様がすごい!」

「あくあ様万歳!」

「お前ら、もう飽きてきたからって、あくあ様を使っていい感じにまとめようとするな!!」


 もう、さっきからあんた達は何なのよ!!

 あくあは手を挙げると、みんなの顔をぐるりと見渡す。


「今日からここを小雛親子の和解の地として認定します!!」


 それを聞いた野次馬達が両手をあげて喜ぶ。


「やったー!」

「滋賀県に新しい観光名所ができたぞ!!」

「SEKAI NO BIWAKO!」

「やはり琵琶湖は我らの誇り!」

「仲直りしたい方はどうぞ琵琶湖へ!!」

「やはり琵琶湖は偉大だ」

「琵琶湖万歳! あくあ様万歳!」

「よーし、それじゃあ解散!」

「みんな帰り道に気をつけて!」

「小雛ゆかり、これに懲りたら少しは素直になるんだぞ!」

「そうだそうだ!」


 もおおおおおおおおおおおおお!

 野次馬のくせにあんた達は前に出てきすぎでしょ!!

 私はあくあに近づくとジト目で見つめる。


「……一応、お礼だけ言っておくわ。ありがと」

「どういたしまして」


 もう! 何よそのいい笑顔は!!

 茶化してきたらいつものノリで噛みつこうと思ったのに、そんな顔されたら何もいえないじゃない。


「あと、小雛親子って言うけど、うちは小雛じゃないわよ」

「……えっ!?」


 あくあはさっき私がしてたみたいなホゲったシンプルな顔になる。

 ん? うちのメイドとも仲良くなったのに、もしかしてうちの母親の名前も知らなかったの?

 はあ……そんなんだから、あんたはこう……いや、今はいいわ。


「小雛はおばあちゃんの苗字、だからお母さんの旧姓ね」

「えっ? じゃあ、小雛先輩の本当の名前って……」


 私が口を開こうとした瞬間、お店の人にお礼を言ってたお母さんがこちらに戻ってきた。


「ありがとう。そういえば、貴方には私の名前をまだ言っていなかったわね。ゆかりの母で九条よしみと言います」

「九条……確か名前に九とか久は玖珂の繋がりだって前に理人さんが言ってたような」


 あくあの言葉を聞いて、お母さんの周りに冷たい空気が漂う。


「玖珂? ええ、確かにうちは玖珂と同じ一族に数えられていますが、九条は玖珂と違って歴とした皇の血筋どすえ。世が世なら、うちのゆかりもお姫様として生きていてもおかしくなかったんですよ」


 もーーーーー! やめてよ! 何百年も前の話を持ち出さないでよね!!

 そういうのも嫌で私は家を出て、お婆ちゃんの名前を名乗ってるんだから!!


「小雛先輩がお姫様……?」


 あー、もう! 楓とあんたは難しい事を考えちゃダメって、いつも私が言ってるでしょ!!

 いつもはかっこいい顔がただのアホの子になってるじゃない!!


「ほら、さっさと帰るわよ!」


 私はあくあの体を押すと、帰りの車に詰め込んだ。

 すると、お母さんが私に近づいてきて、何かを言いたそうに指先をモジモジさせる。


「ゆかり……」

「わかってるって。今度、ちゃんとお婆ちゃんと一緒に帰るから、その時にね」


 私の一言でお母さんの顔がパァッと明るい表情になる。

 もう! なんなのよ!! 私だって最初からそういうわかりやすい感じだったら、こんなに長く拗らせてなかったんだから!!


「本当に面倒臭いわよね。あんた達親子って」


 全部の事情を知ってて黙ってたお婆ちゃんに言われたくないんだけど!?

 まぁ、お婆ちゃんからそう言われても、当時の私が素直に受け止めるとも思えないか……。

 そう考えると野次馬達とあくあには感謝しないといけないわね。


「本当に誰に似たのかねぇ」


 私とお母さんは、ニヤニヤした顔を見せるお婆ちゃんに向かって、心の中であんたに似てよと叫んだ。

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