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白銀あくあ、病院に行った方がいいですか?

 岐阜県の高山市に到着した俺たちは少し遅めのお昼ご飯を食べる事にした。


「うまっ!」


 俺は初めて食べる高山ラーメンに舌鼓を打つ。

 ここ最近、日本のラーメンは西洋料理を食べ慣れた外国の人からすごく高く評価されている。

 それは最近のラーメンのトレンドでもある、複雑な味のスープが足し算で行われる西洋料理の味付けに起因しているからだ。

 しかし、高山ラーメンは醤油スープに細縮れ麺といった、シンプルで昔ながらの中華そばスタイルである。

 一切の無駄を削ぎ落としたその究極でオーソドックスな構成は、まるで日本料理の引き算を体現しているようだ。

 何よりも高山ラーメンは食べ慣れた故郷の味、ラーメン竹子を思い出す。


「みんな元気にしてるかなぁ」

「あんたがいないからむしろあっちは平和で良いんじゃない?」


 ええっ!? 俺じゃなくて小雛先輩がいないから平和の間違いでしょ!?

 って言いたかったけど、それを言ったら怒られそうなので、グッと堪えてラーメンスープで押し流す。


「ところでこの後はどうする?」

「うーん……とりあえずは街ブラして色々と散策しませんか?」


 写真を撮るのもそうだけど、今回の企画を立ててくれた天我先輩へのお土産を買いたい。

 俺と小雛先輩はラーメンを食べ終わると、お店を出て通りを歩く。


「なんか良い匂いがする……」

「こっちよ!!」


 俺は先を行く小雛先輩の後に続いて匂いの発生源へと向かう。


「みてみて、みたらし団子よ!!」


 小雛先輩は大きな瞳を見開くと、キラキラと目を輝かせる。

 ああ、そういえばこの人、三度の飯より団子が好きだった。

 いや、団子だけじゃなくて、餅とか饅頭にもとにかく目がない。


「小雛先輩、五平餅もありますよ!」

「両方買いましょう!」


 五平餅っていろんな味付けあるんだ。

 俺はおばあちゃんがお勧めしてくれた荏胡麻タレの五平餅を購入して一口食べる。


「んま!」


 モチモチの食感もたまらないが、荏胡麻と米本来の甘さが効いていてすごく美味しい。

 それに加えて、この焼き立ての甘く香ばしい香りが口の中で爆発して、五平餅本来の美味しさをより一層際立てている。


「んん〜! 美味しい!」


 小雛先輩はみたらし団子を食べてご満悦な表情を見せる。


「ほら、あんたも食べなさいよ」


 小雛先輩は、先っちょの二つ分だけ食べたみたらし団子の串をこっちに向ける。

 ちょ、ちょっと待ってくださいよ。それじゃあ、間接キスになっちゃうじゃないですか。

 俺の中にいつまでも住み着いている童貞の俺がひょっこりと顔を出す。


「ん!」


 小雛先輩は大きく口を開ける。

 えっ? もしかして俺の食べかけの五平餅を食べるんですか?

 そ、それってW間接キスになっちゃうんじゃ……。


「しゃ、写真撮りましょうか?」


 うおっ! びっくりした!

 いつの間にかこちらに近づいてきていたベリベリのスタッフが、血走った目で手のひらをこちらに向ける。

 あ……ああ、俺の代わりにカメラで撮ってくれるって事ね。了解。

 俺は五平餅を持ってない手に持っていたカメラをスタッフさんに手渡す。


「はい、あーんして」

「あ、あ〜ん」


 俺は顔を赤くしながら、小雛先輩とお互いに食べさせっこしあう。


「ん……おいひい!」


 小雛先輩は五平餅をもぐもぐと食べて嬉しそうな顔をする。

 くっ、そのモチモチしてるほっぺたをツンツンしてぇ。


「ね。みたらしどうだった? 美味しかったよね? ね?」

「あ、はい。美味しかったです」


 めちゃくちゃ美味しかったと思う。

 でも、細かい味の感想なんて出ないくらいそれどころじゃなかった。

 くっそー、もしかしてこんな事で意識してるのって俺だけ!?

 俺は小雛先輩のかじり痕がついた五平餅を見て少し顔を赤くする。


「ん」


 小雛先輩は団子を食べ終わると、小さく舌を出して、串に残ったみたらしのタレを舐め取る。

 その時に見せた小雛先輩の少し愛おしそうな表情と、女性らしい唇と少しえっちな舌先に俺の心臓がドクンと跳ねた。


「いってぇ!」

「ちょ!? あんた、いきなり何やってんのよ!?」


 自分で自分の心臓を胸の上からぶん殴った俺を見て小雛先輩がびっくりする。

 これは勘違いだ。そう、何かの気の迷い。吊り橋効果みたいなものだと何度も自分に言い聞かせる。


「あんた、バカだバカだと思ってたけど、もしかして本当にバカになっちゃったの!?」


 これが煽りだったら良かったのに……。

 小雛先輩は心配そうな顔で俺の事を見つめる。


「すみません。ハエが止まってので……」

「いや、ハエが止まってたにしては勢いが強すぎでしょ!!」


 俺は苦しい言い訳をしながら、小雛先輩から顔を逸らす。

 小雛先輩は俺の体にそっと触れると、本当に心配そうな顔をして俺を見つめる。


「ねぇ、本当に大丈夫? 今日から優しくした方がいい?」

「い、いえ……むしろ、今までどおりでお願いします……」


 俺は手に持った五平餅をチラリと見ると、煩悩を振り切るようにパクりと食べた。


「小雛先輩、それよりもさっきの写真をSNSにあげましょうよ」

「そうね。そうしましょう!」


 俺と小雛先輩はスタッフの人から携帯端末を返してもらうと、撮ってもらった写真をSNSに投稿する。

 するとすぐにコメントがついた。


【月街アヤナ:いーなー!】

【白銀カノン:私もあくあと食べさせ合いっこしたい!!】

【桐花琴乃:やはり食べ物は鉄板、肉まん半分こに次ぐくらい良かったです】

【ぐぬ! ぐぬぬ! これはいい写真】

【ぐわー! うらやましか!!】

【私もこういうのしたいです】

【やっとラブラブっぽい写真が出るようになったじゃん】


 おお! コメント欄も最初から高評価が多い。

 これはかなりの高ポイントが期待できるんじゃないか?

 それとカノン、帰ったら一緒に食べさせ合いっこしような!!


【黒蝶揚羽:うらや】

【↑揚羽議員、本音がお漏らししてますよ!!】

【揚羽さん誤魔化せなかったんだろうなあ】

【ま、まで行ってないからギリ踏みとどまったけど、間違って送信押しちゃったんだろうね】

【↑今頃悶えてそう】

【いや、揚羽さんは小雛ゆかりと一緒で団子餅饅頭好きだからそっちかもしれん】

【↑この2人、意外と気が合いそうだよなw】


 揚羽さんのコメントにほっこりした気持ちになる。

 俺も揚羽さんのモチモチをモチモチしたいです。


【森川楓:あくあ君のこの表情……】


 俺は楓のコメントを見てドキッとする。

 演技して誤魔化したつもりだけど、楓は野生の勘で何かに気がついたのかもしれない。


【森川楓:もしかして、ゆかりが食べさせ合いっこを強要しているのでは!?】

【鞘無インコ:↑せや! 多分、未成年への強要罪か何かの罪に当たるで!!】


 ふぅ〜!

 楓とインコさんがポンコツでよかった。

 頼むから2人は永遠にそのままでいてほしいと心の底から願う。


【雪白えみり:ほぅ……! そういう事ですか】


 ん? 今、えみりのコメントがなかった? 俺の気のせいかな?

 ていうか、小雛先輩は画面のスワイプが早すぎるんだって!!


【3510:ふーん、少しはマシな写真を撮ってくるようになったじゃん。出来ない子達の成長を見守る親の気持ちってこういう感じなんだね。今回はすごくよかったよ。でも、食事もので点数を稼ぐ事に甘えが見えるので、93ポイントかな】


 小雛先輩ストップ! 相手はAIですよ!!

 えっ? 別に怒ってない? なるほど……これが子供の成長を見守る親の気持ちってやつですか。


「ね、次に写真撮るならあれがいいんじゃない?」


 俺は小雛先輩が指差した方へと視線を向ける。

 呉服屋? どういう事?


「ほら、あそこの看板見て」


 看板? ああ、あれか。

 俺は目を凝らして看板に書かれた文字を見る。


【着物レンタル中、カップルプランあります】


 カップルプラン!?

 ちょっと待ってください小雛先輩。

 俺は一旦頭の中の情報を整理する。


「ん? 急に神妙な顔をしてどうしたのよ」


 もしかして、俺と小雛先輩って俺が知らない間に付き合っていたのか……?

 それなら今までの話が根底から違ってくる。

 さっきの間接キスも、付き合ってるなら気の迷いなんかじゃないよな

 そう考えると、小雛先輩の傍若無人なところも可愛く見えてくる。

 なるほど……あ、そっか、だからこの前、酔った時にえっちな事をしてくれてたんだぁ。

 すでに頭が混乱している俺はますます頭を混乱させる。


「ちょっと、またバカな事を考えてるんじゃないでしょうね。看板ちゃんと見た?」


 はいはい、わかってますよ。

 俺は小雛先輩に促されてもう一度、看板に書かれた内容を確認する。


【着物レンタル中、カップルプランあります。カップルプランのモデルになってくれた方は無料でレンタルします!!】


 あ、なるほど。そういう事か。うん……やっぱり気の迷いだったわ。

 混乱の解けた俺は、軽く息を吐いて肩を落とす。


「ほら、何を落ち込んでるのか知らないけど、あそこで着物のモデルになって写真撮りましょ!」

「そうですね。そうしましょう!」


 気を取り直した俺は小雛先輩と一緒に呉服屋さんを訪ねる。


「ほげぇ〜」


 若女将さん、大丈夫ですか!?

 俺は固まったまま後ろに倒れようとした呉服屋の若女将さんを抱き止めると、そのまま畳の上に寝かせる。


「あらあら、こんな事で倒れてるようじゃ、この子もまだまだねぇ」


 異変に気がついた呉服屋の大女将さんが上の階から降りてくる。

 ええと……若女将さんを部屋の中まで運びましょうか?

 えっ? そのまま床に転がしておいていい? はい、わかりました。


「ほらほら、貴女達も惚けてないで仕事仕事! 私があくあ様を担当するから、皆さんは小雛ゆかりさんを着付けてあげて」


 俺は小雛先輩に「また、後で」と声をかけると、大女将の後をついていく。


「大女将ずるい……」

「サラッと出てきて一番美味しいところを取っていったぞ!」

「やっぱり若女将にはまだ早かったか……」

「ほら、あんたたちも惚けてないで仕事仕事」

「ねぇ、誰か幸せそうな顔をしてうなされている若女将を叩き起こして。大仕事よ!」


 俺は小雛先輩とは別の部屋に入ると、大女将のお勧めする着物を肩に乗せて自分にどれが似合うかを確認する。

 大女将は色々とチェックした後に、柄のない紺色の着物を選択した。


「あくあ様はお顔がいいから、主張しすぎない無地の着物の方が映えると思いますよ」


 なるほど……。俺は大女将に褒められて、ものすごく気分が良くなる。

 若い人よりお年寄りの方がシンプルに褒めてくれることもあって、俺はおばあちゃん達が大好きだ。


「羽織は同じ紺系統で生地や織が違うものにしましょう。帯は銀糸の西陣があったはず……」


 おお! 銀糸の帯かっこいいな!!

 このセット、普通に買いたい。


「大女将さん、これプライベートで買っていい?」

「わかりました。それじゃあ、新しいやつがあるので後で自宅までお送りしますね」


 いや、この着てるやつでいいんだけど……。

 えっ? これは後でガラスケースに入れてお店の入り口に飾るからダメ?

 あ……はい。わかりました。

 着物を着た俺は先にお店を出ると、小雛先輩の準備が整うのを待つ。


「ごめん、待った?」

「いえ、待っ……て、ま……せん?」


 俺は小雛先輩の着物姿を見て固まった。

 小雛先輩の唇と同じ色の薄ピンク色の着物に俺はドキッとする。

 なかなか出てこないなと思ったら、どうやら着物に合う化粧やヘアアレンジをしてもらっていたらしい。

 アップした髪も可愛いけど、そのおかげで見えるようになったうなじがすごくセクシーだ。

 京都出身だと聞いてもしやと思ったが、まさかここまで着物が似合うなんて予想外だった。

 少女らしさと大人の女性らしい部分が混在した小雛先輩の魅力に、俺はふらつきそうになる。


「ど、どう?」

「あ……薄ピンク色の桔梗柄の着物と白い帯が小雛先輩によく似合っていて綺麗だと思います」


 小雛先輩はシンプルに褒められた事が恥ずかしかったのか、頬の色が着物の色と同じ色になる。

 ちょ、ちょっと、そんな可愛い反応しないでくださいよ! 俺が困るじゃないですか!!

 俺は胸の痛みを抑えるために、自分の乳首をつねる。


「ちょっと!? あんた、本当に大丈夫?」

「だ、大丈夫です。おかげで落ち着きましたから」


 俺は改めて身だしなみを整えると、小雛先輩と一緒にお店の近くで何枚か写真を撮ってもらう。


「あくあ様の着物姿かっこよしゅぎりゅ……」

「小雛ゆかりずるい。ずるいけど美人だから絵になる……!」

「あっ、そっか。小雛ゆかりって女優だったんだ……」

「小雛ゆかり、いつもとギャップあるのずるい!!」

「くっ! こうやってみるとお似合いじゃねぇか!!」


 ついでに自分達用の写真を撮って、SNSにも投稿した。


【月街アヤナ:あくあもゆかり先輩も似合ってる!!】

【天鳥阿古:やっぱり、ゆかりって着物似合うよね】

【白銀カノン:きゃー! やっぱりあくあの和装が最強!!】

【桐花琴乃:いいですね。デートっぽい感じがします!】

【日本のナンバー1女優が、着物が似合わないなんて事がないんですよね】

【小雛ゆかり、たまにわからせてくるのずるい!】


 おお! さっきのと負けないくらいこっちも高評価のコメントが多い。

 これなら高いポイントが期待できそうだ。


【森川楓:あくあ君が大人びたシックな着物を着て、ゆかりがこういう若い感じの着物を着ると、2人の年齢差が縮まって師弟感が薄れるせいか恋人同士のように見えてくる】

【鞘無インコ:それに加えてあくあ君の銀の帯とゆかりの白の帯のせいで、妙に夫婦感がでてる。これは間違いない。呉服屋さん、狙ってるやろ?】

【こいつらwwwww】

【普段はポンコツなコメントしかしないのに、急にわかりやすい解説するのやめてくれませんか?】

【森川はいつも歯車がズレてるから、メアリー卒と言われても鉛筆転がしてただけだろって思われてるけど、歯車が何かの拍子に噛み合った時だけメアリー卒の知能が100%解放されるんだよ】

【↑森川ソムリエさん、急に新しい設定出てくるのやめてw】


 げげ! インコさんのいう通り、確かに俺と小雛先輩の帯が白銀になっている。

 俺が呉服屋の大女将さん達へと視線を向けると、みんなが口笛を吹いて顔を横に逸らした。

 これは間違いなく確信犯です。まぁ、カップルらしく見せるって観点では正解だからいいのか……。


【雪白えみり:んん? これは、あくあ様だけじゃなくて、小雛先輩も脈なしではない……?】


 だから小雛先輩はスワイプのスピードが早いんだって!

 もー! さっき、絶対にスルーした中にえみりのコメントがあったでしょ。


【3510:こういうのでいいんですよ! もー、やればできるんだからさっさとやってよね!! まだまだ上がある事を期待して98点!!】


 うおおおおおおおおおおおおおお!

 AIの判定がだんだん甘くなってきたのか高ポイントが出た!!


「やったやった!」

「やりましたね。小雛先輩」


 俺は喜ぶ小雛先輩とハイタッチする。


「ねぇ。私たち、替えの服がないから、旅が終わるまでこれ借りてていい?」

「どうぞどうぞ!!」


 大女将さんは俺の方に視線を向けると、片目をウィンクして何度も合図を送る。

 わかってますって。後で新しいのを自宅に送るから、今、着てるやつを送り返せばいいんですね。了解。

 俺は小雛先輩と近くのお土産屋に行くと、天我先輩とお揃いのさるぼぼを購入する。

 24時間テレビを経て春香さんにも心境の変化があったのか、カノン達に自分も天我先輩の子供が欲しいって事を相談してたらしい。

 それをカノン達から聞いていたから、安産や子供の成長、夫婦円満の願いが込められたさるぼぼを送るのがいいと思った。


「それじゃあ、岐阜市にいきましょうか!」

「はい!」


 俺は小雛先輩と一緒に列車に乗ると、高山市を後にして岐阜市へと向かった。

 そこで郷土料理の朴葉味噌などを堪能した俺達は、時間が時間だったので近くの旅館に泊まる。

 よし! 今晩泊まって、明日はいよいよゴールの滋賀県だ。そしてその後は……。

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