幕間、IF 白銀あくあ、謎の宗教団体。
本編がお見せできない内容なので、こちらを転載します。
読者さんからのリクエストで書いた、もし、あくあが某宗教団体に行ったらという話になります。
「お疲れ様でした!」
「また明日!」
ベリル本社で打ち合わせを終えた俺はエレベーターホールへと向かう。
ふんふふんふーん、今日の晩御飯は鍋だ。楽しみだなー。
「あ、点検か」
しゃーない。
俺はさらに奥に行くと、いつもは乗らないエレベーターに乗って地下駐車場へと向かう。
「ん? ここどこ? あれ?」
地下駐車場じゃない?
へー、このビルって地下に駐車場以外のフロアがあるんだ。すごいなー。
少し楽しくなってきた俺は、エレベーターホールから離れると周囲を探検する。
立ち入り禁止とかも書いてないし、なんか言われたらその時は戻れば大丈夫でしょ。
「ん?」
なんかあそこの角から人の気配がするな。行ってみよう。
俺は曲がり角を曲がると、そこにいた受付の女性に声をかける。
「こんにちは」
「こんにち……」
あれ? どうしました?
2人いた受付の女性が同時に固まってしまう。
って、シスター服着てるけど、ここってもしや教会とか宗教施設なのかな?
うわー、どうしよう!? ワンチャン、なんかやばい宗教とかじゃないよな?
女の子を崇拝するような宗教とかなら喜んで入るけど、個人のやべー奴を崇拝するような宗教とかは勘弁してくれよ。
そんな事を考えていると受付の後ろから見覚えのある人物が出てきた。
「あ、あくあくあくあ君!?」
「ん?」
あっ、同級生のクレアさんだ!!
「クレアさん?」
「あくあ君、どうしてこんなところに!?」
いやいやむしろそれはこっちのセリフですよ。
俺はたまたまここに辿り着いてしまった事をクレアさんに説明する。
「で、クレアさんはどうしてここに?」
「え? あっ! え、えーと……」
クレアさん? 急に視線を泳がせてどうしたの?
「あっ! そういえば実家が教会だって言ってたっけ。あー、なるほど。もしかしてスターズ正教の手伝いか何かでここにいるのかな?」
「あ……はい、まぁ、その、なんというか、うん、似たような、似てないような、そんな感じです」
クレアさん大丈夫?
さっきからずっと汗がダラダラ出てるけど体調悪いなら無理しちゃダメだよ。
「あ、よかったらだけど、少し見学していっていいかな?」
「見学ぅ!?」
あ、やっぱりダメかな?
奥にある教会とかちょっと覗いてみたいなーなんて思っちゃったんだよね。
ビルの中に教会があるって結構珍しいし、地下神殿って響きにちょっとワクワクソワソワしている自分がいる。
それこそ天我先輩とかそういうの好きそうだし……あ、そうだ! よかったら今度みんなを連れてこようかな?
クレアさんもいるし、スターズ正教関連なら安心でしょ。
「じゃ、じゃあ、少しだけ。私がご案内しますね」
「ありがとう。クレアさん」
あっ、ところでずっと固まってる受付のお姉さん2人は大丈夫?
え? そのまま放置しておいて大丈夫? うーん、まぁ大丈夫だって言うし、いっか。
「こ、ここが奥の教会になります」
「うわー。天井たけー!」
おまけに柱の一本一本にも彫刻が入ってるし、普通に凄すぎて圧倒される。
天井もすごく凝ってるし……って、あれ!
「クレアさんクレアさん!」
「ど、どうかしましたか?」
俺は天井近くの壁に設置された4体の女神像のうちの1つを指差す。
「あの石像なんかうちのカノンに似てない?」
「ぎっくぅ!?」
ん? クレアさん大丈夫?
急に腰が砕けたみたいになってるけど、ぎっくり腰にでもなった?
俺はクレアさんに肩を貸すと体を起こしてあげる。
いやーしかし、この石像いいなー。普通に俺も家に飾りたいくらいだ。
なになに? 乙女の聖人? へー、恋愛成就と子宝か。よっしゃ! ここは一応ちゃんと拝んでおこっと! 無事に俺とカノンの子供が生まれますよーに!!
「って、こっちの石像、なんか琴乃っぽくないか?」
「ヒュ〜」
クレアさん、急に口笛なんか吹き出してどうかしましたか?
えーと、姐聖人? 仕事運と厄除けか。
良い仕事に巡り会えますように! あとできれば理想のおねショタプレイを……おっと、姐聖人なんて書いてあるから、ちょっとだけ俺の欲望が顔を覗かせてきちゃったな。
「そういえば、こっちもそこはかとなく楓っぽいような」
「ホゲ〜」
ホゲーって、え? ホゲ聖人!? ホゲの聖人なんていたんだ。すごいな!?
えーとなになに? 身体健康とお笑いの聖人!? よし、次の小ネタ王も優勝できるように拝んでおくか! それと家族全員、俺の周りにいる人達が健康で過ごせますように!!
「あ……!」
俺は4体目の石像を見た瞬間に固まってしまった。
こっ、これは!?
「理想的だ……」
「え?」
ただ大きいだけや、ただ形が美しいだけではない、たまらないほどの何かが石像を通しても伝わってくる。
なんだこの生々しさと穢れなき美しさが同伴するようなだらしなくも綺麗な膨らみは!!
こんなものが世界に存在していいんですか!?
「これは女神です」
「はあ!?」
そうか、わかったぞ!!
こここそが俺の探していた理想の宗教、ぱいぱい教団の総本部だったんだ!!
くっそー、そういうのがあるんならもっと早くに教えてほしかったよ!! すぐに入信したのに……。
いやー、しかし納得だわ。なるほどね。そういえばクレアさんも良い形をしているし、受付の2人の女の子だって確定でH以上あったし、これは何かあると思ってたんですよ!!
これは、俺のセンサーも捨てたものじゃないな!
「い、いえ、うちの聖女様です……」
「結婚してください」
「えっ!?」
「あ……すみません。こんな人が実在してるなら、男として一旦は求婚しておかないと失礼かなって」
あっ、クレアさんが固まっちゃった。おーい!
うーん。これはなんか重症そうだな。どうしようか。
「おーい、クレア……って、あくあ様ぁ!?」
「あっ、えみりさん」
シスター服を着たえみりさんが俺を見て驚いた顔をする。
ほう……これはこれは。うん、さすがはえみりさんだと思う。相変わらずいいものをお持ちになってる。
うーん、この膨らみを見てると何かを思い出しそうになるんだが、頭に靄がかかったようになって考えすぎると頭が痛くなった。
くっ!
いつもならここで諦めるところだけど、今日の俺は違う。
あと少し、そう、もう少しで大きな真実に辿り着けそうな気がするんだ。
俺はモヤの中をさらに一歩、前に足を踏み出す。
『これ以上はだめ』
『だっ、誰だ!?』
いや、この声には聞き覚えがある。
というか、俺がこの声を知らないわけがない。
『それ以上、前に進んではダメ』
『カノン!? どうして、カノンがここに!!』
カノン、珍しくそんな真面目な顔をしてどうしたんだい? ほら、難しい事とか考えたら知恵熱出ちゃうよ!! あっ、それにまたそんな薄着をして! ダメじゃないか。ほらぽんぽんを壊さないように着替えなきゃ。
はい、両手あげて! って、全然カノンに近づけない。これは一体、どうなってるんだ!?
『私は運命を愛し、運命に愛された女神、カノン』
『運命を愛し、運命に愛された!? いきなりそんな厨二病みたいな事を言ってどうしたんだい?』
これは重症だ。すぐに侍従医の宮餅先生に見せないと……。
『世の中には知らないほうがいい事もあるのです。さあ、お帰りなさい!!』
『ぐわあああああ!』
俺の方へと手を伸ばしたカノンの指先から新たな靄が噴き出されると、俺を一気に押し返していく。
くっ、なんも見えねぇ。そもそも目が開けられない。俺はなんとか一瞬だけ瞼を持ち上げる。
するとカノンの後ろに見覚えのある影が見えた。
あ、あれは、セイジョ・ミダラー!!
そうか、お前がカノンを誑かしたんだな!!
さすがはチジョーの親玉、やる事が汚い!! でも、膨らみが理想的だから全部許しちゃう!!
「はっ!?」
お、俺は何をやっていたんだっけ? だめだ。何も思い出せねぇ……。
心なしか石像の1つ、ホゲ聖人が俺に対してほくそ笑んだ気がした。
「あくあ様? だ、大丈夫ですか?」
えみりさん……相変わらずいい膨らみをしている。
あれ? この……なんだっけ? あれれ?
まぁ、こまけー事はいいか!
こんなにも素晴らしいものを前にしてごちゃごちゃ考える方が失礼だ。
とりあえず心の中で拝んどこっと!
「な、なるほど、それで見学を……」
俺はえみりさんに事情を説明して、引き続き教会内を見学する。
「こ、ここが祭壇です」
「へー……って、あれ? この石像……」
「うえっ!?」
「こいつ、中々いい腹筋してますね! 俺も負けてられないぜ」
「セーフ! あくあ様があくあ様でよかった。セーフ!!」
あれ? えみりさんどうしました?
気絶から復活したクレアさんとえみりさんの2人がコソコソと会話する。
「これがとあちゃんなら秒で気がついてたけど、相手はあくあ様だ。なんとかなるぞ!!」
「本当に? まぁ、自分の石像見て気が付かないんだから重症だよね。これならなんとか誤魔化せるかも……」
ん? なんか奥の方に阿古さんに似た石像があるな。
商売繁盛と芸能? よし、ベリルが発展しますようにって代わりに拝んどこっと。
後ろにちょこんと置いてある小熊の置物はいいか。あれはあんまご利益なさそうだし、拝まなくて大丈夫だろ。
さーてと、お祈りも終わったし、帰ろうかなーと来た道を戻る途中で、俺は心ときめくワードが書かれた看板を見つける。
「珍宝館!?」
「「!?」」
珍宝館ってなんだろ?
珍しいお宝って書いてあるし、秘宝館みたいなものかな?
うわー、これは行くしかないと思った俺は、2人に行きたそうな顔をする。
「じゃ、じゃあ、先っちょだけ」
「あざーす!」
さすがはえみりさん。先っちょだけでも入れさせてくれるなんて、なんて優しいんだ。
これはもはや女神、いや聖女……うっ! また頭が痛くなる。これ以上は考えないようにしよう。
「おー……って、これなんだ?」
大量の茄子のオブジェが飾ってあるのを見つける。
うーむ、これは見事な木彫りの茄子だ。しかも通常の茄子だけではなく、何故か漬物の茄子まである。
「え、えっと、著名なアーティストの作品です」
「ふーん」
よっぽど茄子に強いこだわりがあるのだろう。
特にこの反り返った茄子の迫力はすごいな。
俺はお茄子のコーナーを通り過ぎると、次のコーナーへと向かう。
「カトラリー? その下に散らばった紙?」
これは最近流行ってるアートディレクションってやつですか?
俺はしばらく考え込むと、ポンと手を叩いた。
「なるほど、これは……」
「「こっ、これは……?」」
「SDGsですね。食事をする際にゴミを減らそうという警鐘するためのアートディレクションです!!」
食事が終わった後の使い捨ての食器、コップに刺さった使用済みのストロー。散らばったティッシュ。
これは、一回の食事でこれだけのゴミが出ているという人類への警鐘だ。
俺も気をつけよう。うん。
「ふぅ……あくあ君のだってバレなかった。セーフ!」
クレアさん、なんか言った?
俺は次のコーナーに向かう。
「え? 壺?」
蜜が詰まった欲望の壺?
なんか、すごく惹かれる気がするのは俺の心が汚れてるせいかもしれない。
ごめんな。
「あ、あれってまさか……」
「みなまで言うなクレア」
「って、製作者捗るって!」
「しーっ! あくあ様に聞こえるだろ!!」
まだまだ奥に何かありそうだな。
俺はそちらへと足を向ける。
「あ、あくあ様、その、そっちは……」
「えっと、えっと、そっちはちょっと」
えみりさん? クレアさん?
2人して慌ててどうしたんですか?
俺たちが立ち止まっていると、行こうとしていた方向から足音が聞こえてきた。
「あら、あくあ先輩、こんなところでどうしたんですか?」
「え? くくりちゃん?」
なんでこんなところにくくりちゃんがいるんだろう?
くくりちゃんの立場を考えるとスターズ正教って事はないだろうし、俺は首を傾ける。
「寄贈です」
「あー、なるほど」
くくりちゃんが持っている芸術品か美術品を珍宝館に寄贈しにきたってことか。理解した。
「というわけで、今、こちらは入れ替えの準備中となっております。申し訳ありませんが……」
「ああ、なるほど。そういう事なら仕方ないよな」
「すみません」
「いやいや、俺の方こそ無理言って見せてもらってるし、今日はすごく楽しかったよ」
俺はUターンすると珍宝館の出口へと向かう。
「た、助かった……」
「くくり様ありがとうございますありがとうざいます」
「全く、あそこから先を見られてたら流石に不味かったわよ。いくら鈍……純粋で無垢な可愛いあくあ先輩でも騙せなかったと思うわ」
おっと、思ったより長居しちゃったな。
これ以上は迷惑になるだろうと、俺は帰るために受付のある入り口まで戻る。
「あら……」
「まぁ!」
「あ、メアリーお婆ちゃん。それにキテラさんも!」
スターズの2人が来た事で俺はここがスターズ正教なのだと確信する。
「2人ともお祈りか何かですか?」
「ええ、そうよ。ほぼ毎日来てるわ」
「はい。私もシスターだから毎日お祈りしているんですよ」
へー、なるほどな。敬虔な信徒ってやつですか。
そういえばカノンもスターズ正教なのかな?
もし、そうだとしたら今度ここに連れてきてあげよっと。
「それじゃあ、俺は帰りますから。クレアさん、えみりさん、くくりちゃん、メアリーお婆ちゃん、キテラさん、それに信徒の皆さん。お世話になりました。またね!」
俺は来た道を戻るとエレベーターホールのところでエレベーターが来るのを待つ。
すると通路の奥からドタドタという音が聞こえてきた。
なんだなんだ? 非常用通路? そこから出てきたシスターさんが何やら大きな声で騒いでいる。
「サバちゃんから入電! 男性掲示板に我らが主神に対して危害を加える旨の書き込みがされた模様!!」
「なんだって!?」
「どこの不届きものだ!?」
「命知らずのバカが、とっ捕まえて再教育だ!!」
「私達に喧嘩を売るとはいい度胸してるじゃない。宗教戦争だ!!」
「将軍様が炭鉱送りにするって竹槍を持って出ていったぞ!」
「各員に告ぐ! これは聖戦である。繰り返す。これは聖戦である!!」
「うわぁ! ワーカーホリックが胃痛でボタンをカチカチし始めた!」
「なんとしても核の雨が降る前に片をつけるぞ!」
「急げ急げ!」
「祭りだ祭り!!」
うわー……なんかよくわかんないけど、やっぱり宗教って怖い。
みんな普通そうに見えたのに、スターズ正教といえど宗教ってやばいんだな。
やっぱりカノンを連れてくるのは無しだ。
クレアさん達には悪いけど、下手に近づかんとこ……。
俺は降りてきたエレベーターに飛び乗ると、ボタンを連打してさっさとこの危険そうな場所から離れた。
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