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天鳥阿古、新商品開発部。

 ベリルエンターテイメントの主な収入源は、マーチャンダイジング、契約している所属タレントの肖像権を使用した商品を販売した収益によるものだ。

 テレビや映画、雑誌の出演料、配信、ライブでの収益も決して少なくないし、ダウンロードやCDによる楽曲販売、映像のストリーミング配信や映像記録媒体の販売はかなりものだが、それでもグッズ展開で得られる収益には遠く及ばない。

 よって、この会議はベリルエンターテイメントの中でも最重要会議と言われている。

 それなのに……。


「ベリルの新商品開発? へぇー、面白そうじゃない。じゃ、行くわよ!」

「えっ?」


 これから開発部の会議があるからと言って席を立ったら、ご飯を食べていたゆかりが勝手についてきた。

 いや、ついてきたというよりも、私より先に部屋に入ろうとしている。

 たまに忘れそうになるけど、ゆかりってベリルの所属じゃなくて越プロなんだよね。

 そんなゆかりを開発部の会議に入れていいのか……と、一瞬だけ考えたけど、今更どうって事ないか。

 それに外部の意見もすごく重要だ。

 私はゆかりの後に続いて開発部に入ると、今回はアドバイザーとしてゆかりが参加する旨を伝えた。


「では、会議を始める前に一つ。えーっと、今回は商品開発部顧問の白銀カノンさんの出産予定日が近づいてきている事もあり不参加になります。また、桐花琴乃さんもカノンさんの出産に合わせて、現在は産休を取っており、この会議も欠席するとの連絡を頂きました。で、その代わりと言ってはなんですが、2人の代わりに今日はこの2人にアドバイスを頂けることになりました。それでは一応、お二人の方からご挨拶をお願いできますか?」


 司会振興を務める商品開発部社員の紹介で、スーツ姿で眼鏡を着用したキリッとした顔の見覚えのある2人がすくっと立ち上がる。


「どうも。ベリルエンターテイメント並びに国営放送所属のアナウンサー、森川楓です。今日は姐さんの代役で、みんなをビシッと纏める役できました。今日は形からちゃんと入ってきてるので任せてください!!」

「ベリルエンターテイメント並びにラーメン竹子のプロアルバイター、雪白えみりです。今日はカノンの代役として幾つもの商品案を持ってきました。この冬のクリスマス戦争はこの私に任せてください!!」


 うん……不安しかないよね。

 それと、楓ちゃんはまだわかるけど、えみりちゃん、うちの仕事はアルバイトじゃないよ。

 アレ? そういえば、えみりちゃんとうちの契約って今、どうなってるんだろ……。まさか、えみりちゃんがすぐにお金が必要だっていうから、最初に交わした日雇契約のままになってないよね?

 ……後で社員の1人にチェックするように言っておこう。


「阿古っち大丈夫? 明らかに仕事の出来なさそうな顧問しかないけど……」

「ちょっとちょっと! 仕事ができないとは失敬な。この森川楓、あのステイツが選ぶ昨年度の今年の女ベスト100の1人に選ばれたんですよ!!」

「はあ!? それは選んだやつの頭がおかしいだけでしょうが!!」

「いやいや、パワーと頭脳を兼ね備えた素晴らしい女性だって、ここに書いてありますよ!」

「どーせ、メアリー卒だけ見て頭がいいと思われてるだけでしょ。あいつら日本語なんてわからないんだから、あんたが馬鹿だってバレてないだけじゃん」


 ゆかりと楓ちゃんのしょうもない言い争いに頭を抱える。

 それを見たえみりちゃんが2人の仲裁に入った。


「まーまー、2人とも。あのあくあ様が選ぶ今年の膨らみ、ベスト100に入ってるこの私に免じて喧嘩をやめてくださいよ」

「えっ!? そんなのがあるの!? 私のもちゃんと入ってる!?」

「いやいや、流石にあのバカでもそんなランキング作らないでしょ! そもそも、女性の膨らみに貴賎なしとか言ってるあいつがそういうのでランキングなんてつけないし、女の子のならどれでも喜ぶでしょ!! この前なんて、天我君のまでガン見して、先輩、いい形してますね。だろう! って、2人でものすごく頭の悪そうな会話してたのを見たわよ!!」


 私は机に顔を突っ伏す。

 えみりちゃんに期待した私がバカだった。


「そんな素敵なエピソードが!?」

「これはやはり、封印した雄っぱいマウスパッドを製品化する時が来たのでは?」

「くっ、確定で売れる未来しかない!」

「いや、流石に倫理的な問題と、許可を取る問題がですね……」

「倫理的な問題はともかく、あくあ君は許可出しそう」

「あくあ君って基本NGないよね」

「商品開発部として売れるのが確定してる商品が出せないのはという葛藤もあるけど、法的なリスクの面も考慮しないと。あくあ様のマウスパッドが法的に引っ掛かるリスクを考えるとですね……」


 あー! もー! 真面目な商品開発部の社員まで影響されてるし、やっぱり3人のコントが始まっちゃうし!!

 ゆかりに楓ちゃんにえみりちゃんって組み合わせの時点で嫌な予感しかしなかったんだよね。

 そういえば、今日はあくあ君はいないんだっけ?

 良かったぁ。ここにあくあ君がいたら100%収拾がつかなくなって、会議の時間が完全にムダになるところだった。


「コホン! コホン!!」


 私は何度も咳払いして、なんとかみんなを落ち着かせる。


「えーと、今回の会議のテーマは食品になります。それでは、この冬の商品について商品案がある人は……」

「はいっ! はいっ! はいいいいっ!」


 誰よりも先に席から立ち上がったえみりちゃんは自信に満ち溢れた顔で挙手をする。

 大丈夫かなぁ……。


「えーと、それでは臨時顧問の雪白えみりさん。お願いします」

「はい! それではこちらの画面をご覧ください!!」


 えみりちゃんはメガネを2回くらいクイっとさせると、手に持った指し棒で画面に書かれた文字を指す。


【〜ベリルエンターテイメント、冬の新商品について〜】


 これって、パワフルポイントで作ってるのかな?

 えみりちゃんって、本当になんでもできて器用だよね。


【新商品案その1、北海道の牛乳を使ったホワイトミルクチョコをビスケットで挟んだ新感覚お菓子!!】


 えみりちゃんはテーブルの上に缶箱を置くと、蓋を開けてみんなに一枚づつ配っていく。

 すごい! もう試作品まで作ってるんだ。

 隣に座っているゆかりに続いて、私もえみりちゃんから新作のビスケットを受け取る。


「あっ、美味しい」


 チョコレートとビスケットが同じ硬さなのがいいわね。

 ボリューム感も程よいし、一個食べたらまた次が欲しくなってくる。

 これはクセになりそう。


「ふーん、美味しいじゃん」

「うんめー! えみり、おかわり!」


 ゆかりと楓ちゃんも美味しそうにホワイトチョコビスケットを頬張る。

 反応を見る限り、他のスタッフ達からも好感触なようだ。

 続けてえみりちゃんは商品の価格帯や一個当たりの利益、予想販売数についても説明していく。


「で、肝心の商品名はなんなのよ?」

「任せてください。それに関してはもう決まっています!!」


 自信満々な顔をしたえみりちゃんが、指し棒をモニターに向ける。


【〜白い息子〜】

 

 パッケージの画像には、全国ツアーで北海道に行った時に撮影したあくあ君が印刷されていた。

 あー、いいんじゃないかな。この白いっていうのがあくあ君の苗字である白銀を連想させるし、北海道のパッケージも相まって雪や冬とのイメージにもピッタリ合う気がする。

 息子っていうのが年上の人達に受けそうだけど、もっと幅広い層をターゲットにできる友達とか別のワードにした方がいいかもしれない。

 そんな事を考えていると、楓ちゃんが何かに気がつく。


「なんかこの雪、やたらとドロドロしてるような……」

「ぎくっ!」

「ていうか、湖まで白く濁ってるのおかしくない?」

「ぎくぎくっ!」

「よく見たら、なんか影の形が変なような……」

「き、気のせいですよ」


 私はえみりちゃんの肩をポンと叩くと、全てを白状するように無言の圧をかける。


「その……えっと、実はですね……」


 私はえみりちゃんの説明を受けて、心の中で「はい、アウトー!!」と叫ぶ。

 全くもう、何やってんのよ!!

 せっかくここまで全部良かったのに、最後の最後に完全アウトじゃない。

 もー! 試作品だって好感触だったのに、商品名もちゃんと真面目につけてよ。

 私は試作品を一枚手に取ると、袋を破ってもう一度食べる。

 み、みんなも無言で食べてるし、別にいいよね。


「じゃあ、普通に白い王子様でいいんじゃない」

「確かに。そっちの方があくあ君のイメージに合いそう。それか騎士様とかね」


 ゆかり! 楓ちゃん! ナイス!!

 没になる予定だった新商品が2人のおかげで、改めて次の会議でパッケージの商品名を訂正して検討される事になった。


「それでは次の案を発表したいと思います!!」


 えみりちゃんは再び自信ありげな感じで、メガネをクイクイさせる。

 次こそは大丈夫だよね? 私は無言でえみりちゃんに圧をかけた。


【新商品案その2、大人の女性をターゲットにした夜に食べる背徳的なパイ菓子】


 夜にお菓子か〜。たまにどうしようもなく食べたくなるけど、太っちゃうよね。

 高カロリーすぎるとちょっと敬遠しちゃうかも。


「えー、このお菓子はですね。はっきり言って高カロリーです。で・す・が! これはあえてです!! まずはこちらをどうぞ!!」


 え? もしかして、これも試食品を作ってるの?

 えみりちゃんはみんなにパイが入った袋を手渡していく。


「これって、ハート型? なんかタレみたいなのがかかってテリテリしてるな」

「形はパルミエよね。あと、このタレはなんだろう?」


 美味しそー。とりあえず食べてみない事にはなんとも言えないか。

 そう思った私は、タレのかかったパルミエをぱくりと食べる。


「ん」


 美味しい! このサクサクとした食感と謎のタレがクセになりそう。


「美味しいけど、背徳感がパねえ……」

「確かに、でも1枚食べたら、2枚目が欲しくなっちゃう味よね」


 うんうん。それと心なしか、体が芯から熱くなってくるような気がする。

 何か特別なものでも入っているのかな?


「えみりちゃん、これ、何か入れた?」

「はい! 生地にうなぎのエキスが入ってます!!」


 いやいや、うなぎだけじゃこ雨はならないでしょ!!


「本当に? このタレはナニ?」

「えっとぉ……そのタレは企業秘密でして……」


 じーっ!

 私はえみりちゃんの目を瞬きをせずに見つめる。


「こ、これは特製のタレに、私が開発したオリジナルの媚薬をですね……」

「それじゃない。もう!!」


 媚薬って本当にあるんだ。

 私は自分以外の人の様子が気になって周りを見る。

 あれ? ゆかりや楓ちゃんは大丈夫なの? も、もしかして、私だけ……?


「あー、これは当たりです。媚薬は一箱に一個だけなんですよ」


 もー、全部、普通のにしてよ!!

 なんでえみりちゃんは余計な事をしちゃうの!?

 余計な事をしないと死んじゃう病気じゃないよね!?


「夜に火照った体を持て余した熟女に特におすすめです。試しにK議員に食べさせたところ、とんでもない事になりました」


 モニターに目線のズレた揚羽さんの画像が映る。

 全然隠してないじゃない! もっと配慮してあげなさいよ!!

 ほら、さっさと映像を止めてあげて!!


「それと皆さん、これをハート型だと勘違いしていますが、ひっくり返してよくみてください。ここまで言えば、もうお分かりになりますよね?」


 もおおおおおおおお! ハート型って、可愛いなって思ってたのに!!


「で、念の為に聞くけど、これの商品名は?」

「えみりが型から作ったパイ、略してえみりパイです」


 えみりちゃんは無駄に体張りすぎでしょ……。

 それと型も作ってあるって? もう引き返せないところまで来てるじゃん。


「なお、高カロリーを敬遠する女性のために、少し小さめのかのんパイも用意してあります」


 大丈夫かなぁ。ちゃんとカノンさんに許可取った? 勝手に作ってたりしないよね?

 あ、目を背けた! 絶対に無許可販売だ!!


「それでは実際にえみりパイとかのんパイを試食した人の映像を見ましょう」


 モニターの映像が切り替わるとモザイクのかかった男性が映し出される。

 うん、どっからどう見てもあくあ君だよね。モザイクの意味とか100%ないよね。


『こ、これが、えみりパイ、うめぇ……』

「あんたは、女の子が作ってくれたものならどうせ何食っても美味いとかいうんでしょ!!」


 ゆかり、映像の中のあくあ君に突っ込むのはやめよう。

 いくら面倒見のいいあくあ君でも、画面を隔ててゆかりに言葉を返してくれたりとかしないから。

 そのうち、ゆかりがイマジナリーあくあ君とボケツッコミを始めたらどうしようかと少しだけ心配になる。


『かのんパイうまぁ……。うっ、うっ、うっ……この世にこんな素晴らしいお菓子があるなんて』

「なんで、えみりちゃんも一緒に並んで食べてるの!? この動画いる!?」


 私達は一体何を見せられているのでしょうか?

 真顔になった私を見て、えみりちゃんは慌てて映像を止める。


「このように実際に新商品を食べた人は涙を流し、喜びに震えるほど美味しいという事です」

「あいつだけでしょ!!」


 私はゆかりの言葉にうんうんと頷く。

 確かに美味しかったけど、あくあ君の喜び方は参考にならないよ。


「なお、現在、うなぎで有名な静岡出身の姐さんをモチーフにしたドデカサイズのことのパイを試作中です。それとミニサイズのあやなパイを作るために月街アヤナさんと絶賛交渉中です」

「おい! 私は!? えみり、カノン、姐さんときたら、ミニサイズはかえでパイじゃないの!?」


 楓ちゃんは子犬のような潤んだ目でえみりちゃんを見つめる。

 それに対してえみりちゃんは、私情を捨てた真剣な顔つきになった。


「楓パイセン……商品は売れなきゃ意味ないんですよ。楓パイセンやゆかりパイセンのグッズが売れるわけないじゃないですか。ここは、明らかにアヤナちゃんでしょ」

「ちょっと!! なんで私が巻き添えくらってるのよ!!」

「うわーん! えみりのバカー!!」


 私とゆかりは楓ちゃんを慰める。

 えみりちゃん、ビジネスの視点は重要だけど親友としてこれはちゃんとフォローしておかないとダメだよ。


「それに、ちゃんと楓パイセンには、楓パイセンに相応しいグッズを用意してますから! 任せておいてください!!」

「え、えみり〜!」


 えみりちゃんは抱きついてきた楓ちゃんをヨシヨシする。

 楓ちゃん、大丈夫? そうやっていつもえみりちゃんに絆されてない?


「というわけで次の新商品です!!」


 まだ、あるんだ。もう2個だけで十分にお腹いっぱいなんだけど……。

 えみりちゃんは手に持った指し棒をモニターに向ける。

 ん? ちょっと待って、その指し棒の形、よく見たらなんかおかしくない?


「あっ、このあくあ様をモチーフにした指し棒は非売品です」

「いやいや、そんなの商品化できないからね!?」


 楓ちゃんが羨ましそうな顔で指し棒を見つめる。

 いやいや、国営放送のお昼のニュースでソレを使ったら一発で電波停止だよ!!


【新商品案その3、楓の形をしたまんじゅう】


 広島県でもみじの形をしたお饅頭を見た事あるけど、これって完全にパクリでしょ!!


「パクリじゃありません。楓パイセンをイメージした楓のお饅頭です!! ちなみに、当たりのお饅頭は、デフォルメ化した楓パイセンのデザインになっています」

「うおー!! ねねちょ先生のデザインだー!!」


 うん、確かに可愛いけど、これ一個のために、無駄な予算使いすぎでしょ。


「なお、ハズレはリアルなゴリラがホゲった顔になってます」

「なんで、ゴリラ!?」


 えみりちゃんって、無駄なところにこだわるよね。

 果たしてこの当たりとハズレに意味はあるのだろうかと小一時間ほど無駄に考えたくなる。


「ちなみに、当たりとハズレの差は中の餡です。当たりの楓パイセン饅頭は、砂糖ではなくてメープルシロップがふんだんに使われたメープル餡になっています」


 あっ、本当だ。香りも違うし、味も砂糖とは風味が違って、これはこれで美味しい。

 それじゃあ、こっちのゴリラ味も中の餡が違うのかな?

 私はゴリラの顔をしたお饅頭をパクリと食べて固まる。


「ハズレのゴリラ饅頭は中にカレーが入ってます。あの有名なゴリゴリカレーとコラボしました」


 ちょっと!! そういうことなら早めに言ってよ。もう!!

 ていうか、味濃い!! 饅頭生地合わさってダイレクトで喉が渇く!!

 私は手元にあったペットボトルを手に取ると、中に入っていた水をゴクゴクと飲む。


「流石にカレー味はちょっとアレじゃない? せめてバナナとかにした方がいいんじゃない?」


 私はゆかりの意見に同調する。


「うんうん、それにねねちょさんにもデザイン料払って、ゴリゴリカレーともコラボするなら予算的にも高くなっちゃうだろうしね」

「なるほど……再検討の余地アリという事ですね。わかりました。それじゃあ、これは一旦保留で」


 楓ちゃん、却下じゃないから、ほら、元気出して。

 きっとカレー味よりバナナ味の方が美味しいよ。

 濃いカレーともそもそ系のお饅頭は組み合わせちゃダメだ。

 一瞬で、お口の中の水分が全部持っていかれるもん。夏に食べたら脱水症状を引き起こしちゃうよ。


「ところで、私のはなんかないの? 部外者だけど、どーせ、私の面白アイテムも用意してるんでしょ?」

「ちょっと待ってくださいね」


 あるんかーい!

 思わず心の中でインコさんみたいに突っ込んでしまう。


「これですね」


 えみりちゃんは手に持った指し棒でモニターを指す。


【新商品案、その24。雛の形をしたサブレー】


 ちょっとぉ!? その24って、まだそんなにあるの!?

 私が口を開いて驚いた顔をしていると、えみりちゃんが日本地図の画面に切り替えた。


「実は商品案は47つありまして、それぞれの都道府県の菓子メーカーとのコラボ商品になっています。地域振興を兼ねて大都市以外でもライブツアーを開催しているベリルの理念に沿った商品プランを考えました」


 そこまで言われたら、もう何も言えないじゃん!

 この商品を除いて、まだ43個の商品のプレゼンが残ってる時点で今日中には帰れない事を全員が覚悟する。


「それでは、こちらが神奈川県の会社で実際に製造した雛サブレーになります」


 あっ、可愛い!

 これも雛の形をしたサブレの中に、ゆかりデザインのサブレが混じってるのね。


「変な商品出してきたら睨みつけてやろうかと思ったけど、ちゃんと可愛い商品も作れるじゃない! こういうのでいいのよ! こういうど定番っぽいので!!」


 私や商品開発部のスタッフはうんうんと頷く。


「うん、味も普通に優しい感じで美味しいじゃない」

「ね」


 ただ、ゆかりの肖像権を管理してるのはウチじゃなくて越プロなんだよね。

 ゆかりは簡単に買収すればいいじゃないっていうけど、越プロの社長と会うたびに潤んだ目で見つめられるこっちの気持ちにもなってほしい。

 確かにベリルエンタープライズとかは買収したけど、うちはそんな酷い企業じゃないもん!!


「で、他には何があるのよ? ダラダラやってたら時間かかるし、さっさと出しなさいよ」

「はい!」


 えみりちゃんは箱に入っていた商品を次々とテーブルの上に置いていく。

 これ、なんだろう? 私はテーブルの上に出したお菓子の一つを手に取る。

 愛媛県の菓子会社とのコラボで作った、しんちゃん団子?

 ああ、串に刺した団子を黛君のメガネに見立てているんだ。

 ふーん、普通に美味しそう。


「これ、何? ミルクの味がして美味しい」

「それは、まろんどーるですね。まろんさんの母性を表現するような優しい味のミルクを作った乳菓です」


 だからなんでたまにこういう商品が入ってるのよ!!

 しかも、それ絶対に無許可でしょ!!


「猫福餅うまうま!」

「こっちの煎餅も美味しい」

「それは、猫の形をしたあんころ餅ですね。あっ、そっちは、天我先輩の実家で育てた米から作った天我煎餅です」


 えみりちゃん、あくあ君以外のBERYLメンバーの商品はいいのを作ってるんだから、あくあ君のだってもっと真面目に作ってあげてよ……。

 その後も私達は残りの全商品を試食していく。

 うっ……これ、絶対にカロリーオーバーだ。明日からダイエットしなきゃ。

 私は重たくなったお腹を抱えながら会議室を後にした。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

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