天我春香、天我アキラという男。
ついに24時間テレビが始まった。
関係者のみが入れる控え室に招待された私は、スタッフの人が設置してくれたテレビを見入る。
『それでは次に、こちらのVTRをご覧ください!!』
テレビの画面が切り替わると、見覚えのある景色の中で小さな男の子が体育座りをしていた。
この場所は……間違いない。アキラ君の実家だ。
『アキラ、何をしてるの?』
『春の訪れを感じてるだけ』
私はこのシーンを見て、この小さな男の子が幼いアキラ君を演じていて、話しかけてきた女性がお義母様の夢子さんを演じている事に気がつく。
『春?』
『うん、田起こしの肥料の匂い。散り行く桜の花びらがふわりと落ちる瞬間。新しい制服を着てるお姉さん達。ここから見てる景色が一番春を感じられるから』
ふふっ、再現VTRって書いてあるけど、多分、本当にこんな事を言ってたんだろうなあと思った。
少し時が進むと、ランドセルを背負ったアキラ君が出てくる。
『それじゃあ、アキラ君、一緒に学校に行こっか』
あ……。自分が中学生の時に着ていた制服を着た女の子がテレビに映る。
その瞬間、私は彼女が自分の役なのだと確信した。
『うん!』
手を繋いだ私とアキラ君の2人は、アキラ君が通ってる小学校へと向かう。
いくら田舎と言えど、男の子を1人で登校させるのは危険な事だ。
1人で普通に登校してるあくあ君は異例中の異例として、普通、男の子は家族か昔からの知り合いが登校に付き添って安全を確保します。
幼馴染だった私は、天我家の皆さんからの信頼もあってアキラ君の登校によく付き添っていました。
『せ……正解です』
黒板に書いた答えを見て先生役の女優さんが口を開く。
この頃から天我君はすごく頭が良かった。
小学生低学年の時には中学生の私の教科書を読んでちゃんと理解してたし、高学年になると難関大学の受験問題も易々と解いていたと記憶しています。
『天我くんはもしかしたら、特別な才能を持ったお子さんかもしれません』
学校に呼び出された夢子役の女優さんは、クスリと笑う。
『そうですか。一応、本人にどうしたいか聞いて見ますね』
夢子さんはアキラ君の性格をよく知っている。
学校から帰った夢子さんは、お婆様を手伝っているアキラ君を見て表情を崩した。
そうそう、アキラ君はすごく優しい子だから、いつも誰かを手伝ったりとかしてたよね。
学校でも、一番できない子に寄り添ってあげる。そんな子だったと送り迎えをしていた時に聞いた。
『アキラ……。ここを離れて東京の学校に行ってみたくない?』
『どうして、東京に行くの?』
アキラ君の役を演じている役者さんが首を傾ける。
『アキラは勉強が得意でしょ。だから、もっとたくさん勉強ができるところはどうですか? って、先生が言ってくれたの』
『そっか……。でもお母さん、得意なのと好きか嫌いかは別の話だよ。僕は勉強するのは嫌いじゃないけど、別にそこまで好きってわけじゃない。でも、勉強して何かを知る事は楽しい事だよ。知りたい事をもっと知るためには勉強しなきゃいけない。だから僕はその過程として勉強してるだけなんだよ』
そうそう。アキラ君は小学生の頃まで僕呼びだったんだよ!!
あの時のアキラ君が頭の中にフラッシュバックして、可愛さで机を叩きそうになった。
『それに僕はここが好きだ。お母さん、変わらない事って本当はすごくいい事なんだよ。ここは、穏やかで心が落ち着く。僕はずっとここにいたい。お母さんとお婆ちゃん……それに春香ねえと一緒に』
アキラ君の台詞に私の胸が痛くなる。
小学生だったアキラ君が中学生になった時、中学生だった私は大学受験の真っ只中だった。
その頃には国内最難関の大学の問題もスラスラと解けていたアキラ君と違って、思春期の私は志望大学に受かるかどうかもギリギリのラインだったんだよね。
『そうか……俺は春香ねえの事が好きなんだ……』
そっか、アキラ君はこの時に私の事が好きだって事を自覚したんだ。
この頃の私は自分の事で一杯一杯だったから、気がつかなかったな。
ううん、それどころか、頭のいいアキラ君に劣等感を感じてむしろ避けていたと思う。
『アキラ君。私、高校を卒業したらこの町から出て行こうと思うの』
『えっ?』
私は大学受験に失敗した。
それもあって地元に居づらかったというのもある。
けど、1番の理由は受験に失敗した時、私は母と一つの約束をしていたからだ。
『私ね、結婚するの』
会社勤めをしていた母の取引先だった東京の企業、そこで社長をやってる人の息子さんが8人目の奥さんを探している。
男性の数が極端に少ないこの世界で結婚できる女性は幸せ者だ。贅沢なんていってられません。
私はその日のうちに荷物を纏めると、アキラ君の前から姿を消しました。
『アキラ……起きてる? ご飯作ったんだけど……』
『もう、我の事は放っておいてくれ!!』
私の知らないアキラ君。荒んでいた高校生時代のアキラ君がテレビに映される。
再現VTRが他の役者さんからアキラ君本人へと変わった事もあって、外の観客席から大きな歓声が聞こえてきた。
『アキラ、ご飯……ここに置いておくね。欲しくなかったら、違うの作るから……』
『……ありがとう、母さん。それと、さっきは怒鳴ってごめん』
荒んでてもちゃんと優しいアキラ君に胸を撃ち抜かれた。
ううっ、やっぱり私にアキラ君は勿体なさすぎるよ。
『アキラ……』
同じく本人役に切り替わった夢子さんが、アキラ君の優しさに思わず涙を流すシーンが映し出される。
お義母様、演技うっま! 私の近くに居た小雛ゆかりさんが、お弁当をパクパク食べながら「実の親子による再現シーンには流石に勝てないわね」と呟いた。あのー……さっきからパクパク食べているそのお弁当、あくあ君のじゃなかったっけ?
えっ? 十数時間は帰って来れないんだから代わりに私が食べてもいいでしょ? むしろ食材を腐らせずに無駄にしないであげてる私に感謝して欲しい? あっ……はい。ソウデスネ……。
『……婆ちゃん』
家族が不在だと思って、久しぶりに部屋の外に出たアキラ君は、たまたま家に残っていたお婆様と縁側ではちあってしまう。
『アキラかい? ちょっとカステイラを買いすぎちゃってね。よかったら、一緒に食べてくれないかい?』
ふふっ、お婆ちゃんっ子のアキラ君にとって、この提案は絶対に断れないよね。
多分だけど、お婆様はいつアキラ君が部屋から出てきてもいいように、いつもお菓子を用意して縁側でずっと待っていたんだろうなと思った。
『……婆ちゃん、お、俺……』
アキラ君は何を言おうとして言葉に躓く。
その様子を見たお婆様は、アキラ君から視線を逸らして目の前にある田んぼへと視線を向ける。
『アキラ、人生は長いんだ。だから少しくらいは立ち止まって、こうやってゆっくりと縁側で休憩したっていいんじゃないかい?』
『婆ちゃん……』
やっぱりお婆様は凄いなあ。もしかしたら、アキラ君を一番を理解しているのはお義母さんや私、それにあくあ君でもなくて、お婆様なのかもしれない。
『お……俺、どうしたらいいかな?』
『アキラの好きな事をすればいいさ。私も夢子も、アキラが毎日を楽しく過ごしてくれたらそれだけでいいんだよ』
『楽しく……』
アキラ君の表情に影が差す。
きっと私のせいだ。私があんな居なくなり方をしたから……。
頭のいいアキラ君とは釣り合わないと思ったから、家を出た後は携帯の番号も変えて一切連絡もしなかった。
未来のあるアキラ君の足を引っ張りたくない。ううん、違う。私自身がアキラ君の隣に立つ自信がなかった。
ああ、自分への嫌悪感でテレビから目を背けたくなる。でも、私は知らなきゃいけない。私が居ない間のアキラ君がどうやって立ち直ったかを。
『お婆ちゃん、俺、東京の大学に行くよ。知りたいんだ。俺はもっと自分の事を……。それに、ここにはいっぱい思い出がありすぎるから。今の俺に、その思い出は少し眩し過ぎるんだ』
『そうかい。寂しくなるけど、アキラの人生はアキラのもんだ。きっと夢子だって祝福してくれる』
最難関大学の一つと言われる赤門大学に合格したアキラ君が上京してくる。
『オメェ、いい腕してるじゃねぇか』
モジャさんとの初めて出会った時のシーンで、会場が大きく沸く。
ここからの登場人物は、全てが本人による再現VTRだ。
『アキラ、おめぇ、せっかくうめぇのに人前で歌ったりはしないのか?』
『我は誰かの前で歌ったりはしない。これも気を紛らわせるためにやってるだけだ』
東京に出たアキラ君は、勉強している時以外はずっとギターを弄っていた。
1人きりの部屋。アキラ君のアコースティックな演奏と歌唱に、私はうっとりとする。
私と同じように、モニターに映った会場の人々もアキラ君の歌に聞き入った。
『我は本当見苦しいな』
アキラ君は悲しげな笑みを浮かべる。
『実家を出て、東京に来て、大学に入った後もずっと春香ねえの事を引きずってる。このギターだけが、春香ねえとの繋がりだから』
ここで再び幼少期のアキラ君が出てくる。
アキラ君を初めて連れて行ったロックコンサート。
それがアキラ君がギターを始めるきっかけになった。
そっか……そっか。アキラ君がギターを続けていた理由を聞いて、私は涙が出そうになるのを堪える。
泣いちゃだめ。そんな事も知らずに、アキラ君の前から消えた私に涙を流す資格なんてない。
『よお、面白え奴がいるんだ。会って……いかないか?』
控え室が揺れるくらいの大歓声が聞こえてくる。
のちに同じアイドルグループ、BERYLに所属するエース白銀あくあと、リーダー天我アキラが初めて出会うシーンだ。しかもその映像が本人達の出演で再現されている。ファンがそれを見て冷静でいられるわけがない。
『初めまして、白銀あくあです。最高のアイドルを目指してます』
『う、うむ。我は天我アキラだ。よ……よろしくな、後輩』
実際、控え室にいた、カノンさん、琴乃さん、楓さん、えみりさん、月街さん、小雛さん達が一斉に前のめりになる。
「ちゃんと録画してきてよかった〜」
「うわーうわーうわー、私の語彙力が今、完全に死にました」
「うおー! これは熱い!!」
「これが見たかったんですよ!!」
カノンさん、琴乃さん、楓さん、えみりさんの4人がハイタッチする。
あくあ君のお嫁さん達は本当に仲が良くていいな……。私は自分が結婚していた時の事を思い出して、そっと目を背ける。
私の結婚生活は地獄だった。
家庭にもよるのだろうけど、男性と結婚した女の人たちがみんながみんな奥さん同士で仲良くしてるわけじゃない。私が結婚したところもそうだった。
派閥を組んだ奥様同士は啀み合い、私を奴隷のように扱う。
そして夫となった人からは何度も激しい暴力を受けた。他の奥様達は、暴力のターゲットが自分に向かないようにと私から目を背ける。よく見たら彼女達の顔や体にもうっすらと暴力の痕跡が残っていた。
なるほど……そういう事かと、私は理解する。
春香、そっちの様子はどう?
大丈夫、みんな優しくしてくれてるから。
母には嘘をつき続けた。
あの人と離婚したら、母の会社との取引がストップされる可能性があるからだ。
それに他の奥様方の実家も、うちの母が勤める会社と取引をしている。もとより、私と彼が結婚するきっかけを作ったのも、新しい暴力の生贄を探すために6人目と7人目の妻の実家が画策した事だったとその頃に知った。
『春香……ねえ?』
アキラ君の声に私はハッとする。
再現VTRへと視線を向けると、偶然、街を歩いていた私をアキラ君が発見するところだった。
『久しぶり』
私の役を務める女優さんが無理な笑い方をする。
この時は、アキラ君から声をかけられて本当にびっくりした。
『春香ねえ……その、結婚生活は順調か?』
『……うん。どうしてそんな事を聞くの?』
アキラ君はこの時から気がついていたんだね。
ファンデーションやコンシーラーで肌の傷跡は隠せても、私の傷ついた心はアキラ君には誤魔化せなかったみたい。
あの時の私は余裕がなくてうまく誤魔化せてるつもりだったけど、アキラ君は気がついていたんだという事を知った。
静まり返っていた会場が、ヘブンズソードの撮影シーンに入って再び大きく沸く。
撮影が順調に進む中、アキラ君はあくあ君をツーリングに誘う。
『白銀……お前、女の人を好きになったことはあるか?』
山中でバイクを停めた2人は、缶コーヒーを飲みながら2人で夜空を見上げていた。
『もし、その人が他の人のものだったらどうする?』
『……その人が幸せそうにしてるなら、辛いけど諦めるしかないと思う。でも、その人が好きだった事は、時がたてばきっといい思い出になってくれるはずです』
あくあ君の答えにアキラ君は少しだけ考え込む。
『じゃあ、その人が、笑ってなかったら……どうする?』
あくあ君の答えは即答だった。
『もちろん笑えるようにします。自分が好きだった人が悲しい顔をしているところなんて見たくないじゃないですか。だからもし、好きだった人が誰かのものだったら俺は戦いますよ。戦ってでも奪い取ります』
『それを相手が望んでなかったとしても?』
あくあ君は夜空を見上げたまま、ゆっくりと立ち上がる。
『でも、サインが出てたって事は、それって助けてほしいって言ってるってことじゃないんですか? 苦しい、助けてほしいって素直に言えない人だから、助けてくれる人のこととか未来とかも考えてるから、あえてそう言ったんじゃないかな』
あくあ君の言葉を聞いたアキラ君がハッとした顔をする。
アキラ君があくあ君に救われたって言ってたのは、この事だったんだね。
さっきまでうるさかった楓さん、えみりさん、小雛さんの3人もこのシーンではすごく静かになる。
『白銀、お願いがある……我の……いや、俺の! 天我アキラの背中を押してくれ!!』
あくあ君の両手の掌がアキラ君の背中に優しく触れる。そして力強く背中を押した。
その瞬間、星空を覆い隠していた曇り空が、優しい月の光によって切り開かれていく。
『行け、天我アキラ! 世界で一番かっこいい俺の先輩が、カッコよくないわけがないって証明してくれよ!!』
我の後輩は世界で一番かっこいいんだ。
誰がなんと言おうと、我はそう思う。
アキラ君が自慢げにそう言っていた事を思い出した。
「っぱ、あくあ様なんだよなぁ!!」
「えみり、それな!!」
えみりさんと楓さんの2人がハイタッチする。
「えっ? ここもヘブンズソードのシーンだっけ?」
「白龍先生わかります。私も言われるまでヘブンズソードかと錯覚していました」
白龍先生、琴乃さん、わかります。
私も一瞬、ヘブンズソードをやってるのかなと思いました。
「あー様、かっこいい」
「うんうん、やっぱりあくあはこうでなきゃね」
結さんとカノンさんはうっとりした顔で画面を見つめる。
あ、あくあ君は確かにかっこいいかもしれないけど、私のアキラ君だって負けてないよ!
「あいつもう永久に剣崎を演じてた方がいいんじゃない?」
「ふふっ、そんな事を言ってるけど、ゆかり先輩だっていつものあくあが好きな癖に」
月街さんの言葉に小雛さんは視線を横に背ける。
へぇ、私は小雛さんが自分の気持ちを誤魔化したのを見て、何かを感じるものがあった。
ふふっ、剣崎じゃ小雛さんに構ってくれなさそうだけど、あくあ君なら小雛さんに構ってくれるもんね。
『な、何をする!』
私が当時結婚していた人をアキラ君がグーで殴るシーンが映った。
って、石蕗さん!? ご、ごめんね。殴ったシーンは殴られたふりだけど、あんな人の役をやらせて、本当にすみません。私は画面に向かってぺこぺこと頭を下げる。
あとで菓子折りの一つでも持って行った方がいいかしら?
私を助け出すシーンでは、観客席が大きく沸く。
『俺が! この天我アキラが! 世界を変える瞬間を見ていてくれ! 誓うよ春香ねえ!! 俺は世界中の女の人を笑顔にするんだ。それでもって春香ねえのことも絶対に笑顔にしてみせる!! だからそれを見ていて欲しい。そして……絶対に、会いにいくから。だって春香ねえは俺にとって初恋の人だから……だから、待っていてほしい。最高にかっこいい天我アキラになって今度こそ春香ねえを笑顔にしてみせる。白銀あくあじゃない、俺が春香ねえを笑顔にしてみせるって約束する!!』
ここからアキラ君の、ううん、BERYLの天我アキラの快進撃が始まった。
ライブやドラマの映像を絡めて、裏で努力を続けるアキラ君の姿が映し出される。
そして再現VTRの最後には、DVの被害に悩む女性達の支援としてボランティアで慰問や講演をしたり、そういった支援組織を立ち上げたり支援をするアキラ君の姿が映し出された。
『世界では多くの人たちが今、この瞬間もDVの被害に遭っています。また、その後遺症に苦しんでいます』
真っ白な空間の中に映ったあくあ君がこちらに振り向く。
そこにとあちゃんがゆっくりと近づいてくる。
『僕達、ベリルエンターテイメントと、それに所属するタレント達はDVに苦しむみなさんの味方です』
とあちゃんがあくあ君と手を重ねると、そこにもう一つの手が重なる。
2人がその手の先へと顔を向けると、黛君が映し出されました。
『だからどうか1人で悩まないで。そしてDVに気がついた人はどうか関係機関に連絡してください』
黛君の言葉の後に、官民両方の支援機関への通報先が掲載される。
そして重ねた3人の手のひらの上に、最後の一つが重なった。
『今、DV被害に遭っている人、そしてDVの被害に遭っていた経験をした人に伝えたい。どうか、そこから逃げる事を諦めないで。少しでいい。勇気を出して一歩を踏み出して、我らに手を伸ばしてくれ。でも、中には自分から手が伸ばせない人や、手を伸ばそうとする事さえも諦めてしまった人がいる。そういう人は、待っていてくれ。必ず助けに行く。我とその仲間達が! 絶対に!!』
DVにあってる人たちは、外にSOSのサインを出すのも難しい。
アキラ君はその事を知っていて、あえてそう言った。
まるで自分を追い込むように。
『『『『さぁ、みんなでなくそう。ドメスティックバイオレンス』』』』
手を重ねた4人の姿がぼやけると、ベリルエンターテイメントの社長、天鳥阿古さんからのメッセージが画面に映し出された。
そこにはベリルとしてDVの根絶に官民の組織と連携していく事、また企業としてもそういう教育をしていく事について書かれている。そこには、BERYLの4人と阿古さんのサインまで入っていた。
「BERYL最強!!」
「一周回ってやっぱり全員かっこいい!」
「ベリルとBERYLを応援しててよかった」
「BERYL! BERYL! BERYL!」
「もはやBERYL自体がヘブンズソード」
「小早川さんがいるかいないかの差くらいしかない」
多くの人たちが拍手をする音で会場が揺れる。
ここでモニターの映像が切り替わると、必死に走っているアキラ君の姿が映し出された。
アキラ君、絶対に辛いのに、顔に出さずに必死に頑張ってる。
それを見た私は、私もアキラ君みたいにカッコよくなりたいと思った。
「天我君、いいペースね。もしかしたら、朝方に帰ってくるかも」
「ね。あくあ君も最初に帰ってくるのは多分天我君だって言ってたし」
準備を整えた楓さんと小雛さんの2人が話しながら会場へと戻っていく。
私はスタッフさんが用意してくれた別のモニターで、走っているアキラ君の姿を見続けた。
そしてその数時間後……。
「春香さん、準備はいいですか?」
「はい」
誰よりも最初に国民競技場に帰ってきたのは、アキラ君だった。
我は自分からBERYLを引っ張っていけるような男になりたい。
2人で初詣に行った時、アキラ君が神様の前で誓ってた言葉。
有言実行、だね。アキラ君。
私は控え室にいたみんなに声を掛けると、お義母様とお婆様と一緒に、アキラ君が帰ってくる場所へと向かった。
待っててね。アキラ君、私も、私達もそこに行くから。
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