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白銀あくあ、再びここで。

 俺達はステージに用意されたソファに座る。

 スタジオのセットをそのまんま国民競技場まで持ってくるなんてすごいなと思った。


「どっこいしょ」

「えっ?」


 小雛先輩が至って普通の顔をして楓の隣に座る。

 それを間近に見た楓が口を半開きにした。


「よっこらせ」

「えっ?」


 その反対側にえみりが座る。

 えみりと小雛先輩に挟まれた楓はさらに口を大きく開いた。


「森川〜、本番中だぞ〜」

「ホゲるな〜!」

「これは間違い無く乗っ取りの前兆」

「森川楓の部屋とは」


 観客席から笑い声が聞こえてきた。


「あんた、何ぼーっとしてんのよ! この番組の司会なんだからしゃんとしなさい!!」

「あ、うん」


 復活した楓は首を傾けながら、最初のお題を引いた。

 するとそこに書かれた内容が後ろの大きなモニターに映し出される。


【今日のお題は自由! 司会席に座った3人でBERYLの4人への質問内容を考えてください!!】


 なるほどな。楓やえみりは大丈夫として、注意しなければいけないのは小雛先輩だ。

 生放送だというのはわかっていると思うが、あの人の場合、本当に何を言ってくるかわからない。

 注意しないとな……。俺は警戒心を強くする。


「最初は誰から質問しますか?」


 バランス感覚に一定の定評があるえみりが小雛先輩や楓に話を振る。

 さすがはえみりだ。すぐに自分の立ち位置を把握して、周りをうまく回そうとしている。

 本来は司会の楓がやることだが、楓はそういう従来の司会という枠に囚われない女性だ。

 俺は後ろから見ている鬼塚アナの圧に気がつかない振りをする。


「それじゃあ、最初は司会の私から行きます!!」


 楓は司会のところをやたらと強調すると、手に持ったフリップボードをカメラに向ける。


【BERYLのメンバーのそれぞれのいいところを教えてください】


 おっ、いきなりいい質問が来たんじゃないか?

 俺達は手渡された3枚のフリップボードにみんなのいいところを書いていく。

 うん、こんなもんだろう。


「それでは最初に黛くんのいいところから。それじゃあ、皆さん、一斉に回答をどうぞ!」


 えーと、慎太郎の事を書いたフリップボードは……っと、これか。

 慎太郎以外の3人が一斉に手に持ったフリップボードの1枚を前に向ける。


【猫山とあ:あくあの面倒を見てくれるところ】

【天我アキラ:我の事を忘れないでいてくれるところ】

【白銀あくあ:俺と男同士の熱い会話をしてくれるところ】


 ちょっと待って、とあ!?

 俺の面倒を見てくれるってどういう事!?


「あんた、学校でも黛くんに迷惑かけてるの!? 今ここで謝っといた方がいいわよ!」

「いやいや、俺は何もしてませんよ!」


 いくら何でも風評被害にも程がある!!

 俺はソファから立ち上がると観客席に向かって無罪を訴えかけた。


「あくあ様、この……男同士の熱い会話って何ですか?」


 えみりは俺にウインクする。

 なるほど、そういう事か。この回答で名誉を挽回しろってことだな!?

 さすがはえみり、ナイスアシストだ!!


「それはもう男同士の熱い会話ですから、女の子にはちょっと言えないような話に決まってるじゃないですか」

「ほら、やっぱりあんたのせいじゃない!!」


 ソファから立ち上がった小雛先輩が俺の耳元に顔を近づける。


「黛君が優しいから付き合ってくれてるだけで、普通の男の子はもっとナイーブなの。あんたと違ってね。だからここで一回、ちゃんと黛君には謝っといた方がいいわよ。ほら、いいチャンスじゃない。他にもきっと迷惑かけてるんだから、全部謝っときましょう。ほら、私も一緒に謝ってあげるから」


 俺と小雛先輩のコソコソ話をマイクが綺麗に拾ってしまう。

 小雛先輩、全部、聞こえてます。みんながこっちを見て笑ってますよ。


「それとも、あんた……私みたいに友達がゼロになってもいいわけ?」

「謝ります」


 すごく説得力のある言葉だった。

 ありがとう小雛先輩。今日ほど、小雛先輩の言葉に説得力があった日はないです。


「慎太郎、俺は迷惑をかけてるつもりはないんだが、迷惑かけてたならすまん!!」

「黛君。こいつにも悪気があったわけじゃないから、許してあげてね」


 俺と小雛先輩は一緒に頭を下げる。

 それを見た慎太郎は苦笑しながら、首を左右に振った。


「いいんだ。別に迷惑ってわけじゃないから。だから小雛さんまで頭を下げないでください。それよりもあくあはこの前、差し入れを一緒に買いに行った時、小雛さんへのたこ焼きだけピリ辛にしたのを謝った方がいいと思うぞ」


 慎太郎!? おま、しーっ、しーっ! 俺は唇に人差し指を押し当てる。


「ふん、どうせそんな事だろうと思ってたわ。こっちはちゃんとお見通しなのよ」


 なんだ、バレてたのかー。激辛じゃなくてピリ辛とはいえ、普通に食べてる子供舌の小雛先輩を見て、おかしいなあと思ってたんですよ。

 という事は、本当は辛かったけど持ち前の演技力でバレないようにしたのか? やっぱりこの人はすげえな……。


「事前にやばいと思って、楓のと取り替えといて正解だったわ」

「私ぃ!?」


 楓のリアクションを見て、隣のえみりが笑いを堪える。


「そういえば、あの時の楓先輩は今日のたこ焼きはいつもよりちょっと辛いけど、美味しいねって言いながら普通にパクパク食べてましたね」

「うん、言われるまで全然気が付かなかった……って、そういう問題じゃなーい!」


 プンスカ怒る楓を見て、申し訳ないけど少し可愛いなと思ってしまった。


「ちょっと、元はといえばあんたのせいで楓に怒られたじゃない!」

「小雛先輩、ここはおとなしく2人で謝っておきましょう」

「そ、そうね。そうしましょう」


 俺たちは楓の前に移動すると、しっかりと謝罪する。

 それと、小雛先輩が食べられなかった時は自分で食べようとは思ってたものの、食べ物で遊んじゃった事についてもしっかりとカメラの前で謝った。


「それじゃあ、次の回答に行きましょうか」


 俺の隣に座った天我先輩が悲しげな顔を見せる。

 あれ? 先輩、どうかしましたか?


「それでは次にとあちゃんについて、どうぞ!」


 俺と慎太郎、天我先輩の3人はとあの事について書いたフリップを前に向ける。


【黛慎太郎:努力家なところ。僕と違って器用でそつなくなんでもこなせるところ】

【天我アキラ:周りをよく見ているところ。後で我の事をフォローしてくれるところ】

【白銀あくあ:女子に抱きつきたくなった時に、代わりに抱きつかせてくれるところ】


 観客席から大きな悲鳴が聞こえてくる。

 あれ? みんなどうかした?

 フリップボードを見た小雛先輩が立ち上がる。


「あんた、またぁ!?」

「いやいや、恋人同士がやるようなハグとかじゃなくて、椅子に座ってるとあの後ろから体を預ける感じの、ほら、男同士ならよくあるやつですよ!」


 観客席から悲鳴のような歓声が聞こえてくる。

 みんな、どうかした?

 小雛先輩はなんともいえない顔で頭を抱える。


「そもそも、うちのクラスって女子が30人以上いるんですよ!! 何時間も教室の中にずっと良い匂いがして男子は大変なんですから!! 特に夏とか、体育の後とか!」

「男子じゃなくて、あんたね! あんただけの話ね! それに、それなら素直にクラスメイトに抱きつけば良いじゃない! ほら、アヤナちゃんとかアヤナちゃんとか!!」


 俺は首を左右にぶんぶんと振る。


「いやいや、それは流石にまずいでしょ!!」

「だからと言って、とあちゃんに抱きつくのもまずいでしょ! そ、その、男の子同士だといえど、えっと、モニョモニョ……礼儀だってあるだろうし」


 うーん、確かに……小雛先輩の言う事も一理あるな。

 俺はとあに顔を向けると、良い機会だから直接本人に聞いてみる事にした。


「ごめん。とあが嫌だったらやめるけど……」

「ううん。別にそれは良いんだけど……いつも月街さんがこっちをすごい目で見てるから、軽蔑されないように気をつけた方がいいよ」


 ま、マジか……。軽蔑するようなアヤナの視線を想像しただけで、俺は自然と身震いした。

 アヤナに嫌われないためにも、これからは十分に気をつけようと思う。


「それじゃあ、次は天我君への回答にいってみようか」


 俺と慎太郎、とあの3人は新しいフリップボードをカメラに向ける。


【猫山とあ:困った時に頼りになるところ】

【黛慎太郎:困った時に頼りになるところ】

【白銀あくあ:困った時に頼りになるところ】


 うおっ!? うおおおおおおおおおおおお!!

 まさかのここで全員の回答が一致する。

 口を大きく開けて目を見開いたびっくり顔の天我先輩と一緒に、俺達全員がソファから立ち上がって肩を組んだ。


「こ、後輩いいいいいいいいいい!!」

「天我先輩いいいいいいいいいいい!」

「やったー! なんかよくわからないけどやったー!!」

「天我先輩よかったですね!!」


 涙を流す天我先輩と肩を組んだ俺たちは円になって歓喜する。

 俺たちの姿を見たファンのみんなも一緒になって喜ぶ。

 それを見たえみりはすかさずマイクを手に取って、涙ぐみならカメラに優しげな笑み浮かべた。


「テレビをご覧の皆様、本当にありがとうございました。この番組は、各放送局と……」

「おいおいおいおい! えみり、お前、勝手に終わらそうとするなよ! まだ始まって1時間も経ってないってぇ!! 残りの23時間どうするんだよ!」

「そこはアレですアレ。綺麗な湖畔に浮かぶボートでも映しておきましょう」

「放送事故じゃねーか!!」


 ナイスボート! じゃなくって、楓、ナイスツッコミだ!!

 やはり、えみりとバラエティ番組の相性はかなりいい。

 そもそも、ツッコミもボケも両方いける楓とえみりのコンビが抜群にハマってる。

 あのなんでも食べちゃう小雛先輩の隣にいて、これだけやれるのはこの2人くらいだ。


「それじゃあ、最後はあくあ君」

「いや、こいつはもういいでしょ」


 いやいやいや! よくないでしょ!!

 小雛先輩、興味なさそうな顔でテーブルに置いてあるお菓子の袋を開けないでくださいよ!!

 生放送中ですよ!!


「それじゃあ、皆さん。お願いします」


 俺はワクワクした顔で3人の回答を待つ。


【猫山とあ:かっこよくてなんでもできるのに、面倒くさいところ】

【黛慎太郎:なんでもできてかっこいいのに、僕と同じように悩んだりしているところ】

【天我アキラ:後輩は誰が観てもかっこいいしなんでもこなせるが、意外と手のかかるところ】

【小雛ゆかり:見た目は悪くないしなんでもできるに、どうしようもなくポジティブアホなところ】

【森川楓:かっこよくてなんでもできて、それなのに私と同じレート帯なところ】

【雪白えみり:格好悪いところもひっくるめてかっこいいところ、なんでもできるのに意外と不器用なところ】


 ちょっと待って! 回答数多くない!?

 ていうか、なんでそっちの3人までフリップボードに回答を書いてあるの!?


「やったー!」

「うおおおおおお!」


 俺以外の6人がソファから立ち上がって喜び合う。

 少しだけ釈然としない部分はあるものの、みんなかっこいいって書いてくれてるし、これってみんな俺の事を褒めてくれてるって事だよな!!

 俺も一緒に立ち上がってみんなと喜びを分かち合う。


「それじゃあ次の質問、どっちが行く?」

「はいはい!!」


 えみりが元気よく手をあげる。

 心なしか嫌な予感がするのは俺だけだろうか。


【こっそり、あくあ様に伝えたい事】


 いやいや、カメラが回ってる時点でこっそりじゃないでしょ!!

 観客席からファンの笑い声が聞こえてくる。


「いい質問じゃない」


 って、小雛先輩? それに楓やえみりまで。なんでフリップボードにカキカキしてるんですか?

 俺はスタッフさんに目で確認の合図を送る。

 と、止めないでいいんですか!?


【面白ければOK!】


 くっ、森川楓の部屋のスタッフに確認した俺がバカだった。

 そうだよ。この番組のスタッフはそういうスタンスだ。


「それじゃあ私からね」


 楓は手に持ったフリップを前に向ける。


【姐さんの子供の性別がわかったみたいです】


 ええっ!? 聞いてないんだけど!?

 観客席から大きな歓声が沸く。


「楓は知ってるの!?」


 楓は首を左右に振る。


「いえ、玉藻先生から子供の性別がわかったってところまでしか聞いてないです。あくあ様、後で姐さんに聞いてあげてください。姐さん、やっぱり遠慮してまだ言ってなかったんですね……」


 そういう事だったのか……。

 俺は楓にお礼を言う。琴乃は俺が忙しいと気を遣っちゃうところがあるんだよな。

 それでも俺が気がついてあげるべきなんだけど、夫婦としてこういうのは気を遣いすぎないでほしいと伝えなきゃいけないなと思った。


「それじゃあ、次は誰が行く?」

「それじゃあ僕が」


 おっ、慎太郎。自分から手を挙げるなんて積極的だな。

 慎太郎は手に持っていたフリップボードを捲ってみんなに自分の回答を見せる。


【親友……社会の窓が開いてるぞ】


 嘘だろ、おい!?

 俺は慌てて社会の窓を閉じる。

 どうやらさっきのマジックで濡れた服から着替えた時にファスナーをあげ忘れたみたいだ。


「スタッフさーん! 映像を大きなモニターに映して確認できますかー!!」

「いやいや、ダメだって!!」


 俺は声を上げるえみりを止める。

 ふぅ、助かったぜ親友。生放送中の放送事故を防ぐ事ができた。


「じゃあ、次は僕だね」


 次はとあか。俺はとあの持ったフリップボードに視線を向ける。


【さっき間違って天我先輩のおにぎり食べてた事に気がついてあげて】


 えっ? 待って、俺、それ知らないんだけど!?

 俺は天我先輩へと視線を向ける。

 すると天我先輩も意味がわかっていなかったのか、手をポンと叩いた。


「なるほど、昆布にしては食感がキクラゲっぽいなと思ってたんだ」


 そういえば俺も天我先輩もしそ味にしたんだっけ。

 俺は天我先輩に謝罪した。


「気にするな後輩。ちょうどキクラゲも食べたいなと思ってたんだ」

「先輩っ……!」


 やっぱり先輩といえば天我先輩だよな!!

 小ひなんとか先輩とは違う!!


「ほら、そうやって天我君はすぐに甘やかすんだから」


 あーあー、聞こえない聞こえない!


「それじゃあその流れで次は我だな!」


 天我先輩は手に持っていたフリップボードを前に向ける。


【後輩! この前、警察署の独房に我を忘れていた時の事は気にしなくていいからな!】


 俺は本気で天我先輩に謝る。なんなら今までの流れも含めて全部を謝る。

 羽生総理直伝の土下座で誠心誠意、心の底から謝罪した。


「それじゃあ、次は私の番ですね」


 えみりは手に持ったフリップボードをカメラに向ける。


【この前、カノンが出産後に使う新しい下着を買ってました!!】


 俺はソファから立ち上がると、えみりと固い握手を交わす。

 ありがとう。本当にありがとう。

 やっぱりえみりは有能だ。いつだって俺の1番知りたい事を教えてくれる。


「あーあ、後で絶対に怒られるわよ」

「しーらないっと」


 小雛先輩と楓の2人がカメラからスッと視線を逸らす。


「それじゃあ最後は私ね」

「もういいんじゃないですか」

「いいわけないでしょ!!」


 小雛先輩は手に持っていたフリップボードに書かれた回答をカメラに向ける。


【ベリベリのスタッフがまたなんか企んでたわよ】


 俺、とあ、慎太郎、天我先輩の4人が立ち上がると周囲を警戒する。

 あそこのスタッフは冗談が通じないし、本当に何をやるのかわかったものじゃない。


「それじゃあ、ゆかり。この流れで最後にゆかりからの質問をどうぞ」

「OK!」


 楓と小雛先輩がニヤついた顔をする。

 くっ、俺はいつから自分が仕掛ける側だと錯覚していた!?

 つまり最初のマジックはフェイク。

 仕掛け人は俺の方だと錯覚させ、俺の油断を誘って巧妙なトリックに嵌められたのだ。

 小雛先輩はお題を書いたフリップボードをみんなに見せる。


【本気のBERYL、限界を超えたBERYLが見たい】


 観客席から大きな歓声がわく。

 どうやら対象は俺だけじゃなくて、BERYL全員らしい。

 ベリベリのスタッフは一体何をやらせるつもりなんだ。

 俺と慎太郎、とあと天我先輩は顔を見合わせる。


「というわけで、BERYLの皆さんはこちらの地図をご覧ください!!」


 俺達4人は大きなモニターに映しだされた地図に視線を向ける。

 東京の国立競技場からのびる4本の光、それが東京と隣接する千葉、埼玉、神奈川、山梨へと伸びていく。

 画面が切り替わると、4つの県と東京の県境に設置されたBERYLのフラッグが映し出される。

 カメラがズームすると、フラッグにはファンからのメッセージが書かれてあるのが視認できた。


「えー、BERYLの皆様には、今から走ってファンのみんなが描いてくれたこのフラッグを取ってきてもらいます」

「いやいやいや! 流石に山梨は無理でしょ!!」


 ここから山梨に行って帰るのって100km以上あるんじゃない?

 えっ? 130km以上ある!? おまけに坂あるでしょ! 1人箱根駅伝じゃん。絶対無理だって!!


「流石に無謀じゃない?」

「無謀だからいいんじゃない」


 小雛先輩は俺の耳元に顔を近づける。

 さっきのコソコソ話はわざとだけど、今回はマイクがオフになっているので本気の話だ。


「さっきも言ったけど、あんたはスケベでアホなところを抜いたら完璧すぎるのよ。でも、あんたでもできない事だってあるし、万能じゃないでしょ? 今回はいい機会だと思うの。みんな、どこかあんたの事を特別だって思ってるけど、たまにはあんただってダメなところがあると見せてもいいじゃない。そうじゃないと、あんたの努力がいつか誰にも理解されなくなる。才能って一言でね」


 俺はそれでもいいと思ってた。

 アイドルの中には、自分の努力を表に出さない事にプライドを持ってる人もいる。

 でも、うちの小雛先輩はそれが不満みたいだ。


「小雛先輩の話はわかりました。それでも俺は……やりますよ」

「いいじゃない。あんたはそのスタンスでいいのよ。まぁ、せいぜい頑張りなさい」


 俺はマイクをオンにすると、とあ達の所へと向かう。


「とりあえず山梨は俺がいくわ」

「じゃあ、我が神奈川に行く」

「それじゃあ僕は埼玉に行こう」

「えっと、それなら僕は千葉かな」


 他の3人は往復大体30kmちょっとくらいか。

 天我先輩は大丈夫だろうけど、慎太郎やとあが少し心配だ。

 いや、2人ともドラマの役作りのためにトレーニングしてたし、2人ならきっとやれると俺は信じている。

 俺達はステージの上で改めて4人で円陣を組む。


「観客席のみんなもBERYLのメンバーと一緒に肩を組み合おう!!」


 えみりの提案で、観客席のみんなも肩を組む。


「それじゃあ、みんな。国立で会おう!!」

「今度は時間内にね!」

「ああ、お互いに頑張ろう!」

「みな、また会おう!! 今度こそ、必ず!!」

「「「「「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」


 俺達は会場に居た全員で気合いを入れると、ステージから降りて観客席に手を振る。


「えみりと楓の2人は妊娠してるので……小雛先輩、後を頼みます! 多分、うちの子達が代わりに司会として出てくるんだろうけど、みんなをサポートしてやってください!!」

「任された! だからあんたは行って帰ってくる事だけ考えてなさい!!」


 これで憂いは無くなった。丸男やらぴすたちだって成長している。

 それに小雛先輩に任せておけば絶対に大丈夫だ。

 俺は観客席に向かって手を振ると、山梨との県境に向かって走り出した。

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