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白銀あくあ、1日警察署長。

「あれ? よく考えたら俺、全然、罰を受けてなくね?」


 改めて阿古さんやカノンと話し合った結果、俺は交通安全講習を受講する。

 その後、なぜか自身が出演する交通安全講習の動画を撮影する事になった。

 さらに交通安全を啓発するポスターやCMの撮影にも協力した俺は、事故に遭われた被害者や被害者家族を救済する機関にも寄付をさせてもらう。

 そして最後の禊として、俺はとあ、慎太郎、そして天我先輩と共に警察署に駆けつけた。


「お、おおっ!」


 婦警さんの格好をした小早川さんを見た俺は感動で涙を流す。

 引き締まった体に高身長で足が長い小早川さんに、婦警さんの夏服が似合わないわけがないよな。


「あ、あんまりジロジロ見られると私も恥ずかしいのだが……」

「す、すみません」


 顔を赤くした小早川さんにキュンとする。

 俺は不躾に見過ぎた事を反省した。


「ちょっとあんた、私にはなんかないわけ!?」


 俺がジト目で振り返ると、婦警の格好をしていた小雛先輩が立っていた。

 ガチ感のある小早川さんとタイプは違うが、これはこれで似合ってると言わざるを得ない。

 生意気そうな表情と小柄な体型がコスプレ感を醸し出していて絶妙にくるものがある。


「いや、むしろなんで小雛先輩はいるんですか?」


 婦警の格好をした小雛先輩は俺に向かって笛を鳴らす。

 うるさっ! 俺は自分の両耳を手で塞ぐ。


「あんたが変な事をしようとしたら、こうやって笛を吹いて止めるために決まってるじゃない! パトカーに乗って爆発をバックに坂道ジャンプしたりとか、ヘリコプターから身を乗り出して誰かを狙撃したりとか、あんたに限って言えば絶対にありえない事が起こる可能性だってあるんだし」

「いやいや、俺だって反省してますからね!」


 流石にそんな漫画やドラマみたいな事が起こるわけないでしょ。

 またカノンが拐われたりとかしたら話は別だけど、今回は普通に大人しくしておきますって。


「あっ、淡島さん、それに阿部さん、いや、田島司令! よく似合ってますよ」

「ありがとう」

「そうだろうそうだろう!」


 ほら、慎太郎。お前も見惚れてないで淡島さんの事を褒めてあげろよ!

 後で個人的な夜のマンツーマンで婦警さんコスプレをしてもらうためにもな!!


「ていうか、慎太郎……お前、警察官の格好似合うな!?」

「あ、ああ。ありがとう」


 慎太郎はメガネをクイッとさせる。

 こういうメガネをかけてるエリートっぽい警察官って、警察のドラマを見てたら絶対に1人はいるよな。

 俺に褒められた慎太郎は照れた顔をする。って、俺に褒められたお前が照れるのかよ!

 お前が淡島さんを褒めて、同じ事をするんだよ!! ほら、今だ! チャンスだぞ!!

 淡島さんがさっきからお前の事をチラチラ見てきてるうちに言っちゃうんだ!!


「千霧さん、よく似合ってます」

「慎太郎君も、すごくかっこいいよ」


 お互いに頬をピンク色に染めると、すっと視線を逸らす。

 初々しくて見てるこっちが恥ずかしなったわ。ありがとう!!


「ちょっと! 普通に私を無視して話を逸らそうとするな!」


 小雛先輩は俺の腕を掴んで構ってもらいたそうにする。

 はぁ……。杉田先生から先輩は大切にしろと言われてたし、流石に構ってやるか。

 そんな事を考えていると、誰かが俺の左腕を掴んだ。


「あくあ、どう? 僕の婦警さんコスプレ、似合ってる?」


 とあ!? お前、なんで婦警さんのコスプレをしてるんだ!?

 まぁ、似合ってるしこまけー事はどうでもいいか!


「おう、似合ってるぞ!」

「ありがと! 今度、スバルと一緒に婦警さんコスプレしてみようかな」


 スバルたんの婦警さんコスプレだとぉ!?

 とあ……その時は呼んでくれ。俺はキリッとした顔をする。


「ほら、私は!? 私は!?」

「はいはい。小雛先輩も似合ってますよ」


 俺が雑な感じで褒めると、小雛先輩は両頬のほっぺたをぷっくりと膨らませる。

 これが彼女だったら最高に可愛いんだけどな。うん……ないな。ないない。

 俺は頭の中に浮かんできた一瞬の気の迷いを祓う。


「後輩、我は!?」


 白バイ隊員の制服を着た天我先輩が控え室から出てきた。

 うおーっ! それを見た俺のテンションが上がる。

 天我先輩が高身長な事もあってめちゃくちゃかっこいい!!


「天我先輩、よく似合ってますよ。俺もそっち着たらよかったかな〜」

「後輩とおそろだと!? ついに我の時代が来たか!?」


 喜ぶ天我先輩を見て心なしか俺も嬉しくなってきた。

 後で時間があったら天我先輩と一緒に制服を着て白バイをバックにして写真を撮ろうかな。


「時間? 作りますとも!」

「あくあ様と天我先輩の白バイ隊員!?」

「逮捕してください!!」

「警察官のお前が捕まってどうする!」

「天我先輩よかったね!」


 俺がその事について話したら、何故か向こうの方が乗り気になってくれた。

 いいのかな? まぁ、普通にお言葉に甘える事にしよう。


「それじゃあ、署長。朝礼をお願いします!」

「わかりました!!」


 俺たちが外に姿を現すと、詰めかけた報道陣や近隣住民の皆さんから大きな歓声が上がる。

 国旗に対して敬礼をした俺は、壇上でみんなに向かってもう一度敬礼をした。

 こんな事もあろうかと、敬礼を練習するアプリで敬礼の練習をしておいてよかったぜ。


「特別警察署長の剣崎総司です。皆さん、警察の仕事が何か知っていますか?」


 俺は目が合った婦警さんを指名する。


「一般市民の安全を守るために、事件を解決したり、事故を処理する事です!」


 俺は彼女の言葉に軽く頷く。


「ありがとうございます。しかし、警察の仕事は必ずしも事件を解決したり、事故を処理する事だけではありません」


 俺の発言に報道陣や一般市民がざわめく。


「大きな事故をなくすために普段から市民に対して安全運転や安全確認を啓発する。大きな事件を防ぐために市民の声に耳を傾け犯罪の可能性がある芽を摘む。どれも大変でとても地味な仕事です。そして未然に犯罪や事故を防ぐ事は、事件や事故が起こるわけではないので一般市民からはあまり評価されません。ですが、こういった活動は必ず、どこかで実を結んでいるのです」


 実際、わかりやすく事件や事故が起こった方が手柄はあげやすい。

 それでも俺は重要なのは、その事件や事故を未然に防ぐことだと、詰めかけた報道陣のカメラや一般市民達に説いていく。


「だからどうか、皆様も我々警察の活動を理解し協力していただけると嬉しいです。また、警察官の皆さんも一般市民に寄り添うような行動を常日頃から心がけてください」


 俺は周囲を見渡すと、剣崎がやっていたように天に向けて人差し指を突き立てる。

 それを見たみんなから大きな歓声が上がった。


「お母さんが言っていた。お互いに協力し合う関係を築く事が未然に事故や事件、犯罪を防ぐ事につながるはずだと……。地道な作業になりますが、みんなで協力し合って頑張りましょう!」


 俺の言葉に大きな拍手が起こる。

 剣崎らしいパフォーマンスを挟みつつ、俺もみんなに自分の伝えたい事を伝えられて満足した。

 壇上から降りる時に、すれ違った小雛先輩にジト目で睨まれる。

 な、なんですか? 俺、何か変な事でも言いましたっけ?


「あんた……犯罪組織の親玉になれる才能があるわよ」

「いやいや。小雛先輩、俺の話をちゃんと聞いてました!?」


 あれ? なんでとあや近くで話を聞いていた羽生総理も頷いてるんだ?

 おかしいな……。


「それじゃあ、みんな。また、後でな」


 ここからお昼まではみんなと別行動だ。


「って、小雛先輩、どうしてここにいるんですか?」

「さっき、もしもの時はあんたを止めるために来たって言ったじゃない。あんた、もしかしてもう忘れたの?」


 うーん、どう考えても一般市民に喧嘩を売る小雛先輩を俺が止める構図しか思い浮かばないんだけどな。

 俺の気のせいだって事にしておくか。


「まず、ここが取調室です。あちらの部屋では実際に取り調べが行われています」


 俺は取調室の中を覗き込む。

 彼女は一体何をしたんだろう?


「彼女は国際犯罪組織の1人だとされています。それが中々口を割らなくて困ってるんですよ。会話しようにも口すら開いてくれなくって……」


 国際犯罪組織の1人!?

 す、すごいな。普通に綺麗なお姉さんにしか見えないけど、人って見かけによらないんだなって思った。


「ちょっとあんた、取り調べしてきなさいよ」

「いやいや、流石にそれはダメでしょ」

「いや……アリ寄りのアリかもしれません。署長、試しに話を聞いてみてください!!」


 マジかよ……。

 俺は周りに促されて取調室の中に入る。


「こんにちは」

「うぇっ!? あくあくあくあしゃま!?」


 俺は自分の入ってきた入り口へと視線を向ける。

 あの……秒で口開きましたけど……。


「お姉さん、何があったかは知らないけど、知ってる事があったら喋ってくれるかな?」

「言いまーす。全部言いまーす」


 うんうん、流石にそう簡単に口を割ってくれたりしないよな。

 俺は席に座ると、目の前にいるお姉さんに訴えかける。


「俺もこの前、無免許運転で捕まってさ。だから、ほら。一緒に頑張って罪を償おう」

「一緒にぃ!? はーい、償いまーす。全部、お話ししまーす」


 ほらね。やっぱり無理でしょ?

 お姉さんだって全部話してくれるって……えええええええ!?

 数秒遅れで反応した俺は、入り口にいる小雛先輩達に驚いた顔で助けを求める。


「おい! なかなか、口を割らない容疑者をかき集めろ!! 今すぐにだ! 急げ!!」

「はいっ!!」

「それと非番の刑事も全部呼び出せ。未解決事件の数々が動くぞ!!」

「ほらね。私の言った通りじゃない」


 嘘だろ……。

 俺は次々と出てくる容疑者の人たちに対して、捜査への協力を呼びかけていく。


「もう全部しゃべります」

「なんでも聞いてください」

「犯罪ってよくないですよね」

「もう二度としません」


 ふぅ、疲れた。

 急に署内が忙しくなって来た事もあって、俺と小雛先輩はお邪魔にならないように食堂に行く。

 俺がカツ丼を食べていると、別のところに行っていたみんなが食堂に入ってきた。


「昼からは実際、外に出てパトロールするんだっけ?」

「そうらしいよ。あ、その前にスーツに着替えてだってさ」


 ああ、そっか。食事を終えた俺達はロッカールームで着慣れたスーツに着替える。

 一年間、ずっとヘブンズソードをやってた事もあって、少しだけ懐かしい気持ちになった。


「それじゃあ、こちらのコースでパトロールしてください」

「了解しました!」


 俺達がドライバーのスーツ姿で外に出ると大きな歓声が聞こえてきた。

 歓声に応えた俺達は、乗り慣れたバイクに跨って周辺地域のパトロールを開始する。


「あっ」


 途中、思い詰めた顔をしている女性を見かけた俺はバイクを止めて声をかける。


「お姉さん、ちょっとお話しいいですか?」

「えっ? ヘブンズソード!? それにこの声……本物のあくあ様!?」


 俺はバイクを降りると、ゆっくりとお姉さんに近づいていく。


「暗い顔をしてたけど、どうかしましたか?」

「えっと……その……」


 何か後ろめたい事があるのか、お姉さんが俺から視線をすっと逸らす。


「どうしても言いたくない事なら言わなくてもいい。でも……貴女自身が助けて欲しいと思ったのなら、俺たちを警察を頼ってはくれませんか?」

「……ごめんなさい!!」


 お姉さんは頭を下げると、バッグの中からハサミを取り出した。

 これはただ事じゃないなと思った俺はみんなに目配せをする。


「私……私、本当は今からとんでもない犯罪を犯そうとしていたんです!」

「話を聞かせてもらえるかな?」


 俺は地面に片膝をついてお姉さんの話を聞く。

 一般企業で働くお姉さんは、上司からひどいパワハラをされたらしい。

 思い詰めたお姉さんは、ハサミを突き出して上司を脅そうと思ったそうだ。

 でも、それができなくて、そのハサミを使って迷惑がかからない場所で自殺しようと考えていたらしい。


「やっぱり誰かを傷つけようとするのはダメですよね……」

「そうだね。たとえどんな理由であれ、そんな事をしたらお姉さんが犯罪に手を染めなきゃいけなくなる」


 俺は自首したお姉さんを護送車の中にエスコートする。

 事件が未然に防がれた事、お姉さんが反省の色を見せている事、途中でやめようと思った事もあって、おそらく罪に問われる事もなく注意等の軽微なもので済まされるだろう。

 ただ、これでこの話が解決したとはいえない。

 俺はみんなを引き連れてお姉さんが働いている会社に乗り込むと、それぞれから事情を聞く。

 なるほど……やはりパワハラがあったのは事実みたいだ。

 俺はお姉さんにパワハラをした上司の元へと向かう。


「け……警察には関係ない話でしょ!!」


 詰め寄られた上司がヒステリーを起こす。

 俺はヘブンズソードのマスクを脱ぐと、真っ直ぐに相手の目を見た。


「いいえ、これは歴とした傷害事件です」

「はあ!? 別に殴ったりとかしたわけじゃないから傷なんてないでしょ! 何を言ってんの! あ、あんた、周りにチヤホヤされてるからって、なんでもゴリ押せると思ったら間違いよ!!」


 俺は今にも飛び出しそうな小雛先輩を手で押さえると、ゆっくりとパワハラをした上司に近づいていく。


「体が傷ついてなかったら傷害事件じゃない? そんなわけがないだろ!! 心の傷だって十分な傷害事件だ!! 貴女に心を傷つけられた彼女は、自殺しようと思ってたんだぞ!! 貴女は……人が死ぬって事がどれだけの事かわかって言ってるのか!?」


 パワハラをした上司は俺に気圧されて視線を逸らす。

 俺は自分へのやるせなさで拳を強く握りしめた。

 たとえ俺がどんなに真剣にその事を伝えようと思っても、それが通じない相手は絶対にいる。

 言葉でも多くの人を救ってきた剣崎とは大違いだ。

 俺はこちらを見ていた他の社員達にも視線を向ける。


「俺はこの事を黒蝶揚羽議員の主導で作られた政府の第三者調査機関に伝えさせてもらいます。非情だと思うかもしれませんが、パワハラがあったのに見て見ないフリをしていたこの会社全体にも問題があると感じました」


 第三者調査機関が入れば、パワハラをした上司のパワハラの内容次第では民事、刑事のどちらか、もしくは両方で罪に問われる可能性がある。

 自殺しようとしたお姉さんから聞いたパワハラの内容が事実だと認められたら、上司の彼女は何らかの罰を受ける事になるだろう。

 また、会社自体に問題があれば、そこにもちゃんと調査が入る。

 経営陣の退陣を促されたり、会社ぐるみのパワハラだと会社自体が廃業させられる事もあるそうだ。


「ただ、これだけは言わせてほしい。人はいつだって自分の在り方次第で変われるはずなんです。今日からでも、この瞬間からでも。俺だって今、自分の起こした行動の責任をとって罪を償っている最中です。だからどうか、自分から良くなろうとする事を諦めないで欲しい。お願いします」


 俺が頭を下げると、何人かの人が強く反応する。

 流石に剣崎みたいに全員の心を動かす事はできなくても、数人だけでも、俺の言葉が届いて良かったと思いたい。

 俺はすぐに飛んできた第三者機関にその場を任せると、みんなと一緒にパトロールに戻った。

 そうして俺達の一日警察署長は終わりを迎える。


「はあ……」


 バイクに跨った俺は軽くため息を吐く。

 結局、パワハラの件についても、あれで良かったのかどうか俺にはわからない。

 もうちょっと上手くやれたら、いや、もっと言葉を選べば良かったかなと反省をする。

 そんな俺の頭をバイクの後ろに乗った小雛先輩がポンと叩く。


「何が正しいかと間違ってるかとか、そんなの時と場合によるから深く考えるだけ無駄よ」


 小雛先輩は俺のお腹に手を回すと、表情が見えないように顔を逸らす。


「ま……少なくとも、さっきのあんたは剣崎よりも……じゃなくって、剣崎に負けないくらいはかっこよかったんじゃない?」

「小雛先輩……」


 ありがとうございます。

 本当は声に出して伝えてもよかったけど、俺は恥ずかしくて心の中で感謝の言葉を伝えた。


「ま、私なら、経営陣も呼び出して、全員目の前で土下座させて説教してたけどね。それに比べたらあんたの方が全然大人だったと思うわよ」

「ははは」


 小雛先輩らしいなと思った。


「そ、だから。物事には必ずしも正解なんてないのよ。ま、あんたがとんでもなく間違った道に行こうとしたら、私が全力で止めてあげるから、安心して大いに悩みなさいよ」

「……ありがとうございます」


 俺は素直に小雛先輩に対して感謝の言葉を伝える。

 すると小雛先輩は、顔を背けて聞いてないフリをしてくれた。

 だから俺はもう一度心の中で小雛先輩に感謝の言葉を伝える。

 ありがとう。

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