城まろん、白銀あくあ史上最速攻略RTA。
「アヤナちゃん、本当におめでとう!」
「まろんせんぱぁい……!」
私は涙目になって帰ってきたアヤナちゃんの体をギュッと抱きしめる。
よしよし、みんなに弄られて恥ずかしかったよね。
私はそういうつもりじゃなかったんだけど、えみりちゃん達が悪ノリしちゃうから……。
「ちゃんと悪夢の世代のみんなには私が釘を刺しておいたから許してあげてね。みんな、それくらいアヤナちゃんがあくあ君と結ばれて嬉しかったの」
私の言葉にアヤナちゃんはこくんと頷く。
優しくて素直で可愛い後輩に私も笑みが溢れる。
「ほら、みんなでご飯食べよう。お腹空いたでしょ?」
「……うん」
私は真顔でお赤飯を出してこようとしたえみりさんをキッと睨みつける。
またそうやってふざけてると、アヤナちゃんが恥ずかしがって部屋に閉じこもっちゃうからやめなさい!
私はアヤナちゃんを席に座らせると、特にふざけていた人達に釘を刺す。
「もーっ! みんなも自分がされたら嫌でしょ」
えみりちゃん、楓、ゆかり、インコ、総理、イリア、ふらんが顔を見合わせる。
「えっ? 普通に嬉しいけど……」
「私もお赤飯で祝ってもらって嬉しかった。ていうかお赤飯美味しい。もぐもぐ」
「だってぇ、めでたいんだもん。これで後は阿古っちだけね」
「せやせや! うちの地元の商店街なんて、もうマジック280点灯の垂れ幕かかってるで」
「むしろ国をあげて祝うべき。そうだ。国民の祝日にしましょう!!」
「やっぱり今からでもホテルを貸切にしてパーティーを開きましょう」
「はいはい、ふらんもあくあ様と結ばれた日にはみんなに祝って欲しいです!!」
純粋な目をしたみんなに私は頭を抱える。
みんな本当に心の底から嬉しいんだね……。
私はみんなに、「アヤナちゃんは恥ずかしがり屋だから、今はそっとしておいてあげてね」という。
アヤナちゃんもみんなに祝福されるのは嬉しいと思うんだけど、流石にこういう日に祝われるのは、なんというかあからさますぎて恥ずかしさの方が勝っちゃうと思った。
「よし、じゃあ本人にバレないようにこっそりとさりげなく祝うか」
「それはアリ寄りのアリ」
「いいわね。乗った」
「今、実家のオカンに聞いたら、もう関西圏の百貨店はおめでとうセールとお裾分け福袋やってるらしいわ」
「よし! 国民全員にお祝い金を出しましょう。なーに、国庫の中に死ぬほどお金が余ってますからちょっとくらい使っても減りませんよ。どうせみんなすぐに使って、周り回って戻ってくるし!」
「みんなお金よりアヤナちゃんとあくあ様からのメッセージの方が喜ぶんじゃないかしら? それか記念グッズとか」
「やっぱりここはテレビで記者会見しましょう!!」
やめーーーい!!
なんでみんなはすぐにそういう方向に行くの!!
彼女達を一つ纏めにしておくのは危険だと察した私は、えみりちゃんと楓をそれぞれの保護者に、羽生総理を揚羽さんに、ゆかりを天鳥社長に預けて、インコとイリアを回収するようにそれぞれのマネージャーさんに電話をかけた。
「はーい。インコさん帰りましょうねー」
「いやや〜、うちも白銀キングダムに居たい〜。せや、もういっそ白銀キングダム内に配信部屋移動しよ!」
白銀キングダムって申請したら結構簡単に部屋が取れるんだよね。
はぁ……そういえば一緒に暮らしているふらんもフィーちゃんやハーちゃん、らぴすちゃんのお部屋にお泊まりしに行く事が多いし、迷惑になる前に私も申請しておこうかな。
この前なんて、後宮にいるくくり様の部屋でお泊まりしたらしいし、ふらんの物怖じしない性格とコミュニケーション能力が怖い。私なんか恐れ多くてくくり様に泊めてなんて言えないよ。
後で私が菓子折りを持って、ご迷惑をおかけしましたって言いに言ったら、くくり様からはまた泊まりに来てねって言われてたし……本当にどうなってるの。
「はいはい。インコさん、今の章クリアしたらね」
「やったー! これでミニゲームに出てくる野生の楓が窓から放り投げてくるバナナの皮を回避する弾幕ステージも頑張れるで!!」
……あの乙女ゲーム。私も配信外で頑張ってみたけど、本当にどうでもいいところに気合い入ってるよね。
私はそこまで行ってないけど、野良のゆかりが後ろから全力疾走で追いかけてくるホラーステージで挫折した。
インコが配信でオムツ穿いてお漏らししながらもあのステージをクリアした時は私も感動したよ。
私はお昼ご飯が終わった後にアヤナちゃんを部屋に送り届けると、白銀キングダムの事務局に行く。
「すみませーん。居ますかー?」
「へーい。あっ、まろんさんじゃないですか? どうかしましたか?」
あっ、えみりちゃんが担当なんだ。
てっきりこういうのはカノンさんか琴乃さんがやってると思っていた。
「2人がいない時は悪徳不動産屋さんでバイトしてた私がやってるんですよ。よかったですね。私の審査はゆるゆるです!」
いや、審査がゆるゆるなのは問題でしょ。そもそも何をどうしたら悪徳不動産でバイトする事になったのかが気になるけど、そこには触れちゃいけない気がした。
絶対に後でえみりちゃんはカノンさん達に怒られてるんだろうなあと思いつつ、私は空き部屋を借りる申請をする書面にペンを走らせる。
えーと、本名と住所、年齢、電話番号に職業、それにスリーサイズと嗜好と……って、何これぇ!?
この最後の二つの項目はいらないでしょ!!
「重要なのはそこです! あっ、同意書の記載もよろしくオナシャス! これも規則として、入ってもらう人には全員同意してもらってますから」
私は顔を赤くしつつ、同意書に自分の名前を書く。
「はい、それでは書面の方を確認しますね」
「お願いします」
えみりちゃんは私の胸をチラチラと見る。
ど、どうしたの? そんなに見られると恥ずかしいんだけど……。
「サバ読みなしと……」
私はその場でズルっと転けそうになる.
「たまにいるんですよねー。くくりみたいに盛って申請しようとしたり、揚羽お姉ちゃんみたいに過少申告しようとしたり、姐さんやカノンの目は誤魔化せてもこの私の目は誤魔化せませんから、そういうところはキッチリと確認させてもらいますね」
それよりも、他にもっと確認するところがあるんじゃない!?
今も免許証を出したら、チラッとしか見てなかったし……。
「普段はメガネをかけてるんですね。ほほう、赤い縁のメガネですか……これは間違いなく叡智ですね。プラス審査入ります」
「そんな事ないもん!!」
なんで!? 赤いメガネをかけてるだけだよ!?
それで審査がプラスになるのもおかしいでしょ!
「えーと……ご職業はアイドルという事ですが、ライブで家を空けたりする事も多かったりとかしますか?」
「あっ、はい。全国ツアーやってるので、月1回、その期間中は家を空けてます」
ようやくまともそうな質問が来て私はホッとする。
「なるほど、月に1回は家を空けてるんですね。ふむふむ、好きな男性を懸想する頻度は月何回くらいですかね?」
「月? 1日に何回とかじゃなくて?」
って、ちがーーーーーう!
真面目な質問かと思って、流れで変な事を行っちゃったじゃない!
「1日に何回!? ちなみにガチなところ、私は1日最高で7回はあります」
「よかったぁ。私だけじゃないんだ。私もふらんがお泊まりの日は捗っちゃって7回くらいは普通に……って、ちがーう!!」
えみりちゃんは涙を流しながら何度も種類にハンコを押す。
「合格です。満点どころか1万点オーバーです。白銀キングダムは、貴女のような人をずっと待っていました! ありがとう、本当にありがとう!!」
なんなのよこれぇ!
私は羞恥心で顔を真っ赤にしながらも、えみりちゃんから居住許可証を受け取る。
「あれ? まろんさん、こんなところでどうしたんですか?」
「あっ……」
偶然にも私はトレーニングして帰ってきたあくあ君と遭遇する。
「実は……」
私はふらんがここにお泊まりしに来ている事から順を追って事情を説明する。
「なるほどね。まろんさんが住んでくれるなら、きっとアヤナも心強いんじゃないかな。ありがとうございます!」
ふふっ、私はあくあ君の言葉に笑みを返す。
アヤナちゃん、良かったね。
貴女が好きになった人は、ちゃんと貴女の事を見てくれる人だったよ。
「こちらこそ、アヤナちゃんをよろしくお願いします。それと、うちのふらんともいつも遊んでくれてるみたいで、本当にありがとう」
「いやいや、それをいうならうちの小雛先輩もふらんちゃんにたくさん面倒を見てもらってますから」
え? ゆかりがふらんの面倒を見てるんじゃなくて?
そうじゃない? ふらんがゆかりの面倒を見てるの?
私はあくあ君の言葉に頭が混乱する。
普通、成人女性と小学生なら、成人女性が小学生の面倒を見るんじゃないかな?
「小雛先輩はそういう次元で生きてませんから」
あくあ君は遠い目をする。
ゆかりからの話から聞いてないからわからないけど、もしかして貴女、あくあ君に結構迷惑かけてるんじゃない?
「あ、まろんさん。よかったら部屋に案内しますよ」
「ありがとう」
相変わらずあくあ君は優しいなあ。
こうやってスマートに案内してくれるところもかっこいいなって思う。
でも、あくあ君は意外と甘えたがりなところが1番可愛いんだよね。
私はあくあ君の案内で自分に用意された部屋に入る。
「私が今住んでるところより広いんだけど……」
なるほど、みんながこっちに引っ越してくる理由がわかった。
確か家賃や水道光熱費、ネット回線や固定電話もタダなんだよね。
キッチンやトイレも最新だし、冷蔵庫とか洗濯機、ビルトインエアコンとか家電も揃ってるし、お風呂が広くて猫足のバスタブがめちゃくちゃ可愛いのも私的にポイントが高い。
あくあ君はキッチンの上に置いてあったタブレットを私に手渡す。
「あ、これ家具とかカーテン、カーペットのカタログです。もちろん、自分のお家からお気に入りを持ってきてもらってもいいですよ」
すご……。専門の業者さんがスタッフとして住んでるから一瞬で手配してくれるんだ。
これなら家から服とか私物だけを持ってきたら直ぐに住めちゃうよね。
うーん、これは引っ越す以外の選択肢はないかも。
私はその日のうちに引っ越しを決意する。
カタログに載っていた直ぐに手配できるって項目にチェックが入っていた家具一式を注文した。
「よかったら引越しの準備、手伝いますよ」
「ありがとう」
私はふらんに声をかけると3人で自宅に向かう。
こうして私はふらんと一緒に白銀キングダムへと移住した。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://x.com/yuuritohoney