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白銀あくあ、今宵、月の見える部屋で。

「あくあ……」


 俺は部屋の中に入ってきたアヤナを強く抱きしめる。

 正直な話、アヤナがここに来てくれるかどうかは半々だと思っていた。

 俺だってみんなが思っているように鈍感じゃない。

 アヤナが俺の事を異性として好きになってくれている事には気がついている。


『じゃあ、なんでさっさと行ってあげないのよ?』


 同じ役者でアイドル。俺達は性別こそ違えど、同じ場所で戦う友でありライバルでもあった。


 いつの日か、俺と肩を並ばせる事ができたら告白しよう。


 きっと頑張り屋さんなアヤナの事だ。そんな事を考えていたんじゃないかな。

 でも、それは大きな間違いなんだよ。アヤナ。


「アヤナ、もしかしてまだ悩んでる?」

「っ!?」


 俺の言葉にアヤナが大きく瞳を揺らせる。

 やっぱりここに来てもまだ悩んでるんだな。

 そこも含めて、自分を律する事ができるアヤナらしいなと思った。


「大丈夫、それもわかってるから」

「あくあ……」


 俺は男で、君は女の子だ。この男女比が大きく偏った世界で、同じ事をやっても男性と女性では大きく評価が異なる。君は誰がなんと言おうと、アイドルとしては間違いなくトップだし、役者として小雛ゆかり、玖珂レイラ、雪白美洲の3人と共演するところまで来た。

 俺は男性だから主演や良い作品に抜擢されたりするけど、女性としてその年齢で海外の映画に出てる時点で、君は俺達が憧れ目指しているあの小雛ゆかりすらも成し得なかった事をやっているのだと早く気が付いてほしい。

 多分、アヤナが俺の隣に並んでいないなんて思ってるのは、この世界にただ1人。誰よりもストイックなアヤナ本人だけだよ。


「どうせアヤナの事だ。俺に勝ったら次は、小雛先輩とか美洲お母さんに勝たなきゃ告白できないとか思っちゃうんだろ?」

「うっ……!」


 アヤナは図星だったのか視線を少しだけ泳がせる。

 だろうなと思ってたよ。それじゃあ、いつまで経っても俺は待たなきゃいけない。

 俺は焦らされて待つのは好きだが、待ちぼうけを喰らって爺さんになるのだけは絶対に嫌だ。

 アヤナのペースに合わせてたら、冗談じゃなくてそうなる気がしちゃうんだよな。

 だから俺も勝負に出た。

 去年の夏から1年。この告白は俺の、男としてのケジメだ。


「アヤナ、別に付き合ってたり、結婚してても競い合う事はできるだろ?」


 俺の言葉にアヤナがハッとした顔をする。

 意外とこういうところが抜けてるのもアヤナなんだよな。そこも可愛いから良いけど。


「ほら、やっぱり、今、気が付いたって顔してる」

「だ、だって……負けたくないって思っちゃったんだもん」


 はは、まず負けたくないが来ちゃうところが、負けず嫌いのアヤナらしくて好きだって思った。


「俺は別に負けたって良いけどな」

「えー! 何それ? 余裕ってこと?」


 別にそういうんじゃないよ。

 俺は先にベッドに座ると、ベッドをぽんぽんと叩いて、アヤナに対して隣に座るように促す。


「最初は漠然と最強で最高のアイドルになりたいって思ってたけど、俺をみて1人でも笑顔になってくれる人がいたらそれで良いって思えるようになったんだよね」


 全国ライブツアーをやってみてよくわかった。

 みんなの笑顔を生で見て、俺はこれで良いじゃないかと思ったんだよね。

 そしてそれこそが俺の目指すアイドル像だと思った。


「なぁ、アヤナはどうなりたい?」


 俺は優しい顔でアヤナに問いかける。

 アヤナは少しだけ考え込むように目を閉じると、何か自分なりの答えを見つけたようだった。


「私は……私は頑張っている人の背中を押してあげられるような人になりたい。アイドルとしても役者としても」


 アヤナらしい、良い答えだと思った。

 俺は笑顔でアヤナと向かい合う。


「ね。付き合っていても、お互いにとって良い刺激になるでしょ」

「……そうね」


 アヤナは肩の力が抜けたように、ホッとした自然な笑顔を見せる。


「アヤナ、改めて俺と付き合って欲しい。結婚前提で」

「良いよ。でも、結婚前提なんだ?」


 当然でしょ。俺は目標がなくダラダラ付き合ったりするような男じゃない。

 恋した女の子と結婚したいと思うのは当然の事だ。

 だからいつの日か、愛人でいいなんて言ってる人達も覚悟しておいて欲しい。

 落ちぬなら、落として見せよう、この愛に。これが白銀あくあ、辞世の……いや、終生の句である。


『愛? 沼じゃないの? それも大沼ってやつ』


 ええーい! せっかくみんなに協力してもらって引き剥がしたのに、勝手に頭の中に出てこないでくださいよ!

 俺は心の中で手を合わせると、アヤナは俺が幸せにするから安らかにお眠りくださいと祈った。

 どこからともなく「勝手に殺すな!」って声が聞こえてきたような気がするけど、きっとそれは俺の空耳だろう。

 俺は改めてアヤナと向き合うと、彼女の頬に優しく手を置いた。

 ここから先は、言葉なんていらない。

 ホテルの最上階にあるペントハウス。嵐のない静かな部屋の中で、天井から差し込む月の光が俺とアヤナだけを明るく照らしていた。

本当は幕間にしようと思ってたけど、一部、こっちでも読める部分だけ。


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