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黒蝶揚羽、レスバ国会開催。

 今日は国会のある日です。

 私はいつものように着物に着替えると電車で議会へと向かう。

 別にタクシーでも良かったけど、せっかくだから電車で行こうと思った。

 こうやって肩肘張らずに生活できるようになったのも、黒蝶家を潰してくれたあくあ君のおかげです。


「黒蝶議員、頑張ってください!」

「ありがとう。頑張ります!」


 私は話しかけてくれたお姉さんと握手をする。

 こうやって私に対して期待してくれている人からの言葉を聞くと励みになります。


「今日も羽生総理とのレスバ楽しみにしてます!!」

「ふふっ、ありがとう。でも、レスバじゃなくて討論ね」


 私は学生らしきお嬢さんと握手をする。

 未来ある彼女達のために頑張らなきゃいけないと、身が引き締まる思いになりました。


「ぐへへ。ノーブラ法の促進お願いしまぁす」

「えぇ、もち……って、そんな法案提出してません!」


 って、えみりちゃんじゃない! もーっ!

 お外で変な事を言ってたら通報されちゃうわよ。私も思わず通報しそうになったもの。

 それにこの事がのえるさんにバレたら、警察に捕まるよりも恐ろしい目に遭うってわかってないのかしら……。


「えみりちゃんは、どこかにお出かけ?」

「ああ、はい。カノンへの出産祝いに贈るプレゼントの目星をつけておこうかなと……」


 あぁ、そっか。カノンさんの出産予定日って9月だっけ。

 あと1ヶ月ちょっとであくあ様の子供が産まれてくる。きっとすごい騒ぎになるだろう。

 産まれてくる2人の子供のためにも、この国を良くできるように頑張らないといけないと思った。

 

「それじゃあ、揚羽お姉ちゃん頑張ってね!」

「うん。えみりちゃんこそ、妊婦なんだから気をつけて」


 私はえみりちゃんより先に電車を降りると、国会議事堂の中に入る。

 するとすごく熱の篭った目で、白熱した議論を交わしているグループを見つけた。

 一体、どんな議論を交わしているんだろう。

 私も真剣な顔をして周りで立ち聞きしている若手議員たちに混ざる。


「とあちゃんのスペシャルドラマ見た?」

「見た見た。あくあ様のジャンプやばすぎでしょ」

「あくあ様はやっぱりああいうかっこいい役が一番なんですよ」

「わかりみが深い。槙島なんていうのは所詮はまやかしだったのです」


 私は議論の内容を聞いてズッコケそうになった。

 全く……。真剣な顔をしてるから何事かと思ったら……。心なしか頭が痛くなってきた私は頭を抱える。


「あ、黒蝶議員。おはようございます!」

「黒蝶議員もやっぱりあくあ様はかっこいい方がいいですよね!?」


 その場に居た全員の視線がこちらに向けられる。

 とあちゃん主演のスペシャルドラマか……。

 男性のフィギュアスケーター役として出演したあくあ君の演技は凄かった。

 ジャンプした時の跳躍力や破壊力というか、スピンの回転のスピード、両手を広げた時の身体の大きさ、その全てが女子のフィギュアとは違いすぎて、ただただ驚く事しかできなかったと覚えている。

 何より身体に吸い付くような完全オーダーメイドのフィギュア衣装。筋肉があるけど引き締まっていてすごく良かった。

 ドラマ放送後にカノンさんとアヤナちゃんが秒であくあ君のフィギュアシーンを待ち受けにしているのを見たっけ。それを弄ってたえみりちゃんも待ち受けにしてたし、琴乃さんもみんなにバレない様にこそっと待ち受けにしてた。

 みんな、結局、ああいうあくあ君が一番好きだよね。私も同じ待ち受け画面にしてるけど……。


「皆様、おはようございます。え、ええ。そうね。コホン! あのドラマがきっかけで、男子でもフィギュアをやってみたいって男の子が、あくあ君……白銀あくあさんの元に相談来てるって聞きましたし、とても意義のあるドラマだったのではないでしょうか」


 炊き出しのイベントがきっかけになって、男の子だけのグループコミュニティが出来たとあくあ君に聞きました。あくあ君は年頃のお友達がたくさん出来て嬉しそうだったな。

 その事について嬉しそうに話すあくあ君の顔を思い出したせいか、自然と笑みがこぼれる。


「なんだって!?」

「男の子がフィギュア!?」

「黒蝶議員、その情報は正確なのですか!?」

「そもそも男性だけのグループコミュニティ、見てみ……うらやま……そんなものが出来てたなんて知りませんよ!」

「中村君。気持ちはわかるが、誤魔化せてないぞ!」


 ああ、そこからですか。

 私はかいつまんで皆さんに事情を説明する。


「くっ、私が家で呑気に煎餅を齧ってる裏でそんな事になってたなんて!」

「炊き出しのイベント行きたかったなぁ」

「仕方ない。あれは突発だったから」

「どうりであの日、総理がソワソワしてたわけですよ」

「つまり総理は知ってて、自分だけ炊き出しに行こうとしてたと?」

「国会で追及だ!!」


 私はヒートアップするみなさんを諌める。

 国会はこの国と国を支えてくれている全ての国民を良くするためにあるもので、何かを追求する場所じゃないですよ。

 こうやってすぐに脱線しそうになる若手議員を諌め、本来の目的を見失わせないのも先達の国会議員としての務めです。

 私は時間が来たので自分の席に戻る。

 すると呑気そうな顔で議会に入ってきた羽生総理がすれ違いざまに話しかけてきた。


「黒蝶議員。今度一緒にノーパンゴルフ外交とかどう? もちろんミニスカで」


 私は思わず机に顔を突っ伏す。

 全くこの人ときたら……! そんな事したら国際問題になりますよ!!


「総理……そのネタならさっき、えみりちゃんから似た様な話を聞いたばかりです」

「さすがはえみりちゃんだ。明日にでも総理を任せられる」


 えみりちゃんが総理? そんな事になったら、明日から全員が全裸で生活する事になりますよ?

 総理はお茶目な人だからたまに血迷った事を言う時があるけど、あくあ君、えみりちゃん、楓ちゃん。そして我らが聖女党のバック。聖あくあ教の実質No.1でもある千聖クレアさんの4人が総理になるのだけは絶対に避けないと……。

 そんな事になったら、日本の未来がどっちに行くかもわかったもんじゃない。

 より一層、私がしっかりしなきゃという思いになる。


「これより会議を始めます」


 議長の言葉で議会が始まる。

 今日の議題は、あくあ君についてでの話し合いです。


「それでは、あくあ様のために作るあくあ様のための法律。白銀あくあ特別法案についての話し合いを始めたいと思います」


 議長の発言に対して、参加する全議員が一斉に立ち上がって手を叩く。


「いいぞー!」

「この日のために必死に議論を交わして早めに他の議題を終わらせたんだ!」

「3日、いや、1週間はこの議題で話せる!!」

「いよ! 待ってました!」

「ひゅ〜っ! これだから国会議員は辞められないぜ!」


 全くこの人達は……。ますます私がしっかりしないといけないって気持ちになります。

 でも、あくあ君のおかげでより一層、政治家にやる気が出たのはいい事だと思いました。


「静粛に! みなさんがヒートアップする気持ちはわかりますが、1人の議員について5分以内の発言をお願いします。また発言の申し出が各議員よりありましたので、順次それを許したいと思います。それでは最初に男性の権利を守る党の代表から、佐々木議員、お願いします」

「はい!」


 若手の佐々木議員は元気な掛け声と共に真ん中にある演題に立つ。

 今、勢いのある若手議員の1人なので、その発言内容にも期待できます。


「男性の権利を守る党の佐々木です! みなさん、お手元のタブレットに送付したグラフを見てください」


 私はタブレットに送信されたファイルを開く。

 なるほど……日本と世界各国の男性と女性の未婚率のグラフですか。

 少子化担当大臣の私としては見慣れたグラフの一つです。


「知っての通り、我が国に限らず女性の男性との結婚率は10%を下回っています。しかし、グラフを見て貰えばわかる様に、ここにきて多少の改善率が見られました。次のページをどうぞ」


 言われた通りに次のページを開くとBERYLの顔写真が出てきました。


「えー、なんとですね。BERYLの女性との結婚率は50%です」


 佐々木議員の発言に、会場が大きくどよめく。


「なんだって!?」

「さすがはBERYL。レベルが違う!!」

「ふぅ。体が芯から火照ってきた〜」


 いやいや……いやいやいや!

 分母が4人しかいないんだから、結婚した2人がいたらそうなるのは当たり前でしょ!

 全くもう。呆れた私は両手で頭を抱える。


「はいはいはい!」

「羽生治世子君、はいの言葉は一回でお願いします! それと、羽生総理の発言を許可します」


 羽生総理がてへぺろしながら席を立って演壇へと向かう。


「佐々木議員。黛慎太郎君が裏でこっそり結婚してる可能性はありませんか? 淡島千霧さんと結婚していたら、75%の数字になるんじゃないですか?」

「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」


 総理の発言に議会が一気にヒートアップする。


「流石は総理だ!!」

「その昔、国会のジャックナイフと言われてただけの事はある」

「いや、とあちゃんがあくあ君と結婚してたら100%の可能性があるのでは!?」

「やめろ! 谷川議員。その議論は私達には早すぎる!」

「はわわわわわ!」

「しっかりしろ! 早くアクトアかトアクアを飲むんだ!」


 羽生総理の質問を受けて、佐々木議員はもう一度登壇する。


「はい。その可能性は十分にあると思います!」

「「「「「おお〜」」」」」

「私は1人の議員として、その可能性を! 夢を追い続けていきたいと思います!!」

「「「「「「「「「「おおおおお!」」」」」」」」」」


 佐々木議員の発言に対して、他の議員達が拍手喝采で支持する。

 えっと……みなさん、真面目にやる気がありますか?

 真顔になった私の周囲から冷たい空気が流れる。


「それでは次のページを参照ください」


 私は言われたように次のページを表示する。


 は?


 そこに書かれていた内容を見て私は真顔になる。


「続いてBERYLのメンバーでもある白銀あくあ君から直接聞いた、お付き合いまたは結婚している女性達のリストです」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」


 すでに結婚を発表しているカノンさんやえみりちゃんはもちろんのこと、そこにはしっかりと私の名前が書かれていました。


「信じられますか? あくあ様は昨年の10月まで独り身だったのです。それからまだ1年も経っていないのに、もう数十人にも及ぶ女性達を幸せにしちゃってるんですよ!!」


 羽生総理は真剣な顔をすると無言で挙手をした。

 私はこの時点でお腹を抑える。

 急にポンポンが痛くなってきたので、帰ってもいいですか?


「羽生治世子くんの発言を認めます。前へ」

「はいっ!」


 肩で風を切りながら登壇した羽生総理はぐるりと周りを見渡す。


「私、羽生治世子は結婚して一人娘がいますが、いまだに男性との交際経験はありません!!」


 ほーら。また、何かが始まった。

 そうやってふざけるだけの国会だったら、私もう帰りますよって前に怒りましたよね?


「いいぞ!」

「その潔さヨシッ!」

「それでこそ総理だ!」

「国民の味方である総理自らが男性との交際経験がゼロだなんて、私は感動で前が見えません!」

「総理! 一生ついていきます!!」

「貞操も守れない女に、国防なんかできるか!!」


 与野党の議員が総理の宣言に拍手を送る。

 どうして、みなさんいつもは真面目な方ばかりなのに、話が脱線するとこんなにもノリがいいんでしょう。

 ついていけてないのは私だけなのかなあ?


「正直、羨ましくてたまりません!!」


 表情に悔しさを滲ませた羽生総理の台パンを議長が注意する。


「総理、私達も同じ気持ちです!」

「いつもは与野党に分かれる我らも同じ乙女。その苦しみ、痛み入ります!!」

「その愚直なまでの素直さ。さすがは総理です!!」


 周りの議員達からは総理にあたたかな拍手と声援が送られる。

 私はタブレットの画面をスライドさせると、国会を見ている人たちの反応を調べた。


【これだから国会視聴はやめられないぜ!】

【さすがは再放送しまくってる人気コンテンツの一つなだけの事はある】

【こいつら本当にアホだけど、議員としては超がつくほど優秀なんだよな】

【↑みんなこのお笑い国会に参加したくて、本気で議員やってるからな】

【最初の三日で真面目な議題を全部終わらせて毎回こうなるのアホすぎるwww】

【あくあ君の話になると議員さんのIQが5くらいに落ちるの何?】

【↑大丈夫。私達も同じだから】

【さっきの黒蝶議員、今にも総理を殺しそうな目をしてたぞ】

【前回、ヘブンズソードの日を制定するための国会も超面白かった】

【↑放送開始日にするか、放送終了日にするか、剣崎が復活した日にするかで大激論してたなw】


 はぁ……。国民のみんながこの状況を普通に受け入れているのを見て、私は大きなため息を吐く。

 総理は羨ましいという発言で満足したのか、そのまま演壇を降りて自分の席へと帰っていきました。

 ちょっと待ってください。

 まさか、ただ羨ましいって言いたいがためだけに、思わせぶりな表情で前に出てきたんですか?

 嘘でしょ……。私、もう本気で帰っちゃおうかな。


「えー、話が脱線しましたが、このように白銀あくあさんの行動によって多くの女性達が幸せをつかみました。我々、男性の権利を守る党は白銀あくあさんの動きを陰ながらに応援、加速するために、リストバンドから進化した新しい形態、マイオンナーカードの促進事業について提案したいと思います!!」

「「「「「「「「「「おお〜!」」」」」」」」」」


 マイオンナーカードって何よ!!

 そんな議会が揺れるほど感嘆するような法案でもないでしょ!!

 もーーーーーーーーーーっ!


「見て貰えばわかるように、マイオンナーカードは運転免許証のサイズと全く変わりません。このカードの使い方は至ってシンプルで、白銀あくあさんからの視線を感じた段階でスッとこのカードを見せればいいだけです。また、カードの中にあるICチップに予め登録した交際同意書のデータをインプットする事で、白銀あくあさんのお手を煩わせる事なくスムーズに交際に至れるように配慮しました。そして、このカードを持つ事により私達の側にも大きなメリットがあります。白銀あくあさんの女、つまりマイオンナーとして登録される事です! つまり、このカードを所持しているだけで、私達全員が白銀あくあさんの女になれるわけなんですよ!!」


 へー、すごいですねー。

 冷静になりすぎて平然とする私の周りで他の議員達が騒ぎ出す。


「素晴らしい法案だ!」

「すぐに法案を通そう!!」

「夢のようなカードだ!」

「秒で普及率95%以上は硬いな」

「静粛に! みなさん席から立ち上がらないでください! 総理は指名してないんだから、早く自分の席に帰る!!」


 議長が若手議員達を宥める。

 総理、貴女まで何やってるんですか。もう!

 ここは小学校の学級委員会じゃないんですよ!!


「佐々木議員、ありがとうございました。マイオンナーカードについては、また特別議会を開いて、個別の案件としてじっくりと議論する事にしましょう。それでは次に移りたいと思います。羽生治世子君。前にどうぞ」

「はい!」


 元気よく返事をした総理が前に出る。


「帝政党の羽生治世子です。皆さん、先ほど登壇された佐々木議員のデータを今一度ご覧ください」


 私は言われたようにタブレットの画面へと視線を落とす。

 もうこの時点で嫌な予感しかしません。


「白銀あくあさんのマイオンナーリストを参照していただければわかるように、我らが議員仲間の1人、同志、黒蝶揚羽くんが白銀あくあさんのマイオンナーに選ばれましたぁ!!」


 もうやだあああああああああああああああああああ!

 私は顔を真っ赤にして机に顔を突っ伏す。


「なんだって!」

「これは同じ釜の飯を食った議員仲間への裏切り行為じゃないのか!!」

「羨ましい!!」

「おい、本音が漏れてるぞ!」


 周りからのヤジに対して羽生総理が一喝する。


「みなさんお静かに!!」


 真剣な羽生総理の顔に会場がピリつく。


「いいですか? みなさん、私達は与野党に分かれていても、同じ志を持った仲間同士なのです!! 我らの願いはただ一つ!」


 総理の言葉に対して立ち上がった佐藤議員と渡辺議員が声を上げる。


「この国を良くする!」

「国民を守り、みんなの未来を切り開いていく!」


 その言葉に対して羽生総理が力強く頷く。


「そうです!! そして、私達は議員である前に1人の女なんですよ! だから同じ女性として、ここは祝福するべきなのではないですか? 私はこの意見が間違っているとは思いません!! 私、羽生治世子は、この国の現役の総理大臣として、この場に宣誓します! 誰に対しても優しく、そして思いやりのある国にしていく事を誓います!!」

「いいぞ!」

「感動した!!」


 羽生総理に大して何人かの議員が目頭を熱くする。

 あの……これって只の茶番ですよね?

 なんで皆さんはそんなにもノリがいいんですか?


「黒蝶揚羽議員、改めて交際おめでとう! でも、本音を言うとすごく羨ましいです!!」

「自らが男性との交際経験ゼロである苦しみを乗り越えてよく言った!」

「それでこそ、総理です!」

「総理、自分は感動しました!!」

「やはりこの国を託せるのは貴女しかいない!!」


 本当にそうかなあ?

 私も昨日までそう思ってたけど、今日、この瞬間は、一刻も早く総理の席から引き摺り落としたくなりました。


「しかーし! その一方でですね。先般、黒蝶揚羽議員がA君を伴って宿泊施設を利用したという情報が私の元に寄せられたのです!!」


 タブレットの画面に、私とあくあ君が先日利用した白銀キングダム内のスタジオに時間差で入っていく写真がコマ送りで写し出される。

 って、普通に目線がズレてるじゃない! あくあ君なんて、カメラに向かってピースしてるし!!

 よく見たら写真提供のところに聖白新聞と書かれていた。

 ちょっと!! なんで身内が率先して写真をばら撒いてるのよ、もう!!

 近くにいた聖女党の議員達が、私たちやりましたって顔で親指を突き立てる。

 もーっ!


「実はこの時、2人は一緒に動画の撮影をしたと聞いています」

「「「「「「「「「「うおおおおおおおおお!」」」」」」」」」」


 もう! もう!

 羽生総理にバラしたのは絶対にえみりちゃんでしょ!!


「これはもしや2人でいけない事をしていたのではありませんか!?」


 羽生総理は鼻息を上げながら私を追求する。


「黒蝶揚羽くん、前に出て説明をお願いできますか?」

「はい……」


 やーーーだーーー!

 何よこれ! なんでこんな事で登壇しなきゃいけないのよ!!

 演壇の前に立った私はマイクの位置を調整する。


「聖女党の黒蝶揚羽です。ええっと、普通に2人でおしゃべりしてただけなので何かの罪に問われるような事はしていません。また、法律に触れるような事もしていないと断言いたします」


 私の発言の後に、周りから一斉にヤジが飛んでくる。


「声が小さいぞー!」

「もっとはっきり言えー!」

「結局、何をしたのか。問題はそこだろう!!」

「どうせ一緒にゲームしたりカラオケしたりしたんだろ! 全くうらやまけしからん!!」

「もっと何をしたかの内容について一つずつ精査していく必要があるんじゃないですか!」

「議長! 実際の映像について詳しく検証する必要があると思います!!」


 もう、なんなのよこの人達は!!

 って、なんで聖女党の議員までヤジを飛ばしてるのよ!!

 ふざけるなー!!

 私が自分の席に戻った後、羽生総理がまた演壇の前に立つ。


「実はその点に関して、私の元にかなり正確な情報筋から垂れ込みがありまして、黒蝶議員はあくあ君、A君にママと呼ばれていたらしいです!!」

「なんだってぇえええええええええええ!」

「羨ましすぎてけしからん!!」

「議員としての進退を賭けて、議会に映像の提出を強く望みます!!」

「モザイクや謎の白い光、黒海苔での誤魔化しはなしですよ!」


 あああああああああああああああああああ!

 私は羞恥心から顔を両手で覆い隠す。


「黒蝶議員、顔は隠れてもいても、そのでかい膨らみは隠せてないぞ!」

「そうだそうだ!」

「そうやってあくあ君。A君にママと呼ばせたんだろ!」

「なんだって〜!? う、羨ましすぎる」


 悪かったわね!

 どうせ私は色々と標準より大きいですよーだ!!

 若手議員よりも元気なベテラン議員達に取り囲まれる。

 ちょっと、なんでそんなに元気なのよ。もう!!

 ここで私の現状を見かねた1人の女性議員が手を挙げる。


「聖女党の那須議員、発言を許可します」

「はぁい」


 甘ったるい声が特徴の那須議員が前に出る。

 もしかしてこれ以上、まだ何かあるの? もう、私のライフはゼロよ?

 きっと、今頃ネット配信のコメント欄で「黒蝶議員の死亡を確認」「次回、黒蝶議員、死す! 選挙スタンバイ!」とかって書かれてるんでしょ。わかってるもん。


「実はその時の事なんですが、羽生総理があくあ様。A君様と自分の娘のデートが見たいと駄々を捏ねていた映像があります。こちらをどうぞ」


 タブレットの画面に、寝転がって駄々を捏ねる羽生総理の醜態が写し出される。

 それを見て口笛を吹いた羽生総理が無言で挙手をした。


「議長、ポンポンが痛いので帰ります」

「ふざけるなー!」

「総理、説明しろー!」

「説明責任を果たせー!!」


 議長が全員に対して静粛にするようにと声を荒げる。


「羽生治世子くん。前に出て説明をお願いできますか?」

「はい」


 総理は覚悟を決めた顔で前に出てくると、いつもの日課であり自らの特技を華麗に決める。


「どうもすみませんでしたぁ! ここは何卒、この私の土下座で今回の件は、いや、黒蝶議員の一件についても、丸く収めてくれませんでしょうか?」


 羽生総理は周りの顔をぐるりと見渡す。

 それに対して議会にいた議員達が席から立って大きな拍手を送った。


「いいぞー!」

「自分の罪をコンマ数秒で認める潔さ! 移動の時点ですでに謝罪のモーションに入る決断力の速さ! それでこそ私達の総理だ!!」

「ありがとう総理! それを見るために今日ここに来ました」

「いよっ! 今日のノルマ達成おめでとうございます!」

「黒蝶議員の事に関しても頭を下げる羽生総理。私は野党の議員としてとても感動しました!!」


 いやいや!

 私は別に悪い事なんて何もしてないもん!

 そもそも、総理が勝手にでっち上げて、勝手に自滅しただけじゃない!

 そんなのただのマッチポンプでしょ!

 ほら、みんなタブレットで配信ページ見て。コメント欄の方がまだ優秀じゃない!


【酷すぎて笑いが込み上げてきた】

【OH……CRAZY JAPAN……】

【↑悲報、国会を視聴した外国人さんも絶句www】

【世界よ。これが日本だ!!】

【※尚、昨日まですごく真面目に国会してました】

【子供のなりたい職業で急上昇してるだけの事はあるな】

【ここまで長い茶番ある?】

【↑その茶番を見てニヤニヤしてる私たちも結構な暇人】

【心なしか永瀬議員がドン引きしているように見えた】

【↑廣瀬議員なんて白目剥いて体育座りしてたぞ】

【意外とノリがいい藤井議員】

【あれ? 渡辺議員どこいった? 途中まですごく元気にしてたのに……】

【↑はしゃぎすぎてフットサルで痛めた膝が悪化して、戸辺議員と伊那議員の2人に支えられて退場していった】

【↑悶絶してたな。お大事に】


 あ、本当だ。いつの間にか渡辺議員がいなくなってた。

 議長が周りを落ち着けるために再び静粛にと呼びかける。


「それでは決を取りたいと思います。皆様、今回は双方無罪ということでよろしいでしょうか? 賛成の議員はご起立ください!!」


 私と総理以外の全員が立ち上がる。

 もうやだ。むしろ首にしてほしいと思った。


「賛成463人。反対0。よって双方無罪となりました。それでは議会を続けます」


 もう、やーだー!

 私は羞恥心に耐えながら、残りの茶番……じゃなかった、国会に付き合う。


「ふぅ、これだから国会はたまんねぇぜ」

「毎回出席してないと何が起こるかわらかねぇからな」

「欠席や居眠りなんかしてる場合じゃねぇぞ」

「これを近くで見るために議員になったまである」


 はぁ……。みなさん、次からはもうちょっと真面目にしましょうね。

 私は疲れた顔で国会を後にすると、呑気に家で煎餅を齧っていたえみりちゃんに詰め寄った。


「えみりちゃん、わかってるよね?」

「は、はひぃ……」

「揚羽さんそこの部屋空いてますよ。だから言ったのに、えみりさんってば……」

「えみり先輩って本当に懲りないよね。少しは反省した方がいいよ」


 私はえみりちゃんと空き部屋に入ると、小一時間ほど説教した。


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応募してくれた内容ごとに番号振って作者がくじ引いて決めます。


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