幕間 白銀あくあ、クリスマスイルミネーション。
※去年のクリスマスに書いた話です。
「おおー」
12月のとある日、街はクリスマスに向けてイルミネーションの光に彩られていた。
「ほら、2人とも早く早くー!!」
「小雛先輩、待ってくださいよ! 滑りやすくなってるから、転けないでくださいね!」
さっきまで家でカノンとのんびりまったりしていたら、小雛先輩がアヤナを連れてやってきた。
イルミネーションが見たいから付き合え? はー、なるほどね。それでアヤナが巻き込まれと……。
えー、わかりますとも。アヤナが何も言わなくても俺は全てを察した。
しゃーない。アヤナ1人だと可哀想だし、俺とカノンもついていくか。
「2人とも、ごめんね」
「いいってアヤナ。それよりせっかくなんだから楽しもうぜ!」
「そうそう、あくあの言うとおりだよ」
右手にカノン、左手にアヤナ……なるほど、これが両手に花ってやつですか!
いやーこれは俺へのご褒美、少し早いクリスマスプレゼントかな?
俺が2人にデレデレしてると、小雛先輩が頭ごと突っ込んできた。
ぐへぇ! わかってますってもう。今、行きますからちょっと待ってくださいよ。
「ほら、カノン、アヤナこっち向いて」
「え?」
「あ……」
俺はイルミネーションをバックに2人の写真を撮った。
いいねー。2人ともすごく可愛いよー!!
げっ、せっかくいい写真だったのに、絶妙なタイミングでそこに無理やり大怪獣ゆかりゴンが顔半分だけ紛れ込んできてる。
もー、何、邪魔しにきてるんですか。
「私も撮りなさいよ」
「はいはい、わかってますって」
仕方ない。イルミネーションメインでおまけに小雛先輩も撮っておくか。
おっ、小雛先輩、そこの小熊の氷像なんかどうです? ツーショット写真撮りますよ。
あー、いいですねー。すごくいい感じです。後でSNSであげとこっと。
「あくあ、こっち向いて」
「オーケー、かっこよく撮ってくれよな!」
カノンに何枚か写真を撮ってもらう。
こっちもあとでSNSにあげよっと。
「あっ、そこのおっ……綺麗なお姉さんちょっといいですか?」
「ふぁっ、ふぁい!」
せっかくだし4人の写真を撮ってもらおうと近くを歩いていた胸部の大きなお姉さんに声をかける。
「あんたって奴は本当に……」
「ふーん、確かに声をかけたお姉さん、私たち3人より大きいよね」
「へー……やっぱりあくあは大きいのがいいんだ」
あ、あれ? そこなんか怖い顔してません?
特にアヤナ、目からハイライトが消えてますよ……?
俺は3人と一緒に写真を撮ってもらう。心なしか周囲が少し寒い。
夜だし冷えてきたのだろうか? なんかここだけすごく冷え冷えだ。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ……あ、あの、いつも応援してます」
「ありがとう、おっ」
「おっ?」
「お姉さんのようなファンのためにも今後も頑張ります」
ふぅ、ちゃんとごまかせて良かった。
セーフ!
「あっ、顔の良さといつものキラキラでゴリ押して誤魔化した」
「あいつ、アイドルとか役者やってなかったら、絶対詐欺師で捕まってたわね」
「そう考えるとあのCMあながち間違ってなかったんじゃ……」
そこ! 余計な事は言わないの! しーーーっ!
それにアイドルとか役者とかこういう仕事をやってなくても……やってなかったら、俺はどうなってたんだろうな。
やっぱり料理スキルを活かして飲食店とか? あー、カノンと2人で小料理屋とか案外、悪くないな。
なんならスポーツ選手になってアヤナのようなアイドルと結婚するというのもありだと思う。
相手が小雛先輩なら……いっそ転がり込んで養ってもらうか? いいね。たまには俺がそういうパターンでもいいでしょ。
「言っとくけど、役者をしてなかったら私との接点なんてなかったから」
「あ、はい」
なるほど……じゃなくて! そうやって直ぐに人の心を読むのはやめてくださいって!!
え? もしかして小雛先輩ってそういうスキル持ちなんですか?
「あんたの考えてることなんて全部顔に出てるのよ」
「いてて」
小雛先輩に軽くほっぺたを摘まれた。
くっそー、このまま良いようにやられてていいのか、俺!
ちょっとくらいやり返してやろうと、俺は小雛先輩の腰に手を回してグイッと抱き寄せる。
「本当に?」
俺は小雛先輩の顎にそっと手を置く。
小雛先輩……俺を本気にさせた事、後悔しないでくださいね。
「じゃあ、今から俺が何しようとしているのか当ててみてくださいよ」
親指で小雛先輩の唇を軽くなぞる。
どうよ。これが本気の白銀あくあだ!! これには流石に小雛先輩も勝てないでしょ。
「ふーん、別にいいけど……それより外、少し寒くない?」
えっ!?
小雛先輩はコートを少し開くと俺の腕にギュッと押し付けてくる。
あ、あれ、急にそんな大人のお姉さん感を出してきてどうしたんです?
「ね。僕ちゃん……お姉さんとあそこで体がポカポカあったかくなる事しない?」
「はーい。しまーす」
いててててててててて!
デレデレした顔をしているとほっぺたを今度はさっきよりも強く摘まれた。
「私に演技で勝とうなんて100万年早いのよ!!」
100万年って、それ一生俺が勝てないやつじゃないですか!
え? 俺が死ぬまでずっと前を走り続けてやるって? そんなー!
俺は少し赤くなったほっぺたを押さえる。
「あくあ……今のはあくあが悪いよ」
「うんうん、私もそう思う」
わかってるって、俺はちゃんと小雛先輩にごめんなさいする。
いくら相手が小雛先輩とはいえ、女性の唇に指で触れたり、騙すような事をしたらダメだよな。
「ほら、バカやってないでさっさといくわよ」
「はーい」
小雛先輩は俺に背中を見せると軽く流してくれた。
「ねぇ、今の小雛ゆかり見た?」
「唇に指先で軽く触れたあと、めちゃくちゃ顔真っ赤にしてた」
「ふーん、意外と可愛いところあるじゃん」
「いや、あくあ様にあんな事されたら、誰だってああなるよ」
「あー様はもっと自分の破壊力を知った方がいいよ」
「普通の女子なら間違いなく救急車案件だったな」
「こーれ、嗜みNTRてます」
「掲示板に書き込んだろ!」
俺達は周囲の喧騒をくぐり抜けてイルミネーションの点灯式に合わせた少し早いクリスマスマーケットに向かう。
おーっ、いろんな屋台が出てて楽しそう!!
「ほら、あくあ。シュトーレンの屋台あるよ」
「よし、みんなで食べる用に買っておくか」
他にも一枚ずつ包んだ可愛いクッキーとか焼き菓子売ってるし、会社やメアリーお婆ちゃんとえみりさんのとこに差し入れに持って行ってもいいな。
俺とカノンは自宅用と手土産用に日持ちしそうなものをいくつか購入する。
「ふふっ、たくさん買っちゃたね」
「ああ。それよりもカノン、寒くない? ほら、もっとこっちに近寄ってきてもいいよ」
「うん」
小雛先輩とアヤナが買い物をしている間、俺はカノンとゆったりとした時間を過ごす。
「……あくあとこうやってイルミネーションを見れるなんて、思ってもいなかったな」
「カノン……」
カノンがスターズに帰った時の事を思い出して胸が苦しくなった。
俺はもう2度とこの手を放したりなんてしねえ!!
俺はカノンの方に顔を向けると、その小さな手を優しく強く握りしめる。
「たとえカノンがどんな状況になったとしても、これから先もずっと俺が絶対にカノンの事を迎えにいくから」
「あくあ……」
「そもそも、カノンをそんな危険な目に合わせたりしないって誓うよ」
俺とカノンは見つめ合う。
イルミネーションの光が反射してカノンの宝石のような青い瞳がますますキラキラと輝いていた。
幸いにもここは端っこの席、誰も見てなんていないだろう。
俺は自分の顔をそっとカノンに近づける。
「ふーん、なるほどね。こうやってしてるのか。いやー、勉強になるわ」
「小雛先輩ダメだって、もう少し雰囲気とか考えて、そっとしておいてあげなきゃ」
はーーーっ、全くもってアヤナの言うとおりだよ。少しくらいは空気読んでって言いたかったけど、みんなで来てるのにしたくなっちゃった俺が悪いから仕方ない。
カノン、ごめんな。でも、今はそういう流れだったから止められなかったんだ。
「メディーック!」
「おい、立ったまま死んでる奴がいるぞ!」
「こーれ、死因は尊死です」
「現実がドラマを超えてくるの意味が今わかりました」
「白龍先生ごめんね。これには勝てない」
「こういうのって本当にするんだ……初めて見た……」
「掲示板に書かなきゃ!」
真っ赤になったカノンの顔を見て可愛さで殺されそうになる。
「ほらほら、巨大ツリーの点灯式だって、こっちこっち」
「はいはい、わかってますって」
小雛先輩ったら子供みたいにはしゃいで、楽しいのはわかるんだけど少しは落ち着いてくださいよ。
俺は近くにいたアヤナに話しかける。
「アヤナ、疲れてない?」
「大丈夫。いつもの事だしね」
くっ、アヤナはなんていい子なんだ!
おまけにいつもあの小さな暴君に付き合わされているのだと思うと涙が出そうになる。
「それに、私もこういうの1人じゃ見に行かないから、みんなとこれて今日は楽しいよ。それこそこうやってプライベートで落ち着いてイルミネーションを見るなんて子供の時以来かも」
「そっか……じゃあ、また来年も来ような」
「う、うん!」
顔を赤くしたアヤナを見て可愛いなって思う。
もし、アヤナが俺の彼女だったら、このタイミングでキスしてるかも。
「さっきみたいにしないの?」
「してもいいのなら俺はいつだって……ってぇ! 小雛先輩、またですか!?」
あぶな。アヤナかと思ってしそうになったじゃん。
いつもと違って急に可愛い声を出してくるから、間違いそうになっちゃったじゃないですか!!
アヤナの声真似とか、この人は本当に無駄に器用だな。一般生活と人付き合いは不器用なのに!!
「すればいいのに」
「いやいやいや、それを言うのは小雛先輩じゃないでしょ!」
全く、ほら、アヤナのこのトマトみたいに赤くなった顔を見てくださいよ!
あー、もう可愛いなー! アヤナに変な男が寄ってこないか心配になるぜ。
「心配しなくてもアヤナちゃんを誑かすような危険な男、あんたしかいないわよ」
「だから人の心をそうやってすぐ読まないでくださいよ……」
「バカみたいな顔して単純な事を考えてるあんたが悪いのよ!」
くっ、なんも言い返せねぇ!!
「あ」
「どうしたアヤナ?」
「あそこにいるのクレアさんじゃない?」
おっ、本当だ。シスター服を着て子供達にお菓子を配っているクレアさんの姿が見えた。
ボランティアか何かかな? すごいな。単純に同じ人として尊敬する。
「クレアさん」
「あっ!」
俺達が声をかけるとクレアさんは驚いた顔をした。
あれ? 声をかけちゃいけなかったかな? やたらとあせあせしてる。
「こ、こんばんは、あくあ君。それにカノンさんやアヤナさんも……そ、それに小雛ゆかりさん……どうも、初めまして」
「こちらこそどうも初めまして、うちのバカがクラスでなんかやらかしてたらすぐに引っ叩いていいからね」
「は……はは……テレビで見るのと全く一緒……」
話を聞くとやはりクレアさんはボランティア活動でお菓子を配っていたみたいだ。
へー、どこのボランティア活動なんだろう? え? そんな大したところじゃないって? いやいや、そんな事ないでしょ。こんな立派な事をやってるんだ。さぞかし素晴らしいところなんだと思う。
1人で大変そうだし手伝っていいかなとカノンに聞いたら、みんなでお菓子を配る事になる。
「あー、本物のアヤナちゃんだー」
「ふふっ、本物だよー。よかったらクッキーどうかな?」
アヤナはさすがeau de Cologneのセンターだけあってすぐに囲まれてた。
子供達や一緒に居たお母さんから応援してます。頑張ってくださいと声をかけられていた。
くっそー、俺が子供だったら無邪気なふりしてクッキーもらうついでに抱きつくのに!!
「わー、カノンしゃまきれー……」
「ありがとう。はい、クッキーどうぞ」
あーっ、いいっすね。子供ができた時のカノンを想像して昇天しそうになった。
子供に懐かれている時のカノンの可愛さよ。俺もママカノンにいっぱい甘えたいです!!
やっぱり今晩は寝かせられないな。俺はカノンと赤ちゃんを作ろうと心に誓う。
「あー、小鬼ゆかりだー!」
「あくあおにーちゃんをいじめるなー」
「イタタ! ちょっと、あんた達、私に喧嘩売るなんていい度胸してるじゃない!! っていうか、私の名前はこ・ひ・な。誰よ、私の事を小鬼とか言ったガキ。出てきなさい!!」
うん、やっぱりないな。
完全に子供と同じレート帯だったわ。
子供と本気で喧嘩するお母さんってどうよ?
「はい、どうぞ」
「ありがとー」
はー、それに比べてクレアさんの清らかな事だよ。心が癒されるわ。
4人の中でも1番大人って感じがする。
「みんな本当にありがとう」
「いいって、それよりクレアさんもボランティア終わったのなら一緒にイルミネーション楽しもうぜ!」
「あ……うん。ありがとう」
こういうのは人数多い方が楽しいしね。
せっかくだし5人で改めてイルミネーションを楽しむ事にした。
「あれ、何?」
「あくあ様の女集団じゃない?」
「え? シスター服の子って一般人だよね? 顔面偏差値たっか……」
「小雛ゆかり、やっぱり腐っても女優なだけある」
「アヤナちゃん顔ちいさい……可愛い……」
「嗜みちゃん大勝利ってバカみたいな事を言えるだけの事はある。本物のお姫様は反則だろ」
少し小腹が空いたな。
俺達は飲食スペースに行くと、屋台で食べ物と飲み物を買ってみんなで食べる。
「このシチュー美味しい!」
「あっ、カノンさんパンありますよ」
「おっ、こっちのチキンも美味いぞ!」
「ちょっとあんた、それよこしなさいよ!」
「はい、みんな、飲み物買ってきたよ」
いやー、食った食った。
ここまできたら締めのデザートも欲しいな。
「ちょっと俺、デザート買ってくるわ」
「あっ、私も行きます」
どれがいいかなー?
俺はクレアさんと並んで一緒にデザートを選ぶ。
その最中に見覚えがある人と遭遇する。
「ラーメン竹子、プレクリスマスマーケット店だよー!」
え、えみりさん!?
しかもサンタのコスプレバージョン!?
これってもしかして有料オプションですか?
俺は思わず注文もしてないのにお財布を出しそうになった。
「えみりさん何してるんですか?」
「あっ、クレア……ていうか、あくあ様ぁ!? おっ、おっ、おっ、2人とも、まさかデート……」
「そんなわけないじゃないですか!」
えっ……そんな強く否定しなくても。俺は少しだけしょんぼりする。
「あっ、えっと、私なんかが申し訳ないというかなんというか」
うそだよ。俺はクレアさんに向かって軽く舌を出す。
「クレアさんは可愛いんだから、こんなのに引っかかってたら悪い男に騙されちゃいますよ?」
「わ、悪い男に騙される……」
「いや、もうすでに騙されているような、騙されていないような」
ん? えみりさん何か言いました?
「ところで2人ともラーメンいる?」
「うーん、さっきご飯食べたばっかりだしな……」
「それならクレープもあるよ」
なんで、ラーメン屋にクレープあんの!?
まぁ、細かいことはいっか。深い事を考えたらダメだと言われた気がした。
「はい、えみり特製ホワイトクリームマシマシのバナナクレープいっちょ上がり! カノンはいちごで、アヤナちゃんはチョコ、小雛先輩はキャラメルバター、クレアは抹茶小豆ね」
さすがはえみりさんだ。前に手伝ってくれた時も思ったけどえみりさんは手際が良い。
えみりさんはあっという間に5人分のクレープを完成させる。
「サービスでWホイップにしておいたから。みんなでイルミネーション楽しんで」
「ありがとうございます!!」
「えみりさん、ありがとう」
俺達はえみりさんお礼を言うと、みんなのところに戻ってデザートを楽しんだ。
もちろん食べ終わった後にも、みんなでえみりさんにお礼を言いに行く。
「よし、じゃあ帰るか!」
「オーケー!」
オーケーって、小雛先輩も一緒に帰るつもり!?
えっ? 俺とカノンの個人的なイルミネーション鑑賞会は?
え? 本当に来るの?
「何、文句あんの?」
「いえ、別に……」
小雛先輩は周りをチラッと確認すると、そっと爪先立ちで俺の耳元に顔を近づけるようにして囁いた。
ちょっと! たまにそういう女の子らしい可愛い仕草するのやめてもらえますか? ドキドキするこっちの気持ちにもなってくださいよ。
「あんたが、がっついた空気出してたら、カノンさんだって身構えちゃうでしょ。ちょうど良いタイミングで帰ってあげるから安心しなさいよ」
こ、小雛先輩〜〜〜〜〜!
俺、小雛先輩の事を勘違いしてたっす。小雛先輩はちゃんと空気が読めたんですね。
それどころか俺の事をそこまで考えて……くっ、それなのに俺は! 今日から少しは小雛先輩に優しく接しようと心に誓う。今まで20回に1回しか出なかった電話も10回に1回くらいは出てもいいなと思った。
「ちょっろ……やっぱりあんたが詐欺師はないわね。詐欺した女の子に逆にいいようにペットにされてそう」
「え? 何か言いました?」
「なんでもなーい。ほら、そんな事よりもさっさと行くわよ!」
「はーい!」
俺達はその後、家に帰ってゲームをしたりして楽しんだ。
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