幕間 鞘無インコ、乙女ゲーをクリアするまで出られない部屋。
※本編の内容はなろうではお見せできないので、話を差し替えてお送りします。
「すみちゃん、あんたいつ帰ってくるん!? もう親戚のおばちゃんみんな揃っとるで!」
「だから無理やっていうたやろ! こっちは正月から仕事や仕事!」
「また、そんなこと言うて! そっちでちゃんとご飯食べとるん? 会社の人に迷惑かけとらん? 大晦日やってあんた……」
「だー! もうええて! ほな。もう配信やから切るで! あと節子のおばさんに、雷おこしこうて帰ってくるから、それまで生きとって伝えとって、一年後になるかもしれんけどな!!」
「一年後てあんた……」
私はそこでブチっと電話を切った。
オカンとの電話なんて下手したら、それこそ一年くらい喋っとかなあかんかもしれんしな。
「さーてと、始めますか」
私は配信開始のボタンをクリックする。
「みんな、義務の時間やで」
私はリスナーの集まりを確認するためにコメント欄へと視線を向ける。
【おはベリル】
【おはインコ】
【今日も元気に死にゲー配信!】
【乙女ゲーから逃げるな】
【義務ありがとうございます】
【とりあえず魔の1週間を乗り越えよう】
【誰も2週目にいけないwwwww】
【正月からゲーム配信乙w】
そこそこ集まってきたな。
私はリスナーに向かって、やるでと声をかけてからゲームをスタートする。
『明日も良い事あるかな』
ゲームをスタートすると、前回のセーブポイントである就寝前の状態からゲームがスタートした。
このゲームはセーブできる箇所が限られている。
まず、1回目のチャンスは1日目の就寝前で、次のセーブポイントは1週間後の就寝前だ。
つまり1週間おきに1回セーブできるシステムなのである。
もちろん、その間の選択肢で間違えたらまた週の初めからやり直しや。
つまり月曜日の就寝前でセーブして、そこから土曜日まで頑張ったとしても、日曜日でやらかしたらまた月曜日からに戻ってしまう。この極悪なシステムのせいで、まだ誰1人として魔の1週間を突破してない。
『インコさん、おはよう。今日はどうしようか? 何かやりたい事はある?』
天鳥社長の言葉の後にずらりと選択肢が並ぶ。
[A:あくあ君の仕事に同行したいです!]
[B:とあちゃんの仕事に同行したいです!]
[C:黛君の仕事に同行したいです!]
[D:天我先輩の仕事に同行したいです!]
[E:阿古さんの仕事を見学させてください]
[F:桐花マネに同行して、仕事を覚えたいです]
[G:ショップの人手が足りないのでヘルプに行きます]
[H:イベントの打ち合わせに参加してみたいです]
[I:朝ごはんまだ食べてないので食堂に行ってきます]
[J:今日は体調が悪いのでもう帰ります]
[K:適当に誤魔化して仕事をサボる]
まずAからDは全部試したけど、ベリルのメンバーと絡みたいというメスの心理を利用した酷いひっかけや。
気がついたら野良の小雛ゆかりか、野生の森川楓に遭遇するように誘導させられてそこでゲームオーバー確定演出に入る。
もちろんIからKも論外や。Kは一瞬だけ可能性を見出したプレイヤーがおったけど、結局そこからのパターンはどれを選んでもたった一つのパターンを除いて野良のなんとか野生のなんとかに繋がってる。そこをなんとかやり過ごしてもリーサルウェポン桐花マネに仕事をサボってた事がバレてゲームオーバーや。
となると残る選択肢はEからHの4択、この中でもEとFは正解の攻略ルートだとされてきた。
でも、ここでこの2つを選択してしまうと、1週間後に自宅に帰れないルートに入ってしまう。つまりはセーブポイントが踏めなくなる。
それでも2週間後のセーブポイントまで行ければええけど、家に帰らず働いた事で体力ポイントが足りずにそのまま倒れて入院からの確定ゲームオーバーに直行してしまう。
となると残された選択肢はGとH、一応どちらを選択しても次の日に進めるルートがあるけど……。
『今日はHにしとく。こっちの方が未来がありそうな気がしてる』
私はHを選択してクリックする。
【直感は大事】
【インコの直感は当たるとき当たるからなぁ】
【がむばれー】
【義務ベリル始まってるじゃん!】
【私もHルートの方が可能性ある気がする】
【H選択はむふふなルートだとふざけた事を言ってた捗るが正解だったって事!?】
【レートAでこんなにもがいてるのに、レートZは誰がクリアできるんだ……】
阿古さんと別れた後は、普通ならイベントの会議が行われてる会議室に入るがこのルートの鉄板だとされている。
でも私はここであえて会議室の近くで立ち止まって時間の経過を待つ事にした。
このルートの場合、一つだけ警戒しなければいけない事がある。
そんな事を考えていたら、見覚えのあるキャラが反対側の通路からズンズンと歩いてきた。
【野良の小雛ゆかりキター!】
【すげぇ。社長より堂々と社内を歩いてやがる】
【お前会社違うだろwwwww】
【リアルでもこれだったらウケるw】
【インコ、逃げてー!】
【ラスボスが闊歩するベリル社内】
【こんなのが普通に歩いてるなんて、やっぱり一般人じゃベリルの社員にはなれないなと思った】
私はここで曲がり角の先にあるコピー機の後ろに隠れる。
高さだけで言えば積まれた段ボールの裏に隠れた方がいいけど、それだと角度の問題でゆかりの視界に入ってしまう。
かと言ってコピー機の後ろでは上半身が出てしまうので、どっちみちバレてしまうのだが、私に秘策があった。
「行くで!」
私はタイミングよく土下座のリアクションボタンを押す。
これは前日の初日イベントで、桐花マネの前で土下座している楓を見る事で覚えられるリアクションだ。
タイミングよくコピー機の裏で土下座をした事で体がすっぽりと隠れて、そのままゆかりは私の事に気づかず通り過ぎて行く。
【うおおおおおおおおおおおおおお!】
【さすがインコなんだわ】
【インコできる子。やればできるって信じてた】
【新しい攻略ルート来たー!】
【こっわ、小雛ゆかりこっわ】
【流石は2022年のホラーゲーム大賞のMVPに選ばれるだけの事はある。審査員から社内を徘徊する小雛ゆかりより怖いホラーはないって言われてワロタw】
【ちょっと待って、これが正解ルートなら初日で土下座覚えずにセーブしてたら詰みじゃんw】
【やっぱりクソゲーか】
【あの時、インコがもたついたおかげで、土下座シーンを目撃できたのが良い方向に繋がったのか】
【つまりもたつかずにイベント進行して、あくあ君にさようならって言われる神イベントルートが全部トラップルートだったって事!?】
【あのシーンで泣いてた配信者さんがいっぱい居たのに、そのルートを回避するのが正解とかクソすぎにも程があるでしょwwwww】
みんな気持ちはわかるで。
でもな。これはベリルのゲームなんや。
生半可な覚悟じゃやれへんってもうわかってるやろ。
例え神イベントがあったとしても、それを歯を食いしばって血の涙を流しながら回避せんとあかんのや!!
私は小雛先輩を回避した後、会議が始まる時間ギリギリまで入り口の近くで粘る。
『あれ、どうしたの?』
キ、キ、キ、キターーーーーーーーーーーーーーー!
私は思わず席から立ち上がってガッツポーズする。
【しゃああああああああああああああああああああ!】
【新しいルートきたああああああああああああああああ!】
【見たか制作会社! これが私達の鞘無インコだ!!】
【このゲームには小雛ゆかりが居るけど、私達には鞘無インコがいる!!】
【森川みたいな事を言ってる奴がいて草w】
【ゲーム画面に向かって拝んでるの私だけ?】
【奇遇だな。私も拝んでるぞ】
私はメッセージボックスをクリックして先に進む。
『鞘無さんだっけ? こんなところでどうしたの?』
あくあ君は優しく笑みを浮かべると私に向かってそう問いかけた。
この流れは……また、選択肢か!
[A:あ……その、私なんかが入っていいのかなって]
[B:貴方が来るのを待ってました!]
[C:ちょっと、緊張しちゃって……大きいのが漏れそうに]
[D:笑って誤魔化す]
[E:あわわわわわわわわ]
Cはあかんやろ!!
選択肢を見てついついツッコミを入れてしまう。
D、Eもアウトっぽそうに見えるし、Bもなんかこうガツガツしすぎとちゃう?
普通に考えたらA一択やけど、このゲーム、クソゲーやしなぁ……。
「一旦、Dにしてみるわ。ダメなら次Eで」
私はDをクリックしようとしたら、間違ってCを選択してしまう。
しもたあああああああああああああああああああ!
あかん。この右手が、お笑いの神に愛された右手が、自然とCの選択肢に行ってもうた!
『だ……大丈夫?』
あくあ君はほんの少しだけ頬を赤らめると、私の事を心配そうに見つめる。
『もし会議中に辛くなったら声かけてね。俺も見ておくようにするから』
あ、あれ? もしかしてこれ、正解ルートですか!?
【あくあ君のところの選択肢だけ、何選んでも大丈夫になってる説出てたな】
【基本的にあくあ君との会話で詰むルートはない。嗜みとかいう人がそう言ってました】
【こういうところが本来の乙女ゲームの名残が残ってるんだと思う】
【まじで野良のなんとかと野生のなんとかっていうの追加したスタッフちゃんさぁ!!】
【スタッフの気持ちはわかるよ。だって、あくあ君ルートに慣れてしまったら現実世界に戻って来れなくなるもん】
【小雛ゆかりと森川楓は世の中の少女達に現実の厳しさを教えるための戒めなんだよ】
確かに制作会社の謝罪文でも、基本的なストーリー、白龍先生の脚本はいじってないって言ってたからなぁ。
それに、嗜みさんが言ってるんやったらあながちその可能性も高い気がする。
というかもうあの人が配信したら早いのにって気がしなくもない。
そしたら私も解放されて今頃は家でおせち食べながらヘブンズソード見てたのにな。
何が楽しくて事務所でコンビニパン齧りながら、1人で寂しくヘブンズソード見なあかんねん。
気がついたら社員も全員帰っとるやんけ!! もうこうなったら配信でNGワード連呼しまくって会社に迷惑かけたろうかな。
『それでは今より次のイベントについての会議を始めたいと思います。目の前の画面に注目してください』
普通に会議が進行していく。
ここからの展開は通常と同じや。
会議の議題になってるイベントは、22日にある森川アナとあくあ君の藤トークショーイベントについての最終確認だ。
ここで会議中に業者の再確認を提案する事で、次に進む事ができる。
間違っても前の仕事が押してるせいで会議に遅れてる森川アナを迎えに行っちゃダメだ。
『じゃあ、鞘無さん。業者の再確認お願いね』
『はい』
午後の業務は業者への再確認。
ここもうまく野良の小雛ゆかりさんを避けて社外に出て外でのイベントをこなしていく。
これで2日目の月曜日イベントは終了だ。
3日目の火曜日は前日にFを選んだかどうかで進行が変わってくる。
『鞘無さん、今日はよろしくね』
Fを選んだ人は、阿古さんの仕事に同行する事になるか、別の事をするかで選択できるけど、F以外のルートで3日目に突入した場合は、強制イベントで琴乃マネージャーと一日同行する事になる。
ここで選択肢にとあちゃんやあくあ君がチラつくけど、それに惑わされたらだめだ。
鋼の忍耐力でこの甘い誘惑を断ち切らなければいけない。
『今日はお休みか……』
4日目の水曜日が基本的に休みで、ここはしっかりと休みを取る。外に出たらベリルのメンバーと遭遇するパターンも確認されているが、製作陣が撒いた餌に釣られずストイックに体力の回復に努める事が重要や。
食事もカップ麺やレトルトで適当に終わらしたりせず、3日目の会社帰りに買ってきたサラダチキンとプロテインでアスリートのように黙々と食事を摂る。もちろん就寝時間は夜の20時、これでがっつり明日の朝までお休みして体力ゲージを満タン、疲労度0をキープしておく。
『さーてと、会社に行きますか』
5日目木曜、6日目金曜は例の2人に遭遇しないように通常業務をガッツリとこなしてステータスのポイントを盛る。
通常業務はタイピングや配達などの簡易ミニゲームになっており、それをこなす事で信頼度とか仕事レベルがアップしていく。ステータスのアップは色々な面に影響するから、ここでどれだけ盛る事ができるかが後に影響してくるのではないかと噂されている。
ここも他にイベントがあったりするけど、そんなもんは全部ガン無視や。
ゲームを楽しむとかそういう次元はここで捨てておかないと先には進めない。
『今日は土曜か』
そして7日目の朝、ここはご褒美イベントの日だとされている。
この鬼畜なゲームも今日まで来れば確定でベリルのメンバーに会えるからだ。
【ご褒美タイムきたーーーーーーーーーーー!】
【ここまで来れば土曜日曜でなんらかのイベントは見れる!!】
【もうなんかここまで満足してる自分がいるんだよな】
【意気揚々とゲーム実況始めた人の大半がもうここで満足して止まってます】
【頼むよインコ。新たな可能性を見せてくれ!!】
私は家を出ると会社に向かう。
実際のベリルはどうか知らないけど、ゲームの中のベリルは水曜が確定でお休みで、土曜か日曜のどちらかを出社しなければいけない週休2日制だ。ただし、土日にイベントがある時は月曜日が振替で休日になる。
「ほな、行くで」
大丈夫、ここからのパターンは全部把握してる。
何がきても大丈夫や!
『鞘無さん』
ふぁっ!? 後ろからあくあ君に声をかけられて体がビクッとする。
【新しいパターンキター!】
【あくあ君きたあああああああああ!】
【あのイベントがここに繋がったのかな?】
【選択肢Cが正解だった?】
【Cが正解ルートとかwwwww】
【あくあ君はどの選択肢を選んでも全部受け入れてくれるから、選択肢は関係ないはず。問題はそのイベント自体を踏むかどうかが鍵なんじゃないかな】
振り向くとそこには私服のあくあ君が立ってた。
ゲームの中でもやっぱかっこええな。ついつい見惚れてしまう。
『もう会社には慣れた? 緊張してない?』
あ……あの時、緊張して漏れそうって言ったから……。
くっ、自分の事ではないものの恥ずかしくなる。
ミスで選択したとはいえ、男の子の前でアレはないやろ。それも、よりにもよって世界で一番カッコええ男の子の前でやで。リアルなあくあ君の前で言ったら私もう2度と立ち直れへんかもしれん……。
[A:は、はい。おかげさまで少しは慣れました]
[B:えっと、まだ慣れてないので、人気のないあの部屋で指導してくれませんか?]
[C:すみません。また漏れそうなんで……]
[D:ごめんなさい。今度は小さい方が……]
[E:あわわわわ、あくあくんに話しかけられちゃったよ……]
[F:喉が乾いたから、その手に持ってるペットボトルのお茶をもらえませんか?]
[G:逃げる]
この女は、どんだけ漏れそうなんや!!
って、選択肢にもう片方もきたやんけ!! なんやこのゲーム!!
【ワンチャンC・Dあるぞ】
あるわけないやろ!!
【Bはフェイク。正解はCかDで連れ込め!】
どっちも犯罪や!!
【Dを選択したら、あくあ君はごくごくしてくれるかな……?】
管理人さーーーん! このお姉さんをBANしといて!!
【ここは欲張らずにFで行こう】
それも普通にアウトやからな?
【くっそー、ダメだとわかっててもBをクリックしたくなる】
【Bの誘惑がやばいな】
【あくあ様と密室、あくあ様と密室、あくあ様と密室……】
【あかん、欲望に忠実な女の本能を制作スタッフが完全に理解してやがる】
あーーーーーーーーーーー、どないしよう。
あくあ君の選択はどれ選んでも大丈夫って言われてるけど、そう油断させておいて製作陣がここら辺から選択肢に介入している気がするんよな。特にB、C、D、Fあたりが怪しい。
私は一旦水を飲んで落ち着く。
まずここで一番可能性が高いのはAやねん。次点でEや。Gは多分ないな。
だけどなぁ。さっきのが正解ならCとDの可能性を捨てきれんねん。もちろんBとFは完全にアウトや。
私がウンウン唸ってると、いつの間にかカウントダウンの数字が画面に出てた。
【インコ、気がついたか!!】
【急げ!!】
【あと3秒!!】
【お前の信じたCに賭けろ!!】
【Bや、Bで私達に夢を見せてくれ!!】
【惑わされるな! ここはFで手堅くペットボトルを確保しに行こう】
【Dでごくごく】
だあああああああああああああああああああああああ!
お前らさっきから五月蝿いんやって!! どれも普通にアウトやろ!
あ……いつもみたいにリスナーに切れてたら、選択肢の選択時間が終わってもうた……オワタ……。
『もしかして、また緊張してお腹壊しちゃった?』
え!?
画面が切り替わると、近づいてきたあくあ君が私のお腹にそっと手を置く。
あかん! あかんって!! こんなの絶対にお誘いのサインやん!!
『痛いの痛いの飛んでいけー。なんちゃって。どう? 少しは緊張が解けた?』
余計に緊張したわ!! これがあくあ君じゃなかったら、ど阿呆ってどついてるで!!
【ふぁーーーーーーーーーーーーーーー】
【ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます】
【流石はインコや! ミラクルきたで!】
【インコちゃん、一生ついてく】
【え? 今のって赤ちゃんできてないの?】
【体の奥にまで響くような甘い声やめて】
【え? これが全年齢対応? 本当に!?】
【実セ認定委員会のものですー。実セ認定証置いておきますねー】
【このゲームのレートZどうなってるんだ……】
あくあ君はそのまま私にがんばってね。何かあったら声かけてくれていいからと言って、会社の中に入っていった。
[白銀あくあさんとの関係値が進展しました。称号、気になる人、が開放されました]
うわおえうわあああああああああああああああああ!
なんかわからんけどきたあああああああああああああ!
いける。これはいけるで!!
私はあくあ君の後に続いて会社に入ると、日曜日にある2回目のMステ出演について打ち合わせをしたり、天鳥社長や桐花マネとの会話イベントを進めて当日に備える。
『今日はMステ2回目の出演だ! 頑張ろう!!』
さぁ、運命の8日目や。私は一旦キーボードとマウスから手を離すと軽く手をぶらぶらさせた。
ここで無事に帰宅する事ができればセーブポイントを踏む事ができる。インコ、ここが勝負やで!
午前中とお昼の過ごし方はとにかく体力を使わない事だ。
はやる気持ちを抑えて午前中はしっかりと自宅で待機して、家を出るのはお昼前。
自宅でお昼ご飯を食べるのが一見正解のように思えるが、それだと最後まで体力が持たない。
ここまで自炊して貯めたお金を使って、お昼に鰻を食べるのが正解の選択肢だ!!
鰻を食べると一日限定で体力ゲージを120%に増強する事ができる。この20%が結構でかい。
『それじゃあ行こうか』
お昼を食べて現場に到着すると、バックステージを動き回ってイベントを進める。
ここで注意しないといけないのは、お外へのお使いに行かない事だ。
ベリルメンバーからのお使いというイベントがいくつか発生するけど、外に出たら確定で名前も出したくない例の2人に遭遇する。そうなったらそこでもうゲームオーバー、最初からやり直しになってしまう。
もちろん、そこを乗り越えられないので、お使いから帰ってベリルのメンバーに遭遇するというイベントも発生しない。ここで結構な人数のプレイヤー達が心折れて散っていった。
「さてと、ここまで戻ってきたで!」
もう何度目かわからん。特殊イベント2回目のMステライブが始まる。
既存の映像ではなく、このゲームのために再編集された映像は圧巻だ。
同じ映像かもしれんけど、やっぱベリルのライブはええな。
そうやってホゲった顔で画面を見ていると、映像がいつもとは違うシーンに切り替わった。
「ん? ちょっと待って、これ何!?」
普段ならサビは4人全員が映った映像になるはずだった。
それがカメラワークが完全にあくあ君だけを追っている。
ど、どういう事!?
【これ、さっきの称号のおかげじゃね?】
【あくあ君とだけ関係値が進展したから、そっちルートに入ったとか?】
【は!? 待って、それなら通常パターン以外に4人のパターンが個別にあるって事!?】
【くっそ、クソゲーなのに神ゲーみたいな事するな!!】
【やはり何かを手に入れようとしたら人は苦難や苦行を乗り越えなければいけないのですね。あーくあ!】
【くっ!? 飴玉がデカすぎるせいで全部許しちゃう。ビクンビクン】
【もう製作陣に調教されてる人が居て笑ったw】
ライブはそのまま2曲目、3曲目に入る。
4曲目終わりかなと思ったら、ずっとなんでないのかと言われていた5曲目、乙女色の心のライブ映像に入った。
【なんでこの曲だけ収録されてないんだって思ってた】
【うわああああああ。あくあ君との関係値を進めないとこのシーンが見られないのかぁ】
【やっと乙女色の心が聞けた】
【インコ、ほんまありがとう!!】
あくあ君達が歌い終わるとシステムメッセージが表示された。
[ムービーライブラリーに、music stage特別拡大SP、個別白銀あくあ視点が追加されました]
うおおおおおおおおおおおお!
新しい視点きたああああああああああ!
[ミュージックライブラリーに、乙女色の心、アカペラバージョンが追加されました]
きたああああああああああ!
インコちゃん大勝利ぃ! って叫びそうになったが、グッと堪える。
まだや。まだセーブポイントは踏んどらん。
ムービーライブラリーとミュージックライブラリーはセーブしてなくても残るけど、私が見たいのはこの先の景色やねん!! 頼む!
『鞘無さん、歓迎会も兼ねてみんなで打ち上げに行きましょう』
ここや。断ったら帰りになんとかなんとかに遭遇するから、絶対にここを断れん。
そうなると参加するしかないけど、こっちに行ってもゲームオーバー確定や。
お昼に上乗せした鰻の20%でなんとか日付は越えられるけど、途中で体力ゲージがゼロになって持たへん。
やっぱりあかんのか……。
そんな事を思いながらもイベントを進行させていく。
するとここでも変化があった。
トイレで席を離れて戻ってくる時に、向こうから話しかけられる。
『鞘無さん、疲れてる顔してるけど大丈夫? 阿古さんには俺の方から言っておくし、よかったら俺も今から帰るんだけど、送ろうか?』
きたあああああああああああああああああああ!
まさかの途中抜けルート! 恥ずかしい思いをした事がここになって返ってくる。
【感動した】
【全私が泣いた】
【ありがとうインコ】
【ついに、ついに明日のお日様が拝めるのか!!】
【やっぱりインコなんだよ】
【私は最初から信じてたぞ!】
【やっぱりあくあ君がキーポイントだったか】
【これ、他のルートなら他の子が助けてくれるのかな?】
映像が切り替わると、目の前にあくあ君の背中が映る。これってもしかして……。
もしやと思った私は、マウスを振って視点を動かす事で状況を確認する。
こ、これ、バイクの後ろや。私、あくあ君が運転するバイクの後ろに乗ってるんや!!
【これもうEDでしょ】
【おめでとうインコ】
【末長くお幸せに】
【もうこれは恋人ですよ】
【次は結婚イベントかな?】
【みんな気が早すぎるwwwww】
【気持ちはわかる】
幸せな時間やった。
時折あくあ君が停車した時にこっちに振り向いたりして、優しい声をかけてくれる。
あかん、もうなんか涙が出てきた。
ここまでの苦労が報われたんちゃうかってくらい、いっぱい構ってくれる。
『じゃあね。また明後日、会社で』
私は自宅の側であくあ君を見送る。
帰宅して直ぐにベッドに入るとシステムメッセージが出た。
[セーブしますか?]
長かった。本当にここまでが長すぎや……。
【おめでとう】
【ほんまよくやった】
【インコならやってくれるって信じとったよ】
【ありがとう。本当にありがとう】
【ふぁ〜、ゲームの中でもあくあ君があくあ君してるよぉ〜】
【やっぱりあくあ様は女の子を助けてくれるヒーローなんだね】
【ゲームでもあくあ君は優しくて安心した】
【本当に感動した】
【最後、めちゃくちゃよかった】
【ほんま、あくあ君とのイベントは最高なんよな】
【スタッフが余計な事をしなければって思ったけど、余計な事をしてくれたおかげで感動がでかいのが何とも言えないw】
【冷静になって考えたら、選択肢がアレだからな。絶対に怪しいぞアレ。あれこそスタッフが作ったトラップな気がする】
私は感動の余韻を噛み締めた後に、セーブのボタンをクリックする。
「みんな、ほんまありがとう。今日はここまでにしとくけど、また明日もよろしくな」
私はそういうとコメント欄をしばらく眺めた後に、配信停止のボタンを押した。
この時の私は、この選択肢が元で、数ヶ月後に最初からやり直さなきゃいけない事になる事をまだ知らない。
このデスゲームはまだ始まったばかりであった……。
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