白銀あくあ、炊き出し。
俺は料理が好きだ。
料理好きが高じて自分のブランド名を入れた包丁のプロデュースをしたくらいである。
「一回でいいから、俺の料理をたくさんの人達にお腹いっぱい食わせてぇ……」
一瞬、自分で飲食店を出そうかとも考えたが、別に飲食店を経営したいとかじゃないんだよな。
俺は自分で料理を作って、その料理をみんなに振る舞いたいだけなんだ。
「というわけで、えみり先輩が1ヶ月で準備を整えてくれました」
「私が全て1人で手配しました」
へ? どういう事?
俺はソファに座っているカノンの隣に立っているやりきった顔のえみりへと視線を向ける。
そういえば、えみりと居た時に俺の料理を食べさせたいって呟いたんだっけか。
「あくあ様、こちらですどうぞ!」
「おお!」
えみりの案内で白銀キングダムの地下駐車場に行くと、数台の大型トラックが駐車されていた。
「このようにトラックの後ろのウイングを開けると、こうなってます」
「うおおおおお!」
なんだこのクソデカい釜と鍋は!?
えぇっ!? この釜で3000人分の飯が一気に炊けるって!?
やべぇ……。高速餅つき器や、専用のオーダーメイド鉄板まであるのかよ。
見てるだけでワクワクしてきたぜ。
「使ってみてぇ!」
「って言うと思ったので、大きな公園を確保しておきました」
俺はえみりから受け取った1枚のチラシに視線を落とす。
【炊き出しイベントの告知。毎日を頑張って生きている人達に対して、みんなで白銀軍団が作るご飯を食べに行こう!!】
白銀軍団って何!?
よく見たらトラックの側面にも白銀軍団参上って書いてある。
「流石にあくあ様1人では限界があるので、白銀軍団の皆さんにきてもらいました」
「慎太郎!? とあ!? 天我先輩!?」
それにモジャさんやノブさん、丸男に孔雀、はじめまで!?
さらには石蕗さんや加茂橋さん、おまけにチャーリーまで居る。
「って、チャーリー、なんでここに居るの!?」
「あくあさんと遊ぶために日本に来たら、ここに連れてこられて僕も何がなんだか……あ、これ、遅くなったけど新居祝いです」
「ありがとうありがとう」
すまねぇ。スターズから来てもらったのに、来日早々に俺の戯れ事に巻き込んじまって……。
俺は手伝ってくれるみんなに感謝の言葉を伝えた。
「それじゃあ、あくあもえみり先輩も頑張ってね」
「おう!」
俺は助手席の窓を開けて顔を出すと、見送りに来てくれたカノン達に手を振る。
「白銀軍団、出動!!」
だからその白銀軍団って何!?
普通にベリル軍団でいいじゃんって思ったけど、今回はあくまでも白銀あくあが個人的にやってるから主催は白銀あくあとそのお友達って事らしい。
「ここです!」
現場に到着した俺はびっくりする。
なんだこの男の数は!? もしかして俺は男女比が偏った世界から、元の世界に戻ってきたのか!?
男の子たちはみんなエプロンをつけて椅子を並べたり、机を出したりしていた。
俺はその子達に指示している人物へと視線を向ける。
「理人さん!?」
それに加えて楓のお父さんの隼人さんに、えみりのお父さんの弾正さん、丸男が東京に出てくる時にお世話になった只野さんもいる。
「只野さんがせっかくだから男の子達をかき集めて、どうだって話になったんだよ」
「いやいや、私は声をかけただけですよ。みんな、ベリルに入るのは怖いけど白銀軍団ならいい、あくあ君がやりたいなら協力したいって言ってくれてね」
理人さん、只野さん、みんな……。
俺は感動で涙が出そうになった。
「せっかくだからこれも男女の交流イベントにしようと思ってね。だから、あくあ君。君がやりたいように、料理を作ってくれ。もちろん人手が足りないから、僕達も協力しよう。何、予算は心配しなくていい。私ももちろん資金提供するが、羽生総理から個人の通帳を預かってるからね。これを、使い切るくらいたくさん料理を作ろうか」
「はは、もちろん冗談ですよね?」
あれ? 理人さんの目が笑ってないぞ。
むしろハイライトが消えてるような気がする。
羽生総理は一体何をやらかしたんですか……。
「で、あくあ、僕達はどうしたらいいの?」
あぁ、そっか。リーダーは俺だから、俺が人員を振り分けなきゃいけないのか……。
「我はなんでもやるぞ!!」
「僕もどこに振り分けて貰っても構わない。任せてくれ」
俺は頼もしくなったBERYLのメンバー達を見て嬉しくなる。
特に慎太郎。俺はお前から任せてくれって言葉が聞けて何よりも嬉しいよ。
「よっしゃ! それじゃあベリルのメンバーはみんな料理担当で行くぞ! 他に、料理がちょっとでもできる人は手伝ってくれ!!」
幸いにも俺達4人は全員それなりに飯が作れる。
同じく料理を作れるチャーリー、パンやお菓子作りが趣味の隼人さんにも手伝ってもらって、焼きそば担当やカレー担当などのグループを結成していく。
「丸男と孔雀、はじめの3人は接客とか配膳をするグループのリーダーを頼む! 接客してもいい! やってみたい! 挑戦してみたい! って子も接客や配膳の担当に回ってくれ!!」
俺は丸男達の肩を叩くと、お前がリーダーだぞ! と、気合を入れる。
リーダーという役割と責任を与える事で丸男達が成長できると思ったからだ。
「大丈夫。お前らなら絶対にやれるぞ!」
「「「はい!」」」
3人ともいい顔をしてる。
今日来ている子達は丸男や孔雀の友達が多いのか、丸男達がやるのならと結構な子達が手を上げてくれた。
これなら任せても大丈夫そうだな。
「モジャさん、ノブさん、只野さんは裏方で申し訳ないんだけど、俺達料理班が作ったカレーを紙皿によそったり、焼きそばをパックに入れたり、材料を取ってきたりとか、みんなをサポートするグループのリーダーを担当してくれませんか? 今日来てくれたけど、料理や接客に自信がない子達もこっちを頼む!!」
これなら来てくれた子達が全員参加できるはずだ。
3人とも大人ですごく優しいから、引っ込み思案な子達でもちゃんと導いてくれると思う。
「それと俺よりもしっかりしてる理人さんは全体の管理をお願いできますか?」
「承知した。任せておいてくれ」
理人さんはしっかりしてるから心配する事もないだろう。
いや……一つだけ心配な事がある。
理人さん、8月にスーツで革手袋、エプロンって暑くないですか?
炎天下で死にますよ? 特に俺は晴れ男だから、今日だって俺と太陽の逢引きを邪魔する雲は一つも出てない。
流石に俺も心配だったので、ジャケットくらいは脱いでくださいとお願いした。
「石蕗さんと賀茂橋さんは……」
「俺達はゴミの片付けをしたり掃除をしたりしつつ、人手が足りなさそうなところにヘルプに行くよ」
「ああ、そうだな」
「よろしくお願いします!」
これで全員やる事が決まったかな?
そう思って居たら、誰かが俺の袖をクイクイと引っ張る。
「あくあ君、あくあ君」
「ん?」
「僕は何したらいいのかな?」
あっ……弾正さんを忘れてた。
弾正さんはキラキラした目で俺を見つめる。
うーん、もう全員振り分けちゃったけど、どこのグループに入れようか。
「もちろん最後まで残ってたんだから、何か特別な役目があるんだよね」
うっ……!
俺は弾正さんの笑顔を曇らせないためにも特別な役職を作る。
「弾正さんはマスコットで。ほら、こういうイベントってマスコットがいたりするじゃないですか」
「わかった。任せておいて」
弾正さんはニコニコした顔で看板を手にもつ。
ふぅ……うまく誤魔化せたぜ。
弾正さんだけは怒らせちゃいけない。俺の本能がそう言ってた。
「それじゃあ、俺らも料理の下拵えと準備をしよう!」
俺達料理班は野菜の皮を剥いてカットしたり、煮込みに時間のかかるカレーとかから作ったりする。
そうこうしている間に時間が来た。
俺たちは準備があると言って居なくなったえみり以外のみんなで円陣を組んで気合を入れる。
「いくぞ! 白銀軍団!!」
「「「「「「「「「「おーっ!」」」」」」」」」」
よしっ! みんないい顔してるぜ!
俺達は所定の位置につくと、お客さん達を出迎える。
「お待たせしてすみません! こちらへどうぞ!」
「移動は走らずにゆっくりとでお願いします」
「好きなところに並んでください!」
うんうん。丸男、孔雀、はじめ達は大丈夫そうだな。
3人はお手本を見せつつ、周りの男子達にもどうしたらいいかの指示を出していく。
「天我先輩、俺達もやりますか!」
「うむ!」
えみりが用意してくれた白銀軍団のロゴが入ったタンクトップの上に専用のエプロンをつけた俺は温まったクソデカ鉄板の上で醤油味の焼きうどんを焼く。
ソース味の焼きうどんにするか、醤油味の焼きうどんにするかで悩んだが、俺の隣の鉄板で白銀軍団のTシャツと法被を身に纏い鉢巻をつけた天我先輩がソース焼きそばを焼いているから、俺は醤油味の焼きうどんを選択した。
「いい匂い……」
「お腹空いてきた……」
ふっふっふ……。少し焦げた醤油とソースの匂いがたまんないだろ?
ほらほら、お姉さん達もこの匂いの誘惑に負けてドカ盛りを注文しちゃいな!!
「みんなー! 辛いのだけじゃなくて、甘いものもあるからねー!」
とあは手慣れた手つきで専用の型取りがされてる鉄板で大量のミニパンケーキを焼いていく。
って、とあのその制服はどうしたの!?
俺はコック風のアイドル衣装を着たとあを見て固まる。
よく見たら帽子のリボンにアルファベットで白銀軍団って書いてあるし、どうやらこれもえみりが用意していたみたいだ。
カノンは普通にしてたけど、うちのえみりは有能すぎだろ……。さっきも「皮を剥くのは得意なんですよ。ぐへへ」って謎の言葉を発しながら、野菜の皮だけ高速で剥いてどっかに行ったし、もう、えみり1人いたら、大抵の事はできるんじゃないかと思った。
「おにぎりの具は梅オンリーです。それでもよかったら是非」
慎太郎は手慣れた手つきでおにぎりを握っていく。
あっちはおにぎりとお味噌汁とお漬物だ。いいなー。俺もお腹が空いてきたぜ。
「ジャンジャン焼いていきますからね!!」
俺も負けてられないぞ気合を入れて焼きうどんを焼いていく。
もちろん炊き出しには焼きうどんだけじゃなくて普通のおうどんもある。
俺の後ろでは、料理のできる子達がおうどんを茹でていく。
料理を補助してくれてるサポートの子達は、茹で終わったおうどんを冷水で冷やしてだしをぶっかけたり、カレーライスを紙皿によそったり、お漬物やお味噌汁の準備をしたり、俺や天我先輩が焼いた焼きそばをパックに入れたりする。
ご飯を食べる女の子達の笑顔を元気のエネルギーに変えて、俺はひたすら焼きうどんを焼き続けた。
「ふぅ、流石にコテを振りすぎて疲れたな」
流石に真夏にトラックの冷房が少しは効いてるとはいえ、鉄板は暑すぎだろ。
俺はスタッフ用の休憩テントに行くと着ていたタンクトップを脱いで汗を絞った。
「うぎゃー!」
「あくあくあくあ様がタンクトップを!?」
「その汗を捨てるなんてもったいない!」
「あくあ様の汗が染み込んだ土になりたい……!」
「あの汗ってドリンクで注文できないんですか!?」
ん? 俺はこっちを見て居た女の子達に手を振る。
やべっ、普通に上半身裸になったけど、この世界の男子は普通そんな事しないんだっけ。
まぁ、いっか。見られて困るような身体はしてないし、むしろ俺のヘブンズソードのアクションで鍛えた肉体を見てほしい。
だからあえて俺はこのスタイルで行くと心に決めた。
「後輩も休憩か?」
「はい!」
天我先輩がハムスターみたいに両方の頬を膨らませて慎太郎の握ったおにぎりを食べていた。
俺は天我先輩の食べていたおにぎりを一個もらうと、すぐに口の中に放り込む。
くぅっ! しょっぱくて塩辛いお婆ちゃんが漬けたみたいな慎太郎特製の梅干しがガツンと体に沁みるぜ!
「うめぇな、これ」
「だろう?」
俺はもう一個おにぎりを食べると、天我先輩から味噌汁を貰う。
あー、塩分が全身に染み渡っていくこの感覚よ! たまんねぇわ!
「慎太郎の代わりに握り飯作ってくるわ」
「我も行こう!」
休憩が終わった俺と天我先輩は、慎太郎やとあと入れ替わる。
「お姉さん、おにぎりどう? 俺の愛情がたくさん握りしめられてます」
「それにします!」
「私も!」
何人かのお客さんが素手で握ってくださいと言ってきたけど、食品衛生上の理由から断った。
でも、その気持ちは痛いほどわかる。
俺だって女の子が素手で握ってくれたおにぎりが食いたい。
「ありがとう、あくあ。今、戻った」
「おう!」
俺は少しの間、慎太郎と一緒におにぎりを握る。
どうやら俺がやっていた焼きうどんに今は丸男が挑戦してるみたいだ。
いいな。周りを見ると、みんな慣れてきたのか、固定していた役割もやめてローテーションし始める。
良い傾向だ。興味を持った事にどんどん挑戦していく。
参加していたみんながいい笑顔をしていた。
俺は一通り、白銀軍団のみんなに声をかけていく。
その最中に女子に囲まれた弾正さんを見つけた。
「かわいー」
「おすすめのメニューはどれですか?」
弾正さんモテモテじゃん。
義父さんをマスコット役にして良かったと思った。
「へいよ。水だ。今日はあちぃからしっかり水分取れよ」
「はーい!」
モジャさんのぶっきらぼうだけど優しい接客やべぇな。
飲食を扱うからって今日は髭を剃ってモジャった髪を整えてきたせいで、初めてモジャさんの素顔を見る女子達がみんな戸惑ってた。
はは、みんな知らなかっただろ。うちのモジャさんは身だしなみさえ整えれば、かっこいいんだぞ。
俺はもう一度調理場に立つと、さっき慎太郎と一緒に握ったおむすびを焼きおにぎりにして裏メニューで提供したり、空いてた鍋で急遽豚汁を作ったりしてからもう一度休憩室へと向かう。
「ぐへへ」
「うぉっ!?」
びっくりした。一瞬、変質者が出たのかと思ったらえみりじゃないか。
えみり、お前、今までどこに居たんだ!?
「あくあ様、お待たせしました。こちらです」
どこに連れていくつもりなんだ?
俺はえみりと一緒に大きなテントの中に入る。
「うおおおおおおおおおおお!」
夏だ! 海……じゃなくて公園だ! 水着だあああああああああ!
水着を着た女の子達がキッチンが用意されたテーブルの前で列を作って待っている。
「実は今日のイベントのために、そして今も裏でこっそりと手伝ってくれてる女子達です。良かったら、彼女達にもあくあ様の手料理を振る舞ってくれませんか?」
「もちろんだとも!」
って、それはいいけど、どうしてみんな水着なんだろう?
俺が首を傾けると、えみりがその疑問に答えてくれた。
「水着の方があくあ様も喜ぶと思って、ここでラストスパートのエネルギーを充電していってください!」
ありがとう。本当にありがとう!!
俺はえみりにハグすると、女子達一人一人と握手をしていく。
「や、焼きそばひとつ」
「あいよ! お姉さん、大きいから山盛りにしておくね!!」
童顔で体もちっこいのにデカいとか、俺の居た世界なら即お持ち帰りだね。
おまけにお姉さんみたいに色白で白いビキニはチートがすぎる。
「私も焼きそばひとつ……。ごめんなさい。あんまり大きくなくて」
あー……いっすね。
小さいのを必死に寄せて上げてる涙ぐましい努力に俺は乾杯……いや、完敗したい。
「じゃあ、大きくなるように大盛りにしておくね。でも、小さくても俺は好きだから」
「は、はい! ありがとうございます」
みんな俺の事を勘違いしてるけど、実はそんな事ないからな。
大きいのが好きなのは事実だし、大きい人が居たら反射的に見てしまうのは事実だが、小さいのも同じくらい好きだ。
俺はそんな感じで並んでいる女子達に次々と料理を手渡していく。
「あくあ様、ありがとうございました」
「いや、むしろ俺の方こそいい休憩になったよ。みんな、本当に陰から色々と手伝ってくれてありがとう!」
体力が全快になった俺は再び炊き出しに戻ると、一心不乱に焼きうどんを焼き続ける。
後半は流石にみんながへばってたけど、俺がさっき裏で蓄えたパワーで頑張ってどうにかした。
最後までキッチンに立ち続けた俺は、最後の焼きうどんを自分でパックに詰めて最後のお客さんに手渡す。
「待たせちゃってごめんね」
俺は最後まで待ってくれてたお客さんにハグをする。
ほら、コンビニのくじとかである最後の一個のくじを引いた人にだけ当たるおまけみたいなもんだ。
「ふぁ〜っ!」
おっと、倒れそうになったお姉さんの体を支えた俺は、後ろからスーッと出てきたお姉さん達に預ける。
本当に見えないところからずっとサポートしてくれてるんだな。
どうせならもうちょっとサービスしても良かったかもしれない。
「全員並んだかー?」
俺達は横並びになると、全員が揃っているのを確認する。
「今日はみなさん、暑い中に来てくれてありがとうございました!!」
「「「「「「「「「「ありがとうございました!」」」」」」」」」」
俺たちがお礼の言葉を述べると、みんなから温かい拍手とお礼の言葉が返ってきた。
男子のみんなもいい経験に……いや、良い夏の思い出になってくれたんじゃないかな。
「あくあ君、俺、また手伝うから呼んでください!」
「おう!」
「あくあ君、僕も次があったら、どこにでも行くよ!」
「ありがとな!」
俺は手伝ってくれた男子達とも1人ずつハグする。
「みんなも今日はありがとな!」
「気にするな後輩」
「いつもの事だからな」
「ねー」
俺は天我先輩、慎太郎、とあ達にも感謝の言葉を伝える。
「お前達も今日は頑張ったな!」
「はい!」
「流石にちょっと疲れたけどな。まぁ、悪くはない気分だ」
「孔雀、そういう時は素直に楽しかったって言えよ……」
はは、俺は孔雀の頭をクシャクシャにする。
「みんなもありがとう!!」
俺は手伝ってくれたチャーリー達にもお礼を言う。
みんな楽しかったのか、また白銀軍団で集まろうって話になる。
せっかくだから、今日集まった全員で共通のチャットグループを作った。
「あくあ君。今日は良かったよ。また次があったらやろう。羽生総理のポケットマネーで」
「あ……はい……」
黒い笑顔を見せる理人さんの前で俺は笑顔を引き攣らせる。
羽生総理はカメラの前で土下座するよりも、理人さんに謝っておいた方がいいと思う。
何をしたのかはわからないけど、多分すごくしょうもない事をしたんだと思う。
俺は総理に、一緒に謝ってあげますからとメッセージを送った。
「えみりも本当にありがとうな」
「お礼と言ってはなんですが、あくあ様のそのタンクトップを記念にください」
こんな汗染みたタンクトップでいいのか?
まぁ、えみりが欲しいならいいけど……。
えみりは俺からタンクトップを受け取ると、すぐに真空パックに詰め込んだ。
「ぐへへ! これで白銀あくあ珍宝館のコレクションがまたひとつ……カノンの白銀あくあ記念館には負けないぜ」
えみりが何を言っているのかは聞き取れなかったけど、すごく楽しそうな顔をしてたから、まぁ、良かったのかな?
俺は流石に疲れていたのか、気がついたらトラックの助手席でそのまま眠ってしまった。
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