雪白えみり、最強コンビ結成。
「えー、次の問題はとても難易度が高いので、2人で答えるタッグ問題になります!!」
ほほう、次の問題はタッグ問題か。
いい事を閃いた私は全員の視線がステージに向いてる間に、物陰で服を着替えて後宮侍女のハニーナ・オルカードからただの雪白えみりに戻る。
「このタッグ問題では、答えを迷った時にお互いに違う解答をフリップに書く事ができます。2人とも同じ答えを書いて当たれば2ポイント、外れたら0ポイントという戦術を取るのもあり。答えを2人で分散をする事で1ポイントを取りに行くのもありです」
ふむふむ、なるほどね。
私がこっそりと物陰から出てきたところで、クレアとくくりの2人と目が合う。
後でちゃんと戻ってくるから、そっちは頼んだぞ!
「えー、ちなみにこの問題。カノン1人しかいないカノンチームは1人です」
「ちょっと待ったぁ!」
私は今来た風を装いながら、ステージに上がる。
せっかくだから私も1問くらいは嫁ーず側として参加したい。
「カノン、私がきたからには安心して欲しい」
「えみり先輩……」
嬉しそうな顔をする純粋なカノンを見て、やっぱりこいつがダントツでチョロいなと思った。
「足を引っ張りにきた!」
「何しにきたのよ! もう!!」
さすがだよ。カノン。直前まで完璧に騙されていたのに、すぐに突っ込めるところがお前のいいところだ。
私達のやり取りを見て、普段は澄ました顔をしている淑女やお姫様達も爆笑する。
「カノンが空気読まずに2ポイント取りに来るのを阻止しにきました」
「いいぞ〜」
「もっと早く来いー」
わかってる小雛パイセンと楓パイセンからヤジが飛んでくる。
この理由も嘘じゃないけど、私も嫁ーずとしては1問くらいは参加したかったからタッグ問題はちょうどいいと思った。
「それでは各チームの代表者2名はステージの上に登ってください」
どうやらうちのチームからはスウちゃんとシャムス陛下が参加するみたいだ。
なるほど、最後の問題にくくりを温存したか……。
悪くない選択だが、他のチームはどうかな?
「私が行きます」
どうやら姐さんチームはここで姐さんという最強のカードを切るらしい。
姐さんは同級生でもあるココナちゃんを残して、揚羽お姉ちゃんと組むみたいだ。
「ここが勝負どころね。アヤナちゃん行くわよ!」
「は、はい!」
なんだとぉ!?
ステージに上がった小雛パイセンとアヤナちゃんを見てみんながどよめく。
最後の問題のために戦力を分散するかと思いきや、小雛パイセンはここで一気に勝負を仕掛けてきた。
「わ、私が行きます」
「フィーも! もう待つのは退屈なのじゃ!」
らぴすちゃんチームは、らぴすちゃんとフィーちゃんの2人か。
他のチームから選ばれた代表者達も次々とステージに登る。
「これで全員が揃いましたね? それでは次の問題です!! あくあ君はこれまでに数多くのドラマに出演してきましたが、その中で一番好きなシーンとセリフはどれでしょう! 2人でよく相談してから解答をお書きください」
私は隣にいるクソヲタよりも早く、迷わずにペンを走らせるとみんなに答えを見せた。
【やっぱり妹のリボンは最高だぜ/ゆうおにの一也お兄様のセリフより】
やっぱこれでしょ。
「え? そんなセリフあったっけ?」
「ないない! えみり先輩、勝手にセリフ作らないでください!! も〜っ! いくら足を引っ張るためとはいえ、ふざけ過ぎでしょ!!」
あれ? そうだったっけ?
おかしいな。聞き覚えがあった気がするんだけど、私の気のせいだったか。
いや、そうじゃない。思い出したぞ。このセリフは一也のセリフじゃなかったんだ!!
「すみません。これ、アヤナちゃんの使用済みリボンの匂いを嗅いでたあくあ様の台詞でした」
「流れ弾ぁ!」
審査員席に座っていたあくあ様が悶える。
ごめんごめん。私とした事が現実とフィクションがごっちゃになってたよ。
つまり正解はこうです。
【ぐへへ、やっぱりアヤナのリボンの匂いは最高だぜ/白銀あくあ】
その事を知らなかったアヤナちゃんは、顔を真っ赤にしてフリーズする。
おーい、大丈夫かー? 早く戻ってこいよ〜。
「変態!」
小雛パイセンのシンプルな悪口にあくあ様も撃沈する。
なるほど、これが身から出た錆ってやつですか。
じゃあ、やっぱこれかな?
私は再びフリップにペンを走らせると、次の解答をみんなに見せる。
【煩悩退散! 煩悩退散!/陰陽師の安倍晴明】
うーん、なんかちょっと違う気がするな。
「煩悩退散じゃなくて悪霊退散ね」
「煩悩退散は、ふざけて替え歌してたお前と私のセリフだろ」
楓パイセン、ツッコミありがとうございます!
っと、ついつい、いつもの癖でふざけちゃったけど、みんなは必死に考えててこっちを見てないようだ。
しゃーない。私も真面目に考えるか。
「ガチるならヘブンズソードだよな」
「うん。私もそう思う。でも小雛ゆかりさんと共演したゆうおにとか、デビュー作のはなあたもあると思うんだよね。この問題、考えれば考えるほど難しいよ。特に私みたいなヲタほど沼る」
うーん。足を引っ張るのは冗談にしても、ここはカノンと別々に答えた方が良さそうだな。
今回に限っていえば、逆にヲタじゃない方が正答率が高そうな気がする。
カノンみたいな重度なヲタは全部のセリフを覚えてるからこそ、選択するのが難しそうだなと思った。
「あえてここは相談なしで、ヘブンズソードにだけ絞って別々に答えを書いてみるか」
「そうですね……そうしましょう!」
私とカノンは別々に答えを書く。
流石にカノンが可哀想なので、ふざけるのはやめにした。
「どうやらみなさん、回答への記入が終わったみたいですね。それじゃあ、ゆかり、ここは役者を代表して、いや、あくあ君の師匠として当ててくれ!」
「任せなさい!!」
小雛パイセンは手に持っていたフリップをみんなに見せる。
【お母さんに誓った。どんなに心が辛くとも、魂が挫けそうになったとしても、俺は、全てをやり遂げてみせる!!/マスク・ド・ドライバー ヘブンズソード、剣崎総司が母と記憶の中で邂逅した後に言った台詞】
おぉ〜。
2ndROUNDが開始した時に剣崎が母であるボッチ・ザ・ワールドさんに誓った言葉だ。
「これしかないでしょ」
「なるほどね。同じ役者でアイドル、ライバルであり戦友でもあるアヤナちゃんはどう?」
アヤナちゃんも手に持っていたフリップをみんなに見せる。
【なぁ、そんな男より俺にしとけよ/はなあたの夕迅様がヒロインに言った時のシーン】
ぐわぁ! 思い出しただけでドキドキするぜ!
何人かの女性達がセリフを見ただけで悶える。
やっぱこれが正解だろ……。今見ても破壊力マシマシすぎてやばいわ。
「ゆうおにのセリフじゃないんだ?」
「……はい! 本当は莉奈、愛してるを選びたかったけど、我慢して正解を取りに行きました!」
アヤナちゃんの勇姿にみんなが拍手を送る。
私がアヤナちゃんの立場なら、間違いなくそのセリフを選んでたわ。
「他にこのセリフを選んだ人いますか?」
おー、やっぱり結構いるなー。
揚羽お姉ちゃんやシャムスさんも同じセリフを選択していた。
なるほど、揚羽お姉ちゃんもシャムス様も強引なのがお好きなのね。ぐへへ!
「揚羽さん、やっぱりですか」
「やっぱりってなんですか!?」
揚羽お姉ちゃんは顔を真っ赤にする。
いいぞ〜! もっとやれ!!
最近は鬼塚さんが司会をする事が増えたけど、やっぱ楓パイセンの司会は安定感あるわ。
「シャムス陛下もこういうタイプの男性がいいんですね」
「あ、いや……そうじゃなくて、だな。うん。あ、あまり、うちの国にはいないタイプの男性だから、その、き、記憶に残ってだな……」
わかりやすぅ!
顔を真っ赤にしたシャムス陛下がしどろもどろになる。
「ネット配信がないからって、秘密裏に輸入したビデオテープが擦り切れるまで見てましたね」
「マナートねえ!?」
マナート様もいいぞ〜!
やっぱり擦り切れるまでそのシーンを見てたんですねぇ。
真っ赤になったシャムス陛下が最大の味方から背中を撃たれて撃沈する。
「それでは他の回答を見てみましょうか。姐さん、どうぞ」
「はい」
姐さんは手に持っていたフリップを捲る。
【お母さんが言っていた。男でも、いつかは戦わなきゃいけない時があるって/ヘブンズソード1話の剣崎総司のセリフより抜粋】
おぉ〜。やっぱり姐さんはそこかー。
初めて剣崎がヘブンズソードに変身した、初めてのおかいつセリフだ。
「姐さんはどうして、このシーンを選んだんですか?」
「剣崎総司として、ヘブンズソードとして、何よりも、アイドル白銀あくあとしてのあくあさんの決意をこのセリフとシーンから感じたからです」
姐さんの説得力のある解説に全員が強く頷く。
なるほど、これが共通の解釈ってやつですか。
どうやらこのセリフを選んだ人はかなり多かったようだ。
スウちゃんやフィーちゃんも手をあげる。
「スウちゃんはどうしてこのセリフを選んだのかな?」
「えっと、剣崎さんと性別は違うんだけど、いつかは戦わなきゃいけないってセリフに心を動かされたからです。きっと私が一歩を踏み出せたのも、この1話をみてたからだと思います」
確か極東連邦では刺激が強すぎるって理由で1話だけしか放送されてなかったんだっけ。
でも、そのたった1話でスウちゃんの心を動かして亡命に繋げたんだから、やっぱりあくあ様と剣崎はすごい。
もうヘブンズソードは学校の授業でやるべき。聖女党の公約に勝手に捩じ込んでおくか。
「なるほどね。フィーちゃんはどうしてかな?」
「このシーンの戦闘がかっこよかったからなのじゃ!!」
すごいシンプルな内容だけど、みんな納得なのじゃ!
フィーちゃん、今度お姉さん達と一緒にヘブンズソードごっこしような!!
「それじゃあ、らぴすちゃん」
「は、はい……って、やっぱなし! 書き直してもいいですか!?」
「ダメでーす!」
楓パイセンはらぴすちゃんから強引にフリップを奪うと、みんなに向かって公開する。
【妹のことが好きじゃない兄なんているわけないだろ/ゆうおにの追加特典DVDのアフターエピソードで、妹達2人を抱きしめながら言った一也のセリフ】
らぴすちゃんは顔を真っ赤にして悶絶する。
これは仕方ない。
私があくあ様の妹なら同じセリフ選んでる。
「それじゃあ、最後にカノンとえみり、お前たち2人の答えを見せてくれ」
私とカノンは顔を見合わせると、同時にフリップを捲る。
【お母さんが言っていた。1人でなんでもできる奴なんていない。だからみんなで助け合って生きてるんだってな!!/劇場版ヘブンズソードの剣崎総司、最後のおかいつシーン】
まさか、カノンと同じセリフを選んでるとはな。
へへっ、ちょっとだけ嬉しいぞ。
「2人はなんでこのセリフを選んだの?」
「それは……」
「ね」
私とカノンはもう一度顔を見合わせると素の表情で笑い合う。
「ここに来るまで、いろんな人に助けられてきたからね」
「そうそう。自分1人じゃこの景色は見られなかったもん」
正直、周りに迷惑をかけた数だけなら負ける自信がない。
それくらい私は誰かに助けられてここにいる。
カノンも多くの人達に助けられてあくあ様と結婚した。
結局のところ私達は似たもの同士なのである。
みんなに迷惑かけた。
それでも暖かく受けいられているのは、あくあ様の周りにいる人達が優しいからである。
守りたい。この暖かい世界を。
私は改めてそう思った。
「それじゃあ、あくあ君。正解を発表してもらえますか?」
「正解は……」
あくあ様は少しだけ考える仕草を見せると、みんなに向かって笑顔を見せる。
「正解は全てです。どれも良かった。順位をつけるのは良い面もありますが、この中で1番を決めるのは無粋な気がしました」
あくあ様の言葉に、全員が笑顔になる。
うん。この問題に関してはこれで良かったと思う。
でも、1人だけ不満だった人がいるみたいだ。
「ちょっと! それじゃあ、真剣に考えた意味がないじゃない!」
「じゃあ、小雛先輩だけ0点にしますか?」
「はあ!? なんで私だけ0点なのよ!!」
ははっ、またやって〜ら。
でも、ちょっとだけ湿っぽい感じになりそうだったから、それがわかってて敢えて言いに行った小雛パイセンには感謝したい。
私は2人がコントで注意を惹きつけてくれている間に、またハニーナ・オルカードに変身するために物陰へと隠れた。
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://x.com/yuuritohoney