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雪白えみり、ステイツの叡智。

「えーと、次の問題はボーナス問題です。正解した人は2ポイント、外してもおしかったら1ポイントが入るので頑張ってくださいね」


 うおおおおおおおお!

 2問目で既に脱兎のごとく逃げの体勢に入ったカノピョンを見て、ケータリングのチキンも冷え切っていた会場が一気に盛り上がる。


「ただし、難問です。代表者の人は覚悟してください」


 ここに来て、まだこれ以上の難問があるのかよ……。

 楓パイセンのふざけてない顔を見ると、これはガチだと確信した。


「ちなみにカノンでも難しいです」


 その場に居た全員がどよめく。

 あの、トップ・オブ・ザ・トップ・クソヲターのカノンさんでも難しいだと!?

 そんな問題、人類に答えられる奴がいるのか?

 私はサポートメンバーとして自分のチームに進言する。


「ガチで行くならくくり……様しかいません」


 私の言葉に全員が頷く。


「でも、難しい問題なので、あえて捨て試合にするのはアリかもしれません」


 姐さんのチームは姐さんが出てもまりんさんがいるし、小雛パイセンのチームは小雛パイセンが出てもアヤナちゃんが残ってる。

 でも、うちのチームはここでくくりを使ってしまうと、スウちゃん、シャルロットさん、シャムス陛下の3人で、アヤナちゃん達と戦わなきゃいけない。

 ただ、楓パイセンのカノンでも難しいという言葉を信じるなら、2ポイントリードしてるカノンと差を詰めるチャンスでもあるからとても難しい問題だ。

 ここで今まで静かだったくくりが口を挟む。


「あえてここで勝負を仕掛けましょう。ただし、出るのは私じゃありません。シャルロットさん、いけますか?」

「わ、私ですか?」


 くくりは無言で頷く。


「森川さんのカノンさんでも難しいという言葉を信じるなら、彼女でも答えられない問題はあくあ様の絵心に関する問題と考えて間違いないでしょう」


 うおおおおおおおおおお!

 さすがはくくりだ!!

 確かに、楓パイセンの言葉を信じるなら、その手の問題しかない気がする。


「残念ながら、私如きの感性では、常識の範囲を超えたあくあ様の絵心を理解する領域にありません。そしてそれは、王族として普段から真っ当な芸術に触れているカノンさん、シャムス陛下やスウ皇帝も同様だと思います」


 あー……なるほどな。

 つまり既存の芸術で磨かれた感性では、新時代の感性で描かれたあくあ様の絵心は理解できないという事か。


「そこで、シャルロット様に賭けたいと思います。無論、シャルロットさんも普段から芸術を嗜んでいるとは思いますが、既に惨敗が確定している私達よりも可能性があるはずです」


 シャムス陛下やスウちゃんも自信がないのか、くくりの言葉に大きく頷く。


「それと、次の問題でサポートメンバーを交代します」


 え? もしかして、私、戦力外ですか?

 二問とも外しちゃったけど、私だってちゃんと頑張ってたんですよ。

 私は訴えかけるように眉毛を八の字にして、潤んだ目でくくりを見つめる。


「うっ……。あ、あくまでも次の問題だけです」


 良かったぁ。

 このままポイされてたら、草葉の陰で草をハムハムしてるところだった。


「クレア、いけますね?」

「わ、私ですかあ!?」


 指名されると思ってなかったクレアが目をぐるぐると回す。

 大丈夫か? やべー事になったりしないよな?


「ええ。クレアの狂……んんっ! 独特な感性なら、きっと、あくあ様の絵心を、その深層にある何かに触れる事ができるはずです」


 おい、くくり。

 お前、今、狂気って言おうとしただろ!!

 うまく誤魔化したつもりかもしれないけど、私にはちゃんと聞こえてるぞ!


「わ、わかりました。くくり様がそこまで期待してくれるのなら、私も頑張ってシャルロット様をサポートします!!」


 頑張れよ、クレア。

 私はクレアの緊張を解すために、ステージに送り出すタイミングでクレアの背中を軽く叩く。


「えみ、ハニーナさん!?」

「クレア、頼んだぞ!」

「は、はい! 任せてください!!」


 さーてと、他のチームは誰を選んだかな?

 私は姐さんチームの様子を伺う。


「琴乃さん、ここは私が行くわ! カノンさんでも難しい問題なら、実母である私しかいないわよね!!」

「わ、わかりました。まりんさん、お願いします!」


 どうやら姐さんチームはまりんさんが出るようだ。

 私は小雛パイセンのチームへと視線を向ける。


「仕方ないわね。じゃあ、ここは私が……」

「待て、小雛ゆかり……。ここは私の出番だ」


 ステージに行こうとした小雛パイセンを美洲おばちゃんが止める。

 また喧嘩か!? 野次馬根性丸出しの私は、一触即発な雰囲気を醸し出している2人に近づく。


「本気なの?」

「ああ。あえてここで君とアヤナさんを温存する。だからここは母である私に任せて欲しい」


 仁王立ちした大女優2人が睨み合う。

 おーい。2人ともー。これはレクリエーションだぞー!!


「どうやら本気のようね。わかったわ。ここはあんたに託すわ!」

「ああ! 任せてくれ!!」


 おおー。まるで何かの映画のワンシーンのようだ。

 小雛パイセンから熱い想いを託された美洲おばちゃんがステージに登る。

 誰も突っ込まないけど、あの2人、やっぱり仲良いよな?

 私はそのままらぴすちゃんチームの話へと耳を傾ける。


「どうやらお母さん達が出るみたいね。らぴす、いい?」

「はい、もちろんです! 姉様、頼みました!!」


 おおー!

 カノンに対抗して白銀家の3人が出てきた。

 これには後宮のお姫様達も盛り上がる。


「まさか、まりんちゃんやしとりちゃんと戦うことにはなるとはな」

「ふふふ。ミクちゃん、今は敵同士だから負けないからね! もちろん、しとりちゃんも!」

「あらあら、お母さん達ったら。悪いけど今日だけは私が勝たせてもらいます」


 うおおおおおおおおおお!

 大きな膨らみをぶつけ合う3人を見て、私とあくあ様だけが大きく盛り上がる。

 あの間に挟まりたい!!


「えー、今回の問題は芸術に関しての問題です。あくあ様の描いた絵を見て、何について書かれた絵かを完璧に当ててください!!」


 よしっ! くくりの予想通りだ。

 これは勝ったな。私は後方で余裕の表情を浮かべながら腕を組む。


「それではみなさん、こちらの絵をご覧ください」


 りんが被せていた布を剥ぎ取ると、中かから一枚の絵が現れた。

 それを見た瞬間、耐性の無いご令嬢が悲鳴と共にバタバタと倒れる。

 流石に初見であくあ様の絵は刺激が強すぎたみたいだ。

 私も近くにいたご令嬢達の介抱を手伝う。


「ちょっとあんた、責任とってヒントくらい出しなさいよ!」


 小雛パイセンが審査員席にいるあくあ様に突っかかる。


「えぇっ!? こんなわかりやすいのに!?」


 あくあ様、そう思ってるのはあくあ様だけです。

 私の心の中の声と、小雛パイセンの声が重なる。


「じゃあ、えっと……これは人、つまり、ここにいる誰かです」


 人ぉ!? あの黒いモヤモヤみたいなのが人だっていうんですか!?

 みんなが驚いた顔をする。

 大きなヒント? が出たことで、みんなが一斉にフリップへと答えを書いていく。

 果たしてうちのシャルロット様とクレアは大丈夫だろうか?

 私はこっそりとステージに近づくと、2人の様子を伺う。


「なるほど、わかりました」


 おお!? クレアは何かが閃いたような顔をする。

 さすがはクレアだ。私が心を鬼にしてケツを揉んだ甲斐があるってものよ。


「これは世界の滅亡を描いた絵です。そしてこれは、成す術もなく殲滅される人、そう、答えは私です」


 おい、クレア。勝手に死ぬな!!

 あと、達観した顔をしてるけど、あくあ様がそんな絵を描くわけないだろ!!

 もうちょっと真面目にやれ! くくりが頭を抱えてるじゃないか!!

 ふざけるなら、私が代わる必要は全くなかったぞ!!


「あ、あくあ様がそんな絵をお書きになるでしょうか?」


 よく言った、シャルロットさん!

 その狂信者をどうにかしてくれ!!


「はい!」


 はい! じゃねーぞ!

 お前のその自信はどこから来るんだ……。


「……私は違うと思います」


 おぉ……。シャルロット様って勝手に気弱なイメージを作ってたけど、ちゃんと自分の意見が言えるんだ。

 それもあのクレアに向かって違うだなんて言えるのが凄い。私なら100無理だね。

 うちの宗教、聖あくあ教ってふざけた名前の宗教があるんだけど、明日からそこで私の代わりに聖女やってみない? ただの置き物でしかない私よりも遥かにマシだと思う。


「この絵はとても躍動しているように見えます」


 え? どこが?


「闘争心に溢れている女性の姿が見えます」

「闘争心……? 小雛ゆかりさんですか? となると、この暗黒神のような黒いモヤも理解できます」


 おい、やめろ、クレア。

 そんなのを本人に聞かれたら、後で首を絞められるぞ。


「いえ……これはモヤではなく髪色です。黒髪の女性ではないでしょうか?」

「黒髪? となると、まりんさん、琴乃さん、アヤナちゃん、揚羽さん、白龍先生、うるはさん、くくりさんの誰かとか?」


 くくりだな。

 うん、間違いない。


「えみりお姉ちゃん?」

「ヒィッ!」


 背筋に冷たいものを感じる。

 私が後ろを向くと、笑顔のくくりが背後に立っていた。


「えみりお姉ちゃんも黒髪ですね」

「ははっ……」


 え? 本当に私?

 私はあくあ様の絵をじっくりと観察する。

 うーん、言われてみたら、だんだんと叡智なことを考えてる時の私の顔に見えてきたぞ。


「わかりました」


 えっ? これだけで何がわかったっていうんです?

 シャルロット様は手に持っていたフリップに答えを書く。

 他のグループも相談を終えたのか、次々とフリップに答えを書き始める。


「どうやらみなさん書き終わったみたいですね。それでは正解を発表する前にカノン、当ててくれ」

「当たってるかどうかはわからないけど……」


 カノンは手に持っていたフリップを回転させる。


【アヤナちゃん!】


 おお! アヤナちゃんだ!!


「どうしてそう思ったのか、聞いてもいいかな?」

「えっと……なんかこうマイクみたいなのを持ってるように見えたので、アヤナちゃんかなと」


 おお! 本当だ!!

 よくみたら黒いモヤの中にうっすらと筒状のものが見える!!

 これはアヤナちゃんで間違いない!!


「なるほど、それでは一旦この答えは保留にして、しとりさん、手に持ったフリップを皆さんに見せてください」

「ふふっ、いいわよ」


 しとりさんはみんなに自分の書いた答えを見せる。


【くくりちゃん】


 おお! どうやらしとりさんも私と同じ答えのようだ。


「理由を聞いても?」

「うん。ここに赤い紐みたいなのが見えるでしょ。これがリボンかなって」


 ああ! 手をポンと叩いた私は改めてくくりの姿を確認する。

 そういえば、最近のくくりは赤いリボンをつけてる事が多い。

 ううむ。そう考えると、こっちもアリな気がしてきたぞ。


「うんうん、なるほどね。それでは次にまりんさんと美洲様、フリップに書かれた答えをオープンにしてくれますか?」

「任せて!」

「わかった」


 2人は手に持っていたフリップを観客席に見せる。


【うるはちゃん】

【黒上うるはさん】


 おお! 同じ答えだ。

 まりんさんと美洲おばちゃんはお互いに笑顔になる。


「理由を伺っても?」

「うん。やっぱりこの揺れだよね」

「ああ。あくあ君の絵から強い躍動感を感じた」


 確かに……言われてみたら、モヤが揺れているように見える。

 なるほど、これが揺れを表現してるんですね。

 くっ、なんというかあくあ様の絵は、見れば見るほどに人を惑わせるような絵だ。


「なるほど、でも大きい女性なら他にもいるはずですが?」

「ああ。だが、この躍動感を見てくれ。若さを感じないか?」

「うんうん、若さが溢れてるわよね。だから一番若くて大きい子を選んだってわけ」


 なるほど……。

 確かにこの中で一番若くて大きいのはうるはちゃんだ。

 うーむ。カノンやしとりさんの解答にも納得できる部分があるし、これは難しいな。


「はい! というわけで正解はうるはちゃんでした!」

「ミクちゃん、やったー!」

「やった! まりんちゃん!!」 


 まりんさんと美洲おばちゃんは、女学生時代のように手を取り合って喜ぶ。

 おぉ……一番若くて大きいうるはちゃんにも負けないくらい揺れてらっしゃる。

 うん。2人なら、そのまま制服着ても全然通用しますよ。あくあ様に。

 だって、それを見ているあくあ様と私の視線が激しく上下してるんだもん。


「というわけで2人には1ポイントを加算したいと思います」

「「えっ?」」


 あれ? 正解は2ポイントじゃないの?

 まりんさんと美洲おばちゃんは、ポカンとした顔をする。


「ちょっと! 正解なのに、どこがダメだっていうのよ!!」


 さすがは小雛パイセンだ。行くのが早い。

 みんなが行って欲しいタイミングで行ってくれる。


「うちの美洲が頑張ったのに、なんで1ポイントなのよ」

「小雛ゆかりさん。私は言ったはずです。完璧に当ててくださいと」


 楓パイセンは、うちのチームのシャルロットさんへと視線を向ける。


「実はこの問題。完全に正解した人が1人だけいます。シャルロット・S・ファーニヴァルさん。正解を発表してもらっていいですか?」

「はい。まず、この絵は間違いなく黒上うるはさんです」


 シャルロットさんの解説をみんなが固唾を飲んで見守る。


「しかし、私が彼女だと判定したのは、胸の揺れ方じゃありません。手に持っていたバトンと赤い鉢巻きです。確かこの国には運動会と呼ばれる行事があるんですよね? おそらくこれはその行事の中で行われる競技の一つ、リレーではありませんか? 先ほどクレアさんにも確認しましたが、黒上うるはさんはリレーでアンカーを走ったと聞いています。あくあ様は、その時の絵を描かれたのではないでしょうか? 頑張る女性が好きなあくあ様だからこそ、女性が頑張っている姿を描かれたのではないかと思いました」


 完璧だ……。

 江戸っ子エミリとかいうパチモンとは違う。

 シャルロット様は手に持っていたフリップをみんなに見せる。


【運動会のリレーでアンカーを託された黒上うるはさん】


 気がついたら全員が真剣な表情で拍手していた。

 小雛パイセンもすごすごと元居た場所へと帰っていく。


「えーと……はい。正解です。正解したシャルロットさんには2ポイントとは別に、あくあ様から絵を描いてもらえる権利が授与されるので、楽しみにしててくださいね」

「やった!」


 シャルロットさん良かったね。

 ん? 良かったのか?

 ふと、あくあ様に絵を描いて貰える事が良い事なのかと疑問に思ったが、そんなコマけー事は気にしたらダメだ。


「これが私……あ、ありがとね。あくあ君」

「おう!」


 絵と向き合ったうるはさんは一瞬戸惑った素振りを見せるも、あくあ様に感謝の気持ちを伝える。

 うるはちゃんは、ほんま、ええ子やで。一瞬だけ私の中に降臨してきたインコさんがそう囁く。


「ちょっと! おう! じゃないでしょ。あんたはお詫びとしてうるはちゃんと一回デートね!」

「お詫び!? なんでお詫びが必要なの!? まぁ、デートは普通にするけど……」


 小雛パイセンの発言に、私達は無言の拍手で肯定する。

 この瞬間、レクリエーションに参加していた全員の心が一つになった気がした。

 小雛パイセン、ありがとう。イチャモンつけるだけじゃなかったんですね。


「これで、カノンとポイントが並びましたね。勝負はこれからですわよ!」


 私はヴィクトリア様の言葉に頷く。

 うちとカノンが2ポイント、姐さんと小雛パイセンのチームが1ポイント。

 カノンの独走かと思いきや、ボーナス問題で勝負がわからなくなってきた。

 それもこれもシャルロットさんのおかげだ。

 ありがとう、シャルロットさん!!

 それにしても……アイビス様だって私が訂正しなきゃ完璧に正解してたし、ステイツから来た2人は中々すごいな。

 2人からは悪意のようなものは全く感じないけど、ステイツという国の底知れなさには、冗談ではなく普通に警戒しとかなきゃいけない気がした。

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