雪白えみり、後宮交流会。
ヴィクトリア様があくあ様と肉体言語で話し合った結果、後宮のみんなを交えて嫁ーず達とレクリエーションをする事になった。
司会の楓先輩がマイクを手に持つ。
「それでは、只今より。白銀キングダムのレクリエーションを始めたいと思います!!」
私、雪白えみりは嫁ーずの1人ではなく、後宮侍女ハニーナ・オルカードとしてお嬢様方のサポート役に入っている。
普段は全くと言っていいほど働いていない私の勘が、そうした方がいいと告げているからだ。
「皆さん、頑張りましょう!!」
私は後ろに振り返ると、担当するチームのメンバーに気合を入れた。
「は、はい」
「よろしくお願いします」
「はい」
「頑張ります」
私が担当するチームには、極東連邦から保護したスウちゃん、ステイツからやってきた車椅子のシャルロットさん、同じくステイツからやってきたアイビスさん、アラビア半島連邦のシャムス陛下がいる。
そして、その4人とは別に……。
「皆様、よろしくお願いします。あくあ先輩の事なら、この私に任せてくださいね」
「ふっ。あの男の事はどうでもいいけど、勝負事は嫌いじゃありませんわ」
くくりとヴィクトリア様の2人から解き放たれる強者のオーラと謎の圧にチームメイトの4人が怯む。
やべーな。うちのチーム、ラスボスが2人もいるじゃん。
シャムス陛下はビビってないで、同じレート帯なんだからもっと頑張って!!
最初に言っておくけど、バター犬にしかなれない私如きではこの2人は止められないから期待しないで欲しい。
私のような弱者に止められるのはカノポンくらいだ。なんならそこに立っている同じサポートメンバーのクレアも止められない自信がある。
それに、今考えたらこのチーム、クレアとくくりが居る時点で明らかな地雷じゃねぇか。
やっぱり私も嫁ーずで参加して、雑にカノンにイタズラをしていたら良かったと後悔する。
「それではまず最初に、こちらの問題をどうぞ!!」
なんだなんだ!?
たくさんの衣装を着た女性用マネキンが出てくる。
「えー、このマネキンは、あくあ君が後宮の女性達や嫁達にデートの時に着て欲しい服装がコーディネートされています!」
うおおおおおおおおお!
フロアにいた女性達が一斉にどよめく。
「この問題の解答者は各チームの代表者1人になります。解答者に選ばれた人はサポートメンバーの1人を駆使して、あくあ君がセレクトした自分用のコーディネートを選んでください! 尚、解答の正解不正解に関わらず、この衣装はレクリエーション終了後にあくあ君からプレゼントされるので、是非ともデートの時に着てあげてくださいね。本人が喜びます!!」
後宮にいるお姫様達だけじゃなくて、嫁ーず達も色めき立つ。
つまり、あの中には私に着て欲しい衣装もあるって事か。
「それではそれぞれの代表者を選んでください」
「私が行きますわ」
ヴィクトリア様が一歩前に出る。もちろん反対する人なんて誰もいない。
トップバッターにこれほど相応しい人もいない。
ステージの方を見ると、妹のカノンがもうマネキンの前に立っていた。
「姉御、ガツンとかましてください!!」
「誰が姉御よ! 全く貴女という人は……」
怒られるとわかっていてもやるべき事をやる女、それが雪白えみりだ。
どうやら嫁チームは3つに分かれてるみたいだな。
姐さんチームが結さん、白龍先生、揚羽お姉ちゃん、ココナちゃん、そしてまりんさんか……。
これは間違いなく優勝候補だ。白龍先生は間違いなくみんなの期待通りに足を引っ張ってくれるだろうけど、しっかり者の揚羽お姉ちゃんが居るし、実母のまりんさん、同級生のココナちゃんに結さんとバランスが取れている。
そして誰よりもリーダーの姐さんが強すぎだろ……。同じ検証班の私でも勝てないぞ。
「白龍先生、お願いできますか?」
「わ、私!?」
姐さんのオーダーで白龍先生が一歩前に出る。
どうやら姐さんは最初のうちに捨て駒を使うみたいだ。
やはり最初にヴィクトリア様を選択しておいて良かったと思う。
まずはここでしっかりとリードを奪いたい。
「ここはやっぱり私でしょ!」
隣のチームは、小雛パイセンのチームか……。
メンバーは巻き込まれたアヤナちゃん、巻き込まれた阿古さん、巻き添えになったラズ様とリサちゃん。それに美洲おばちゃんを入れた6人のようだ。
「いいや! 私の出番だ!!」
いつものようにパイセンと美洲おばちゃんが子供のような争い方をする。
最近、この2人、実は仲が良いんじゃないかと思い始めた。
「ふふふ、ここは間をとって私が最初に行こう」
おお! ラズ様が一歩を踏み出す!!
両足がガクガクに震えてるけど、自分から一歩を踏み出すなんてかっこいいぞ!!
「ふふ、それじゃあらぴす、こっちは誰にする?」
「えっとえっと……」
あっちはらぴすちゃんのチームか。
他のメンバーはしとりさんとハーちゃん、フィーちゃん、それにうるはちゃんとペゴニアさんの5人みたいだ。
「私が行く」
ハーちゃんが一歩前に出る。
うおおおおお! いきなりの三姉妹対決に会場がどよめく。
最初の問題から激アツの展開だ。
って、あれ? カノンのチームメイトは?
「ちなみに、カノンチームは嗜……カノンが全部の問題に答えたいと駄々を捏ねたので1人で出場してます」
まじかよ。あいつ。少しは空気読めよ。この段階でもう嫌な予感しかしないぞ。
一瞬、大人気ないぞーって野次を飛ばそうと思ったけど、あいつ、まだガキだったから許されるわ……。
もう、あのチームは無視しよう。どうせ全問正解だ。私、知ってるもん!!
「っと、代表者が出揃ったみたいですね。それでは解答者の皆さんはじっくりとマネキンを観察してください。後宮グループの方達は、サポートメンバーの人が解答者の人のサポートをしてあげてくださいね」
後宮にいる女の子達は嫁ーずと比べたら遥かに不利だ。
だから楓パイセンがない頭をフルに使って考えたのがこのサポートシステムである。
このチームのサポートメンバーである私はヴィクトリア様についていく。
嫁ーずに入らずに私がこっちにきたのは何も勘だけじゃない。
あのカノポンを倒すには、同じ検証班の私がなんとかするしかないと思ったからだ。
「これじゃないわね。これも違うわ」
ヴィクトリア様はマネキンを一眼見ては、次のマネキンへと向かう。
そしてとあるマネキンが身につけた深紅のドレスの前で立ち止まった。
「間違いなくこれね。この高貴なドレス。色合いといい私にぴったりじゃないかしら?」
確かにそのドレスはヴィクトリア様に似合うと思った。
でも、正解はそれじゃない。
私はサポートメンバーとして口を挟む。
「ヴィクトリア様、甘いです」
「なんですって!?」
私は驚いたヴィクトリア様の前で片膝をつくと、遠く離れたところにある一体のマネキンに手のひらを向ける。
「お美しいヴィクトリア様に相応しいのは、やはりアレかと思います」
私が選んだマネキンの前に立ったヴィクトリア様は驚きで固まる。
「これって日本の制服ではなくて? それも妹の、カノンと同じ高校の制服だと思うのだけど……」
「はい!!」
私は握り拳を作って立ち上がると、あくあ様の代わりに熱弁する。
「ヴィクトリア様、学生であれば誰であれ、放課後デートには憧れるものです」
「ほ、放課後デート!?」
「はい! あくあ様はこれを着たヴィクトリア様、そしてカノンを入れた姉妹2人との放課後学生服デートがしたいのではないのかと、この不詳、雪……ハニーナは考えたわけです!!」
「私とカノン、2人と?」
ヴィクトリア様は理解ができないと首を傾ける。
「はい。私もチーズ牛丼が好きですが、丼文化の渦巻くここ日本において、あくあ様が学生服を着た姉妹丼プレイを見逃すとは思えません!!」
「シマイドン? 妹のカノンがハマってるゲーム、ホゲモンとかモリハンにそんな名前のモンスターが出てた様な……」
ヴィクトリア様、違います。
ホゲホゲモンスターに出てたのは口から火を吐く間の抜けた顔をしたホゲードンで、モリカワハンターに出てたのは期間限定でコラボしてた地団駄攻撃の得意なユカリドンですよ。シマイドンじゃないです。
「でも、私、その……20代後半よ?」
「だからいいんじゃないですか。あくあ様はそう言ってました」
実際にあくあ様は結さんやペゴニアさん、白龍先生や揚羽お姉ちゃんに制服を着せてお楽しみになっていたのを見た事がある。それに加えて姐さんの部屋に置いてあった制服にも使った痕跡があった。
ここから導き出される真実は一つ!
「つまり、あくあ様は学生じゃないお姉さんに学生服を着せるのが好きなんですよ!!」
名探偵、江戸っ子エミリの完璧な推察にヴィクトリア様も固まってしまう。
「お前、生まれも育ちも神奈川のお嬢様だろ。江戸っ子はどっから来たよ」
「楓パイセン、わざわざツッコミするためにこっちに来ないでくださいよ」
私は楓パイセンを追い返すと、ホゲった……失礼。固まったヴィクトリア様の代わりに制服のマネキンを選ぶ。
ふぅ……我ながら良い仕事をした。
まだ正解の発表はしてないけど、自分なりに頑張ったと思う。
私はワクワクした気持ちで正解の発表を待つ。
「えー、それでは正解を確認するために、マネキンの土台に付随された封筒の中に入っている用紙を取り出してください!」
封筒? あ、これかー。
よく見たら足元のところに封筒を入れるプレートみたいなのがついていた。
私とヴィクトリア様の2人はプレートから封筒を取り出すと、中に入っていた用紙へと視線を落とす。
【フェイク】
は? フェイク? フェイクって何!?
「えー。マネキンにはいくつかのフェイクを仕込ませてもらいました。ちゃんとマネキンの数と参加者の数を数えてた人は、フェイクのマネキンがあるのはわかりましたよね?」
「「「「「はーい!」」」」」
嘘……だろ?
このメアリー始まって以来の才女と言われたこの私が、そんな単純なトラップに引っかかるだと!?
「何が名探偵よ! ハズレ以前の問題じゃない!」
「いやいや、そういうヴィクトリア様が選んだドレスだって外れてるじゃないですか!」
実際にヴィクトリア様が選んだ深紅のドレスは、白龍先生のために選んだドレスだった。
「わ、私ぃ!?」
「先生は気がついたら地味目の服を選んじゃうから、たまにはこういう派手なドレスを着て一緒にディナーでも食べに行きましょう。って、書いてありますね」
よく言えば落ち着いてて大人びた、悪く言えば地味目な服装を選んでしまった白龍先生も正解を間違えたみたいだ。
しゃーない。白龍先生がポンコツじゃなくても、この正解はわかんないよ。
みんなヴィクトリア様のために選んだドレスだって思ってたもん。私だって本当はそうだと思ってた。
ただ、制服を見た瞬間に、ギャンブラーとしての私が、お笑い芸人としての私が顔を出してしまっただけなのである。
「ラズリー! なんで、そんなパジャマみたいな服を選んでるのよ! デートでそんなの着て行ったらドン引きよ。ドン引き!」
「だ、だって、デートなんかしたことないし!! これが一番落ち着くんだもん!! それにパジャマデートの可能性だって少しは……」
「そんな可能性あるわけないわよ!!」
「うきーっ! 自分のパジャマも畳めない小雛さんに言われたくないもん!! 私だってパジャマくらいは畳むのに!!」
「私のはちゃんと許可をもらって脱ぎ散らかしてるからいいのよ!!」
どうやら小雛パイセンのところも外しちゃったみたいだ。
それとラズ様は、小雛ゆかり、25歳、配偶者なし、子供なし、生活能力なし!! のトリプルナッシングを達成した三冠王の小雛パイセンに何を言っても無駄だから諦めろ。
むしろ畳んだ時に裏側のまま畳んでしまって、こっちが畳み直さなきゃいけない労力を考えたら、脱ぎ散らかしてくれてる方がありがたい。
小雛パイセンはあくあ様にまだ堕ちてはいないが、あくあ様が居なきゃ生きていけない体にされちゃってる時点でもう結果は見えている。胃袋までガッチリと掴まれてる時点で、早々に降参する事をおすすめしたい。
「ハーちゃん、惜しかったね」
「ん。最後の選択で間違えた」
ハーちゃんは最後の選択で間違えたみたいだな。
うさぎ耳のついたパーカーの前で項垂れる。なるほど、正統派の白ワンピとウサ耳パーカーで迷ったのか。
さすがはあのカノンの妹だ。外したとは言え、惜しいところまでいってる。
ウチの見た目だけはラスボスだけど、意外と中身がポンコツなヴィクトリア様とはものが違う。
「えー、どうやら正解は1人だけのようですね。はい」
勝ち誇った表情のカノンがマネキンの隣に立っていた。
くっ、やはり嗜みが強すぎる!!
あいつ、少しは手を抜けば良いのに、あくあ様の事になると容赦がない。
これだからクソヲタを通り越えた厄介ヲタは面倒臭いんだ!!
「やったー! 当たっちゃった!」
「良かったな。カノン」
審査員席にいたあくあ様の笑顔に、カノンが照れた笑みを浮かべる。
くっそ〜。後ろからこっそりとイタズラしてやろうかな。
司会の楓パイセンがカノンにマイクを向ける。
「念の為に聞くけど、どうしてわかったんだよ……」
「ふふふ。あくあの事だから、今の私じゃなくて、きっと出産が終わったらデートしようねってテーマで選んだと思うんだよね。だからマタニティみたいなゆったりしたのじゃなくて、妊娠前にデートしてた感じの服装を選びました!!」
完璧な推理である。
なるほど、これが検証班の実力か……。
同じ検証班の私と楓パイセンは唸るように驚いた。
「そういえば、ヴィクトリア様の正解の服ってどれだったんです?」
「あ、ヴィクトリア様の服、こっちにありましたよ」
どうやら他の参加者さんが、ヴィクトリア様のためにあくあ様が選んだコーディネートを見つけてくれていたみたいだ。
私とヴィクトリア様はマネキンを見つけてくれた人に感謝する。
「こ、これが……私の……」
おー。まさかのギャル服か。
お尻まで見えそうなショートパンツにおへそが見えるショート丈のトップス。どう見てもヴィクトリア様が選ばなさそうな服装だ。
「め、眩暈がしてきましたわ」
衝撃が大きかったのか、ヴィクトリア様がふらふらとした足取りで控え室に向かう。
大丈夫かな? 私はマネキンをスタッフの人が片付けている間に、控え室へとヴィクトリア様の様子を見に行く。
部屋の前に到着した私は、周りの様子を伺いつつ中の様子を確認するために聞き耳を立てる。
「あんな生足どころかお尻まで見えるショートパンツなんてダメでしょ。私のお尻が大きくて、太ももがムチムチなのがバレちゃうじゃない!! それにあのショート丈のトップス。生地が薄すぎて形がはっきりとわかっちゃうじゃないの! そんなはしたない服を私に着ろって!?」
おおう。どうやら相当お怒りのようだ。
クッションをポカポカと叩く音が聞こえてくる。
あくあ様、これは選択を間違えましたね……。
「もう! もう! そんな服を着せなくても、貴方にはもう見せたじゃない!!」
あれ? 風向きが変わりました?
私はドアに耳を密着させる。
「はー、好き。あの格好をした私に懸想してるあくあの事が好き。本当にもう可愛いんだから!!」
うおおおおおおおおおお!
私はゆっくりとドアを開くと、隙間から中に居るヴィクトリア様を観察する。
おお……! さすがはあくあ様だ。あのお堅いヴィクトリア様がここまで攻略されちゃってる。
っと、ヴィクトリア様が立ち上がったのを見た私は、少し扉から離れて今来た感じを装う。
「何? どうしたの?」
「あ、そろそろマネキンのお片付けが終わるので、その、呼びに来ました」
「そう。わかったわ。呼びに来てくれてありがとう」
ウッヒョ〜。こんな澄ました感じの人がさっきまでクッションに頭を埋めて妄想で足をジタバタさせてました! って、大声で叫びてぇ〜。
「ニヤニヤした顔をしてどうしたのよ? 貴女、せっかく正体を隠してるのに色々とバレるわよ?」
おっと、私とした事がついつい表情に出ていたみたいだ。
私は会場に戻る前に顔を整え直した。
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