表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

536/708

白銀あくあ、それぞれの悩み。

 俺たちはお蕎麦屋さんに入ると、天ぷら盛り合わせセットと人数分のざるそばを注文する。

 暑い時はやっぱりざる。そしてざるに天ぷらは定番だと思う。


「ラズリー、ちゃんとお野菜の天ぷらも食べなきゃダメですよ」

「えー」


 野菜嫌いなラズリーが嫌そうな顔をする。

 仕方ないなあ。


「ほら、ラズリー。にいちゃんの海老天をやるから。その代わりラズリーの分の野菜天と交換な」

「やったー! あくあお兄様、大好き!!」


 嫌いなものは無理やり食べさせない。それが俺の流儀だ。

 子供と大人じゃ味覚が全然違ってくるし、子供の時に嫌いだったものが大人になって食べてみると意外とすごく美味しかったりする。

 だから、苦手意識を植え付けさせないためにも、苦手なものを無理やり食べさせるのは完全な悪手だ。


「むぅ……。兄様はラズリーに甘すぎます」

「はは、ごめんごめん。らぴすは好き嫌いがなくてえらいな」


 俺はらぴすの頭を優しく撫でる。

 機嫌を直したらぴすは地元で取れたインゲンの天ぷらへと箸を伸ばす。

 おっ、なかなかいいところから行くな。俺もインゲンの天ぷらは好きだぞ。


「ん、兄様、これ、すごく美味しいです」

「じゃあ、俺も」


 俺はインゲンの天ぷらを箸で摘むと、蕎麦つゆに一瞬だけ漬けてから口の中に運ぶ。

 うん。天ぷらの薄い衣のジュワッ、サクッの軽い食感の先にある、瑞々しいインゲンのさっぱりとした味と程よい歯応えがたまらなくいい!

 俺は続いてカボチャの天ぷらへと手を伸ばす。

 さっきとは全く違うホクホクの食感とカボチャのねっとりとした甘さに俺は舌鼓を打つ。


「らぴす、こっちもおいしいぞ」

「本当です。私、さつまいも天とかカボチャ天みたいな甘い天ぷらが好きです!」


 俺はもう一つのカボチャの天ぷらを摘むと、そのまま蕎麦つゆに漬け込む。

 鰹節をベースに作られた濃いめの蕎麦つゆに、甘いカボチャが合わないわけがない。

 2個目はしっかりと蕎麦つゆを染み込ませて食べるのが白銀あくあ流だ。


「お蕎麦、美味しいわねぇ」

「うん。あまり食欲がなかったが、これならいくらでも食べられそうだ」

「夏にざるそばとかざるうどんは鉄板よねぇ」


 母さん達がそばを食べているのを見て、俺もそばに箸を伸ばす。

 おお……。お蕎麦の芳醇な香りに加えて、安曇野で採れたわさびがツンと効いている。

 なるほど、これが信州そばか。

 普段、長野がルーツの更科蕎麦ばかり食べてるが、食感やコシはもちろんのこと、風味や喉越しも違う。

 蕎麦つゆも更科は淡い味付けだが、信州は濃いめの味付けだ。


「美味しかったですね。兄様」

「ああ、そうだな」


 俺達は大満足でお蕎麦屋さんを後にする。

 これはお土産で蕎麦を買って帰って、ヴィクトリア様や揚羽さん、ナタリアさんやくくりちゃん達にも食べさせてあげよう。他国から来ている後宮のみんなも、お蕎麦が好きになってくれると嬉しいな。


「それじゃあ、また後でな!」


 5人はホテルに帰って一旦ゆっくりすると言ってたから、俺は別行動する。

 せっかく長野に来たのだからフルーツか、甘い物が食べたいけど、このお蕎麦やさんの側には、そういった飲食店はなさそうだ。

 俺は偶然通りかかったタクシーを拾う。


「あ、あくあくあくあ様!?」

「すみません。どっか、甘いもの食べられるとこありませんか?」

「あります!! どうぞ、乗ってください!!」


 ふぅ。流石にちょっと暑かったな。でも、タクシーの中は冷房が効いていて快適だ。


「ありがとうございます助かりました」

「いえいえ。もしかして今日はプライベートですか?」

「はい。家族旅行で来てます」

「家族旅行!? 軽井沢じゃなくて?」

「ああ、はい。こっちの方がみんなでゆったりできそうな感じがしたので」

「正解ですね。最近、軽井沢は人気が再燃してますから、結構混んでますよ」


 あー、やっぱりそうなんだ。

 相談に乗ってくれた旅行代理店の人からも、候補にあげていた軽井沢とか熱海とか箱根とかの避暑地の人気が再燃しつつあるっていう話を聞いた。


「甘いもの、どういうのがいいですか? 和菓子とか洋菓子とか」

「せっかくだから、フルーツが堪能できそうなのがいいです。桃とかりんごとか梨とか葡萄とか、藤のデパ地下でよく買ってるんですけど、すごく美味しいですよね」

「ありがとうございます! それならパフェとかどうですか? ほら、最近はフルーツがゴロゴロ乗ってるパフェとかすごく人気じゃないですか」


 想像しただけで唾液が出てくる。

 そういえばりんちゃん達が甘いものを食べに行くって言ってたし、もしかしたら合流できるかもしれないな。


「運転手さん、それ、アリです! パフェにしましょう!!」

「じゃあ、美味しいパフェが食べられるカフェに直行しますね!」

「ありがとうございます」


 移動の最中、俺はタクシーの運転手さんから地元のいろいろな話を聞く。

 こういう時間がまた旅行を感じさせてくれる。


「運転手さんありがとう」

「こちらこそ、ありがとうございました」


 俺はタクシーから降りるとお店の中に入る。

 このカフェを選んだポイントは農園が併設されているところだ。


「あ、あくあ様」

「りんちゃん達もここに来てたのか」


 俺はみんなと同席する。


「みんな何食べてるの?」

「拙者はフルーツパンケーキで候。やはりパンケーキこそが至高」


 りんちゃんは本当にパンケーキが好きだなあ。

 フルーツ全盛りというのも贅沢でいい。


「私、丸ごと桃パフェ。甘くて美味しい」


 るーな先輩は桃のパフェか。

 俺もそれにしようかな。


「私は葡萄ゼリーです。ちゃんと生のブドウが入ってて美味しいですよ」


 りのんさんは葡萄ゼリーと。

 こっちはさっぱりしてて美味しそうだ。


「プリンアラモードです。やっぱりオーバーヒートにはプリンですね」


 みことちゃんはフルーツたくさん盛りのプリンアラモードか……。

 何がオーバーヒートしてるのか俺にはよくわからないけど、それくらい美味しいって事なんだろう。


「あくあ様はどうします?」

「うーん、そうだなぁ」


 丸ごと桃パフェも悪くないが、どれも美味しそうだ。

 俺は悩んだ末に、ただのフルーツ盛り合わせをお願いした。


「これはうまい!」


 さっぱりとした中にちゃんとした甘さのあるりんご、しゃくしゃくしてて瑞々しい甘さのある梨、ジューシーで果汁たっぷりな桃、そして長野といえば品種にもなってる美味しいブドウだ。

 豊島議員が出張先でフルーツ盛り合わせを連打する理由もわかる。


「みんな、メイドの仕事はどう?」


 俺はさりげなくみんなの近況を探って、仕事への不満を探る。

 実際にメイド達を管理しているのはカノンやペゴニアさんだが、雇用主でもある俺が我関せずではダメだ。


「拙者はだいぶ慣れたで候。ただクラシックなメイド服のロングスカートは隠せる場所が多い代わりに機動力が気になるでござる」


 りんちゃんは、ロングスカートの内側に一体、何を隠してるんだろう。

 それにメイド服って機動力が必要なの? やっぱりそれくらい忙しなく動いているという事なのかな?


「機動力、機動力……あっ! りんちゃん。ミニスカメイド服とかどう?」


 夏だし、暑いし、そっちの方が涼しくて動きやすいと思う。

 決して、俺がミニスカエロメイド服を見たいわけじゃないぞ!! と心の中でジト目になっているカノンに言い訳する。


「それは助かるで候」

「じゃあ、ペゴニアさんに言っておくね」


 俺はみことちゃんやるーな先輩にも、ミニスカの方を着ていいからねと言っておく。

 よし、これで合法的にみんなもミニスカメイド服も堪能できるぞ!!


「るーな先輩はどう?」

「お昼寝タイムがある職場、最高」


 そういえばるーな先輩のシフト表だけお昼寝タイムがあるんだっけ。

 一度、俺の抱き枕を抱いてお昼寝してる時のるーな先輩を見た事がある。


「そっか。じゃあ、今度一緒にお昼寝しようか」

「……うん!」


 るーな先輩は俺の耳元に顔を近づけると、「寝てる時にイタズラしてもいいよ」と囁いた。

 むしろ俺の方がご褒美をもらっちゃってもいいんですか?


「りのんさんはどう?」

「あくあ様やえみり様、それに楓さんの行動がいつも予測不可能なので、警備担当として日々やりがいを感じてます」


 本当にすまねぇ! 俺は秒で土下座した。

 まさかこんな身近に俺の被害者が居ただなんて。

 賑やかし要員の小雛先輩じゃなくて、りのんさんこそ被害者の会に出るべきだった。


「謝らないでください。やりがいを感じてるのは本当ですから」


 りのんさんが警備担当で本当に良かった。

 俺は後でペゴニアさんとカノンに、警備の人たちのボーナス増やしておいてとお願いしておこう。


「みことちゃんはどう?」

「えっと……私の電気代、高くないですか?」


 電気代? ああ、そういえば前にペゴニアさんから急に家の電気料金が上がったって話を聞いた事がある。

 最近、ニュースで電力の使用状況が圧迫してるって言ってたし、きっと、それに合わせて値上がりしたんだろう。別にみことちゃんが気にする事じゃない。


「みことちゃん、電気なら気にせずに好きなだけ使っていいから」

「ありがとうございます!!」


 なんなら、俺とかカノンとかもパソコンでゲームいっぱいしてたくさん電気使ってるしな。

 みことちゃんも気にせずに電気をいっぱいを使って欲しい。


「それじゃあ、みんな。また後で」


 りんちゃん、るーな先輩、りのんさん、みことちゃんと別れた俺は、ホテルに帰る前に街中を少しぶらつく。

 俺の存在に気がついた人たちが、チラチラとこっちを見てくるが、みんな俺に気を遣ってくれているのか、話しかけてきたりとか、勝手に写真を撮ったりとかはしてこなかった。みんな、本当にありがとうな。


「あくあくーん!」


 背後から聞き覚えのある声と共に、誰かが勢いよく俺にぶつかってくる。


「ココナ? どうしたの?」

「今、リサちゃんとうるはちゃんの3人でお買い物してて、偶然、あくあ君の後ろ姿を見つけちゃったから」


 あっ、本当だ。

 ココナが来た方向へと視線を向けると、浴衣姿のリサとうるはの2人が笑顔でこっちを見ていた。


「3人とも、何買ってるの? いいお土産あった?」

「うん。クラスのみんなにお菓子でも渡そうかなって話してたんだよね」

「そっか。そういう事なら俺がお金を払うから、俺の分も一緒にしておいて欲しい」

「OK!」


 俺はお土産屋さんの中に入ると、Tシャツのコーナーへと吸い込まれていく。

 おっ、ボッチ山Tシャツあるじゃん! 小雛先輩へのお土産はこれでいいな。

 ついでに俺の分も買おうっと!!


「お土産コーナーのこういう謎のダサTシャツって誰が買うんだろうね」

「うーん、旅の勢いとかで買っちゃう人もいるんじゃないかな?」

「にしても安くないですし……。買ってる人を見た事がないから謎ですわ」


 嘘……だろ?

 俺は3人のやり取りに絶望する。

 隠れてコソコソとTシャツの写真を撮った俺は小雛先輩に画像を送信した。



 白銀あくあ

 先輩、これダサいですか?


 小雛ゆかり

 普通に可愛くていいじゃない!

 これがダサいとか目が腐ってるんじゃないの!

 あんたもしかしてセンス悪くなったんじゃない?



 俺は小雛先輩からのメッセージを見て、ホッと胸を撫で下ろす。

 だよな! 俺も普通にこの筆で書かれたボッチ山の絵がいいとおもったんだよ!!


「これ、お土産でお願いします!」


 店員さんは微妙な顔をしつつも会計をしてくれた。

 何度も本当にそれを買うんですか? 2枚も? と確認されたが、きっと売れすぎて在庫がなかったんだろう。

 うん、きっとそうに違いない!!

 3人に隠れてこっそりと買い物を済ませた俺は浴衣姿のココナに近づく。


「ココナ。体調はどう? あんまり無理しちゃダメだよ」

「大丈夫大丈夫。でも、心配してくれてありがとう!」


 ココナは俺の体にぎゅーっと抱きつく。

 ストレートに甘えてくれるココナは俺の周りに居る子達の中でも一番の甘え上手かもしれない。

 みんなどこか遠慮があったりとか、自制してたりするけど、俺としてはココナくらい遠慮なく甘えてくれる方がわかりやすくてありがたいと思ってる。


「そっか。それならいいんだけど、あんまり無茶するなよ。旅はまだ始まったばかりだからな」

「うん!」


 俺はココナの頭を優しく撫でると、真剣な顔でお土産を選んでいるうるはに近づく。


「あっ、あくあ君」


 改めて見るとヤベェな。

 JK姿のうるはもかなりのものだが、浴衣姿のうるはと並んでると人妻と不倫旅行に来ているように見える。

 この色気でJKなら、大人になった時はどうなってしまうんだ……。


「どうしたの?」

「うるはの浴衣姿が綺麗で見惚れてた」

「あ、ありがとう」


 俺から視線をそらしたうるはが頬をピンク色に染める.


「ね。あくあ君は浴衣とか着ないの?」

「うるはが着て欲しいなら着るよ」

「やった! じゃあ、後で着てみんなに見せてあげてね」

「ああ」


 うるははココナと対照的で一番大外からみんなを見てるタイプだ。

 俺の嫁の中じゃ結とタイプが一番近い気がする。

 こういう子は、こっちから近づいてもっとこっちだよって言ってあげないとダメだ。

 幸いにもうるはの事を俺以上に見てるココナやリサが彼女のそばに居るのは、俺としてもすごく心強いものがある。

 俺はうるはから離れると、次はリサに近づく。


「リサ、疲れてない?」

「大丈夫ですわ。あくあ様の方こそ、せっかくのバケーションなのだから、もっとゆっくりしてくださいまし」


 はは、確かに。

 のんびりするつもりで来たのに、大勢の旅行が楽しすぎて誰よりもウロウロしてる気がするわ。


「そうさせてもらうよ。リサ、何か話したい事とかあったら、いつでも言ってね」

「話したい事……」


 リサは少し考え込むような素振りを見せる。

 どうやら、何か俺に話したい事があるようだ。


「リサ。今でも今じゃなくてもいいから、大丈夫。どんな話でも俺は受け止めるし、いつだってリサの味方だから」

「は、はい! それではその、私のために少しだけ時間を作ってもらえますか?」

「もちろん!」


 俺はリサと軽くハグする。

 その事にココナが気がつく。


「あっ、うるはちゃん。今だよ。今、ハグするの!」

「う、うん。わかった」


 おっふ、俺は浴衣姿の3人に全方向から抱き付かれる。


「リサちゃんも、ココナが抱きついたタイミングでちゃんとくるんだよ。こうすればあくあ君が逃げようとしてもすぐ拘束できるんだから」

「ははっ、別に拘束しなくても逃げたりなんてしないって」

「本当に? 急に居なくなっちゃったりとかしない?」

「しないしない」


 ココナは意外と心配性だな。俺は改めて1人づつにハグしていく。

 その途中でこっちを悲しげな目で見ていた店員のお姉さんたちや、お客さんたちともハグする。

 これもファンサービスだ。

 だから、3人ともそんな目でこっちを見ないでくれ!

 俺はリサ、うるは、ココナの3人と別行動をとると、ホテルに帰る前に近くの神社へと向かった。

Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


https://x.com/yuuritohoney

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ