白銀アイ、面倒くさい女の子の代表。
いいですともに呼ばれたはずが、なぜか婚約発表になってた。
自分でも何を言ってるのかわからないけど、いつだってリアルは私の想像が及ばない所へと向かって行くのだ。
私はみんなに促されてさっきまで小雛ゆかりさんが座ってた椅子に座る。うう、緊張してきたぁ〜!
「えみり、こっちに座りな」
「うん」
さっき、私と一緒に出てきた楓ちゃんやえみりちゃん達が私の後ろに用意された椅子に座っていく。
あれ? あくあ君、私の隣で立ってるけど、さっきスタッフさんが用意してくれてた椅子はどうしたの?
「あれ? 俺の椅子は? って、小雛先輩、なんで守田さんの隣に座ってるの!? それ、俺が座る予定の椅子だったんじゃね!?」
「あんたはそこで突っ立てればいいじゃない。それとも何? この私を立たせておこうってわけ?」
「まぁまぁまぁまぁ」
また子供みたいなケンカを始めようとする2人をニヤニヤした顔の守田さんが体で止めに入る。
それを見た観客席がまた笑う。
ふふっ、相変わらずだなあ。おかげでちょっとだけど緊張が解けてきた。
「白龍先生、お久しぶりです」
「あ、はい。守田さん、ご無沙汰しています」
いいですともに出るのはおよそ1年ぶりだ。
まさか自分が有名なご長寿番組に何度も出演するなんて、デビュー前には想像していなかったな。
「わたしゃあねぇ、昔っから、白龍先生のファンなんですよ」
「ありがとうございます」
私は守田先生にペコリと頭を下げる。
「みんな知ってる? 昔、先生が女子高生時代にデビューした時はすごかったんだから」
「ありましたね。そんな時代が……」
はは……。私は乾いた笑みを見せる。
観客席にいる若い子達はポカンとした顔をしてるけど、私も女子高生だった時代があるんですよ。
「わたしゃあ、あの時の先生のポスターをまだ家に貼ってますよ」
「ちょ、守田さんやだー! さっさと剥がしてくださいよ!!」
私は赤くなった顔を両手で隠す。
「あくあ君、知ってる?」
「いえ、全然知らないです」
うん、そりゃそうだろうね。
あくあ君の年齢的に、私が女子高生だった時の事なんて知るわけがないよ。
あれ? そう考えたら急にまずい気がしてきた。私とあくあ君の年齢差に今更ながらに絶望する。
もしかして、私、今更ながらになんとか罪か何かで捕まったりしない?
結婚前にタイーホされちゃったら、掲示板のいいネタだ。
「え? ポスターなら、蘭子会長の部屋にある? ちょっとスタッフ、走って借りてきて!!」
「待ってくださいよ。守田さん!!」
私は守田さんの奇行をなんとか止めようとする。
守田さん、少しは需要と供給ってものを考えてくださいよ!
「昔に撮った私のJK姿なんて見ても誰も嬉しくないでしょ!」
私の言葉を聞いて、あくあ君が無言で挙手する。
いやいや、制服姿なんてこの前……って、それはなし!
生放送中に余計な事を考えるな。私!!
「俺は見たいです」
「私も見たいです!」
えみりちゃん!?
キリッとした顔をしてるけど、絶対にいつもと同じ悪ノリでしょ!
観客席は誤魔化せても、この白龍アイコの目は誤魔化せないわよ!!
「面白そうだから、私も見たーい」
「そういう事なら私も」
「ふらんも、白龍先生が若かった時の写真見たいです〜!」
小雛さん、楓ちゃん、ふらんちゃんが続けて手を上げる。
ぐぬぅ、悪ノリしてる前2人には文句の一つも言いたくなるけど、純粋に目をキラキラさせてるふらんちゃんが可愛くて何も言えないっ……!
ごめんね、アヤナちゃん。実は私、eau de Cologneの中でもイチオシはふらんちゃんなんだよね。
いまだに小学生女児が見るようなアニメも見てるし、私は女子小学生が一番好きだ。
アレ? なんだかちょっとだけ犯罪臭がする気がしたけど、私の気のせいか……。
「あっ、持ってきた?」
守田さんは舞台袖から出てきたスタッフさんから豪華な額縁を受け取る。
え? 待って……蘭子会長、私のポスターを額縁に入れて飾ってるの? 勘弁してよ。もう……。
「ほら、どうよ。これ。若い子達は全然知らないでしょ」
守田さんは手に持った額縁を観客席のみんなに見せる。
「きゃ〜〜〜〜〜っ!」
「白龍先生、めっちゃ美人さんじゃん!」
「JK時代の先生、大人びてるぅ〜!」
「これ、男性からも相当モテたんじゃない?」
「いや、あの時代はこういう淑女っぽい大人美人JKはモテなかったんだよ」
うんうん。全然モテなかったね。
むしろ冷たい感じがして怖いって言われてたと噂に聞いたくらいだ。
会った事もないのに、3校隣の高校から接近禁止令が出たのを覚えてる。
はは……あの時は、私って一生誰ともお付き合いできないまま死ぬんだって絶望したなぁ……。
でも、それが活力になって作家として成功できたんだと思う。
結果的にあくあ君と結婚できるわけだし、そう考えると良かったのかもしれない。
「うちの藤蘭子会長や前にゲストに来てくれたメアリー様もそうだけど、大女優の睦夜星珠さんとか、若い時の白龍先生とか本当に綺麗だったんだから。どう? 白龍先生、えみりちゃんにだって負けてないでしょ?」
「守田さん、それはいくらなんでも盛りすぎ森川でしょ!!」
「盛りすぎ森川って何!?」
あ、ごめん。
最近、掲示板で話を盛ってる事を森川というのが流行り始めてるから、つい使っちゃった……。
「あくあ君、どう?」
「俺ちょっと、剣崎からカブトムシ借りてきますね。過去にタイムスリップして過去のアイも口説いてきます」
「「「「「きゃ〜〜〜〜〜っ!」」」」」
もーっ! あくあ君ってば何言ってるの!?
私は隣で立っているあくあ君が着ているシャツの裾を引っ張る。
「皆さんわかってないから私、守田が今の状況を解説しましょう。白龍先生が見えないところであくあ君の着ているシャツの裾を引っ張ってます」
「「「「「うぎゃ〜〜〜〜〜っ!」」」」」
守田さん、バラさないでくださいよ!!
恥ずかしすぎて私はみんなから顔を逸らす。
「そういえば、話変わるけど、なんで別居してたの?」
「仕事に集中したかったから。あくあ君と24時間ずっと一緒にいたら、執筆に集中できなさそうな気がしたんです」
白銀キングダムは広いし人がいっぱいいるからいいけど、あくあ君とマンションくらいの広さで一緒に暮らしてたら、確実に執筆に集中できなかったと思う。
むしろカノンさんとか、初期の頃、いくらペゴニアさんがいるとはいえ、よく24時間あくあ君と2人きりで入れたよね……。
「その結果が植村賞と柳川賞のW受賞ですか。先生、改めておめでとうございます」
「あ、ありがとうございます」
私は守田さんからお花を受け取る。
ん? これ、なんか紙がついてるけど……。
「小雛ゆかりさんへ?」
「ちょっと! それ、私に送ってきたお花じゃないの!! 勝手に流用するな!」
守田さんはバレちゃったかと笑みを浮かべる。
ふふっ、守田さんってば、こういうちょっとした悪戯が昔から好きですよね。
「で、結婚式はいつするの? 場所とか決まってる?」
「そこら辺は、中継してくれる藤テレビさんとか、うちの編集兼マネージャーに任せてます」
普通、そういうのも自分達で決めるんだろうけど、私としては結婚式ができるなら日程や場所にこれといったこだわりはない。なんなら結婚式の内容まで全てお任せしている。
昔なら夏に海の見える教会でマーメイドラインのウェディングドレスで、とか夢見てたと思うけど、これが歳をとったという事なのだろう。
それに加えて、あくあ君とみんなの幸せな結婚式を客観的に見た事で、自分自身が満足しちゃったのもあるのかもしれない。
「あくあ君はそれでいいの?」
「いや、俺は結構関わってますよ」
「えっ!?」
それ、初めて知ったんだけど……。
「まーた、なんか企んでたりしない?」
「いやー、どうでしょう」
あっ……あくあ君のこの顔は、何かしちゃってる顔だ。
何度もこの顔のあくあ君にやられちゃってる私達がわからないわけがない。
観客席のみんなも私と同じような反応を見せる。
「アイって今は達観しちゃってる感じになってるけど、後で絶対こうしておけば良かったーって後悔するタイプだと思うんだよね。だから、その分、俺がアイの満足できるような結婚式をプロデュースしておこうと思います!」
ああ……言われてみるとそうかもしれない。
私って、ふとした瞬間に余裕ができて大人ぶって達観した感じになっちゃうけど、後で絶対に後悔しちゃうんだよね。
そう考えると、あくあ君って私以上に私の事がわかってない?
「はいはい。惚気乙。もぐもぐ」
「小雛先輩……俺、そこに置いてあるお菓子食べてる人、初めて見ましたよ」
「私も長いこと司会やってるけど、生放送でお菓子食べてるゲストなんて初めて見たよ」
「仕方ないじゃない。お腹空いたんだから。こっちは朝7時から待機してて、朝ごはんも食べてないのよ」
相変わらずフリーダムだなぁ。
観客席からも笑い声が起きる。
「おっと、どうやらここで藤テレビから告知があるようです」
守田さんは目の前で座っているアシスタントディレクターさんが手に持ってるカンペに視線を向ける。
「えーと……白銀あくあさんと白龍アイコ先生の結婚式は、私、守田の司会でクリスマスの日に全国生中継でやるそうです」
えぇっ!? よりにもよってクリスマス!?
そんなロマンチックな日に私なんかが結婚式をやっていいんですか!?
神様から怒られちゃったりしない?
それにクリスマスって、BERYLのクリスマスライブとかイベントがある気がするんだけど、私のせいで中止になったりしないよね? 下手したら、殺害予告とか来るんじゃないかな……。
「これ、BERYLのライブとか大丈夫なの?」
「大丈夫です。結婚式した後にライブ行きます」
嘘でしょ……。いくらなんでも超人が過ぎるでしょ。
「あくあ君大丈夫? 無理してない?」
「大丈夫大丈夫。そのために今、仕事セーブして体力温存してますから」
本当かなあ。
あくあ君が倒れちゃったりとかしたら、また日本が、いや世界が大変な事になるんだよ。
ぶっちゃけ、前にあくあ君が記憶喪失になった時に、おっぱいを放り出した女性たちが祈りを捧げながら大行進する姿はもう見たくない。まさに世紀末って感じがした。
「わかったけど、あんまり無茶しないでね」
「ああ、わかってるよ」
私とあくあ君は2人の世界で見つめ合う。
「ちょ、ちょ、2人とも、生放送中ですよ!」
「「あ……」」
守田さんのツッコミで私とあくあ君は照れたように顔を背け合う。
それを見た観客席のみんなから笑顔でヤジが飛んでくる。
「それじゃあ最後に、2人から一言、ファンのみんなにもらえるかな?」
「はい。それじゃあ俺から」
あくあ君は観客席に顔を向けると、軽く咳払いする。
その横顔にまた恋しそうになった。だって、かっこいいんだもん。
「白龍先生のファンの皆さん。安心してください。俺が必ずアイの事を幸せにします。だから安心して、俺達の事を見守っていてください」
これは、あくあ君から私のファンへの誓いの言葉だ。
知ってたけど、改めてあくあ君が私との事を真剣に考えてくれているんだとわかって嬉しくなる。
あっ……やばい。今、すごくイチャイチャしたくなっちゃった。
生放送中なのに、こんな事を考えてしまう私ってやっぱりダメな大人だよね。
「それじゃあ、私からも一言。えっと……あの、いつもアンチや評論家から夢見すぎな女の小説ばっかり書いているって言われてる白龍アイコです」
私の言葉に観客席にいるファン達や守田さんが噴き出す。
「今まで、っていうか、今でもふわふわした感じの人生を送っていますけど、そんな私でもちゃんと幸せになる事ができました。人生って本当に何があるかわからないよね。だから、みんなも諦めないで……とは無責任に言えないけど、絶望だけはしないで欲しい。きっと、世の中はもっと良くなるはずだから」
私の言葉にスタジオに居た全員が穏やかな笑顔で大きな拍手を送ってくれた。
きっと、私の大好きな人が、この後もこの国をよくしてくれるはずだ。
私にはその姿が、未来が見えている。
「後、あくあ君、こんな私だけど、結婚してくれてありがとう」
「こちらこそ、アイ、俺と結婚してくれてありがとう」
見つめ合う私達に向かって大きな拍手が送られる。
私は改めてみんなに感謝した。
生放送が終わって舞台袖に戻った私はあくあ君に視線を向ける。
今すぐにでもイチャイチャしたい。そう思った瞬間に誰かが私の肩を叩く。
「先生。この後は雑誌のインタビューが入ってますから。行きますよ」
「へっ!? ちょ、待っ……うわあああああああ!」
編集に引きずられた私は、周りに祝福されながら藤テレビを後にした。
もーーーーーっ! なんでこの後に仕事を入れてるのよおおおおおおおお!
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