幕間、白銀カノン、雑誌のおしごと。
※本編の話が転載できないので今回は幕間の転載になります。
時期的に結婚した頃の話です。
「初めまして、今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
ある晴れた日、私とあくあはとある女性誌で特集記事を組む事になったので自宅でインタビューを受ける事になりました。ちなみに特集の内容は、カップルになったらやりたい10の事というものです。
質問の回答はあくあの方で考えてくれてるらしいけど、大丈夫なのかな……。ちょっとだけ不安になる。
いちおう事前に何が起こってもいいように、ペゴニアと一緒にイメージトレーニングしてるからきっと大丈夫よね。
「それでは早速ですがインタビューに入らせていただきたいと思います。と、その前に……お二人が着用しているルームウェア……お揃いなんですね」
インタビュワーである雑誌の編集長さんに指摘されて顔が赤くなる。うう……あ、あまり見ないでください。
私とあくあは以前、藤百貨店で購入したお揃いのアニマルルームウェアとスリッパを着用している。
今更ながらに気がついたけど、第三者にこういう事を知られるのってちょっと恥ずかしいかも……。
「はい、カップルになったらやりたい事、その1がズバリこれです。2人でお揃いのものを買う!」
あくあは自慢するように台所から取ってきたお揃いのマグカップやお茶碗やお箸などを見せて、雑誌の人達の笑顔を引き攣らせていく。
びっくりしちゃうよね。みんな私の方を見てるけど、これを購入しようって言ったの私じゃないからね。全部、あくあの方なんだから!!
「あ、愛されてるんですね」
「は……はい……」
私は消え入りそうな声で答える。
なんでこの仕事を受けたんだろうと、ほんのちょっぴり後悔した。
「それでは2つ目です。次はなんでしょうか?」
「これですね」
あくあは私の膝上に頭を乗せるようにして、ソファに横たわる。
「「「「「ふぁっ!?」」」」」
びっくりした撮影スタッフやインタビュワーさん達が、驚きの声と共に両手を広げて自らの顔を覆い隠す。
うん、そりゃそういう反応になっちゃうよね。私も初めてされた時びっくりしたもん。
そんな彼女達の様子を見てもあくあは呑気なものだ。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、大丈夫です! も、もしかして、これって、男女のモニョモニョ……」
「何か言いました?」
「いえいえ、なんでもありません。ちゃんと全部記録してますから、私達は背景だと思って、どうぞ続きを……」
わかるわかる。私も最初にこれされた時に、そう思ったもん。
でも違うんだよね。耳かきしてもらいたいなんて、あくあって結構甘えたがりなのかな?
「……これって前……んんっ、じゃないの?」
「ん? 何か言いましたか?」
「い、いえ、なんでもありません。どうぞこちらはお気になさらず……」
ちなみに私はこの耳かきが大好きだ。
だって何時もは負けっぱなしだけど、なんかこの時だけは、あくあより有利なポジションに立ってる気がするんだもん。
あ、大きな塊発見、カリカリ……ふーふー。
「みんな大丈夫? カメラマン息してる?」
「大丈夫です編集長。死んでも全部記録します! その代わり……後を頼みます!」
「約束します。貴女達の屍を乗り越えて、必ず雑誌を完成させて見せるわ! それと、骨はちゃんと拾ってあげるから安心なさい!」
私があくあの耳かきに夢中になっている間、スタッフの人達は何やらコソコソとお話ししていた。
耳掃除が終わるとあくあは起き上がってニコッと微笑む。
「それじゃあ3つ目の映画鑑賞を楽しみましょうか」
「え……映画鑑賞……」
あくあは大きなビーズクッションをテレビの前に移動させると、キッチンからジュースとちょっとしたお菓子を持ってきた。
「本当は映画館デートでもいいんですけどね。今回は自宅版って事でいきましょうか」
あくあは私と一緒にビーズクッションにもたれかかると、いつものように手を繋いで映画を見る。
2人で初めて自宅で映画鑑賞をした時の事を思い出すなぁ……。
あの時は隣のあくあが気になりすぎて、映画の内容なんて一ミリも頭の中に入ってこなかった。
「なるほどね。これが真のラブロマンス映画ですか……」
「え? アクション映画ですよこれ?」
「あ、ごめんなさい。なんでもないの。どうぞこちらの事は一切気にせず空気だと思ってください」
ある程度、映画を見たところでストップする。
「それでは、4つ目をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「はい! 4つ目は一緒にゲームをする、です!」
私達はそのまま2人で並んで家庭用ゲーム機でゴーカートをモチーフにしたレースゲームで遊ぶ。
「よしっ、トップだ!」
「もー! なんでこんなところでスリップするのよ!」
私達がプレイしているゴーカートのレースゲームは複数人でプレイできるゲームだ。
検証班のみんなやとあちゃん達が家に遊びに来た時とか、おばあちゃん達が家に来た時とか、よくこのゲームで遊んでいる。それに普段も2人だけでプレイする事よりもペゴニアを交えて3人でプレイしてたりする事の方が多い。
ちなみにペゴニアはゲームをする時は、普段掛けない眼鏡をかけるほど超真剣だ。どうやら負けるのが嫌みたい。
「おっ、ここにバナナ置いとこっと」
「ちょっと! 誰よ、ここにバナナ置いたの! もーっ!」
うう……また負けた。
画面では楓先輩みたいなホゲーっとした顔のゴリラがウッホウッホと跳び跳ねて喜んでる。
捗るやお婆ちゃんもペゴニアもよくそのキャラ使うけど、なんかムカッとするのは私だけ?
ちなみにあくあは普段、緑色の恐竜のキャラを使ってる。私はお姫様キャラで、捗るはボスキャラを使う事も多い。
「とまぁ、こんな感じです。さてと……それじゃあ5つ目と6つ目も行っちゃいましょうか」
「は、はい!」
「カノン出かけるよ」
「うん!」
軽く服を着替えた私たちは家を出て下のスーパーへと向かう。
既に取材許可をとっているし、ここは普段から使ってるスーパーだから安心して撮影できる。
「5つ目は2人で一緒にショッピングする、です! 今日は一緒に晩御飯の材料を買いたいと思います!」
あくあがカートを押して、私が寄り添うように隣を歩く。
2人で今晩の食事メニューを考えながら、食材を買い物カゴの中に放り込む。
いつもはペゴニアが買ってきてくれる事が多いけど、こうやってたまに2人でスーパーに買い物に行くの結構好きなんだよね。
「続いて6つ目です。みなさんもお腹空きましたよね?」
「え……? あ……そういえばもう夕方ですね。言われてみればお腹が空いてきたような気がします」
「じゃあ、よかったら晩御飯食べていってくださいよ。今から用意するんで」
「え、あ……そ、そそそそれって、あくあ様の手作り……わ、わかりました! 微動だにせず待ってます!!」
買い物から帰ってきた私たちは雑誌の人達をダイニングのテーブルに案内して、キッチンの方へと回る。
「カノン、悪いけどお皿の準備してくれる?」
「うん!」
「ありがとうカノン」
いつものあくあならここで軽くキスしたりするけど、流石に今日は配慮してくれているようだ。
良かったぁ〜。ここでチューされたら、絶対顔真っ赤になってたもん。
「いつもならここでカノンにチューするんですけどね。今日は我慢します」
「「「「「ふぁっ!?」」」」」
い、言っちゃうのそれ!?
チラリとテーブルの方を見ると、みなさんが私の方を見て、え? マジでそんな事してるの? って顔で見てきたので私は何も聞いてない事にしてスルーした。
「みなさん、あったかいうちにどうぞ!」
ちなみに今日作ったのは、あくあ特製のお子様ランチだ。
元々はあくあがらぴすちゃんのために考案したメニューで、私もこれが1番好きなんだよね。
だ、だって……こっちに来た時は中学生だったから、食べたくても食べられなかったんだもん。
「ミニサイズのハンバーグにうずらの卵を使った目玉焼きとか、あくあ様の料理センス可愛すぎかよ……」
「編集長! 私の好きなエビフライにポテトフライ、おまけに唐揚げまでありますよ!」
「ナポリタンうめぇ! 永久に啜れる。うまっ、うまっ」
「たこさんウィンナーはちゃんとしてるけど、ミニオムライスに突き刺さった旗の絵柄から、そこはかとなく画伯臭を感じるのは私だけだろうか」
「デザートのプチプリンアラモード美味しい……。これもうプリンからちゃんとした手作りじゃん」
「今まで生きてきて良かった……」
「「「「同意」」」」
ふふっ、みんなが美味しそうに食べてるのを見たあくあも満足そう。
ちなみにお婆ちゃんをダシにして晩御飯をたかりにくる捗るもこれが1番好きなのよね。
流石に毎日は食べられないけど、たまに出てくるから特別感があって余計に美味しく感じる。
「編集長……これでまだ6つ目ですよ……後4つも……」
「大丈夫。私ならもう覚悟はできてる。最後の晩餐も食べられたしな」
「確かに、私もこれで死んだとしても本望っす」
「大丈夫。私達の残した仕事はきっと誰かが引き継いでくれるから」
「みんな……! この決死隊に志願してくれてありがとう!」
洗い物の音で良く聞こえないけど、みなさん笑顔で何やら談笑し合ってた。
私はあくあに、みんな喜んでくれてるみたいで良かったね、と囁く。
そしたらみんなが見てないのを良い事に、軽くチューされた。
も、もう! 不意打ちはダメって言ったでしょ! ……ばか。
「お、もう夜ですね」
洗い物が終わった後、雑誌の人達と楽しく談笑していると外が真っ暗になっていた。
「それじゃあちょっと展望台の方に出ましょうか?」
寒くないようにちょっと厚手のコートを羽織った私達は屋上のテラスへと向かう。
今日は幸いにも雲ひとつない晴天日だったせいか、珍しく夜空がよく見えます。
「これが7つ目、2人で夜景を見るです。今回はちょっと裏技的なやり方だけど、もっと遠出したり、遊園地の観覧車から見るのが良いと思いますよ」
「な、なるほど……いやぁ、参考になります」
一通り屋上で写真を撮った後は、また自分達の部屋へと戻る。
「それじゃあ最後に8、9、10全部行きましょうか。カノン、悪いけどお風呂に入ってきてくれる?」
「うん、わかった……」
みんながポカーンと口を開けて楓先輩みたいなホゲった顔をする。
わかるよ。みんな、今から何が始まるんだろうって思ってるんだよね。
私はペゴニアに手伝ってもらって、さっとお風呂に入るとあくあたちの待っているリビングへと戻る。
「8つ目は、恋人の髪を乾かしてあげる、です!」
「ほげ〜」
うん、もうホゲーしか言えなくなるよね。
私がみんなの前で同じ事された時も、みんなそんな顔してたし、あのお婆ちゃんですらホゲーって声を出してたもん。
「髪を乾かした後はちゃんとブラッシングもしないとね」
「あ、あくあくあくあ様は、いつもこんな事を……?」
「はい。自宅では妹のらぴすにもやるんですけど、俺、結構こういうの好きなんですよね」
「ほ、ほげ〜。参考になります……。いや、参考になるのかこれ……」
「ん? 何か言いましたか?」
「い、いえいえ、なんでもないです。あはははは……」
わかるよ。絶対に参考になんかならないよね。
最近、男の子も変わってきてるけど、こんなの絶対にあくあしかしないでしょ。
この前、遊びに来てくれた小雛ゆかりさんも、あんたの旦那がおかしいだけだから。こいつの頭のネジが飛んでるだけだからと言ってた。
「ではこの流れで9つ目に入りたいと思います」
あくあはソファに座った私の前に跪くと、いつものように優しい手つきで生足に触れる。
んっ……私は口元を手で押さえて声を我慢する。ダメ……今は取材中なんだから我慢しなきゃ。
「恋人をマッサージする、です」
「「「「「マッ、マッサージ!?」」」」」
前のめりになった雑誌の人達が、瞬き一つせずにこちらをじっくりと観察する。
そ、そんなに見ちゃだめ……。恥ずかしいって、あくあも……! もういいでしょ!
「編集長……これ、掲載しても大丈夫なんですか?」
「ええ、責任は私が全部取るわ。例えこの首が飛んだとしても、私にはこの記事を皆様に届ける義務がある。そう……この出版社に勤めて15年、これが最後の仕事だったとしても自分の中で悔いはないわ。いい? これが本当の報道、メディアが本来やらなければいけない誇るべき仕事よ」
「編集長……! どこまでもお供します!」
「私も、最後まで編集長と共に!」
「編集長の仕事、最後までちゃんとお側で見届けさせてください」
「へへ、水臭い事なんてなしですよ編集長。貴方についてきて私も10年、首が飛ぶ時は一緒です」
「貴女達……みんな、本当にありがとう!」
ちょ、ちょっと、なんかそこ団結してない?
全然余裕ないから何が起こってるのかわからないし、さっきからあくあは一心不乱に私の体をマッサージしてるし、ちょっとぉ! ペゴニアも笑ってないで助けてよ!!
「とまぁ、こんな感じです」
た、助かった……。何とか耐えられた……よね?
変な写真とか撮られてない……よね?
あれ? ペゴニア……なんで私から顔を背けるの? ねぇってばねぇ、何か言ってよ!!
「そして最後にこれです。カノン」
「え……んっ」
私の唇に何かがそっと触れる。
声にならない悲鳴が近くから聞こえてきた気がした。
「やっぱり最後は、これです」
な、な、な……。
「何やってんのよ。あくあのおばか!! ばかばか! もーっ!」
私はあくあの胸板をぽかぽかと叩く。
その後ろで誰かが倒れた音が聞こえた。
「へっ、編集長ーっ!」
「し、死んでるぅっ!?」
「メディーック!」
「編集長、あんたの仕事、最後まで見届けさせてもらったよ。ありがとう。後は私達に任せてゆっくり休んでね」
「副編集長、冗談言ってる場合じゃないですって!!」
「う……みんなありがとう。わ、私の人生、最後まで幸せだった……わ」
「編集長ー!」
「うっ、うっ……」
「いやいや、心臓の鼓動聞こえてるし普通に生きてるからね。ただ気絶しただけなのに、みんなノリ良すぎでしょ」
ちょっと、本当に大丈夫?
念の為にチラリとそちらの方に顔を向けると、編集長が幸せそうな顔で仰向けに倒れていた。
うん、大丈夫そうね。私は改めてあくあの方を涙目でキッと睨みつける。
「ごめんってカノン。でもさ……嘘はつけないだろ?」
う……かっこいい顔に誤魔化されそうになる。
って、それ夕迅様のセリフじゃん! それでカッコつけて誤魔化そうたってそうはいかないんだからぁ!!
「この雑誌、本当に世に出せるのでしょうか……」
遠くでペゴニアがため息を吐く。
結局、後日この雑誌はちゃんと発売されて、掲示板が嗜み死ねだけで埋まってしまう事になる。
ううう……もう、なんでそうなるのよ! 私は悪くないもん!
っていうか、捗るが1人で100回くらい連投してるじゃない! 只の荒らしじゃんアイツ!!
私はその夜、いつもの如く夕食をたかりにきた捗るにだけ、ハンバーグのお肉をわざわざ1人だけ牛じゃなくて豚にしたり、ポテトの本数を少なくしたり、なぜか捗るの唐揚げだけ皮が剥がれてたり、地味な仕返しをしてやった。
「嗜み……実は最近、飯が美味しくてな。地味に体重が増えてたんだよ。まさかそんな私のために手間暇かけてヘルシーにしてくれるなんて、お前って本当は優しい奴だったんだな。ありがとよ!」
もーっ! なんで、そーなるのよ!
Twitterアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。
https://x.com/yuuritohoney