白銀あくあ、被害者の会。
最初は俺がチヤホヤされるだけのイベントだと聞いていたのに、いつの間にか白銀あくあ被害者の会というイベントに変わっていた。
自分でも何を言っているんだろうと思うけど、マジで意味がわからない。
「はい、そういうわけでですね。今日はたくさんの被害者エピソードを集めてきました。後ろのモニターをどうぞ!!」
「被害者エピソード!?」
俺は唖然としながら、後ろの大型モニターへと視線を向ける。
「まず、最初の被害者の方はこちら!!」
モニターに目線の入ったアヤナの顔写真が映し出される。
トップアイドルグループEのメンバー、T.Aさん……って、もう、隠す気ないでしょ!!
「えー、それではT.Aさん、よろしいでしょうか?」
「はい」
あれ? アヤナの声、なんかおかしくない?
まるで警察密着テレビに出ている容疑者みたいな声になってる。
って、今、気がついたけど、ステージの上にいつの間にか謎のブースができていた。
「えー、被害者のプライバシーを守るために、ステージの上に目隠しのある特設のブースを用意させてもらいました」
「いやいや、こんなのしなくても誰がどう考えてもアヤナでしょ!!」
俺のツッコミと楓のとぼけた顔に観客席から大きな笑い声が返ってくる。
「いやいや、何の事ですか? それよりもT.Aさん。告発をお願いします!!」
「あ、はい」
おいおいおい。俺、何かやったっけ!?
くっ! 何をやったのか全く記憶にないが、こうなったらもう腹を括るしかねぇ。
覚悟の決まった俺は、心を落ち着けてアヤナの方へと視線を向ける。
「えっと、その、前に2人で一緒にロケバスで移動した時の話なんですけど……」
「はいはい」
ロケバス? 俺、ロケバスの中でなんかしたっけ?
……だめだ。何も思い出せない。
基本、仕事モードの俺はそこまで変な事をするとは思えないけど、記憶にない時点で確証があるわけじゃないからな。
セクハラはされた側の受け取り方が全てだし、俺がラインを越えていたのなら完全にアウトだと思う。
「仕事が続いてたあくあが疲れちゃったのか、話の途中で寝ちゃって」
「ほう! それで、どうなりました!?」
ん? さっきまで擦りガラスみたいなモザイク処理がかかっていたガラス窓が、いつの間にか普通のガラス窓に戻っていた。
中に居たアヤナの真っ赤になった顔を見た観客席から大きな歓声が沸く。
「気がついたら、私の肩の上にあくあの頭が」
「「「「「うおおおおおおお!」」」」」
くっ! そんな美味しいイベントが起こってる最中に、俺はなんで寝てるんだ!!
俺が起きていたら寝ているのをいい事に、アヤナの事を抱き枕にしちゃうのに!!
「それからどうなりました!?」
興奮気味になった楓が前に乗り出す。
「私、その瞬間、息も止まっちゃって」
「「「「「わかる!」」」」」
「呼吸してもいいのかなって」
「「「「「わかりみが深い!!」」」」」
「だからその、現場に到着するまでの間、できる限り薄く呼吸するようにして何とか耐えました」
「「「「「よく頑張った!」」」」」
は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ! 良かったぁ。
なんかとんでもない事がしでかしていたのかと思ったら、それに比べたらまだリカバリー可能な範囲だ。
「審査員の皆さん、どうですか?」
「普通にセクハラじゃん」
小雛先輩は呆れた顔でギルティボタンを連打する。
「えみりは?」
「これは……美味しい思いもしてるので無罪ですね」
隣に座っていた小雛先輩が手を伸ばしてギルティボタンを押そうとする。
ちょいちょいちょい! あそこの人、不正しようとしてまぁす!!
「とあちゃん、どう?」
「あくあのする事なんて全部ギルティでしょ」
とあの言葉にみんなが噴き出す。
そこ! 小雛先輩は何度も頷きすぎでしょ!!
くっそー、この人、絶対に今の状況を楽しんでやがる。
「中野マネージャーは?」
「えっと……私、ちっちゃいから、そのまま抱き枕にされた事があります……」
はい、これはギルティです。
俺は真顔でこまっちゃんに近づくと、彼女の持っていたギルティボタンを自分で押した。
観客席からは俺の潔さに対して、大きな拍手と歓声が沸く。
「あんたのそういう潔いところ、いいと思うわよ」
そう思うなら小雛先輩もお腹を抱えてゲラゲラと笑うのは止めてくださいよ!
「会場の皆さんはどう思いますか?」
どうやら会場にいる観客席のみんなには、あらかじめ集計用のボタンが渡されているみたいだ。
大画面に映ったギルティカウンターが無罪カウンターを上回る。
「あくあ君、被害者が2人に増えちゃったけど、何か言う事はありませんか?」
「えー、月街アヤナさん、中野小町さん、誠に申し訳ございませんでした!!」
俺は2人に向かってぺこりと頭を下げる。
これはね。確実に俺が悪い。寝てなくて起きててやってるなら俺は悪くないけど、寝てるのは完全にアウトでしょ。
セクハラは起きているうちにお互いの同意があってやるものだ。不可抗力は言い訳にならない。
「えー、実は同じアイドルグループのJ.Mさん、K.Fさんからもこんな告発が来ています。VTRをどうぞ!」
大きなモニターの映像が切り替わると、目線のズレたまろんさんが映し出される。
その下にはテロップで、[音声変換装置が壊れてしまったので生の声をお届けします]と書いてあった。
いや、それじゃあ、全く意味ないだろ……。
『えっと、私だけじゃないと思うんだけど……挨拶される時に、いつもは目を見てしてくれるんだけど、たまに少し下を見て挨拶されます。あれってどういう意味なんですか? 最初は大きくて見苦しいと思われてるのかなって思ったけど、そうじゃないみたいだし……これって期待してもいいのかな?』
俺は小雛先輩より先に、小雛先輩の持っていたギルティボタンを押す。
小雛先輩はさらにその上から、俺の手ごとギルティボタンを連打する。
『この前、北海道で自分のお店のオープニングイベントやった時にバニー服を着て、あくあ様の膝に乗って接客したんですよ〜。その時に尻尾があるせいでちょっと収まりが悪くて、お尻を置くポジションを何度も直したんだよね。そしたら、何か固いものがふらんのお尻をぐいぐい押してきてたんだけど……んー、結局、あれって何だったのかなー? 多分、確定で携帯電話だと思うんだけど、まろん先輩に聞いたら顔を真っ赤にして教えてくれなかったんだよね』
はい、アウトー!!
俺が小雛先輩のギルティボタンを押すと、その上から小雛先輩にもボタンを連打された。
「城まろんさん! 来島ふらん様! 本当にすみませんでしたぁ!!」
俺は本気の土下座をした。
実際は携帯電話だと思うが、俺はリスク管理能力が高いのでちょっとでも可能性があるなら謝る。
「会場の皆さんは、どうですか?」
楓は観客席のファン達にマイクを向ける。
「まろんさん、いいな〜!」
「私のになら好きなだけ挨拶してくれていいよ!」
「さすがは悪夢の世代」
「やったー! ふらんちゃんが行けるなら私にもチャンスあるよね!?」
「ふーん、お兄ちゃんってばふらんちゃんも守備範囲なんだ」
「本気でわかってなさそうなふらんちゃんが意外と超ピュアで可愛い……」
え? 意外にも有罪がゼロで全員が無罪を押してくれた。
有罪のギルティボタンを押しているのが俺と小雛先輩しかいない。
「はい、それでは次の告発者の方、お願いします!!」
大型モニターに目線がズレたとあがダブルピースしている写真が映し出される。
何だろう。すごくイケナイ感じがしているように見えるのは俺だけだろうか?
「人気アイドルグループBのN.Tさん、具体的な被害の内容をお願いできますか?」
「えっと、この前、変装する時のための女装用の服を買うために、一緒にショップに行ったんだけど……」
「「「「「うぎゃああああああああ!」」」」」
観客席から悲鳴のような叫び声が聞こえてきた。
司会者の楓やえみりはもちろんのこと、何故かアヤナまで目を煌めかせて前のめりになる。
これはやばい。
「ちょ、待てよ!」
とあ、その話はまずい。
俺は両手をあげて全面降伏のポーズを見せる。
一旦、そう、一旦、落ち着こうか!
「んー、どうしようかなー?」
「言え〜、言っちゃえ〜」
俺は小煩い先輩の口を塞ぐ。
ちょっと、今、大事な話をしてるんだから静かにしてもらえますか?
「とあ、夏休みの1日をお前にやる。その日は何でも言う事を聞く! それでどうだ!?」
「仕方ないなあ。じゃあ、それで許してあげようかな?」
交渉成立だ。俺は小雛先輩を解放して、とあと男同士の固い握手を結ぶ。
「ぶーぶー!」
そこ! ちょっと煩いよ! 静かにして!!
あと、ギルティボタンを連呼するんじゃない!!
「あ、そういえばその時、クラスメイトの子達にどれが似合うか服を選んでたけど、あれってどうなったの?」
「もちろん買ってプレゼントした!! もちろん杉田先生にもな!!」
みんな、俺がプレゼントした上半身の一部分が強調されるような服や、丈が短すぎる服をちゃんと着てくれているかな?
杉田先生はクローゼットの中にしまっていたけど、ちゃんと試着した形跡があって俺としては大変嬉しかったです。
「あの時、何故か慎太郎にも女装用の服を買ってたよね」
「おう! プレゼントしたら、めちゃくちゃ戸惑ってたけど喜んでくれたぞ!!」
俺だって野暮じゃない。
慎太郎が喜ぶような淡島さんによく似合う服を選んだつもりだ。
「というわけで、そこは和解って事でいいんですか?」
「「はい!」」
ふぅ……。何とか窮地を乗り切った俺は額の汗を腕で拭う。
試着室でのアレが世間にバレるわけにはいかないからな。
「それでは他のメンバーからのVTRを見てみましょうか」
まだ、なんかあるのか!?
大型モニターに目線の代わりにサングラスを装着した慎太郎の姿が映し出される。
『この前、あくあからプレゼントを貰ったんだが、紙袋の中を開けたら紐のようなものが入っていた。淡島さんがそれを見て顔を真っ赤にしていたが、アレは一体なんだったのだろうか?』
「ごめん、慎太郎!!」
俺はモニターに向かって頭を下げる。その紐は一応、服だったんだけど、慎太郎にはまだ早すぎたみたいだ。
モニターに表示された画像が切り替わると、次は前髪で両目を隠した天我先輩が映し出された。
ベリベリのスタッフがやってるだけあってふざけすぎだろ。
『我、何も貰ってません……』
唇を噛んだ天我先輩が拳と肩をプルプルと振るわせる。
「先輩、今度みんなでショップ行きましょう!!」
自分でも何を言ってるのか意味がわからないが、天我先輩を泣かせるくらいなら、男4人で女の子の服を買いに行く方がマシだ!!
観客席からの大きな拍手に俺は手を振って応える。
なるほどこれが勝訴、いや、無罪判決ってやつですか。
「また、グループ以外の男性からもこういうVTRが来ています」
モニターに映し出された画像が丸男に切り替わる。
『あくあさんが家に来る度に怪しげな本を置いていきます。あれって捨てていいんですか?』
オマエスゲエヨ……。
男なら、使う以外の選択肢なんてないだろ!?
モニターに俺が購入した本の数々が映し出される。
これはうまく誤魔化さないとな。俺は柔らかで優しげな笑みを浮かべると、カメラの方へと振り向く。
「丸男、いいか? よく聞け! 俺たちアイドルは女性の事を深く知るためにも、そういう本を読んでちゃんと勉強するべきなんだ」
「そんな事言って、ただ単にあんたが読みたいだけでしょ」
そこ! 誰とは言わないけど煩いよ!!
「コホンコホン! いいか。丸男、何事も勉強だ!! 擦り切れるくらい読み込んだっていいんだぞ!! きっといつかはそれが役に立つ時がくる!」
「まーた、いい加減な事をそれっぽく言ってる。山田君、こいつの雰囲気に騙されないでね。これが白銀あくあのやり方なんだから」
だから、煩いって!!
俺は小雛先輩の口を両手で塞ぐ。
「それでは丸く収まったところで、次の被害者の方どうぞー」
まだ、いるのか……。
後ろのモニターに目線の入ってないカノンが映しだされる。
「はい、次の被害者は白銀カノンさんです!」
『ちょっとぉ! なんで私だけ目線もないし、名前までオープンになってるんですか!? 被害者のプライバシーは!? しかもよく見たら写真に写ってる私もちょっとバカっぽいし。これじゃあ、アホの子じゃん!!』
観客席からは大きな笑い声が起こる。
こーれ、完全にえみりのせいです。
完全な勘だけど、100%当たってる気がした。
「はいはい、で、何の被害?」
『あれ? 楓先輩もえみり先輩もなんか私の時だけ、すごくいい加減じゃないですか?』
「気のせい気のせい」
「考えすぎだって」
椅子に座った楓やえみりが休憩時間並にだらけた姿を見せる。
よく見たら観客席にいる人たちもバイトの休憩時間並みにスマホをいじり出していた。
みんな〜! もうちょっとだけでいいから、俺のカノンに優しくしてあげて!
『実はこの前、あくあと少しだけ外に出かけたんだけど……』
「はい、惚気乙〜」
「はいはい。よかったね」
『もー!! 2人とも、ちゃんと最後まで話聞いてよ!!』
プンスカしているカノンが可愛くて、俺も観客席にいるファン達もほっこりした気持ちになる。
やっぱカノンなんだよな。どうせ被害の暴露も可愛いものなんだろうなと、安心して見ていられる。
「ほら、機嫌なおせって」
『じゃあ、最後までちゃんと聞いてくださいよ!』
「はいはい。ちゃんと聞いてるから」
『本当に?』
「ほんとほんと」
そう言ってえみりは携帯を弄りながら適当な相槌を打つ。
『ちょっと! 今、配信見たら、普通にスマホしてるじゃないですか!』
「やべっ! ばれた!」
『もーーーーーーーーーーっ!』
なんだろう。カノンとえみりのやり取りって、いつまで見てても味がするガムを噛み続けてる気分になる。
一連の安定したやり取りを終えたえみりは、わざとらしく弄っていたスマホを台の上に置く。
「今度こそちゃんと聞くから」
『次はないからね』
「はいはい」
『じゃあ、続けるけど……コホン。その時にあくあがすごく私の事を気遣ってくれて、あ、妊娠してなくても普段から車道側とか歩いてくれたりとか優しいんだけど〜』
えみりー! スマホ見ないでぇー!
カノンの話をちゃんと聞いたげて!!
『って、えみり先輩。聞いてます?』
「聞いてるけど、その話ちゃんとヲチある?」
『えっと、家に帰る前に公園で少しだけ休憩したんだけど、誰も見てないところでキスしてくれたんだよね』
えみりがノータイムでギルティボタンを押す。
「これはカノンがギルティです」
キリッとした顔をしたえみりの言葉に、観客席にいるファン達もうんうんと何度も頷く。
『そうじゃないの! えっとね……。キスしてハグされたら、その、私もそういう気になっちゃって。でも妊娠してるし……って、やっぱなし!』
「これはあくあ様が悪いですね。そういう気分にさせちゃったんだから。これは有罪です」
なるほど……。そうだよな。俺がそうであるように、女の子だってそういう気持ちになっちゃう事があるって事だ。
「これはね。俺が悪いです。ごめんね、カノン」
『ううん。大丈夫。私こそ、ごめんね』
カノン、子供が生まれたら、またいっぱいイチャイチャしような。
俺は目でそういう合図を送る。
「それじゃあ、無事に和解って事で、ここでまたVTRです」
大きなモニターに見覚えのあるフューリア様が映し出される。
『は? 私の国はまだ国歌がうどんの歌なんですよ! それに伝統のある国旗がだし色に染められるし!! これが被害じゃなくて、何が被害だというんですか!』
「本当にごめんなさい!!」
モニターの画像が切り替わるとヴィクトリア様とその後ろに控えているナタリアさんが映し出される。
『被害? 後宮に入って好きでもない男の慰み者になる敗戦国の元王女が被害者でなくて、なんだというのかしら?』
「いやいや、言い方ぁ!」
むしろいつもヴィクトリア様の方がノリノリじゃないですか!!
それどころか、ナタリアさんと2人で……やべっ、俺は頭の中に大怪獣ゆかりゴンを想像して、昂りそうになった気持ちを何とか鎮めた。
『あ、許す代わりに、後宮に遊びに来てくださいね』
「行きまぁす!」
一応、小雛先輩に言われて食事会はしたし、そろそろちゃんとした交流会はやるつもりだったから、ちょうどいい機会だ。
そう考えるとヴィクトリア様は、あえてそういう事にして、俺が交流会をしやすいようにしてくれたんだろうな。
よくは知らないが、前世の先輩達が言ってた良い女っていうのはこういう人の事をいうんだろう。
「はい。それでは次の方、よろしくお願いします」
大型モニターにニマニマした顔の小雛先輩が映し出される。
さすがは大女優小雛ゆかりだ。顔を隠すどころかモロ出しである。
「ねぇ、聞いてよ。こいつったら、50回電話しても出ないのよ!」
「いやいや、50回電話する方がおかしいでしょ!」
俺の言葉に観客席のファン達も頷いてくれる。
「ちょっと! なんでみんな私の時だけこいつの味方なのよ!!」
「それは日頃の行いの違いって奴ですよ。そもそもさっきだって、3度の飯よりって言ってたけど、小雛先輩の3度の飯作ってるのは俺なんですけど!」
壇上者はもちろんのこと、観客席にいるファン達も無言でギルティボタンを連発する。
「はあ!? なんで、私が加害者になってるのよ!」
「スタッフさんきてー! 今からこの看板に書かれてる白銀あくあって文字を小雛ゆかりに変えてくれませんかー?」
俺と小雛先輩が小学生の喧嘩のように戯れ合う。
そこに楓が仲裁に入ってきた。
「まぁまぁ、小雛ゆかりさんの被害者の会については、今度ちゃんとやりますから」
「やったー!」
「ちょっと! なんでなのよ!!」
小雛先輩、これが因果応報ってやつですよ。
「えっと……鬼塚アナからの強い希望で、森川楓、被害者の会もやります」
こまっちゃんの言葉に会場中が噴き出す。
「えぇ!?」
「ばーかばーか!」
大きく口を開いた楓の後ろで小雛先輩が大人気ない煽り方をする。
小雛先輩の事は役者としては尊敬してるけど、俺はこんな大人にならないでおこうと心に決めた。
「最後にこまっちゃん、俺になんかある?」
「えーと、それにはVTRがあるので、そちらをどうぞ」
VTR? 俺は大画面のモニターに視線を向ける。
『おうどんの製麺所です。あくあ様には感謝してますけど、稼働率がすごくて一時期死にそうでした』
『森長の工場に勤務してます。あくあ様には感謝してるけど、一時期はもうビスケットを見たくなかったです』
『あくあ様が外国行くと聞いただけで省内に戦慄が走ります。え? どこで勤務してるかって? 外務省です……』
『救急隊員です。あくあ様は悪くないんだけど、救急車の出動が増えてるので、皆さん頑張って耐えてください!!』
うわああああああああああああ!
俺が起こした余波に巻き込まれた人たちのインタビュー動画が続く。
『白銀あくあのせいで、ワーカーなんとかって奴がストレス解消のために、3000年続いた我が国の共産主義党と社会第一党を裏工作で喧嘩させて共倒れさせたんです! 今、うちの国の第一党は饂飩大好党ですよ!? え? どこの国かって? 極東連邦です……』
『饂飩万歳!!』
『饂飩最高!!』
あ、インタビューを受けてた人が、うどんTシャツを着た謎の軍団にもみくちゃにされて消えていった。
ごめん。それは多分っていうか、100%俺のせいじゃない。だって、ワーカーなんとかって人、知り合いにいないもん。
「というわけで、どうです。白銀あくあさん、心当たりはありますか?」
「最後のはちょっと意味がわからなかったんですけど、あとは大体心当たりがあります……」
俺が土下座の体勢を取ろうとしたところで楓が止めに入る。
「えーと、この件に関して、あまりにも謝罪する範囲が広いために、謝罪のスペシャリストに謝罪の代行をお願いしました。どうぞー」
ああ、なんと美しいジャンピング土下座だろうか。
彼女は飛び出てくると同時にクルクルと回転して見事の着地から土下座を決めた。
「本当に申し訳ありませんでしたぁ!!」
羽生総理の見事な土下座に全員があたたかな拍手を送る。
一国の総理が土下座待ちで待機とか、やっぱアンタスゲエヨ……。
「はい、それではこれにて、白銀あくあ被害者の会のイベントを終わらせてもらいたいと思います!!」
会場の中から大きな歓声が沸く。
なんなん? ねぇ、これ、なんなん?
え? もしかして羽生総理が謝罪ノルマをこなすための企画ですか?
俺はなんともいえない終わり方にホゲった顔をしながらステージを降りた。
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