千聖クレア、奇跡のチャリティーマーケットの開幕だ!!
「チャリティーマーケット?」
「はい」
私の目の前にいるえみりさんがきょとんとした顔をする。
うちの教会では夏に必ずチャリティーマーケットを開催します。
私もその手伝いのために、白銀キングダム内にある聖あくあ教の教会から実家に帰らなければいけません。
「だから、えみりさん。私がいない時にあまり問題を起こさないで……」
「おま、そういうのはちゃんと言えよ! よーし! そのチャリティーマーケット。この私に任せておけ!」
「え?」
えみりさんの勢いが良すぎて私とした事が一瞬だけ戸惑ってしまう。
それが私に取っての唯一の失敗でした。
「じゃ、また、明日な!! ちゃんとブース開けてまっておけよ!」
「え? あ……」
行っちゃった……。
えみりさんと楓さん、それにあくあ様の3人にはブレーキがついていません。
ブレーキが壊れてるとかじゃなくて、基本設計の段階でブレーキがついてないんです。
「大丈夫かなあ」
私はすごく不安な気持ちを抱えたまま、その日はベッドに入って眠りました。
翌日。
目が覚めた私は、朝食を済ませ教会内に作った自室から出ると実家の教会へと向かう。
実家の教会に到着すると、すでに何人かの人はブルーシートを敷いたりしてチャリティーマーケットの準備をしていました。私は両親に帰ってきたよって報告をすると、用意してもらったスペースにブルーシートを敷く。
えみりさんはまだ来てないのかな? もういっそこなければ……そんな事を考えいたら、ラーメン竹子と書かれた軽トラが教会内にバックで入ってきました。
「おーい、クレア!」
「あ、えみりさん」
本当に来たんですね……。
って、よく見たら軽トラの荷台がパンパンじゃないですか!
え? 後ろにいる聖女親衛隊が運転する軽トラ2台のもそうだって?
う〜、チャリティーに協力してくれるのは嬉しいけど、そんなに商品あっても売れるかな?
「よし、じゃあ、並べていくぞ!!」
一番後ろにいたバンから、寿司詰め状態で入っていた聖女親衛隊が降りてくる。
あ、お疲れ様です……。
「ふぅ、なんとか間に合ったな」
聖女親衛隊の人達のおかげもあって、あっという間に設営が完了しました。
それにしても、これだけの商品、一体、どこから集めてきたのかな? 家に物があまりないえみりさんの私物とも思えませんし……もしや、聖あくあ教の皆さんにでも協力してもらったのでしょうか?
「えみりさん。これって……」
「あ、お客さん! もう、大丈夫ですよ。気になるのがあったら見てってください!」
私がえみりさんに話を聞こうと思ったら、お客さんが来てしまったみたいです。
「え、えみり様!?」
「あ、はい。よかったら見ていてくださいね」
お客さんはえみりさんにびっくりしつつも、近くにあった可愛いフリルのブラウスを手に取る。
あ、それ並べてる時から、いいなって思ってたやつ。
明らかにえみりさんのセンスじゃないけど、誰のかな?
「あ、それ、嗜……カノンが買ったブラウスなんだけど、あんまり着なかったんで状態もいいんですよ。どうですか? 結構、可愛いでしょ」
「「えぇっ!?」」
私とお客さんの驚きの声が重なる。
カ、カ、カノンさんのブラウスゥ!?
それって絶対にどこかのブランドのでしょ!
いや、別にブランドのじゃなくてもいいだけど、あのカノンさんが着てたってだけで付加価値があると思う。
「あ、でも。私、高校生じゃないし、20代後半だし……こんな可愛い服、似合うかな?」
「何を言ってるんですか? あくあ様も言ってましたよ。女の子はいつだって可愛い服を着ていいんだって」
えみり先輩のキリッとした顔にあくあ様のお顔を重ねたのか、お客さんはうっとりとした表情を見せる。その一方で私は、えみりさん、またやってるなとジト目になった。
「えっと、やっぱり最低でも10万くらいしますよね? 一度、銀行に行ってお金おろしてくるので、取り置きしてもらえませんか? すぐに帰ってくるので……」
「あ、これ、500円です」
「買います!!」
あ、ついつい私も手を上げてしまいました。
私は誰も見てないうちにスッと手を下ろす。
よく見たら、周りにいる聖女親衛隊のみなさんも手を上げてました。
あまりの安さに私も驚いたけど、さっきまで冷静だった聖女親衛隊の皆さんもすごく動揺した顔を見せる。
「ありがとうございましたー!」
「ありがとうございました」
商品を購入したお客さんが笑顔で帰っていく。
私はすぐにえみりさんに声をかける。
「えみりさん、えみりさん。本当にその価格でいいんですか?」
「ん? ああ、いいんだよ。高く売りたいだけなら、全部オークションに出した方がいいだろ。でも、これはあくまでもチャリティーマーケットだしな。お前も女ならわかるだろうけど、女は化粧品に服に下着に美容院に、とにかくお金がかかるんだよ。それなのに日々の生活もあるし、とにかくみんな生きるのに必死なんだ。だから私は、チャリティーマーケットなら、買う方にもお得感があった方がいいと思う」
確かに……。
えみりさんの意見には一理あるなと思った。
何よりも普段から草食って生きてる人の言葉だから説得力が半端ない。
「あ、いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませ」
次のお客さん達がやってきました。
私とえみりさんは、お母様に連れられてきた子供に笑顔を見せる。
「あっ、セイジョ・ミダラーだぁ」
「ぐへへ! 悪い子はチジョーにしちゃうぞ〜」
「きゃー」
もー、えみりさんってば、ミダラーは普段からそんなセリフを絶対に言わないでしょ!
それは、セイジョ・ミダラーじゃなくてラーメン・ハカドルってチジョーがいつも掲示板にコメントしてる時の言葉じゃないですか。
「あ、ヘブンズソードだ!」
「ふふっ、それにする?」
ヘブンズソードのソフビ人形が入った箱を見て目を輝かせる子供に、お母さんが優しく声をかける。
「あっ、それ、本郷監督の私物です。イベントで何度か持って行ってちょっと汚れてるんだけど、それでもよかったら是非」
「「は?」」
子供のお母さんと私がホゲった時のようなシンプルな顔をになる。
今、なんて言いました?
「あ、すみません。値段つけ忘れてました。100円です」
「「「「「は?」」」」」
あ、なんか声が増えた。聖女親衛隊の方達も私たちと同じ顔になる。
「あ、よかったら、お母さんにこれとかどうですか?」
えみりさんは奥の袋から何かを取り出すとお母さんにそれを手渡す。
「これ、映画のポスター。本当は500円と言いたいところですけど、ソフビとセットで300円でどうすか? 大量に刷っちゃって余ってたのをもらってきたんだけど、一応非売品なんで結構レアだと思いますよ。あ、流石にこのままだと味気ないんで、私でよかったらサイン入れますよ」
「買いまぁす!」
ちょっと待って、値上がりするのならわかるけど、なんでセットで値下がりしたんですか?
えみりさんはお金を受け取ると、ポスターにセイジョ・ミダラー役の雪白えみりとサインを入れる。
はい、この時点でポスターの価値が100倍以上に膨れ上がりました。
「ありがとうございました!!」
「ありがとうございました」
ふふっ、2人とも凄く嬉しそう。
流石に安すぎると思ったけど、これはこれでよかったのかもしれない。
後ろに振り向いた私は、周りにいた聖女親衛隊や、他のチャリティ出展者の血走った目を見てギョッとした顔をする。
はは……みんなも買いたいよね……。気持ちはわかります。
「いらっしゃいませ!!」
「あ、いらっしゃいませ」
あ、自分と同い年っぽい感じの子達が来ました。
「はわわわ、えみり様綺麗……」
「生の芸能人やば」
「いや、芸能人でもピンキリでしょ。えみり様とかアヤナちゃんとかはTier表が違うよ」
そうなんだよね。私も普段から普通に接してるけど、えみりさんってあの雪白家の雪白えみりさんなんですよ。
改めてそう思うと、私なんかが普通に接してていいのかなって思うけど、中身はただのドスケベチジョーの掲示板民なんだよね。
私だってそれを知らなきゃ、顔の良さと育ちの良さと特技の猫被りに騙されてたと思います。
「この帽子、かわい〜」
1人の女の子がリボンのついたキャップを手に取る。
うんうん、それもいいなって思ってたんだよね。
「あ、それ月街アヤナさんの私物です」
「ふぁっ!?」
うん、普通に固まっちゃうよね。
私は予め前例があったから耐えられたけど、普通ならびっくりしちゃうと思う。
もう1人の子が近くにあったキャスケットを手に取る。
「じゃ、じゃあ、これも!?」
「あ、それは小雛ゆかりさんの私物です」
女の子は何事もなかったかのように帽子を棚に戻す。
小雛ゆかりさんのでもいいじゃん! 買ってあげてよ。そのキャスケット、小雛さんの私物っていう特級呪物要素を抜かせば普通に可愛いよ。
もう1人の子がその隣にあった香水瓶に手を伸ばす。
「私、この香水買おうかな」
「その香水、よく見たら三分の一も中身ないんですけど大丈夫ですか? その分、お安くしておきますけど……」
「あ、本当だ。でも、すごくいい匂い。大人のお姉さんって感じ!」
アレは誰の香水なんだろう?
周りにいた聖女親衛隊の皆さんや、他の出展者達、全員が聞き耳を立てる。
「それ、誰だったかな〜……。あっ、思い出した。楓先輩が使ってるやつだ」
「「「「「森川さんの!?」」」」」
森川さんってそんないい匂いの香水使ってるの!?
どさくさに紛れて私や聖女親衛隊の皆さんも香水の匂いを嗅がせてもらう。
おぉ……。大人っぽくてすごく知的な感じ。いかにも仕事できそうな人がつけてるお姉さんの匂いがする……。
「ちなみに楓先輩があくあ様を墜とした時にこの香水使ってました。これガチです」
「買いまぁす!」
その香水のメーカーと品番、もう一回見せてくれるかな? ごめんね。
私も大人になったらそれ買おうっと。
「私もやっぱりこれ買おうかな。可愛いし」
あっ、さっき小雛ゆかりさんのキャスケットを棚に戻した子が再びそれを手に取る。
小雛ゆかりさん、ちゃんと売れてよかったね。残ってたらまたえみりさんに弄られてましたよ。
「ちなみにそのキャスケット、一緒に黛君のデートを尾行……んんっ、サポートした時にあくあ様が選んでくれたそうですよ。本人は余計に子供っぽく見えるからってあんま使わなかったらしいけど……」
「うぇっ!?」
別にプレゼントされたってわけではないけど、あくあ様が選んでくれたアイテムですらチャリティーに出しちゃうんだ……。
あくあ様が選んでくれたアイテムを出すなんて、小雛ゆかりさん以外じゃ普通にありえないよ。
「小雛先輩は、私の私物じゃ喜ばないだろうからって結構考えてそれ出してました。多分、あくあ様が選んだのだと分かれば、誰か買ってくれるんと思ったんじゃないかな。だからほら、キャップの内側に、ちゃんとあくあ様のサイン入ってるでしょ。そのサインが入ってるって事は、事前に出していいかどうかも本人に聞いたはずですよ。うん」
全私が泣いた。
ここにいた事実を知る者同士で、小雛ゆかりさんに優しくしようという謎の結束が生まれる。
「ありがとうございましたー!」
「ありがとうございました」
女子高生3人組が笑顔で帰っていく。
入れ替わるように女子大生二人組がやってきました。
女子大生2人はえみりさんにびっくりしつつ、ハンガーにかけてあったパーカーを手に取る。
「これ、オーバーサイズで可愛いかも」
「わかる。いいよね」
えみりさんは近くにあった鐘をからんからんと鳴らす。
「おめでとうございます」
「「えっ?」」
女子大生二人組は意味がわからずにお互いに戸惑った表情で顔を見合わせる。
一体、なんの鐘の音なんだろう。すごく嫌な予感がしました。
「あくあ様の私物です」
「ふぁ〜〜〜〜〜っ」
あぶなーい!
超機敏な聖女親衛隊の皆さんが倒れかかった女子大生の体を支える。
さすがは常にホゲラー波を浴びながらも、ホゲに侵食された思考とは切り離して体を動かす謎の訓練をし続けてるだけの事はありますね。
聖あくあ教の中でもエリートと言われてる彼女達の実力の一端が見れた気がしました。
「もちろん着用済みです。それと、あくあ様はクリーニングに出してからと言ってたけど、私が必死に止めたからの安心してください!! ちゃんとそのパーカーには、あくあ様の汗が、フェロモンが、成分が染みわたってます!!」
聖遺物じゃねぇか。
心の中の私が真顔で突っ込む。
確定で聖遺物じゃねぇか。
重要な事なので2回突っ込みました。
「わ、わ、わ、私、試着しちゃったんだけど!?」
「大丈夫」
えみりさんは女子大生の肩をポンと叩く。
「これは着ることに意味があるんです。あくあ様も着て欲しいって言ってたし、これを着用する事によって、常にあくあ様にハグされ続けているのと同様になるんですよ!!」
「「「「「な、なんだって〜!?」」」」」
お姉さん、良かったね。
「おめでとう!」
「おめでとう」
「おめでとうございます!」
周りから謎の拍手が起きる。
この時間は何なんだろう? って突っ込むヤボな人はこの空間にいません。
「じゃ、じゃあ、私はこれにしようかな」
もう1人の女子大生がハンガーにかけているワンピースに手を伸ばす。
それをみんなが固唾を飲んで見守る。
チャリティーマーケットってこんな緊張感があるイベントでしたっけ?
「あ〜……」
えみりさんが少し微妙な顔をする。
も、もしかして、この神チャリティー企画にハズレが入ってるとか!?
いや、普通に考えたらそうだよね。こんな得しかないチャリティーなんて普通にありえないもん。
「そのワンピ、私の私物……っていうか手作りなんですよ。それでも大丈夫ですか? すみません。それくらいしか出す物がなくって……」
「全然、大丈夫です!!」
えみりさんはたまに自分が雪白えみりって事を忘れてますよね?
自己評価が低いっていうか、多分、オナニー捗るの時の方が本体で、雪白えみりって存在をあまりにも自分から切り離しすぎてる気がします。
「ありがとうございました!!」
「ありがとうございました」
女子大生2人組の嬉しそうな顔を見てほっこりした気持ちになる。
それにしても、さっきの商品ですら1000円超えないんですよね……。
一体、何が1000円超えてるんだろうって気になります。
「みんなが使わなくなった家電とか」
「それはどうでもいいかな。うん」
家電なんかよりさっきのパーカーの方が遥かに高いでしょ。
あくあ様のパーカーを前にしたら、最新の家電ですら粗大ゴミですよ。
「あっ、でも家電にもちゃんとみんなのサインが入ってるから」
えみりさん。それを先に言ってくれませんか?
サインがあるのとないのとでは話が全然違いますからね。
「家電のおすすめは、何とあの人気のゲーム実況者にしてVtuber鞘無インコさんが、FPSゲームのデバイス沼に陥った時に購入したキーマウのサイン入りと、人気ストリーマーのラズ様が無くしたと思ってもう一台買っちゃったゲーム機にサインが入ったのです」
あぁ、また絶妙にファンが欲しくなるようなもの持ってきてる。
これだけの商品を1日で集めてくるえみりさんのコミュ力と交友関係の広さにびっくりしますよ。
「他には何があるんですか?」
「うーん。姐さんが買ったけどあんまり履かなかったパンプスとか、サイズ大きいから探してる人には需要ありそうかなって。あとは、らぴすちゃんがライブで使ってた私物の髪飾りとかもかわいいよね。阿古さんのスーツとか、揚羽お姉ちゃんの着物とかも縁起ありそう」
やばぁい。
よく見たら美洲様やレイラさん、小早川さんやeau de Cologneの他の2人や加藤イリアさんとかの私物まである。
「あとはネタ枠で、羽生総理がネタで作ったうどん国の議員バッジと、おうどん帝国の国旗にヴィクトリア様とメアリー様のサインが入ったのとか……」
「ちょいちょいちょいちょい!」
えみりさん……。「クレア、どうかしたのか?」って顔してるけど、明らかに本気のやべー商品を持ってくるの勘弁してもらえますか? センシティブすぎてネタ枠どころの話で済まされませんよ。
私の顔を見た聖女親衛隊が一斉にえみりさんの後ろに隠れる。
アレ? 精鋭の皆さんが、そんなに肩をガタガタ震わせてどうしたんですか?
「おい、クレア。お前、今、世界を滅ぼすような顔になってたぞ」
「すみません」
私は何とか心を落ち着かせる。
これはあれだ。気にしたら負けってやつなんだと思います。
「あ、新しいお客さんが来たみたいだぞ」
「はい」
ここから掲示板に情報が拡散されたのか急に忙しくなる。
私は慌てて、おひとり様一点限りと書いた紙をよく見えるところにペタペタと張りました。
中には買い占めする人もいるかもしれまんしね。
あとは転売対策で、えみりさんには商品を購入するまで誰の私物か言わないでもらうようにお願いしました。
まぁ、転売なんてしようとする人がいたら、転売ヤーを絶対に殺すチジョーこと、この私が、地獄に行くよりも遥かに恐ろしい目に合わせますけどね。
「クレア、クレア。また怖い顔になってるぞ!! お客さん達が謎のプレッシャー感じて冷や汗でみんな汗だくになってる!!」
ああ、すみません。一般の方にはちょっと辛かったですね。
でも、今のでわかりましたよね? という警告はちゃんとできたはずです。
「えみりさん、妊婦なんだからあんまり無理しないでくださいね」
「ん? ああ、わかってるよ。だから午後からはちゃんと助っ人が来るから」
助っ人? 誰が来るんだろう?
普通に考えたらカノンさん達だろうけど、彼女達も妊娠してるから、他の誰かが来るのかな?
「おーい!」
聞き覚えのある声が台車を押してやってくる。
「あくあ様ぁ!?」
「はわわわわわわわわわわ」
「本物きちゃー」
私はあくあ様の登場に両手で頭を抱える。
よりによって、なんでそこに助っ人を頼むんですか!?
ますます混乱するじゃないですか!!
「いや、暇そうだったし……」
暇そうだったからって、あくあ様にモノ頼むなんて、この世界にえみりさんくらいですよ!!
「あ、クレアさん。おはよう。どう? 夏休み楽しんでる?」
「はい、おかげさまで……。それとおはようございます」
あくあ様は荷台に乗せた段ボールを下ろしていく。
すごく嫌な予感がします。
私はあくあ様に、その段ボールの箱は何なのかを聞く。
「これ? 俺のもあるけど、慎太郎とか天我先輩とか、とあに丸男達にも声かけて追加の商品集めてきたんだよ。ほら、慎太郎が買ったけど微妙にサイズが合わなくてあんま使ってないメガネとか」
ふぁ〜っ! 今の言葉で何人かの女性陣がギラついた目を見せる。
あくあ様は会社の人に車で送ってもらったらしく、次々と商品を卸していく。
そして、えみりさんと入れ替わるようにして販売を始めた。
「お姉さんこれとかどう。俺、お姉さんにはこういうの着て欲しいな」
「それ、買いますー!」
まぁ、普通に考えてイチコロだよね。
だって、最強の販売員がやってきたようなもんだよ。
正直、あくあ様が販売員だったら、どんなに売れない商品だって1日で完売すると思うもん。
途中、人だかりができすぎて交通整理で警察が来たり、学校に通報があったのか、様子のおかしい杉田先生が顔を出しに来たりとかしたけど、何とか無事にチャリティーマーケットを終える事ができた。
「はい、という事で無事に完売です!」
はぁはぁ、はぁはぁ……やっと、やっと終わった。
私や途中から増員した聖女親衛達が倒れる。
あくあ様は途中から周りのチャリティーマーケットにも顔を出して、他のマーケットの商品も全て完売させていた。流石だよ。次元が違う。モノも違う。
ただ、顔がいいからとかじゃないんだよね。性格良くて、コミュ力高いし、自分から行くんだもん。もはや、女性達が財布を開けるまでもない。さすがは全ての女性……一部は除くけど大多数の女性が無条件で財布ごと差し出す男、白銀あくあ様です。
「皆さん、ありがとうございました」
あくあ様は他の出店者さん達やボランティアスタッフさん一人一人と握手したり、記念撮影したり、サインしたりする。
「あ、手伝ってくれた皆さんも、ありがとうございます。こんなのでお礼になるかわかんないけど、さっき出すの忘れてたみたいでよかったら持っていってください」
あくあ様は開封していなかった段ボールを開けると、手伝ってくれた聖女親衛隊の子達、一人一人に私物のTシャツコレクションを渡していく。
謎デザインのちょっとダサめのTシャツばっかりだったけど、みんなすごく喜んでた。
みんな、聖あくあ教の信徒だから嬉しくて当然だよね。
「クレアさんもどうぞ」
「あ、はい。あくあ君、ありがとうございます」
私はあくあ様から、謎のカボスTシャツをもらう。
どうしてこれを買おうと思ったんだろうって疑問はとりあえず蓋をして、私は素直に喜ぶ。
あくあ様相手に深く考えるだけ時間の無駄だって事を、私は常日頃からえみりさんで学んでいるからだ。
「そういえば、クレアさんのその後ろにあるのって」
「あ……あっ」
私は床に落ちてたシスター服を拾い上げる。
あっちゃー。私が前に着てたのを、誰かコスプレ用に買うかなって思ってたんだけど、出すのを忘れちゃってたみたいだ。
「クレアさん。それ、俺が買います」
あくあ様はポケットに手を突っ込むと、財布ごと私に差し出した。
「えっ? いや、何ならタダでも……」
「ただぁ!? クレアさんの汗とフェロモンが染み込んだシスター服ですよ!? クレアさんは自分の価値があまりにもわかってなさすぎる……。俺ならこれでも足りないくらいだと思ってます!!」
いや、それ、今日一日ずっと私が感じてた事なんだけど……。
私たちのやり取りを見ていた聖女親衛隊が私に対して羨望の眼差しを向ける。
「あの全ての女性が財布を差し出すあくあ様に、財布ごと差し出されるなんて、さすがはNo.1」
「やはり彼女こそがNo.1に相応しい」
「さすがは聖女様がお認めになっただけの事はあります」
「ふっ、やっぱり聖女様は全てがわかってらしたんだ」
「聖女様すごーい」
「聖女様万歳!!」
ああ……。えみりさんは特に何もしてないのに、パズルのピースが上手くハマって本人がいないところで勝手に信奉と評価だけが上がっていく瞬間を見た私は、何とも言えない顔になる。
わ、私、し〜らないっと!
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