幕間 小雛ゆかり、私に友達がいないって言った奴は出てきなさいよね!
※本編が転載不可能な内容だったので、幕間の小雛先輩をお楽しみください。
時期的には多分、あくあとカノンの結婚前だったかな?
「ほら! さっさと起きなさい!!」
今日はみんなと一緒にテーマパークに行く日だ。
私はあいつが逃げないように、早朝を狙って白銀家に突撃する。
寝ぼけたあくあを叩き起こして、そのまま車を置いてる場所へと向かった。
い、言っておくけど、べべべ別に楽しみだから早起きしたわけじゃないんだからね!
駐車場に到着すると、すでにアヤナちゃんと阿古っちの姿があった。
2人とも早いわね……。
「先輩って本当に免許持ってるんですか? それ違法免許とかじゃ……」
なんて事を胡乱な目つきで言ってくるあくあに対して、私は余裕たっぷりな不敵な笑みを返す。
「へっへーん。任せておきなさい。これでも私、ゴールド免許なのよ」
私はポケットから取り出したゴールド免許を、これ見よがしにあくあの目の前に突きつける。
今日この日のために免許を取得した私は、元々原付の免許を取っていたおかげもあって最初からゴールド免許だった。
「どう? すごいでしょ? 小雛先輩素敵、小雛先輩かっこいいって、これでもかと言うくらい褒め称えてくれてもいいのよ!!」
「あれ? ゆかりって確か最近免許取得したばかりじゃ……」
「しーっ、阿古っち、しーっ!」
私は慌てて隣に居た阿古の口を塞ぐ。
全く、この子は相変わらず余計な事を……ほら! あくあだけじゃなくて、アヤナちゃんまで心配そうな顔でこっちを見てるじゃない!
「小雛先輩……本当に大丈夫なんですか?」
私はあくあを無視して、手に持った若葉マークを借りてきた車にぺたーんと貼り付ける。
これで良しっ! さぁ、散った散った! こら、あくあは若葉マークを見て、そんな不安そうな顔をしない! しっ、しっ!
「ねぇ、ゆかり、やっぱりオープンカーは不味くない?」
「はぁ……阿古っちはそれだからダメなのよね」
「えぇ!? 私、ダメなの?」
私は溜め息を吐くと、両手を広げてやれやれといった仕草を見せる。
「確かに私もあくあもアヤナちゃんも芸能人だけど、だからってよく知らない奴らのためにコソコソと生きる意味ある? むしろ堂々と外を出歩けばいいのよ! 見るなら好きなだけ見ればいいじゃない。どうせそこらへんの戦闘力5くらいしかなさそうな雑魚どもじゃ、私のオーラにビビって話しかける事なんてできないんだから」
何を隠そうこの大女優小雛ゆかり、今まで変装した事は一度たりとしてない。
それなのにサインを求められた事も、握手を求められた事もなければ、話しかけられた事すらないんだから!!
って言ったら、あくあとアヤナちゃんから可哀想な人を見るような目で見られた。
な、何よ! 言いたい事があるならはっきり言いなさいよ!!
「俺、小雛先輩の演技好きですよ、うん。ちゃんと出てる作品も全部見たし……」
「わ、私も、小雛先輩のサイン欲しいなーって……」
そーでしょ。そーでしょ!
私は自らの腰に両手を当てて鼻高々に頷いた。
「ごめんね、2人とも、ゆかりに気を遣ってくれて……って、いたたっ!」
私は阿古のお尻をぎゅうっと抓った。
全く、余計な事ばかり言わなくていいの!
「みんなちゃんとシートベルトはしたわよね? それじゃあ行くわよ!!」
私は借りてきた4人乗りのオープンカーで、目的地であるテーマパークへと向かって走り出す。
さっきは強気な発言をしていたけど、こんな車を運転するの初めてだし、私はそろりそろりと慎重に運転する。
「アヤナはテーマパークとか結構行った事あるの?」
「ううん、私、テレビでしか行ったことないかも」
私と同じ女優で女帝と呼ばれている女、睦夜星珠。
こいつと番組で共演した時に、テーマーパークのチケットを4枚も押しつけられた。
普通にチケットをくれたのならまだしも、実はこの話には裏がある。
あの女……私がぼっちだと思って、チケットを渡すときにほくそ笑んでいたわ。
あれはきっと、裏で私の事をボッチだの、友達が居ないだの笑っているに決まっている!!
ふふん、見てなさいよ! 今からスカした顔をしたあの女の腰を抜かした姿を見るのが楽しみだわ。おーっほっほ!!
「なんか絶対にしょーもない事考えてる気がする」
「正解よ。あくあ君……。ごめんね。せっかくの休日なのに、アヤナちゃんまでうちのゆかりに付き合ってもらって……」
「いえ。私も休日は特に予定ないんで……」
アヤナちゃーーーーーん!
やっぱりアヤナちゃんだけは私の味方よ!
そこにいるぼんやりとした顔をした八方美人の阿古や、とぼけた顔をしているリア充のあくあとは違うわ。
「そもそも休日っていうのは休むためにあるものなの。だから予定がある方がおかしいのよ!」
「小雛先輩……」
「ゆかり……」
「どんまい……」
ちょっと! なんでそんな憐れんだ表情で私の事を見てるのよ!!
おまけにあくあが言ったその最後のドンマイ、地味にきついんだけど!?
もう、本当に失礼しちゃうわ。ぷんぷん!
っと、目の前の信号が黄色に変わった。後続車との車間距離も十分あるし、ちゃんと信号は黄色の段階で止まらないとね。
「ひゃっ!?」
ん? 誰の声? 私は声の方へと顔を向ける。
「あっ、あくあ様……」
あぁ、隣のレーンに停車した車の窓が開いてたから中の会話が聞こえてきたのか。
「嘘っ!?」
「きゃーっ、あくあ様」
「待って、月街アヤナちゃんもいる!」
「げっ、小雛ゆかりだ」
ちょっと! なんで私だけ、げ、なのよ。げ、以外に、もっと他に言う事あるでしょ。何よ、げ、って! 妖怪を見るような目で私の事を見るんじゃないわよ!!
これでも今をときめく月9の主演女優なんだから、今日だけは特別に好きなだけ写真撮るのも許してあげる。
だから、ほら、さっさと撮りなさいよ!!
「あくあ様、応援してます!!」
「隣の席、莉奈役の子だよね。いいなー。代わって欲しー」
「小雛ゆかり、若葉マークじゃん。ぷぷぷ」
「小雛ゆかりの隣にいる女の人ってもしかして天鳥社長じゃない? 何かのお仕事かな?」
なんで年下のあくあが様で私だけ呼び捨てなのよ!
ぐぬぬぬ。へーん、そんな事言うなら幌を閉じて後ろ隠してやるんだから!
私はボタンを押して幌を閉じる。うちのあくあを、お前達なんかにタダで見せてあげないんだから!!
「さすが小雛ゆかり、大人気ない……」
「見てあの勝ち誇った顔……」
「やっぱりネットの噂そのまんまじゃん……」
「後で掲示板に書き込んでおこ……」
私は阿古やあくあ、アヤナちゃんが呆れた顔をしている事に気がつかないフリをして、何事もなかったかのようにアクセルを踏み込む。ふーんだ。
こんな感じで目的地まで順調に車を走らせていると、何かに気がついたアヤナちゃんが隣の席に座ったあくあにボソボソと小声で喋りかける。
ちっちっちっ、残念だけど、地獄耳の小雛ゆかりさんには全部聞こえてるんだなあ!
「ねぇ、あくあ」
「うん?」
「なんか私達の車の周り、覆面パトカーに囲まれてない?」
「あ……本当だ。お仕事お疲れ様ですって手でも振っておこうかな」
ん? 私は隣のレーンへと視線を向ける。
するとヘルメットを被った警察官にニコッとした顔をされた。
反対側に振り向くと、同じくヘルメットを被った警察官に笑顔で頷かれる。
バックミラーを見ると、後ろの車に乗った警察官に敬礼された。
そういえばさっきから目の前の車が変わってないような……。
「全部、青信号……」
阿古の言う通り目的地までずっと青信号だった。
うん、知らなかった事にしておこう。流石に私も少し恐怖を感じたわ。
こいつ本当に大丈夫なの? なんか変な奴とか変な組織に監視されたりとかされてないわよね?
「なんか思ったより早く着いたな」
「え、ええ、そうね……あくあ」
「警察の人も、たまたま目的地が一緒だったのか。最後までついてきてたよなー」
「う、うん、そうだね……あくあ君」
こらこら、アヤナちゃんも阿古も、ちゃんと真実を伝えなさいよ。
貴女達がそうやって甘やかしちゃうから、この子はいつまで経ってもとぼけた顔してるんじゃない。
「小雛先輩? どうかしましたか?」
「……別にー」
アヤナちゃんと阿古の視線が痛いほど私の背中に突き刺さる。
べ、別にいいじゃない。ちょっとくらい甘やかしても……。
だって、手がかかるほど可愛いって言うし、それくらいとぼけておいた方がいいっていうか……あー! もう! 貴女達だって甘やかしてるんだから私と同類でしょ! それにこういうのは奥さんがする事なの!!
私はもう甘やかすってさっき決めたから、後の事は全部、あくあの奥さんに丸投げします!!
「ところでゆかり、チケットは?」
「ちょっと待って、その前に3人ともこっちに顔を近づけなさい!」
はい、パシャリと……これをSNSに貼って投稿してと、チケットくれた女帝にチケットくれてありがとうございました。仲の良い友達と遊びに来ましたーって書いて送っとこ。ざまあ!
「ちゃんとテーマパークの看板入ってるし、律儀にチケット使ってるし、結局、あくあ君やアヤナちゃんがきたから宣伝になるし……ゆかりって本当に優しいよね。SNSじゃマウントきたこれって煽られてるけど……」
「うっさいわね! そういうのを言われた方は恥ずかしいんだから、阿古っちは気が付かなくていいの! むしろ気が付いてても言わなくていいから!」
まぁ、そういう所に気が付いてくれるから好きなんだけど……。
って! それは良いから、さっさと行くわよ! もう。
「で、最初はどこに行くんですか?」
「そんなのジェットコースターに決まってるでしょ!」
ジェットコースターの列に並んだら周りが騒然となってこちらを見つめる。
というか、テーマパークに入った時点でみんながこっちを見て固まっていた。
まぁ、あくあを連れてきたらそうなるわよね。
「先どうぞ」
「あくあ様をお待たせするわけには……!」
「あくあ様のために並んでました」
「あーくあ!」
私達の前に並んでいた人たちが笑顔で前を開けてくれる。最後変なやつ居た気がするけど、私の気のせいかな?
あくあは前を譲ってくれた人に、大丈夫って言って断ろうとしていたけど馬鹿ね。まだ子供なんだから厚意には素直に甘えるのよ。
そっちの方がこいつらだって嬉しいんだからって言って、私がずるずるとあくあの手を引っ張っていく。
「すご……」
「気が付いたら先頭に」
「みんなごめんね。ありがとう」
ふんふん、今度から人がたくさんいる時は、あくあを連れて行った方が楽そうね。
阿古はまずいんじゃって言ってたけど、やっぱり私が思った通り大丈夫だったわ。
テレビでやってた1番ファンが教育されてるアイドルランキングでもあくあがダントツの1位だったし、こうなったのも納得ある。
その理由の59.8%はあくあに迷惑をかけたくないから、27.6%はマネージャーの姐さんとかいう人が怖いからって理由だった。仕事でそのマネージャーを見た事あるけど、確実に2人か3人くらいはヤッてる目してたもんね。気持ちはわかるわ。
でも、みんなに言っておくけど、ああいうタイプに限って案外優しかったりするものよ。だから人を見た目だけで判断しちゃダメね。
ちなみに残りの12.6%、宗教上の理由という回答は見なかった事にしておく。
「アヤナ大丈夫? 顔色悪くない?」
「だ、大丈夫……」
ふむ……。アヤナちゃんは案外こういうの苦手なのね。
その一方であくあは初めてだって言ってたけど余裕そう。
「うわー、ジェットコースターなんて何年ぶりだろう」
知ってる。だって3年前に阿古と一緒に乗ったのも私だし!
阿古はこういうの昔から大好きだもんね。
「ところでゆかり、本当に大丈夫? 昔からこういうの苦手でしょ」
「な、なななな何言ってるのよ、阿古。大丈夫に決まってるでしょ!」
もう! あんたが好きだから一緒に乗ってあげてるのに、どうせ気がつくならそこに気がつきなさいよ。バカ!
ネットじゃ有能な社長だって持て囃されてたから、変わったのかなと思って期待した私が馬鹿だった。
あいかわらずぼやぼやしてるし、このアイドル白銀あくあにして、この社長ありである。
本当、あんた達、そういうボケたところが親子かって思うくらいそっくりよ!
「うぎゃあああああああああああああ!」
「わー、きゃー! たのしーーーーー!」
「きゃっ」
「おー、すげー」
しょんべんちびりそうになった私は、阿古の手を掴む。
その一方で私の前では、怖がるアヤナちゃんの手をあくあが握ってあげていた。
こいつ! そういう事を無自覚でするから、女の子が好きになるんじゃない!
全くもう、こういう男は奥さん増えすぎて夜の生活で地獄を見れば良いのよ!
「わー、あくあ君、楽しかったね」
「はい。俺もジェットコースター乗ったのこれが初めてなんですけど、すごく楽しかったです」
私達の前を歩く元気な2人と比べて、私とアヤナちゃんは最初からよれよれだ。
「こ、怖かった……」
「小雛先輩、苦手なら最初は違うのにしてくださいよ……」
しばらくベンチで休憩した私達は、落ち着いた後に適当なレストランで食事を取る。
ファンサービスが良いアヤナちゃんとあくあの2人はファンの人に手を振ってたりしてたけど、私はそんな事はしない。決して私の事を見るファンが1人もいないからとかじゃないんだからね!!
「あっ、ゴーカート」
ゴーカートを見た私の頭の上にピコーンと電球が光った気がした。
「良いわね。ゴーカートで勝負しましょ!!」
「勝負?」
「そ。さっきほら、コスプレコーナーがあったでしょ。優勝した人が、負けた3人に好きなコスプレさせるっての、どう?」
「まぁ、それくらいなら……良いかも?」
「良いですねやりましょう!!」
なぜかあくあが前のめりだった。
こいつ……なんか絶対にしょうもない事を考えてるでしょ。
「さーてと、小雛先輩には悪いけど、本気出しちゃいますか」
私はあくあが向いていた方向へと視線を向ける。
あぁ、なるほどね。あーいう布面積の少ないコスプレを私達にさせようってわけか。
アヤナちゃんや阿古は、ぼーっとしてるから気が付いてないけど、私はあくあが他の大多数の男の子達と違ってそういうのが好きだってわかってるんだから!
あくあには悪いけど、阿古にあんな破廉恥な格好をさせるものですか! 優勝はこの私、小雛ゆかりがもらうわ!!
なんてカッコよく啖呵を切っておきながら、最終コーナーで欲を出して私とあくあのゴーカートがスピンして、後ろから抜け出した阿古が優勝してしまった。
ま、まぁ、当初の予定は達成したから私の勝ちみたいなもんよ。うん。
「きゃー、ゆかりかわいい!!」
くっ、よりによってなんで私がこんな子供っぽい格好しなきゃいけないのよ。
私が着せられたのは、金髪メイド服の子供から大人まで人気な某キャラクターのコスプレだった。
阿古、あんた本当に趣味が悪いわ。こんな姿の私を見て可愛いなんて言うのは、あんたか、あんたのところにいる白銀あくあとかいうボケた奴くらいよ。
「アヤナちゃんもかわいい!!」
「あ、ありがとうございます」
「あら、本当に可愛いじゃない」
アヤナちゃんは恥ずかしがっていたけど、妖精のコスプレよく似合ってると思った。
非現実的な妖精のコスプレと相待って、アヤナちゃんの綺麗さと可愛さの両方がうまく引き出されている。
さすがは現役のトップアイドルって感じがするわ。
そんな事を考えていると、どこからともなく汚い女の叫び声が聞こえてきた。
「ぎゃあああああああああああ!」
「メディーーーーーック!」
「しっかりしろ!!」
「生きろ! 生きて、目に焼き付けるのよ!!」
はいはい白銀あくあ白銀あくあ、どうせ騒がしい原因なんてあくあでしょ。
私達は男性更衣室の出口へと視線を向ける。
そこから出てきたのは見事に白い王子様風の衣装を着こなし、金髪のウィッグをつけたあくあだった。
ちょっとこれ、絶対にメイクさんとかスタイリストさんがついてるでしょ! あまりにもコスプレ感がなくて、私ですらどういう反応して良いのかわからないじゃない!
「あわあわわわわわわ」
阿古、自分からコスプレを指定しておいて泡食ってる場合じゃないでしょ。
あくあもどうしましたかじゃないわよ。それで気が付いてないなら、あんた流石に鈍感にも程があるわ。
くっ……それにしても王子様ルックがネタでもなく普通に似合ってる時点でムカつく。
こうなったら、少しくらいなんか嫌がらせでもしといてやろっと。
「ねぇ。せっかく着替えたんだし、このままアレに乗りましょう」
私は親指を突き立てると、後ろにあるメリーゴーランドを指差した。ふふーん。流石に王子様のコスプレでメリーゴーランドなんてあなたでも恥ずかしいでしょ!
順番待ち? そんなのあるわけない。もはや誰も乗らないし、他のお客さん達なんてカメラのベストポジションの取り合いで忙しいんだから。
「王子様、本当の王子様がいらっしゃるわ……」
「女の子邪魔って言おうとしたけど、アヤナちゃんも小雛ゆかりも普通に綺麗でお似合いだから困る……」
「美男美女で王子様お姫様って感じよね。羨ましいわぁ」
「白馬に乗ったあくあ君ヤバすぎでしょ。こんなのSNSに載せたら死人出るぞ」
「さっき掲示板に載せたら爆速でスレ消化したわ」
「あ、嗜み死んだ。ざまあ!」
「捗るの気配が消えた……これは間違いなくお花摘みに行ったな」
「しれっとソムリエも消えてるけど、こいつもそうだろ」
「姐さん、こういうの好きそう」
「ごめんなさい。私、小雛ゆかりさんの事を勘違いしてたわ!」
「あー様をメリーゴーランドに連れてきた小雛ゆかりマジで神」
「小雛ゆかりさんパネーっす。一生ついて行きます!!」
ちょ、ちょっと、急に私の事を褒めないでよ。恥ずかしいでしょうが!
なぜか急遽撮影会になったけど、あくあやアヤナちゃんもなんか楽しんでるし、まぁ、いっか……。
でも……そこのテーマパークスタッフ、貴女はダメよ。うちのあくあをさり気なく宣材写真に使おうって思ってるんだろうけど、そういうのはうちのベリルを通して話をしてもらわないとね。
私が本気でガンを飛ばしたら、びびって両手を上げて降参したから、今回は見逃してあげるけど次はないわよ。
「やっぱ、小雛ゆかりこえ〜わ」
「私は最初からわかってた」
「ファン辞めます」
ちょっと! なんで勝手に好感度が上がってすぐに下がるのよ!
全くもう、みんな調子がいいんだから。あくあのファンって元々掲示板出身が多いせいか、こんなやつばっか!!
「このままだと落ち着かないから着替えるわよ。最後はちょっとゆったりできる奴に乗りましょう」
そうして再度着替えた私達が最後にやってきたのは、テーマパークのアトラクションでも定番中の定番と呼ばれる観覧車だ。普通は友達同士で乗って映える写真を撮るアトラクションだけど、良い事を思い付いた私はグーパーで2人ずつに分かれようって話を振る。
これで阿古をあくあと一緒の観覧車にできたらワンチャンあるんじゃないかって思ったのよね。
1周回るのに15分とか20分あるんだから、あくあ相手なら子作りの一回くらい余裕でしょ。
阿古じゃなくてもアヤナちゃんが一緒になってもいいなって、珍しく私が気を利かせていたのに、それが裏目に出てしまう。
「どうしてこうなった……」
なんで私とあくあが同じ観覧車に乗ってるのよ! 意味がないでしょ!
こうなったら阿古の代わりに私があくあと子作り……いや、それじゃあ意味ないわ。
「小雛先輩……」
「何よ?」
夕暮れ時、沈み行く太陽をバックにあくあが微笑む。
やっぱりあくあは反則ね。こういう絵になるシーンを見せられたら、男に興味ない私でもかっこいいって思っちゃうんだもん。
だからあくあのファンが騒がしくなる気持ちはわかるし、メリーゴーランドでの撮影も止めなかった。
あくあが嫌がってたら止めるつもりだったけど、あくあも普通にノリノリだったしね。
ただノリが良くなりすぎて、私を抱っこして白馬に乗った事だけは永久に覚えといてやるんだから。
私にあんな恥ずかしい思いをさせた事を、いつか絶対に仕返ししてみせるわ。
「今日はありがとうございます。最近、外を一人で出歩ける機会も減ってましたから……。ましてやこんな所に来れるなんて思ってもいませんでした」
「ふーん。それがわかってるなら、もっとこう……崇めなさいよね!」
「はい。小雛先輩はいつだってすごいです。演技してる時はいつだってかっこいいし、ドラマに出演して、すぐに小雛先輩に出会えて本当によかったって、いつも思ってるんですよ」
私は照れた顔を誤魔化すようにそっぽを向く。
今が夕暮れ時で本当によかったわ。いくら褒められ慣れてないからって、この私が照れた顔を見せるわけにはいかないもの。
全く、あくあもそういうの私に言わなくて良いから、もっと阿古とか、アヤナちゃんに言ってあげてよね。
「い、一度しか言わないわよ」
「はい」
私は顔をそらしたまま、チラリと視線だけあくあの方に向ける。
「今日は休みなのに、付き合ってくれてありがと」
「はい! こちらこそ、ありがとうございました」
私は再びあくあから視線をプイっと背ける。
あー、本当に今が夕暮れ時で良かった!
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