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白銀カノン、おかえり剣崎!!

 絶望的な状況の中で、小早川優希さんが演じる夜影ミサがバイコーンビートルとして、玖珂レイラさん演じる荒久根なくあと激しい戦闘を繰り広げる。


『忌々しい! このパワーバカが!!』

『ふっ、それは私に対する褒め言葉か?』


 荒久根なくあにとって、その糸の強度をも上回るパワーを持ったバイコーンビートルは天敵だった。

 さすがは最後に作られたドライバー。パワーだけなら設定上でもドライバー最強なんだよね。

 その戦闘の隣では、異界からやってきたチジョーが一般人へと攻撃を開始する。


『きゃーっ!』

『グボァ!』


 大きな悲鳴と共に一般人女性にグーで殴られたチジョーが吹き飛ぶ。

 あ、よく見たらただの一般人女性じゃなくて楓先輩だった。

 観客席から少しだけ笑い声が起きる。


「森川ならありえる」

「リアリティある」

「これは間違いなくシリアスシーン」

「もりかわしゃん、ドライバーたちをたしゅけてぇー」

「悲報、ドライバーより強い一般人が紛れてる件について」

「掲示板の古参大幹部チジョーことティムポ・スキーさんが一般チジョーに負けるわけがないだろ」

「これがおいなりさんソムリエの資格保持者のパワーですか」

「掲示板民の私、大歓喜」

「もう全部あいつでいいんじゃないかな」


 再びシーンが切り替わると、とあちゃん演じる加賀美夏希の指先が微かに震える。


『僕……は……』


 走馬灯のように自らの過去を思い出す加賀美。

 お母さんとの思い出、SYUKUJYOに入ってからの思い出、そして他のドライバー達との思い出、最後に加賀美が思い出したのは戦う剣崎の後ろ姿だった。


『倒れていればいいものを……まだ立ち上がるのか?』


 誰がどう見ても満身創痍、それでも加賀美は誰よりも最初に立ち上がった。


『……どんなに苦しくても、辛くても、それでも立ち上がる事に意味がある』


 剣崎のセリフだ。

 前髪から微かに見える加賀美の魂がこもった目に何人かの女の子がうっとりした顔を見せる。


『橘! 神代!! あの時、悔しい思いをしたのは僕だけじゃないだろ!!』


 加賀美の魂の叫びに、天我先輩演じる神代始と黛君演じる橘斬鬼の体が微かに動く。

 意識を取り戻した2人は加賀美と同じようにゆっくりと立ち上がる。


『そんな状態で何ができる?』


 悪神の言う通りだ。

 もはや3人とも気力で立ち上がったようにしか見えない。

 もういいよ。みんな頑張った。もう諦めてもいい。誰もがそう言いたいのをグッと我慢する。

 だって、3人の目は、まだ死んでないんだもん。


『何ができる……か』

『ああ、思い出すな。あいつの事を』

『うん、剣崎ならきっとこう言っただろうね』


 3人は剣崎がやっていたように人差し指を天に向ける。


『『『何ができるかじゃない! 重要なのは自分が何をするかだってね!!』』』


 3人の意思に応えて3匹の昆虫型メカが飛んでくる。


『世界がどんなに絶望的な状況だったとしても!!』

『例えこの剣が折れたとしても!!』

『僕達の心は決して折れない!!』

『『『変身!!』』』


 変身なんていくらやってもいいですからね。

 裏でやってた朝の政治討論番組がいつの間にかドライバー討論番組になってたけど、それに出てたドライバー評論家のコメンテーターもそう言ってた。

 3人揃っての変身シーンに映画館の中が沸く。


『無駄だ。いけお前達』


 悪神の指示によって襲いかかったチジョー達が3人のドライバー達の行手を遮る。

 シーンが切り替わると、大きなお腹を抱えた私が手すりを使ってゆっくりと歩くシーンが映し出された。

 ふふっ、みんな心配そうに見てるけど、このシーンを撮影した時はそんなに膨れてなかった時なんだよね。

 映画館のスクリーンに、私の近くで一緒に避難しているエキストラの人達が映し出される。

 その中にいたとある人物を見つけたファンが騒ぎ出す。


「白龍先生! 白龍先生じゃないか!」

「先生、エキストラ出演おめでとう!!」

「まさか先生がドライバーに出演するなんて!」

「先生が出演するならチジョー側だと思ってました」

「あ、よく見たら天鳥社長もいる!」

「いいぞー!」


 実はこのシーン、先生や阿古さんだけじゃないんだよね。

 私の隣にいるのは結さんだし、周りを一緒に避難してる高校生達は、リサちゃんやうるはちゃん、ココナちゃん達だ。

 そこにチジョーの親玉、音ルリカさん演じる悪神の放った攻撃が飛んでくる。

 なんとか直撃を避けたものの、私達はその場に倒れ込む。

 もちろん、実際に私が倒れ込んだわけじゃないけどね。


『大丈夫ですか!?』


 地べたについた私達のところにアヤナちゃん達eau de Cologneのメンバーや楓先輩、姐さんが演じる久邇秘書官が駆け寄る。


『妊婦か……』


 近寄ってきた悪神が妊婦の私に狙いを定めたのか、空から降りてゆっくりとこっちに近づいてくる。

 3人のドライバー達がそれに気がついたけど、大量のチジョーに阻まれて助けに来られない。

 ああ、撮影した時にこの後がどうなるか全部、全部、知ってるはずなのに、自然と私の胸の鼓動が高鳴っていく。


『目障りだ。死ね』


 私の手を握ったアヤナちゃんが悪神をキッと睨みつける。

 その隣で私はそっと目を閉じて祈っていた。


 助けて……。


 私がそう願った瞬間、ドス黒くなっていた八尺瓊勾玉に一筋の光がきらりと光った。

 次の瞬間、悪神の放った攻撃が何者かに弾かれてしまう。


『誰だ!?』


 そんなのもう答えは決まりきってるよね。

 お決まり中のお決まり、それでもさっきまで少し騒がしくなっていた映画館の中が嘘みたいに静かになる。


『ありがとう。君の願いのおかげで俺はここに帰って来る事ができた』


 その声に、スクリーンの中も外も全員が息を呑む。

 映画館の大きなスクリーンには、草薙剣で切り裂かれた異空間に八咫鏡を向けたくくりちゃんが演じる巫女の姿が映しだされた。


『八尺瓊勾玉が集めるのは人の悪意だけではありません。微かな希望、心ばかりの思い。それが例えどんなに小さい願いだったとしても、きっと貴方ならその声に応えて来てくださると信じていました』


 巫女様はふっと表情を崩すと、少女のような柔らかい笑みを見せる。


『お帰りなさい。ヘブンズソード、いえ……剣崎総司!!』


 画面に映し出された剣崎の姿に私も目を見開く。

 次の瞬間、映画館の中では喜びが爆発する。


「本郷、あいつやりやがったな!」

「いいぞもっとやれ!!」

「カノン様を庇って剣崎登場とかわかってやがる!!」

「結婚しろ!」

「いや、もう結婚してるって!」

「アヤナちゃんがいるのも私的にポイント高い」

「お前達が真のヒロインだ!!」

「私たちの見たかったヘブンズソードが始まった!!」


 ふふっ、みんなは気がついてないけど、私の周りにいるのはみんなあくあのお嫁さん達なんだよね。

 まぁ、1人だけ居ないけど、その人は剣崎の特等席だからいいんじゃないかな。


『グギャア!』


 感動の剣崎復活に対して、空気を読まずに襲いかかってきた一般チジョーが弾き飛ばされる。

 ふふふ、もちろん剣崎が来たって事は、ずっと一緒にいた彼女も一緒だって事だ。


「きたー!」

「ミダラー様だ!」

「やったー!」


 前作のラスボスが次回作では味方になるのは王道だよね。

 わかってても胸が熱くなる。


『ミダラー、彼女だけじゃなくて彼女達とも闘う事にもなるけどいいのか?』

『ふふ、お優しいあなたの事なのですから、きっと私や私達だけじゃなくて彼女達の事も救ってくれるんでしょう? 本当にどうしようもない人。こういうのは惚れた方が負けなのでしょうね。でも……強欲な殿方は嫌いじゃなくてよ。だって私も欲に塗れた淫らなチジョーの1人なのですもの』


 私の隣でえみり先輩が気持ちの悪いデレデレとした顔をする。

 ちょっと! 暗いからいいけど、周りのお客さん達が気がつく前にそういう顔はやめてよね!!

 じゃないと、えみり先輩が捗るだってバレちゃうよ! もう!


『『『『剣崎!!』』』』


 4人のドライバー達が声を上げて剣崎の帰還を喜ぶ。

 その声を聞いた剣崎が笑みを見せる。


『彼女の事は俺に任せろ!!』


 空から飛んできたカブトムシ型のメカがそのまま剣崎のベルトに装着される。

 自分からベルトに装着されに行くなんて、やっぱりカブトムシさんが一番剣崎にデレてる気がします。


『変……身っ!!』


 映画館の中はヘブンズソードの変身に今日一番の盛り上がりを見せる。

 ヘブンズソードに変身した剣崎はミダラーと連携して悪神を追い詰めていく。

 全てのドライバーのプロトタイプにもなっているヘブンズソードのスペックは他のドライバーと比べてもそんなに高くない。実際に格ゲーでも他のドライバーの方が尖ったステータスで強かったりする。

 しかしドライバー図鑑にも書かれているように、剣崎総司のハイスペックがヘブンズソードを全てのドライバーの中で最強に至らせているんだよね。つまり、私達の剣崎が最強ってことなんですよ!!

 だって、まだハイパーフォームどころか、アーマーパージだってしてないんだもん。


『くっ! 何故そんなに強いのに! 貴様は男なのに! その力に、欲に溺れない!!』

『ふっ、さっきミダラーが言っていたように、欲にならもうすでに溺れてるさ』


 剣崎の言葉に、ミダラーとえみり先輩がドヤ顔になる。

 ふふっ、よかったね。


『俺は君を救う。いや、君だけじゃない。そこの彼女も、そしてこのチジョー達もだ』

『『なっ!?』』


 悪神だけじゃなくて、バイコーンビートルと闘っていた荒久根なくあも驚いた顔を見せる。

 逆に橘、神代、加賀美、夜影、田島元司令の5人は、全く変わってない剣崎に対して笑みを浮かべた。


『バカな! 我らはもう多くの人間を殺した。今更どうすると言う!!』

『そんなの決まってるだろ。こうするのさ!』


 アーマーパージをしたヘブンズソードは折れたカリバーンと同化して真・ハイパーフォームへと変身する。

 うぎゃあ! まだグッズの販売も予告されてないのに、私と隣に居た姐さんは無意識のうちに財布を開いていた。


『頼むみんな! ちょっとでいいから俺にみんなのパワーを貸してくれ!!』


 それに呼応するかのように、私達も手を合わせて願う。

 剣崎総司に救われたスクリーンの中の人々と、白銀あくあに救われたスクリーンの外の人々の思いが一つになる。

 これはもう映画なのだろうか。それとも現実なのだろうか。その境界が曖昧になる。

 そんな中で私達にわかっているのは、本郷弘子がすごい監督だって事と、やっぱりヘブンズソードは最高だって事だ!!


『こ、これは!?』


 輝く八尺瓊勾玉に呼応して出来た八咫鏡が作った光の道に剣崎が呑まれていく。

 えっ? えっ? どうなったの!?

 映画館の中もスクリーンの中も剣崎が消失した事でシンとする。


『グギャア!』

『グボァ!』

『ガアアア!』


 苦しみ出したチジョー達が黒いモヤを出しながら一般人に戻って倒れていく。

 行き場を失った黒いモヤは、次の依代を探そうと、手当たり次第に一般人に向かっていく。


『させるか!』


 真っ先に気がついた橘がその黒いモヤを撃ち抜く。

 しかし撃ち抜きそびれた黒いモヤが、小さな子供へと襲いかかる。

 それを弾き飛ばしたのは意外な人物だった。


『ふふっ、相変わらず詰めが甘いんだから』

『っ!? つ……月子? お前、本当に月子なのか!?』


 淡島千霧さん演じるトラ・ウマーこと橘月子の再登場に映画館の中が沸く。


「いやったぁあああ!」

「私の見たかったライトニングホッパーが始まった!!」

「本郷、お前ならやってくれると思ってたぞ!!」

「映画はこういうのでいいんだよ!!」

「これを見るために映画館に来ました!!」


 月子は橘に向かって優しげな笑みを浮かべる。

 シーンが切り替わると、神代の前に剣を持った2人の男性が立っていた。


『大きくなったな。始』

『立て、始! 俺達がカバーするから、お前は思うようにやれ!』


 ここでまさかの石蕗さんと賀茂橋さんの登場に会場が沸く。

 でも、どうしてこの2人が……。


『父さん! それにおじさんも! わかった!!』


 ああ! そっか、そういう事か!

 私は神代の前にいる男性2人が、チジョーに殺された神代家の人達だという事に気がつく。

 こうなると次は加賀美や夜影の番だよね。


『お母さん……』

『母様……』


 加賀美や夜影はもちろんのこと、田島元司令も目にうっすらと涙を浮かべる。

 幻でも幽霊でもない。実体を持った本物だ。

 画面が切り替わると、チジョーに殺された家族達や、チジョーになって死んだ人達が人間になってそれぞれの家族や友人達のところへと戻ってくる。また別のシーンに切り替わると、病院で意識不明になっていた元チジョー達が目を覚ます。

 それだけじゃない。悪神やなくあ達に殺された人達が1人、また1人と蘇っていく。

 そして……。


『なくあ……』

『嘘……』


 殺されたはずの荒久根なくあの婚約者や家族、友人達が彼女の目の前に現れた。

 蜘蛛女の姿から人間体に戻った荒久根なくあは、涙を流してその場に膝をつく。


『何が、何が起こってる!? いや、こ、これは……そうか。そういう事か!! あ、あの男、極限まで加速させた世界を巻き戻して過去にあった事を全て、全て、最初からなかった事にしていってるのか!!』


 過去に巻き戻ったヘブンズソードが、剣崎総司がチジョーになる前の女性達を救っていく姿が悪神の頭の中に流れ込んでいく。

 やっぱり剣崎なんだよ! 剣崎最強!!

 映画館の中に謎の剣崎最強のコールが鳴り響いた。


『やめろやめろやめろおおおおお!』


 暴走した悪神の体から放たれたエネルギーが一般人を襲う。

 しかし、その攻撃を塞いだのは人の心を取り戻したチジョー達だ。


「あ、あれは、デカ・オンナー!?」

「メン・ヘラーもいる!!」

「ヤン・デ・ルー来たー!」

「それに……エゴ・イストだと!?」


 悪神から放たれた最後の攻撃を2人の女性が弾く。

 正確には彼女1人の力なんだろうど、2人の立ち位置的にはそう見えた。


「ボッチ・ザ・ワールドさんきたー!」

「母2人きたー!」

「ここで雪白美洲と小雛ゆかりコンビは熱い!!」

「うおおおおおおおおお!」


 やっぱり映画だから全員出演したいよね!!

 わかってても最高だよ!!

 だって、みんな、これが見たくてここにきてるんだもん!!


『な、なぜだ。剣崎総司、なんでお前には、そんな事ができる!?』


 小雛ゆかりさんと美洲さんはお互いに目を合わせるとこくんと頷いた。


『そんなの決まってるじゃない』

『ええ、私たちはその事をよく知っているわ』


 2人は剣崎がいつもやるように天に向かって人差し指を突き立てた。

 お母さん2人による本物のおかいつに会場が沸く。


『剣崎総司が』

『ヘブンズソードが』

『『私達の子供が最強で最高のヒーローだからよ!!』』


 もはやこの時点で大きな拍手が湧く。

 いや、みんな、まだ終わってないから、全然、終わってないからあ!!


『あ、あ、あ……』


 悪神は頭を両手で抱えると瞳を強く揺らせる。

 過去に戻ったヘブンズソードは変身を解除すると、目覚める前だった悪神を優しく抱きしめた。

 次の瞬間、大きな光に包み込まれた剣崎が悪神をお姫様抱っこして現世へと帰ってくる。

 全てが終わったかと思いきや、行き場を失った黒いモヤが一つになって大きな大蛇に変化していく。


『あれは……』

『8つの首がある蛇だと!?』

『まさか、八岐大蛇か!』


 あまりにも巨大なそれは日本だけではなく世界各地を暗黒のモヤで包み込む。

 嘘でしょ。さっきまで完全に勝ち確だと思ってたのに、一転して絶望的な状況へと突き落とされる。

 ジェットコースターみたいに揺さぶられた私達の感情はもうぐちゃぐちゃだ。


『大丈夫だ。助っ人は呼んである。いや、違うな。ドライバーは、いつだって世界の危機に現れるものだ!!』


 へ!? どういう事!?

 みんなが呆気に取られていると、空中にある次元の狭間から見覚えのある人達、いや、面影のある人達が飛び出してくる。


「3代目ドライバーきたー!」

「おい、海外版ドライバーもいるぞ!!」

「嘘だろ!?」

「全員集合だー!!」


 過去に存在した全てのドライバー達が地上に降り立つ。

 うわあああ。みんな、あの頃の髪型や服装だ!!

 姐さんはもうここで大号泣していた。


『助けにきたぞヘブンズソード!』

『誰かの危機は私達の危機だ!』

『たとえ世界が違えど、われらは同じドライバー!』

『いつだって私達ドライバーはみんなの心の側にいる!』


 新たに空間から現れた2人の男性が地面に着地する。


『おい、なんだここは!?』

『知るか! それより空を見ろ!!』


 山田君と黒蝶君の登場に映画館が沸く。

 ここで次回作の2人が来ちゃうところもわかってる!!


『よくわからねぇが、なんかやべーみたいだな』

『ああ、やるぞ!!』


 背中を合わせた2人は胸に置いた手を前に伸ばして、お互いの握りしめた凹凸型のメカをくっつける。

 2人のファンはその姿に絶叫していた。


『さぁ、いくぞ! みんな、変身だ!!』


 剣崎の掛け声で全員がベルトに手をかける。

 だから言ったんですよ。変身なんて、何回あってもいいんですから!!


『『『『『『『『『『変身!』』』』』』』』』』

「「「「「「「「「「変身!」」」」」」」」」」


 気がついたら私も含めた全員が変身と叫んでいた。

 これでもかという本郷監督の謎にかっこいいカメラワークで100人近くが変身する。

 変身したドライバーは次々と八岐大蛇へと攻撃を仕掛ける。

 しかし、圧倒的な物量とドライバーの力をもってしても八岐大蛇の凶悪な再生スピードに追いつかない。

 何度首を落としても、その隙に他の首が再生するのだ。


『みんな、同時に他の首を落とすぞ!!』

『ああ』

『おう』

『わかった!』

『了解!』


 ハイパーフォームに変身した5人の攻撃に他のドライバー達やチジョー達が攻撃を合わせる。

 みんなの攻撃で八岐大蛇の首が1本、2本と消滅していく。

 しかし、最後の攻撃が甘かったのか、ギリギリのところで一本だけ首が残ってしまう。

 ああ、このままじゃまた復活しちゃう!!

 誰しもがそう思った瞬間、一機の戦闘機が八岐大蛇へと迫る。


『我、突貫する。繰り返す。我、突貫する!』


 羽生総理だ!

 その後ろから他の戦闘機が続く。

 よく見たら、佐藤議員達じゃん……。


『総理、お供します!』

『もう我らは十分に長く生きました!!』

『この命、国民の未来のために失うのであれば、惜しくはありません!!』

『最期まで貴女と共に!!』

『今こそ、この国に生かされた感謝を返す時!!』


 うん、この人たちって、これが映画だけじゃなくて、リアルでもこれをやりそうなんだよね。

 なんでうちの祖国ってこの国に喧嘩売ったんだろ。絶対に勝てないよ。もうステイツとか極東連邦とかも変な小細工せずに諦めた方がいいと思う。祖国がうどんにされた経験者の私だから言える。

 東京湾に浮かんだ空母の甲板に立った自衛隊員や、議会にいた揚羽さんと議員全員が起立して涙を流しながら敬礼を送る姿が映った。


『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!』


 羽生総理達の特攻で八岐大蛇の首が落ちる。

 ううっ、映画の中とはいえ、せっかくみんなが助かったのに羽生総理達だけ可哀想って思っちゃった。


『あれ?』

『生きてる?』

『ええ!?』


 荒久根なくあの糸に絡まれた総理達がゆっくりと地上に降りていく。

 最終決戦の最中に、それまで敵だった奴が味方になるやつね!!

 わかりますよ!!


『嘘……だろ?』

『まだ、再生しようとしてるのか!』


 まだ再生しようとする八岐大蛇にドライバー達も驚く。

 そこに意識を取り戻した悪神が近づいてくる。


『あれは邪気が漂う天の叢雲のようなもの。それを祓うには……』


 ああ、そっか、聖剣カリバーンはもう折れちゃったもんね……。

 え? じゃあ、もう勝てないの?

 誰しもがそう思った瞬間、1人の女性が声を上げる。


『いいえ、天を切り裂く剣ならもう一つあります!!』


 巫女は剣崎に草薙剣を渡す。


『この剣の名前は草薙剣、またの名を天叢雲剣。剣崎総司、いえ、ヘブンズソード、貴方にならきっとこの剣も応えてくれるはずです』


 うんうん。私は何度も頷く。ちゃんと私は最初からわかってましたよって顔をする。

 天叢雲剣を巫女から受け取ったヘブンズソードは空高く飛ぶと、八岐大蛇の本体に向かって剣を払う。

 再生しかけていた部分の邪気が祓われるが、八岐大蛇の本体は消滅せずに再生を繰り返していく。

 ええ!? これでもダメなの!? ここで2体のチジョーが飛び出す。


『ケンザキ!』

『ワタシタチニマカセロ!』


 え? ロ・シュツ・マー!? それにクンカ・クンカーも!?

 映画館の中にいた観客達の顔が、最初の頃に出てきた2大ネタキャラが今更どうするんだって表情になる。


『クンクン、クンクン! ニオウナ! ココカ!!』


 嗅覚に優れたクンカ・クンカーは八岐大蛇の急所を見つける。

 え? 嘘でしょ?


『ウオオオオオ! ワタシヲミローーーーー!!』


 コートを開放したロ・シュツ・マーの謎の白い光に当てられた八岐大蛇の急所が剥き出しになる。

 ここに来てまさかの活躍を見せる2大ネタチジョーに観客席が掌を返したかのように沸く。


「私たちは最初から信じてたぞ」

「うんうん、うんうん」


 えみり先輩と楓先輩の2人が、クンカ・クンカーとロ・シュツ・マーの活躍に涙する。

 え? えみり先輩と楓先輩が泣くところってそこなの!?


『お母さんが言っていた』


 ここで本家のおかいつきたー!!

 映画のクライマックスに私たちのテンションも最高潮になる。


『1人でなんでもできる奴なんていない。だからみんなで助け合って生きてるんだってな!! ありがとう、みんな!!』


 ヘブンズソードの攻撃が八岐大蛇を完全に消滅させる。

 終わった。終わっちゃったんだ。

 映画館の中が大歓声に包まれる。

 他のドライバー達が元の世界へと帰っていく。

 その中の2人を剣崎達が呼び止める。


『そっちの世界も頼んだぞ』

『『ああ!』』


 ドライバーから次のドライバーへ。

 いつもならテレビが終わった後の番宣で受け継いだりするのに、ここでそれをやるからテレビで入れなかったんだ。

 2人の新ドライバーたちと握手するヘヴンズソードに観客席から大きな拍手が沸き起こる。

 平和になった世界で一緒に暮らす橘と月子。南珈琲店でいつものように料理に失敗する神代。豆腐屋を廃業した夜影は加賀美や田島元司令、お母さん達のいるSYUKUJYOへと帰った。

 そこにはボッチ・ザ・ワールド達の姿も見える。

 荒久根なくあ達は罪を犯した罰として投獄されたものの、死傷者ゼロという事もあり極刑は免れるみたいね。それに邪悪な心を無くした悪神は人じゃないから法律で裁けないし、預かった巫女が巫女見習いとして鍛えている姿が映し出される。

 そして……。


『ミダラー、ついてくるのか?』

『当然でしょ』


 バイクに乗った剣崎の背中にミダラーがピッタリと寄り添う。

 誰しもが剣崎と添い遂げたミダラーの勝ち確エンドだと思った。


『クンクン! あっちの方で、1人で泣いてるメスの匂いがしますぜ!!』

『剣崎、早くいきましょう!!』


 ええっ!? クンカ・クンカーやロ・シュツ・マーもいるの……。

 ミダラーは2人きりじゃない事にツーンとした顔をしてたけど、私の隣に座ったえみり先輩は私の勝ち確と言わんばかりにドヤ顔を決めていた。

 そういえばえみり先輩はクンカ・クンカーとロ・シュツ・マーのファンでしたね。

 4人は誰かに寄り添うために、剣崎はヒーローとして世界を回っているようだった。

 このシーンを最後にEDのテロップが流れる。


 ああ、本当に全部が終わっちゃったんだ。

 でも不思議と虚無感はない。

 大きな拍手に包まれた中、あくあ達出演者がステージの上に戻ってくる。

 あくあ達は改めてファンに感謝の気持ちを伝えると、いくつかの撮影中の裏話を話したりして楽しい余韻の時間をファンと出演者、スタッフのみんなで共有しあった。

Xアカウントです。作品に関すること呟いたり投票したりしてます。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 。・゜・(∩//∩)・゜・。
[一言] ほんでその後は大○ョッカー大首領に祭り上げられるんですね わかりますん(゜д゜)
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