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雪白えみり、私の登場まだ?

すみません。風邪ひいて寝てたので遅れました。

 小早川さん演じる夜影ミサと、玖珂レイラさん演じる人物が激しいアクションを繰り広げる。

 さすがは日本屈指のアクション女優同士だ。

 日本最高の女優と言われている小雛先輩や美洲おばちゃんですら、アクションに限っていえばこの2人には敵わないだろう。

 技のキレや魅せ方としてのカッコ良さが段違いだ。


『くっ! 体の自由が!』


 ピタリと動きが止まったバイコーンビートルに敵の攻撃が直撃する。

 一体、どうしたというのだろう?

 バイコーンビートルはハイパーフォームになると、自らを縛り付けているものを強引にパワーで振り解く。

 確かパワーだけならバイコーンビートルが5人のドライバー随一なんだよな。


『これは……糸か!?』


 バイコーンビートルは自らを縛り付けていた糸の残骸を手に取る。

 ああ、さっき扉が開いたのも、勾玉を引き寄せたのも念動力とかじゃなくて、この糸がトリックだったのか。


『ふふふふふっ、チジョーの力を研究して手に入れた副産物はどうかしらぁ?』

『蜘蛛女、貴様、やはりOJYOの残党か!』


 バイコーンビートルと殴り合えるだけのパワーとスピード。

 蜘蛛女のフィジカルは明らかに普通の人間のそれを軽く逸脱している。


『チジョー化についての研究をしていたのは、貴女達SYUKUJYOだけじゃないのよ。ただ、私達の場合は治療のためじゃなくてチジョーの力を完全にコントロールするためのものだけど』


 人格を保ったままにチジョー化できるだって!?

 くっ、そんなうらやまけしからん事ができるなら、私もロ・シュツ・マーやクンカ・クンカーの能力をフルに使ってカノンにセクハラしたい!! いっぱいしたい!!


『蜘蛛女、お前の目的はなんだ! その勾玉を手に入れてどうするつもりだ!?』

『あらぁ、そんなの決まってるじゃない。もう一度呼び出すのよ。チジョーの、本当の親玉をね』


 おお……。蜘蛛女役を演じるレイラさんが憎しみのこもった表情を見せる。

 すごいな。こんな表情もできるんだ。今までのレイラさんは、怒りを滲ませる演技を見せた事はあっても、ここまであからさまな悪感情を見せるような演技を見せた事はなかったと思う。

 これもレイラさんが、なんとかかんとか先輩に触発されたせいかもしれない。

 蜘蛛女はさっきまでの表情が嘘みたいに笑みを浮かべる。


『ふふっ、少しおしゃべりが過ぎたかしら。目的も達した事だし、私はここで引かせてもらうわ』

『待て! 蜘蛛女!!』


 たくさんスリットが入ったエロいスカートを翻した蜘蛛女は、呼び出した手下の量産型チジョーだけをその場に残してさっさと退散する。

 さすがはチジョーの力を使っているだけの事はあるな。ここぞというところの逃げ足が尋常じゃないくらい速い!!

 今は亡きエゴ・イストさんや、トラ・ウマーさんなどの逃げ足が速かったチジョー幹部達を思い出して私も感傷的な気持ちになる。

 量産型チジョーを追い払った夜影は総理と巫女様を連れてSYUKUJYOの本部で田島元司令や加賀美と合流した。


『やはり首謀者はOJYOの関係者だったみたいね』

『はい。蜘蛛女の正体はOJYOの元研究員。荒久根(あらくね)なくあで十中八九間違いないかと思います』


 とあちゃん演じる加賀美夏希が持っていた資料をテーブルの上に置く。

 ここで回想シーンが挿入されると、元研究員だった荒久根が最終決戦のどさくさに紛れて研究データとそのデータを元に作られた薬品などを車に乗せて持ち出した事が明らかになる。


『彼女がOJYOに入った理由は、自らの結婚式に乱入してきたチジョーに、結婚する予定だった相手、愛していた家族、親しかった友人、よくしてくれた会社の同僚や上司、親戚達を皆殺しにされたからです』


 蜘蛛女の壮絶な過去にみんなが悲痛な表情を浮かべる。

 おそらくその時に彼女は、荒久根なくあの心は壊れてしまったんだ。

 みんな知っての通りヘブンズソードの最終回では、剣崎とミダラーが人の心を失ったチジョー達を永遠とも言われる別次元に連れて行き、人の心が残ったチジョー達はこの世界に残り人間達との共存を目指した。

 行き場のない復讐心を抱えた荒久根なくあは、もう一度チジョーの親玉、つまり、この私が演じるミダラーがエロパワーで抑え付けている本当の親玉を召喚して復讐しようとしてるって事だろう。

 今更ながらに自分が出演したシーンと段々と話が繋がってきたぞ。


『で、あの蜘蛛女はどうしてあの勾玉を狙った? あの勾玉はなんだ?』


 夜影は巫女様へと視線を向ける。


『あれは八尺瓊勾玉。人々の感情を集める事ができる三種の神器の一つ。おそらく荒久根なくあは勾玉の力を使って人類の悪感情を集め、悪神を呼び出すためのエネルギーにしようとしているのではないかしら?』

『なるほど……しかし、勾玉の力があっても別次元との空間を繋ぐためのゲートが必要なのではないのか? 異空間とのゲートを繋げるボッチ・ザ・ワールドはもういないぞ』


 小雛先輩演じるボッチ・ザ・ワールドの名前に何人かが噴き出す。


『三種の神器、残りの二つの力を使えば可能かもしれません』


 くくりが演じる巫女様が一歩前に出て、消しゴムなどを三種の神器に見立ててみんなにわかりやすいように説明をする。


『まずは、全てを切り開く草薙剣で空中に強引にゲートをこじ開けます。ただ、ゲートを開けただけでは悪神を呼び出す事はできません。こことは違う次元、違う空間、違う摂理は無限に存在していますから。ですから八咫鏡を使って悪神のいる空間へと道筋を作るはずです。八咫鏡は己を写す鏡でもあり、自分を見つめ直す事で、何もわからない未来へと道筋を作る道具でもありますから。そして、八尺瓊勾玉で集めた悪感情のエネルギーを餌にして悪神をこちらに誘き出すのではないのかと思います。悪神にとって人間の悪感情は極上の甘味のようなもの。必ずその甘美な香りに誘われて顔を出す事でしょう』

『なるほど。理解した。だから荒久根なくあは、チジョー化させる薬品を使って騒動を起こして、人々の悪感情を集めていたと、そういう事か……』


 ほうほう。私は主要キャストの1人でありながら、他の観客席達と同じ反応でふむふむと首を縦に振る。

 メインの出演者の中で、こんなにも映画を新鮮な気持ちを楽しんでるのはガチで私くらいだと思う。


『巫女様、その草薙剣と八咫鏡はどこに?』

『草薙剣は愛知県名古屋の熱田に、そして八咫鏡は三重県の伊勢に』


 ここでシーンが再び切り替わると、さっきまで本部に居た加賀美と夜影の2人が別々に分かれて愛知と三重に向かう。どうやらドライバーに変身できる2人が、三種の神器のうちの残り二つを取りに行く事になったみたいだ。

 その次に、SYUKUJYO本部でイスをグルグルさせる田島元司令の姿が映し出される。


『やっぱりこの椅子はしっくりくるな。ははは!』


 田島司令、遊ばないでぇ!! 仕事してぇ!!

 観客席からは「加賀美ちゃん早く帰ってきてぇ」という声が飛ぶ。

 さらにシーンが切り替わると、天我先輩演じる神代始が海岸沿いにバイクを走らせる。

 一体どこに向かってるんだろう? 尾崎半島? ああ、岩手県か!

 ここで回想シーンが差し込まれると、巫女様と総理、姐さん演じる久邇秘書官と話し合う神代の姿が映し出される。


『もし、仮に悪神が復活としたとして、それを倒せるのは聖剣のみ。もしもの時のために、我々にはカリバーンが必要なのです』


 なるほど、という事はこのシーンの神代はカリバーンを取りに行ってる最中って事か。

 神代がバイクを止めると、後ろからついてきていたスーツ姿の女性達もバイクを止める。

 流石に姐さんは妊婦だし、出演シーンはさっきので終わりか。残念。


『本当にこんなところにカリバーンがあるんですか?』

『ああ』


 神代は神社を抜けると、どんどんその奥に向かっていく。

 おお? よく見ると至る所に剣が転がってる。


『木を隠すなら森の中というだろう?』

『なるほど、それは私達が探しても見つからないわけです』


 神代はどんどん山の奥に向かっていく。

 これ、天我先輩が鍛えてたからできたロケでしょ。

 目的地についた神代は地面に突き刺さったカリバーンに目を細める。

 くっ! 地面に突き刺さった剣で、元厨二病患者達が一斉に苦しみ出す。

 キラキラした純粋な目でこのシーンを楽しめるのは、厨二病を痛いと思ってない私の隣に座っているカノンくらいだ。


『あれから1年か……。剣崎、今の俺にカリバーンを持つ資格はあるのか? いや、違うな。剣を持つのに資格なんて必要ない。今の俺に必要なのは、もう一度この重みを背負う勇気と覚悟だけだ』


 神代は地面に突き刺さったカリバーンに手をかける。

 剣崎と神代の思い出が流れ込んできて何人かが涙ぐむ。

 さすがはヘブンズソードだ。私たちの感情をすぐにぐちゃぐちゃにしてくる。


『剣崎、お前との約束を果たすために俺はここに来た。お前の志を受け継ぎ、俺がこのカリバーンで悪神を討つ!』


 覚悟を決めた神代は勇気を振り絞って剣を引き抜く。

 カッケェ! もう厨二病でいいわ! 厨二病から卒業していた私たちの心の中にも厨二病だった頃の自分の純粋な心が還ってくる。

 ここで再びシーンが切り替わると、熱田で神器を巡って戦闘を繰り広げるバタフライファムの姿が映し出された。どうやら、荒久根なくあにも志を共にする仲間がいるみたいだな。

 多数に無勢、いくらバタフライファムが強くてもこの人数は無理だ。

 その隙をついて現れた荒久根なくあに草薙剣を奪われてしまう。

 

『待て! 逃げるな!! くそっ!!』


 変身を解除した加賀美は地面を叩いて悔しそうな顔を見せる。

 流石にこればかりはしゃーない。

 それに、加賀美が熱田で頑張ったおかげで、夜影は伊勢で八咫鏡を回収する事ができた。

 陸上自衛隊全面協力の下、夜影は回収した八咫鏡を陸路でSYUKUJYO本部へと運ぶ。

 もちろんその途中で荒久根なくあが襲撃してくる。うん、そんな事だろうと思ってたよ!!

 かーっ! やっぱり映画は良いね! 戦闘シーンが多くて厨二病が捗ります!!


『くそっ!』


 高速道路でスピンした自衛隊の車両が派手に回転しながら壁に激突して落下していくと、空中を飛んでいたヘリも撃墜されて味方の車両の上に墜落する。

 絶体絶命のピンチ。そこに現れたのはカリバーンを背負った神代のバイクと、剣崎のバイクに乗った橘斬鬼を演じる黛君だった。


「ハイウェイで剣を背負ってバイクとか!」

「私の厨二病が!!」


 ヤベェよ。私の厨二病もウズウズしてきだした。


『いくぞ神代!』

『ああ!』


 2人の掌にバッタ型のロボットと、ハチ型のロボットが収まる。

 きたああああ! 一斉にみんなが前のめりになる。


『『変身!!』』


 やっぱりバイクに乗りながらの変身は鉄板なんよ。これを映画館の大きなスクリーンで見るためにやってきたと言っても過言ではない。

 本郷監督わかってる。私たちは感動を噛み締めながら何度も無言で頷く。

 神代はカリバーンを振るい、襲いかかるチジョー達を薙ぎ払うと、橘はハンドルから両手を離し、両手で銃を構えてチジョーを正確に撃ち抜いていく。

 流石にあくあ様じゃないので、このシーンはどう考えてもスーツアクターによる撮影だろう。やっぱ中の人達も映画だから気合い入ってるわ。


『くっ!』


 荒久根なくあは手を伸ばして糸を出すと、空を飛んでるヘリに巻きつけて落下させようとする。

 しかし、それを見切った彼が空から飛んできて糸を槍で薙ぎ払った。


『そうはさせない!』


 バタフライファムはちょっとだけど空を飛ぶ事ができるんだよな。

 糸を薙ぎ払ったバタフライファムはそのままヘリの足を掴んでぶら下がる。

 さ、流石にこれは合成だよな? これも生身でやってるのか? や、やべぇな。

 流石にこれは勝ったでしょ。そう思った瞬間、チジョーの1人がドライバー達の攻撃を掻い潜って夜影の運転する車に体当たりした。


『くぅっ! 扉が!!』


 さっきの衝撃で扉が外れてタイヤがパンクした車がスピンする。

 夜影はなんとかハンドルを回して姿勢制御を試みるがどうにもならない。

 おまけにさっきの衝撃で故障したのか、ブレーキやサイドブレーキ、エンジンブレーキを効かせるためのシフトレバーも効かなくなったようだ。


『橘!』

『わかってる!!』


 バイクに乗った神代と橘の2人はフルスロットルで夜影の運転する車に追いつくと、その両側を挟み込んでブレーキを効かせる。さらにはヘリから飛んだバタフライファムが車のフロントに手を置くと、地面に足をつけて暴走する車両をなんとか止めようとした。

 3人の連携プレーのおかげで、夜影が運転する車両はなんとか停車する事ができたが、その隙に荒久根なくあが三種の神器、最後の一つである八咫鏡を回収する。


『三種の神器、どうやらその全てが荒久根なくあに回収されたようです』

『そう』


 SYUKUJYOの本部に残っていた田島元司令から報告を受けた総理が、巫女様にその事を伝える。

 巫女様は何か他に考えがあるのか、すぐに次の行動へと移った。


『ならば、私は更なる手を用意するのみ。総理、その間の事は頼みましたよ』

『はい! お任せください!!』


 ここで再びSYUKUJYOの本部に戻ると、帰還した夜影達が自分たちへの不甲斐なさに項垂れていた。

 その中で加賀美が最初に口を開く。 


『三種の神器は奪われてしまったけど、まだ悪神は復活してません。3人とも、僕達に落ち込んでる暇はないよ!!』


 加賀美〜! お前、強くなったな!!

 一般市民を避難誘導させるときに被ってたSYUKUJYOのヘルメットがブカブカだった時が懐かしいぜ!!

 神代、橘、夜影の3人は顔を上げると力強く頷いた。


『悪神か……。荒久根なくあはいつ、どこで、どうやって復活させるんだろうな』

『召喚に必要な悪意、それを貯めるには細かいことをするよりも、大胆に大きな事をしでかす可能性があるように思う』

『大きなイベントを狙うとか? 例えば直近で何か大きなイベントはあるか?』

『モニターに、直近のイベントを表示して!』


 田島元司令の一声で、司令室の大きなモニターに日本各地で開催するイベントが大量に表示される。


『多いわね。規模が小さいものは消して、大規模なイベントだけを表示して!!』


 一気に数が絞られた事でイベントが画面内に収まる。

 何かに気がついた加賀美が前に出ると、そのリストの中にあるイベントの一つを指差す。


『荒久根なくあが襲撃するとしたら、このイベントだ。間違いない!!』

『ああ、そうだな』

『俺もそこしかないと思った』

『私もそうだと思う』

『決まりみたいね』


 全員が顔を見合わせて頷く。

 ここでシーンが切り替わると、どこかの楽屋が映し出される。

 もしかして、お色気の着替えシーンか!? 私は自然と前のめりになった。


『せーんぱい、準備できました?』


 おっ、おっ、おっ!

 このMESUGAKI臭の漂う声は間違いない。

 eau de Cologneの来島ふらんちゃんだ!!


『そういう貴女こそ、ちゃんと準備できたの?』


 そしてこのすべての人間をダメにさせるような声の持ち主は、間違いなく城まろんさんだ。

 私は女だけど、まろんさんみたいなお姉ちゃんに養われたいです!!

 和気藹々とする楽屋の扉が開くと、何かのイベントのスタッフと思わしきお姉さんが入ってくる。


『eau de Cologneの皆さん。準備できましたか?』

『はい』


 ふぁ〜。振り向いたアヤナちゃんの顔が大きなスクリーンにアップになる。

 さすがはトップアイドルの現役JK。この大きなスクリーンで見ても毛穴ひとつすら見えない。

 思わず女性陣からため息が漏れる。

 って! ちょっと待って!

 eau de Cologneって言ったよな?

 という事は、そのまま3人はeau de Cologne役で出演してるのか! やべーな!!

 なら、さっきみんなが言ってた大きなイベントってeau de Cologneのライブって事か?

 誰しもがそう思った瞬間、見覚えのある人物がスクリーンに出てきて噴き出しそうになる。


『お集まりの皆さん! どうもこんばんは! 国営放送のアイドルアナウンサーこと、森川楓です!!』


 うん。映画を見ていた全員がなんとも言えない顔をする。

 本物のアイドルがアップで出た後にアップになるなんて、ネタにしても不憫にも程があるなと思った。

 おまけにeau de Cologneが本人役で出た後だから、楓パイセンが本人役で出ても感動もなんかちょっと薄い。


「ふふふ、どうやらみんな私の登場にびっくりして声も出ないみたいだな」


 楓パイセンが私の隣で笑み浮かべる。

 この鋼のようなメンタルが私にも欲しい。

 私は今日1日だけ楓パイセンに優しくしようと思った。


『さぁ、政府公認の第二回大規模お見合いパーティーも、ついに告白の時間となりました!!』


 ああ、なるほど。だから楓パイセンとアヤナちゃんなのね。

 それと同時に、結婚式で全てを奪われた荒久根なくあが、このお見合いパーティーを利用する事を映画を見てる私達も確信した。

 加賀美達ドライバーはSYUKUJYOと共に、急いでお見合い会場へと向かう。

 しかし、それよりも早く現れる荒久根なくあ。

 告白タイムが終わると同時に、告白に失敗した人達がチジョー化して現場は大混乱する。

 せっかく結ばれたのに命を奪われ引き裂かれる恋人達、八尺瓊勾玉の纏うオーラがドス黒く変化していく。


『ふふふっ、その幸せが反転した時、悪神へと繋がる悪感情のオーラロードが開かれる』


 くっ、間に合わなかったか! そう思った瞬間、4人の中で1番スピードのあるバタフライファムが先行してお見合い会場の中に入ってきた。

 飛べ! バタフライファム!! 私は心の中で叫んだ!!

 それに応えるようにバタフライファムがハイパーモードに変身する!


『残念でした』


 荒久根なくあは手に持っていた草薙剣を払う。

 この攻撃は自分には受け止められないと感じたバタフライファムは攻撃を回避して、地上に着地する。


『くっ!』


 空中に切り開かれた次元の狭間。


『さぁ、八咫鏡よ。悪神への道を開きたまえ』


 嫌な予感が画面越しに伝わってくるみたいだ。

 遅れて到着してきた橘、神代、夜影、田島元司令が空中を見て歯を強く噛み締める。

 次元の狭間から現れるチジョー達の大群。

 そしてその中央に一際どす黒いオーラを纏った人物がいた。


『あれが悪神か!』

『想像よりも小さいが、なんて禍々しいオーラなんだ』

『あれが全てのチジョーの元凶……』


 へへっ、ここからは知ってるぜ。

 悪神役を務める音ルリカさんが表情を歪めると大きな咆哮を上げる。


『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』


 ドスの効いた低い声がたまらない。

 ついこの前まで、別のドラマでキャピキャピしたIQ5くらいしかなさそうな捗るティンスキと同じレート帯のJKを演じてたとは思えないぜ。

 恐怖で立ち竦んだ人達を悪神がギロリと睨み。

 悪神は特徴のある八重歯を見せると、一目散にそこに向かって攻撃を振るう。


『あああああああああああ!』


 誰よりも早く動いたポイズンチャリスがその強烈な攻撃をカリバーンで受け止める。

 がんばれ! がんばれ! 何人かのTENGAガールズが悲鳴を上げた。

 悪神は自分の攻撃が受け止められた事に一瞬だけ驚く。

 その隙を彼は見逃さなかった。


『うおおおおお!』


 ライトニングホッパー渾身の銃撃を悪神は片手で弾き返す。

 ノ、ノーダメージだとぉ!? 私は心の中でモブキャラみたいなセリフを吐く。

 おいおい、ライトニングホッパーの攻撃が通用しないなんて、幾ら何でも無理ゲーすぎるだろ。


『2人とも! 悪神に通用するのはおそらくカリバーンの攻撃だけだ!! 空中に飛べる僕と遠距離攻撃のできる橘の2人で悪神に隙を作るから、神代はその隙をついて悪神を攻撃して!!』

『了解した!』

『わかった!』

『ミサさん、荒久根なくあを頼みます!!』

『わかった! そちらは頼むぞ!!』


 悪神VSポイズンチャリス、ライトニングホッパー、バタフライファム。荒久根なくあVSバイコーンビートルか。

 ここでもう一つの問題点が発生する。

 ドライバーが対応できない一般チジョー達だ。

 田島元司令やSYUKUJYOの隊員達が奮闘するも、あまりにも多勢に無勢すぎる。

 そんな危機的な状況にフォーメーションを組んだ戦闘機やヘリが飛んできた。

 おお! 自衛隊だ!! 自衛隊のかっこいい映画にハズレはない! 私はちゃんと知ってるぞ!!

 東京湾に浮かんだ空母からスクランブル発進した戦闘機が映し出される。その中には羽生総理の姿もあった。観客席から「総理何やってんの。ノリノリじゃん」って声が飛ぶ。

 まさに日本の総力をかけた決戦。しかし、悪神の圧倒的なパワーが徐々に形勢を傾けていく。


『加賀美!』

『くっ!』


 悪神の攻撃から一般市民を庇った加賀美が吹き飛ばされて意識を失ったのか、変身が解除される。


『神代! 次の攻撃、合わせろ!』

『あ、ああ!!』


 橘は一枚のカードを取り出す。


『月子。俺に力を貸してくれ!!』


 ハイパーフォームになったライトニングホッパーは、狙撃銃にトラ・ウマーのカードをスライドさせる。

 勝てる! 勝てるぞ!! みんなが拳を突き上げた!!


『ライジングショット!!』


 くっそー! 新しい販促玩具来たけどこれは許す!

 橘とトラ・ウマーのファンは絶対に買うだろうな。

 思いが籠った橘の攻撃に悪神もたじろぐ。


『うおおおおおおおおおお!』


 託された想いが神代を強くする。

 キタキタキター! ここでポイズンチャリスがハイパーモードになると、手に持っていたカリバーンが光った。


「「「「「やったか!?」」」」」


 カリバーンが悪神を切り裂いた瞬間、全員が腰を浮かせて半立ちになった。


『さっきのは効いたぞ。おかげで少しは冷静になれた』


 嘘……だろ?

 悪神の無傷な姿が映し出されると、渾身の一撃で折れたカリバーンが地面に突き刺さった。


『やはり、俺にはダメなのか……』


 半端ない絶望感に、さっきまで元気だった観客席が一斉に項垂れる。

 バタフライファムに続いてライトニングホッパー、そしてポイズンチャリスまでも、悪神の圧倒的な強さを前にして、荒久根なくあと対峙しているバイコーンビートル以外のドライバー達は一瞬のうちに倒されてしまった。

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[一言] 遅かったのはそうゆうことでしたか… くれぐれも体調には気をつけて下さいね!
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