森川楓、私達のヘブンズソード!!
『総理、こちらへ』
くくりちゃんは総理をしめ縄がかけられた洞窟へと連れて行く。
薄暗くて、狭くて、言葉では言い表せないような気味の悪さがある洞窟だ。
私は映画館の座席から画面越しにその洞窟を見てるだけなのに、心がザワついてピリピリする。
映像の中にいる羽生総理も、いつもの飄々とした感じとは違って、少し冷や汗を流してるように見えた。役を演じてるからというよりも、あれは私と同じで本能でその場の空気感に飲まれてる気がする。
うーん……深く考えると頭が疲れてきたのでやめよう。そういう検証は私の担当じゃない。
『巫女様……ここは一体?』
『天岩戸』
あれ? 天岩戸ってこんなのだっけ?
私が前に国営放送の仕事で行った時は、こんなところじゃなかった気がする。
『えっ? でも……』
『衆人の目に触れるところに本物があるとでも?』
羽生総理は言葉を発さずに口と目を開くと、驚いた表情で周囲をキョロキョロする。
あれ? やっぱりこれ、ガチで驚いてない?
『天岩戸は神ですらも開けられない不可侵の領域。それはつまり邪なるものを封印するにも適しているという事。現世から途絶し、完全に隔離した空間。もちろん、邪なるものから大事なものを守る事にもここは最も適しているという事です』
くくりちゃんはそう言って笑みを見せる。
えっ? その笑みこわ……。画面の中の羽生総理は、ごくりと生唾を飲み込む。
パワーじゃ絶対に私の方がくくりちゃんより強いはずなのに、そんなのじゃ勝てない何かがくくりちゃんにあるように見えた。
なるほど、えみりがくくりちゃんには絶対に勝てないって言ってる意味がちょっとだけわかった気がする。
『これは……』
洞窟の奥深くに祀られていた祠を見て羽生総理は息を飲む。
『強い瘴気を感じるでしょう? ここに封じられているのは日本国民の感情の揺らぎ。巫女は代々、この国に大きな災いが降りかかってきた時に、祠に祈りを捧げ、憂や悲しみ、怒りなどの悪感情を祓ってきました。しかし、ここ数日はその祈りも届かず、瘴気が止まる気配もありません。こんな事は彼がこの国を救ってから初めての事です』
うーん……憂や悲しみ、怒りというよりも、ホゲラー波の親戚みたいなハッピーオーラみたいなのしか出てないように見えるのは私だけ?
それこそ、カノンが周りに漂わせてるポワンポワンした感じのピンクオーラに近い気がする。
もし、これが映画やドラマの設定じゃなくて、本当にそういうものがあるのだとしたら、この国は本当に平和で幸せなんだろうなあと思った。
『羽生総理、何があったのです?』
『実は……』
ここで画面が切り替わると、耳に馴染むバイクのエンジン音と共に砂埃を上げながら砂漠を爆走するバイクがアップになる。
流石の私もこれには直ぐに気がついた。剣崎のバイクだ!!
いきなりの剣崎復活か!? 観客席からほんの一瞬だけ驚きの歓声が上がる。
普通、映画は静かに見るべきだが、これはドライバーの映画だ。そんな余裕なんてあるわけがない。
映画館の入り口にも大きく騒いだり暴れなきゃOKと書かれていた。
「違う……」
ん? 同じ列に座ったカノンがそう呟く。
私には何が違うのかわからないけど、クソヲタが言うのだから何かが違うのだろう。
二つ隣の席に公式以上に解像度が高い解説がいるのはありがたい。
『剣崎、お前がいなくなってから1年が経った』
おおおおおおおお! バイクのシーンに黛君、いや、橘斬鬼のモノローグが重なる。
ここで騒がなかった私も観客席のみんなはえらいと思う。
『俺はお前がいなくなった世界で、お前が守りたかった平和のために戦い続けている』
橘の目の前に人々を襲うチジョーが現れる。
バイクを止めた橘はヘルメットを脱ぐ。
め、メガネじゃなくてサングラスだと!? あの真面目な橘がアウトローになるなんてこの1年で一体何があったんですか!?
それもこの夏のめちゃくちゃ暑い時にレザーのロングコートとか。見てるこっちが汗が噴き出しそうだ。
「いてて」
姐さんを含めた数人が片腹に手を置く。
どうやら数人の女性たちが自分の過去の黒歴史を思い出して苦しんでいるようだ。
『……変身!』
ライトニングホッパーに変身した橘は手に持った銃でチジョーに威嚇射撃する。
すごい。銃を構える姿だけを見ても、橘の成長がわかる。
初期の頃と違って、立ち姿にもすごく余裕を感じた。
『手を上げろ。今ならまだ……』
『グガアアアアアアア』
警告中の橘にチジョーが攻撃を仕掛ける。
『くっ、やるしかないのか』
橘はほんの少しだけ銃口を震わせて感情のゆらめきを見せると、できるだけ苦しませないようにチジョーを一撃で仕留める。
この1年でいかに橘が成長したのかよくわかるシーンだった。
橘は剣崎がやったように、変身を解除して自らが倒したチジョーを抱き抱える。
『すまない。俺にもっと力があれば……!』
悔やむ橘の腕を先ほどまでチジョーだった女性が掴む。
『あ……あ……女、薬……』
『女? 薬?』
橘に何かを伝えようとした女性ががっくりと倒れる。
『おい! しっかりしろ! おい! おい!!』
意識不明になった女性が橘の腕の中で意識を落とす。
あれ? チジョーって倒されたら消滅するんじゃなかったっけ?
あ、それとも、チジョーになったばかりだから引き返せたとか?
確か前にそれで剣崎が奏さん演じるチジョーを救ってた気がする。
『新しいチジョーが生まれている?』
タンクトップ姿の夜影ミサが、サンドバッグの前で大量の汗を拭う。
……やっぱり小早川さんはいい体してるなあ。身長高いし、筋肉質でスレンダーだし、撮影中に薄着になるとあくあ君にずっと見つめられていたエピソードは嘘じゃないなと思った。
夜影と話している阿部寛子さん演じる田島元司令がゆっくりと口を開く。
『ええ。貴女も知っての通り、この国に残されたチジョー達は人類との共存を望み、チジョー化を治療するために日々頑張っているわ。その過程で、全てのチジョーを国が把握するために登録制になった事は覚えてるでしょ?』
『ああ、もちろんだ』
相変わらず小早川さん演じる夜影隊員はかっこいいなあと思う。
今だって観客席の何人かはうっとりした顔でスクリーンを見つめている。
男子4人に混じって女性として1人だけドライバーに変身するなんて、普通ならファンから疎まれそうなものだけど、小早川さんがかっこ良すぎてそんな気配が一向にない。
『つまり最近現れているチジョーは登録外のチジョーだという事か?』
『ええ。最初は登録しなかったチジョーたちが悪さしてるのかと思ったけど、どうやらそうじゃないみたいなのよね』
田島さんは夜影に向かって独自に調査したレポートをひらつかせる。
夜影はそのレポートを奪うと、書かれている内容へと視線を落とした。
『加賀美は?』
『すでに対応に当たってる。だが、知っての通り、この世界はチジョーの危険性がなくなった事で、人類を超越したドライバーが揃うSYUKUJYOに危機感を覚えた数人が機関の解体を迫った。今のSYUKUJYOにいるのは加賀美と相談役の私、それと複数の隊員だけ。とてもじゃないが手が足りない』
えーっ!? そんな事になってたの!?
うーん、でもまぁ、それもあり得るのかもしれない。
ドライバーの力は強力だし、自衛隊を総動員しても勝てなかったチジョーに勝てるドライバーが4人も揃ってるなんて、他国からも突かれてそうだなと思った。
『それで、私にSYUKUJYOに復帰しろと?』
『総理からの許可は得ている』
田島司令は見覚えのあるジャケットを夜影に放り投げる。
おおおおお! 1話から着てたSYUKUJYOのジャケットだ!!
途中、OJYOになってからは脱いでたから懐かしい!!
『全く、クビになって無職になったかと思いきや。せっかく見つけた新しい道を歩み始めた段階で戻ってこいとは都合がいい。しかし、いいだろう。あいつとの、剣崎との約束だしな』
剣崎が最後に夜影に言ったセリフ。
この世界を頼む。
それに対して夜影は、お前に言われなくてもそうするつもりだと答えた。
記憶力ない私でもちゃんと覚えてるぞ!!
夜影はSYUKUJYOのジャケットに袖を通す。
『やはりこれが1番しっくりくるな』
それは画面で見てる私達が1番しっくりきてると思う。
田島司令は床に置いていたジュラルミンケースを持ち上げると、パカリと開いて夜影に中が見えるように向きを変える。
『久しいな。バイコーンビートル』
夜影は自分の相棒に優しい笑みを向ける。
あの尖りまくってた夜影がこんな優しい笑顔を見せるなんて、本当に変わったなあと思った。
変わらないものがある一方で、良い方向に変わってる部分もあって、感傷的な気持ちになる。
『ところで新しい道って何? ボクサー? それともキックボクサーかしら?』
『いいや、豆腐屋だ』
そう言って夜影がバイクに貼られた夜影豆腐店のシールを剥がすと、その下に書かれていたSYUKUJYOのマークがあらわになった。
いやいやいや、お豆腐屋さんなら、さっきのサンドバッグをバンバンするシーンはいらなかったでしょ!!
これには耐えきれなかった人達がツッコミを入れ、一部の人は噴き出した。
シリアスなシーンの合間にこういうのを入れてくるところがドライバーは反則なんですよ。
『いらっしゃいませ』
ここでシーンが変わると、カウンターの向こう側からエプロンをつけた女性が笑顔を見せる。
あっ、南珈琲店だ!! って事は!?
『ランチのお客様。こちらがハンバーグランチセットの、神代スペシャルポテートゥ添えになります』
おおおおお! エプロンをつけた天我くんこと、神代始が手に持っていたランチプレートをお客様の前に並べる。
すごい! 剣崎とのファストフード店でのバイト対決では、ポテトを揚げるのが苦手だった神代が成長……って、全く成長してないじゃん!!
しかもちょっと焦げてるし!!
『すみません。やっぱり作り直します』
『いえいえ、これがいいんです。この焦げてるのが癖になるんです!!』
そう言ってお客さんは神代特製ポテートゥをムシャムシャと食べる。
キッチンに戻ってきた神代は、またやってしまったという顔を見せながらお皿を洗う。
『お兄ちゃん、どんまい』
神代は、南珈琲店のオーナーである南ハルカさんの娘でもあるカナちゃんに慰められる。
穏やかな時間を過ごす神代達を見て、私も自然とほっこりとした気持ちになった。
そんな平穏を荒立てるように、スーツを着た女性達が一斉に南珈琲店の中に入ってくる。
雰囲気からして、どうやら珈琲店のお客様って感じじゃなさそうだ。
警戒した神代がすぐにハルカさんとカナちゃんを庇うように前に出る。
『神代始さんですね』
私とえみりはその声を聞いて体をびくんとさせた。
『……お前達は誰だ?』
スーツを着た女性の1人が両手をあげて危害を加える意思はないアピールを見せると、ポケットから名刺入れを取り出して神代に自らの名刺を手渡す。
『内閣総理大臣、特任秘書官……?』
ものすごく見覚えのあるスーツを着た女性がサングラスを外す。
『ええ、総理直々の命令で君に会いにきました。内閣総理大臣、特任秘書官の久邇姉子です』
まんま姐さんじゃねーか!
って、私の隣に座った捗るがツッコミしそうになった瞬間に、姐さんに睨みつけられて大人しくなる。
幸いにも観客席はリアルチジョー、リアルデカオンナーこと姐さん登場に盛り上がっててそのやり取りには気が付いてなかった。
『この国に危機が迫ってます。どうかご協力を』
神代は少し驚いた顔を見せた後、南ハルカさんと顔を見合わせた。
スクリーンにCLOSEDと書かれた札が映し出されると、久邇秘書官と神代の2人は落ち着いた場所でお互いに向き合う。
『……なるほどな。状況は理解した。チジョーの発生が増えてるのにはニュースを見て危機感を抱いていたが、まさかそんな事になっていたとはな……』
神代は窓に視線を向ける。
その視線は、ここには居ない剣崎の姿を見つめているようだった。
『SYUKUJYOは既にバイコーンビートルの封印を解き、夜影ミサ隊員を現場に復帰させました』
『橘は?』
神代は再び視線を久邇秘書官へと向ける。
『橘斬鬼は知っての通りSYUKUJYOを解体した時に、そのドサクサに紛れて剣崎総司のバイクでライトニングホッパーを持ち出しそのまま行方をくらませました。その辺の話は、私達より、貴方の方が詳しいのではないですか?』
へえー、そうだったんだ。だから橘が剣崎のバイクに乗ってたのかー。
神代は久邇秘書官の話を聞いて静かに目を閉じる。
『みんな知ってると思うけど、近くSYUKUJYOの規模が大幅に縮小されます』
あっ、とあちゃん演じる加賀美夏希が過去の回想に登場する。
加賀美が部屋の中をぐるりと見渡すと、そこには神代、橘、夜影、田島元司令の姿があった。
『僕はSYUKUJYOの代表として、ここから離れるわけにはいきません。みんなに集まってもらったのはこの2つをどうするかについてです』
加賀美は机の上に置かれたものへと視線を落とす。
そのうちの一つは剣崎がこの世界に残していったカリバーンだ。
そして、残るもう一つはロ・シュツ・マーやクンカ・クンカーなどのチジョーの力が封じ込められたカードの束だった。
『この2つの力はとても強力です。ドライバーだけの力が政府関係者、もしくは盗み出した人に悪用されたとしても、変身権限を奪われなかった僕がどうにかできるけど、カリバーンやチジョーの力まで一緒に使われたら、僕1人じゃどうしようもない。だから政府に回収される前に、この2つを僕たちの手でどうにかしなければなりません』
神代はすぐにカリバーンを手に取る。
『神代の家は代々、このカリバーンを守り続けてきた。政府にばれない隠し場所ならいくつか心当たりがある。これは俺が責任をもってその時が来るまで封印しておこう』
神代の言葉にみんなが頷く。
しかし、問題は残されたカードの方だ。
『この力はあまりにも大きく危険だ。だからこそ、私が……』
手を伸ばした夜影より先に、橘が机に置かれたカードの束を手に取る。
『ライトニングホッパーを国に奪われる事を恐れた橘斬鬼は、より強大な力を持ったカードを司令官である加賀美から強奪して、剣崎のバイクを盗んでSYUKUJYOの本部から逃亡した。この筋書きでいいだろう』
『橘!?』
駆け寄ろうとした夜影に対して、橘が銃口を向ける。
影のある表情を見せる橘の凄みに、夜影は一歩引く。
黛君は例の深夜ドラマのおかげで、こういう表情が上手になったなと思う。
『橘、お前、1人で全てを背負うつもりか……?』
『……俺にはもう月子がいない。失うべきものがない俺が引き受ける役目だ」
月子が居ないという言葉に、橘だけじゃなくて見ている私達もダメージを負う。
『何を! それを言うなら私だって……!』
橘は夜影に向かって無言で首を左右に振る。
『月子と過ごした時間は俺にとって掛け替えのないもので、とても幸せなものだった。だからこそ、俺が行く。ずっと組織の人間として闘い続けてきた君は、剣崎が作ってくれた平和な世の中で自分のために生きて、自分なりの幸せを見つけてほしい』
剣崎のバイクに乗ってるだけの事はありますわ。
この時点で橘は覚悟を決めてたんだなと思った。
『橘……』
『神代、カリバーンを頼んだぞ』
橘の決意の強さを感じ取った神代は無言で頷く。
『ごめん。君にこんな重荷を背負わせて』
『気にするな。それに重荷と言うなら、この場でお前以上にソレを背負ってる奴はいないだろ』
そっか、そうだよね。
組織の全てを背負って自分1人で動く事の出来ない加賀美は、こうやって他のドライバー達に、神代や橘にカリバーンやチジョーの力を託す事について誰よりも悔しい思いをしているんだろうなと感じた。
『すまない。本当ならその役目は私が背負うべきなのに……』
『気にしないでください。田島元司令、加賀美や縮小されるSYUKUJYOには、まだ貴女が必要なんです。だから、どう考えても俺が背負うしかなかった。それだけの話ですから』
橘はそう言うと、持っていた銃を警報機に向けて発砲する。
施設内にサイレンが鳴り響くと同時に、橘は剣崎のバイクが置かれている場所へと走り出した。
なるほどな。橘が厨二病みたいな格好をしていたのは、こういう理由だったのか……。
回想が終わると、神代が閉じていた目をゆっくりと開く。
『しかし、最近、鳥取で橘が姿を現したとの目撃情報が入りました』
久邇秘書官はテーブルの上に橘の姿が映った監視カメラの映像から切り出した写真を置く。
それを見た神代の表情がふっと柔らかくなる。
『彼が抜け出した事情についても我々はそれなりに理解はしているつもりです』
『それでは何故、俺のところに?』
久邇秘書官は神代に対して頭を下げる。
ていうか姐さん、出番多い! エキストラ出演なのに私よりセリフ多くない!?
『君達の力を削いだ我々がお願いするのはとても恥ずべき事だと思ってる。しかし、もう一度この国のために協力してくれないだろうか? 自分勝手な事を言っているのは重々承知だ。好きになじってくれていい』
久邇秘書官の言葉に対して神代は首を左右に振る。
『気にするな。別に貴女が決めた事じゃなければ、今の総理が決めた事でもない。それに、これは俺達自身もそうするべきだと納得してやった事だ。チジョーの悪意がなくなれば、いや、実際にチジョーが人に紛れて平穏に過ごす世界になれば、次に脅威を覚えるのがドライバーの力なのは当然の事だろう。戦いから半年後、戦う事に疲れて、戦う事に怯えていたのは君たちだけじゃない』
とてもじゃないが、さっきまでポテートゥを焦がしていた人の言葉とは思えない。
神代は席を立つと、久邇秘書官に向かって手を伸ばす。
『いいんですか?』
『もちろんだ。苦しむ人々のために俺も今一度立ちあがろう。きっと、あいつなら、剣崎ならそうしただろうからな』
やっぱりヘブンズソードのドライバー達はカッケェわ。
託された思いを背負って1人で世界を裏から守り続ける橘。
最初は頼りなかったのに、自分の思いを殺してまで大きな組織を背負ってる加賀美。
あれだけ単独行動してたのに、成長して仲間を助けるためにすぐに組織に復帰した夜影。
そして理不尽に力を奪われながらも、人々のピンチのためにすぐに立ち上がった神代。
この世界に剣崎はいないけど、4人の心に剣崎を感じたのは私だけじゃないはずだ。
再びシーンが切り替わると、大量のベッドとそこに横たわる人たちの姿が映し出される。
『彼女達の意識は?』
『まだ……』
加賀美は白衣を着たSYUKUJYOの隊員と会話を交わす。
どうやら彼女達は意識を失った元チジョー達のようだ。
その証拠に、さっき橘が倒した女性が数多くあるベッドの一つに横たわっている。
『橘さんはなんて?』
『倒れる前に、女、薬と』
加賀美は考え込むような仕草を見せる。
『もし、もしもだけど、一般の女性を強制的にチジョー化させる薬があるとしたら?』
『そんな!? 絶対にあり得ません! ……いや、でも、待ってください』
白衣を着た女性には、何か思い当たる事があるみたいだ。
少し考え込むようの素振りを見せた後に、ゆっくりと口を開く。
『OJYOがチジョー化について研究していたと聞いています。そのメカニズムを分析、解読する事でドライバーシステムを使わなくても、一般隊員をチジョーと戦えるレベルまで強化できるのではないかと……。もしかしたら、その時の研究データが流出したのか、OJYOの残党がそれを使って悪さしているのかもしれません』
『バカな事を……』
加賀美は自分の後ろに立っていた隊員に視線を向ける。
『OJYOの研究データが流出してないかのチェックをお願いします。それと同時に、OJYOの隊員名簿から現在連絡のつかない人を洗い出してください。それと連絡がついた人は、今、どういう事をしているのか。それについても秘密裏に調べてください』
『はい!』
なるほどな。
つまりOJYOの残党か、OJYOの研究データを盗んだ誰かが、薬を作って、一般市民をチジョー化させてるってわけだ。そのせいで、ここ1ヶ月、新しいチジョーが発生してる事件が増え続けているという事か。
察しの悪い私でもちゃんと理解できたぞ!
ここで再び、総理と巫女様のシーンに戻る。
『何者かが悪意を持ってこの国を混沌の渦中に突き落とそうとしています。その者の目的は一つ。セイジョ・ミダラーが抑え付けているチジョーを生み出した元凶、悪神の解放でしょう』
おおー、私の隣に座っているえみりが鼻の下じゃなくて鼻先を伸ばす。
お前もちゃんと役に立ってるんだなあ。私も鼻が高いよ。
『巫女様、我らはどうすればいいのでしょうか?』
巫女様が口を開こうとした瞬間、砂利をヒールで踏む音が聞こえてきた。
『誰ですか? ここは神域ですよ!』
『ええ、知ってるわ』
私もこの声をよく知ってる。
セクシーな格好をした玖珂レイラの登場に映画館の中が沸いた。
『くっ、まさかつけられたのか!?』
『ふふっ、2人とも、もっと後ろは気をつけるべきね』
カメラのシーンが切り替わると、護衛のSP達が地面に転がった姿が映し出される。
玖珂レイラが演じる人物はゆっくりと手を前に向けるとパチンと指を鳴らす。
次の瞬間、祠に貼られていたお札が吹き飛び、その扉がゆっくりと開いていく。
『八尺瓊勾玉、みぃつけた』
その黒く澱んだ悪い笑みに私の背筋がゾクっと震えた。
玖珂レイラが演じる人物は、手をクイクイとさせると、その勾玉が震えて動き出そうとする。
『させません!』
袂からお札を出した巫女様が、再び祠を封印しようと、祠に向かってお札を投げつけた。
しかし、それよりも早く動き出した勾玉が玖珂レイラ演じる人物の手元に収まる。
『ふふっ、残念でした。こっちとしては目的のものはもう手に入ったから、どうでもいいんだけど、貴女達の事はどうしようかしら?』
玖珂レイラ演じる人物が総理と巫女様に向かって手を伸ばす。
ピンチだ!! そう思った瞬間、どこからともなく1匹の見覚えのあるクワガタが飛んできて、その手に体当たりして弾き飛ばす。
『やはり田島さんだ。読みは完璧だったな』
『誰!?』
声をかけられたその人物は笑みを浮かべる。
『SYUKUJYOの一般隊員、夜影ミサ、またの名前をマスク・ド・ドライバー、バイコーンビートルだ! 変身っ!!』
夜影隊員は手に持ったクワガタをベルトに装着すると、バイコーンビートルに変身した。
その瞬間、映画館の中が変身の大コールで沸く。
やはり、変身だ。変身が全てをどうにかしてくれる! 私は前のめりになってみんなと同じように拳を突き上げた。
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