月街アヤナ、ホームランキング。
当初の予定通りにホームランダービーが始まりました。
『さぁ、ついにホームランダービーが始まりました! ルールは簡単。2分間でより多くホームランを打った方が勝ちです!』
ふむふむ、なるほどね。
球を放り投げるのは誰でもいいらしくて、パートナーや姉妹、親に投げてもらってる選手もいるようです。
1人目、2人目とドームの中に快音を響かせては観客席から大きな歓声が沸く。
『さぁ、盛り上がってきました。ここまで最多は7本! しかし、その記録が今、破られる!! これが8本目のホームランだあ!』
『うおおおおお! もっ・と・お・か、もっ・と・お・か!』
東京ラビッツの本岡選手が8本目のホームランで最多記録を超えていく。
普段はタテジマーズしか応援しないインコさんの本岡コールに、会場に詰めかけたラビッツのファンも大きく盛り上がる。
なるほど、普段は競い合うライバルチームのファンであってもオールスターは仲間、って事なのかな?
『東京ラビッツの本岡選手、やりました! 公式記録の過去最多10本には及ばないものの。8本のホームランでついにトップに立ちましたね。解説の鞘無インコさん、先ほどのバッティングはどうでしたか?』
『いやー。熱かったなー。これはもう、ね。実況の森川アナ、今年はこの流れでついに記録更新、史上最多の11本のホームランを打つ選手が出るんとちゃいますか?』
『おおー! これは、この後に続くバッターの活躍が楽しみになってきましたね!! それでは次のバッターの紹介に移りたいと思います!』
楓さんって真面目にアナウンサーやってる時はすごくかっこいいんだよね。
それなのに、なんでたまに……その……ホ、ホゲ? ったりとかするんだろう。
「それができないから楓なんでしょ。できてたら、ベリルにも入社してないし、あくあとも結婚してないわよ」
「アヤナちゃん、楓の事で深く考えちゃダメ。時間の無駄だから。この前、なんとか賞ってのを受賞したスターズの有名な研究者さんもそう言ってたよ」
どこか達観した感じのゆかり先輩とイリアさんが、楓さんに遠い目を向けながら腕を組む。
『さぁ、これで12球団全ての代表が打ち終わりました。ここまでの最高記録は東京ラビッツの本岡選手で8本です。解説の鞘無インコさん、どうですか?』
『他にも6本、7本と打ってる選手が多くて、手に汗握る大接戦やったな!! オールアクアの選手達も、オールプラチナの選手達も、よー頑張った! おおきに! これは試合の方も期待できるでー!!』
インコさんの言葉に会場中から大きな拍手が沸き起こる。
ふふっ、他球団のファンからも愛されてるなんて、さすがはインコさんだ。
『というわけで、次は……』
え? あくあは?
普通に次のプログラムに進もうとした楓さんのアナウンスを受けて会場が大きくどよめく。
『ちょ! ちょ! 楓! あくあ君は!?』
『あくあ……君?』
大型モニターに映った楓さんがホゲった顔をする。
それを見た観客席から声が飛ぶ。
「森川ー! そういう前振りはいらないって〜!」
「いやいや、森川だから本気で忘れてるって事も……」
「流石にあの森川さんも、自分の旦那さんは忘れないでしょ!」
「いや……森川ならありえる!」
「やっぱり、あくあ様は到着できなかったのかな?」
「そんな……」
観客席の雰囲気を見ると、みんな怒ったりするわけでもなく、心配そうな顔で周辺の席の人達と話し合っていました。
あくあ……来るなら早くしなよ。
みんな、あくあが来るのを楽しみにしてるんだから。
私がそんな事を考えていると、スタジアムの中の照明が一気に落とされて観客席から悲鳴に近い歓声が上がる。
スポットライトがドームの天井に向けられると、そこが開いて空からオープンカーのように上が開いたヘリが降りてきた。
『おーっと! 愛知県に本社を置くヘブンズドライバー社さんが開発した空飛ぶ車に乗った白銀あくあさんが、愛知の夕空から太陽の光を背負ってド派手な登場だー!! ちなみにこの演出のためだけに、古くなったドームの天井を改修したそうです!!』
『うおおおおおおおおおお!』
もうすでにユニフォームに着替えたあくあは、立ち上がった状態で会場全体に詰めかけた360度のファンに向かって手を振る。
それを見たファン達が大きな歓声を返してあくあの登場を喜ぶ。
「あ・く・あ! あ・く・あ!」
「あくあ君、かっこいい!!」
「やっぱりね。私は森川がふざけた顔した時点で確信してましたよ」
「そんな事言ってさっきまでオロオロしてたじゃない」
「あくあ様が無事に辿り着けただけで感動」
ド派手にあくあをグラウンドに送り届けた空飛ぶ車は、そのまま空を飛んで帰っていく。
森川さんのアナウンスによると、新しい時代の物流サービスについての宣伝も兼ねていたらしい。
この映像は後で何度もニュース番組やワイドショーで使われそうだし、いい宣伝になっただろうなと思った。
「げげげ! 小雛先輩、なんでこんなところにいるんですか?」
「なんでじゃないでしょ! ほら、早く準備して。みんな、あんたを待ってたんだから!!」
2人のやり取りに会場から笑い声が漏れる。
『それでは、白銀あくあさんが準備をしてる間に……今からアナウンスの城まろんさんに呼ばれた人はグラウンドに出て所定のポジションについてください!!』
え? どういう事?
私は近くに居たゆかり先輩とイリアさんの2人と顔を見合わせる。
『ライト、赤海はじめさん。センター、祈ヒスイさん。レフト、なつキングこと那月紗奈さん』
まろん先輩のコールで那月さん達が会場に入ってくる。
あ、なるほど。置物だけど守備もベリルに所属してる子達がちゃんとキャスティングされてるんだ。
『ファースト、白銀らぴすさん。セカンド、猫山スバルさん、ショート、皇くくりさん。サード、ラズリー・アウイン・ノーゼライトこと、ラズ様』
あ、らぴすちゃんのユニフォーム姿かわいい!
あくあが素振りしながらデレデレした顔を見せる。
『そしてピッチャーは山田丸男さん、キャッチャーは黒蝶孔雀さんの2人です!』
2人の登場に会場にまた大きな歓声が起きる。
軽く投球練習をする山田さんと黒蝶さんの2人に、会場からも暖かな声援が飛ぶ。
『解説の鞘無インコさん。実はこの2人、今日のために半年前からこっそりと練習してきたそうですよ』
『ほんまかいな!? は〜、さすがはベリルに所属してる男子なだけはあるわ。やる気が違うやんか』
だね。ベリルの男子はあくあが引っ張ってるだけあって、みんな目標に向かってちゃんと頑張れる子達が揃ってると思う。
それはベリルに所属してる男の子達があくあの後ろ姿を見て、憧れて、憧れだけじゃ終わらなくて、その背中を目指して追いかけているからだ。
あくあの才能はずば抜けてるけど、あくあは決して孤独な王様じゃない。みんなを引っ張っていくタイプの王様だ。
たまにあくあの人並外れたそのカリスマ性が変な煽動を起こしちゃう時があるけど……それはまぁ、仕方ないよね……。
『あくあさん。一応、元プロの人に指導してもらったんですけど、打ちづらかったら言ってください!』
『焦らずに丁寧にゆっくりと投げていいからなー! 大丈夫、どんな球でも俺が全部スタンドに叩き込んでやる! バッチこーい!』
2人のやり取りにドームの中がまた大きな歓声に包まれた。
あくあはバットを振り上げると、スタンドに向かってバットを向ける。
ホームラン宣言に対して、外野席から「右方向に飛ばして!」「左方向! 左方向!」という声援が飛び交う。
ふふっ、ホームランボールをキャッチしたら、後で直接本人からサインしてもらえるんだっけ?
それなら、みんな本気になっちゃうよね。
『さぁ、それでは、ホームランダービー、最後の挑戦者は、草野球チーム、小熊ベアーズ所属の4番バッター、白銀あくあ選手です!!』
大きなモニターにカウントダウンの数字が映し出される。
それに合わせてドームに居た全員が声を重ねていく。
「「「「「「「「「「5!」」」」」」」」」」
ゆかり先輩は腕を組んでニッと片方の口角を上げる。
「「「「「「「「「「4!」」」」」」」」」」
会場にいるお客さん達は4本指を突き立ててカウントをコールする。
「「「「「「「「「「3!」」」」」」」」」」
大型モニターに映ったカノンさんとえみりさん、琴乃さんの3人が笑顔で3本指を突き立てる。
「「「「「「「「「「2!」」」」」」」」」」
実況者席にいる楓さんとインコさんも2本指を突き立ててカウントをコールする。
「「「「「「「「「「1!」」」」」」」」」」
私も一本指を突き立てると、みんなに混じってカウントをコールした。
『さぁ、始まりました! まずは初球、いきなりいったああああああああああああ! 流し打ちで左方向に飛んでいったボールがレフトスタンドに吸い込まれていくーーー!』
『バットスピードはっや!! ていうか、あくあ君って左打ちなんや!』
バットの真芯でとらえたボールが軽くレフトスタンドの中に放り込まれる。
うん、知ってた。
知ってたけど、実際に見るのはやっぱり違う。
『続いて二球目がセンター方向に……入ったぁ!』
『あくあ君、来年のドラフトで、タテジマーズが君を待っとるで!!』
ベリルの男の子達はきっと大変だろうな。
だって、このあくあに追いつかなきゃいけないんだもん。
女の子に生まれてたって、スターだったと思う。
『三球目、強引に引っ張ってライトスタンドに放り込んだあああああああ!』
『嘘やろ!? あかん、これは史上初の12球団競合ドラフト1位あるで!!』
ほんと、すごいよね。
初球から三球目まで全部ホームラン。
それも狙ったかのように、ライト、センター、レフトと打ち分けている。
ていうか、あくあの事だから完全に狙ったんだろうなぁ。
えみりさんもそうだけど、あくあもそういうところがすごく器用だよね。
「丸男、いいぞ!! どんどんこい!」
「はいっ!」
四球目はボールが右方向に切れてファール、五球目は振り遅れて内野席に飛んでいく。
『いったー! ぐんぐん伸びる! ぐんぐん伸びる! 入ったー! 2階席だー!』
『これで4本目や! いけるで!!』
続く七球目は途中でボールが詰まってあまり伸びない。
バックに走ったセンターの祈さんが楽々キャッチして、ファンサで外野席にボールを放り込む。
乙女咲での運動会の時も活躍してたし、祈さんってスポーツが全般的に得意そう。
ていうか、足、はっや!
『これは……大きいぞ!!』
『嘘やろ!?』
八球目、あくあの打ったボールがすごい軌道とスピードで飛んでいく。
私だけじゃなく、さっきまで腕を組んで余裕の表情で見ていたゆかり先輩も身を乗り出してボールの行方を見つめる。
『看板直撃ー! 文句なしのホームラン、5本目ー!!』
『これって、ホームランダービーでも賞金とか賞品とか出たりするんかな?』
看板にボールが直撃した瞬間、私とゆかり先輩は向き合って手を合わせると笑顔で飛び跳ねた。
すごい。ボールってあんなところまで飛んじゃうんだ。
続けて打ったボールは飛距離が足りずに、今度はレフトにいた那月さんがヘッドスライディングしながらボールをキャッチする。
祈さんもそうだけど、那月さんも運動神経抜群だよね。
帽子を落としながらの華麗なキャッチに会場からも声援が飛ぶ。
続けて外野に飛んできた球を、必死に走った赤海君がボールをこぼしながらもキャッチする。
その頑張っている姿に温かな拍手が送られた。
『また、いったー! 今度はライナー性のホームランだー!』
『打球速度170kmオーバーとかえっぐ! もう、プロやん。あくあ君、もうアイドルやめて本気で野球やろ。よー見たら、縦縞のユニフォームとかすごく似合いそうやで!!』
観客席から「インコー、自分のチームにスカウトするなー。せこいぞー」という声が飛び交う。
ふふっ、思わず近くにいたインコさんも吹き出す。
それに笑っちゃったのか、あくあには珍しくボテボテのゴロを打ってしまう。
ゴロを処理したらぴすちゃんは、笑顔で内野席にいた子供に向かってボールを投げる。
『7本目、今度は引っ張ってのホームランだー!』
『あくあ君って流しても引っ張っても普通にうまいんよな。あと、バットの真芯でちゃんとボールを捉えとるし、目が良くて体の使い方が上手なんやろな。これだけ連続して打ってもバッティングフォームが崩れないところを見ると、やっぱり毎日体幹トレーニングやっとるんやなってわかるもん』
一転して真面目な解説をするインコさんに会場からも「最初からちゃんと解説しろー」というツッコミが飛ぶ。
あくあはここでストップがかかったのか、現在のトップに並ぶ8本目のホームランが中々出ない。
『空調は何しとんねん! もっと仕事せえ!!』
『いやいや、インコさん、空調で飛距離が伸びたりしませんから!! って、いったー!!』
『8本目や!!』
これで現在トップの記録に並ぶ。
これって、同点だったら延長になるのかな?
そんな事を考える暇もなく、あくあは楽々と今日のトップ記録を更新する9本目のホームランを打つ。
『あくあ君がトップや! 10本目あるで!!』
『あ・く・あ! あ・く・あ!』
急に実況からただの応援団になってしまった楓さんに対して「ちゃんとやれー!」という声が飛ぶ。
って、よく見たら、隣にいたゆかり先輩とイリアさんの2人が、楓さんにヤジを飛ばしてただけだった。
『きたー! 本日、10本目のホームランだあああああああ!』
『いけるで! でも、もう時間がない!!』
あくあはバッティングフォームを崩しながらもスタンドにホームランを叩き込む。
球を投げる山田君も疲れてきたのか制球力が乱れてきたし、打ってるあくあもあくあでキツそうだ。
『山田君、おちんついて!!』
『おちんついて!? 落ち着くのはおまえや楓! ソムリエが顔を出してきとるで!』
会場全体からあくあの名前が何度も何度もコールされる。
ここまできたら記録を更新して欲しい。
モニターに出た残り時間をカウントする数字がついに二桁を切る。
もうダメかと思った瞬間、あくあは山田君に向かって一本指を突き立てた。
一球勝負。
それを見た山田君が軽く息を吸って吐く。
さっきまでのコールが嘘みたいに会場が急にシーンとして静かになる。
残り3秒を切ったところで、山田君は絶妙なコースに適度な速度の球を放り投げる。
そのボールをあくあが綺麗なバッティングで見事な角度で弾き返す。
まるでボールが爆発するんじゃないかと思うほどのインパクト音がドームの中に響き渡ると、高く伸びたボールがスタンドの中へと吸い込まれていく。
『いったあああああああああああああああああああ! 記録更新だああああああああああああ!』
『ホームランダービー、史上最多の11本! 文句なしの優勝や!!』
私とゆかり先輩、イリアさんの3人は輪になって飛び跳ねる。なんだかんだ言って、ゆかり先輩が1番喜んでる気がするけど、私はえみりさんや楓さんじゃないから、わざわざ突っ込んで拗ねさせたりはしない。
あくあはすぐに山田君に抱きついて頭をわしゃわしゃして健闘を讃えると、守備位置についた他の選手を呼んでみんなで喜び合う。
その後、みんなの輪から出たあくあはホームランダービーを競い合った選手一人一人に、頭を下げて握手をして「ありがとう」とお礼を述べていく。その姿に会場からも選手側からも拍手が起こった。
スタッフからマイクを受け取ったあくあは、会場をぐるりと見渡す。
『みんなー! 今日はオールスターゲームに来てくれて、そしてホームランダービーを応援してくれてありがとう! この後も始球式をして、途中からは実況席にもお邪魔したり、応援団なんかもやろうと思ってるから、それも楽しみにしててください!!』
っと、こうしちゃいられない。次は私の番だ。
みんなで準備していると、あくあがこっちに近づいてくる。
「アヤナ、ピッチャーとバッター、どっちがやりたい?」
「どっちでもいいけど……ファンのみんなは、ボールを投げるあくあも見たいんじゃないのかな。だから、あくあがピッチャーしてもいいよ」
「OK!」
スポットライトの当たらない端っこで、キャッチャーの防具を身につけたイリアさんが座ると、あくあと軽くキャッチボールを始める。私も素振りしとこっと。
その間に、名前をコールされたオールスターチームの選手が1人ずつ声援に包まれてグラウンドに並ぶ。
『続きまして、皇くくりさんによる国歌独唱です』
私たちも練習を止めて背筋を伸ばす。
くくりちゃんによる国歌独唱はなんかこうすごかった。
すごく神秘的というか、滅多にみられない光景にみんなが聴き入る。
国歌独唱が終わると、まろん先輩が今日のスタメンを1人ずつ発表していく。
「さぁ、いくわよ!」
ゆかり先輩の声でそれぞれがポジションにつく。
キャッチャーはイリアさん。審判はゆかり先輩。ピッチャーはあくあ。そして、バッターは私だ。
「プレイボール!」
ゆかり先輩の声で、あくあはボールを投げる。
って、はっや! 早すぎて全然打てなかった。
「ちょっと!」
マスクを外したゆかり先輩があくあに詰め寄っていく。
この時点で観客席から笑い声が漏れる。
「あんた、今のボークでしょ!!」
「えぇっ!?」
ふふっ、だめ。
私は1番バッターの人と顔を見合わせると、お互いに吹き出してしまう。
ゆかり先輩はスタッフからマイクを受け取ると観客席へと視線を向ける。
『えー、先ほどのボールはアヤナちゃんに優しくなかったので、やり直しとします!!』
「いいぞー!」
「もう、10球くらい投げさせよう!」
「始球式のやり直しとか聞いた事ないんだけど」
「選手たちもめちゃくちゃ笑ってるじゃん」
本当にやり直しの一球やるのかな?
急に始まったゆかり先輩とあくあのコントにファンのみんなも手を叩いて喜ぶ。
『小雛ゆかり審判、ここは森川楓の部屋じゃないですよー! 乗っ取っていいのは、森川楓の部屋だけです!』
『森川楓の部屋は乗っ取ってもええんかい!』
インコさんの早いツッコミに観客席からも笑い声が起きる。
自分の番組をダシに使って笑いを取るなんて楓さんもずるいって。
『選手の皆さんすみません。もう一球いいですか?』
ゆかり先輩はさっきまでと違って、申し訳なさそうに選手に聞く。
「ええよええよ。その代わり私に打たせて」
「あ、ずるい!!」
「監督、代打お願いします!」
「いやいや、ここは4番の私がみんなを代表して」
「それなら監督の私が打ちたいわ!」
「そっちのチームだけずるい。私も打ちたい!」
「いや、ここは間をとって審判の私があくあ様の球をですね」
「あくあ様の球!?」
「みんな、おちんついて〜」
「おちんついてるのも球が付いとるのもあくあ君だけや。モゴモゴ」
なんか知らないけど急に選手やスタッフ、審判の間でじゃんけん大会が始まる。
それを見ていたあくあも思わず笑ってしまう。
しばらくすると選手の1人が手を上げて喜ぶ。
あ、どうやら誰が打つか決まったみたい。
『え? 普通に140km以上出てるのやばくない?』
『あくあ君……タテジマーズの先発の枠も空けて待っとくわ。なんなら楓とダブルで頼む!』
やり直しの始球式が終わると、すぐに監督が飛び出てきて審判のゆかり先輩に謎のいちゃもんをつける。
そのせいで、また始球式を3回くらいやり直してしまう。
流石に4回目をやろうとしたところで、アナウンスのまろん先輩から叱られて普通に試合がスタートした。
「ほらほら、みんな声出していこう!!」
試合が始まった後は、私とあくあは実況席にお邪魔したり、途中から始まった応援合戦でも大きく盛り上げたりして楽しい楽しいオールスターの時間が終わった。
「サインお願いします!」
「こっちもお願いしまーす!」
「あくあ様ー!」
「アヤナちゃんー!」
時間が決まってたから仕方ないけど、最後ちょっとだけファンサをして無事にイベントを終了させる。
私が楽屋から出て帰りの車に乗ろうとしたら、待っていたあくあに声をかけられた。
「アヤナ、お腹すいてないか? 飯、食いにいこうぜ」
「あくあ……。うん、いいよ」
私はあくあと2人でタクシーに乗って、市内の歓楽街へと向かっていった。
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