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白銀結、地獄のプレゼント交換会。

「えーと、スターズの国宝は羽生総理に回収されたので、メアリー様、代わりになんかないですか? 流石に何もないのは天鳥社長が可哀想なんで……」

「そうねぇ……。天鳥社長はあくあ様のグッズは大半持ってそうだし、白龍先生の同人時代のサイン本にする? 結構レアよ!」

「ちょっとぉ!?」


 復活した白龍先生がステージに出てこようとして止められました。

 羞恥心で顔を真っ赤にした白龍先生は、両手で顔を覆い隠してカーペットの上にゴロゴロと転がる。

 良い大人があんなに恥ずかしがるなんて、同人誌がどういう内容なのかすごく気になります。


「きっと砂糖で煮詰めたような作品でしょうね」

「ええ、それも砂糖を吐くくらいゲロ甘の」

「ありそ〜」 


 メアリー様は天鳥社長に引越し祝いのプレゼントを手渡すと、自分のくじを引く。


「こ、これは!?」


 くじを見た司会のえみりさんが驚いた顔をする。

 ま、まさか、あー様の引越し祝いが当たったのでしょうか?

 全員が息を呑む。


「おめでとうございます。メアリー様!! 楓パイセンからの引越し祝いです」

「あらまぁ」


 その場にいた全員が一斉にズッコケそうになる。

 えみりさんがすごくキリッとしたお顔をしてたから、確実にあー様からの引越し祝いかと思いました。


「メアリー様、大当たりですよ!! おめでとうございます!!」

「大外れの間違いじゃないの?」

「ゆかり先輩、しーっ!」


 楓さんはどんな引越し祝いを選んだのでしょうか。

 全く想像ができません。

 えみりさんはメアリー様に引越し祝いのプレゼントが入った袋を手渡す。


「ふふっ、何が入ってるのかしら。楽しみねぇ〜」


 メアリー様は袋の紐を解くと、中に入っていたものを取り出してみんなに見せる。

 紙……? なんの紙でしょうか?

 最初は楓さんの始末書かと思ったけど、よく見たら外国語のようなものが書かれています


「あら、何かしらこれ?」

「楓パイセン、説明おなしゃす」


 楓さんはステージの上に立つと、マイクを手に取る。


「皆さん、私がアラビア半島連邦に行った時、鎖骨の骨折が発覚し現地の病院で入院した時の事を覚えているでしょうか?」


 あぁ……そういえばそんな事がありましたね。

 確か番組でプロの方と本気でローション相撲をしたんでしたっけ。


「これはその時に仲良くなった現地の人からもらった権利書です」

「権利書……? 何の?」

「よく知りません!! だって、現地の言葉なんてわかんないんだもん。適当にオッケーオッケーと言っときました。大事なのは気持ちですから!!」


 楓さんの答えにみんながまたズッコケそうになる。


「あら? これ、よく見たら石油の権利書じゃない」

「「「「「石油の権利書!?」」」」」


 みんなが一斉に驚いた顔をする。

 ど、ど、どういう事ですか!?

 何をどうしたら、仲良くなっただけで石油の権利書が貰えるんでしょう。

 そもそも、もらった本人が意味がわかってないので、その全てが謎に包まれています。

 メアリー様は権利書を持ったまま再び電話をかける。


「あ、もしもし。さっき楓ちゃんから石油の権利書をもらったんだけど……」

「どわあああああ!」


 総理が再びゴロゴロと転がりながら部屋の中に入ってくる。

 普通に入ってくれば良いのに、なんで羽生総理はいつも芸人並みにオーバーリアクションをしてしまうのでしょうか? ずっと疑問に思っているのですが、誰も突っ込んでくれません。


「はぁはぁ……はぁはぁ……これって本当に、ただの引越し祝いなんだよね!? 何かの闇取引とか、真の支配者たちによる裏の世界会議とか、そういう怪しい現場じゃないよね!?」

「はい、ただのお引越し祝い交換会です!」


 羽生総理はキリッとしたえみりさんのお顔を見てゲンナリとした顔をする。


「もう何もしないでくださいね!! 絶対にですよ!!」

「総理、それフラグ……」


 羽生総理はそう言うと、メアリー様から権利書を受け取って部屋から出ていく。

 どうやら、外務省を通じて権利書について一応確認をするみたいですね。

 お疲れ様です。私はぺこりと頭を下げた。


「総理の前振りも終わった事ですし、楓パイセン、せっかくだから他になんか別のないですか?」

「うーん……あ、良いのがあった! ちょっと待ってて!」


 楓さんは一旦自分の部屋に帰ると、何かの入った箱を持ってきた。


「おっも! 何これ!?」


 えみりさんは重そうな箱を楓さんから受け取ると、メアリー様の目の前に置く。

 もしかして電化製品でも入っているのでしょうか?


「それじゃあ開けるわね」


 箱を開封したメアリー様は、中に入っていたものを取り出してみんなに見せる。


「あら、ダンベルかしら?」


 ダ、ダンベル? よく見たら、何やらプレートにサインが書いてあります。


「縁日のくじ引きで余った激レアアイテム。あの森川楓アナウンサーのサイン入りダンベルです!」

「い、いらねぇ〜〜〜〜〜!」


 ダンベルには5kgって書いてあるプレートが左右に3枚ずつ付いています。

 す、すごい。一個30kgもあるのに、メアリー様は両手に一個ずつ持って軽々と上げ下げしていました。


「ちょうど良いわね。朝トレに使わせてもらうわ。ありがとう。楓ちゃん」

「こちらこそ!」


 メアリー様の次は楓さんの番です。

 楓さんは箱の中に手を突っ込むと、中に入っている紙切れをごちゃ混ぜにしてその中の一枚を引く。


「えーと……あ、みことちゃんのだ」

「みことのプレゼントはと……あ、これだ」

 

 えみりさんは楓さんに大きな箱を手渡す。

 さっきより大きいけど、またダンベルとか……は、流石にないかな。

 一体、何が入ってるんでしょう?

 楓さんは箱を開けて中に入っていたものを取り出す。


「これ、何? パソコン……?」

「みこと〜! 説明頼む!!」

「はい」


 みことさんはステージに上がると、えみりさんからマイクを受け取る。


「あの最強のサーバー、アルティメットハイパフォーマンスサーバーで有名な最新鋭AI、量産型3510のチップが搭載された家庭用パソコンとオプションでパソコンと連動してる携帯型の腕時計です!」

「ほ〜」


 それってすごくないですか?

 楓さんはよくわかってないような顔をしてたけど、スペースシャトルにも使われてる最新鋭のAIですよ……。


「なんでよりにもよって最新のAIが一番、宝の持ち腐れになりそうなところに……」

「逆に安全じゃない? 楓なら最新鋭のAI持ってても悪用しないだろうし、どーせ、あいつなんてえっちなサイトしか見ないでしょ。逆に最新鋭のAIが入ってるなら変なウィルスにも感染しないし、詐欺サイトに飛ばされる事もないって思えば、これは当たりでしょ。私が他国の情報機関の人間なら、まず間違いなく楓のところから変なウィルスに感染させて、白銀キングダムのネットワークに入り込むわよ」

「「「「「た、確かに……!」」」」」


 小雛ゆかりさんの的確な説明にみんなが頷く。

 さすがは同じ悪夢の世代と呼ばれるだけの事はあります。

 楓さんの事がよく理解できてるんだなと思いました。


「ネットワーク? ウィルス?」

「楓パイセン、難しい事を考えたらホゲラー波が飛んできますよ。ほら、下がって下がって」


 司会のえみりさんは、頭に疑問符をたくさん浮かべる楓さんをステージの上から押し出す。

 続いて箱から紙切れを引いたみことさんは、りんさんから忍術書の引越し祝いをもらって、「これでみことも口から火が吹ける!」と、すごく嬉しそうにしていました。

 えっと……流石に本物の忍術書とかじゃないですよね?

 続くりんさんはペゴニアさんから、ペゴニアさんに1回何かお願いができる権利を貰って嬉しそうにする。


「本気の手合わせをお願いするで候」

「ふふふ……」


 一体、何の手合わせでしょうか? 将棋とか碁かな?

 続くペゴニアさんはりのんさんからの引っ越し祝いで、スナイパーライフルの形をした玩具の銃をもらっていました。

 へ〜。最近のモデルガンってすごいんですね。まるで本物みたいです。


「リノン、私だからよかったものの、次からは無難にマグカップとかにしておいた方がいいわよ」

「す、すまない。プレゼント交換なんてした事がなくて、何を贈ればいいのか分からなかったんだ……」


 続くりのんさんはるーなさんから、安眠グッズのアイマスクや耳栓のセットをもらって嬉しそうにする。

 ふふっ、あのアイマスク。あー様が芸能人の品格を競う番組でつけていたものと一緒です。

 私も、あれ買おうかな。


「私が引いたのは……ココナちゃんのだ」

「あ、それなら待って!!」


 一体、どうしたのでしょう?

 プレゼントのチェンジを申し出たココナさんは、るーなさんを連れて自分の部屋に行くと数分後に戻ってきました。


「私、るーな先輩には、ずっとゴスロリを着せたいと思ってたんだよね!」

「「「「「あ〜」」」」」


 た、確かに、よく似合ってます。

 るーなさんは、いつもパーカーとかシンプルな服ばっかり着てるから、すごく新鮮な感じがしました。

 特に差し色になっているブルーのリボンとかが、気だるげなるーなさんの魅力を引き上げている気がします。


「ありがとう。ココナちゃん。でも、るーな……1人じゃ、これ着れないかも……」

「ふふっ、それじゃあ一緒にお出かけするときには私が手伝ってあげるね!」


 ふふっ、数分前まで緊張感しかなかった引越し祝いの交換会が和やかな感じになってきました。


「最初からこういうのでいいんだよ!」

「それな!」


 えみりさんと楓さんのやりとりに皆さんが頷く。


「お前らがいうな!」


 それに続く小雛ゆかりさんの言葉にも皆さんが何度も頷く。


「ココナのプレゼントは……あ、白龍先生からのプレゼントだ!」


 ココナさんは、嬉しそうな顔で白龍先生からもらったあー様の衣装をみんなに見せる。

 ああ、そういえば、とあちゃん主演のフィギュアのスペシャルドラマって、白龍先生が脚本だったっけ。

 その時にあー様が劇中で使っていたトレーニングウェアです。


「えーと、白龍先生から続いた流れがここで一周まわったのかな? まだ引いてない人ー?」


 私はスッと手をあげる。

 どうやら私以外にもまだ引いてない人が9人いるみたいです。


「小雛先輩は面白そうだから最後に回すとして」

「なんでなのよ!!」

「アヤナちゃん、どうぞー!」

「わ、私!?」


 指名された月街さんはびっくりした顔でステージに上がる。


「じゃ、じゃあ、引きます」


 月街さんは箱の中から紙切れを1枚引くとみんなに見せる。


「あっ、結さんからの引越し祝いですね。えーと、これだったかな?」


 私は生まれて一度もお友達とこういうプレゼントの交換会的な事をした事がありません。

 だから、何を贈っていいのか全くと言っていいほど分かりませんでした。

 だから、私が持っているもので1番のものを引越し祝いとして選んだつもりです。


「なんだろう? ノート……日記? って、えっ!?」


 後ろに倒れそうになった月街さんをすぐにえみりさんが支える。

 えみりさんは固まった月街さんの手からノートを奪うと、その中に書かれたものを見て目を見開く。


「なっ!? あくあ様の生殖細胞だってぇぇぇええええええ!!」

「「「「「きゃ〜〜〜〜〜っ!」」」」」


 えみりさんの言葉を聞いて女性陣が一気に盛り上がると、小雛ゆかりさん以外の全員がステージの上に傾れ込む。


「しゅ、しゅごい……」

「こーれ、国宝です」

「ええ、間違いなく石油の権利書やスターズの国宝より価値があるわね」

「えっと……総理に電話した方がいいのかな? どうせあの人の事だから、2度ある事は3度あるからって外で待機してそうだけど……」

「ま、まぁ、別にいいんじゃないかな……」

「ばーか」


 うう……そんな、皆さんでじっくりと見ないでください。

 私は恥ずかしくて赤くなった顔を両手で覆い隠す。

 それを見た小雛ゆかりさんが私に話しかける。


「ねぇ、結さん。今の自分の顔、見たことある?」

「えっ?」


 小雛ゆかりさんは私に持っていた手鏡を渡してくれた。

 あ……それを見た私は一つの事に気がつく。

 私、こんな顔もできるようになったんだ……。


「あいつ、ああ見えて性格悪いから女の子の恥ずかしがる顔とか大好きだから、そういう顔をしてあげたら喜んでくれるんじゃない?」

「あ……ありがとうございます」


 そっか……。私は手鏡を返す時に、もう一度手鏡に視線を落として自分の顔を見る。

 ふふっ、私は今になって自分が普通に笑えている事に気がつきました。

 今から1年とちょっと前、笑顔の練習をしていたあの頃を思い出すと感慨深いものがあります。

 人って、嬉しいと、楽しいと、そんな事を考えなくても自然と笑顔になるんだ。


「それじゃあ、結さん。次、引いてくれますか?」

「あ、はい!」


 完全に気絶した月街さんが担架に乗せられて医務室に連れて行かれる。

 ご、ごめんね。月街さんにはちょっと刺激が強すぎたかもしれません。


「はい、どうぞ。まだ、あくあ様の引越し祝いが残ってるのでチャンスですよ!」

「が、頑張ります」


 私はくじを引くと、中身を見てびっくりした顔をする。


「あ、当たりました……ごめんなさい」

「おめでとうございまーーーーーす!!」


 わ、わ、私なんかがあー様の引越し祝いを引いてよかったのでしょうか?

 えみりさんはカランカランと鐘を鳴らすと、一番高いところにおいてあったプレゼントの袋を持ってきて私に手渡す。


「どぞー」

「あ、ありがとうございます」


 私はプレゼントの袋を開くと、中に入っていたものを取り出す。

 なんでしょうこれは? 手書きのチケットのようです。

 私は手作りのチケットに書かれている文字をよく読む。


【俺を1日自由にできる券】


 えぇっ!?

 あくあ様を1日好きにできるなんて……そんな……。


「本物の国宝きたー!」

「他国に盗まれないようにしないと!!」

「もしもし、私だけど、白銀キングダム内のセキュリティレベルを最高の6にしてちょうだい」

「いいなー!」

「結さん、それ使ってデートしなよ」

「いやいや、1日自由ですよ? そんなのアレしかないでしょ」

「えみり、お前、天才かよ……」

「私なら1日、あいつを召使にしてお嬢様だなんて呼ばせてやろうかしら。ぷぷぷ、屈辱に震えるあいつの顔が思い浮かぶわ」

「それがあくあ君にできるのはゆかりだけだって……」

「旦那様なら、むしろ喜んで素足ですら舐めそうな気がしてるのは私だけでしょうか?」

「ペゴニアに同意」


 皆さん、自分が当たったわけじゃないのにすごく嬉しそう。

 そっか……こんな人達ばかりだから、あー様も心から気を許してるんだ。

 私は皆さんの顔を見て、チケットの使い方を決める。


「ぐへへ……結さん、みんなにこっそり、何に使うか教えてくださいよ」

「私は……私はこのチケットを使って、あー様と皆さんと楽しく1日を過ごしてみたいです」


 私の答えに皆さんが驚いた顔を見せる。


「そんな事しなくても、あいつなら喜んでみんなと遊んでくれるわよ。それよりも、もっと、良い事に使いなさいよ」

「うんうん。もっと美味しい思いとかしていいんだよ!」

「そうそう、2人きりでデートとか!」

「やっぱり24時間汗だく……」

「えみり先輩、私に嫌われたくなかったら少しの間、黙ってくれます?」

「は、はひぃ……」

「ともかく、それは別にするとして、もっとこう、自分のために使っていいと思うよ」


 え、えっと……皆さん、もっと喜んでくれるのかと思ったら、思ってたのと違う反応が返ってきました。

 どうやら皆さん、もっと私に自分のために違う事に使って欲しいそうです。

 えっと、えっと、それなら、アレ、とかどうでしょう。

 私は少し頬をピンク色に染めながら、皆さんのお顔をチラチラと見つめる。


「え、えっと……それじゃあ、私、あー様と皆さんで一緒に川の字担って寝てみたいです」

「いいじゃない。ついでにここに居ないくくり様とかにも声かけといたら? ヴィクトリア様とかナタリアさんとか後宮に居る知り合いは特別扱いを拒否してこっちに参加してないけど、それくらいのご褒美はあってもいいでしょ」


 そうなんですよね。

 さすがは高貴な人達……というべきなのでしょうか。

 身分を隠すために変装して侍女をやっているえみりさん達は別として、くくり様やヴィクトリア様はもちろんのこと、ナタリアさんもこっちには参加してません。

 だからこそ、これくらいのご褒美はあってもいいはずだと思いました。


「そ、それでは、その時にあー様といい雰囲気になってる人は全員参加って事でどうでしょう?」

「「「「「「「「「「異議なーし!!」」」」」」」」」」


 どうやらこれでうまく話がまとまったみたいです。

 BERYL旅を見てた感じ、城さんや来島さん辺りも怪しいですし、もしかしたら開催までにもう少し増えるかもしれませんね。

 私は皆さんからありがとうと何度も感謝される。

 少し中断しちゃったけど、次はあー様のくじの番です。

 あ、でも、あー様が居ないのに、どうやってくじを引くのでしょう?


「ここは私が代わりに引きます。実はあくあ様からは、カノンのがダメなららぴすちゃんのを頼むと言われてるけど、ちゃんと引けるかな? 楓パイセンかカノン、代わりに引く?」

「そんな責任重大なの、私も引きたくないよ。えみり先輩引いて」

「うんうん」

「あいつって本当に嫁バカでシスコンよね」


 た、確かに……。

 男性でシスコンって珍しいけど、妹と結婚する兄は意外と多いんですよね。

 理由は妹の方がちっちゃいから自由に乱暴ができるという、とてつもなくクズみたいな理由が多かったけど……。


「それじゃあ、えみり、イっきまぁす!!」


 えみりさんは再び一連のもたついた芸を見せながら、くじの中身を勿体ぶりながら公開する。


「あ、まりんさんのプレゼントですね」

「やった〜!! これがママとあくあちゃんの絆よ〜!!」


 まりんさんからあー様への引越し祝いは、ものすごく立派な胡蝶蘭の花でした。


「ここでやっとガチのお祝いきたー!」

「まりんちゃんって昔からこういうの意外とふざけないよね」

「母様が急にポンコツになるのは、兄様が絡んだ時だけですから……」

「くっ、自分が電動で動く猫の尻尾を入れてたのが恥ずかしくなるぜ!」

「私だからいいものの、えみり先輩は本当に反省してください」

「カノン、やっぱりお前、使……」

「使わないから! ぜ・っ・た・い・に、使わないから!!」


 どうやら、まりんさんがプレゼントした胡蝶蘭は、みんなが使うこの大きなリビングに置く事になったみたいです。みんなで、あーでもないこーでもないと、リビングの中で置く場所を決める。


「これでいいんじゃない?」

「うん!」


 続いて紙切れを引いたまりんさんが、黒蝶議員からの引越し祝いを引き当てる。


「本当はまりんさんみたいにちゃんとしたものを選ぼうとしたんだけど……」

「「「「「したんだけど?」」」」」

「えみりちゃんが、こういうのはネタでいいって言うから……」

「「「「「あ」」」」」


 いったい、何を引越し祝いに選んだのでしょう?

 まりんさんは板状になった段ボールの箱を開ける。


「何これ、何これ!? あくあちゃんがスーツ着てる!!」


 今、チラッと見えた部分に何か文字が書いてあったような気がするけど、一体なんなのでしょうか?

 まりんさんが手に持っていたポスターをこちらに向ける。


【私はすべての日本国民を幸せにする!! 白銀党党首、白銀あくあ】

「「「「「「「「「「きゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」」」」」」」」」」


 スーツを着たあー様かっこいい!!

 みんなが一斉にステージに駆け寄ってポスターを近くで見る。


「で、他がこれ」


 まりんさんは次々と手に持ったポスターの順番を入れ替えて皆さんに披露する。


【日本国民よ! 私について来い! 白銀党党首、白銀あくあ】

【共に行こう! すべての日本国民よ!! 白銀党党首、白銀あくあ】

【お母さんが言っていた。ママの味はミルクの味。 白銀党党首、白銀あくあ】

 

 すごいすごい!

 スーツを着て髪をセットしたあー様がカッコ良すぎます。


「揚羽さん、これどうしたの?」

「えっと、あくあ様に協力してもらって、気がついたらえみりちゃんを入れた3人でノリノリでいっぱい作っちゃいました……」


 普段真面目な黒蝶議員でもそうやってふざける事があるんですね。

 黒蝶議員のお茶目な一面が垣間見えて、みんなが笑顔になる。


「ふぁ〜っ!」


 あれ? 総理、いつの間に居たんですか?

 総理大臣風のあー様のポスターを見た羽生総理は、担架に乗せられて谷川議員や佐藤議員に運ばれていきました。


「次の総理、決まったな」

「やめてよね。あいつが日本の総理になったら、国民の平均IQが急に5になるわよ。私、絶対に選挙に行って阻止するから」


 小雛ゆかりさんの言葉にみんなが苦笑する。

 スーツ姿のあー様はカッコよかったけど、やっぱりあー様には自分のやりたい事をやってほしいなと思いました。

 続いて揚羽さんがくじを引くと、みんなに見せる。


「あ、宮餅先生からの引越し祝いですね」


 白銀キングダムの侍従医でもある宮餅先生からの引越し祝いは、あー様とお医者さんごっこができるセットでした。


「揚羽お姉ちゃんの白衣タイツ姿とか、エッロ……」

「わかる」


 黒蝶議員は恥ずかしそうにしながらも、宮餅先生からのプレゼントをえみりさんから受け取る。

 その流れで、月街さんと羽生総理の介抱をしている宮餅先生の代わりにえみりさんがくじを引く。


「宮餅先生への引越し祝いは……あ、しとりさんからのですね」

「ふふっ、私からのプレゼント、宮餅先生は喜んでくれるかしら?」


 一体、何が入ってるんでしょう?

 しとりさんは、ひ・み・つ、というと中身を公開してくれませんでした。

 き、気になります……。


「後で宮餅先生に何もらったか聞くとして、次、しとりさんお願いします!」

「はい。私のは……リサちゃんからのね」


 リサさんからのプレゼントは、ヘアケアセットでした。

 も、もしかして、あの見事な縦ロールを作ってるのは、あの素敵な道具の数々でしょうか?


「ドライヤーとかブラシとか、結構高いのにごめんね。私もセットに苦労する方だから助かるわ」

「喜んでいただけたのなら何よりですわ」


 続けてリサさんが箱の中から紙切れを1枚引く。


「あ……わたくしが引いたのはラズ様のですわ」

「わ、私!?」


 ラズリーさんからのプレゼントは、リスナーさん達と一緒に選んだ上質なタオルのセットでした。

 本当はリスナーさんから、自分のグッズにしたらと言われたみたいですが、そういうのはファンじゃないと喜ばないから誰がもらっても使えるものにしたみたいです。


「ふふ、ありがとうございますわ」

「い、いえ……本当につまらないものでごめんなさい……」


 みんながすぐにそんな事ないよ。楓さんのダンベルやえみりさんのにゃんにゃんグッズより全然いいよとフォローを入れる。

 ラズリーさんは、えみりさんに促されて残り少なくなってきた紙切れを引く。


「えっと……うるはお姉ちゃんのです」

「やった。もしかしたらずっと引かれないのかと思って、焦ってたよ」


 うるはさんからの引越し祝いはお風呂グッズでした。

 すかさずうるはさんは、一緒にお風呂入ろうねとラズリーさんに声をかける。

 これで風呂キャンセル界隈でトレンドに入っていたラズリーさんも、喜んで自分からお風呂に入ってくれるかもしれません。


「じゃあ、次は私かな? あ……らぴすちゃんのだ。やった!」

「私ですか!?」


 らぴすさんが選んだ引越し祝いは、文房具とノートのようなものでした。


「え、えっと……その、皆さんと仲良くなるために、これで兄様の事で交換日記とかできたらいいなって思ったんだけど……ご、ごめんなさい!」

「「「「「「「「「「かわい〜〜〜〜〜!」」」」」」」」」」


 みなさん一斉にらぴすちゃんに抱きつく。

 あー様の事について、みんなで交換日誌とか絶対に楽しそうな気がします!!


「えっと、でもこれじゃあ、あんまりうるはさんへのプレゼントにならないかなって……」

「じゃあ、今度、ラズリーちゃんとお風呂に入る時に3人で一緒にはいろ。それが私へのプレゼントってことで」

「いいんですか?」

「うん!」


 うるはさんはらぴすさんとラズリーさんの2人と手を繋いで楽しそうにする。

 あー様も言っていましたが、うるはさんは本当に16歳なのでしょうか?

 なんかこう……今のメンバーの中で一番、ママでお姉ちゃんって感じがします……。


「さぁ、らぴすちゃん、どうぞ」

「はい! あ……アヤナさんのです!!」


 らぴすさんはえみりさんから月街さんの引越し祝いを受け取ると、嬉しそうに袋を開けて中身を取り出す。


「これは……ゆうおにの時に一也お兄様が紗雪と莉奈の2人にプレゼントしたお揃いのリボンです!」


 みんなが一瞬喜んだ後に、ラストのトラウマを思い出して暗い顔を見せる。

 誰かが、私たちの莉奈を返してと呟く。

 こんな中でも、元凶の1人となった紗雪を演じた小雛ゆかりさんは平然とした顔をしていました。

 ま、まぁ、らぴすさんが嬉しそうにしているのでいいとしましょう。

 できれば、あー様の実の妹であるらぴすさんがゆうおにの特級呪物を受けとって、ヤンデレ妹にならない事を祈るだけです。


「と、ここで一周回ったのかな? まだ、引いてない人ー!」

「はい!」

「はい」


 どうやら最後に残ったのは2人だけのようです。

 その2人が顔を見合わせる。


「げげっ、なんであんたが余ってるのよ」

「それはこちらのセリフですが、何か?」


 ひぇっ! 向き合った小雛ゆかりさん美洲様を見てみんなが固まる。


「ちょっと、お前ら! なんで、よりにもよって最後にこの2人を残しちゃったんだよ!!」

「仕方ないだろ。そうなっちゃったんだから!!」


 お、おかしいですね。

 夏が始まったばかりなのに、なぜかすごい寒気を感じます。

 その中で1人、平然としていたまりんさんが前に出て2人の間に入る。


「2人とも、めっ! これからは同じところで暮らすんだから仲良くしなきゃダメでしょ! ほら、えみりちゃん、2人に自分で買ってきた引越し祝いのプレゼント持たせて」

「かしこまり!!」


 完全に手下ムーブに移行したえみりさんが、そそくさと小雛ゆかりさんと美洲様の2人に引越し祝いが入った袋を手渡す。


「ほら、2人で引越しおめでとうって言ってプレゼント交換し合うの。役者として2人がライバルなのは仕方ないけど、白銀家の中にまでそれを持ち込むのは許しません!!」

「まりんお義母様、かっこいい!!」

「いいぞいいぞ!」


 まりんさんの言葉を聞いて、美洲様は軽く息を吐く。


「そうだな。私もつい意地を張って大人気ない態度をしてしまっていた。小雛ゆかり、改めてよろしく。それと、あくあ君をいつもありがとう。引っ越し、おめでとう」

「……こっちこそ、変に意地を張って悪かったわね。ここでは普通に仲良くやりましょう。あくあの事、あんたの子供だって気がついたのもなんとなく途中からだし、もっと早くに私が気がついていたら……いや、これは言い訳か。どっちにしろ、気がついてても同じ事をしたでしょうしね。だからこれについては謝らないわよ。あと……引越し、おめでとう」


 2人は表情を崩して自然な笑みを見せると、引越し祝いを交換してお互いに握手を交わす。

 それを見たえみりさんが泣きながら拍手を送ると、私たちも一斉に拍手を送った。


「いやー、よかったよかった。ところで2人とも、何もらったんです?」


 小雛ゆかりさんと美洲様はお互いに顔を見合わせると、それぞれが手に持っていた引越し祝いの袋を開封して中身を取り出す。


「何これ? まだ未公開の雪白美洲主演のドラマの映像ディスク? ふーん、これ見て私に演技を勉強しろって事かしら?」

「……放送前の小雛ゆかり主演の新作ドラマの映像ディスク? へぇ、どうやら私の演技はまだまだだから、私のを見て勉強しなさいって事かな?」


 せっかくいい感じになってたのに、再び2人の間に火花が散る。


「ひ、ひぇ〜っ!!」


 司会のえみりさんが泡を食って倒れそうになる。

 それを見た小雛ゆかりさんと美洲様の2人は、顔を見合わせるとお互いに舌を出して笑い合う。

 ど、どうやら、2人のアドリブによるドッキリだったようです。


「えみりちゃん、この程度の演技で騙されてるようじゃまだまだよ」

「小雛ゆかりの言う通りだ。えみりちゃんは器用なのとセンスがあるだけで、その場しのぎの演技も多いから、ちゃんと基礎から教えてもらった方がいい。こう見えて私は教えるのが下手だから、多分、小雛ゆかりに習った方がいいぞ」

「そ、それは嫌なので勘弁願いたく……」

「ちょっと、なんで私の指導が嫌なのよ!」


 ふふっ、ふふふふ!

 やっぱりみんなと一緒にいるの楽しいな。

 こうして無事? に、私達の白銀キングダムの引越し祝い交換会は終わりました。

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