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白銀あくあ、百貨店の仕事を受ける。

 体育祭が終わると、徐々に仕事の方も忙しくなっていく。

 平日の放課後は基本的に歌やダンスのレッスンをしたり、数時間でできるお仕事をこなしたりした。

 土日のどちらかは基本的に月9ドラマ関連の撮影がほとんどで、忙しくも楽しい日々を過ごしている。

 本国でランウェイを大成功させたジョンからは、もうMVのアートディレクションの構想や衣装のデザインが上がってきてて、今から撮影するのがとっても楽しみで仕方がない。

 俺もモジャさんから現時点での構想を聞かせてもらったが、新曲のMVはかなりの衝撃作になるだろう。そのお披露目のために、阿古さんは一番視聴率が高い時間帯のCMの枠を4分近くも買い取って、全テレビ局で同一時間帯にMVをCMとして丸ごと放送するらしい。そんな前例のないことをやろうとしている事を聞かされて、俺はとてもワクワクした気持ちになった。

 しかし、それをやるにあたって問題になるのが資金力である。

 ゴールデンタイムに各局4分も確保するとなると、おそらくはかなりの金額が必要だろう。

 もちろん金額だけじゃなく、各局同一時間帯にCMを流してもらうとなるとテレビ局側に対して強いコネが必要になってくるんじゃないだろうか?


「そういうわけなので、以前話したように今回の件に関しては私の元いた会社を頼ることになりました」


 阿古さんは元々財閥系の大手広告代理店勤務だ。

 テレビ局との間に代理店を絡ませる事で、局側との調整や交渉をスムーズに行なうつもりらしい。


「その代わり見返りとして、先日も説明しましたがあくあ君には幾つかの案件を受けてもらう事になります。すみません、私の力不足のために……」

「阿古さん、むしろ俺のために色々と動いてくれていつもありがとうございます。俺としてはこういう事はもちつもたれつの関係だと思っているので、お互いに協力してよりよいものを作り上げていきましょう。それと、案件の内容も確認しましたけど、どれもすごく面白そうだなって思ったのでお受けしたいと思います」


 俺は阿古さんから手渡された案件の資料に再び視線を落とす。

 どの案件も、阿古さんが働いていた広告代理店をグループ企業とする、藤財閥関連のお仕事だった。

 藤グループはこの国有数の財閥で、その関連企業は100を超えると言われている。


「そう言ってくれるとありがたいわ。それと昨日も言ったけど一番近い案件になるとこれね」


 阿古さんはその中から一枚の紙を手に取ると、俺の目の前に置く。

 案件の依頼主は、藤百貨店、全国各地にある有名デパートの一つだ。


「阿古さん……俺、コロールと専属契約しているのに大丈夫なんですか?」


 普通、百貨店とのお仕事になるとメインの衣服関係の仕事も絡むだろうから、コロールとの契約を考えたら難しいんじゃないのかと思った。


「大丈夫。双方に確認したけど、藤百貨店ではコロールも取り扱っているし、コロール側も大元のグループ企業が保有する他のブランドや、コロールが現時点でコラボレーションしているブランドであれば問題ないと聞いています」


 俺は改めて案件の詳しい内容へと視線を向ける。

 そこに書かれていたのは、百貨店に若者を呼ぶためのPRのアイコンに俺を起用したいとのことだった。特に藤百貨店は百貨店の中でも格式が高く、比較的、年齢層の高いお客様が多い。だから、若者が多く集まる地区で営業している藤百貨店のイメージをガラリと変えるために、長らく改装工事をしていた。外壁から内装、中に入っているショップまで一新するのはもはや改装工事を通り越えて、新規オープンと言っても過言ではないだろう。

 その改装工事がついに終わったらしく、いよいよ来週の週末に正式にオープンするそうだ。


「あと、森長さんの方にも確認を取りましたが、こちらも自社が新たに出店する森長の百貨店向け高級路線のビスケットの紹介をしてくれるのであれば、ビスケット以外の食品の紹介に関しては問題ないそうです」


 そういえばそれとは別に、森長さんのその仕事もあるんだった……。

 この前もクッキーを作る動画を撮影してyourtubeの森長公式チャンネルであげたり、ちょくちょく案件の仕事をやらせてもらっている。


「そういうわけで、お母様からはすでに許可を取ってありますが、当日の朝早くに撮影することになると思いますが大丈夫ですか?」

「大丈夫です。どうせその日は体育祭の振替休日ですし、お休みの予定でしたから」


 案件の資料を見ると、集合時間は朝の5時だった。

 そこから少し打ち合わせをして、朝の時間帯、6時から9時にかけて撮影が行われる。

 それもただの撮影ではない。各局テレビ局をハシゴして、番組内に設けられた特集コーナーの中で、生中継で当日オープンの藤百貨店の魅力を伝えるつもりだ。その中には、まさかの国営放送までラインナップされている。国営放送は普通こういう民間企業の宣伝になりそうな事には絡まないはずなんだが、どうするつもりなんだろう?


「国営放送ではショーの時に声をかけてくれた、森川アナウンサーが担当してくれるそうです」


 へぇ、そうなんだ。森川さんは知らない仲じゃないから結構やりやすいかも。

 この前もわざわざ変装してまでお店に来てくれたし、森川さんは元気があってアグレッシブな一面もあるが、基本的には優しくて穏やかな感じの人だ。


「国営放送の内容は、百貨店内の美術サロンからの中継になります。これも前回のランウェイに続いて、スターズとの友好記念によるものなので企画が通りました。サロンではスターズの新進気鋭のアーティストの作品が展示されるので、あくあ君にはそれを紹介してもらうことになると思います」


 おそらく広告代理店を務める藤さんは、この案件を仲介することで俺の顔を各局テレビと繋ぐだけではなく、国営放送ともより強い結びつきができるように画策してくれているのだろうと思う。

 何故ならお金と交渉、各番組のスポンサー次第でどうにかなる民間の放送業者とは違って、そもそもな話、国営放送にはCMの枠自体がないから俺のMVを流すことが難しい。おそらく藤さんは、そこをどうにかして打開しようとしているのではないだろうかと思う。


「わかりました。改めて予定を見ると結構大変そうな感じですけど頑張ります」


 予定の進行表を見る限り、ある程度のゆとりは持たせてくれているがかなりのハードスケジュールだ。

 それどころか全ての中継が生放送だという事を考えると、この予定表通りに進まない事も考えれるだろう。

 でも、面白そうなのでやってみたいと思った。

 それにいつかは生中継で歌を披露しなければいけないが、俺はまだテレビの生中継をちゃんとした形で経験したことがない。そう考えると、この経験はかなり大きなものになるのではないかと思った。


「それでは、このお話はお受けするということですぐに返事をしておきます。それとは別に、本日中にHP、SNS、紙媒体、新聞広告における撮影を行う必要がありますが、体力的に厳しかったり、体調が良くないなら言ってください。2、3日ならまだギリ待てるそうなので」

「大丈夫です。他の仕事もありますし、少しでも時間があるうちに撮っておきましょう」


 俺は数日前にも伝えたが、念のために今日は帰りが遅くなる事を母さんに伝えると、阿古さんの車に乗って開店前の百貨店へと向かう。

 百貨店に到着すると、今日の撮影を担当してくれるノブさんが既に待機していた。

 ノブさんは俺の案件とは別に百貨店自体の仕事も請け負っていて、今日が撮影の日だったから丁度タイミングも良かったらしい。


「そういうわけで今日もよろしくねー」

「今日もお世話になります。よろしくお願いします!」


 俺はノブさんと挨拶を交わすと、入り口で待ってくれていた藤百貨店の人たちやスタッフさん達とも挨拶を交わす。

 その後、案内された別室で撮影用の衣装に着替えると、閉鎖された開店前の百貨店の中で撮影を開始する。


「いいわぁ。ほら、もっと顎上げて、そうそう、いい感じよぉ」


 ノブさんは撮影になるとますますテンションが上がって冗舌になる。


「ンッ! 今の表情とってもいいわぁ! 世界一かっこよかったわよ!!」


 実際はどうなのかはわからないけど、そうやって褒められるとこっちもかっこよく撮ってもらおうと意識するようになるし、気分も高揚してくる。要は俺がどうこうというよりも、ノブさんの高い撮影技術と被写体をその気にさせる会話術が素晴らしいのだ。

 撮影はその後も順調に進んでいく。

 途中から着替えるのに移動する時間がもったいなく思って、上着くらいならその場で着替えてもいいかと思ったが、ノブさんに真剣な表情で止められた。


「あくあ君の腹筋は、乙女たちにはまだちょこーっと早いかもね」


 あっ……俺は、あの時のことを思い出して、慌てて脱ぎかけた上着を下ろして元に戻した。

 服飾関連の撮影を終えると、続いてデパ地下や、インテリアショップ、寝具コーナーや屋上庭園、飲食店など、至る所で撮影する。

 俺の撮影のために、それぞれのフロアショップの人も待機していてくれたらしく、ありがとうございますと感謝の言葉を述べた。


「ふぅ……なんとか一日で撮り終えたわね」


 撮影が終わる頃にはノブさんも大量の汗をかいていた。

 こんな数時間で撮影が終わるなんて、ノブさんじゃなかったら無理だった気がする。

 撮影のスケジュールはとても順調だったが、途中、寝具売り場とルームウェアの撮影では、仕事に疲れていたのか卒倒した店員さんがいてびっくりした。あの時のお姉さん、担架に乗せられてどこかに運ばれていったけど大丈夫だったかな?


「大丈夫大丈夫、若い子にはよくある事だから」


 ノブさんはそんなことを言って笑い飛ばしていた。

 藤百貨店の人たちもニコニコとしながら、大丈夫ですよと言ってたので大丈夫なのだろうとは思う。

 ともかく、なんとか百貨店での撮影を無事終えることができた。


 よしっ! 次はいよいよ初めてのテレビ生出演だし、気合入れて頑張るぞー!


 生中継前日の夜、俺はいつもより早めの夜8時にはベッドに入って就寝する。

 そして放送当日の朝を迎えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはり、生あくあを見て倒れる人が… 掲示板の住民達かな(´゜ω゜`)
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