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幕間 ペゴニア、白銀家侍女の華麗な1日。

※どう足掻いてもなろうに公開できないので幕間にしました。

「んんっ……」


 朝、目が覚めると同時に私はベッドから起き上がる。

 ふむ、今日も時間通りですね。

 私は念の為にセットしておいた目覚ましを、アラームが鳴る前に解除する。


「さてと……今日は月曜日でしたか。学校がある日ですね」


 私はメイド服に手早く着替えると、お嬢様の眠っている部屋に向かう。

 月曜日は学校が終わった後に旦那様の仕事があるから、昨晩は寝室を別にしていたはずです。


「お嬢様、起きてください。お時間ですよ」

「ふにゃ……後5分……」


 全く、元王女殿下ともあろうものが無防備な寝顔を晒して……私が男性なら襲っていますよ。

 私はお嬢様の耳元に顔を近づける。


「あっ、旦那様!」

「ふぁ!?」


 私の声にお嬢様は飛び起きる。

 あらあら、そんなに慌てて、本当にお可愛らしいことで、クスクス。


「冗談ですよ」

「むぅ……ペーゴーニーア」


 よかったですねお嬢様。

 起こしに来たのが私じゃなくて旦那様なら、確実に襲われていますよ。

 いえ……よく考えるとそちらの方がよろしいのでは?

 今度から旦那様に起こさせるようにしましょうか。

 お嬢様は寝起きを見られたくないと駄々を捏ねられるかもしれませんが、うちの旦那様ならきっと大丈夫ですよ。

 旦那様であれば確実にシーツについたお嬢様の涎も舐め取り、お嬢様がパジャマに染み込ませた汗も絞って喜んで飲んでくれます。だって、私が脱いだメイド服の腋の匂いを嗅いで喜んでた人ですよ? みなさんポンコツだからお気づきになっていないのかもしれませんが、旦那様は、()()雪白様以上の匂いがします。


「はいはい、お風呂に入って湯浴みをしましょうね」


 汗臭いお嬢様でも興奮してくれる旦那様には申し訳ありませんが、これは女が女であるための沽券に関わる問題です。好きな殿方の前ではお花のような華やかな香りや甘い匂いを漂わせていたい。これは乙女としては当然の嗜みです。

 私は脱衣所でお嬢様のパジャマを脱がせると、2人でバスタブへと向かう。バスタブの温度を確認した私は、近くに置いてあったローズエッセンスのバスオイルをたっぷりとお風呂の中に入れる。


「さぁ、どうぞお嬢様」


 軽くかけ湯をしたお嬢様はゆっくりとバスタブの中に浸かる。

 その後、体を温めてもらった後に一旦外に出てもらって私が足のつま先から頭のてっぺんまで全身を綺麗に洗い上げていく。ふぅ……我ながら今日も完璧な仕事です。


「今日もありがとう。ペゴニア」

「いえいえ、お嬢様が美しくある事は私にとっての幸せでもありますから」


 私はお風呂に浸かったお嬢様の髪の毛をヘアオイルで手入れする。

 あぁ、なんと美しいのでしょう。思わず頬擦りしたくなるほどのブロンドヘアーです。

 これには旦那様もお喜びになられる事、間違い無しでしょう。

 あ、ここは念入りにうねりがなくなるようにトリートメントしておかないと……。

 スターズに居た時は大丈夫だったのですが、森川様や雪白様とお付き合いされるようになってからこう、なんというのでしょう、アホみたいにここだけ毛がピンと出ちゃうんですよね。キリッとしていた頃のお嬢様には、こんな毛なんて出てなかったのに……。

 お風呂をでた後、私はお嬢様の髪を乾かして、学生服に着替えさせる。


「それでは失礼します」


 お嬢様が朝のチェックをしている間、私は旦那様のお部屋に向かいます。

 うん、さすがは旦那様ですね。メイドとしては、少しくらいだらしがないくらいがお世話し甲斐があるのですが、お掃除好きの旦那様のお部屋の中は全体的にちゃんとしてます。

 旦那様のパジャマを回収した私は、そこに顔を埋めて鼻から息を吸い込む。

 あぁ、たまりませんわ。このオス臭い匂い。身体の奥がキュンキュンしているのがわかるほどです。

 こんな危険なものを間違ってお嬢様が嗅いでしまったら熱を出すかもしれません。ちゃんと回収して洗濯機に入れておかないといけませんね。

 私は旦那様の寝室から出ると、回収したパジャマを洗濯機の中へと放り込む。


「あ、おはよう、ペゴニアさん」

「あら……旦那様、おかえりなさいませ」


 今日はいつもよりトレーニングに力が入ったのでしょうか。旦那様の帰りが通常より遅めでした。

 旦那様はそのままシャワーを浴びるとの事で、そそくさとお風呂場へと向かって行きます。

 うーん、どこか怪しいですね……ま、いいでしょう。誰にでも秘密の一つや二つはあるものです。

 私はキッチンに向かうと、そのまま朝食を作り始めます。

 さてと、今朝はハムエッグにしましょうか。あらよっと! 私はフライ返しでハムエッグをひっくり返す。お嬢様は片面焼きのトロトロ、旦那様は半生、私は両面しっかり焼きの硬いのが好みです。ちなみにあっちも硬い方が好きですが、それはどうでもいい話でした。うーん、どうにも先ほど旦那様の汗の匂いを嗅いでしまったせいで、私もおかしくなってるみたいですね。

 私が料理をしているとシャワーを浴びて帰ってきた旦那様と、お嬢様の2人がリビングのテーブルで談笑していました。全く、本当に仲がいいですね。


「旦那様、お嬢様、朝食のご準備が整いました」

「はーい!」

「ペゴニアさん、今日もありがとう」


 ふふっ、お嬢様ったら、子供の頃よりも子供らしくなって、それほどまでに今の生活が楽しいみたいです。よかったですね。お嬢様がちゃんと甘えられる人に出会えて、侍女である私も幸せですよ。

 それに加えて旦那様、毎日のありがとうに、ついつい私の頬も緩んでしまいます。

 でも、私のような背景にまでこういう事をするから、女の子が放っておかないんですよ。


「「「いただきまーす」」」


 私たちはいつものように3人でテーブルを囲んで食事を摂り始める。

 メイドが一緒に食事なんて普通に考えたらありえない事です。でも、旦那様にそういう常識は通用しません。


『ペゴニアさん、食事はみんなで摂ろう。それが白銀家のルールね。いい?』


 最初、旦那様からこう提案された時はびっくりしました。この人は何を言っているのだろうと思ったけど、私はその提案に対して何も言い返せませんでした。

 なぜならお嬢様がメアリーに居た時、1人で食事を食べていた時は、いつも少し寂しい気持ちになってたからです。きっとお嬢様もずっと同じ気持ちだったのではないでしょうか?

 でも……旦那様の非常識な提案のおかげで、今は私もお嬢様も、あの頃よりも遥かに楽しく食事ができていると思います。


「う〜ん! 今日も美味しい! いつもありがとうねペゴニア!」

「はい、どうも。あ……旦那様、お醤油とってくれます?」

「はいどうぞ。あ、そうだ……今日、遅くなるかも」

「わかった。それじゃあ帰ってくる時は連絡ちょうだいね」

「了解、終わったら一度電話するよ」

「うん。あ、ペゴニア、私にもお醤油頂戴」


 私達は和やかに談笑しつつ、それぞれの予定を確認し合う。と言っても今日、予定があるのは旦那様だけのようですけどね。

 食事が終わると3人で食器を洗い、後片付けをして、横に並んで歯を磨きます。


「今日は体育の授業あったっけ?」

「うん」


 旦那様は学校に行くための準備を整えるために自分の部屋に戻りました。お嬢様もそれを手伝うために一緒に旦那様のお部屋に行くのですが、ここは夫婦の時間、2人のイチャイチャタイムなので私は空気を読んで自重します。

 私は私で、その間にお二人のお弁当を準備しないといけません。


「それじゃあ行ってきますね!」

「行ってきまーす!」

「はい、行ってらっしゃいませ」


 私はお二人にお弁当を持たせてお見送りすると、残った家事を片付ける。

 本来であれば私も学校に行くのですが、今日は学校をお休みして色々と片付けなければいけない事があります。

 旦那様はともかく、ポンコツなお嬢様を1人にするのは少し不安がありますが今日は鷲宮様と黒上様と千聖様と月街様にお嬢様の面倒を見るように頼んであるので大丈夫でしょう。

 4人ともものすごく面倒見のいい人達ですから、安心して託せます。

 あとはあのポンコツ夫婦が何かやらかしても、空気の読める猫山様と黛様がうまく纏めるでしょうし、何より杉田先生がいるからどうにかしてくれるでしょう。そこは心配していません。

 私は警備システムの再確認をしたり、警備員の再配置を行うと、別の階にあるメアリー様のご自宅へと向かいます。


「ありがとうペゴニア、助かるわ」

「いえ」


 メアリー様には毎日、お嬢様と旦那様がどうだったかとか、旦那様がどうだったかの報告をします。

 一応念の為に、メアリー様の生活がちゃんとできているかどうかの確認もしますが、今までに何か問題があった事は一度もありません。

 メアリー様の侍女を務めているのはお嬢様のご友人である雪白様ですが、彼女の家事レベルは非常に高く、このプロフェッショナルな私でさえも一目置いています。

 大雑把そうに見えるのに、お掃除は私がやり方を教えてもらうほどで、お裁縫やアイロン掛けもお上手ですし、特に包丁さばきにおいては、相当なスキルを持っている私や旦那様ですら勝てません。


「メアリー様、ところで雪白様は……?」

「多分、寝てるんじゃないのかしら?」


 私はメアリー様に許可をもらって雪白様のお部屋にお邪魔します。


「ぐへへ……あくあ様しゅき……嗜みザマァ……」


 幸せそうな夢でも見てるんでしょうね。

 森川様の事を言えないくらいの、その……とても言葉では言い表せないほどのお間抜けなお顔をして寝ていました。

 このグータラな感じさえなければ、本当に侍女としては完璧なのに……。


「雪白様、雪白様、朝ですよ。起きてください」

「うーん……後5分……後5分あればあくあ様のむにゃむにゃ……」


 全くどこかのポンコツお嬢様みたいに、間抜けそうな寝言を呟やいて。

 ほら、朝ですよ〜。はいはい、起きてください。


「うう……後少しだったのに……」

「雪白様、メアリー様はもう起きてますよ。ほらちゃんと身支度を整えて、私はもう行きますからね。しっかりしてください」

「はーい……」


 私は雪白様が洗面台に向かったのを確認してから、メアリー様にご挨拶をしてお暇する。

 さてと……せっかくですし、このまま買い物に行きましょうか。

 今日は時間があるのでマンション内のスーパーではなく、最寄りの商店街に出かける事にしました。


「あら、ペゴニアさんおはよう」

「おはようございます。何かいいの入ってますか?」


 私がまず最初にやってきたのは八百屋さんだ。


「白菜、ほうれん草、キノコ類あたりは旬だし、おすすめだよ!」

「じゃあそれ全部いただきます」

「あいよ!」


 旦那様はほうれん草がお好きなので、お浸しにでもしましょうか。

 白菜はお鍋に、キノコ類もお鍋に使えますが、炊き込みご飯も悪くありませんね。

 私は八百屋でのお買い物を終えると、そのまま精肉店へと向かいます。


「ペゴニアさんいい肉入ってるよ」

「それでは豚肉を500gほどいただけますか?」

「了解、ロースでいい?」

「はい。よろしくお願いします」


 今日は少し冷えてきましたから、豚ロースでしゃぶしゃぶか、味噌鍋なんかもいいかもしれませんね。

 あ、帰りにお豆腐も買って帰らなきゃ。


「お母さんが言っていた。お豆腐は美容にも最高だってな!」


 相変わらずお豆腐屋さんはノリノリですね。

 私はお豆腐と油揚げを購入して帰路に着く。


「ただいま」


 家に帰ると、生活感と共にほのかに家庭の匂いというものを感じて気持ちが和らぐ。

 まさか自分がこんな生活を送る事ができるなんて思ってもいませんでした。

 硝煙と人の肉が焦げる匂いに囲まれていたあの頃からは想像できません。

 あの頃バディを組んでいたリノン・サージェスや私たちの指導官であったアキコ・ライバックは元気にしているのでしょうか。あの部隊はもう解散したと聞いていますが、願わくば彼女の今が、私と同じくらい幸せでありますように……。


「ふぅ……」


 軽めに昼食をとった後は、お掃除をしたり消費した生活用品を補充したり、諸々の家事を片付けをしました。

 今は3人での生活だから問題ありませんが、旦那様に奥様が増えたら今のままでは人数が足らなくなるでしょう。

 そうなったら私以外の侍女を雇い入れる事も考えなければいけませんね。

 でもそれまでは……今を楽しみたい。きっとこの3人だけの生活はそう長くないだろうけど、この時間は私にとっては大事な宝物になるだろうと思いました。


「ただいまー!」

「お帰りなさいませ、お嬢様」

「お邪魔しまーす!」


 あら……? どうやらお嬢様がお友達の森川様を家に連れてきたみたいです。


「帰り道に子供と本気で遊んでる大人がいると思ったら楓先輩だったの」

「えへへ、公園でランニングしてたら、ホゲ川だって子供に絡まれちゃって、いやぁ、人気者は辛いです」


 森川様、照れるのは構いませんが、それ絶対に子供に小馬鹿にされてると思いますよ。

 後、有名人なんだからもうちょっと行動には気をつけた方がいいかと……。少なくともお嬢様が言うように、貴女のフィジカルで子供と本気で鬼ごっこするのは相当大人気ないですよ。


「せっかくだから晩御飯食べていきなよ。後でえみり先輩も呼ぶから」

「うん、あ……それとさ、今度の国営放送の番組なんだけど、今度あくあ君と一緒にでない?」

「うーん、どうしようかなぁ。この前、あくあと一緒に雑誌のインタビュー受けたばっかだし、あんまり私が前に出過ぎるのは良くないと思うんだよね。ま、考えておくわ。って、そういえば前にやりたいって言ってた番組はどうなったの?」

「あー……プロフェッショナル森川楓ね。鬼塚先輩に秒で却下されたわ。頑張って企画考えたのに、お前がプロフェッショナル? って首まで傾げられたし、ムキーっ!」


 鬼塚アナの判断は間違ってないと思いますよ。

 ほら、お嬢様もうんうんと頷いています。


「あ、あくあから電話」


 お嬢様は嬉しそうに電話に出る。全く、もう結婚してから一月は経ってると言うのに、電話一つで恋する乙女の表情をして、ふふっ、幸せそうで何よりです。


「なんか早く帰れるようになったみたい。姐さんも来るみたいだし、どうせならみんなでご飯食べるように言っておいたから」

「わかりました。それだと少しお鍋の材料が足りないかもしれませんね。下で買ってきます」

「わかった。あ……えみり先輩と一緒に、お婆ちゃんも呼ぶつもりだからよろしく」

「はい」


 仕方ありません。追加の食材は下のスーパーで買いましょう。

 流石に7人ともなると少し足りません。あ、炊飯器のご飯、足りないかもしれないから今のは外に出して、明日チャーハンにしましょうか。それで新しく炊き直してっと……早炊きなら間に合うでしょう。

 私は炊飯のボタンを押すと、下のスーパーへと向かう。

 大人組は軽くお酒を嗜むかもしれませんし、しゃぶしゃぶならビールと一応日本酒を買っておけば大丈夫でしょうか。私はお酒のコーナーへと行くと、目的の純米大吟醸へと手を伸ばす。

 すると反対側から同じタイミングで手が伸びてきました。


「あ、すみま……え?」

「こちらこそ……ん?」


 私達は顔を見合わせてびっくりする。

 190cmを超える高い身長、冬なのにショートパンツとニーハイソックス、何よりもそのムチッとした太ももと何を考えているのかわからない気だるげな表情……この私が見間違うわけがありません。


「リノン・サージェス! なぜ、貴女がここに……!」


 私は警戒を強める。リノンの得意なレンジは超長距離からの射撃、この距離であれば私に分があります。

 それでもリノンは強い。私が知る限り、今まで出会った中で本気でやべー奴らのトップ3に入る。ちなみに残り2人のうち1人はアキコさんで、もう1人は文化祭の時にえみりさんと一緒にいた小柄な女性です。

 旦那様は呑気に頭なんか撫でてたけど、アレは本当にやばい。この国は随分と緩いな。そんなことを考えていた自分を引っ叩きたくなったほどでした。あんなのが普通に外を出歩いてるこの国で、ごく普通に外を出歩いてる旦那様並みにやべーです。


「待って……敵対するつもりはない」


 リノンは両手を上げて敵意がない事を告げる。

 例の部隊は解散してますが、今のリノンの飼い主が誰かわからない以上は、その言葉だけで警戒を緩めるわけにはいけません。

 もしや、スターズがお嬢様にまたちょっかいを出そうとしてるんじゃ!?

 結婚して国を出たと言うのに、未だにお嬢様を支持する人は多いと聞きます。

 せっかく、王女じゃなくて、ただの1人の少女としてお嬢様は幸せな生活が送れているのに、もうそっとしておいてくださいよ! お嬢様を王家の呪縛に縛り付けるのはもうやめて!! 私は心の中でそう叫んだ。


「今の私はスターズの諜報員でもあり、この国の諜報員でもある。Wスパイって奴……でも本当の飼い主は、聖あくあ教……聖女エミリー、雪白えみり様だから安心して」


 は? 貴女が聖あくあ教……?

 雪白様がその面白軍団のトップを務めているとは聞きましたが、まさか貴女もその一員だと……?

 あんなのはただのネタ集団だと雪白様はおっしゃっていましたが、こんな危険な人物を飼っている集団がただのネタ軍団なわけがない。私は教団に対する評価を改めなければいけないと思いました。

 私は一旦警戒を緩めると、お互いにまずは買い物を終わらせる。

 そしてマンション裏の公園でリノンと少しだけ話をする事になりました。


「なるほど、旦那様の護衛ね……。それで旦那様は学校だけど、貴女はついて行かなくて大丈夫なの?」

「問題ない。学校にはクレアがいる。クレアが1番やばいし、あくあ様に危害が及ぶなんて事は1mmもないと約束したっていい。クレアはそんなヘマは絶対にしないし、図書館も闇聖女も奉仕者もあのクレアだから十二司教の1番を譲ってる。何より今日は学校が休みの忍者が教室の天井裏にいるから絶対にあくあ様は大丈夫」


 図書館とか闇聖女の意味はわからないけど、そういうコードネームでもあるのでしょうか?

 それにしても、クレアって千聖様の事? 普通の少女だと思っていましたが、そうではないと?

 いや……むしろこの私に、普通の少女だと認識させてる時点でやばいと言う事でしょうか。

 そう考えると冷や汗が垂れる。どうやら色々と認識を改めないといけないようですね。

 全く、スターズでは、この国は牙の抜かれた負け犬だなんて言ってた人がいましたが、とんでもない。

 白銀あくあとかいう全ての女性を視線や声だけで戦闘不能にさせる人を筆頭に、やべー人しかいないじゃないですか。


「あと今は神狩りのんと名乗ってる。リノン・サージェスは死んだ。そもそもリノン自体、私の名前かどうかわからないんだけど……」

「リノン……」

「ごめんペゴニア。あくあ様の側にペゴニアがいるのは知ってたけど、私が接触しない方がいいかと思ってずっと黙ってた。だってペゴニア、幸せそうだったから……」

「そうでしたか……。気を遣っていただきありがとうございました」


 私はリノンと軽くお話をした後にお互いの連絡先を交換しあった。

 流石に聖あくあ教の情報はあまり引き出せませんでしたが、聖あくあ教自体が旦那様に害を及ぼすつもりがない事がわかっただけでもよしとしましょう。


「それじゃあ、私はこれで……」


 リノンは私に背中を向ける。


「あ……」


 私はつい彼女を呼び止めてしまった。


「その……良かったら、貴方も一緒に晩御飯どうかしら……?」


 私は一体何を言っているのでしょうか。

 ただの侍女でしかすぎない私が、旦那様達とのお食事に旧友を誘うなんて……。


『ペゴニアさん。もし友達が居たら遠慮なく家に招いていいですからね。ここはもうペゴニアさんの家でもあるんですから』


 ここに移り住んで直ぐに旦那様から言われた言葉を思い出しました。

 私には家に招く友達なんていないから大丈夫ですよって言ったのに、旦那様はニコリと微笑むとこう言われたのです。


『たとえ今、友達が居なかったとしても、この先も居ないとは限らないでしょ。だって、俺もペゴニアさんも未来まではわからないんですから。だから、この人と友達になりたいって、そう思った人がいたら連れてきたらいいよ。あ……でも俺の審査の目は厳しいからね。うちのペゴニアは渡さん! なんて言っちゃうかも』

『ふふっ、なにそれあくあ、おかしい。じゃあ私もペゴニアは渡さんって言ってみようかな!』


 ふふっ、その時の2人の笑顔を思い出して、私も思わず笑みがこぼれてしまいました。

 お嬢様に……いいえ、身内に忖度ばかりしてる旦那様の目が厳しかったら、他の目はどうなっちゃうんですか? そんな野暮なツッコミはなしですね。


「ペゴニア?」

「リノン、よかったら今から私の家に来ませんか? 雪白様もいるし、全く知らない人ばかりではありませんよ。きっと、そうきっと、こういう時のために旦那様は、あの言葉を私にくれたんでしょうしね」


 改めてこの未来は必然だったのかもしれないと思った。

 なるほど、世界中の女性達が虜になるわけです。

 それこそうちのお嬢様くらいじゃ、旦那様からしたら朝飯前ですよ。

 私はリノンを連れて帰宅した。


「あ、ペゴニアおかえり、みんなもう揃ってるよ!」

「お帰りなさいペゴニアさん!」

「ペゴニアさん、こんなに良いお肉、本当にいいんですか? うへへ……」

「ペゴニアさんお疲れ様です。私まで晩御飯をご馳走になって、本当に大丈夫ですか?」

「お帰りなさいペゴニア、お邪魔してるわよ」

「ペゴニアさん、おかえり。買い物行ってくれたんだね。ありがとう助かるよ」


 本当に……この人達はなんなんでしょうね。

 こんなにも外は寒いのに、ここだけはなんだかとっても暖かい感じがしました。

 あと、雪白様、そんな涎垂らしたら旦那様に見られてしまいますよ。


「あの……旦那様、お嬢様、実は偶然にも下のスーパーで古い知り合いと出会いましてその……」

「ペゴニアさんの知り合い!? って、りのんさん!?」

「お久しぶりです。あくあさん」


 え? ちょっと待って、そこ面識があるんですか?

 私が疑問に思っていると旦那様がそれに気がついて答えてくれました。


「あー、実は実家がお向かいさん同士なんだよね。いやぁ、りのんさんがペゴニアさんの知り合いだったなんて驚きですよ。どうぞどうぞ中に入ってください!」

「お邪魔します……」


 なるほど、そういう繋がりがあったんですね。

 リノンは家の中に入ると、雪白様と視線が合う。


「は、初めまして……」

「? 私達なら昨日会ったばかりですが、聖……んぐっ!?」

「しーっ! 私たちは初対面、そう初・対・面だよな?」

「は、はい」

「あと間違ってもその二つ名では呼ぶなよ」

「りょ、了解しました」


 あそこは一体なにをやってるんでしょう。


「りのんさん久しぶりです」

「その節はお世話になりました」

「あ、貴女が……お話は聞いています」


 えっ? 桐花様や森川様もお知り合いなのですか?

 というかお嬢様も!?


「あーえっと、ほら、カノンがスターズに連れ去られた時の」

「りのんさんはカノンさんを助け出した時に協力してくれたんです」

「あ、あ、あの時はお礼言えなかったけど、改めてありがとうございます!」


 エェッ!? リノン、貴女そんな事してたの!?

 私はあの時ずっと拘束されてたけど、貴女もしかして私より活躍してるんじゃ……。

 ま、まぁ、そういう事もあるでしょう。うん……ンンッ! げふん、げふん。

 それはともかくとして、どうやら知り合いも多いみたいだし、これなら会話に困る事もないでしょう。

 私は改めて、あの時勇気を出して声をかけて良かったなと思いました。


「それじゃあみんなで今から、鍋パーティーしましょう!」

「「「「「「お〜っ!」」」」」」


 はいはい、今すぐ準備しますからね。


「ちょっと捗……えみり、このお肉は私のでしょ」

「いやいやティ……楓パイセン、このお肉は私のですよ」

「もー、2人ともお肉なら私のあげるって」


 心配しなくても、お肉ならまだたくさんありますよ。全く本当に見てて飽きませんね。

 ちなみにこういう時に纏めてくれる桐花様は、お酒に酔いつぶれて泣きながら突っ伏してました。

 旦那様に慰めてもらってたけど、あれは後で思い出して絶対に顔が赤くなるやつでしょうね。


 その日、みんなで遅くまで鍋パーティーを楽しみました。

 リノンはびっくりしてたけど、その気持ちわかりますよ。

 あんな生き方しかできなかった私達が、今ここでこうしてるなんて想像も出来なかった事です。

 ですから……もし、あの頃の自分に何かを言ってあげられるとしたら、私はこう言ってあげたい。


 今は辛いかもしれないけど、未来はそうじゃないかもしれない。


 ふふっ、やっぱり旦那様は天然のたらしです。

 なるほど、お嬢様が本気になるわけだと理解しました。

 ですから私もほんの少しだけ……ちょっかいをかけても許してくれますよね?

 だって、私なんかにまで気にかけてくれる旦那様が悪いんですもの。

 私は日本酒を片手に、少しは仕返し……いえ、お礼を返しておこうと、いつものように旦那様を揶揄いに行きました。

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[一言] え、ベゴえもんめっちゃ蚊帳の外だった…?(゜д゜)
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