城まろん、人生で初めてのデート。
おちっ、落ち着くのよ。まろん!!
私は軽く深呼吸すると、ふらんにメッセージを送る。
まろん:あくあ君とデートする事になった。アヤナちゃんに言っといた方がいいよね?
ふらん:まろん先輩さすがです! そうやってアヤナ先輩を煽っていくスタイルなんですね!
まろん:ちょ、ちょ! 別に煽ってるわけじゃないもん!! ただ、言っておかないと隠れてデートしてるみたいで悪いなって思っただけだもん。
ふらん:わかってますって。でもアヤナ先輩はああ見えてぼーっとしてるから、それくらい焚き付けていいと思います!!
アヤナ:2人とも全部聞こえてるんだけど……。これ、eau de Cologneのグループだよ。
まろん:あっ……。
ふらん:あっ……。
うぅ、いつもならちゃんと確認するのに、人生で初めてのデートに一杯一杯になっちゃってた……。
私のメッセージに気がついた社長がすぐに反応する。
社長:ひゅ〜っ! さすがは我らがキャプテン! せっかくだから週刊誌にいっぱい撮られておいで!!
ふらん:社長……。あくあ様ってそういうの、っていうか大体の事は気にしないだろうし、あんなかっこいい人を独占できるのに愛人まで許容してくれてる女神様みたいに優しいカノンさんは週刊誌に撮られても許してくれるだろうけど、あの2人に甘えちゃいすぎるのはどうかと思いますよ。
社長:うっ、すみません。まろんちゃんがデートだと聞いて、我が子のように嬉しくなりすぎてテンションがあがっちゃいました……。
ふらん:それはわかりますけど、ちゃんとベリルさんには連絡しておいた方がいいんじゃないですか? 多分、あくあ様って感覚がバグって……んんっ、感覚が他の男性達とは違いますから、デートくらいじゃ連絡とかしてないと思います。
社長:た、確かに〜。
ふらん:天鳥社長や琴乃さん、しとりさんは現場やプライベートで会った時にも、私達にすごく良くしてくれてるんですよ。私、ベリルの社員さん達から睨まれるのヤですからね。
社長:わ、わかってるって。連絡はちゃんと入れるつもりだったもん!!
社員A子:ふらんちゃん、さすが!!
社員B子:ふらんちゃん、もっと言って!!
社員C子:さすがは影の社長、ふらんちゃん!
社員D子:小学生じゃなかったら、ふらんちゃんが社長でいいのに……!
取締役E子:次の役員会で社長交代するか!!
取締役F子:ふらん新社長! 一生ついていきます!!
社長:あわあわあわ、みんな〜。
アヤナ:みんな、あんまり社長をいじめないであげてね。まろん先輩もデート楽しんできて。あと、まろん先輩って、沖縄ですよね? それって今晩放送されるベリルアンドベリルとか絡んでる?
ふらん:ありそー。それなら、放送後に伝えた方がいいかも。
アヤナ:じゃあ、みんなと見るから、その時に私から言っておくね。
社長:うっ、うっ、アヤナちゃん、ありがとう!
ふらん:さすがアヤナ先輩! よろしくお願いします!!
まろん:ありがとう。アヤナちゃん。あ、あと、抜け駆けとかそういうのじゃないからね! 私、ちゃんと順番は守るから!!
アヤナ:別に順番とか気にしなくていいですから……。
ふらん:アヤナ先輩は、そこちゃんとこだわって! もっとがっこりべっつりいきましょう!!
ん? メッセージアプリの右上に新着メッセージの通知が表示される。
誰だろう? あ……ゆかりか。
沖縄に到着してホテルで荷物を下ろしてる時に、ゆかりから連絡が来た。
『多分あいつ、ベリルアンドベリルか何かの企画で困ってるみたいだから、助けられそうなら偶然を装って助けてあげて。場所? ああ……まろんが泊まってる沖縄のホテルってどこ? んー。どうせあいつの事だから、何か理由をつけて近くのビーチに行くと思うんだよね。だからホテルの近くのビーチで彷徨いてたら大丈夫だと思う。あいつ、一回見た女の子の事は忘れないから』
まさにそのゆかりの行動予測が完璧に当たって、私はあくあ君と遭遇する事ができた。
私は結果を報告するために、新着のメッセージを開く。
ゆかり:あいつ、居た?
まろん:うん。居た。やっぱりベリルアンドベリルでなんかやってるみたい。
かえで:何何、どうしたの?
ゆかり:あ、これ、悪夢の世代カスタムのグループか。ごめん、間違えた。
インコ:なんやなんやどうした!?
イリア:私がきた!
ゆかり:あんたら来るの早すぎでしょ。もしかして、私より暇なんじゃない!?
インコ:ベリルアンドベリルって事は、あくあ君のことやろ? この乙女ゲーマスターインコさんになんでも相談してくれてええんやで? あと、ゆかりより暇はない。
かえで:そういう事なら、みんなの楓先輩になんでも聞いてくれていいんですよ? なにせ私はリアル乙女ゲーをクリアしたのですから!! それと、私はこう見えて結構忙しいぞ!!
インコ:そうやって調子に乗ったら捨てられるぞー。
かえで:えぇっ!? 私、この前結婚したばかりなのに捨てられちゃうんですか……?
インコ:冗談やって!! あくあ君が捨てるわけあらへんやろ!!
まろん:うんうん。
ゆかり:あいつなら捨てられてる女の子まで拾ってくるわよ。
かえで:あっ……いい。今のダイレクトに脳に来た。
インコ:ごめん、今ので惚れ直したわ。ちょっとお花摘みに行ってくる。
まろん:うんうん。わかる。私も想像してすごくドキドキした。
イリア:やはりあくあ様こそ最強。早くイリアの事も迎えに来てください!!
ゆかり:ちょっと! 私の言葉で変な事を想像するのやめてよね!!
私の周囲が騒がしくなってきたから、そっとメッセージアプリを閉じる。
このざわざわとした感じ。多分、あくあ君が水着に着替えてきたんだろうな。
私は女性達の悲鳴が聞こえてきた方へと視線を向ける。
「あくあ様の水着姿……なんと神々しい」
「うぉっ! まぶしっ!」
「ありがたや〜。ありがたや〜」
「私も拝んどこ!!」
「首筋やばぁ……」
「わかる。鎖骨見てるだけで頭がクラクラしてきた」
「海パン一枚とか、これもうアウト寄りのアウトでしょ!」
「ちょ、嗜みって人類で初めてあくあ様に迫られた時に、正面からこれが来て耐えられたの!?」
「嘘でしょ! あのポンなみさんが!?」
「どうやら私達の中で、ポンなみさん、いえ、嗜みさんの評価を3段階くらい上昇させる必要がありそうですね」
「ここにきて嗜み再評価路線きたー!」
「まさかの嗜み再評価路線だと!?」
「私なら間違いなく気絶してると思う」
「私も」
「実は嗜み最強論きた?」
……ごめん。私、普通に胸板とか腹筋とか触っちゃうかも。
だって、男の子の体って見たこともなければ触った事ないし、女の子の体と比べて違うっていうし、どんなのかすごく興味があるんだもん……。
「まろんさん、待たせてごめんね」
「うん、大丈夫。って、それ、どうしたの?」
私はあくあ君が腋に抱えたサーフボードに視線を向ける。
「せっかくなら2人乗り用のサーフィンしようかなって。まろんさん、そういうの大丈夫? 苦手なら違うのにするから」
「ううん。楽しそう! って、あくあ君。サーフィンなんてできるんだ?」
「海外ロケしてた時に、ヌ……ちょっとね」
ぬ? ぬってなんだろう?
私とあくあ君は軽く準備運動すると、一緒にサーフボードに乗って少しだけビーチから離れていく。
どうしよう。後ろにいるあくあ君と距離感が近すぎてすごくドキドキしてきた……。
「今です」
「う、うん」
私はあくあ君の言われたタイミングで立ち上がる。
わわっ、私がバランス崩したせいで失敗しちゃった。
「まろんさん、大丈夫?」
「うん。次、頑張る!」
さっきはちょっと失敗しちゃったけど、なんとなく感覚掴めたし次こそは大丈夫だと思う。
私はダンスのために鍛えた体幹バランスを駆使して、なんとか今度はうまくサーフボードの上でバランスを取って、2人で小さな波に乗る。
「わー、これ、楽しいかも!」
「でしょ。ほら、どんどんノッてこう」
最初はサーフィンが楽しかったのと、余裕がなかったから大丈夫だったけど、慣れて来てからあくあ君との距離感にドキドキする。
待って待って、さっきよりすごく近くないかな?
なんかもう肌とか触れ合いちゃいそうだし、あくあ君の息遣いの音が聞こえてきてすごくドキドキする。
「ね。まろんさん、腰掴んでいい?」
「えっ!?」
腰掴むって……それって、後ろかするってこと?
私、できたらハジメテは前からがいいな。自分の顔が見られるのは恥ずかしいけど、やっぱり顔見ながらしたいもん。
「あ、ごめん。サーフボードの上で両手思いっきり伸ばしたら、すごく気持ちいいから、俺が腰を支えようかなって」
「あ、うん。そっちか……」
「そっち?」
「な、なんでもない。いいよ。腰掴んで」
あくあ君の手が私の腰を掴む。
はわわわ! 男の子に触られるってこんな感じなんだ。すごい……。腰を軽く掴まれただけなのに、全身がすごく熱くなっちゃってるのがわかる。
そのせいで私はバランスを崩してしまった。
「ご、ごめん」
「大丈夫大丈夫。ほら、もう一回やろ?」
「う、うん」
私は気合いを入れ直すと、次はサーフィンに集中して両手を大きく横に広げる。
わー! すごいすごい! 確かにこれ、すごく気持ちいいかも!!
「あくあ君、これすごくいいね!」
「あ、う、うん」
私が後ろを振り向くと、あくあ君が顔を赤くする。
も、もしかして、少しくらい私にドキドキしてくれたのかな?
「2人乗りサーフボード、すごく楽しかったね」
「そうですね。次、何やります?」
うーん、どうしようかな?
「少し、喉乾いたし、休憩しよっかな?」
「じゃあ、そこでジュース買ってきますね」
あっ、私が行動するよりも早く、あくあ君が1人で海の家へと走っていった。
本当はお姉さんの私がちゃんとリードしてあげなきゃいけないのにごめんね。
「すみません。ジュースこれしかなかったっす……」
「へ?」
あくあ君が持ってきたのは、2つの飲み口がついたストローが刺さっている大きなジュースグラスだった。
こ、こ、これって、カップルが飲むっていう伝説のアレじゃない?
私はあくあ君が行った海の家に視線を向ける。
すると店主のお姉さんがすごくいい顔をして親指を突き立てていた。
あくあ君、騙されてるよ! 君、絶対に店員のお姉さんに騙されてるよ!!
「あくあ君は嫌じゃない? 嫌じゃないなら、一緒にのも」
「は、はい……」
さっきまでかっこよかったあくあ君がジュース一個で照れて、年下の男の子らしい反応を見せた事に、私の心臓がとくんとくんと音を立てる。
かわいー……。こういうので照れちゃうんだ。ふーん。
「ほら、あくあ君も一緒にちゅーってしよ」
「っす」
あ、ちゅーって言ったら私の唇チラチラ見てる。
どうしよう。私、こういうかわいい反応にすごく弱いかも。
「おっふ」
ん? あくあ君の視線が私の顔の少し下で固定される。
どこ見てるの? 私はあくあ君の視線の先に視線を落とす。
あっ……。サーフィンした時に、ビキニが少しずれちゃったのか。ごめんね。私はそそくさとビキニの位置を元に戻す。
「ごめんね。見苦しいものを見せちゃって」
「見苦しいものを!? まろんぱいに見苦しいところなんて一個もありませんよ!! むしろ素晴らしいものをありがとうございます!!」
あくあ君に自分のを褒められて嬉しくなる。
高校生の時は大きいのを少しでも小さく見せようとサラシを巻いたりとか無駄な努力してたけど、大人になってそれを受け入れたところで、自分の大きなものを肯定してくれる男の子が現れるなんて思ってもいなかった。
「ありがとう。すごく嬉しい」
「い、いえ……」
あくあ君はまた少し恥ずかしそうにする素振りを見せる。
かわいい……。あくあ君のそんな顔を見ちゃったら、お姉さん少しいじめたくなっちゃうかも。
あ、でも、私から見てみる? って、言ったら、聞いたらセクハラになっちゃうよね。
私としては、あくあ君が見たいなら好きにしてもらってもいいんだけど……。
例のリストバンド、恥ずかしくてつけてなかったけど、やっぱりつけようかな。
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