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白銀あくあ、次の県へ。

 俺達4人は漁師のお姉さん、田中さんのお家を訪ねる。

 時間は16時。ちょっと夕食には早いけど、まぁいいよな。


「あ、何か手伝いましょうか?」

「いいのいいの、あくあ様はそのまま座ってて!!」

「あっ、スタッフさん、キッチン映しちゃだめですよ!」


 俺達4人は和室に座って田中さんのお母さんが入れてくれた八女のお茶を啜る。

 へぇ、渋いっていうよりもまろやかな甘みがあるお茶だな。

 お茶って淹れ方によっても味が変わるけど、産地によっても味が変わるから結構奥が深い。


「まずこれでも摘んでてください!」

「「「「お〜っ!」」」」


 お刺身の盛り合わせだ!!

 俺達はすぐにお醤油でワサビを溶かして混ぜる。


「「「「いただきまーす!!」」」」


 俺は手前にあったのを箸で摘んでわさび醤油にちょんちょんとつけて一口でパクりと食べる。

 ん! うまい!! しっかりと脂が乗っていてプリップリッで歯応えもあるのに、さっぱりとしてて幾つでもいけちゃう感じだ。


「これ、なんの魚だろう。ブリ? でも、味は違うよね」

「ひらすです」


 へぇ、これがひらすなんだ。

 ハマった俺は続け様にひらすを頂く。


「あくあ、こっちのヤリイカのお刺身も美味しいよ」

「どれどれ」


 俺はとあからヤリイカのお刺身が乗ったお皿を受け取る。

 あー、これは確かに美味しい。

 こんなのもう麺のように啜れちゃうよ。


「お刺身自体も美味しいけど、この甘いお醤油もよくあってますね」

「でしょう! うちはお隣の大分のお醤油使ってるけど、南に行けば行くほど甘くなりますよ」


 へぇ〜。そうなんだ。

 このお醤油……照り焼きを作る時に使ったらめちゃくちゃ美味しそうだな。

 俺はスタッフさんに声をかける。


「あのさ。これって自費でお土産とか買って帰るのあり?」

「だめです。お土産は全て予算から捻り出してください」


 えー! そんなぁ……。

 俺は改めてみんなに相談する。


「俺、お土産買いたいんだけど……」

「うーん。僕も買って帰りたいけど、明らかに予算足りなくない?」

「実はその事で一つ話がある」


 真剣な顔つきをする慎太郎を見て俺達の中に緊張感が走る。

 俺やえみりがキリッとしてる顔をしてる時とは違う。

 あのユニバーサルスタジオジャーニー以外ではふざけた事のない慎太郎が真剣な顔をしているんだ。

 これは間違いなく一大事であると、スタッフを含めた全員が覚悟を決める。


「さっき、予約サイトでホテルや旅館を調べたのだが……時期が時期だけに高いところしか残ってなかったぞ」

「な、なんだって〜!」

「えっ? 待って……じゃあ、僕たちって今晩は野宿確定なの!?」

「いや……逆にありかもしれないな」


 天我先輩が何かを思いついたように自らの顎に手を置く。


「中古のショップとかでテントを購入して野宿すれば、宿泊代が節約できるんじゃないか?」

「天我先輩のいう通り、確かにそれは一理あるかもしれないな」

「そしたら予算も節約できるし、テントを張れる場所さえ探して許可を取って確保しておけば、宿泊に関して悩まなくてよくなるか……いや、でも、色々と難しい気がするな」


 うーーーーーん……待てよ。

 とんでもないCプランを思いついた俺は目を見開く。


「……この俺にとっておきのいい案がある」

「却下」


 とあが秒で俺の提案を却下する。


「ちょ、まだ何も言ってないじゃん!」

「あくあの思いつきとか絶対に碌でもないよ。阿古さんとカノンさんと小雛先輩もそう言ってたもん」


 ぐぬぬぬぬ!

 カノンも阿古さんも、小雛先輩も、俺が一体何をしたって言うんですか!?


「まぁまぁ、そう言わずに提案だけでも聞いてみたらいいんじゃないか?」

「うむ!」

「2人がそう言うのならいいけど……僕的には嫌な予感しかしないんだよね」


 さすがは慎太郎と天我先輩だぜ! 俺に甘い!!

 あと、とあはもっと俺の事を信じてくれ!! 頼む!!


「なぁ、俺達、男には無料で使えるホテルがあるって知ってるか?」

「はい、却下ー!!」


 顔を真っ赤にしたとあが俺の口を手で塞ごうとする。

 待て待て! まだ何も言ってないだろ!


「どうせ、あくあの事だから、女の子をナンパして一緒にホテルにとかって言うんでしょ! だって、あのホテル、男の子1人だけじゃ利用できないよね」

「いや、流石にそれは無理だろ。番組的にもな……」

「じゃあ、どうするって言うんだよ?」


 甘いなぁ! とあ、そんなもんじゃまだまだだぞ。

 俺は人差し指を突き立てると、ちっちっちっと声を出して余裕のある笑みを浮かべる。


「小雛先輩が言ってたよ。それやってる時のあくあとえみりさんが一番ムカつくって。大体ろくなことを思いついてない時にするからだってさ」


 あの人の話を間に受けちゃいけません!!

 全くもう。これは完全に風評被害ってやつですよ!


「いいか。これは逆転の発想だ。そう、つまり誰か2人が女装して、2人ずつの部屋に分かれて入ればいいんだよ!!」

「な、なんだって〜!」

「天才か!」

「えらいこっちゃえらいこっちゃ」

「トアッークア!」

「アクトアッー!」


 なぜか俺の提案に周りで聞いていたスタッフさん達が悶絶し始める。

 みんなどうかした? もしかして俺の天才的な発想に感銘でも受けちゃいましたか?


「あくあのバカーっ! 本当にばかーっ!!」


 涙目になって顔を赤くしたとあが力の入ってない握り拳で俺の事をポカポカと叩く。


「……一瞬だけ、すごく合理的な提案だと思ったが、何か大事なものを失いそうな気がするので却下だ」

「うむ……」


 おい、慎太郎! お前まで頬をピンク色に染めるんじゃない! 天我先輩も!!

 なんかこう、男4人旅、何もないわけなんてなく……って展開になっちゃいそうだろ!!


「あの〜」

「ん?」


 ひょっこりと顔を出した田中さんがスッと手をあげる。

 どうかしましたか?


「もしかして泊まるところないんですか? よかったらうち、昔の家だから部屋数だけはあるんで、遠慮せずに泊まっていってください」

「いいんですか?」


 俺はとあ、慎太郎、天我先輩と顔を見合わせる。


「あくあの提案より絶対にこっちでしょ」

「同意」

「右に同じ」

「じゃあ、異議なしってことで……あと、俺の提案も別に悪い案じゃなかったからな!」


 選択肢もお金もない俺達は田中さんのご厚意に甘える事にした。


「あっ、それとこれ水炊きです。ご飯と明太子も良かったらどうぞ」

「「「「ありがとうございます!!」」」」


 俺はお椀にスープをとってまずは一口飲む。

 へぇ、こっちの水炊きって出汁じゃなくて鶏スープなんだ。

 これ、絶対に美味しいやつじゃん!!


「うま。これ、さっぱりしてるから何個もいけますね。水炊き食べて米食べて明太子食べてまた米食べて水炊き食べてで無限ループ余裕じゃないですか!?」


 あと、朝から忙しくしていた俺にとって、塩分を感じられるこの水炊きが体の芯に染みるくらいうまい。

 俺達4人は田中家の皆さんと楽しく会話を弾ませながら食事を楽しむ。

 いやー、食った食った! もう大満足です!


「それじゃあちょっと、夜焚き行ってきます」

「夜焚き!? イカ釣りですか!?」

「はい、そうです。あ、良かったら一緒にきます?」

「いいんですか!?」

「もちろん!」


 やったー! 一回は行ってみたかったんだよ!!

 俺は釣り道具を貸してもらえるという事で田中さんに同行する。


「我、城見に行きたい……」

「じゃあ僕は会社の人に、お土産買ってこようかな」

「じゃあ僕はあくあと一緒に釣りに行くよ」


 ここで俺達BERYL4人は3つのグループに分かれる。

 イカ釣りに行く俺と慎太郎のグループは田中さんに同行し、お城観光に行く天我先輩は田中さんのお母さんの車に、お土産を買いに行くとあは田中さんのパートナーさんの車に乗ってそれぞれ出かける事にした。


「それじゃあ、お金のほとんどはとあに預けておくから。みんなのお土産頼んだぞ!」

「うん、任せておいて」


 俺達は有金の大半をとあに預けると、ばらけて移動を開始する。

 時間にして夜の18時、だんだんと空が暗くなり始めていた。


「これがウチの船です」

「「おおー」」


 俺と慎太郎は田中さんの船に乗って出港する。


「おい、慎太郎、船酔いは大丈夫か?」

「あ、あぁ、最初はちょっとやばかったが、どうにかなりそうだ」


 慎太郎、お前……強くなったな!

 俺達は田中さんにレクチャーされてイカ釣りを楽しむ。

 最初釣れなかったらどうしようと思ってたけど、意外と結構簡単に釣れるな。

 これは俺がうまいと言うよりも入れ食い状態ってやつだ。


「やっぱり魚もわかってるんですね。オスの匂いが……」

「ん? 田中さん、何か言いました?」

「あっ、いえ、なんでもありません」


 俺は引き続きイカ釣りを楽しむ。

 すると後ろから慎太郎の声が聞こえてきた。


「くっ! あくあ助けてくれ!」

「慎太郎! どうした!?」


 後ろを振り返ると、慎太郎が引いている釣り竿と大格闘していた。

 きた! 大物だ!!

 そう確信した俺は、釣り竿をスタッフの1人に預けると慎太郎のところに向かう。


「俺に任せろ」


 俺は慎太郎に加勢して竿を引く。

 とんでもない引きだ。

 おお、これは間違いない。大物だと確信する。

 くそぉ、こういう時に楓が居てくれたら……!


『楓パイセンと釣りに行くとね。魚の方が逃げちゃうんですよ。本能で……』


 あっ、俺はえみりの言葉を思い出してなんとも言えない顔になる。

 って、今はそんなしょうもない回想をしてる余裕はない。

 俺はタイミングを見計らって、一気に竿を引いた。


「おおー!」

「やったぞ、慎太郎!!」

「これはマダイですね。大きいですよ!」


 重さを測ってもらうと10kgを超えていた。

 俺と慎太郎は真鯛を手に持つと一緒に記念写真を撮る。


「あと少ししたら帰りましょう」


 俺達は残りの時間の釣りを楽しむと漁港に帰る。

 いやー、これはもう大漁ですよ大漁。


「おー、でかい!」

「これはすごい」

「一緒に記念撮影いいですか!?」


 漁港に居た他の漁師さんや夜焚きのツアーに来ていたお客さん達と一緒に写真を撮る。

 そのあとは、俺が道具を借りてその場で捌いてみんなに提供していく。


「やっぱり、とれたては最高だな。うまうま!」

「ああ。あくあと一緒にこっちに来て良かったよ。いい思い出になった」


 慎太郎、俺は知ってるぞ。

 さっきこっそりお前が淡島さんにメールで写真を送ってた事をな!!

 ただ、それじゃあ男としては50点だ。

 だから俺がお前の代わりに貴代子さんにメッセージを送信しておいてやったぞ!!


「それじゃあ帰りましょうか。と、その前に、みなさんまだちょっとだけ食べられます? 良かったら締めのラーメンどうですか? 天我先輩やとあちゃん達もそっちに向かってるみたいなので」

「「いけます!!」」


 田中さんの車に乗って市街地に戻った俺と慎太郎は、中洲にある屋台の付近でとあや天我先輩と合流する。


「え? 天我先輩、北九州まで行ってきたの!?」

「うむ。17時までしかやってなくてな……。慌てて北九州の小倉まで行ってきた」


 すごいアグレッシブだな。

 天我先輩は他にも色々観光してきたようで、結構楽しかったと言っていた。


「とあ、お土産買ってきた?」

「うん。これ、お煎餅なんだけど、パッケージに書かれてた絵が前にあくあが出てた番組のアイマスクの目にそっくりだなと思って」

「えっ? 待って、俺こんなのつけてたの!?」


 俺は自分の目のところにその箱を当てると、カメラの方に顔を向ける。


「ぷっ!」

「確かにそういうのつけてたかも」


 煎餅の箱を押し当てた俺の顔を見て、田中さん達も思わず吹き出してしまう。

 せっかくだから、周りで見ている一般の通行客にも見せに行く。


「つけてたつけてた」

「でも、それカノン様もつけてたよ」

「あと小雛ゆかりやえみり様もね」


 これ、いいじゃん。

 事務所で食べ終わった後に、これの箱を持って帰ったら自宅で遊べるくない?


「よし、じゃあ、ラーメン食おうぜ」


 俺達は4人で並んで屋台のラーメンを啜る。

 程よい疲労の後に豚骨の濃い味はガッツリ効くな!

 屋台でラーメンを食べたいと言っていた天我先輩もすごく喜んでいた。


「はぁ、食った食った。今日はもう大満足だわ」

「だね。結構、疲れちゃった」

「僕もいい思い出になったよ」

「うむ! 我も満足だ!!」


 屋台を後にした俺達は田中さんの家に帰る。

 その日は疲れていた事もあって、俺も含めてみんなすぐに眠ってしまった。


「んんっ!」


 誰よりも早く目が覚めた俺は、1人外に出て軽くランニンングする。

 おっ、近所の公園でラジオ体操やってるじゃん! 俺もやるか!!

 俺は普通に近隣の住民の皆さんに混ざって一緒にラジオ体操をする。


「はい、おばあちゃん、今日のハンコね」

「ありがたや〜ありがたや〜」


 なぜかハンコを押す係をやった俺は走って田中さんのお家に帰る。

 ちょうどみんな起きてきた頃だろう。


「ただいま〜」

「あくあ……どこ行ってたのさ」


 俺は寝ぼけ眼を擦りながら起きてきたとあに、ランニングとなぜかラジオ体操をして来た事を伝える。


「あくあって、なんでそんなに元気なの……」

「俺は睡眠が深いからな。一瞬でリカバリーできるんだよ」


 ちなみに俺だけじゃなくて、楓もお布団に入ったら3秒で意識なくなるって言ってたぞ。

 とあと俺は、慎太郎や天我先輩が起きてくるのを待つ。


「はい。それじゃあ、みんな起きてきたからダーツを投げましょうか。次は誰にする? 俺的には昨日、真鯛を引き当てた慎太郎だと思うんだよね。運的に」

「えっ? 僕がするのか?」

「うん、いいんじゃないかな」

「うむ! 頼むぞ!!」


 俺達は満場一致で慎太郎にダーツを託す。

 頼む慎太郎! 少しずつでいい名古屋か東京の方に近づいてくれ!!


「よし、投げるぞ!」


 気合を入れた慎太郎がダーツを投げる。


「おっ、一発で当たったぞ!」

「うおおおおおおお!」

「やった!」

「ど、どこだ?」


 俺達はダーツの刺さった地図に近づく。

 ていうかこの地図ちっちゃすぎでしょ! こんなの視力が10を超えてる楓じゃなきゃわかんないよ。

 って、あれ? もしかしてまた次もまた九州じゃない!?

 俺達はダーツが刺さった場所を見て、その場に倒れ込んだ。

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