白銀あくあ、ベリルアンドベリルのスタッフを見たら迷わず逃げろ!!
「しゃあっ! やったぜ!」
俺はみんなで作った看板を見て喜びを爆発させる。
夏休み前にベリルの保養所に来た俺は、保養所の目印になる看板を住民のみんなに協力してもらって完成させた。
「ううっ、一時期はどうなるかと思ったけど、本当に良かった」
「あくあ様が謎の絵を描き出した時は、保養所をお化け屋敷にするのかと思ったけど、ちょうどいい感じに収まって本当に良かった」
「ベリルの人やとあちゃん達が居ないから私達がしっかりしよう!」
「うんうん、こうやってみたらあの謎の絵もなんとなくタコとかイカに見えるしね」
住民の人達も嬉しいのか、みんな涙を流して喜んでくれていた。
ふぅ……いい仕事したぜ。
「みんな本当にありがとう! 体調とか大丈夫? 熱中症とかも気をつけてね」
ふぅ、それにしてもあちぃな。流石に汗だく
俺はアヤナから貰ったeau de CologneのツアーTシャツを脱ぐと、絞って汗を落とす。
「うぎゃあああああああ!」
「あくあ様!?」
「耐えろ。耐えるのよ私!!」
「おお、これが聖あくあ教の方が言っていた欲を抑える無欲の試練なのですね」
「あくあ様のフェロモンが染み込んだ汗だくのTシャツ欲ちぃ……」
「これは、あくあ様の汗が染み込んだ地球の大地もニッコリですわ」
「流石はあくあ様、その無防備さと無邪気さで地球すらもメス堕ちさせてくる」
ん? 俺は住民のみんなを見て焦る。
うわぁ! みんな、顔が真っ赤じゃないか!
俺は住民の中でも一際顔を赤くしていたお姉さんに近づく。
「大丈夫ですか!?」
「はわわわわ、大丈夫じゃないです」
おっと! 俺は倒れそうになったお姉さんの体を支える。
「お姉さん、お家どこ? とにかく涼めるところで横になった方がいい」
「お家であくあ様とお布団で横になる!?」
いや、横になるのはお姉さんだけだし、布団でとは言ってないけど……。
やはり熱中症の影響で、お姉さんは頭がちょっと回ってないのかもしれない。
俺は近くにいた住民の人にお医者さんの手配をお願いしますと言って、お姉さんをお姫様抱っこで自宅まで運ぶ。
「はい、お水。のめる?」
「んぐっ、んぐっ……ぷはぁ! あ、あくあ様、その……ありがとうございます」
お姉さんは色っぽい顔で俺の体に寄りかかる。
おっふ、今まで必死で気がつかなったが、このお姉さん、中々の物をお持ちであった。
「あくあ様、良かったらうちでお風呂に入ってください。私もお背中流しますね」
おお!? つ、ついにここに来てラッキーなイベントが発生か!?
そう思った瞬間、誰かが玄関の引き戸をガラガラと開ける。
「はーい、医者でーす」
「患者さんはこちらですかー?」
「あー、これはダメですね」
「さぁ、病院にいきましょうねー」
あっ……という間に入ってきたお姉さん達4人が、熱中症になりかけたお姉さんを手慣れた手つきでストレッチャーに乗せると、そのまま救急車の中に押し込んでどこかへと走り去っていった。
え、えーと……家主がいない、この家の戸締りはどうしたらいいのかな?
俺が玄関前で固まっていると、近所のお婆さんが開けっぱなしでいいからと言う。
いくらなんでも不用心がすぎるだろう思ったけど、お婆さんは「田舎じゃ当たり前だし、女の家なんか誰も入らんよ」と言われた。
う、うーん、そういうものなのか。
俺はお姉さんの自宅を後にすると、バイクを止めてある学校に戻る。
「さーてと、帰るか」
俺がバイクのエンジンをかけようとした瞬間、カメラを持った人達が突撃してくる。
「何、何!?」
ん? よく見たら、みんな見た事がある人ばっかりだぞ。
あっ、ベリルアンドベリルのスタッフさん達だ!!
「もしかして、ドッキリですか!?」
「おっ! なんのドッキリだと思います?」
スタッフの人達がニヤニヤした顔を見せる。
うわー、流石はベリルアンドベリルのスタッフだ。
蘭子お婆ちゃんが言ってたけど、ベリルアンドベリルのスタッフは全放送局から集められた精鋭揃いらしい。
俺達に対して忖度せずに突っ込んだり、甘やかしたりしないような地獄の合宿を乗り越えてきた、鍛え抜かれたエリートばかりを集めたと言っていた。
「はっ!? もしかして、さっきのお姉さんがハニートラップとか!?」
そういえば汗でシャツが透けてたし、俺好みの未亡人風のお姉さんで怪しいなと思ったんですよ!!
「ハニートラップ!? えっ!? 私達が来る前に、そんな面白い事件が発生してたんですか!?」
「いやいや、未遂ですよ! 引っかかる前に終わっちゃったし……」
うーん、ハニートラップじゃないとしたら何だろう?
「も、もしかして、今の今まで、全部がドッキリとか!?」
「幾ら何でもそれは遡りすぎでしょ!」
確かに……という事は何だ?
俺はベリルアンドベリルのスタッフに警戒を強める。
「もしかして、ドッキリじゃないとか?」
「はい。そもそも、ドッキリだなんて一言も言ってませんからね」
た、確かに〜。
ついついスタッフの登場に身構えてしまった俺が早とちりしてしまっただけだ。
「えっ? じゃあ、なんのために来たんですか? もしかして、俺をビビらせるための、嫌がらせ……とか?」
「あくあ様に嫌がらせなんかしたら、私達、この国に住めなくなっちゃいますよ」
いやいや、流石にそんな事で住めなくなったりしないでしょ。
そんな事言ったら、小雛先輩なんて国外追放どころじゃないですよ。
「正解はこちらです」
「出たよ。パネル」
俺は嫌な顔をしながらスタッフの人からパネルを受け取る。
えー? これ、なんか文字隠してるけど捲らなきゃいけないの?
めくりたくないなー。俺はフリップを横に置くと、エンジンをふかして帰ろうとするフリをする。
「いやいや、帰っちゃダメですよ!」
「いやね。俺も帰りたいんですよ。せっかく引っ越したのに、まだ新しい自宅にだって一回も住んでないし」
俺はプロデューサーの顔をチラリと見る。
とりあえず前振りの尺の長さはこんなもんでいいかな。
いや、念のためにもう少しだけ粘っておくか。
「お願いしますよ! ね、いいことありますから」
「仕方ないなあ。わかりましたよ」
俺はバイクから降りると、ヘルメットを脱いでさっき横に置いたフリップを手に取る。
「ちょっとだけ先にチラッとだけ見ていい? 先っちょ、先っちょだけでいいからお願い!」
「見て、アレな企画だったら帰るつもりですよね? そんなのダメに決まってるじゃないですか」
ん、こんなもんでいいだろ。
俺は手に持ったフリップをカメラに見せながら、フリップに貼られていたシールを一気に剥がす。
えー、なになに? 俺はフリップに書かれていた文字を読む。
「全国縦断、ぶらりBERYL旅、7DAYS to ALIVE!? 何、それ!?」
BERYLって書いてある事は俺だけじゃないって事だよな?
俺は首を左右に振って周りを確認する。
あれ? 普通ならこのタイミングでとあ、慎太郎、天我先輩が出てくるんじゃないの?
「あれ? みんなは?」
俺はしょぼんとした顔でスタッフさんを見つめる。
もしかして……BERYLの3人はもう既に旅してて、俺とは別行動って奴ですか?
頭の中に現れたボッチ・ザ・ワールドが優しい顔で「こっちにおいで〜」と、手招きしてくる。
「他の3人は現地で合流します」
「現地!?」
現地ってどこ!?
えっ? スタート地点ってここじゃないの?
「これがこの旅のルールが書かれたフリップボードです」
俺はスタッフさんから手渡されたフリップに視線を落とす。
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全国縦断、ぶらりBERYL旅、7DAYS to ALIVE!! の概要。
・ダーツを投げて当たった都道府県に行く。
・ダーツが外れた場合はやり直し。
・現地の活動資金は4人でサイコロを投げてゲット。
・安全上の問題で、昼15時を超えたら現在の都道府県内で宿泊。
・現地での交通費、飲食代、宿泊も活動資金に含まれます。
・現地でミッションをクリアする事で次の都道府県に移動可能。
・ミッションのクリアは4人一緒でもバラバラ行動でも選択可能。
・ゴールは東京都。期間は7日間。
・夏休みが始まる1週間以内にゴールできたらBERYLの勝ち。
BERYLが勝利した時は、番組から4人に素敵なプレゼントがあります。
・1週間以内にBERYLの4人がゴールができなかった場合はミッション失敗。
その場合BERYLの4人には、ちょっとした罰ゲームがあります。
※なお、学生の4人は、移動中や夕食後にオンラインで授業を受けてもらいます。
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罰ゲームか……。一体、何をさせられるんだろう。
俺がなんともいえない顔をしていると、スタッフの人がタブレットを持って近づいてくる。
『おーい! 後輩ー!!』
『あくあー! 見ってるー?』
『そっちはどうだ?』
「天我先輩!? それに、とあと慎太郎も!!」
俺はタブレットの中に映った3人に手を振る。
どうやらライブ映像で現地と繋がっているみたいだ。
『それでは今から最初のダーツを投げたいと思います! 白銀あくあさん』
「はい!」
『天我アキラ、黛慎太郎、猫山とあ、の中から最初にダーツを投げる人を選んでください』
なるほど、俺が選んだ1人がダーツを投げるって事か。
スタッフさん達も考えたな。俺がダーツを投げたら、一発で東京に当たる可能性があるから、それだけは避けたかったようだ。
「うーん……それじゃあ、ここは天我先輩で! 先輩、お頼み申します!!」
『うむ! 我に、いや、ダーツマスター天我アキラに任せろ!!』
俺は手をパンパンと叩いて神頼みする。
頼むぞ、天我先輩!! 最初はできれば近場で頼む!!
『天我先輩、頑張って!!』
『天我先輩、頼みます!!』
俺達が見守る中、天我先輩が最初のダーツを投げる。
天我先輩が飛ばしたダーツは、日本から大きくはみ出て極東連邦の首都に突き刺さった。
「こーれ、宣戦布告です」
「また、新たなうどん国が誕生するのか……」
「ちょっと、スタッフ! なんで日本地図だけを用意しないの!」
俺はすかさずカメラの前に出ると、手を左右にぶんぶんと振る。
「今のは練習! そう練習だから!!」
俺はすぐに誤魔化す。
スタッフさんもさっきの結果はなかった事にして、すぐに地図が日本だけのものに差し替えられる。
「天我先輩、今度こそ頼みます!!」
俺は再びタブレットに向かって拝む。
再度集中した天我先輩は、さっきよりもリラックスした感じでダーツを投げる。
『うおおおおおお!』
「当たった!」
『どこどこ!?』
『結構、西寄りだったな!?』
カメラさんが日本地図にググッと寄る。
「福岡だ!」
『我、屋台にラーメン食べに行きたい』
『僕、福岡行ってみたかったんだ!』
『福岡、楽しみだな!』
って、遠!?
ちょっと待って、石川県の能登から福岡まで、どれくらいかかるの?
みんなは空港に居たからそのまま飛行機だろうけど、俺は夜までに間に合うかな?
俺はすぐにヘルメットを装着するとバイクに跨る。
「ちょ、みんな。わりぃ。俺、空港か駅かに急ぐわ!!」
『あくあ、頑張って!』
『後輩、先で待ってるからな!!』
『あくあ、事故だけには気をつけろよ!!』
俺はバイクに乗ると、そのまま走り出す。
さすがは優秀なベリルアンドベリルのスタッフだ。
すぐに後ろから単車と車の二台体制でついてくる。
くっ、もしかしてこれ、俺だけ間に合わないんじゃね?
そう思った瞬間、空からパラパラとプロペラの音が聞こえてきた。
ん? ヘリか? いや、違う。なんか軍用機のクソでかい奴だ!!
『白銀あくあさん! 右に曲がってください! こういう事もあるだろうと思って裏技を用意してます』
俺はスタッフの人の誘導に従って右の小道に入る。
すると、すごくひらけた滑走路が見えてきた。
「ちょっと待って、こんなところにこんなのあったっけ?」
え? どっかの宗教団体が作ったのを借りた!?
すげぇな。その宗教! もしかしてパワー教か!?
「え? 違う? ごめん。プロペラの音でなんも聞こえない!!」
俺はそのまま滑走路に侵入すると、ハッチを開けた軍用機の中にバイクごと突っ込む。
って、あれ? よくみたら、みんな迷彩服着てるんだけど?
「今回は自衛隊の皆さんにご協力いただきました。ありがとうございます!!」
俺はスタッフの人に釣られて手を叩く。
ていうか、こんな私用に使っていいの?
え? 訓練の一環だから別にいいって?
「どうせ何かあっても総理が謝罪するだけですから」
「あ、あぁ……」
俺は自衛隊員のお姉さん達と一緒にバイクをチェーンと紐で固定させる。
これならギリで間に合うか?
作業で疲れていた俺は、到着した後の事を考えて仮眠を取る。
「あくあさん、あくあさん、起きてください!!」
「んにゃ?」
俺は馴染みのスタッフさんに揺さぶられて目を覚ます。
「あれ? もう到着しました?」
「いえ、まだです。だから、これを着てください」
寝ぼけた俺は状況がよくわからないまま、スタッフさんに手渡された服を着る。
何これ? フライトスーツ?
ようやく頭が回り出したところで、後ろのハッチが大きく開く。
「あくあさん、このままだと確実に間に合いません」
「え? なんだって?」
風の音がすごくてスタッフさんの声が全く聞こえない。
ちょ、一旦、後ろのハッチ閉じない?
ていうか、説明あるならハッチを開ける前に言おうよ!
「だから、先に行っててください! 大丈夫、許可は取ってますから!!」
「は? なんだって?」
だから風の音で何も聞こえないんだって!!
「GOOD LUCK!!」
ここまで俺を乗せてくれた自衛隊のお姉さん達が一斉に敬礼をする。
俺もそれに応えて敬礼を返す。
何を言ってるかよくわからないけど、きっと、ここから飛べって事だよな。
映画の撮影のためにスカイダイビングの資格を持っていた俺は、覚悟を決めてハッチから飛び降りる。
「ちょっと待って、これ、どこに降りたらいいのさ!?」
そういえば飛び降りる前に舞鶴の公園がどうのこうのって言ってたような。
あー! お城が見えるから、あそこか!!
俺はそこに向かって飛んでいくと、タイミングを見計らってパラシュートを開く。
あっ、あそこ、あんまり人いない!! 行けそうだ!!
「なんだなんだ!?」
「誰かが降ってくるぞ!」
「親方、男の子です! 男の子が空から降ってきます!!」
「ああん? 寝ぼけた事を言ってないで作業してる手を動かせ!!」
うおおおおおおお!?
俺は何とか怪我しないように上手に着地する。
ちょっと待って、ここからどうしたらいいんだ?
公園広場の中央に降り立った俺は、しばらく呆然とした。
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