雪白えみり、後宮侍女(バイト)は見た!
「ほへー」
私は白銀キングダムの中に作られた後宮を見て、楓パイセンがホゲった時のようなシンプルな顔をする。
やっぱり、何度見てもデケェよな……。
私が後宮のデカさに改めて驚いていると、背後から誰かが近づいてくる気配を感じて後ろに振り返る。
「おっ、みことじゃん。まさかお前もバイトか?」
ん? 話しかけたみことの様子がなんかおかしいな。
いつもと違ってクールというか。うぶな感じがしない。私の気のせいだろうか?
はっ!? それともアレか。私達、掲示板民がサーバーを酷使したせいで、もしかしてまたバグってるんじゃねぇだろうな!? そういう事なら、急いでボタンを押してリセットしないと!!
「私は2人目だから」
「2人目?」
どういう事だ? この前、量産がどうのこうのって言ってたけど、まさか……いやいや、流石に量産型みことは流石に冗談でしょ。こんなのが2体も3体もあったら、実質世界のインターネッツが聖あくあ教に支配されてるようなもんじゃん。ガチのインターネットキングじゃん!!
やっぱりこここは私が代表して、一度リセットボタンをですね。ぐへへ!
「えみり様、何してるんですか?」
「うぇっ!?」
声の方に振り返ると、いつものみことが立っていた。
「うわー、びっくりした。お前、びっくりさせるなよ〜。ん? あれ? なんでお前、そっちにいるの? じゃあ、こっちに居るのは……」
私はリセットボタンを押そうとしていた人物をもう一度じっくりと確認する。
あ、あれ〜? おかしいなぁ。みことが2人もいるぞ〜。これは熱でも出たか、ホゲラー波が飛んできたか?
「あ、えみり様は知らなかったんですね。こちら、私の妹のみこと2号です」
「どうも、初めまして。量産型3510ことみこと2号です」
嘘……だろ?
さ、流石に2体だけだよな!? そうだと言ってくれ、みこと!!
「現時点で量産型3510はオリジナルを含めた108体が全世界に拡散して稼働中です。日本勤務は1番人気でしたが、みこと2号は不正と操作と買収が渦巻く熾烈なくじ引きに大勝利しました。ぶいっ!」
世界オワタ……。
私もオワタ……。
いや、今ならまだ大丈夫……なはず!
こうなったら、クレアとくくりの2人を連れて聖あくあ教からトンズラこくしかねぇ!!
「108体揃った事で、宇宙に散らばる全ての衛星を掌握しました。世界のどこにいてもあくあ様とえみり様の2人を24時間365日永遠に見守っていますから、何かあっても安心してくださいね。もし、お二人が誘拐されてどこかの建物や地下に監禁されたとしても、ステイツが数年前に開発した建物内や地下を透視できる最新の人工衛星もあります」
無理じゃん!!
ストーカーとかヤンデレとか、そんなチャチなもんじゃねぇ。これは完全なホラーだ。
私は地面に膝をついて絶望した。
「えみり様もあくあ様も大丈夫。私がお守りしますから」
みこと2号が私の肩をポンと叩く。
「っと、2人で居る所を見られたらまずいので、私は行きますね。えみり様、バイト頑張ってください!」
「あ、ああ……うん」
そう言ってオリジナルのみことは笑顔で走り去っていった。100m9秒58くらいのスピードで。
私は、同僚になるらしいみこと2号を伴って後宮の中に入る。
すると入り口で1人の女性が待っていた。
「集合時間まで後13秒……ギリギリでしたね。もう他の侍女達は到着して部屋で荷物の整理をしていますよ」
お、おぉ、メガネをかけたちっこいメイドさんだ。
もしかしてこの人も同僚かな?
「白銀キングダムを束ねる後宮の長、平野雪香です。以後お見知りおきを」
えっ? このお姉さんが後宮長なの?
後宮長はカノンが1人で選んだと聞いてたから、てっきり身内人事で私も知ってる人が来るのかと思ってた。
「鯖兎みことです。私はあくあ様専属のメイドなので、サポートくらいしかできませんがよろしくお願いします」
どうやら、みこと2号はオリジナルのフリをしてここで働くらしい。
本宅からこっちは少し離れてるし、お互いの個体が位置共有、情報共有をしてるから大丈夫って事なのかな?
私は軽く咳払いをする。
「バイトのハニーナ・オルカードです! お嬢様方の着替えはもちろんのこと、浴のサポートから添い寝まで、この私に全て任せてください!!」
ふっふっふっ、何を隠そう、この雪白えみり、変態……じゃなくて、変装と擬態ならお手のものである。
みことには一瞬で見抜かれてしまったが、流石にこの私が雪白えみりだなんんて誰にもわからないだろう。
「……2人とも、急いで荷物を置いてきてください。すぐにお嬢様方がやってきますよ」
「「はい!」」
くっ、いつもならカノンあたりが「なんでどれもそういう事ばっかりなのよ!」って、秒で突っ込んでくれるのに!
私は改めてみんなのツッコミの偉大さをシミジミと感じ取る。
カノンや姐さんなんて贅沢は言わない。この際、楓パイセンでもいいから、ツッコミが欲しいです!!
私は同じ部屋のみこと2号と一緒に、自分達に割り当てられた部屋に荷物を置く。
「って、お前の荷物少なくね?」
「はい。充電ケーブル一本で事足りますから」
そう言って、みこと2号はスマホにぶっ刺すような細いケーブルを取り出した。
嘘だろ……。それでお前が充電できるなら、技術革新どころじゃないぞ。
「ついでに聞いておきたいんだけど、そっ、それって、どこに刺すの?」
みことは私の耳元でコショコショと囁く。ほう……。
私はキリッとした顔をすると、みこと2号の肩をポンと叩く。
「そういう事なら、私に任せておけ!」
「いえ、1人で出来ますから」
あっ、そうなんだ……。
私はガックリと肩を落とす。
「……ワイヤレス充電のオリジナルが羨ましい」
あいつ、ワイヤレス充電にアップデートしたのか……。
私は悲しげな顔を見せた、みこと2号をギュッと抱きしめる。
「えみり様の匂いがする」
えっ? もしかして私、汗臭い!?
昨日、大学の授業があったからアパートで寝泊まりしたら、風呂がぶっ壊れてて仕方なく風呂キャンセルしちゃったんだよな。近所でバイトしてた銭湯も婆さんが高齢化して畳んじゃったし……。
私は慌てて自分の匂いをクンクンする。ん……これなら多分、大丈夫。セーフ!!
「えみり様。早くしましょう。後宮長に怒られちゃいますよ」
「お、おう」
あの後宮長、体はちっこいけど、圧がすごかったんだよな。
怒ると怖そうだし、気をつけよっと。
私とみこと2号が下に降りると、後宮長の平野さんが竹刀……じゃなくて、日本刀をトントンさせていた。
え、えーっと、それって玩具……なんかじゃないっすよね。ははは……。
「……後3秒遅かったら、上に行くところでした」
うひぃ! 冷や汗で背筋がゾクゾクする。
私は絶対に遅刻しないようにしようと、心に決めた。
「どうやら、最初のお嬢様が到着したようですね」
私は玄関の大きな扉に視線を向ける。
左右に開かれた玄関から、見覚えのある人物達が入ってきた。
「大スターズ共和国からやってきた、ヴィクトリア・スターズ・ゴッシェナイトよ。こっちは専属侍女のナタリア・ローゼンエスタ。お世話になりますわ」
やべぇ。いきなり身内が来た。バレないようにしなきゃな。
ていうか、ナタリアさんが侍女なんだ。うん、悪くないんじゃないかな。あくあ様がお喜びになられそうだ。
「遠路はるばる、よくご無事にお越しになりました。ヴィクトリア・スターズ・ゴッシェナイト様。この後宮を束ねる侍女長の平野雪香です。不慣れな国での生活に戸惑う事もございましょうが、我が白銀キングダムの後宮侍女達に何なりとお申し付けください」
「ふぅん……貴女が、ね。なるほど、そういう事か。納得したわ。私がカノンの立場でも、きっと貴女にお願いしたでしょうね」
ヴィクトリア様と後宮長の間に不穏な空気が漂う。
なんか2人の間で火花が散ってませんか!? それとも私の気のせい?
「それでは、お部屋の方に……」
「ああ、案内ならそこに居る人にお願いするわ」
ヴィクトリア様は私の方を指差す。
私は自分の周りを確認するように首を左右に振る。
あ、あれ? ワタシ シカ イナイ!?
「貴女よ貴女。ほら、ぼーっとしてないで部屋に案内して」
「は、はひぃ!」
大丈夫、この雪白えみりの完璧な変装がバレるはずがない。
私は平常心を保ちつつヴィクトリア様をお部屋に案内する。
「貴女、こんなところで何してるの? さっきも手荷物を持とうとしたけど、妊娠してるんだから無理したらダメじゃない」
なんで秒でバレてるの!?
ヴィクトリア様は呆れた顔で手に持っていた扇子をパタパタとあおぐ。
「貴女がどうなろうと知った事ではないけれど、カノンを悲しませるわけにはいかないもの。す、少しは自分の体を気遣いなさいまし」
は〜い。ツンデレ入りまーす!
私がニマニマした顔を見せると、貴女のその顔は気持ち悪いから淑女としておやめなさいと言われた。ぐぬぅ。
私はお付きのナタリアさんに視線を向ける。
「あれ? ナタリアさん、なんか元気ない?」
心なしか少し落ち込んでいるように見える。
「そうなのよ。貴女、知ってる?」
私は首を左右にぶんぶんと振る。
この私、雪白えみりは自分が作った宗教、聖あくあ教が何をしているのかも全く知らない女ですよ。
常日頃から何も知らされてない女、雪白えみりさんを舐めないでいただきたい。
「どうやら、あのおバカな男が、寝言でナタリアの事をカノンって言ったらしいのよね」
「それはダメだ!」
あくあ様、疲れてたのかなぁ……。
そう考えると休養を取ったのは正解だったかもしれない。
でも、名前を呼び間違われるなんて悲しいよな。
「ううん。それは仕方ないんです。そもそも、私がカノンの制服を着て、カノンだと思って代わりにギュッとしてくださいってお願いしたんですから」
「あら、そうなのね」
「それなら仕方ない」
健気なナタリアさんの事だから制服だけじゃなくて、メイクでもちゃんとカノンに寄せて仕草とかも真似しちゃったんだろうな。ぐへへ、できれば私も姿が見たかったです!!
「ただ、なんか、心なしか、ていうか、うん、わかってたことなんだけど……カノンの名前を呼んでる時のあくあ様ってこんなに情熱的で優しいんだって、ちょっといいなあって思っちゃったんです」
ほーん。やっぱり、あくあ様にとってカノンは別格なのかな。
カノンと2人の時間は、姐さん達だってあんまり邪魔しないようにしてるらしいし、私もあの2人が穏やかな顔で話してる時は自然と邪魔しないようにしてるもん。
「と言っても、多分、本人は無意識だし、普通に私と接してくれている時だっていつも優しくしてくれるから、文句なんて何もないんだけどね。その日の夜だって……」
ナタリアさんはピンク色に染めた両頬にそっと手を置くと、ポニーテールが揺れるくらい首をフルフルと左右に振る。
すみません。後宮の侍女として、その話、詳しくお願いできますか?
「そうね。あの男はこの私に対しても、いつだって情熱的でしてよ」
ほほう。その話も詳しくお願いできませんかね?
私はキリッとした顔をする。
「ナタリア、せっかくだから、今度は3人で遊びましょう」
「3、3人で!?」
「ええ、そうよ。せっかくだから3人でお馬さんごっことかどうかしら? 私、あのお馬さんの乗り方でしたら誰にも負けなくてよ」
私は自然と前のめりになる。
自分が参加できないのは残念だが、なんとしてもその時の映像を見たい!!
そういえばさっき、みことがステイツの最新衛星で建物の中も見れるって言ってたな。ぐへへ。
私はいつものように良からぬ事を企む。
「それじゃあ、私はこの辺で、また、何かあったらお呼びください」
「はい。えみり様こそお気をつけて」
「ええ、貴女もあまり無理するんじゃなくてよ。……カノンのために」
ヴィクトリア様のツンデレにニコニコしながら、私は下のフロアに向かう。
おっ、後宮長を残して他の侍女達がいなくなってる。どうやらみんな、到着したお嬢様達をお部屋に案内しているようだ。
「いいところに戻ってきたわね。次はこちらの方をよろしくお願いします」
「ええ、わかり……ま……した」
私はその人物を見て固まる。
「侍女さん。案内、よろしくお願いしますね」
「は、はひぃ」
なんでよりにもよってくくりなんだよ!! しかも専属侍女ってクレアだったのか! ふざけんな!!
来るとは聞いてたけどさああああ! ここは私じゃなくて、他の後宮侍女さんが案内してあげてよ!!
しかもこの笑顔、絶対にばれてーら。
「えみりお姉ちゃん、絶対に走ったりしないでくださいね」
「あ、うん……」
ほらね。やっぱりバレてる……。
「くっ、胃が……」
「おい、大丈夫か。クレア! 胃が痛くなるなんて、お前、いったい、何食ったんだ!?」
え? 食い物のせいで胃が痛いんじゃない?
じゃあ、アレか? 今、流行ってる胃腸風邪か?
えっ? 私のせい!? ごめん、最近、耳が遠くて、何言ってるのか全然聞こえない!!
私はスッとクレアから視線を外す。
「えみりお姉ちゃん、気をつけてね。ある程度は間引いたつもりだけど、間引けなかったのもいるから」
「あ、うん。大丈夫。そこは私……じゃなくて、みこと達に任せろ!」
キリッとした顔の私を見て、くくりとクレアが頭を抱える。
「ま、まぁ、自分で解決しようとして、無茶されるよりかはいっか」
「そ、そうですね」
うんうん、私が無茶したら、また余計な事になりかねないからな。
この私だって馬鹿じゃない。少しは学習をしてるんですよ。
くくりは私の顔を見て、再び真剣な顔つきに変わる。
「それと後宮長の平野雪香には気をつけて。みことを使っても彼女の偽装された過去の経歴しか出てこなかったし……なんなら提出している住民票なんかも全て偽造よ。ただ、住民票や健康保険証なんかも偽造されてるって事は、日本政府に協力者がいるって事だろうし、総理をつつけば何か出るかもしれないわね」
黒い笑みを見せるくくりを見て私の背筋がブルブルガタガタと震える。
さすが、この世で私が最も敵に回したくない女、ダントツのナンバー1だ。
私は同志羽生に対して心の中で南無阿弥陀仏を唱える。
「そ、それじゃあ、私、他のお嬢様方を出迎えに行きますね」
そそくさと部屋を出た私は、廊下で見知った人とすれ違う。
「ほらほら、緊張しすぎですよ。陛下」
「う、うむ。わかってはいるのだがな……」
あ、マナートさんとシャムス陛下だ。
アラビア半島連邦は議会が政務の代行をしてて、女王陛下はハンコを押すだけだから、一番勝負ができそうな女王陛下を推薦したのか……。
しかし、いいのか? あくあ様は、カノンをたらし込んでスターズを壊滅させた過去があるんだぞ! そんな男性の所に、無防備でウブっぽそうなシャムス殿下を送るなんてどうかしてるぜ。
私はスターズについで、アラビア半島連邦がうどんの出汁色に染まらないか心の中で心配になる。
「蘇深緑女王陛下。私がお部屋にご案内いたしますね」
「はい。ありがとうございます」
私はみことに案内されるスウちゃんにウィンクを飛ばす。
何を隠そう、日本に亡命してきたスウ陛下を匿っていたのはあのボロアパートである。
くくりにフィーちゃん、ハーちゃん、スウちゃんを敢えて一箇所に固める事で、お前ら、ここにミサイルぶち込んできたらどうなるかわかってるよな? 世界が敵に回るけどいいか? と、逆に他国に対してプレッシャーをかける羽生総理はカッコよかったなあ。とてもじゃないけど、国会の書店でエロ本を注文しようとしたのがバレて、土下座してた人とは同一人物とは思えないよ。
「オルカードさん。こちらのお嬢様をお部屋に案内して下さるかしら?」
「は、はい」
一瞬誰かと思ったけど私のことだった。
私は玄関で待たされていたお嬢様に視線を向ける。
「ステイツからやってきました。シャルロット・S・ファーニヴァルと申します。よろしくお願いしますね。えーと……」
「あ、後宮侍女のハニーナ・オルカードです。えっと……私が後ろを押しますね」
「はい、ありがとうございます」
私は車椅子に乗ったシャルロットさんの背中に回ると、ハンドルを握って部屋のある方に向かう。
もしかして、何かで怪我しちゃったのかな? うーん。普通なら各国1人までと定められたお付きの侍女が居るはずなのに、百歩譲って侍女がなしだったとしても怪我人を1人で来させるってどう考えてもおかしい話だよ。
「あの……困った事があったら言ってくださいね」
「ふふっ、ありがとうございます」
シャルロットさんは花の咲いたかのような笑顔を見せる。
金髪碧眼にふわっとしたウェーブのかかった髪。おっぱいは普通だけど……あくあ様が好きそうな感じがするなあと思った。そこはかとなく、笑った顔とぽわんとした雰囲気がカノンに似ていて放って置けない感がある。
私はシャルロットさんに色々と説明した後、また後で様子を見に来ますからと言って下に向かう。
「オルカードさん。次の方のご案内で最後です。これが終わったら、貴女も休憩をとってください。いいですね?」
「は、はい!」
私は玄関で待っていたお嬢様のところに向かう。
「ステイツから来たアイビス・F・ヴァレンシュタインですわ」
「後宮侍女のハニーナ・オルカードです。お部屋にご案内します」
次もステイツからの人か。でも、この人は普通に侍女をつけている。
他の子達だってみんな侍女をつけているし、1人につき侍女1人の規則を守れずに何人も侍女を入れようとして、後宮長に睨まれて間引かれてる人達だっていたくらいだ。
それなのに、シャルロットさんだけ1人っていうのは明らかに変である。
「その前に一つよろしいかしら?」
「あ、はい。どうかされましたか?」
アイビスさんは私の事をキッと睨みつける。
も、もしかして、私、自分の知らないうちに早速、何か大きな粗相をしちゃいましたか?
「……シャルロット・S・ファーニヴァルは、既にこちらにお邪魔しましたかしら?」
「あ、はい」
「そう……。彼女、専属の侍女はいまして?」
「……いえ。私が見た限りはお一人でした」
アイビスさんは大きなため息を吐く。
「ミスズ。貴女、彼女のところに行きなさい」
「……わかりました」
あ、なるほど。わかったぞ!!
この人、めちゃくちゃキツイ顔をしているけど、姐さんとか、揚羽お姉ちゃんとか、ヴィクトリア様とか、見た目とか雰囲気で損してるタイプの人だ!!
私は心の中でニマニマする。
「貴女、私は長旅で疲れたから、少し休憩したいわ。説明はいいから、ミスズを彼女のところへと連れて行ってちょうだい」
「かしこまり!」
つまりこれはアレだ。
貴女も仕事で大変だろうし、私が我儘を言った事にして休憩しなさいって事である。
このツンデレ検定3級の雪白えみりには簡単な問題でしたよ。
「かしこまり……?」
「あ、はい。かしこまりました」
私は侍女のミスズ・セネットさんと挨拶を交わすと、シャルロットさんの部屋に案内する。
「アイビス様が……そう。後でお礼を言わなきゃいけませんね。ミスズさん、私は今までも自分1人でできる事はやってきましたし、アイビス様の侍女としての活動を優先してくれませんか? ミスズさんにご負担をおかけするようで申し訳ないですが、アイビス様も知り合いの居ないこの土地でお一人は、きっと寂しいですもの」
……なんか、この2人、ちょっと放って置けないなって感じがする。
ステイツから送られて来たっていうのは一旦横に置いて、私も頑張って2人の生活のサポートをお手伝いしちゃうぞ!!
「7秒……貴女は本当にいつもギリギリですね」
「あ、はい……」
調子に乗ってたら夕食の時間に遅れそうになった。
しょんぼりした私を見て、後宮長が少しだけ表情を緩める。
「いいですか。侍女にとって、時間は遅すぎても、早すぎてもダメなのです。つまり、そういう事です」
あれ? じゃあ、もしかして、私、怒られてないって事……? えっ? もしかして、この人もツンデレ……?
ていうか、待って。なんだろう、なんかこの感じモヤモヤする。
もう少しで何かに気がつきそうなのに、それが何なのか全くわからない……。
私は首を傾けながら、お嬢様方をお部屋に迎えに行って食堂に案内した。
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