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白銀あくあ、熱中症には気をつけよう。

すみません。二回連続でミスです。

 暑い。ただでさえ暑いのに、せっかくの休日に面倒な人と出会してしまった。


「ちょっとあんた、そっちのソーダのほうが大きいじゃない!」

「いやいや、普通に変わらないってほら!」


 ただでさえ暑くて疲れるのに、ソーダアイスを半分こした小雛先輩とのやり取りで余計に疲れる。

 だから俺は最初に言ったんだ! 森長のバビコにしようって!! あれなら間違いなく均等になるんだから!

 それなのに小雛先輩が、森長の串が二本ついて間でパキッと割れるダブルのソーダアイスがいいってごねるから……。全くもう。


「ほら、やっぱりこっちの方がちょっと大きいじゃない!」

「わかりましたって、ほら。でも、これ、俺がひと舐めした後ですよ?」

「そんなの気にするわけないじゃない。んー、このショリショリ感がいいのよね」


 俺はソーダを口に突っ込んだ後に気がついた。

 そもそもダブルになってるソーダじゃなくて、一本ずつ普通のソーダアイスを買えば良かったのでは?

 だめだ。暑さのせいでただでさえ普段から機能がストップしている脳みそが、完全にお亡くなりになってやがる。


「てぇへんだ。てぇへんだ!」

「くそっ、こうなったら私が……」

「おま、このおばか! また姐さんに叱られるぞ! ここは私が……」

「その手が……ねーよ! どっちも妊婦だから、ダメに決まってるだろ!!」


 なんか聞き覚えのある声が二つほどしてきたな。

 もしかして暑さのせいでついに幻聴まで聞こえるようになってきたか?


「あれ? あそこに居るの、あんたの嫁の面白担当2人組じゃないの?」

「人の奥さんの事を、面白担当とかいうのやめてくれます?」

「ちなみに真面目担当は結と琴乃さんね。カノンさんは両方かな? 白龍先生は真面目に見えて面白枠ね」


 心なしかアイが大きなくしゃみをしている姿が頭の中に浮かんできた。

 俺はショッピングモールの中に居たえみりと楓の2人に声をかける。


「2人ともこんなところで何してるの?」

「あっ、あくあ様! やっぱりあくあ様は私達にとってのヒーローなんですね」

「それにゆかりも! いやー、本当に2人ともいいところに来てくれたよ!!」


 俺と小雛先輩は顔を見合わせて首を傾ける。

 珍しくえみりと楓の2人がふざけてない……だと?

 もしかしてこの後、大雪が降ったりします?

 とにかく、それくらいの緊急事態が起こっているのだというのは理解した。

 俺達は人に話を聞かれないようにするために2人に案内されて用意された控室に入る。


「実は、今日、2体の着ぐるみによる子供向けのイベントがあるんだけど、中に入る演者さん2人が熱中症になっちゃって……」

「それで私達が中に入ろうとしてたんだけど、流石にそれは後で姐さんに怒られるかなと……激しい運動とかもするし」


 ほほーん。なるほどな。大体の状況は理解した。

 そういう事ならこの俺に任せてくれ。

 だが、一つ気になるのは、着ぐるみを着て激しい運動の部分だな。一体、何をする予定だったのだろう。


「視覚障害を持った人がする二人乗り用のタンデム自転車を使ったサイクル競技です。前に乗る人がパイロットと言ってハンドル操作とブレーキ操作を、後ろに乗る人はストーカーと言ってひたすら漕ぐ役をします」

「ふーん、ストーカーか。まるで何とか先輩に適任……」

「私、パイロットがやりたい」

「はあ!?」


 この人はまーた何かを言い出した。


「これって確か、前に乗ってるのが後ろの人に指示出したりするんだよね? それなら私が適任でしょ。私ほどこいつをうまく乗りこなせる奴なんてこの世界にいないわよ」

「「た、確かに〜」」


 まるで初代ザンダムのパイロットみたいな事を言うじゃないですか……。

 でも、俺をうまく乗りこなしてくれるのは小雛先輩だけじゃない。前にヴィクトリア様と夜のお馬さんごっこをした時は、ヴィクトリア様は俺をうまく乗りこなしてくれましたよ!!

 さすがはスターズの王女様と言うべきなのだろうか。乗馬が得意なだけあって馬乗りもすごく上手で、この紳士あくあもお馬さんのようにハッスルしてしまいました。


「ていうか、待って。それ、着ぐるみきてやるの!?」

「はい。2人ともこれに着替えてください」


 えみりが奥の倉庫から着ぐるみを二つ持ってくる。

 あれ? これなんか藤テレビで見た事あるぞ。確か……。


「これ、なんの着ぐるみよ?」

「カエルの妖精ゲコピンと、モップのおばけのモックです」

「ちなみに有能な方がゲコピンで、無能な方がモックです」


 ひでぇ。モックだってピアノ弾いたりサックス吹いたりとか、最近は結構すごいのに……。


「ふーん、じゃあ私がゲコピンね。ちょっと大怪獣ゆかりゴンに似てるし、よく見たら頭の良さそうな顔してるじゃない」

「確かに。じゃあ、俺がモックでいいですよ。モック好きだし……」


 俺と小雛先輩は着ぐるみを装着する。


「それじゃあ、貸切にしてる屋上の駐車場でちょっと練習しますか」


 俺と小雛先輩は上に移動すると、自転車に乗って基本の説明を受けて軽めの練習をする。


「ぎゃー! 待って、これ、結構スピード出るんだけど!?」

「これ、着ぐるみで元々視野が狭いのとゲコピンのケツがデカくて、目隠しつけなくても前ほとんど見えないんだけど」


 ある程度スピードを落とさなきゃ思ったより危険だな。

 コースになってる周辺地域では多くの子供達が見にきてるから、事故だけは避けなきゃいけない。


「小雛先輩、いっそ前はペダルあんま漕がなくていいですよ。俺が漕ぐから、車体のコントロールに集中してください。あとスピードが早すぎる時はダウンとかなんか合図ください」

「う、うん、そうする。でも、やっぱ見にきてくれる人がいるから少しはスピード出さなきゃ盛り上がらないでしょ。ほら、練習するわよ!!」


 確かにそれもそうだよな。

 子供達に勇気を与えるのがゲコピンとモックの役割だ。


「いたっ!」

「小雛先輩、大丈夫ですか?」


 俺は転倒したゲコピンの着ぐるみをきた小雛先輩に駆け寄る。

 やっぱりスピードを出すと、カーブの時に転倒のリスクが上がるな。

 ましてや後ろを漕ぐこっちは目隠しがついてるから前の状況が一切わからない。

 だからカーブをする時は、小雛先輩の指示で体を傾けてカーブを切っている。

 これがズレると転倒のリスクが上がるから、カーブの時は2人の息がピッタリ合わないといけなくて、それがなかなか難しい。


「もう一度やるわよ!」

「わかりました!」


 最初は事故がないように置きに行った方がいいんじゃないかって思ったけど、転げても転げても何度も立ち上がるゲコピン先輩こと小雛先輩を見て俺も本気になった。

 俺は時間ギリギリまで小雛先輩と練習する。


「それじゃあ、2人とも行きましょう」


 俺と小雛先輩は準備ができたと言うのでえみりについてコースのスタート地点へと向かう。

 えみりは俺達をステージ裏に案内した後、どこかへと向かっていった。


「良い子のみんなー! 今日はみんなのために、ゲコピンとモックの2人が来てくれたよー!!」


 楓の紹介で俺と小雛先輩の2人がステージに出ると大きな歓声に包まれた。


「ゲコピーン!」

「モックー!」


 おー! さすがはゲコピンとモックだ。

 親子連れの人だけじゃなく、幅広い年齢層の人達が見に来ている。

 もしかして、俺達BERYLにとっての真のライバルはゲコピンとモックかもしれないな。


「た〜す〜け〜て〜」


 ステージに出ると、どこからともなくえみりの声が聞こえてきた。

 すると次の瞬間、檻のついた車に囚われたえみりがみんなの前に現れる。


「えみり様だー!」

「きゃー!」

「えみり様、キレー!」

「本物やば!」

「えみり様、妊娠おめでとうございます!!」


 えみりは笑顔で檻の中から見にきている人達に手を振る。


「大変だ〜! 何者かにえみりが拐われてしまったぞ〜! くそー、こういう時に誰かが追いかけてくれたら! あっ、ゲコピンとモック、その手で押している自転車は、障害者と健常者が協力しないと運転できない二人乗り用のタンデム自転車じゃないですか!」


 なるほど、そういう事か。

 拐われたえみりを助けるために、ゲコピンとモックが自転車で追いかけるっていう設定なのね。


「くっ、卑劣な誘拐犯のせいで、砂埃が目に入ったモックの目が一時的に見えなくなっちゃったぞ!」


 今、気がついたけど、確かにモックの目って飛び出ててめちゃくちゃ防御力弱そうだよな。

 おまけにドライアイになりそうだし、花粉症だったらすごく辛そうって思ってしまった。


「さぁ、今から2人がこの自転車に乗って、閉鎖した道路を走って、えみりを助けるために追いかけるよ! 沿道で見ている良い子のみんなは2人の事を応援してあげてね! それと、道路に飛び出たらとーっても危険だから、絶対に柵や紐を越えない事! それと、お母さんやお父さんの手を離さない事! この2つを司会の森川アナウンサーと約束できるかな? お姉さんとの約束が守れない悪い子はこのりんごちゃんみたいになっちゃうよ!」


 楓は頭蓋骨を砕くような勢いで、手に持っていたりんごを片手で握りつぶして粉々に粉砕された残骸をお皿の上に乗せる。

 それを見た子供達が当然の如く一瞬で黙ってしまった。

 楓、すごいな。やんちゃそうな子供でも一瞬で静かになったぞ。

 それどころか子供といえど本能的に危機感を感じているのか、一様にこいつに逆らったらやべーぞとキリッとした真面目な顔になっていた。

 なるほど、楓がなぜかお母さん達から人気なのってこういう事だったのか……。

 楓は握りつぶしたりんごを見て、笑顔で後でジュースにして美味しく飲みますと言った。


「ゲコピン! モック! お願い! 私の友達を助けてあげて!!」


 俺と小雛先輩は楓の言葉にコクンと頷く。

 2人で自転車に跨ると、スタッフのお姉さんがモックの目に目隠しをつけてくれた。

 さっき練習でもやったけど、やっぱ見えないって大変だし、何よりも怖いな。

 そうしている間に楓が専門家を交えて、自転車や競技の説明などをしてくれる。


「ゲコピン、頑張ってー!!」

「モックー! ゲコピンの足を引っ張らないようにねー!」

「ゲコピーン!! えみり様を助けてあげてー!」

「モック! 私はモックはやればできるやつだってわかってるから!!」


 俺は自転車のペダルに足を掛けると、楓の合図でスタートする。

 うおおおおお、まじでこえー! 何も見えないのに体が前に進んでる感覚がちゃんとあるし、何よりも少しの振動と左右のブレに敏感になっている自分が居た。


「右! 緩めて、少し!」

「了解!」


 俺はペダルを漕ぐスピードを緩めて、右に少しだけ体を傾ける。

 おおおおお!? ま、曲がってるのかこれ!? 本当に大丈夫なんだろうな? 途中で小雛先輩が落っこちてないだろうか、すげー心配になる。


「うわー!」

「2人ともすごーい!」

「ゲコピンもモックもかっこいい!!」


 沿道から大きな歓声が聞こえる。そのおかげで無事に曲がり切れたんだという実感が湧いてくる。

 ていうか、ちょっと待って、これかなりの人が見にきてない?

 そもそもよく考えたら、楓やえみりが居る時点で相当大きなイベントだよな、これって……。


「しばらくストレート! 追いかけるわよ!!」

「りょ、了解!」


 俺は小雛先輩の言葉を信じて只管ペダルを漕ぐ。

 くっ! 着ぐるみの重さもあって、ペダルがくそほどおめぇ!!

 

「止めて! 次、左ちょっとで右、だいぶ!」


 俺はペダルを漕ぐのを止めると、左に少しだけ体を傾ける。


「今!」


 小雛先輩の合図に合わせて俺は右に大きく体を傾ける。

 もはや、どう言う状況か全然わかないし、めちゃくちゃ怖いけど、ここまで一緒にやってきている小雛先輩の事を信じるしかない。


「戻す! 漕ぐ!」


 行くっきゃねぇ!!

 俺はその合図で傾きを直すとペダルを一気に漕ぐ。


「今日のモックすごい!!」

「ついにモックが覚醒した!!」

「ええ、私はモックはやればできる子だってわかってましたよ」

「今日のモック、あくあ様みたい!」


 みたいじゃなくて本物だよ!!

 お母さん達の笑い声が聞こえてきたけど、子供の勘って結構馬鹿にならないんだよなあ。


「ここからは登り道になってるからね! 2人で必死に漕ぐわよ! 後、ちょっとだけ右に体重かけて!!」


 きっっっっっつ! でも、それは前に乗った小雛先輩も同じだ。

 むしろ小雛先輩には車体のコントロールに集中して欲しいので、俺がしこたま必死にペダルを漕ぐ。

 ゼーハーゼーハー! 洒落にならないくらい中は蒸れてるし、熱中症どころじゃねぇぞ!!

 むしろ中に入るのが俺でよかったわ!! こう言っちゃ何だけど、俺以外にこれは無理だと思う。


「ストップ、このまま緩やかに降っていくからね、ほら、もうゴールは近いわよ! 左右に軽く手を振って」


 俺は小雛先輩の合図に合わせて左右に手を振る。

 小雛先輩が右に手を振ってる時は俺は左、小雛先輩が左に手を振っている時は俺は右だ。

 さっきの練習でこれが一番バランスが取れるっていうのも練習済みである。


「さぁ、最後の右カーブよ! ストレートをしっかりと漕いだ後に、大きく傾けるわよ!!」


 ぜぇぜぇ、はぁはぁ。俺は重たい脚に鞭を打って再びペダルを漕ぎ始める。


「減速! 右!」


 俺は漕ぐのを止めるとググッと体を傾ける。そこで一瞬だけふわりと浮いた感覚があった。

 あれ? もしかして石でも踏んだか? と思った瞬間、俺の体が自転車から投げ出されて地面に激突する。


「きゃあああああああああ!」

「ゲコピン!」

「モック!」


 いっ……てぇ! 着ぐるみじゃなかったらやばかったかもな。頭が分厚いクッションに包まれてたのと、カーブの前に減速してブレーキかけてたおかげでどうにかなった。


「こ……ゲコピン、大丈夫か?」


 俺は自分の体の上に乗ったゲコピンに声をかける。

 外に投げ出される瞬間、咄嗟に小雛先輩がいるだろう方向に手を伸ばして、俺の上になるようにしたけど大丈夫だろうか?


「あ……モック、私なら大丈夫よ。でも……」


 そこで小雛先輩が言葉を濁す。どうしたのだろう?

 俺は緊急事態だと思って、自分で目隠しを外す。

 すると目の前には車体の曲がった自転車が倒れていた。

 ゴールテープは目の前。ゴールに居たえみりと楓がこっちに駆け出して、スタッフの人が制止していた。

 それでいい。2人のお腹には赤ちゃんがいるんだから、走っちゃダメだぞ。俺は無事をアピールすると、2人を制止するよに手のひらを見せた。


「……ここまできたら絶対にゴールするわよ!」

「ど、どうやって?」

「そんなの……担ぐしかないじゃない! 私の意地を舐めんな!!」


 俺は今まで頑張ってくれた倒れた自転車を優しく撫でる。

 すまん。俺達がもっと上手に運転できれば、こんな事になってなかったかもしれない。

 ゴールまであと100m。俺と小雛先輩は顔を見合わせて頷くと、2人で自転車を担いでゆっくりとゴールを目指す。

 それを見て駆け寄ってきたスタッフさん達が左右に開く。

 みんなが衝撃でびっくりしすぎて固まる中、1人の女の子がパチパチと手を叩いた。

 それに呼応するようにして、1人、また1人と、拍手の輪が広がっていく。


「うおおおおおおおおお!」

「なんかよくわかんないけど感動した!!」

「ゲコピンもモックもよくやったよ!!」

「ゴールまで後ちょっとだよ!!」

「この競技、初めて見たけど面白いかも!!」

「次テレビでやってたらみよっと!」

「2人ともがむばれー!」


 俺と小雛先輩の2人は周りからの大きな拍手と歓声に包まれてゴールに到着する。


「うっ、うっ、2人とも本当に頑張ったよ」

「最後まで頑張ってくれた2人と自転車に再度大きな拍手をお願いします!!」


 ちょっと想定とは違う形になっちゃったけど、最後までこいつと一緒にゴールができてよかった。

 俺はスタッフさんに自転車を渡すと、壊してすみません。いくらかかってもいいんで直してあげてくださいとお願いする。

 こうして子供向けのイベントは無事に終了した。

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