検証班、よにんはズットモ!
「きゃー! あくあ様、かっこいい!!」
「えみり様、綺麗!!」
白無垢姿の私と、紋付袴姿のあくあ様が横に並ぶ。
へへ、ママが結婚した時に着ていた白無垢を自分の結婚式で着られるとは思ってもいなかった。
いつかは結婚するかもしれないと思って、家は無くなったけどこれだけは残してたんだよな。
「あくあ様、実は私からプレゼントがあるんですが、受け取ってもらえますか?」
「プレゼント!? ああ、うん。もちろん。あ……待って。変なのじゃないよね? 大怪獣ゆかりゴンとかはいらないよ?」
「誰が変なのよ!」
小雛パイセンのツッコミが早すぎて、みんなから笑い声が漏れる。
私は唇に人差し指を当てると、微かに笑みを溢す。
「変なのかもしれませんよ? 少なくとも私の中では。一番変なのにカテゴライズされてますけどね」
「えぇ〜? 待って、これ、ドッキリか何か?」
私は戸惑うあくあ様をステージに残して、2人で入ってきた入り口に向かう。
「ほら、行くよ」
「う、うん」
私が手を繋いで出てきた人物を見て、会場が大きな歓声に包まれる。
どうよお前ら、腹は膨れてるけど、世界一の金髪美少女の白無垢姿だぞ!!
「カノン、帯大丈夫?」
「うん、落ちてこないし締め付けもゆるいけど、ちゃんと止まってる。まさか、えみり先輩がこんなに着付けが上手いとは思いませんでした。ちゃんと華族だったんですね……」
私も草を食ってる時に、たまに本当に華族だったのかなって思う時あるけど、やっぱりお前から見ても怪しかったんだな。うんうん、わかるぞ。
「あと、さっきの一番変なのってなんですか? ちなみに私が今まで出会った中で一番変なのはえみり先輩だからね」
「へへっ」
私はカノンに合わせてゆっくりと歩くと、あくあ様のところに連れて行く。
「あくあ……ど、どうかな?」
「すごく綺麗だよ。カノン」
へへっ、カノンもあくあ様もすごく嬉しそうだ。
私はネットに配信しているカメラに視線を向ける。
「結婚式は何度挙げたっていいってあくあ様が言ってたし、それならみんなだってやっぱり日本でこの2人の結婚式が見たいよね」
2人がスターズで結婚式を挙げた時からずっと考えていた。
だって、2人が出会ったこの日本で2人の結婚式を挙げてあげたかったんだもん。
私はあくあ様とカノンに、せっかくだからカメラの前で誓詞奏上したらと言った。
あっ、もちろん畏まったやつじゃなくて、自分の言葉でオナシャス!
2人は顔を向き合うと、笑顔でカメラに視線を向ける。そうそう、そのカメラね。
おい、見てるか掲示板民? 風呂ネキはシャワー浴びてたりしねーだろうな? お前ら、ホゲってる場合じゃねーぞ!!
「少し……いや、だいぶ遅れちゃったけど、日本のみんなに俺から改めて結婚の報告させて欲しい。俺はこの、隣にいるカノンと結婚してとても幸せな毎日を送っています。それはみんなが俺とカノンの結婚を受け入れてくれたからだ。ありがとう。改めて俺からの感謝の言葉をみんなに送らせて欲しい」
「私からも同じ言葉を皆さんに贈らせて欲しいです。スターズから来た私を快く受け入れてくれたみんなに、改めて心からの感謝の言葉を送りたいと思います。ありがとう。私も今、とても幸せです」
2人の言葉に私は涙を流しながら拍手を送る。
くぅ、こう見えても私は涙脆いんだ。この前も募金箱に給料袋の方を入れて泣いたしな!!
「これからもカノンと共に楽しく笑いながら過ごせたらと思います」
「私もあくあと一緒に、穏やかな……は、流石に無理だよね。だって、あくあだもん」
「ええっ!?」
冷静になったカノンのツッコミに会場が笑い声に包まれる。
「そうだー。もっと言ってやれー!」
さすがKY先輩だぜ。ツッコミもキレキレだ。
気のせいか、後ろでクレアもその意見を肯定するように拳を突き上げていた。
そうだよね。その隣で何度も頷いているくくりといい、お前ら2人はあくあ様に特に苦労させられてるもんな。うんうん、私のせいじゃないぞ。
「ふふっ、だからこそ、私があくあにとって一休みできる場所になれるように頑張ります」
カノーン! お前、本当に成長したんだな。
私だけじゃなく姐さんや楓パイセンも涙ぐむ。
「カノンさん、大人の素敵な女性になりましたね」
「くっ。私なんかあくあ君と結婚して、一緒に遊ぶ事しか考えてなかった……」
あ、うん。私もそうだから、楓パイセンはむしろそのままで居てくれ。
楓パイセンまで成長されたら、私がふざけられ無くなるからな。
「だから、どうか、これからもこの国で過ごす俺達の事を見守っていてください」
「私からもよろしくお願いします」
2人はカメラに向かってぺこりと頭を下げる。
これは神様に向けてするちゃんとした誓詞奏上じゃない。
でも、私はそんな誓詞奏上じゃなくて、日本にいるみんなへの2人の誓詞奏上の方が見たかった。
「カノン、そろそろ着替えに行こうか。2人も手伝って」
「はい!」
「おう!」
私は姐さんと楓パイセンについてきてもらって4人で控室に戻る。
「えみり先輩〜!」
「はいはい。嬉しかったんだよな。わかるわかる」
私は抱きついてきたカノンの背中を優しくポンポンと叩く。
「ふふっ、カノンさん良かったですね」
「いやー、まさかえみりがあんなサプライズを用意してたなんてな! 私も驚いたよ」
「2人とも呑気な顔をしてるけど、ほら、さっさとこのウェディングドレスに着替えて」
「「えっ!?」」
私が指差したウェディングドレスを見て姐さんと楓パイセンが固まる。
ちゃんと妊娠してるカノンに合わせて、締め付けがゆるくないマタニティにも使えるドレスを4着用意した。
「今から4人で同じウェディングドレス着るんだよ」
「えっ?」
「それって……」
「えみり、お前……」
私は3人の言葉に大きく頷く。
「もう今更隠しておいたって仕方ないだろ。流石にあのホゲった掲示板民だって、これで私が捗るだってわかるんじゃないか?」
むしろもういい加減楽になりたい。
「そっかぁ。しゃあねぇ。私の正体もバレちゃうけど、かわいい後輩のために一肌脱ぐぜ!」
腕まくりした楓パイセンに向けて、私とカノン、姉さんの3人が悲しい視線を送る。
そっか、楓パイセンってまだ自分がティンスキだってバレてないと思ってたんだな。
もう、みんな普通に知ってるのに……。
私達4人は事情を知っているペゴニアさんや、気を利かせてやってきたクレアやくくりに助けて貰ってウェディングドレスに着替える。
「よし、じゃあ、行くよ!」
「うん!」
「ええ!」
「行こう!」
ウェディングドレスに着替えた私達は4人で手を繋いで式場の中に入る。
それを見たみんなが再びざわめく。
どうよ、この組み合わせで流石に私達が検証班だってわかったでしょ!!
これで明日から、いや、今日からリミッターを解除した本気の白銀えみりがみんなに魅せられるぜ。
私は心の中でドヤ顔をする。
「なんであの4人なんだろう?」
「メアリー繋がりとか? あ、でも姐さんは違うのか」
「お嫁さん繋がりじゃない?」
「いやいや、白龍先生とか結さんならそこで手を叩いてるし違うんじゃない?」
「うーん、それじゃあなんだろう?」
いいぞいいぞ! その調子だ!!
私は心の中でホゲラー波に絶対に飛んでくんなよと願う。
「みんな……」
私達4人のウェディングドレスを見たあくあ様が涙ぐむ。
えへへ、あくあ様が喜んでくれた事が嬉しかったのか、私だけじゃなくて、カノンも姐さんも楓パイセンも照れた顔を見せる。
「そっか、そういう事だったんだな」
あくあ様の全てを察した顔を見て私はドキッとする。
私とカノン、姐さん、楓パイセンの4人はお互いに顔を見合わせて、少し驚いた顔をした。
えっ? もしかして、あくあ様も気がついたって事!?
それってつまり……検証班の事とか、掲示板の事をあくあ様が認知してるって事だよね!?
おまけに掲示板の事を知ってるのに、この世界の女性の事を受け入れてくれてるって事!? ふぁ〜、人類最強、史上最強の男は次元が違うぜ……。
「「「「ほ、ほげ〜……」」」」
私達が呆けていると、あくあ様はカメラに向かって真剣な顔を見せた。
も、もしかして、あくあ様の口から真実が語られるの!? 私達4人はドキドキしながら、その時を待つ。
「皆さんに改めてご報告があります。ここにいるカノンと琴乃についてはすでにみんなも知っている事だと思います」
ああ、カノンが嗜み、姐さんが姐さんだって事を知らない奴はこの国に1人としていねぇ!
そんな奴がいたら、そいつは山奥で暮らしてる仙人くらいだ。日本人なら全員が知っていると言っても過言ではない常識の一つである。
「しかし、楓とえみりに関してはまだ公表してないので、できればこの場を借りて皆さんにご報告させてください」
うおおおおおおおおおお!
ついに来るぞ! 私は隣にいた楓パイセンと顔を見合わせて小さく頷く。
「2人とも、改めて俺の子供を妊娠してくれて、ありがとう!!」
そっちかーい!!
いや、確かに普通に考えたらそうだけどさあ!!
くっそー、ホゲラー波の発生源が私の隣に居た事を忘れてたわ。楓パイセンのウェディングドレスだけアルミホイル製にしておけば良かった。
「あー、そういう事かー」
「妊娠した奥さん4人って事なのね。だからマタニティドレスなのか」
「大ニュースだぞ!! 今日の夜は全部特番だ!!」
「えみり様とあくあ様の子供だって!? ふぁ〜っ!」
「森川さんとあくあ様の子供なんて、各種スポーツ協会の間で子供を取り合いそう」
「あるある」
だめだこりゃ。完全に話の流れが子供に持っていかれてしまった。
絶望して自分の席で項垂れていると、携帯のメッセージアプリが届く。
千聖クレア
えみりさぁん!? そういうのは早めに言ってくださいよ〜!!
えみりさんの正体を知っている幹部が先走って聖あくあ教が暴走しないように、少しメッセージで釘を刺しておきますね……。シクシク……。
クレア、本当にすまねぇ。
お前とくくりにだけはいつか報いるから、それまで待っていてくれ……。
「えみり先輩、何してるの? ほら、せっかくだから4人で写真撮ってもらお。あくあが撮ってくれるんだって」
「あ、ああ、うん」
私は気持ちを切り替えると、みんなが待っている場所に加わった。
まぁ、正体がバレる事はなかったけど、こまけー事は気にするなだ!!
なーに、まだ機会はある……はずだよな? えっ? 流石にこれがラストチャンスって事はないはずだ。うんうん。そう思う事にしよう。
4人で写真を撮った後は、みんなでビンゴゲームとかをして楽しんだ。
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