白銀あくあ、ヘブンズソードフェス!?
今、世間はヘブンズソードが終わった事で悲しみに暮れているらしい。
みんなに元気になってもらいたいと思った俺は、ヘブンズソードのファン達が開催したフェスに潜り込む事にした。
「レイヤー参加申請を希望の方ですか?」
ヘブンズソードのスーツを着た俺は、冷や汗をダラダラと流しながらコクンと頷く。
まさか、受付にカノンがいるとは思わなかった。
しかも、腕に巻いている腕章。ファンイベント実行委員会!? 俺の嫁は一体何をやってるんだ……。
「その衣装、凄いですね。本物にそっくり! 細かいところのディテールとか装飾とかも完璧で参考になります。それに剣崎と身長一緒だし、ちゃんと胸囲だけじゃなく、腕の太さや太もも周りまでミリ単位で合わせてきてるんですね。私もレイヤーやってるからわかるけど、ここまでピッタリ合わせてくるなんて凄すぎます!」
嫁がキラキラした純粋な目で俺の事を見つめてくる。
ごめん。このスーツも本物だし、中に入ってる俺も本物なんだよ……!
似てるとか、そっくりとか、合わせてきた、とかじゃなくて全部が本物なんです。
「あ、すみません。私ばっかり喋ってて」
俺は首を左右に振って、気にするなの素振りを見せる。
ヘブンズソードが終わった翌日に家に帰ったら、電気の消えたリビングで嫁達全員が沈んだ顔をしてた事を思えば、カノンだけでも少しは元気になってくれて良かったよ。
「それとコスプレ参加料500円になります。楽しんできてくださいね。あっ、その前に写真良いですか?」
もちろんだ。俺は無言でコクンと頷くと、カノンと並んで写真を撮る。
正直、俺がスーツの中に入ってる事を知ってる人からしたら、夫婦で何やってるんだ。そんなの自宅でやれって思うだろうなあ。ぶっちゃけ、俺もそう思ってる。
「ありがとうございます!」
俺は親指を突き立てて、君が着ているOJYO司令官のコスプレも似合ってるよと伝える。
親戚のナタリアさんが森川楓のゴリラプライスだっけ? いや、ホゲープライスだっけ? ともかく、あの番組で落札した権利でOJYOの司令官役をやってた事もあって、カノンのコスプレは本当にそっくりだ。
ナタリアさんも本当は最終話にエキストラとして出演するだけだったのに、スターズウォーの出演で演技が鍛えられていた事もあって、本郷監督が後々の事を考えてOJYOの司令官役に抜擢して本人もびっくりしてたっけ。
カノンの隣を見ると、ナタリアさんも同じコスプレをしていた。いや、こっちはコスプレというよりも本人そのものか。
「楽しんできてくださいねー!」
俺は手を振って受付を通り過ぎると、中で椅子に座って目を光らせていた琴乃に遭遇する。
だからさぁ。なんで2人とも普通に実行委員会なんてやってるのさ!?
「わ! その衣装すごいですね。へぇ〜、ベルトとかも市販品じゃなくて、ちゃんと作ってるんだ。しかもこんな細かいところまで再現するなんて、すごく勉強になります!!」
琴乃は俺のスーツの足の裏まで観察する。
カノンといい琴乃といい、ヘブンズソードさんの事好きすぎない? 俺、ちょっとだけ自分にジェラシー。
俺が警備の琴乃に絡まれていると、周囲のファン達が俺のコスプレの精度に気がつき始める。
「あ、あのヘブンズソードすごい!」
「本当。写真いいですか?」
「そのヘブンズソードのコスプレ、最高にかっこいいですね」
「さっき見たポイズンチャリスも凄かったけど、こっちもすごーい」
え? ポイズンチャリスも来てるの?
俺は周囲をキョロキョロしてポイズンチャリスを探す。すると、向こうからこっちを探して近づいてきた。
って、完全に天我先輩じゃねーか!!
ずっと共演していた俺にはわかる。
あのポージングのキレと独特のセンスは間違いなく天我先輩だ。
おそらくポイズンチャリスの中に入った天我先輩も俺の事に気がついたのだろう。
俺達は顔を見合わせたままでまっすぐ歩み寄ると、お互いに拳を突き合わせた。
「きゃああああああああ!」
「剣崎と神代が真の友達になったあのシーンの再現よ!!」
「2人ともわかってる!!」
「写真、写真!」
「ウッウッウッ……ここに本物の剣崎と神代が居たんだ。例え虚像だったとしても、私にとってはこれが本物だよ。レイヤーさん、ありがとう!!」
いや、お姉さん、合ってるからね。
ここにいるのは間違いなく神代始と剣崎総司です。
俺達は無言ですれ違うと、お互いに手を振り上げて違う方向へと歩き出した。
「きたああああああああああ!」
「お互いの事を思って一時だけ再び道を違えた2ndROUNDのあのシーンだ!!」
「レイヤーさん、わかってる!!」
「通称神代デレ期の頃のポイズンチャリスだ!」
神代デレ期って何? まぁ、いいや。よくわからんけど、みんな盛り上がってくれてるみたいだし、こまけーことはいっか。俺は全てを受け入れる男、白銀あくあだ。
俺は近くに居た春香さんにぺこりと頭を下げると、ポイズンチャリスと別れて会場を彷徨く。
その最中に、とあるコスプレイヤー達と遭遇した。
エッ……!?
なんだあのチジョー軍団は!?
って、待てよ。あの肢体には見覚えがある。結とペゴニアさん、それに……揚羽さんだとぉ!?
俺は本物のチジョー達が放つパワーに吹っ飛ばされた。
くっ、あのチジョー達を個人的に救ってあげなきゃという使命感に駆られそうになる。耐えろ剣崎、今のお前は白銀あくあじゃない。剣崎総司だろ! 俺は唇を噛んで内から溢れる邪……闇の力を抑えた。
剣崎、今の俺ならよくわかるよ。お前もいつもこうやって苦しみに耐えていたんだな……。
そんな事を考えていると、後ろから誰かに小突かれた。
「いてっ」
なんだなんだ!?
俺は後ろを振り向くと、ボッチ・ザ・ワールドのコスプレをした人に杖で小突かれた。
なになに、何なの?
ボッチ・ザ・ワールドのコスプレをした人は、持っていた杖で地面に文字を書く。
なになに?
ばーか。
小雛パイセンじゃねーか!! ここに来てる俺が言えた事じゃないけど、あんたも暇か!!
これはボッチ・ザ・ワールドじゃなくてヒマ・ヲ・モテアマースさんだ。
しかも俺の正体に気がついているだと!? 俺は凶悪なチジョーを発見したので臨戦態勢に入る。
「あっ! あそこにヘブンズソードとボッチ・ザ・ワールドのコスプレをした人がいる!!」
「本当だ!!」
「親子合わせきたあああああああ!」
「写真いいんですか!?」
「ヘブンズソードさん、もっと甘えてもらっていいですか?」
「ヘブンズソードさん? 剣崎はお母さんにそんな敵意向けませんよ」
「もっとお互いに素直にデレて、ほら!!」
ぐぬぬぬぬぬ! こ、これはファンのためなんだからね!!
俺は誰も見てないところで勝手に極大のツンデレをかましながら、ボッチ・ザ・ワールドさんと一緒にポーズをとる。
「ほら! 恥ずかしがらずに、ママにもっと甘えて!」
「ヘブンズソードさん。大好きなママでちゅよ!」
「ね。本編で甘えられなかった分、お母さんにいっぱい甘えよ?」
「素直に甘えるヘブンズソードさんが見たいです!!」
くそおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
絶対に中に入っているのが俺だってバレないようにしなきゃ。
もし、バレたら俺が恥ずかしさで死ぬ。
撮影が終わった後、小雛先輩は、絶対にバレないでよと耳元で囁いてから俺の前から立ち去った。
どうやら恥ずかしかったのは俺だけじゃなかったらしい。
俺はこれ以上ここに居たら危険だと思って、物販コーナーに移動する。
事前にちゃんと確認してからきたが、物販コーナーは撮影禁止だが、コスプレのまま入るのは問題がないらしい。
おっ! なんだなんだ。あそこ、すごい列だな。俺は列ができているところに近づく。
「白龍先生の新刊、こちら最後尾でーす!!」
「原案本郷弘子監督、脚本白龍アイコ先生の描くオリジナルエピソードの同人小説版ヘブンズソードはこちらになります!!」
「後でネットでも買えますからね〜」
アイも本郷監督も何やってんの!?
2人は買ってくれた本に一冊ずつサインしていた。
途中、こちらに気がついた本郷監督が俺にウィンクする。
さすが、この距離でも一発で俺が本物だと気がついたな。
忙しそうにしてたから、俺は一瞥して他のところへと向かう。
へー。結構、いろんなもん売ってるんだな。
俺はその中でまた一つ壁に大きな列を作っているサークルを見つける。
って、あそこに居るのは……メアリーお婆ちゃん!?
「お願いします。どうか、みなさん、本を買ってください!!」
その隣では羽生総理が定番の土下座ネタをやっていた。
一国の総理がこんなところで何してんの……?
そんなまともなツッコミをする人はこの場に誰1人もいない。
俺はそのブースをスルーして、次のブースに向かう。
するとバレバレの変装をした3人を見つける。
「あっ、これ可愛い」
「えー、絶対にこっちの方が可愛いですよ」
「いやいや、こっちでしょ」
まろんさん、ふらんちゃん……それにアヤナ、3人して何してんのさ……。
3人はヘブンズソードの同人グッズを見ながら、話に花を咲かせていた。
うん、楽しそうだし、そっとしておいてあげるか。
周りにいる人達もみんなアヤナ達の変装に気がついてるけど、誰1人として空気を読んで声をかけてなかった。
なんて優しい空間なんだろう。俺は思わず涙を流しそうになった。
俺は3人に背を向けて違う方向に向かって歩き出す。
「わっ、すごいね。こんなにいっぱい見るところあるんだ」
「ねー。私もびっくりしちゃった」
「2人とも、目的のブースはあっちですわ」
あっ、ココナとうるは、リサの3人だ。
よく見たら周りにクラスメイト達もいる。しかも杉田先生や根本先生も一緒だ。
やべぇ。ここは危険だ。早く退散しないと。
流石にあの人数のクラスメイトに囲まれたら、1人くらいは俺の正体に気がつくかもしれない。
俺は逃げるようにその場を立ち去った。
ん? なんだ? あそこが少し騒がしいな。
俺はみんなが騒いでるところに近づく。
って、みんなどうしたの!?
なぜか多くの人達が涙を流しながら一点を見つめていた。
俺はその方向へと視線を向ける。
するとそこには見知った2人が体を寄り合わせて、同人グッズを見つめていた。
「黛くん、これ、私たちが使ってたマグカップにそっくり。ほら」
「あ、本当ですね。懐かしい」
慎太郎おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
俺は淡島さんとデートをする黛を見て、周りに居た人たち以上に涙を流した。
おま、ここでデートとか最高かよ!
「あ、そういえば鍵につけるキーホルダー探してたの。これとかどうですか?」
「いいかも! これ買おうかな」
しかもちゃんと慎太郎からリードしようとしてる。
さすがだよ。慎太郎。さすがは俺が認めた男だ。
俺は感動で小刻みに体を震わせる。
「うっ、うっ、うっ……」
「こーれ、完全に橘さんと月子です」
「ありがとう世界。やっぱり世界は私たちに優しかった」
「良かったねぇ。本当に良かったねぇ」
俺は慎太郎達にバレないように、そっとその場を離れる。
2人とも、お幸せにな!!
俺がデレデレした顔をして歩いていると、誰かが俺の背後に立って背中に銃のようなものを突きつけてきた。
ま、まさかテロリストか!?
「手を上げろ。……なーんちゃってね」
聞き覚えのある声に後ろを振り向くと、SYUKUJYO隊員の格好をしたとあが立っていた。
こんなところで、とあは何やってるんだよ。
「へへ、琴乃お姉ちゃん1人じゃ大変だろうと思って、警備の助っ人に来たんだよ」
いやいや、むしろお前が警備に守られる対象だろ。
世の中には男の娘が好きな男だっているんだ。油断してると攫われるぞ!!
「ほら、みんなも来てるんだよ」
とあが視線を向けた方向を見ると、田島司令のコスプレをした阿部さんや、夜影ミサのコスプレをした小早川さんが居た。
みんなも来てたのか。俺の視線に気がついた2人が俺に手を振る。
さすがずっと共演してただけあって、2人もすぐに俺だと気がついたか。
そういえば、さっきコスプレエリアでも本物のチジョー役の人達がチジョーのコスプレしてきてたし、みんな、結構きてるんだな。
「あっ、そういえば、さっき白銀家の皆さんとうちと慎太郎のお母さん達が来てたよ。途中でミシュ様がボッチ・ザ・ワールドさんと睨み合ってたから少し注意したけど……」
「すまぬ。本当にすまぬ」
俺は誰にも聞こえないような声でとあに謝ると、警備ボランティア頑張れよと言って頭をポンポンと叩く。
「トアーックア」
「アクトアーッ!」
「ファー!」
「じゃらじゃらじゃら」
ん? なんかこっちを見ていたお姉さん達がバタバタと倒れた。大丈夫か?
俺が助けに行こうとしたら、とあが「あくあはいいから、僕に任せて」と言ってお姉さん達に駆け寄る。
とあ、強くなったな。俺はお姉さん達と普通に接するとあの後ろ姿を見て感動した。
俺はそっとその場を離れると、ステージのある方に近づいていく。
ん? あそこに膝を抱えてうずくまってる人がいるな。大丈夫か?
俺が声をかけようとした途端、その人が勢いよく立ち上がる。
「くっ、なんとか本社のスタジオから抜け出してきたのに、なんで目当てのグッズが目の前で売り切れてんねん!!」
あっ、インコさんだ。どうやら買おうと思ってたものが売り切れてたらしい。
俺は心の中で、ドンマイと呟いた。
「あの……」
「ん?」
インコに話しかけてきた人物が、自分の持っていたアクスタを差し出す。
って、くくりちゃん!? キャスケットにメガネ、服装も地味にして変装してるけど、間違いなくくくりちゃんだ。
「あの、さっき、私の後ろに居た人ですよね? 良かったら、これお譲りしましょうか?」
「ええんですか!? いや、それは……」
「いいんです。これ、頼まれて買ったんだけど、一緒に来た子が先に買っててくれて被っちゃったみたいで……」
一緒に来てた子?
くくりちゃんの後ろに視線を向けると、ハーちゃん、フィーちゃん、オニーナちゃん、アンナマリーちゃんの4人が居た。くくりちゃん、面倒見が良すぎるよ……。きっと、いいお母さんになるだろうな。
「そういう事なら! いやー、助かります。ほんま、おおきに!!」
「ふふっ、私の方こそ必要な人の手に渡って良かったです」
くくりちゃんからアクスタを受け取ったインコさんは、商品の代金を差し出す。
なんて優しい世界なんだ。これが譲り合いの心ってやつか。
感動した俺が心の中で拍手を送る。
さてと、もう一回コスプレブースに戻ってみんなにファンサしてから帰ろうかな。
そう思っていたら、ステージからチジョー登場の曲が流れる。
なんだなんだ!? 全員の視線がステージに向かう。
「ココガ ヘブンズソードフェス ノ カイジョウ カ!!」
俺はステージに出てきた人物を見て、昔のギャグ漫画みたいに後ろにひっくり返りそうになった。
「ワタシハ チジョー ホゲ・カワー! マタノナヲ ゴリ・カワー ダ!!」
楓さぁ、本当に何やってるの!?
俺はチジョー役が板についている楓を見て頭を抱える。
「いいぞー」
「本物のチジョーだ!」
「普通にチジョーでワロタ」
お客さん達は手を叩いて喜ぶ。
あ、うん。みんなが喜んでいるのならいいか。
楓の後ろからもう1人見覚えのある人物が現れる。
「どうやら、この世界には、もうヘブンズソードは居なくなったみたいですね」
あ、シスター・ミ・レーンのコスプレをしたクレアさんだ。
おー、シスター服とコスプレがよく似合ってる。なんかこう、すごく悪そうな組織のトップに見えるぞ!!
ていうか、なんでその2人なの!? あれ? そこ2人って接点あったっけ?
うーん、何かを思い出しそうで俺は頭を悩ませる。
「さぁ、チジョーの幹部、ホゲ・カワーよ。まずは手始めにこの会場にいる女子達をチジョー化させるのです!!」
あっ、そうか。そういう事か! 俺は2人の共通の知人を思い出す。
「そうはさせないわ!!」
ステージの反対側から現れた人物を見て、会場が大歓声を上げる。
おおー。最終話の種明かしがあったからか、すごい人気だ!
「セイジョ・ミダラー!? どうしてここに!?」
セイジョ・ミダラーのコスプレをしているのはもちろんえみりだ。
あの衣装をあそこまで着こなせるのなんて、古今東西世界の全てを探してもえみりくらいしか居ないもんな。
「さぁ、みんなで私達のヒーローの名前を呼びましょう!!」
えみりが俺の方をチラッと見る。
なるほど、そういう事か。
「剣崎ー。帰ってきてー!」
「戻ってきて、みんなのヘブンズソード!!」
「たしゅけて、けんじゃきー!」
「剣崎! 剣崎!」
周りをよく見るとデート中の慎太郎や、SYUKUJYOの制服を着て警備中のとあや、ポイズンチャリスのスーツを着て春香さんと一緒にいる天我先輩も剣崎の名前を叫んでいた。
ふっ、ここまでされたら行かないわけにはいかないよな。
俺は会場全体の大歓声に応えて、派手な動きでステージに駆けあげる。
「みんな、待たせたな!!」
ステージの上で俺がポーズを取ると、今日一番の大歓声が会場を包み込む。
「聞いてくれみんな! チジョー、ホゲ・カワーをホゲから救うために、みんなのホゲパワーを俺に貸してくれ!!」
ホゲを救うためにホゲパワーを貸してくれとか、何を言っているのかもはや意味すらもわからないが、そんなのはどうでもいい。俺は勢いでどうにかする男、白銀あくあだ。
盛り上がれば、細かい事など、どうでもいいのである。
「お母さんが言っていた。心が寂しくて冷えてしまった時は、誰かと心を寄り添わせて温めあったらいい。そして誰かの傷ついた心を癒せるのは、みんなの優しい心だってな!!」
俺がかっこよくポーズを決めると、みんなが手を伸ばして俺にパワーを送る。
「ありがとうみんな。さぁ、来い!」
俺はベルトに装着されたカブトムシのツノに手をかける。
それを見た楓とクレアさんがタイミングを合わせて俺に攻撃を仕掛けてきた。
「さぁ、みんなも一緒に! ドライバー……」
「「「「「「「「「「キック!」」」」」」」」」」
俺の攻撃に楓とクレアさんがわざとらしく倒れていく。
2人とも、やられ役なんてごめんな。俺は倒れていく2人を優しく両手で抱き止める。
「ありがとうみんな! みんなのおかげで、今、2人のチジョーが救われた!!」
再び会場が大きな歓声に包まれる。
えみりも含めた4人でぺこりと頭を下げると、俺達はステージから降りて人のいないところに向かう。
「会場を盛り上げてくれたみんなに盛大な拍手をお願いします!!」
あっ、鬼塚アナも来てたんだ。
今のうちにさっさと行ってと、鬼塚アナは俺達にウィンクを送る。
なるほど、これが良い女ってやつか。
「えみり、楓、クレアさんも、ファンのために色々とありがとな」
「いえ、まさかあくあ様がいるとは思いませんでした。こちらこそ、咄嗟のアドリブにも関わらずありがとうございます」
俺が出てこなかったから、どうするつもりだったんだろう?
え? 阿古さんがコスプレして出てくる予定だった? くっ、それはそれで見たかったな。
「えっ? あくあ君!? 嘘でしょ!?」
なんで楓は気がついてないんだよ……。隣のクレアさんも、これには呆れた顔をしていた。
俺達が4人で話していると、再びステージの方から歓声が聞こえてくる。
「みんな。ヘブンズソードで盛り上がるのもいいけど俺たちもよろしくな!」
「次のドライバーは俺たちだ!! 悲しんでる暇なんてないぞ!」
丸男、孔雀……2人とも来てたのか! 2人が次のドライバーに出演する事はヘブンズソード後の番宣でも既に発表されている。
お前らも悲しんでるファンの事を思ってここにきてくれたんだな。俺は後輩の成長に涙が出そうになる。
「それじゃあ、俺は今のうちに退散するわ」
「はい、わかりました。それと、カノンが無茶したらいけないので、そろそろ連れ帰ってやってください」
「わかった」
えみりは本当にカノンの事が大好きだよな。
俺はカノンを迎えにいくと、みんなに今日は楽しんでくれよと願いを込めて帰路についた。
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