ラズリー、ライブの裏側。
私はテクテクと歩いてBERYLのライブが行われる会場に向かう。
「あれ? こっちでいいんだっけ?」
さっき見た地図じゃ、こんなところに行き止まりはなかった気がする。
もしかして、どこかで道を間違えたのかな?
「ラズ様ぁ〜」
あ、リスナーさんだ。
息を切らしたリスナーさんが手を振りながら走ってくる。
「はぁはぁ、はぁはぁ。サインいいですか?」
「うん」
私は最近練習しているカタカナで自分の名前を書く。
あっ、間違った。えーと、こうじゃなかったけ? あれ? こんなんだっけ?
ちょっとだけ自信がなかったけど、私からサインを受け取ったお姉さんがニッコリしてたから多分あってたんだと思う。
【ラじゃなくてマンはアウトー!】
【どうしてそうなった?】
【ラーメンのびる:もしかして、ラズ様もこっち側でしたか!?】
【↑無知な美少女を引き込むな!】
【これにはファンもニッコリ】
【92ママ:あ、後で教えておきます……】
【このサイン、ある意味で価値あるぞw】
【ズリーは合ってたし、惜しかったよ!!】
【↑さすがは掲示板民、良い所だけを見つけてすぐに甘やかす】
お姉さんは私からサインを受け取ると、ライブ会場に行かなきゃと私が行こうとした方向と逆方向に向かって走り出す。
って事は会場があっちなのかな?
私はそっちに方向転換して歩き出す。
【これはナイスプレー】
【あのお姉さん、迷子になったラズ様をさりげなく道案内するだけのためにリア凸したなw】
【さすがはラズ様リスナーの半分を占める掲示板ネキだ。良い女しかいない】
あれれ? ショートカットだと思ってちょっと横道に逸れたら、なんか予想しているところと違うところに出ちゃった。ま、歩いてたら何となく着いちゃうかもしれないし、このまま進んじゃえ。
あくあお兄様がライブで、道はいつだって一つに繋がっているってファンのみんなに言ってたしね。
「ラズ様ぁ〜!」
アレ? さっきのお姉さんだ。どうしたんだろう。
お姉さんは、私の目の前で立ち止まるとはぁはぁと息を吐く。
「す、すみません。ついでに写真いいですか?」
「あ、うん。いいよ」
私はリスナーさんと一緒に写真を撮る。
「ありがとうございます!」
私と一緒に写真を撮ったお姉さんは、私が行こうとした方向とは逆方向に向かっていった。
あっ、あっちがライブ会場なんだ。私はお姉さんが走り出した方向と同じ方向に向かう。
【ネキwwwwww】
【リスナーネキ乙】
【このまま真っ直ぐ行ってたら逆方向に出てたな】
【さすがは掲示板民、普段あくあ様に鍛えられてるだけあって対応が早い】
【↑それってつまり私達があくあ様に調教されてるって事!?】
【↑ネタゲーでいいから、あくあ様に調教されるゲームとか出ないかな】
【鞘無インコ:↑乙女ゲーのハードコアモードで待っとるで】
【↑あっ】
【インコ……お前、まだそのクソゲーの方をやってたのかw】
【なお、インコがホロスプレーの本社に軟禁されてから150日以上が経過した模様】
【↑ほぼ半年wwwww】
【インコがむばれー】
【追加DLCで全国ライブツアー編が告知されてみんなが盛り上がってるのに、まだベータ版をやってるのか】
【スターズとステイツの賭けサイトでインコが何日目に出所できるか賭けてるのウケるw】
えーっと、こっちをこう行って、ここがこうでって、あ、あれ? なんかこの光景さっきも見た気がする。
「みんな、大変だ。この道、無限ループしてるかもしれない。も、もしかて、私、この空間の中に閉じ込められちゃった!?」
だって、さっきもこの看板見たし、あそこに居た警備員さんも見た事あるし、一体、どうなってるの!?
私は頭を混乱させる。
【ラズ様、それ普通に右回りでぐるっと一周しただけや】
【現地ネキ〜〜〜! 早くラズ様を助けてくれぇ〜〜〜〜〜!!】
【只今、現地ネキが猛ダッシュで駆けつけております】
【↑現地ネキ助かる】
【ラズ様の非公式ファンサイト見たら、もう現地ネキの項目あってウケるw】
【↑現地ネキもこれにはニッコリ】
【オツムのゆるみ:ラズ様、1人にしておくの心配なんだ。うん】
【警備員の人、絶対にリスナーだろw】
【↑さっきもラズ様の方見てたよなw】
【↑動きが挙動不審だから、普通に不審人物として警戒されてるだけかも】
【↑それ……あるなぁ〜】
【ある】
あっ、警備員の人がこっちに近づいてきた。
「君、こんなに暑いのにフードを被って怪しいね。どこからきたの? 名前は?」
「あうあう」
もしかしたら助けてくれるのかなって思ってた私がバカだった。
警備員さんは疑いの目で私に詰め寄る。
【本当に不審者に間違われてるじゃねーか!】
【警備員さん、お仕事お疲れ様です】
【朗報、警備員さん、ちゃんとお仕事してる】
【このまま警察に通報されてパトカーに乗せられて、あくあ様からぴすちゃんが警察署に迎えに来るオチかな?】
【↑あ、ありえる〜】
【この回、切り抜き確定だな】
【ソムリエール:そういう時は走って逃げろ! 私はいつもそうしてるぞ!!】
【↑おい、やめろ! 本当に大変な事になるぞ!!】
【ソムリエールさんさぁ】
【92ママ:ソムリエールさん、その話、後で詳しくお願いできますか?】
【↑あっ……】
ど、どうしよう。このままだと本当に捕まっちゃうかも。
そんな事を考えていたら、さっき会ったリスナーさんが、猛ダッシュでやってきた。
「ぜぇぜぇ! そ、その人、知り合いです! 私と一緒にライブに行こうとして迷子になっちゃっただけなんですよ」
リスナーさんがうまく警備員さんを誤魔化してくれたおかげで事なきを得る。
うう、もう少しで警察に連行されてママにまで知られて怒られるところだった。
【ネキナイス!】
【現地ネキ有能】
【良かった良かった】
【ライブ当日にパトカー連行は洒落にならんからな】
【92ママ:現地ネキさんありがとう。私からもお礼を言わせてください】
【ネキ、心配だからもう会場まで着いてってあげてよ】
リスナーさんは会場が見えるところまで私を送り届けてくれた。
も、もしかして、さっきまでの凸って私を助けるためだったのかな?
じ〜ん、なんて優しい人なんだ。
そういえば、お母さんが優しくしてくれた人には、それ以上に優しくしてあげないとって言ってたよね。
「そ、それじゃあ、私はこれで……」
「ま、待って」
私は勇気を出してリスナーお姉さんを呼び止める。
「よ……良かったら、だけど……ステージの裏側、一緒に見て見ませんか?」
「えっ!? そ、そんな事、いいんですか……?」
私からの提案に驚いたリスナーのお姉さんは戸惑った素振りを見せる。
も、もしかして、迷惑だったかな?
「えっと、嫌だったら別に……」
「行きます!!」
お姉さんは私の両手をがっしりと掴む。
良かった。嫌じゃなかったんだ。
【うおおおおお!】
【現地ネキ良かったね】
【これにはリスナー達もニッコリ】
【いいなぁ。私もステージ裏見てみたい】
【確かステージ裏の席のチケット、抽選で販売されてたよな。あれって、ライブ見えるん?】
【↑ステージはほぼ見えない。けど、舞台裏のみんなの様子とかスタッフさんの様子とか見れる】
【↑マジか! それはそれでいいな】
私はリスナーのお姉さんを連れて関係者入り口に向かう。
するとベリルのスタッフさんが出てきて、リスナーのお姉さんにペコペコと頭を下げていた。
どうやらさっきの様子を配信で見てたらしい。
「それじゃあ、今から中に入るけど配信は事前許可をとってるから安心して」
一度でいいから舞台裏の配信やって見たかったんだよね。
あくあお兄様に相談したら、とあちゃん先輩達も笑顔でいいよって言ってくれて嬉しかった。
【うおおおおおおおお!】
【オツムのゆるみ:やったぁ〜】
【ステージ裏配信きたああああああ!】
【ラーメンのびる:ラズ様最強! ラズ様最強! ラズ様最強!】
【ソムリエール:ラズ様最強! ラズ様最強! ラズ様最強!】
【ラズ様もベリルもさすが、わかっていらっしゃる】
私はリスナーのお姉さんと一緒に通路を進んでいく。
お姉さんはこういうところに入るのは初めてだろうから、キョロキョロと周りを見ていた。
「ところでお姉さんは誰のファン? あっ、もちろん私以外で」
「あ、あくあくあ様です!」
あくあお兄様か〜。この時間は集中してそうだし、控え室に入るのはダメかな。
誰か他にいないかな。あっ、困った時はあの人だ。
「ねぇ、うちの事務所のタレントさんなら誰でもいい?」
「そ、そんな、ティ……んんっ、森川さん以外だと誰かに会えるだけでも光栄です」
森川さんはダメなんだ……。
私にも優しくしてくれる森川さんは良い人だと思うけどな。
ちょっと騒がしいしおっちょこちょいだけど。
【森川の扱いwwwww】
【ソムリエール:なんで!?】
【↑だって、普通に十条の辺で歩いてたりとかするもん。森川はベリルの癖にレア感がない】
【↑それなw】
【六本木とか赤坂とか銀座じゃなくて、十条ってのがまたリアルすぎて草wwwww】
【森川ならこの前、大山の商店街でコロッケ買い食いしてたの見たぞ】
【普通に日暮里舎人に乗ってたの見た】
【ラーメンのびる:森川なら昨日、鷲谷で1人、カツカレー食ってるの見たけど、絡まれたら面倒だったので声はかけなかった】
【↑お前wwwww】
【声かけてやれよw】
私はリスナーのお姉さんを連れて、とある人物の控え室に突撃する。
「わっ、何? ラズリーちゃん、どうしたの!?」
部屋に入るとヒスイがお煎餅をバリバリ食べていた。
あっ、ごめん。ノックしてから入るべきだったよね。
「ヒスイ、この人うちのリスナーさん、なんか適当に握手とかしてあげて」
「雑ぅ! あっ……もしかしてその人、私のファンだったりとか!?」
「ううん、ヒスイなら暇そうだし、私でも気軽に話せるからいいかなって」
「私の扱い!! でも、ラズリーちゃんに気軽に話せるって思われてて嬉しいから何も言えない!!」
ヒスイは私のリスナーさんと握手をする。
せっかくだから私もお煎餅食べよ。
【ヒスイちゃんも流石に困惑してるやんw】
【さすがはラズ様、いつだってフリーダム】
【ヒスイちゃん、ラズ様に頼られてちょっと嬉しそうにしてるの可愛い】
【↑チョロいとも言う】
【そもそも、あくあ様の周りにいる人はチョロい女しかいない。その筆頭がゆるみさん】
【オツムのゆるみ:↑ちょっとぉ!!】
あー、ヒスイの部屋は落ち着くなー。っていうか、ヒスイは個室なんだ。
えっ? これからスタッフさんと打ち合わせがあるから個室に移動してた!?
「ごめんね、ヒスイ。邪魔しちゃって」
「いいのいいの。また困った時があったらきてね」
私とリスナーのお姉さんが控え室を出ると、ちょうど目の前に天我先輩がいた。
「あ、おはようございます」
「うむ、おはよう」
天我先輩はポケットから棒付きのキャンディーを取り出すと、私とリスナーさんに一つずつ手渡す。
「はわわ、私にまで、ありがとうございます」
「気にするな。それではな」
そう言って天我先輩は肩で風を切って、自分の控え室へと入っていく。
ちなみに天我先輩から貰った棒付きキャンディーは、暑さで溶けてビニールの内側でネチョネチョになっていた。
【天我先輩カッケェ】
【ペロペロキャンディーいいなー。ねちょってるけどw】
【質問、天我先輩ってなんで6月なのに革ジャン着てるんですか?】
【↑カッコいいからに決まってるだろ!!】
【↑そのとーり!】
【普通に暑そう】
【部屋に入って扉が閉まる瞬間、すぐに脱いでたから普通に暑かったんだと思う】
【↑おい、やめろ!!】
私がリスナーのお姉さんと一緒に歩いていると、通路にみんなが使う衣装がハンガーラックにかけてあった。
せっかくだから、ここも視聴者のために映しておこうかな。
「これ、みんなが今日のライブで使う衣装ね」
リスナーのお姉さんはキラキラした目でみんなの衣装を見る。
良かった。リスナーのお姉さん、喜んでくれてるみたい。
その後も私はお姉さんを連れて、色んなところを見学していく。
自分から声をかけるのは苦手だけど、みんな私が配信しているのを知ってくれているのか、あっちから声をかけてくれたおかげでだいぶ助かった。
【ラズ様とらぴすちゃんのツーショット!!】
【あー、やっぱ、こう見ると姉妹ですわ。双子じゃないけど】
【ラズ様の方がちょっと眉尻が上がってる強気の顔で、らぴすちゃんの方が眉尻が下がってて弱気の顔なんだよね。後、オッドアイの左右の目が逆】
【何かのイベント限定でいいから、ラズラピ構成の曲聴きたい】
【滅多に映らない裏方のみやこちゃんが見られて嬉しいです】
【ラズ様、星川さん達のところも行って〜。いつもライブツアーいつもバックバンドで帯同してるのに、あんま表に出てくれないんだよね】
うっ、星川さんもそうだけど、あそこのバンドって本番前は威圧感があってちょっと怖いんだよな……。
でも、津島さんなら話しかけられるかも。私は舞台裏に移動すると勇気を出して津島さんに声をかける。
「ごめん、練習中なのに……」
「いいよいいよ」
良かった。みんなが優しくて。
「BERYLのバックで演奏するってどんな感じ? やっぱり緊張するの?」
「するする。普通に泣きそうになる」
やっぱりそうなんだ。
さっきちらっとステージ見えたけど、私ならあんな大きなステージに立つだけでゲロ吐きそう。
「星川さんって、バックコーラスだったりPhantom Requiemのセリフも担当したりする事があるけど、どんな感じ、やっぱり緊張するって私のリスナーさんに聞かれてるんだけど……」
「私はそうでもないけど、せつなさんは大変そう。えみり様やアヤナちゃんが来れない時のデュエット曲は、基本彼女担当だから」
うわー、あの2人と比べられるのきついなー。
私なら控え室から逃げ出してるかも。
「あっ、みんな来たよ」
本当だ。私は星川さんたちにありがとうってお礼を言ってその場を離れる。
私が配信している事に気がついた、とあちゃん先輩が近づいてきて、色々とサービスしてくれた。
それに巻き込まれた黛先輩にすみませんと一応謝っておこう……。
「よろしくお願いします」
あっ、あくあお兄様だ。
かっこいー……。王子様みたいな白いカッコいい衣装を着たあくあお兄様に、全員がポーッとした顔をする。
初めてあくあお兄様を見た時、王子様って本当に実在するんだって思った事を思い出した。
「あっ、スタッフさんから聴きました。うちのラズリーがおせわになりました」
「あっ、あっ、あっ」
あくあお兄様はリスナーのお姉さんと軽く握手をする。
私も改めてお姉さんに助けてくれてありがとうと言った。
「お礼に何かして欲しい事ある?」
「えっ? セッ……ハグして欲しいです」
「いいよ」
あくあお兄様がリスナーのお姉さんをぎゅっと抱き締める。
お姉さん、良かったね。
【ラーメンのびる:性欲に耐えて、よく頑張った。感動した!!】
【リスナーネキすごいな。あそこで思いとどまるのはすごいぞ】
【私なら最後まで言ってたね】
【あくあ様、何かなんて言っちゃいけないよ】
【ゆかりご飯:あいつなら普通にエッチしたいって言っても、喜んでしてくれるわよ。このお姉さん、おっぱいおっきいし】
【↑しーっ!】
【ゆかりご飯さんは空気読んで】
【みんな分かり切ってる事だけど、私はお姉さんの心意気を汲みたい】
【↑それな!】
あくあお兄様は、私達に好きに見てていいよって言うと、舞台袖に設置された見学席に向かう。
「みんな、映像はこの位置からは見えづらいけど、そこに一応大きなモニターあるから。音声だけは生で楽しんで」
あくあお兄様はせっかくだからと言って、開演前にBERYLの4人で見学席にいるファンの人達に手を伸ばしてもらって連続タッチをする。
私はもう何度か見たけど、隣に居たリスナーのお姉さんは初めて見るベリルの円陣に感動していた。
「行くぞ!」
「行ってくる!」
「行ってきます!」
「行くよー!」
BERYLの4人は舞台袖の見学席のみんなに声をかけてからステージに出る。
それを聞いたファンの皆さんが涙を流していた。やっぱりBERYLはすごいな〜。
「リスナーのお姉さん、チケット持ってるんでしょ? どうする? このままここで見学しててもいいけど、そこから出られるから、スタッフさんに誘導してもらって自分の席から見た方がステージはよく見えると思うよ」
「はい、せっかくだから自分で取った席から見ようと思います。今日はありがとうございました!」
私はスタッフさんの1人にリスナーのお姉さんをお願いねと頼むと、ステージ裏でカメラを回し続ける。
えっと、モジャPをもっと映して欲しいって? 仕方ないなぁ。普段なら恥ずかしがるけど、今なら仕事に集中してるし撮らせてくれるかもね。
「やめろよ。恥ずかしい」
「お願い、ちょっとだけでいいから」
「仕方ねぇなぁ。ちょっとだけだぞ?」
なんだかんだでモジャPは優しいよね。
ステージの裏をずっと撮影していると、あくあお兄様達が曲のインターバルでステージ裏に戻ってきた。
「阿古さん、次の曲までのインターバルちょっとだけ時間頂戴」
「いいけど、何かするの?」
「ちょっとね!」
って、あれ? なんか、こっち近づいてきてない?
「ラズリー、行くぞ!」
「行くって、どこに!? うわあああああ!」
あくあお兄様は私の体をお姫様抱っこすると、そのまま舞台袖の階段を登ってステージに出る。
待って待って、そんなの聞いてないって!!
ステージに設置された大きなモニターに私の配信画面がリアルタイムで映された。
【うおおおおおおお!】
【ソムリエール:私のコメントが映像に出てるってマジ!?】
【ラーメンのびる:クソおおお、エロコメ打ったのに反映されねぇ!】
【↑お前w】
【ラーメンのびる、お前そのうち本当に出入り禁止になるぞ】
あわあわあわ、すごい人達がこっちを見てる。
やばい。おしっこちびっちゃうかも。て言うか、少しちびった。
「ラズリーのリスナーのみんな、見てるかー? これがステージの上からの景色だぞー! BERYLのファンのみんなも後ろにあるモニターを見てくれ! すごいだろ!? いつも俺達4人はこのファンの大声援に支えられて、ここに立っているんだ! みんな、本当にありがとなあああああああああああ!!」
あくあお兄様のMCで会場のボルテージはMAXだ。
割れんばかりの大声援と、凄まじい数のペンライトに酔いそうになる。うぷっ。
耐えろ私、ゲロだけは本当にまずい。私はゲロインにはなりたくないぞ!!
「ラズリー、今日はありがとな。残りの時間も舞台袖からの配信を頼んだぞ」
「う、うん。わかった」
私は観客席に向かってぺこりと頭を下げる。
「ラズ様ぁぁぁああああああああ!」
「いつも配信見てるよおおおおお!」
「後で配信見返すからねー!」
えへへ。ファンのみんなが優しくて良かった。
これが外国なら、男性の歌手のライブに女性が出てきただけでもブーイングの嵐だもん。
本当にBERYLの、ううん、あくあお兄様のファンってどうなってるんだろう。
緊張によるゲロウェーブに耐え切った私は、舞台袖の階段を降りて舞台裏に戻ってくる。
「みんな、この後も配信は続けるから、チャンネルはそのままでお願いね。えっ? 次は天鳥社長を映して欲しい? もー、仕方ないなぁ。わかった、わかったてば」
私は自撮り棒にスマホをセットしたまま、天鳥社長の所へと向かった。
こうしてBERYLは石川県でのライブツアー初日を大盛況で終える。
しかし、その代わりといってはなんだけど、朝からお掃除してたりした私の体は限界を迎えてしまった。
「流石に撮影から何まで全部1人でするのは限界かも……」
私はその事を天鳥社長に相談した。
それがきっかけで、この時お世話になったリスナーのお姉さんが私の撮影スタッフに参加する事になるのだが、それはまた別の話である。
ともかく、今回は疲れた。一刻も早くお家に帰ってダラダラしたい。
そう思ってたのに、家に帰ったら仁王立ちになって待ち構えていたお母様に、お部屋を掃除してない事をコッテリと怒られた。解せぬ……。
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