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白銀あくあ、ベリルの保養所。

 俺達BERYLはツアー前半期のファイナルとなる石川県、その先端の能登半島にあるとある廃校に来ていた。


「えっ? 本当にここを自由に使っていいんですか?」

「はい。専門家に色々と審査してもらって、使用上問題ないという事で付近の住民の皆さんからも許可を得て、ベリルで購入しました」


 ジャージを着ている俺達の後ろを、大勢のスタッフさん達がついてくる。

 俺は番組を撮影しているカメラさんに向かって、あっちを映して欲しいと指を差して合図を送った。


「ほら、みんな見て。ここから海が見えるのすごくない?」


 少し高台にある学校。ロケーションとしては最高だ。


「いいじゃん。この海と学校の間に田んぼとか畑があるのがいいよな」

「この田んぼと畑も、実は荒地になっていたのを譲り受けまして、ベリルの方で購入させていただきました」

「マジで!?」


 最高じゃん!

 自分で田植えした米とかくいてぇ。

 産まれてくる子供達に自分で育てた野菜とか食べさせたいなと思った。


「最初はここをベリルの合宿所にするって話だったけどさ。グループの人達が使える保養所とか、地域の人もこれる寄合所にしても良いんじゃないか?」

「はい。そこはもう皆さんの自由で。4人で話し合って好きにしていただいて構わないです」


 俺と慎太郎、とあ、天我先輩の4人は顔を見合わせる。


「とりあえず、まずはご近所さんに挨拶しないか?」

「良いと思うぞ」

「賛成!」

「うむ、我も賛成だ」


 ご近所さんへの挨拶は意外と重要だ。

 いくら許可を取っているとは言っても、それが受け入れてくれているかどうかというと別だからである。

 ファンに寄り添うというベリルの理念のように、まずは自分たちからご近所さんからの理解を得て、地域の仲間として受け入れてもらえないとな。


「おっ」


 俺は道路に出ていた人を見つける。


「どうも、おはようございます」

「おはようわああああああ!」


 お婆ちゃん大丈夫!?

 俺と慎太郎は咄嗟に、後ろにひっくり返りそうになったお婆ちゃんの体を支える。


「これは間違いなく天国からのお迎え……」

「いやいや、お婆ちゃん。生きてますって! ちゃんと現実ですから。ほら、触ってみて」

「い、いいの?」


 お婆ちゃんはそっと手を伸ばすと、俺のほっぺたをさわさわする。

 最初、ほっぺたより先に俺の下半身に手が伸びてきてたように見えたが、俺の気のせいかな?


「ほわぁ……。あくあ様、お肌すべすべ。私の孫より肌が綺麗……」

「毎日、美容液使ってますから。お婆ちゃんも俺と同じコロールの美容液を使えば同じになれますよ」

「買います!」


 しめしめ、ベリルアンドベリルのスポンサーはコロールだし、良い宣伝になったな。


「と、それは置いといて、お婆ちゃんそこに小学校あるでしょ」

「ええ、私も子供の時はあそこに通ってましたよ。今は子供が減って隣町の学校と統合して廃校になっちゃけどねぇ……」

「そこ、ベリルが買ったから」

「えぇっ!?」


 お婆ちゃんがまた腰を抜かしそうになったので、俺と慎太郎で再度体を支える。

 最近暑くなってきてるから、熱中症になってないか心配だ。


「だから、これからはご近所さんとしてよろしくね」

「は、はい! こちらこそよろしくお願いします!!」


 俺達はおばあちゃんに手を振ると、4人で分かれて他のご近所さん達に声をかけていく。

 よーし、ご近所さんに、どんどん挨拶していくぞ!


「おはようございます!」

「はいはい。誰ですか……って、あくあしゃまぁ!?」


 俺は倒れそうになったお姉さんを支える。

 さっきのお婆ちゃんといい、みんな熱中症には気をつけてよ。


「おっと……お姉さん、大丈夫ですか?」

「はわわわ。これは……夢?」

「いえいえ、現実ですよ。ほら、触ってみてください」


 お姉さんは俺の手をぎゅっと握りしめる。

 んん? また手よりも先に俺の下半身に手が伸びていたように見えたが、これも俺の気のせいか……。


「これが男の子の手……。すごい。私の手と違ってゴツゴツしてる。あっ……でも、指先とか爪がすごく綺麗」

「ほら、俺、ピアノ弾くから、爪のケアだけは毎日欠かさずにやってるんだよね」

「なるほど……って、あくあ様がどうしてこんなところに!?」


 俺はお姉さんに、近所の小学校をベリルが購入した事を言う。

 するとお姉さんがびっくりして倒れそうになったので、再度、俺は体を支える。

 倒れられても困るし、このまま体を密着させたまま話すか……。


「というわけで、これからはご近所さんだから。よろしくね」

「はい、よろしくお願いします!」


 俺はお姉さんと別れると、その後もご近所さんの家を訪ねて挨拶をする。

 よしっ、海まで来たし、みんなと合流するために学校に帰るか。

 俺が学校に到着すると、既にとあ達が学校に戻ってきていた。


「で、どうする?」

「とりあえずさあ。雑草とか生えてるし、全体的に綺麗にするところから始める? まずはそこからでしょ」

「確かにそれは一理ある」

「うむ。みんなで掃除しながら何やるか考えるか」


 という事で、とあは校舎の中を、天我先輩は体育館を、慎太郎はプールを、俺はグラウンドを含めた外を掃除する事になった。


「って、1人じゃ、おわんねぇよ!!」


 ある程度作業したところで俺は1人でお決まりのツッコミを入れる。

 スタッフさんも、明らかに俺のツッコミ待ちだったでしょ。


「というわけで、助っ人を呼んできました。うちの子達です」


 今回のライブツアーでは、このお番組のためにうちのオーディション組全員を連れてきた。

 オーディション組は、俺達と同じデザインで色違いのジャージに身を包んで少し眠そうな顔を見せる。

 今日は朝早くから出たし、流石にみんな疲れてるか。


「あれ? なんで丸男のだけゼッケンが“やまだ”なの?」

「あっ、本当だ!」


 俺のはあくあ、慎太郎のはシンタロー、天我先輩のはAKIRA、スバルたんはスバルたん、くくりちゃんはくくり様っていう風にみんな下の名前で統一してるのに、何故か山田のジャージについてたゼッケンだけ苗字だった。


「あっ、これ、多分、発注ミスですね……」


 スタッフさんは後で直しますと言っていたが、俺は1人だけゼッケンが違うのも面白そうだし、このままでいいよと言った。


「それじゃあ、みんなバラけて。とあや慎太郎、天我先輩のところにサポートに行ってあげて」

「「「「「はーい!」」」」」


 残った俺と丸男、孔雀、それにヒスイちゃんとスバルたん、フィーちゃんの6人は黙々と雑草を抜く。

 こういうのに慣れているのかヒスイちゃんと、普段からお外で遊びまくってるフィーちゃんは元気だなぁ。

 それに比べて孔雀は死にそうな顔をしている。あいつ大丈夫か?

 俺は孔雀に、丸男と一緒に日陰のあるところの草抜いてていいよと言う。


「だから、終わらないってぇ! これ、夜のライブ開始に間に合わなくない!?」


 人数が増えたところで数人じゃ限界がある。

 誰しも諦めかけたその時、さっき挨拶と一緒に番組で作った記念品のジャージを手渡した近隣住民の方がそのジャージを着て列をなしてやってきてくれた。


「あくあ様、私達も手伝います!」

「思い出の小学校が甦ると聞いて、居ても立ってもいられなくなって」

「よかったら協力させてください」

「みんな……! ありがとうございます! 助かります!」


 俺はやっぱり挨拶するって良い事なんだなって思った。

 ご近所さんはもちろんの事、役所の人や重機を持ってる人達まで助けに来てくれて、みんなで廃校を綺麗にする。


「やったー! 綺麗になったぞー!!」

「うおおおおおお!」


 俺達は綺麗になった校舎を見て喜ぶ。

 とはいえ、まだまだ手直ししなきゃいけないところはたくさんある。

 割れた窓ガラスは撤去したけど、新しいガラスも入れなきゃだし、傷んで腐った床板とかは流石に張り替えなきゃいけない。

 とはいえ、体育館やプールは普通に使えるし、学校の中は想像以上に綺麗だった。


「これは明日も来るか」

「だね」


 俺達はこの廃校をどうするか、それぞれ意見を出し合う。


「とりあえず合宿するにしろ、保養所にするにしろ、泊まれるところは欲しいよな。それと、ご近所さんに寄合所として使ってもらう時にも災害時に避難できるようにしといたら便利じゃね?」

「教室がたくさんあるから、そこを幾つかだけ残して改装したらいいんじゃないか?」

「それはあり!」


 慎太郎の案で、1階の教室と家庭科室、図工や音楽の教室とかだけは残して2階と3階の教室は大きく改装して宿泊部屋にする事を決める。

 1個くらいは教室とか作業ができる図工の教室があった方がいいだろうし、合宿所として使う時に家庭科室や音楽の教室はあった方がいいと思ったからだ。


「職員室と校長室はどうする?」

「校長室はこの施設を管理してくれる人達が宿泊できる部屋が良いんじゃない? どういう形にしろ警備の問題から常駐するスタッフさんはいるだろうし。職員室は合宿所として使うならスタッフさんが何人でも使えるために部屋を空けておくとか、ネット環境入れてパソコンとか机だけは用意いておいた方がいいかも」

「確かに、それはそうだな」


 俺はとあの提案に頷く。

 確かに施設を管理してくれる人達やスタッフさんの事も考えなきゃな。


「ロビー隣の事務室はどうする?」

「事務室は近隣住民の人の憩いのスペースで使うのはどうだろうか? 折りたためる机とか椅子だけは用意しておいて、何にでも使えるフリースペース的にしてもいいかもしれないな」

「それも採用で!」


 俺は天我先輩の提案に頷く。

 下駄箱のすぐ隣にある事務室が憩いの場になるのは場所的にもいい気がする。


「体育館とプール、グラウンドは普通に使うとして、学校で直さなきゃいけないところはこんなところか?」

「だね」

「今はそんな感じでいいんじゃないか?」

「うむ!」


 せっかくだからみんなで入れる風呂とかも作りたいな。

 さっき草むしりしてたときに近所のお姉さん方が言ってたけど、ここら辺、温泉が湧いてるらしいんだよね。 後ろに小屋建てて露天風呂とかもできたらやりたいな。


「それならば、我、重機の免許が取りたい!!」


 俺がその事をみんなに話すと、天我先輩がそんな事を言い出した。

 そういえば、さっきご近所の人が使ってた重機をキラキラした目で見てたもんな。


「それじゃあ、天我先輩にそっちは任せます」

「うむ!」

「天我先輩、頑張って」

「天我先輩、応援してます」


 他にも田んぼや畑もあるならしたいし、やらなきゃいけない事が他にもたくさんあって考えてるだけでも忙しそうだ。

 しかし、何をやるにしてもまずは腹ごしらえだ。


「みんな。もうお昼過ぎてるし、先に昼飯にしようぜ」

「ああ」

「だね!」

「うむ!」


 せっかくだからと、俺はご近所の人も誘ってグラウンドでバーベキューをする事にした。

 やっぱり夏と汗をかいた時は、バーベキューだよな!


「天我先輩、バーベキューは任せました」

「OK、任せろ!」


 俺と慎太郎、とあの3人はご近所さんが魚とかコンロを持ってきてくれたので、刺身と天ぷらを作る事にした。

 もちろん魚をさばくのは俺と慎太郎の2人で、とあにはさばいた魚を揚げてもらう。


「カレイとキスの天ぷらとか最高にうめぇぞ」

「ね」


 俺はさばいた魚をとあに手渡す。

 それをみたお姉さん達が数人、何故か足元をふらつかせる。

 みんな大丈夫かー? さっきまで作業してたんだから、熱中症には気をつけろよ!


「このメバル、煮付けにしたら最高に美味いだろうな」

「それはそう。とりあえず、それは刺身で食おうぜ。俺らがつまむように」


 んぐっんぐっ。

 くぅ〜っ! 近所の漁港で朝一のとれたてだからめちゃくちゃ美味いな。


「ほら、お姉さんも食べる?」

「は、はひ」


 俺はさばきたての刺身をお姉さんにアーンする。

 お行儀としてはあんまりよろしくないけど、こういうのが一番美味しいんですよ。


「おい、丸男。こっちに来いよ! せっかくだからお前に魚のさばき方を教えてやるよ」

「はい! あくあさん!」

「こっち来たら、今度はみんなで釣りするからな。魚のさばき方は覚えておいた方がいいぞ。ほら、まずは鱗取りからだ」

「うっす!」


 10月はアオリイカのシーズンだって言うし、みんなでイカ釣りに行くのもいいな。

 考えただけでも楽しくなってきた。


「おーい。こっちも焼けたぞー」

「はーい!」


 俺は天我先輩が焼いてくれた長茄子や白ネギをパクパクと食べる。

 やっぱり動いた後のバーベキューはうめぇわ!


「皆さん、今日は本当にありがとうございました!!」

「「「ありがとうございました!!」」」


 ご近所の皆さんとの食事会を終えた俺達は、後片付けをした後にぺこりと頭を下げた。

 1日でこんなにも綺麗になったのはみんなのおかげだよ!!


「お前らもありがとうな!」


 俺は駆けつけた後輩達にも1人づつありがとうと声をかけていく。

 お前らが来てくれたおかげでだいぶ助かったよ。


「というわけでですね。これからここも色々と綺麗にして、いずれはみんなで遊んだり、お泊り合宿したりする予定なので、これからの続報を楽しみにしてください!」


 最後は締めのシーンを撮影して終了だ。

 俺はスタッフの人達にも暑い中撮影してくれてありがとなと声をかけていく。


「皆さん。ライブの会場に行くので急いでバンに乗ってください!」

「はーい!」


 俺達はスタッフの人が用意してくれたバンに乗ると、疲れていたのかそのまま眠ってしまった。

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[一言] もう完全にT○KI○である(゜д゜)
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