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白銀あくあ、男達の絆。

 今日はベリルアンドベリルの収録の日だ。

 何をやらされるのか全く聞いてないけど、どうやら今日は外ロケらしい。


「おはようございまーす!」

「おはようございます!」


 俺は見慣れたスタッフの子達に声をかけていく。

 まずは現場に着いたらできるだけ全員に声をかける。それが俺のモットー……いや、ルーティンだ。

 コミュニケーションを取る事で現場はスムーズになるし、気持ちよく撮影に望む事ができるというのもある。


「おっ、岡本さん、髪切った? 似合ってるよ」

「あ、ありがとうございます! 思い切って短くしてみました!」

「近藤さん、この前はお土産のお饅頭ありがとね。妻達も喜んでたよ」

「わー。それはよかったです」

「相模さん、海外ロケ行くんだって? いいなぁ」

「そうなんですよ。私もお土産買ってきますね!」

「あっ、不二さん、風邪引いたって聞いたけど大丈夫? あんまり無理しないでね」

「はい、なんとか治りました。気をつけます!」

「中西さん、ちょっと早いけどこれ……誕生日プレゼント」

「えっ? 私の誕生日覚えててくれてたんですか!? わー、嬉しい!!」


 俺からプレゼントを受け取った中西さんは嬉しそうな顔をする。

 喜んでくれたようで何よりだ。


「白銀あくあさん、スタンバイしてください」

「はーい」


 あれ? おかしいな……。

 普通、現場に着いたらまずは今日の台本を渡されるか、口頭で企画を教えられるはずなんだけど、それすらない。

 今日の収録は一体何をするつもりなんだ?


「合図したら、最初の挨拶お願いします」

「わかりました」


 俺は指定された場所に立って、スタッフからの撮影開始の合図を待つ。


「えー、みなさん、ベリルアンドベリルの時間です」


 俺はあえて低いテンションからスタートする事で不穏な空気を出す。

 それを見たスタッフさんからくすくすと笑い声が起こる。


「みなさん、今日は何の企画をやるか知っていますか? 実はですね……この俺も知らないんですよ!!」


 いや、本当に何をさせられるんだろう。

 外ロケってことは前にやったリレーとか運動的な企画かな? それとも街ブラか?

 それにしたっておかしい事が一つある。


「お〜い! 慎太郎〜! とあ〜! ついでに天我先輩〜! みんな、どこにいるんだぁー!!」


 ついでに天我先輩のところで、スタッフの人達も爆笑する。

 もちろんついでだなんて思ってないけど、こう言った方が盛り上がるからだ。

 天に向かって叫ぶ俺に、スタッフの1人がメモを手渡す。


「ん? 何? これを読んだらいいの?」


 俺は手渡されたメモに視線を落とす。

 するとそこにはこう書かれていた。


「仲の良いBERYLのみんななら、目的地を言わなくても全員集合できるよね? 今回はBERYLの4人に加えて、山田君、黒蝶君、赤海君を含めたベリル男子7人全員が揃うまで帰られません!! って、えっ? どういう事!?」


 驚いた俺はスタッフさんに改めて今日の企画について問いかける。


「つまりですね。今から7人それぞれに同じお題が出るので、そこから連想される場所に向かってください。場所は東京都内限定で、7人全員が集合するまで続けます。収録の都合上、できたら今日中に終わらせてくださいね」

「そういう事かー!」

 

 俺は腰に両手を当てると、再び空を見上げて天を仰ぐ。

 これ、絶対に最後の1人になると、精神的にきついやつじゃん。

 よし、まずは慎太郎かとあと合流しよう。それでぼっちは避けられる。

 オレたち3人はズッ友、絶対に一問目から出会えるはずだ。


「それでは最初のお題はこちらになります」


 俺はスタッフの人からお題の書かれたボードを受け取ると、書かれたワードを確認してから、視聴者の人にもわかるように、カメラにボードに書かれた文字を見せる。


「最初のお題は“高層ビルと言えば”か……えっ? 高層ビル? そんなのベリルの本社ビルに決まってるでしょ!」

「じゃあ、そこにしますか?」


 うーん、俺はしばし頭を悩ませる。

 一瞬藤テレビや藤百貨店も頭を掠めたが、1人くらいは来るでしょ。だって、ベリルの本社ビルだよ!

 俺は仲間を信じる事にした。


「はい! ベリルの本社ビルにします!」


 俺はスタッフさんが用意してくれた車に乗ると目的地に向かう。


「頼むー、誰か居てくれー! ぼっちは嫌だ。小雛先輩は嫌だ!!」


 拝む俺を見て、スタッフのみんなから再び笑い声が漏れる。

 言っておくが、これは決してフリじゃない。

 心の底からぼっちは嫌だと思った。だって、俺がぼっちになると100%小雛先輩にいじられるもん。


「目的地に到着しました」


 目的地に到着した俺は車から降りて周囲を見渡す。

 あ、あれ? おかしいな……。


「ちょっと待って、ベリルの本社ビルってこんなもんだっけ? 俺の記憶じゃもっと大きかったような……」


 よく見たら真正面のビルの方が全然でかいし、周りのビルと比べたらそんなに高くない。

 ま、まぁ、11階建は十分に高層ビルだろ。うん、そう思う事にしよう。

 俺はベリルの本社ビルの前で、みんなが来るのを待つ。

 するとそこに予想外の人物現れる。


「あんた、こんなところで何してんのよ?」

「げげっ!」


 なんでよりにもよって小雛先輩がこんなところにいるんだよ。

 くっそ、これだから大女優なのに暇な奴は!!


「小雛先輩、今は収録中ですから」

「ふーん。で、何の企画なのよ」


 小雛先輩は適当なスタッフを脅して企画の内容を聞き出す。

 この人はほんま……。


「じゃあ、何? こいつ、今、1人って事はぼっち?」

「いやいやいや! 今、まさにみんなが来るのを待っているところですから!!」


 小雛先輩はニマニマした顔で俺の事を見つめる。

 くっ、頼むぞ、慎太郎、とあ、天我先輩、丸男、孔雀、はじめ! 誰か1人でいい、俺と合流してくれ!!


「白銀あくあさん、残念ですが、ここでタイムアップです!」

「嘘だろ!?」


 絶望する俺の後ろで小雛先輩がお腹を抱えて笑い転げる。

 ちょっと、カメラさん! そっちは映さなくていいから、俺だけ映して!!

 スタッフさんは戸惑う俺に対して携帯電話を差し出す。

 これに出ろって事か……。


『もしもし、みんな、どこに居るんだよ!?』

『そういうあくあこそ、どこに居るのさ? どうせ頓珍漢なところに行ってるんじゃないの?』


 失敬な! 最初に声が返ってきたのはとあだった。


『いやいや、俺は、ほら、みんな大好きベリルの本社ビルですよ!!』

『えっ? ベリルの本社ビルって高層ビルじゃなくない? あくあ、大丈夫?』


 俺の後ろで小雛先輩がまた笑い転げる。

 ちょっと! こいつバカだは余計でしょ!! マイクさん、その声、拾わなくていいから!!


『俺の想像じゃ、もっと大きい想定だったんだよ! ていうか、そういうとあこそ、どこに行ったんだよ!?』

『東京都庁。ちなみに慎太郎も一緒だよー』

『あくあ……せめてベリルの前にあるビルにしろよ……』


 俺だって、到着した後に目の前にあるビルの方がでかいって気がついたよ!

 くっそー。俺たち3人ズッ友だと思ってたのに、2人で楽しげにしやがってぇ〜!


『天我先輩どこ?』

『東京隅田タワーだが……』

『いやいや、そこはビルじゃないでしょ!!』


 あっ、その隣にあるビルに行ったって事か……。


『はじめは?』

『ぼ、僕は、池袋サンライトタワーです。えっと、その……宮島さんとこの前、一緒に水族館に行ったから』


 おー。宮島さんと水族館デートか。いいなぁ。

 俺も嫁たちと一緒に水族館行くか。俺、水族館好きなんだよな。


『孔雀と丸男は?』

『俺は東京コンサートビルです。この前、丸男と一緒にコンサートで行ったから、まずは丸男と合流しようと思ったのですが……丸男、お前、どこに行ってるんだ?』

『あ……俺はベリルの本社ビルの前にあるビルです』


 えっ!? 俺は通りを挟んで反対側にあるビルを見る。

 あっ、居た!!


『おーい、丸男ー!』

『あくあさーん!!』


 俺はスタッフの人に視線を向ける。


「これはもう合流でしょ!」

「いえ、ダメです。ノーカンです」


 ちょっとくらい、いいじゃん。けちー! ブーブー!

 俺は口先を尖らせる。


「ぷぷぅ! 人の事、散々ぼっちとか言ってたのに、自分がぼっちじゃん!」


 くっ、何も言い返せねぇ!

 俺は後ろから左右に揺れながら、「今、どんな気持ちー?」って煽ってくる小雛先輩を小刻みに震えながら無視する。


「そういうわけで、次のお題です」


 俺は気持ちを切り替えて、次のお題が書かれたボードを受け取る。

 前回と同じくお題を確認した俺は、それがわかるようにカメラにボードを向けた。


「なるほどね。次のお題は“BERYLのライブと言えば”か……これは難しいな」


 どこを選ぶか俺は頭を悩ませる。


「やっぱアレじゃない? 東京インターナショナルフォーラムじゃない? クリスマスの日にやったライブ」

「わかりました。では、そちらに向かいましょう」


 俺は小雛先輩を無視してそのまま車に乗り込む。すると、小雛先輩がついてこようとしたので、俺は素早く扉を閉めて、運転してくれているスタッフの人に早く出してとお願いした。

 ふぅ、これだからはうちの小暇先輩は。大女優なのに暇を持て余しすぎなんだよ。


「白銀あくあさん、自信の方はどうですか?」

「まぁ、今回は確実に誰かと合流できるんじゃない?」


 俺はリラックスした感じでそう答える。

 流石にね。これはもう、確定でしょ。

 クリスマスって特別なイベントだし、丸男や孔雀、はじめはともかくBERYL組は全員集合でしょ。

 大丈夫。慎太郎、とあ、天我先輩、俺は、ちゃんとわかってますよ。


「到着しました」


 あ、あれ? 誰も居ないぞ? あー、もしかしてみんなまだ移動中かな?

 そう思っていたら、スタッフさんから携帯電話を手渡された。


「みなさんもう目的地についてます」

「嘘だろ!?」


 えっ? じゃあ、俺は誰とも合流できなかったって事!?

 俺は膝から崩れ落ちると、スタッフさんから手渡された電話に出る。


『えっ? みんなどこにいるの……?』

『僕と慎太郎は、夏フェスの会場だよ。だって、みんなで初めてライブした場所だもん。ちなみに天我先輩も一緒です』

『うむ!』


 ああ〜。そっちかー……。

 俺は両手で頭を抱える。


『あくあ、お前以外は揃ってるぞ』

『止めて、慎太郎。それは俺に効くから』


 両手で顔を覆った俺にカメラが寄ってくる。

 近いって!! そんなに接写しなくてもズームで十分でしょ!


「ばーか」


 って、小暇先輩、何でいるの!?

 くっそ、タクシーで後ろからついてきてまで煽るとか、暇を弄ぶのにも程があるだろ!!


『えっ? はじめは?』

『俺はあくあさんが招待してくれたハロウィンフェスがあった渋谷の……宮島さんと一緒に行ったから』


 甘酢っぺぇ。お前、さっきからエピソードが甘酸っぱすぎるよ!!

 はぁ……誰とも合流できてないせいで、気持ちがブルーになるぜ。

 俺はニヤニヤした小雛先輩からそっと視線を逸らす。


『丸男と孔雀はどこ行った?』

『俺と丸男はベリルに入って初めてのBERYLのコンサートで、BERYLの記念すべき初の全国ツアーを開始した東京ラフォグラムランドで合流しました』


 あぁ……そっちか……って、あれ? ちょっと待てよ。


『え? 東京ラフォグラムランドって、千葉県じゃなかったっけ?』

『『あっ……』』


 確か場所は東京都内という指定があったはずだ。

 丸男ならやらかしそうなミスだが、まさか孔雀までやらかすとはな。

 それだけ2人にとっては思い出のコンサートだったんだろう。


「これってルール的にどうなんですか?」


 俺は同行しているプロデューサーに確認する。


「ん〜〜〜……てぇてぇので、今回だけは特例でよしっ!」

「やったー!」

「さすがプロデューサー、わかってるぅ!」


 プロデューサーの決断に、周りのスタッフから歓声が湧く。

 むぅ、さすがに今回ばかりは仕方ないか。


『ちょっと待って、つまり、今、俺以外のBERYL3人と、丸男と孔雀がそれぞれ合流してて、俺とはじめがソロってことか?』

『うん、そうなるね』

『そうなるな』

『ああ』


 ここで欲をかいてBERYLの3人と合流しようとすると失敗するような気がする。

 何より後輩のはじめを1人にさせておくのは可哀想だ。決して俺がぼっちだから寂しいわけじゃないぞと自分に言い訳をする。


『よしっ、はじめ、次、お前に会いに行くからな!』

『は、はい! あくあさん!!』

『大丈夫かなぁ』


 とあ、うるさいよ!!

 ぐぬぬ、こうなったらはじめと合流した後に丸男と孔雀と合流して4人になってから、3人のとあ達にマウントを取ってやるぞ!!


「取らぬ狸の皮算用ってこういう事を言うのよね〜」


 くっそ、この人はこの人で最後までついてくる気じゃないだろうな!?

 俺は後ろで煽ってくる小暇先輩を無視して、スタッフの人から次のお題が書かれたカードを受け取った。

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