根本音子花、寧々ねねね。
私、根本音子花には二つの顔があります。
表向きは乙女咲で働く保健室の先生、根本音子花。
そしてもう一つの顔は、趣味の延長でやっている同人絵師、寧々ねねねとしての私です。
「ふんふんふーん」
表向きのお仕事が終わった私は、気分よく鼻歌を歌いながら歩いて帰路に着く。
ああ、毎日が楽しい。今は趣味でやってる絵師だけじゃなくて、表向きの仕事でもとても満たされた生活を送っています。
「ふふっ」
私は今日のあくあ君と会話を思い出して頬をピンク色に染める。
ああ……あくあ君ってば、今日も可愛かったな。
ん、だめ。こんなところで思い出しちゃ、私はご近所さんにいつもと同じ笑顔で挨拶を交わすと、少しだけ早歩きで自宅へと帰宅する。
「ただいま。あくあ君♡」
私は帰宅すると、入り口に置いてあったあくあ君のお写真におかえりの挨拶をする。
あー、好き好き。こんなにかっこよくて、いろんな女性と結婚してるのに、未だにドーテーくっさい♡ あくあ君が大好き……だよ。
今日も私がわざとシャツのボタン一個外してたら、ずっとそこばっかり見てたよね。
ふふっ、そのために毎日、保健室に来てるの、先生はちゃーんと知ってるんだよ。今日の先生がわざと焦らしていたの気がついたかな？ 焦らしてた時のあくあ君のお顔、最高に可愛かったよ。
「あ〜〜〜」
あくあ君の事を考えただけで、おへその奥がイライラする。
むー、あくあ君ってば鈍感すぎなんだよ。先生が押し倒されるのを待ってるって事、絶対にわかってないよね。
でも、そこが可愛くて好き。童貞臭くて好き。
「みんな、ただいまー」
私はリビングに入ると電気をつける。
すると、壁や天井に貼り付けたあくあ君のポスターや写真、テーブルやボックスの上に置いたあくあ君のぬいぐるみが一斉に私の事を見つけてきた。
あぁ、いいわぁ。あくあ君が私だけを見てくれている。
本当は下からも見られたら良いんだけどな。どうにかしてカーペットとか自作できたら良いんだけど……。
「あくあ君、待っててね。今、ご飯作るから」
今日のご飯は、さっきあくあ君がSNSで食べたいって呟いてた生姜焼きです。
その前はポテトサラダ、一昨日は唐揚げ。あくあ君のおかげで料理をする時間も楽しくなりました。
やっぱり一緒に食べてくれる人がいると作り甲斐があるよね。
「はい、あくあ君。あーん……どう？ 先生の手料理、おいちい？」
私は50cmほどあるビッグサイズのぬいぐるみあくあ君と一緒にご飯を食べる。
ふふっ、ベリルの公式ショップでサンプルが販売された時に、奇跡的に当選してお迎えできて本当に良かった。
ずっと退屈だった食事の時間がこんなにも楽しくなるなんて思ってもいなかったよ。
「さてと、先生は洗い物をしてくるから、その間、おとなしく待っていてね」
私は洗い物などしなきゃいけない家事を一気に終わらせていく。
あー、早くあくあ君とイチャイチャしたいよー。
「あっ！ そういえば、昨日あげた絵の反応見てないや。どうなってるかな？」
私は一連の家事を終わらせると、タブレットで自分のSNSを確認する。
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乙女の嗜み@低浮上
いつも素敵な絵をありがとうございます。
ごろ寝してるあくあ様が可愛いです。
この顔といい、手がグダーっとなってるところといい、私的に可愛いポイントが多くて困ります。
ところで、ねねちょさんは、お絵描き配信とかしないんですか？
先生、私……スパチャしたいです！
小雛ゆかり
間抜け顔がそっくり！
白銀あくあ
↑この人、荒らしです！
ねねちょさん、いつもありがとね！
白龍アイコ@夏コミ参戦するぞー！！
ねねね先生、相変わらず素敵な絵をありがとうございます。
あくあ君、それだと自分を指さしてるみたいだよ……。
小雛ゆかり
＞白銀あくあ ばーか。
白銀あくあ
ぐぬぬぬぬぬ！
92姐さん
ああ、これのぬいぐるみが出たらお迎えしたいです。
ゆいにゃ
ねねちょさんの絵はいつも刺さります。これも可愛いです。
＞92姐さん 完全に同意です！！
栗マカロン
かーわーいーいー！ ありがとうございます！
月とスッポン
素敵な絵をいつもありがとうございます。
私もこれのぬいぐるみ欲しい。
ソムリエール
出遅れた！
ねねちょさん、いつもありがとうございます！
ラーメン捗る
ぐへへ、ぬいぐるみが出たら、イケナイ事に使います。
ねねちょさんアザース！
名もなき掲示板民
＞ラーメン捗る
通報しました。
774民
捗るいつも通報されてて草w
どこにでもいる掲示板民
これだけ通報されてるのになんで捗るはBANされないんだw
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相変わらずカノンさんは反応が早いわね。
ネット民の多くは彼女を舐めてるけど、さすがはあのあくあ君を即落ちさせた女性なだけの事はある。
他の女性たちが遠巻きに見ている中、誰よりも早く一歩足を踏み入れた嗅覚と勇気は賞賛に値するわ。
変な方向に病んでる女があくあ君の正妻になってたらと思うと、本当にゾッとする。結婚後も彼がこんなに自由に活動してるのは間違いなく彼女のおかげだ。ビジネスパートナーの天鳥阿古社長と、人生のパートナーである白銀カノンさん、2人の支えがあってこそのあくあ君なのである。
カノンさんは、ちゃんとしないといけない時にはしっかりしてて、あくあ君にも周りの女性達にも寛容だけど普段はめちゃくちゃ抜けてるとか、あくあ君の正妻としては本当に完璧よね。
「私もみんなにお礼のメッセージを返信しなきゃ、ね」
私は集中してみんなに感想を返す。
あくあ君が出る前までは、この時間だけが私の楽しみだった。
趣味で描いた絵にみんなが反応をくれる。それが何よりも嬉しかった。
「あっ、この人は初回さんだ。この人は2回目、この人は……いつも感想くれてて、寝そべりポーズが好きな人だよね」
私の活動はあくあ君が登場してからは、更に大きく盛り上がった。
あくあ君の活躍に合わせて、それを題材に絵を投稿してた私のSNSのフォロワー数や、絵の投稿サイトのお気に入り数が鰻登りにあがって行ったのを今でも覚えてる。
そして、ついにはベリル公式や、あくあ様から直接仕事を依頼されるようにもなった。
「メールの確認もしとかないとね」
私はお仕事依頼用のメールボックスを確認する。
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ベリルエンターテイメント第三商品開発部
商品のサンプルができたので先に画像送付します。
細かい調整がしたいので、送付した実際のサンプル品を見て直したいところがあったら言ってください！
森長製菓部門宣伝部
クリアファイルに使う絵の送信ありがとうございました。
先生の絵を使用したPOPのデザインも含めて、後日、お手数ですが先生にチェックしていただければと思います。よろしくお願いします。
藤テレビ
寧々ねねね先生、お忙しい中、第二回森川楓のパワープライスのイラスト提供、本当にありがとうございました。
落札金額の300万円は先生の希望通り、白銀財団を通じて全国の幼稚園や保育所、学校の周辺にある横断歩道や信号機の整備に使われます。これで事故に遭う子供達が少なくなれば嬉しいですね。
ところで折り入ってご相談があるのですが、先生のご都合がいい時で大丈夫ですから、ベリルアンドベリルのゲストとして出演してみませんか？ 顔を隠した状態でも大丈夫です。現在、共演相手に司圭先生もお誘いしてます。
白銀あくあ
ねねちょさん、お久しぶりです！ 大怪獣ゆかりゴンの絵本ではお世話になりました！！
実は俺、今度の夏コミに参加したいんだけど、どうやら俺の絵は人類には早すぎる？ らしくて……そこでお願いがあるのですが、ねねちょさん、俺の代わりに絵を描いてくれませんか！？
忙しいとはわかってるのですが、もちろんそれに見合う代金はお支払いします！ もちろん、俺に協力出来る事があったら、なんでも協力させてくださいね！
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ん？ 今、なんでもって言ったよね？
って、そうじゃなーーーーーい！
あくあ君、無防備にも程があるよ！
そこが可愛いところでもあるんだけど、これじゃあ勘違いするバカな女が出てきたって不思議じゃない。
「はぁ、私みたいに理性のあるヤバい女ならいいけど、そうじゃなかったら確実にアウトだったよ」
いや、あくあ君ってああ見えて、本当にやばい女にはそういう事しないし隙を見せないんだよね。
それに、こうやって無防備な面を見せるから、常識がある子達が木陰からこっそりと見守ってくれるのか。
あれれ？ もしかして、それって無計画に見えて計画のうち？ って、そんなわけないか。
今日だって、私がわざと下にある荷物を取ろうとお尻を浮かせた時にモゾモゾしてたもんね。ふふっ、こっちだって計算してるんだから見えるわけないじゃん。あれは確実に何も考えてない純粋な少年の目だった。
今思い出しても、あくあ君の可愛い反応だけでお腹の辺りがゾクゾクくる。
「ぷぅ、お姉ちゃんをもやもやさせるなんて、あくあ君は悪い子だね。ちゃんと、ごめんなさいしよ？」
私は隣にあるあくあ君の抱き枕に抱きつくと、抱き枕に描かれたあくあ君の耳元で囁く。
「今からお風呂に入ってくるから、待っててね」
あくあ君は臭いのが好きかもしれないけど、私だって女の子だ。あくあ君とベッドインする時には、良い匂いのするお姉さんだって思われたい。
私はお風呂で身体を洗うと服を着替える。
「お・ま・た・せ」
私はベッドに寝転がっているあくあ君に囁く。
あくあ君の等身大フィギュア、乙女咲の養護教諭だった私は生徒への指導のために一足先にこの等身大フィギュアを頂く事ができた。
「先生の事をそういう目で見たおしおきをしないとね」
私は自分のスマホのアプリに送信されたデータを見る。
あくあ君が私のIDを知りたがっていたから、こっそり自分のIDがわかるようにしてあげた。
ふふっ、やっぱりあくあ君の使用カウントが回ってる。
「おやすみ。あくあ君」
私はあくあ君の等身大フィギュアにおやすみの挨拶をすると、一緒に眠りについた。
「おはよう。あくあ君」
私は寝起きにあくあ君のほっぺたにおはようの挨拶をする。
うーん、ベッドから出たくないよぉ〜。
「でも、あくあ君に会うために学校に行かなきゃね」
私はベッドから出ると、軽くシャワーを浴びる。
「あくあ君、行ってきます」
私は玄関であくあ君のお写真に行ってきますの挨拶をすると家を出る。
「先生、おはよー！」
「おはよう、佐々木さん」
「おはようございます、先生！」
「おはよう、加藤さん」
私は声をかけてくれる生徒達に挨拶を返しながら学校へと向かう。
学校に到着したあと、すぐに保健室に向かうと、入り口のところにあくあ君が立っていた。
ふふふ、今日は朝から会えるなんてラッキー。
「おはよう、あくあ君。朝から、どうしたの？」
「あ、根本先生、おはようございます。すみません、虫刺されの薬持ってませんか？」
「あら、どうしたの？ 変な虫に刺されてない？ ちゃんと毒は吸い出した？」
先生がお口で吸い出してあげよっか？ って、耳元で囁いたら、あくあ君のお顔が真っ赤になった。
かわいい〜〜〜！
「ふふっ、冗談だよ。そんな事したら、お口の中に傷があったら大変な事になるもんね。ほら、そこに座って」
私は保健室の扉を開けると、あくあ君を椅子に座らせる。
「おっふ」
見てる見てる。
あくあ君ったら、穴があくほど私の事を見ています。
ふふふ、良い匂いするでしょ？ あくあ君が好きそうなお姉さんの香りに頭クラクラさせてるあくあ君を見てキュンキュンする。
もー、あくあ君ってば、ピュアすぎて本当に可愛い！！
「はい、おしまい」
「あっ……ありがとうございます」
あーあ、私が少し体を遠ざけただけで悲しい顔しちゃった。
かわいい、かわいい、かわいい！
「あくあ君、少しでも何かあったらすぐに保健室にきてね」
「はい！」
あーーーーーー！ まだ朝イチなのに、あくあ君が可愛すぎて悶えそう。
今日は絵をいっぱい描いて発散しよ。そうじゃなかったら、悶々として寝られそうにないもん。
私はスマホのアプリを開くと、あくあ君の使用カウントが回っているのを見てほくそ笑んだ。
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